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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成14年 7月 4日、参議院財政金融委員会における速水日本銀行総裁報告

2002年 7月 4日
日本銀行

[目次]

はじめに

 日本銀行は先月、平成13年度下期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を、国会に提出いたしました。今回、日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、あつく御礼申し上げます。

 本日は、最近の経済金融情勢や金融政策運営について、日本銀行の考え方を申し述べさせていただきます。

日本経済の動向

 まず、わが国経済の動向についてご説明申し上げます。昨年初来、IT分野の調整に伴い世界的に景気が急速に後退する中で、わが国経済も悪化傾向を辿ってきました。しかし、今年の春先以降は、海外経済の回復を背景に景気悪化のテンポは緩やかになり、最近では、輸出がはっきりと増加し生産も持ち直すなど、下げ止まりに向けた動きがみられるようになりました。雇用面でも、所定外労働時間や新規求人数が持ち直すなど、限界的な部分には改善の動きがみられ始めています。また、先日公表した6月短観でも、企業の業況感の改善が確認されました。しかし、持続的な景気回復の鍵を握る民間需要については、設備投資が引き続き減少しているほか、個人消費も全体として弱めの動きが続いており、まだ回復へのはっきりとした動きは窺われません。

 先行きについては、海外経済の回復基調が続けば、輸出や生産の増加が企業収益、ひいては国内民間需要の下支えに作用していくことを通じて、景気は、下げ止まっていくものと予想されます。もっとも、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根強いことなどを踏まえますと、非製造業や中小企業、あるいは家計部門へと前向きの動きが広がっていくには、なおかなりの時間を要すると考えられます。

 この間、物価面をみますと、国内卸売物価は、これまでの輸入物価上昇や在庫調整進展の影響もあって、ほぼ横這いの動きとなり、前年比でみたマイナス幅は徐々に縮小しつつあります。他方、消費者物価については、緩やかな下落を続けています。先行きについては、消費財輸入の増勢鈍化が価格低下圧力をなにがしか緩和する要因として働くと考えられます。しかし、先程申し上げたように、国内民間需要の明確な回復にはなお時間を要するとみられるほか、技術革新や規制緩和、流通合理化といった要因も、引き続き物価を押し下げる方向に作用すると考えられます。これらを踏まえますと、当面、物価は緩やかな下落傾向を辿るものとみられます。

金融面の動向

 次に、金融面の動きをみますと、金融・資本市場は、本年3月にかけて、ペイオフ解禁を控えた金融システム不安の高まりなどを背景に、神経質な展開を辿りました。企業金融面でも、民間銀行の貸出態度が慎重化し、信用力の低い企業、とりわけ中小企業では資金調達環境が徐々に厳しさを増しました。

 しかし、4月以降、金融・資本市場は、経済情勢が幾分改善傾向を示すもとで、全般に徐々に落ち着きを取り戻してきました。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境は、このところ改善傾向にあり、投資家の信用リスクに対する姿勢が回復してきたことが窺われます。もちろん、相対的に信用力の低い企業の資金調達環境がなお厳しい状況にあることも確かです。このため、金融機関行動や企業金融の動向には、引き続き十分注意していく必要があると考えています。

 また、6月中旬頃より、米国株価の下落などを背景に、株価がやや軟調に推移しているほか、為替相場も、ひところに比べて、ドル安・円高の動きとなっています。こうした市場の動きが行き過ぎ、金融・資本市場が大きく不安定化すると、改善傾向にあるわが国経済にも悪影響を及ぼす惧れがあります。このため、金融・資本市場の動きにも、細心の注意を払ってまいりたいと思います。

最近の金融政策運営

 次に、金融政策運営についてご説明申し上げます。

 日本銀行は、昨年3月、コールレートがほぼゼロに達し、オーソドックスな金融政策による緩和余地がほぼなくなったもとで、日銀当座預金という資金の「量」を目標とする金融政策運営の枠組みを採用しました。それ以来、こうした新しい政策の枠組みのもとで、内外の中央銀行の歴史に例のない思いきった金融緩和を実施してきました。

 また、金融緩和の効果が企業金融の面でも浸透することを期待して、資金供給手段や担保面でも様々な工夫を凝らしてきました。

 この結果、金融市場では、オーバーナイト金利はもちろん、やや長めの短期金利までほぼゼロに低下するなど、金利は極めて低水準で推移しています。また、マネタリーベースの前年比は、3割前後の高い伸びとなっています。

 こうした日本銀行の金融政策運営は、IT分野の世界的な調整や、米国テロ事件の発生、金融システム不安の高まりなど、わが国経済に大きなストレスがかかる中で、金融市場の安定を確保することを通じて景気の底割れを防ぐという意味で、大きな役割を果たしてきたと思います。

 しかしながら、わが国経済が様々な構造問題を抱えるもとで、企業の投資や家計の支出が十分活発化するには至っていないことも事実です。金融緩和がその効果を十分に発揮し、景気の本格的な回復を実現していくためには、税制改革や経済活性化策の具体化などにより経済・産業面での構造改革を進め、民間需要を引き出していくことが不可欠です。同時に、不良債権処理を通じて金融システムの強化・安定を図ることが極めて重要です。

おわりに

 わが国経済は、90年代以降、循環的には3度目の景気回復局面を迎えようとしています。これまでの2度の回復局面においては、海外経済の減速や金融システム不安などをきっかけに景気は勢いを失い、民間需要全体の自律的かつ持続的な拡大には至りませんでした。こうした点を踏まえ、わが国経済の持続的な成長の基盤を整えるために、各方面における構造改革への取り組みが粘り強く進められることを、強く期待しております。

 日本銀行としても、今後とも、デフレ脱却に向けて、潤沢な資金供給を通じて市場の安定と緩和効果の浸透に全力を挙げていくこと、また、「最後の貸し手」としてシステミック・リスクの顕現化を回避することの両面において、中央銀行としてなし得る最大限の努力を続けてまいりたいと思います。

 以上で私からのご説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

以上