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大阪経済4団体共催懇談会における総裁挨拶要旨

2001年 8月29日
日本銀行

[目次]

1.はじめに

 日本銀行の速水でございます。

 本日は皆様方とお話をする機会が得られましたことを、たいへん光栄に思います。また、平素より、私どもの支店がたいへんお世話になり、本席をお借りして厚く御礼申し上げます。

 はじめに私から、若干お時間を頂戴してお話をさせて頂きました後に、皆様方から、最近の経済情勢等につきまして忌憚のないご意見を拝聴し、今後の政策運営に役立てさせて頂きたいと存じます。どうかよろしくお願い申し上げます。

2.最近の金融政策運営について

本年入り後の金融緩和措置

 日本銀行は本年に入り、経済情勢の悪化に対応して、累次にわたり、思いきった金融緩和措置を講じてまいりました。その際、私どもは次の2つのことを強く申し上げてきました。第1に、日本銀行としては、物価の継続的な下落を防止し、持続的な経済成長の基盤を整備するために、中央銀行としてなしうる最大限の努力を続けていく方針であること、第2に、しかし、金融緩和の効果を十分引き出し、経済の持続的な成長を確かなものとするためには、構造改革の進展が不可欠の条件である、ということです。

 私どもが今年に入って講じてきた金融緩和措置の内容は、次の4つにまとめられます。第1に、金融調節の主な対象をコールレートから「日本銀行当座預金」に変更しました。これは、金融機関などが日銀に預けている預金のことで、金融機関同士の様々な取引の決済や準備預金の積み立てに使われるものです。いわば、金融市場における資金の量を表すひとつの指標といえます。3月にはこの資金供給量をそれまでの4兆円程度から5兆円程度に増額し、今月はさらに6兆円程度に上積みすることを決定しました。第2に、このような新しい金融調節の枠組みを、消費者物価の上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることを宣言しました。第3に、大量の資金を円滑に供給するために必要な場合には、長期国債の買い入れを増額することにしました。第4に、「ロンバート型貸出」という新しい日銀貸出の制度を導入しました。これは、担保など一定の条件のもとで、金融機関が自動的に日銀から貸出を受けることができるようにした制度で、いざという場合でも金融市場の安定を確保するうえで、大きな役割を果たすものと思います。

金融緩和措置の効果

 これらはいずれも、既に政策金利の引き下げというオーソドックスな手法を使い尽くした中で、なお金融緩和を押し進めるために、思いきって講じてきた措置です。

 それでは、このような金融緩和措置にどのような効果が期待できるのでしょうか。

 まず、下げ余地が乏しくなっているとはいえ、ターム物など市場金利の低下を促すという径路は残っています。また、日銀当座預金というノーリスクでノーリターンの資産の供給を増やすことによって、市場参加者が、その資金を社債やCPあるいは外貨資産などに振り向ける効果も期待されます。いわゆるポートフォリオ・リバランス効果といわれるものです。実際、このところ、社債市場やCP市場の取引は次第に活発化してきており、CPの発行残高は毎月ピークを更新しているほどです。さらに、物価の継続的な下落を防ぎ、景気回復を支援するという、日本銀行の断固たる決意を改めて示すことが、人々の期待形成やマインド面にプラスに作用することも期待しています。

 このような緩和策の効果は、金利の引き下げといったオーソドックスな政策と比べれば、必ずしも確実とはいえない面があります。しかし、我々としては、厳しい経済情勢の展開を踏まえると、何らかの効果が期待できる以上、こうした政策に踏み切ることが必要な段階に至ったと判断した次第です。

 「日本銀行は物価の下落を放置している」とか、「デフレを容認している」といった見方があるとすれば、それは全くの誤解です。日本銀行が、世界の中央銀行の歴史に前例をみないような、思いきった政策に踏み切っているという点は、是非ともご理解頂きたいと思います。

金融緩和効果を制約する要因

 しかし同時に申し上げたいことは、物価の安定を確保し、景気回復を確かなものにするためには、きわめて緩和的な金融環境をフルに利用するような政府の政策対応や、民間の前向きな取り組みが不可欠であるということです。

 このことは、近年の日本経済の経験が端的に示しているように思います。例えば、ここ5年間、日本銀行が直接供給するおかねであるマネタリーベースは、金融緩和のもとで年率8%近い高い伸びとなっています。それにもかかわらず、銀行貸出の伸びはマイナスですし、経済成長率は年率1%程度、消費者物価もほぼ横這いにとどまっています。いわば、日本銀行が金融市場にじゃぶじゃぶにおかねを供給しても、それが、金融機関行動や実体経済活動に必ずしも十分に波及しない状況が続いているのです。

 金融緩和の効果をフルに活かすためには、金融システム面や経済・産業面での構造改革などを通じて、前向きの経済活動を引き出す必要があると申し上げているのも、このためです。

物価と金融政策

 ここで、やや視点を変えて、この問題を物価との関係で考えてみたいと思います。

 最近、「物価は貨幣的な現象なので、おかねを増やせばデフレは止まる」という議論がみられます。確かに、数十年といった長い期間をとれば、おかねの量と物価には大まかな対応関係がみられます。しかし、より短期的には、物価は、需給のバランスや海外要因など、多くの要因の影響を受けて変動するものです。今の日本の物価下落が問題となるとすれば、需要不足による物価下落であり、そうであれば、いかに持続的に需要を活性化させるかということが課題となるはずです。

 皆様にとっても、今、経営上の主たる問題は、金利が高過ぎるとか、優良なプロジェクトがあるのに資金がつかないということではなく、やはり、先行きの需要や成長分野の見通しが立たないということではないでしょうか。

 要すれば、デフレを止めるという点でも、私どもの金融緩和政策だけでなく、それをうまく活用するかたちで民間の経済活動が活発化すること、そして、そのための環境を整備する政府の対応が不可欠であるということです。

 現在、強力な金融緩和のもとで、長短金利はこれ以上殆ど下げ余地のない所まで低下し、金融市場の流動性懸念も払拭されています。これは、「流動性の罠」(リクイディティ・トラップ)といわれる状況に近いと考えられます。一般的には、こうした状態では、物価や景気に対しては、需要を直接つけるような政策が強い効果を発揮するといわれています。

 とはいえ、もはや、財政支出の拡大という対応に頼るわけにはいきません。そこで大事になってくるのが、財政支出の中味を工夫したり、規制緩和などの政策措置を通じて、民間需要を喚起する方法です。私は、これこそが構造改革のもっとも大事な側面のひとつであると考えています。

 構造改革というと、まずそのデフレ効果や「痛み」の側面に関心が集まりがちです。しかし、構造改革により、将来の生産性向上や経済成長の展望を開くことができれば、それは現在の人々の支出活動にも好影響を与えるものです。要は、構造改革が本来持つプラスの効果を早めに引っ張り出すような政策対応が大事ではないかと思います。

日本経済の潜在力の発揮に向けて

 もちろん、世界経済の減速といった厳しい外部環境や、日本経済の抱える課題の重さを踏まえると、こうした取り組みは、決して容易なものではありません。しかし、同時に日本経済は、なお十分な潜在力を有していることにも着目する必要があります。

 例えば、日本の個人金融資産は、1400兆円近くに達しています。国全体としても、世界最大の債権国として多額の対外資産を有しており、ここから産み出される所得収支の黒字幅は、最近では、経常収支の黒字の8割を占める規模に上っています。問題は、こうした資産や購買力が、国内での支出の拡大になかなか結びつかず、経済がその潜在力を十分に発揮できない状況が続いていることにあります。

 このように考えていくと、経済再生のための筋道は明らかになってくるように思います。

 まず、只今申し述べたような規模の個人金融資産を活用し、前向きの経済活動に対するリスク・マネーの供給が円滑に行われる環境を整備していくことが重要です。

 そのためには、不良債権問題を早急に処理し、金融システムが資金仲介機能を十分に発揮できるようにしていく必要があります。この点については、のちほど詳しく申し述べたいと思います。また金融面では、家計の資産選択の多様化を促がすような環境の整備も重要です。

 そのうえで、民間需要を早期に引っ張り出すにはどうしたら良いでしょうか。まず、規制の緩和や撤廃を進め、企業が自由にビジネスを行っていける環境を整えていく必要があります。また、年金など社会保障制度について、家計の持つ不安感を緩和することも、個人消費を活発化させるうえで大きな効果を持つはずです。さらに、財政支出の内容についても、それ自身の需要拡大効果だけでなく、民間の需要を引き出すようなもの、いわゆる「クラウド・イン」効果の高いものとしていくことも、重要な課題です。

 この点、政府において、こうした問題意識を踏まえたうえで、構造改革への取り組みが開始されたことは、大変心強く感じています。政府はまもなく、改革の具体的なプラン、いわゆる「工程表」を策定されるものと聞いております。私どもの金融緩和と政府の構造改革への取り組みが相俟って、皆様方による前向きの経済活動のための環境が整備されていくことを強く期待しております。

3.金融システム関連

 さて、先ほど申し述べたとおり、前向きな経済活動に対して、円滑に資金を供給していくためには、不良債権問題を早期に克服する必要があります。この点につきまして、若干敷衍して申し上げたいと思います。

 わが国金融機関は、このところ毎年のように年間利益を上回る規模の不良債権の処理を実施してきましたが、それにも拘わらず、新たな不良債権の発生から、足許の不良債権残高はわずかではありますが、むしろ増加しています。

 こうした不良債権問題の最終解決に向けて、政府は6月に決定した「基本方針」の中でも様々な対応策を打ち出しました。また、民間サイドでも、「私的整理に関するガイドライン」の中間取り纏めを公表するなど、問題解決に向けて努力しています。

 そこで、次なる課題はこうした枠組みを活用し、実際に個々の企業の経営問題に真正面から取り組み、可能な限りその再生を図っていくことではないかと思います。

 このところの新たな不良債権発生の背後には、景気悪化や地価下落の問題があることは言うまでもありませんが、それに加えて、体力に比べ過剰な債務を抱え、構造的な需要シフトにも直面している企業が少なくないという困難な問題があります。

 大企業であれば、こうした問題に対し、自力での対応が可能な先が少なくないでしょうが、中堅以下の企業については、よきアドバイザーとしての機能も含め、金融機関の果たし得る役割は大きいように思います。特に、金融機関として経営が悪化した企業の再建可能性を確信し、資金面でも支援できると判断した場合には、その企業に対し、債権保全面に意を用いつつも、できる限りサポートしていくことは、金融機関に期待される重要な役割です。

 もちろん、現在のように、企業の経営体力が低下し、担保となるべき資産の価格も低迷している下では、金融機関の対応にも自ずと限界があるのも事実です。従って、金融機関がそうした役割を果たしていくためには、企業と対話しながら融資形態等の面で様々な工夫をしていく余地があるように思います。

 企業の再生に当り、金融機関の果たすべき役割について申し述べましたが、金融機関自身が一段のリストラや収益力の一層の強化に努める必要があることは言うまでもありません。私どもとしては、只今申し述べた企業サイドと金融機関サイドの努力が結集され、企業の再生と不良債権の克服という2つの問題が一刻も早く一体的に解決に向かうことを強く期待しています。

4.おわりに

 以上、いろいろ申し述べてまいりました。

 現在、日本経済は、グローバルなIT分野の急激な調整や、なお根深いわが国の構造問題などを背景に、たいへん厳しい局面に直面しています。当地の経済界には、そうした日本経済の苦境が集中的に表れている面があると存じます。

 しかし、当地は大企業から中小企業に至るまで、きわめて進取の気性に満ちた土地柄であり、これまでも民間主導で多くのビジネスを切り拓いてこられました。

 こうした当地の経済の力強さ、たくましさを知る一人として、私は、関西経済は、必ずや現在の厳しい状況を乗り越え、新たな発展の道を切り拓いていかれるものと期待しております。

 私どもとしては、皆様方の声に真摯に耳を傾けつつ、皆様のご努力を、中央銀行の立場から精一杯サポートしてまいりたいと考えております。

 ご清聴どうもありがとうございました。

以上