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日本経済の現状と展望

1999年 3月29日 韓国銀行における総裁講演要旨、於韓国

1999年 3月29日
日本銀行

1.はじめに

 韓国経済は、通貨危機や金融システム問題、景気後退など、たいへん難しい課題に直面してきました。これに対して、韓国銀行をはじめ関係者の方々は、問題解決に果敢に取り組まれ、着実な成果を挙げてこられました。そうしたご努力に、心より敬意を表したいと思います。

2.最近の金融政策運営について

 日本銀行は、さる2月12日、金融政策運営面から経済活動を最大限サポートする観点に立って、一段の金融緩和措置を実施した。

 現在の金融市場調節方針は、「市場に混乱を生じさせないよう配慮しながら、オーバーナイト・コールレートをできるだけ低めに推移するよう促す」というものである。

 その後の金融経済情勢をみると、国内景気は、公共投資の増加や在庫調整の進捗などを背景に、足許、下げ止まりの様相を呈している。しかしながら、企業収益や雇用・所得を巡る環境は悪化を続けており、民間経済活動は依然停滞している。

 一方、金融資本市場では、オーバーナイト金利がゼロ%に近い水準まで低下するもとで、1ヶ月物や3ヶ月物などの短期金利がかなり低下したほか、ジャパン・プレミアムも急速に縮小している。さらに長期金利も一頃に比べて低下し、株価も回復してきている。

 日本銀行としては、こうした金融資本市場全体の変化が、投資採算の改善や金融機関・企業の資金繰りの緩和、さらには企業や家計のコンフィデンスの改善を通じて、経済に好ましい影響を与えていくものと期待している。

3.構造改革の重要性について

 90年代における景気の長期低迷には、日本経済の抱える構造問題が大きく作用している。

 第1は、バブル経済の崩壊に伴って生じた、巨額の不良資産の存在である。多くの金融機関や企業は、これまで、不良債権、過剰設備、過剰負債といった「負のストック」を抱えてきており、これを解きほぐさない限り、金融仲介機能の再生や、企業の前向きなエネルギーの発現は望み難い状況にある。

 幸い、金融システム面では、昨年秋に公的資金の投入を含めた法的枠組みが整備され、システム再生に向けた動きが進展するものと期待される。また、産業界でも、思い切ったリストラや内外業務提携の動きなどがみられ始めている。今後の展開を注目していきたい。

 第2に、産業——とりわけ非製造業——の収益性が低下していることである。企業は、収益性の改善に向けて、生産性の向上や成長力のある分野への進出が求められている。経済の足腰を支える産業の体質強化を図らなければならない。

 第3に、貯蓄率の高止まりに伴う、貯蓄・投資のアンバランスの問題がある。家計貯蓄率は、高齢化の進行にもかかわらず、90年代に入っても依然若干上昇している。年金や医療制度といった、人々の将来の生活設計にかかる制度の改善を図ることにより、将来に対する不安を取り除くことが重要である。

 現在の日本経済にとってもっとも重要なことは、財政政策や金融政策によって、経済を下支えしている間に、構造改革を早期に押し進めることである。

 日本銀行としては、関係者の取り組みが一段と強化されることを期待しながら、経済活動をしっかりと下支えするとの観点に立って、思い切った金融緩和基調を維持していく考えである。

以上