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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成10年12月10日、参議院財政・金融委員会における速水日本銀行総裁報告

1998年12月11日
日本銀行

1.はじめに

 本日は、私どもの金融政策運営について、説明の機会を与えて頂きましたことを、お礼申し上げます。
 本年4月に新しい日本銀行法が施行され、8か月が経過いたしました。新法は、日本銀行による政策運営の柱として、「独立性」と「透明性」という、二つの理念を掲げております。中央銀行が独立して、金融政策の責務を担っていくためには、その背後に国民からの揺るぎない信認が必要となります。また、そうした高い信認を得るためには、政策決定過程の透明性を確保していくことが不可欠であります。私どもは、この点を強く念頭に置きながら、これまで、政策運営に当たってまいりました。

 アカウンタビリティーの向上の一環として、金融政策決定会合の議事要旨の公表などにくわえて、このほど、日銀法第54条に基づき、初の半期報告書を国会に提出いたしました。本日は、半期報告書に基づき、日本銀行の金融政策運営についての考え方を、述べさせて頂きたいと思います。

2.本年の金融政策運営

金融経済情勢について

 まず、本年の日本経済の動向ですが、一言でいえば、景気の低迷と不良債権問題の重荷が、相乗的に経済状態を悪化させてきたように窺われます。

 設備投資や個人消費などの民間需要が弱い状態を続けるもとで、企業は大幅な減産を継続してきました。この結果、企業収益が悪化し、雇用・所得環境も一段と厳しさを増しました。物価も、年央以降、軟調に推移しております。このように、日本経済には、民間需要の落ち込みが生産や所得の減少をもたらし、これが再び民間需要を減少させるという、マイナスの循環が働いています。

 金融面をみると、民間銀行の融資姿勢は、(1)不良債権問題に伴う実質的な自己資本の目減りや、(2)銀行自身を取り巻く資金調達環境の厳しさ、(3)さらには企業業績の悪化による借り手のリスクの高まり、といった要因が複雑に絡み合って、昨年末以来、一段と慎重なものとなってきました。こうした金融面からの制約は、中小企業の設備投資などに悪影響を与え、景気の下降圧力をさらに強める要因となっています。

 この間、金融システム安定化関連2法の成立や総合経済対策の決定など、様々な手立てが講じられてきましたが、民間経済の力が一段と弱まったことや、夏場以降、金融システムに対する不安が再び強まったことなどから、景気の悪化にはなかなか歯止めがかからなかったのが実状です。

金融政策運営について

 こうした情勢を踏まえて、日本銀行は、9月9日の金融政策決定会合において、経済がデフレ・スパイラルに陥ることを防止し、景気の悪化に歯止めをかけるため、一段の金融緩和に踏み切りました。具体的には、金融調節運営の目安としている無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標を、平均的にみて、「公定歩合(0.5%)をやや下回る」水準から、「0.25%前後」まで引き下げました。

 ご存知のとおり、95年9月の公定歩合引き下げ以来、わが国の金利水準はきわめて低い状態が続いています。そうしたもとで、金利収入に多くを依存している家計にとって、たいへん厳しい状況にあることは、私どもも十分承知しているつもりです。しかし、現下の経済情勢のもとでは、やはり、まずもって、金融面から経済活動を下支えしていくことが重要となります。投資採算を改善し、企業収益や資産価格を下支えすることが、経済の悪化をくいとめ、ひいては雇用や所得にも良い影響を与えることになります。私どもとしては、そうしたマクロ的な視点に立って、9月の金融緩和を決定したものであります。

 また、こうした金融調節方針のもとで、日本銀行は、金融市場に対して潤沢な資金供給を行い、市場の安定に努めてきました。とくに、金融システム不安が根強く続くもとで、年末、年度末越えの市場金利に強い上昇圧力がかかっていることを踏まえ、長めのオペレーションを積極的に実施してきております。

 ただ、こうした思い切った金融緩和の継続にもかかわらず、民間銀行の金融仲介機能の低下を背景に、企業の資金調達環境は、依然厳しい状況が続いています。日本銀行では、このような企業金融の実態を踏まえて、先月13日、さらにオペレーション・貸出面からの新しい措置を講じることを決定いたしました。

 第1に、コマーシャルペーパー(CP)オペをさらに積極的に活用することとし、買い入れ対象となるCPの期間を拡大しました。第2に、企業金融を支援するための臨時貸出制度を創設し、今月から実施することといたしました。第3に、民間企業の債務である社債や証書貸付債権を、金融調節の中で一層有効に活用するため、これらを根担保とする手形オペレーションの導入について、検討を進めることとしました。私どもとしては、日本銀行の資産の健全性に留意しつつ、今回の措置により、企業金融の円滑化に最大限の努力を払ったものです。

3.今後の展望

「金融システム強化」と「景気回復」の同時達成をめざして

 冒頭述べたように、現在の日本経済は、金融面と実体経済面とが相互に強い連関を示しながら、低迷を続けています。日本銀行は、そうした情勢を踏まえて、金融政策面から、金融市場に流動性を供給し、あるいは、その供給の仕方を工夫することによって、対応を図ってきた次第です。

 ただ、日本経済が活力を取り戻すためには、そうした流動性の面からの対応にくわえて、(1)わが国金融システムの早期建て直しを図り、内外からの信認を回復すること、(2)また、即効性のある需要を追加することが、同時に必要となります。

 金融システムの問題については、10月に金融機能早期健全化法が成立し、それに基づいて、主要銀行の多くが、公的資本取り入れの意向を表明しています。こうした動きや国際的な信用収縮懸念の後退もあって、金融市場の不安感は、最近になって徐々に鎮静化の方向にあるようにみられます。また、年末に向けての企業金融も、金融政策面からの対応や政府による様々な措置の効果もあって、一頃に比べ、幾分緩和してきたように窺われます。

 このほか、外資や異業種間を含め、金融業界の再編の動きも目立ってきました。私としては、こうした金融機関自身による経営改善努力を率直に評価したいと思います。ただ、いったん大きく毀損された金融システムを健康体に戻すのは決して容易なことではありませんので、引き続き各方面からの粘り強い努力が不可欠と考えます。

 実体経済面では、4月の総合経済対策に基づく公共投資が、明確に増加してきています。私どもも、その効果が本格的にあらわれてくるにつれて、今後、景気の悪化テンポは次第に和らいでくるものと見込んでおります。ただ、国内の需給ギャップはすでにかなりの大きさに達しているため、当面、厳しい経済状態が続くことに変わりはありません。したがって、現時点では、緊急経済対策に盛り込まれた需要追加策などが、早期かつ着実に実行に移されていくことを強く期待したいと思います。

 さらに、このように、金融、財政の両面から経済活動を下支えするもとで、景気が本格的な回復に向かうためには、やはり、企業や家計のコンフィデンスがしっかりとしたものとなることが必要となります。そのためには、民間経済に新しい息吹が生まれてくることが重要であり、経済の構造改革を引き続き力強く推し進めていくことが大切です。もし、そうした努力を怠れば、日本経済には、巨額の財政赤字だけが残されることにもなりかねません。

 世界をみわたすと、米国経済は、次々と生まれる技術革新のもとで、長期にわたる成長を謳歌しています。欧州では、長年の悲願であった通貨の統合が、いよいよ明年1月に、実現します。世界は、激しく動いています。日本経済も、そうした国際的なダイナミズムのうねりを真正面から受け止めて、みずからの構造改革を実現し、新たな発展を目指していくことが必要です。そのことは、わが国自身にとっても、アジアにとっても、さらに世界にとっても、重要なことと確信します。

 この点、金融面でも、金融市場の一層の整備・育成を進めていくことが、待ったなしの課題となります。そのことが、国内のみならず、海外からみても円の使い勝手を良くし、真の「円の国際化」に資するものと考えます。

 日本銀行としても、これらの課題の達成に向けて、今後とも、中央銀行の立場から全力を挙げていく考えです。

 また、日本の中央銀行として、物価の安定や信用秩序維持のための業務を運営していくに当たっては、日本銀行自身の財務の健全性を維持していくことが重要な課題となります。このことは、一国の信用にもかかわることですので、中央銀行として、常に守らなければならない原則と考えます。今後とも資産内容の健全性維持に努めるとともに、政策・業務運営の機動性を確保する観点から、資産の流動性にも最大限の配慮を払っていく考えです。

 このような日本銀行としての決意を申し述べて、私からの説明とさせて頂きます。国民の皆様ならびに議員各位のご理解とご支援を、よろしくお願いいたします。

以上