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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成13年9月21日、衆議院財務金融委員会における速水日本銀行総裁報告

2001年 9月21日
日本銀行

[目次]

はじめに

 日本銀行は本年6月、平成12年度下期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を、国会に提出いたしました。今回このような形で、日本銀行の金融政策運営についてご説明する機会を頂き、あつく御礼申し上げます。

 日本銀行は、物価の継続的な下落を防止し、持続的な経済成長の基盤を整備するという断固たる決意をもって、内外の中央銀行の歴史に例をみない思いきった金融緩和措置を、機動的に講じてまいりました。また、先般の米国における同時多発テロ事件の発生後は、資金決済の円滑と金融市場の安定を確保するため、市場にきわめて大量の資金を供給するなど、迅速な対応に努めてまいりました。

 そこで本席では、まず私から、最近の内外経済情勢や金融政策運営につきまして、申し述べさせていただきます。

内外経済情勢と8月の追加緩和措置

 日本経済の動向をみますと、昨年秋以降の世界的なIT関連分野の調整や、これを背景とする海外経済の急激な減速を受け、輸出が大きく落ち込み、国内の生産も大幅な減少をみることになりました。

 海外経済は、その後も減速傾向を一段と強めてまいりました。すなわち、米国や東アジアで経済の調整がさらに深まる中、欧州でも、景気の減速が次第に明確となってきました。こうしたもとで、日本の輸出や生産は大幅な減少を続け、企業収益や設備投資も減少に転じました。さらに最近では、このような企業部門の調整の影響が雇用・所得面にも拡がり始めるなど、経済の情勢は厳しさを増しています。この間、物価は、需要の落ち込みに加え、技術革新や流通合理化、安値輸入品流入の影響などもあって、下落傾向を続けています。

 こうした経済情勢の悪化に対し、日本銀行は3月に、コールレートという「金利」に代わり、日銀当座預金という資金の「量」を金融調節の主たる操作目標とし、そのうえで、この残高を、それまでの4兆円程度から5兆円程度に増額するという、思いきった金融緩和に踏み切りました。さらに、この新しい金融調節の枠組みを、消費者物価の上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることを宣言しました。

 さらに8月には、この新しい枠組みのもとで、金融面から景気回復を支援する力をさらに強化するため、日銀当座預金残高を6兆円程度に増額するとともに、大量の資金供給を円滑に行うため、長期国債の買い入れを増額いたしました。

米国の同時多発テロ事件と日本銀行の対応

 その後、今月11日には、米国において、同時多発テロという、たいへん衝撃的な、また痛ましい事件が起こりました。

 事件の発生後、日本銀行は直ちに危機対策本部を設置するとともに、東京の金融市場が開く前に、私が談話を発表し、資金決済の円滑と金融市場の安定確保に万全を期すという、断固たる姿勢を明らかにしました。そのうえで日本銀行は、市場における流動性需要の増加に対応して、2兆円という大量の資金供給を機動的に実施し、日銀当座預金残高を8兆円を上回る水準にまで引き上げました。

 その後、内外の金融市場をみますと、日本銀行を始めとする主要中央銀行による潤沢な資金供給や、市場参加者による適切な対応の結果、これまでのところは、取引や決済面での大きな混乱は回避されています。

 しかし、今回の事件が、内外の金融資本市場やひいては実体経済活動にどのような影響を与えていくのか、引続き細心の注意をもって見守っていく必要があります。また、今後、万が一にも資金決済の円滑や金融市場の安定が損なわれるような事態になると、これまでの思いきった金融緩和措置の効果浸透にも支障をきたすおそれがあります。

 こうした情勢に鑑み、日本銀行は、今週開催された定例の金融政策決定会合において、議長である私の提案により、当初18、19日の2日間とされていた日程を1日に短縮し、速やかに金融政策運営の方針を決定することとしました。その上で、金融市場の安定を確保するとともに、金融緩和のより強力な効果浸透を図る観点から、次の3つの措置を決定しました。

 第1に、当面、日銀当座預金残高について、具体的な目標金額を特定せず、市場が必要とする資金を機動的にかつ潤沢に供給していくこととしました。

 第2に、公定歩合の引き下げを実施しました。現在、公定歩合は、本年3月に導入した「ロンバート型貸付制度」、すなわち、担保など一定の条件を満たせば、金融機関が日本銀行から自動的に貸出を受けられるという制度の適用金利となっています。これを、今回0.15%引き下げ、0.1%としました。

 第3に、9月中間期末に向けた臨時措置として、「ロンバート型貸付制度」の利用上限日数を引き上げることとしました。

おわりに

 このように日本銀行は、本年入り後、世界的な経済情勢の悪化や米国におけるテロ事件の発生といった困難な局面の中で、機動的かつ弾力的な金融政策運営に、全力を挙げて努めてまいりました。

 仮に、「日本銀行は物価の下落を放置している」といった見方があるとすれば、それは全くの誤解です。この点は、是非ともご理解いただきたいと思います。

 しかし、日本銀行が金融市場に対し、資金を文字通りジャブジャブに供給しても、そうした金融緩和の効果が、金融機関行動や実体経済活動になかなか伝わっていかない状況が続いています。このような状況のもとでは、物価の下落傾向を金融緩和だけで食い止めていくことは、難しいといわざるを得ません。

 金融緩和の効果が十分に発揮され、日本経済が安定的かつ持続的な成長軌道に復帰するためには、現在のきわめて緩和的な金融環境を活用するような前向きの経済活動を促し、民間需要を喚起することが不可欠です。そのためには、不良債権の処理により金融システムの機能を回復させることや、税制面での措置などを通じて資本市場の機能を高めていくこと、さらには、民間需要を効果的に引き出していく方向で財政支出の内容を見直していくことなどが重要です。とりわけ、不良債権問題、裏からみれば企業の過剰債務の問題が解決しない状況のもとでは、日本銀行による思いきった金融緩和も、効果を発揮しにくくなります。

 日本銀行は、物価の継続的な下落を防止するとともに、不良債権処理に伴う問題への対応も含め、日本経済の安定的かつ持続的な成長の基盤を整備するため、今後とも、中央銀行としてなし得る最大限の努力を続けていく決意です。同時に、金融システム面や経済・産業面での構造改革への取り組みがたゆまず進められていくことを、強く期待しております。

 ありがとうございました。

以上