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最近の経済金融情勢と金融政策運営

2001年 2月22日・栃木県金融経済懇談会における田谷審議委員挨拶要旨

2001年 2月22日
日本銀行

[目次]

1. はじめに

 日本銀行政策委員会審議委員の田谷です。本日は、栃木県における各界の皆様方と親しく懇談させて頂く機会を賜り、感謝申し上げます。今日は、まず、私の方から、最近の経済金融情勢と金融政策運営についてお話しさせて頂きました後、皆様の忌憚のないご意見をお聞かせ頂きますとともに、懇談させて頂きたいと思います。

2. 最近の経済金融情勢

 日本経済は、一昨年から緩やかな景気回復を続けてきておりますが、最近になりまして、そのテンポが鈍化してきたようです。最近改訂されました昨年7−9月期の実質経済成長率もマイナスでした。今のところ、10−12月期と今年の1−3月期は僅かながらプラス成長を続けているとの見方が多いようですが、米国景気の急速な鈍化や株安などもあって、今後の景気については慎重な見方が強まっています。そうした下で、日本銀行として、先般、流動性供給方法の改善と公定歩合の引下げを行いました。ただ、こうした措置だけでは不十分であるとの見方も根強く残っています。今日は、まず、経済金融情勢についてお話しし、その後で、金融政策運営についてお話ししてみたいと思います。

海外経済金融情勢

 国内経済情勢をお話しする前に、海外経済、特に、米国経済について触れてみたいと思います。米国経済は、昨年末あたりから急速に悪化してまいりました。ただ、このところの落ち込みが急激なものだけに、かえってV字型の急回復になるとの見方が有力となってきているようです。在庫調整が早期に終了するでしょうし、エネルギー価格の上昇も一服しておりますし、債券市場なども落ち着きを取り戻しつつあるから、ということです。しかし、経済の拡大局面が長期にわたってきただけに、消費、投資の調整が大幅になるとの見方もあります。つまり、長期にわたる景気の拡大でさまざまなところに「ひずみ」が生じており、そうした「ひずみ」が正常化していくとすれば、経済に対する相当な下押し圧力になります。そうした「ひずみ」ということでは、特に、家計部門における、マイナスにまでなった貯蓄率、負債の膨張、株式保有の広がりが目立ちます。事実、IT関連の株価が大幅に下がったことも手伝って、消費者コンフィデンスが大幅に下がってきています。さらに、企業設備投資が鈍化する兆候がありますし、銀行も貸出に慎重姿勢となってきているようです。金融緩和を中心とした政策対応によって、年後半には景気は回復するとの見方が大勢となっていますが、米国経済の先行きはまだ相当慎重に見る必要があると思っております。実際にも、今年の成長率見通しにつきましては、昨年末から現在まで、時間の経過とともに下方修正され、先日のG7会合の時点でも、IMFが見通しを1.7%に下方修正したとの報道がなされています。

 米国経済の減速を反映して、東アジア各国の輸出が、昨年末あたりから急速に落ちてきています。各国の株価も、米国のNASDAQ株価の下落を受けて、相当下がりました。韓国、台湾などでは、内需の伸びも低下してきています。米国におけるIT関連需要の鈍化の影響は、これらアジアNIES諸国に集中的に現れています。それに比べれば、中国、ASEAN諸国への影響は相対的には限られたものでしょうが、中国を含めると、東アジアの貿易を通した相互依存関係は強まっており、東アジア全体としても、米国経済鈍化の影響は免れないところです。大陸欧州諸国の場合、対米、対アジア輸出のウエイトはそれぞれ1割前後であり、域内の消費、設備投資が比較的堅調なこともあって、域外経済の鈍化による景気スローダウンの程度は限定的となっています。ただし、ここでも、その影響は無視できなくなりつつあります。

国内経済金融情勢

 こうした国際環境の下では、我が国の輸出が鈍化することは避けられません。実際、昨年10−12月期の実質輸出は前期比+0.2%にとどまりました。東アジア向け輸出はほとんど全ての国に対してマイナスとなってしまいましたし、年末には、対米輸出も鈍化の兆候が見え始めました。その一方で、実質輸入の方は、まだ、はっきりした鈍化傾向が見られません。輸出が減り、輸入が減らなければ、当然、国内生産にはマイナスです。

 事実、鉱工業生産の伸びが鈍ってきています。つい最近出ました12月の実績と1、2月の見通しはそう悪い数字ではありませんでしたが、1月は主として電気機械、2月は輸送機械と一般機械の生産が上昇するとの予想によるところが大きいようです。しかし、最近、これらの分野の実現率や予想修正率、つまり、後に修正される方向がマイナスになってきていますので、実際の数字は予想比下振れる可能性が大きいと思います。実際には、生産は1−3月期は前期比横ばい程度にまで鈍化するのではないか、増加するにしてもかなり低い伸びになるのではないか、と考えております。生産活動は後退を始めたわけではありませんが、ほぼ足踏み状態になりそうだということです。鉱工業生産以外の分野を見渡しますと、好調な通信関連以外でも、旅行など活発化してきているように見えるところも一部ありますが、第3次産業活動指数全体としては、10−12月は前期比0.3%の小幅上昇にとどまりました。

 財、サービスの生産活動の鈍化を反映して、企業収益見通しは、今年度下期について下方修正されてきています。来年度の収益見通しも、今年度比プラスとは見られていますが、下方修正されてきているようです。最近の軟調な株価も、NASDAQ株価の下落、年度末を控えた需給悪化懸念もありますが、業績悪化懸念によるところもあるように思いますし、ビジネス・センチメントを冷やす懸念があります。これまでの設備投資関連指標から判断して、現在はまだ基調としての設備投資の増勢は続いていると思いますが、先行きについては不透明感が強まってまいりました。設備投資の先行指標としての機械受注の実績が予想比下振れてきていますし、建築着工床面積(民間非居住用)も下がってきています。機械受注(民需、除船舶・電力)の10−12月期実績は前期比+2.6%となりましたが、9月時点の業界見通しでは+7.6%でしたし、1−3月の見通しが前期比−6.4%と7四半期振りにマイナスになりました。つい最近出ました12月末時点での「法人企業動向調査報告」で、今年度の非製造業の設備投資計画が9月調査に比べて、かなり下方修正されたことは懸念材料です。また、同報告からも、比較的規模の大きな企業の景況感が足許下がってきていることや、12月から1月にかけて行われた各種の調査で、中小企業の景況感、業況感が低下してきていることも、今後の設備投資計画の慎重化をもたらす惧れがあるのではないかと危惧しております。

 この間、個人消費は回復感に乏しいものの、底堅く推移してきております。個人消費が底堅く推移していると言いますと、奇異に感じられる方もおられるかもしれませんが、総務省の「家計調査報告」によりますと、10−12月期の全世帯の消費水準指数(世帯人数、日数調整をし、実質化したもの)は前年比+0.9%になっていますし、名目の全世帯消費支出は前年比−0.4%と僅かな低下にとどまっています。確かに、百貨店売上高やチェーンストア売上高は前年比下がってきていますが、コンビニエンス・ストアの売上高は増えています。乗用車販売は底堅いと言えるでしょうし、家電販売は依然好調です。さらに、各種販売統計に入らない大型店やアウトレット・モールなどの好調が目に付きます。一方、個人商店の廃業は増えていますし、卸売業の減退も目立ちます。「商業販売統計」によりますと、卸売業販売額の小売業販売額に対する比率は1992年に3.7倍だったものが、一昨年には3.2倍に下がり、昨年12月には2.9倍になりました。それだけ流通分野での合理化が進展してきているということでしょう。明るいところと暗いところが共存しており、全体としての状況を把握するのを難しくしています。

 全体としての個人消費が底堅く推移してきました背後には、雇用・所得環境の改善があります。「労働力調査」によりますと、昨年12月時点で、労働人口、就業者数は、前年同月に比べて僅かながら増えています。また、自営業主・家族従業者は、同時期、48万人減少する一方、雇用者は、短期労働者やパート労働者の増加を含めてということですが、72万人増加しています。失業率は低下こそしませんでしたが、その目立った上昇なしに、かなりの規模の労働移動が行われてきていると言えるのではないかと思います。名目賃金も、「毎月勤労統計」によりますと、昨年11月までは、僅かながら前年を上回って推移しました。ただ、12月には、ボーナスの前年比減少が効いて、賃金全体でも前年比マイナスになりました。また、12月には、所定外労働時間の前月比若干の減少を映して、所定外給与の前年比伸び率も下がりました。これまで、企業収益の改善を反映して、雇用・所得が改善してきましたが、こうした12月の数字を除きましても、いかにもその改善スピードは緩やかなものにとどまってきた印象があります。今後、雇用・所得がどうなるかを考えるためには、企業部門の先行きがどうなるかが重要です。

 昨年8月にゼロ金利政策を解除しました時は、デフレ懸念の払拭を確認するために、雇用・所得の底打ちを確認することが重要でした。つまり、需要不足による物価下落が企業収益を下げ、それが雇用・所得を下げ、さらなる需要減退によって物価が下がり、それがまた企業収益を下げ、といった悪循環が止まったかどうかを判断するには、企業収益の改善とともに、雇用・所得の底打ちを確認することが必要でした。しかし、雇用・所得はどちらかと言えば景気遅行指標であり、現在の局面でプリエンプティブ(予防的あるいは先行的)に政策を考えるには、輸出、生産、設備投資の先行きを考えることがより重要のように思います。

 設備投資、個人消費以外の主要支出項目の動きにつきましては、公共投資は、昨年後半は減少したようですが、発注ベースでは、このところ、予備費や出遅れ気味だった当初予算の発注を受けて、傾向として増加してきているようです。工事進捗ベースでも、発注の増加を反映して減少テンポが緩やかになってきているようです。また、今後、来年度始めにかけては、補正予算の執行を受けて、一時的にせよ増加に転じると思われます。民間住宅投資は、昨年後半以来、横ばい圏内の動きを続けてきましたが、今後は、需要の先食いの反動もあって、緩やかに減少すると考えられます。

3. 金融政策運営

経済の現状と将来のリスク評価

 これらのことから、これまでの経済状況は次のようにまとめられるのではないでしょうか。輸出の増加による生産の伸びが続き、リストラの効果もあって、企業収益が改善し、設備投資も回復してきました。雇用・所得の改善は緩慢なものでしたが、企業先行、家計遅行型の緩やかな景気回復過程が続いてきた、ということです。しかし、回復のペースが問題になります。昨年10月、日本銀行政策委員会として、「経済・物価の将来展望とリスク評価」というペーパーを公表いたしました。そこでは、参考として、今年度の実質経済成長率、物価指数の変化率についての見通しを数字で示しました。今年度の成長率についての大勢見通しは、1.9−2.3%でした。これは、景気の行方についてのイメージを数字にすればこの位ということを表したものです。この程度の成長率であれば、潜在成長率を上回る蓋然性が高く、需給ギャップの縮小も期待できることになります。しかし、成長率がそれをかなり下回るようであれば、需給ギャップの縮小が微妙になります。

 「経済・物価の将来展望とリスク評価」ペーパーでも、さまざまなリスクを想定し、ある程度それを織り込んで見通しは考えられています。IT関連財需給の緩和はリスクの第一に挙げていました。しかし、IT関連財需要の減退を契機とした昨年末あたりからの米国景気の急変は、想定以上の規模で、直接的に、また、東アジアを経由して間接的に、我が国の輸出産業に影響を及ぼしてきつつあると思います。また、企業のリストラが続くことから、企業収益の家計所得への波及には時間がかかることは想定していました。しかし、いかにも時間がかかり過ぎますし、本格的に波及しないうちに企業収益の改善が鈍化しかねない状況になってきたように思います。

 こうした状況下で、これまで想定してきました標準シナリオを維持して、リスクの高まりを注視する、という立場をとり続けることは難しくなってきているように思います。リスクの顕現化などにより、標準シナリオからのかい離が否定しにくくなってきているのではないでしょうか。

 こうした点は、物価情勢とも整合的なように思います。物価は、消費者物価指数も卸売物価指数も前年比若干のマイナスとなっています。物価下落が続いているのは、基本的には、供給サイドの要因が大きいと思います。消費財の供給を数量面から見ますと、このところ、国内財の伸びがほとんどないのに比べ、輸入財の伸びは2割近くになっています。最近では、ただ単に安いものを輸入するということではなく、日本人に満足されるものを中国などで作って持ち込むようになっており、幅広い国内の競合品の価格低下圧力になっています。その分野も、衣料品から、野菜、加工食品などに広がってきています。IT関連を中心にした技術進歩による電子機器類の品質向上、規制緩和による通信費・電話料金の値下げ、流通合理化競争などによる物価低下が顕著です。しかしながら、需給ギャップが存在し、先程お話しましたように、その縮小が微妙になってきているということは、需要サイドの要因も重要になってきていることになると思います。つまり、景気の踊り場的状況が長引き、先行きの回復ペースの鈍化が懸念されるにしたがって、需要の弱さが物価低下の潜在的要因としてそれだけ浮上してくるということです。

金融政策運営の基本的な考え方および先般の金融政策対応

 ここで、大事なことは、日本銀行が素直に経済、景気認識をし、それに基づいてできることをタイムリーに行うことだと思います。予断なく経済を分析し、景気の現状、先行きを考えるということに関しては、日銀内部の分析だけでなく、さまざまな外部の意見も参考にして、私自身の見方を固めるようにしております。タイムリーに政策を行うということに関しては、ゼロ金利政策の解除に際し、デフレ懸念の払拭の展望ということをその条件としたのであれば、企業収益の改善と雇用・所得の底入れが確認できた時、解除すれば良かったと思いますし、民需主導の景気回復による需給ギャップ縮小が難しくなったのなら、それなりの政策対応を採れば良いと思います。

 2月9日に採用しました政策は、流動性供給方法の改善と公定歩合の引下げでした。流動性供給方法の改善につきましては、公定歩合により受動的に実行する貸出制度の新設、短期国債の買い切りオペの積極活用、それに手形オペ(全店買入)導入の早期具体化です。現在、日本銀行は、翌日物無担保コール・レート(金融機関どうしが資金を融通し合う時の金利)を0.25%前後に誘導することを、金利政策の中心に据えていますが、この新しい貸出制度のもとでは、信用力の十分な金融機関は、0.35%の公定歩合で、日銀に差し入れている担保の範囲内であれば、いくらでも借りることができますし、一定日数まで借り続けられます。これにより、期間の短いコール・レートが安定化しますし、金融機関による将来の資金調達懸念が薄れることで、より長めの金利の安定化ももたらします。また、3ヶ月を超える短期国債の買い切りオペの再開も、長めの金利の低下、安定化に結びついてきています。今回は、翌日物無担保コール・レートを動かすことなく、実質的な緩和効果を実現しました。もっとも、最近の短期金利の低下には、将来、コール・レートが引下げられるとの思惑が入っているように思います。

今後の金融政策運営についての考え方

 コール・レートはただの0.25%に過ぎず、下げても効果が小さい、あるいは、これまで以上の政策はリスキーな手段しか残っていないので、よほどの状況にならなければ政策変更は行わない、といった態度は生産的ではないと思います。金利に下げ余地がほとんどないことは事実ですし、下げても画期的な効果が見込めないことも事実でしょう。長期国債の買い切りオペ増額によるいわゆる量的緩和はリスキーな手段ですし、効果のほども不透明です。安易に使える手段ではありません。しかし、そうしたことを認めた上で、その時々で最大限できることを探し、タイムリーに行っていくことが求められていると思います。日銀に全ての問題を一挙に解決する魔法の杖を求められても、それには応えられませんが、日銀がそうした柔軟な政策スタンスを採るであろうという信認を勝ち得て行くことが必要のように思います。

 長期国債の買い切りオペについては、すでに現金の伸びに見合う以上に行ってきています。現在、銀行券の発行残高は55兆円強ですが、毎月、日銀は4000億円の長期国債を市場から買っています。ということは、一年で4.8兆円の国債を買っていることになります。この上、長期国債の買い切り額を増やしたとして、いかなる効果が期待できるでしょうか。長期国債の利回りはすでに1.4%を切るほどにもなってきています。日銀による長期国債買い切りオペを増やすことで、当初、長期金利がさらに下がるかもしれません。しかし、その結果、たとえば、一つの可能性として、円が為替市場で下落するかもしれません。円相場の下落は、外人投資家が日本株ばかりでなく日本国債を売る契機を提供することになるかもしれません。それが、長期金利を上昇させ、景気を抑制し、金融機関の保有債券に含み損を発生させるかもしれません。

 長期国債の買い切りオペ増額は、そもそも将来のインフレ期待を作り出すために行うので、金利の上昇は当然の結果であるとの見方もあります。量的緩和が奏効して、インフレ期待が高まり、景気回復期待が高まれば、株価、地価の底入れ、反転も期待できるということかもしれません。しかし、将来のインフレ期待、また、将来の景気回復期待が高まる前に、長期金利が上昇したらどうなるでしょうか。80年代後半の株価、地価の大幅な上昇によって特徴づけられる資産価格バブルは、人々の将来に対する期待が強気化した下で、低い短期金利が相当長期にわたって続くとの思惑によって発生し、拡大したものとすれば、現在は逆のことが起こっている可能性があるのではないでしょうか。つまり、人々の将来に対する期待が極端に弱気化している下で、低い短期金利が相当長期にわたって続くとの思惑によって、債券価格がかなり高くなっている側面があるのではないかということです。もし、そうであれば、何らかのきっかけで、債券価格が下がり始めないとも限りません。現在の金利を下げるとしても、手探りで進めなければなりません。長期金利をコントロールするには、現存する債券を全て買うくらいの覚悟でなければ確実には行えないものだと思います。その場合でも、自由な国際資本移動が先進諸国間の長期金利を連動させる傾向があり、各国金融当局の長期金利に対する影響力は制限されている面がありますので、コントロールは難しいでしょう。ただ、ここでも、やる前から、難しいとのみ言っていたのでは、不十分かもしれません。経済状況次第でしょうし、マーケット状況次第のところがあります。

 さて、国債の買い切りオペ増額によって、金融機関に日銀信用が追加的に供給されたとしましょう。その際、追加的に供給された信用を吸収せず、オーバーナイトのコール・レートが下がることを放置し、ゼロ金利政策を採用したとしましょう。その結果、都銀、あるいは、通常は資金の出し手である地銀等の超過準備が積み上がるでしょう。それによって、場合によっては、それらの金融機関は有価証券投資や貸出を拡大するかもしれません。しかし、現在のところ、最もありそうなケースは、金融機関の債券需要が増えるだけで、なかなか貸出が増えないというものでしょう。しかも、すでに、投資適格社債利回りの国債利回りに対する格差が、リスクに見合わないほど小さくなっているのではないかと言われています。貸出が増えないのは、資金需要が弱いということもありますが、金融機関が思い切ってリスク・テイク活動を積極化できないことによる面も大きいものとみられます。日銀信用が貸出の増加などの信用創造メカニズムに結びつくためには、まず、金融機関が適切なリスク・テイク活動を活発化させるような状態にならなければならないということです。

金融機関の不良債権処理について

 そのためには、金融機関の不良債権処理を加速させなければならないということになります。先月末、金融庁が公表した資料によりますと、平成4年度から今年度中間期末までの間に、全国銀行の累積不良債権処理額は68兆円に上ります。このうち、貸出金の償却や共同債権買取機構への売却などによってバランスシートから切り離すかたちで最終処理されたものにかかる累計額は29兆円です。最終処理以外の処理は、貸倒引当金を積むことなどによる会計上の処理ということになります。しかし、景気が本格的に回復しなかったり、地価が下がり続けることで担保価値が下がったり、構造的に業績回復が難しい産業への貸出をなかなか縮小できなかったりしたこともあって、追加的な引当が継続的に必要になってきましたし、その上、新たな不良債権が発生したりしてきています。その結果として、全国銀行ベースで、リスク管理債権と呼ばれる不良債権の絶対額が、ここ数年減少していません。しかも、最近の株価の低下で、株式含み益による不良債権処理が難しくなってきています。なんらかの方法によって不良債権処理のスピードを上げなければならないでしょうし、最終処理を進めなければならないでしょう。しかし、そのためには、金融機関の努力もさることながら、借り手企業の抜本的なリストラや再編、分社化などによる対応もこれまで以上に必要になるでしょう。そうした処理の過程では、デフレ圧力が強まりかねませんし、そうした処理が加速する結果、金融機関の信用創造機能が正常化するのであれば、日本銀行としてもそれなりの対応を採ることが必要になるかもしれませんし、また、そうした対応は有効なものになるのではないかと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

以上