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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成14年 3月28日、参議院財政金融委員会における速水日本銀行総裁報告

2002年 3月28日
日本銀行

[目次]

はじめに

 日本銀行は昨年12月、平成13年度上期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を、国会に提出いたしました。今回、日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、あつく御礼申し上げます。

 本日は、前回10月に本席でご説明して以降の状況を中心に、最近の経済金融情勢に関する認識や金融政策運営の考え方につき、申し述べさせていただきます。

日本経済の動向

 まず、日本経済の動向についてご説明申し上げます。わが国の景気は、一昨年秋以降の世界的なIT関連分野の調整や、それに伴う輸出・生産の大幅な落ち込みを背景に、悪化を続けてきました。昨年後半にかけては、こうした企業部門の調整が、雇用・所得の減少を通じて個人消費に及ぶなど、次第に広範化してきました。

 さらに、昨年9月の米国同時多発テロ事件の発生に伴って、経済の先行きに対する不透明感が高まり、世界的に同時減速の傾向が強まったことも、わが国の景気情勢を一層厳しくする一因となりました。

 この間、物価面をみますと、製品輸入の拡大や流通合理化など供給面の要因が引き続き押し下げ要因として働いていることに加え、景気が悪化傾向を辿るなかで国内需給バランス面からも低下圧力が強まりました。このため、わが国の物価は、依然としてマイナス基調が続いています。

 このように、景気は引き続き悪化傾向にありますが、このところ、景気の下げ止まりを展望し得るプラスの動きも見られ始めています。

 まず、本年に入って、米国をはじめとする海外経済の回復に向けた動きがはっきりしてきており、これを受けて、わが国の輸出も下げ止まりつつあります。国内においても、在庫調整が一段と進んでおり、生産の減少テンポはかなり緩やかになってきています。このような情勢を踏まえますと、今後、輸出や在庫面での下押し圧力が弱まるにつれて、景気の悪化テンポは次第に和らいでいくものとみられます。

金融資本市場の動向

 このように、短期的な景気循環という面からは明るい材料が見られ始めているなかで、このところ、日本銀行がとりわけ注意を払ってきているのが、金融資本市場の動向です。

 すなわち、昨年秋以降の相次ぐ大手企業破綻などをきっかけに、株価は、本年2月初にバブル後の最安値を更新するなど、神経質な展開を辿りました。民間銀行や投資家は信用リスクをとることに対して引き続き慎重であり、信用力の低い企業、とりわけ中小企業では資金調達環境が徐々に厳しさを増しています。

 また、4月からのペイオフ解禁を控えて、わが国の金融機関に対する内外の市場参加者の見方は、依然として厳しい状況が続いています。銀行株価は一時に比べると幾分反発したとはいえ、依然低迷しているほか、銀行の発行している債券の対国債スプレッドも拡大しています。こうしたなかで、2月後半には、短期金融市場においても、期末越えのターム物金利が強含むといった動きもみられました。

 こうした動きが行き過ぎて、健全な企業の資金調達が厳しくなったり、金融市場が大きく不安定化すると、実体経済や物価をさらに下押しする惧れがあります。このため、当面、金融面の動きには、細心の注意を払っていく必要があります。

最近の金融政策運営

 日本銀行は、昨年3月、コールレートがほぼゼロに達し、オーソドックスな金融政策による緩和余地がなくなったなかで、日銀当座預金という資金の「量」を目標とする金融政策運営の枠組みを採用しました。それ以来、こうした新しい政策の枠組みのもとで、内外の中央銀行の歴史に例のない思いきった金融緩和を継続してきています。

 この結果、日銀当座預金の残高は、1年前の4兆円程度から最近では期末を迎えていることもあり20兆円程度と5倍近くに増加しています。また、こうした大量の資金供給を円滑に行う観点から、長期国債の買い入れも増額してきており、1年前の年4.8兆円ペースから、この3月には年12兆円ペースとなっています。

 また、金融緩和の効果が企業金融の面でも浸透することを期待して、資金供給手段や担保面でも工夫を凝らしてきました。昨年12月には、CP現先オペの積極活用や、資産担保CPの適格担保化を決定しました。また、昨年9月と本年2月には、金融機関の資金繰りに対する安心感を確保するため、ロンバート型貸付制度において、公定歩合の適用期間を拡大するなど、弾力的な運用にも心がけてまいりました。

 このような日本銀行の金融緩和政策は、金融市場においては、強力な効果を発揮しています。金利は、1年物の国債金利まで0.001%と、ほぼゼロにまで低下しています。マネタリーベースの前年比は、30%近くまで高まっており、第1次石油ショック当時以来の伸びとなっています。この間、年度末を控えた金融市場動向や、株価、長期金利の動きなどからみても、金融資本市場は、全般に落ち着きを取り戻しつつあるようです。

 このように、日本銀行の金融緩和は、金融市場の安定を確保することを通じて景気の底割れを防ぐという点で、大きな役割を果たしてまいりました。

 しかしながら、日本経済が様々な構造問題を抱えるもとで、金融緩和の効果が、企業や家計の経済活動を十分活発化させるには至っていないことも事実です。金融緩和がその効果を十分に発揮し、景気の本格的な回復を実現していくためには、税制改革、規制の緩和・撤廃等により経済・産業面での構造改革を進め、民間需要を引き出していくことが不可欠です。同時に、不良債権処理を通じて金融システムの強化・安定を図ることがきわめて重要です。こうしたプロセスは、短期的には痛みを伴うものですが、長い目でみて、民需主導の成長を実現し、日本経済がデフレから脱却するためには、避けて通ることはできません。

おわりに

 日本銀行としては、今後とも、デフレ脱却に向けて、潤沢な資金供給を通じて市場の安定と緩和効果の浸透に全力を挙げていくこと、また、「最後の貸し手」としてシステミック・リスクの顕現化を回避することの両面において、中央銀行としてなし得る最大限の努力を続けていく方針です。同時に、只今申し上げたように、日本経済の持続的な成長の基盤を整えるために、各方面における構造改革への取り組みが粘り強く進められることを、強く期待しております。

 以上で私からのご説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

以上