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全国労働金庫協会・連合会通常総会総裁挨拶

(黒田理事代読)
平成12年6月29日(木)、於ホテルラングウッド

2000年 6月29日
日本銀行

[目次]

 本日は、全国労働金庫協会・連合会通常総会がかくも盛大に開催されましたことを、心からお慶び申し上げます。

 労働金庫の皆様方におかれましては、日頃から、私ども日本銀行の政策ならびに業務に関しまして、ご理解、ご協力を賜わり、本席をお借りして厚く御礼申し上げます。今後の益々の業界のご発展を祈念致しますとともに、本日は、最近の金融経済情勢および金融システム面での課題などにつきまして、私どもの考え方を申し上げて、ご挨拶に代えさせて頂きます。

(最近の金融経済情勢と金融政策運営)

 まず、最近の経済情勢と、日本銀行の金融政策運営について、一言申し上げます。

 わが国の経済は持ち直しの動きが明確化しており、民間需要面でも、設備投資の増加が続くなど、一部に回復の動きがみられています。

 民間需要面の動きをやや詳しく見ますと、企業収益が大幅に改善し、設備投資も増加を続けるなど、企業部門の回復はかなりしっかりしたものとなってきています。一方、家計部門をみると、個人消費は、なお回復感に乏しい状態が続いています。企業のリストラ圧力が根強い中で、家計の所得環境はなお厳しい状況にあるものの、雇用者数・賃金の両面で下げ止まりの動きがみられるといった明るい材料も出始めています。今後、企業部門の回復傾向が家計部門に浸透していく道筋がみえてくるかどうか、注意深く見極めていきたいと考えています。

 こうした情勢のもとで、需要の弱さに起因する物価低下圧力は、一頃に比べて後退しているものとみられます。その意味で、なお注意深く見極めるべき点は残っているものの、日本経済は、私どもがゼロ金利政策解除の条件としている「デフレ懸念の払拭が展望できる情勢」に着実に近づいていると判断しています。

 振り返ってみますと、日本銀行が、ゼロ金利政策を採用してすでに1年4ヶ月が経過しました。当時は、「デフレ・スパイラルの瀬戸際」という危機的な状況にあり、ゼロ金利政策はこれに対処するための異例の金融緩和策でした。その後、日本経済は、金融政策や財政政策からの支援に加え、海外景気の回復や金融システム不安の後退などもあって、大きく改善してきました。一方で、ゼロ金利政策に対しては、様々な副作用も指摘されています。こうした中で、ゼロ金利政策という極端な金融緩和策を続けていくことについては、政策委員会でも活発な議論が行われています。今後とも、毎回の金融政策決定会合において、民間需要の自律的な回復力を点検し、デフレ懸念の払拭が展望できるかどうか、適切に判断していきたいと考えています。

(金融システム面の話題)

 さて、金融システム面に話題を転じますと、最近の特徴は、わが国の銀行業にビジネス・チャンスを見出した外国資本や事業会社が、一時国有化されていた銀行を買収したり、インターネットバンク等を新規に設立するなどの動きを活発化させていることです。

 外国資本や事業法人が、相次いで破綻した銀行の引受け先となっているのはご承知のとおりです。

 また、コンビニ等の巨大な店舗網にATMを設置し、決済を中心とするサービスを提供したり、インターネットを通じて様々なサービスを効率的に提供するなど、従来の銀行業にはない形態の銀行の設立を企図する動きが明確な方向性を見せ始めています。こうした動きに対し、政府では、銀行免許の審査や監督上の対応、特に、銀行経営の独立性確保、事業親会社と子銀行との間のリスク遮断などに関する運用指針案を公表し、パブリック・コメントを求めているところです。

 私どもとしては、新たな株主の下で生まれ変わった金融機関や新たな形態の銀行が、わが国の金融市場や金融機関経営に様々な良い刺激を与えてくれればと期待しているところです。労働金庫業界では、こうした経営環境の変化に対応し、勤労者のニーズに応える「生涯総合取引制度」の充実、リスク管理に強い人材の育成、情報化時代に合致したコンピュータ・システムの構築に努められてきており、大変心強く思う次第です。また、今後の金融環境の変化に備えるためには、経営体質の強化が不可欠であり、その意味でも、全国統合を展望しつつ、現在、推進されている地域ブロック統合が円滑かつ迅速に進められることを強く期待しています。

 なお、新しい預金保険法が、先月末、国会において成立しましたので、若干付け加えます。今回の法改正は、昨年末に金融審議会から公表された「特例措置終了後の預金保険制度及び金融機関の破綻処理のあり方について」の報告に沿って、2001年4月以降の新たな破綻処理の枠組みを整備したものです。

 昨年末の与党合意の下で、全債務保護の特例措置の廃止は、2002年3月末まで1年間延長されました。また、その後も、2003年3月末までは、経過措置として、当座預金や普通預金等の流動性預金が全額保護されることとなっています。ただし、新しい制度の基本的な枠組自体は、予定通り2001年4月以降導入される予定です。

 日本銀行としては、今回の改正法の枠組を妥当なものと評価すると同時に、引続きわが国金融システムの確固たる安定と、新しいセーフティ・ネットの円滑な機能を確保するために、政府と協力しながら努力していく所存です。皆様方におかれても、2002年4月の特例措置の廃止をも展望し、経営体力の一層の強化に努められることを期待したいと思います。

 最後に、日銀当座預金決済・国債決済のRTGS化(Real Time Gross Setlement)への移行についてお話しします。

 RTGS化は、日本銀行の当座預金・国債取引について、現在広く使われている時点決済を廃止し、原則として即時決済に一本化することで、我が国決済システムの安定性の向上を図るもので、来年1月4日の開始を予定しています。RTGSの下では、日本銀行における決済の方法が即時決済に一本化されることに伴って、これまでの時点決済を前提とした市中におけるコールや国債売買など各種取引の決済慣行も大きく変わることになります。日本銀行では、今後も、RTGS化に向けて、金融機関の対応状況を注意深く把握し、緊密に連絡をとりあいながら、円滑な実施に向けて万全の態勢で臨みたいと考えていますので、今後ともご協力をよろしくお願いします。

 最後になりましたが、労働金庫業界の今後の益々のご発展を重ねて祈念いたしまして、私のご挨拶に代えさせて頂きます。

以上