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中国の金融改革について

2001年4月6日・日中金融フォーラムにおける山口日本銀行副総裁発言要旨

2001年 4月 6日
日本銀行

  1.  中国人民銀行・閻副行長からは、中国がWTO加盟を視野に入れながら、金融改革に果敢に取り組んでおられる様子を承った。金融改革が重大な政策課題になっているという点において、中国と日本には大きな共通点がある。そこで、本日私からは、日本の経験も踏まえつつ、金融改革に的を絞った報告を行い、後の討議の参考に供したいと思う。
  2.  閻副行長の報告にもあったように、中国が取り組んでおられる金融改革の核心は、大きく2点に集約されるように思う。一つは、国有商業銀行改革、および、それと表裏一体の関係にある国有企業改革をどのように進めるかという点である。いま一つは、頑健で懐の深い金融市場をどのように構築していくかという点である。そして、これらは、金融が持つ資金仲介機能、資源配分機能の活性化を通じて、経済の潜在力を引き出すための必須条件である。
  3.  こうした金融改革を進める場合、一国の歴史的経緯や経済の発展段階を踏まえることは当然であろう。しかし、同時に、近年のグローバリゼーションの文脈も、明確に意識する必要がある。グローバリゼーション、つまり世界的規模での市場統合の進行ともいうべき現象は、とりわけ金融の世界で著しい。そうした流れの中で、市場構造、決済システム、情報開示、銀行監督など、金融の様々な側面に関する国際的な議論が活発化している。そして、そうした議論の中から、国際標準ルールに関する合意が様々な分野で形成されつつあることも、周知のとおりである。
  4.  WTO加盟は、グローバリゼーションの流れにコミットしながら、経済の近代化に取り組もうとする中国の強い意思表示であると思う。そうであるならばこそ、国際的に標準的な考え方やアプローチともいうべきものを、直ちに適用することが困難な場合でも、常に念頭に置いて、金融システムの構築を進めることが求められる。日本が過去において金融近代化に取り組んできたプロセスとの決定的な違いの一つが、実は、この点にある。
  5.  以上は前置きである。以下では、まず、国有商業銀行の再建・活性化について述べる。この問題は、国有企業改革と表裏をなす難題である。このことが重要である理由は、国有商業銀行が中国における金融仲介の大きな柱を形成しているからである。問題は二つある。一つは不良債権の処理、いま一つは競争力の強化である。日本の不良債権問題は、経済成長率の低下と資産価格の下落に伴い、時間の経過とともに大きくなってしまった。中国の場合、高度成長経済という環境の中で処理を進めることができる点において恵まれているとみることもできよう。しかし、その場合でも、まずは不良債権を巡る実態の正確な把握が、問題解決の第一歩であると思う。日本の場合は、そもそも出発点における問題把握が甘かったために、その後の対応が後手に回ったことは否めない。そうした反省も込めて助言をすれば、不良資産の実態把握を急ぐこと、そのために、国有商業銀行の資産査定能力・資産管理能力の向上、および、当局の金融監督体制の強化を最優先の課題として取り組んでいくことが重要であろう。
  6.  この点とも関連し、国有商業銀行が、その貸出先である国有企業について発生し得るロスと、その処理に伴う最終的な財政負担を早期に確定することも重要である。国有企業に対する赤字補填を放置し、問題の先送りを続けていると、最終的な処理コスト、つまり財政負担が大きく膨れ上がってしまいかねない。中国の場合、金融リストラ以外にも、西部大開発などの公共投資、社会保障制度の改革、失業対策などの財政負担増加の要素が多くかつ膨大なものになることが予想される。現在の政府債務はなお低水準であるが、財政に余裕がある今のうちから、将来にわたる財政負担をどのようにコントロールしていくかという課題を意識しておくことが大事である。(また、只今述べたことは、そのまま日本にとっての課題でもあると考えている。)
  7.  国有商業銀行の競争力強化はいま一つの重い課題である。1998年に国有商業銀行の貸出額に関する上限規制が撤廃されたが、これは自己責任原則に基づく新たな企業統治システムの構築に向けた、重要な一歩であった。自己責任原則をさらに強化していくために中国が取り組む課題は多いが、金利の自由化はとりわけ重要である。中国では、貸出金利、預金金利の順番で自由化を進める予定と伺っているが、リスクとリターンを的確に認識した経営と資金供給を定着させる観点からは、金利の中でも預金金利、つまり金融機関の負債サイドの自由化が根本的に重要である。日本では、預金金利の自由化を10年以上の歳月をかけ、極めて漸進的に行った。こうした漸進的アプローチが、金利自由化へソフト・ランディングすることを助けた反面、結果的に金融機関の競争力強化が遅れた一因となったとの見方があることを指摘しておきたい。
  8.  国有商業銀行の競争力強化は、主力貸出先であるところの国有企業の整理・活性化の成否に依存する面も少なくない。再生する見込みのある国有企業については、民営化を進めて、市場経済に見合ったコーポレート・ガヴァナンスを強化していくことが望まれる。この点、WTO加盟を控え、優良国有企業が内外株式市場への上場を積極化させている動きは、注目すべき変化である。
  9.  次に、中国における金融改革の道筋を、市場の整備という角度から、考えてみたい。先に述べたグローバリゼーションの視点も加味すれば、優先度が高いと思われるのは、次のようなことではないか。
  10.  まず第一は、市場のインフラ整備である。これには、市場に対する信頼の土台となるべき法制度の整備、会計制度の確立、決済システムの整備といったことが含まれよう。安定した法制度の下で契約関係を明確にすることは、あらゆる市場取引の基礎を成す前提条件である。同時に、これは、外国資本の安定的かつ持続的な流入を確保していく上でも、決定的な重要性を持つ。また、会計制度の整備は、経営内容やリスクの実態を客観的に把握する上で欠かせない。さらに、安全で便利な決済システムは、いうまでもなく、安定的な金融システムの基礎を構成する重要なインフラである。
  11.  第二は、全国的な金融市場作りである。この点、中国のインターバンク市場において、96年に全国統一市場が創設されたことは、重要な一歩となった。ここで、金融市場全体の整備・育成について、最近の国際的な議論の成果を紹介したい。それによれば、まず安全資産である国債の市場をコアとして整備し、それを中心に様々な金融資産の市場が発展していくコースが効率的であるとされる。その場合、国債の利回りは、他の金融資産に関する金利形成のベンチマークとして機能すると考えられている。一口に国債市場の整備といっても、国債発行形態の多様化、機関投資家の育成、仲介業者の育成、国債決済システムの整備など、取り組むべき課題は多岐にわたる。当然のことながら、国債市場では、何よりも自由な金利形成がなされることが大前提となる。したがって、国債市場の整備を梃子に、それと並行して金利の自由化を進めていく手順が検討に値するのではなかろうか。因みに、日本でも、(75年以降の)国債の大量発行と国債利回りの自由化を契機に、本格的な債券市場が発達し、その過程で、預金金利も徐々に自由化されてきた。
  12.  第三は、資本市場の育成である。米国連邦準備制度理事会のグリーンスパン議長が常々指摘しているところでもあるが、リスク許容度の異なる多様な資金の存在を前提に、複数の市場を並行して育成していくこと、すなわち金融のマルチチャネル化が、望ましいという面がある。これには、いくつかのインプリケーションがある。一つは、金融システムがある種のショックに見舞われ、銀行を通じる金融仲介機能が大きく低下するような事態に陥っても、資本市場を通じるルートが機能していれば、金融ショックが実体経済活動に与える悪影響を小さくできるかもしれない。日本では、銀行システムを通じる間接金融への依存度が余りにも大きかったために、銀行の不良資産問題の経済全体に及ぼす悪影響を長期間にわたり大きなものにしてしまっている。
  13.  また、およそ一国の経済発展において、次代を担うかもしれないリスク・ビジネスに挑戦する企業に、リスク・マネーを供給する機能を持つ資本市場の重要性は、論を俟たない。この点、元本保証のある預金を原資に貸出を行う銀行が、リスクマネーを供給するには、自ずと限度がある。さりとて、政府部門が前面に立つことは、補助金の歯止めなき散布に繋がりかねず、資源配分を大きく歪めるばかりか、後々、大きな財政負担をもたらす恐れがある。民間の貯蓄を、資本市場(株式市場)を通じて、直接的に投資へ回すルートを、経済発展の早い段階から意識しながら、金融資本市場を育成していくことが肝心ではなかろうか。この点についても、日本の戦後の経験は反面教師ということになろう。しかし、日本でも、かつては、金融仲介の主要な部分を株式市場が担い、それが産業の発展に大きく貢献していた時代もあった。そうした観点に立つと、中国当局が株式市場の活性化に熱心に取り組んでおられることは心強い。
  14.  以上、金融改革を中心に、気づいたところを申し上げた。話の締めくくりに、金融政策のあり方について、一言触れることとしたい。
     安定的なマクロ金融経済環境は、経済の持続的な発展の基礎である。その意味で、安定的なマクロ金融経済環境を確保することを主眼とする金融政策の果たすべき役割は大きい。中国の現状に即して、金融政策運営の特徴を私なりに整理すれば、(1)厳格な為替管理制度により、為替市場を通じる外からのショックを遮断した上で、(2)規制金利を維持しつつ、(3)為替市場やインターバンク市場を通じたベースマネーの調節、つまり、量的コントロールを中心とした運営を行っていると理解している。金融資本市場が発展し、その中で金利が徐々に自由化されていけば、いずれは金利コントロールを中心に据えた金融政策運営に移行することが予想される。そして、そのプロセスにおいて、中国人民銀行は、金融市場の整備状況に即応した現実的な政策運営と政策手段を選択していかれるであろうと理解している。
  15.  課題の一つは、資本自由化あるいは為替制度と金融政策の関係である。ごく一般論で申し上げれば、国内金融市場の整備が進むまでは、資本自由化を急ぐべきではないということであろう。国内金融市場が未発達なまま、国際資本市場や為替市場という巨大な資産市場に国内経済をさらすことはリスクが大きい。金融政策運営も、困難を強いられよう。
     中国は経常収支黒字国であり、直接投資の流入も活発である。資本自由化を進める前に、まずは国内の豊富な貯蓄を如何に有効活用するかという点が、はるかに重要な課題であるように思える。

以上