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第76回信託大会における日本銀行総裁挨拶

2001年 4月12日
日本銀行

 本日は、第76回信託大会にお招き頂きまして、誠にありがとうございます。また、信託銀行の皆様におかれましては、平素より、日本銀行の政策や業務の運営に多大なご協力を頂いておりますことを、本席をお借りして厚くお礼を申し上げます。

 本日この後、私どもでは金融政策決定会合を控えておりますので、この場では金融システムを巡る問題について私の所感を申し述べたいと思います。

 最初に、わが国金融システムに対する内外の見方というところから話を始めますと、このところ株価が不安定な動きを示していることを背景として、金融システムの安定性について懸念する声が再び聞かれるようになりました。こうした懸念に対して、まず申し上げておきたいことは、大手銀行の自己資本は公的資本投入等により補強されてきており、現在の状況は、金融システムの安定が大きく損なわれた98年当時とは異なっているということです。

 しかしながら、この間最大の経営課題であった不良債権問題への取組みという面では、毎年巨額の処理が実施されてきたにもかかわらず、その残高はここ数年ほとんど減少をみていません。また、大手銀行を中心に、株価の変動に対する財務構造の脆弱性といった点でも問題は残っています。

 こうした金融システム面の問題を解決していくことは、単に金融システム自体を安定化させるためということだけではなく、わが国経済の持続的な成長軌道への復帰を実現していくためにも、重要な課題です。

 先般、政府が取り纏めた「緊急経済対策」には、「直接償却等の促進策」、「銀行による株式保有の見直し」と「銀行保有株式取得機構(仮称)」の創設を始めとして、広範な施策が盛り込まれました。「対策」の個々の項目についてはこれから具体的に検討されるとのことですが、金融システム問題を始めとする構造問題の解決に向けた積極的な取組姿勢を示したという意味で、今回の政府の対応を私どもとしては高く評価しています。

 ただ、こうした政府の対応姿勢を実のあるものにしていくためには、各金融機関の経営者が勇気と決断力をもって、内外の信認回復に繋がる行動を採っていくことがどうしても必要です。こうした観点から、金融機関の方々にお願いしたい点を幾つか申し述べたいと思います。

 まず第1は、不良債権残高が一向に減少しない要因となっている不良債権の新規発生に対し、適切に対処していくことです。そのためには、絶えず債務者の経営状態を的確に把握したうえで、既往の債務者区分や引当が適切かどうかを注意深く検証し、必要に応じて債務者区分の変更や追加引当等を行うことが重要です。同時に、業況に変調を来し始めた債務者については、早期に再生のための努力を促していくことも必要です。

 第2は、各金融機関が財務の改善に必要となる収益の基盤を強化していくことです。そのためには、コストの一層の削減とともに、株式保有の在り方、信用度に応じた与信体系の再構築など、経営構造を基本から見直していく必要があるように思います。

 第3は、このところ私が各所で強調している点ですが、リスクマネーの円滑な供給体制を整えることです。現在、わが国には1,400兆円もの個人の金融資産が存在しますが、こうした資金を円滑に資本市場に流入させ、構造改革の推進に活用していく余地は小さくないように思います。そのためには、各金融機関が家計の多様な資産運用ニーズを踏まえ、情報開示面の充実を含め商品性の改善等に絶えず知恵を絞っていくことが重要です。この点、「信託」は様々な可能性のあるツールであり、信託業界の皆様の旺盛な企業家精神にも期待するところは大きいと言えます。

 さて今年度は、時価会計の全面導入やペイオフ解禁への備えなど課題は多岐に亘ります。本席におられます金融機関経営者の皆様におかれては、只今申し述べた点にご留意頂き、問題の早期克服と将来のビジネス拡大に向け、改めて努力を傾けて頂くことを期待したいと思います。

 最後となりましたが、信託業界の益々のご発展を祈念いたしまして、私の挨拶といたします。

以上