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名古屋での各界代表者との懇談における総裁挨拶要旨

2003年 9月 3日
日本銀行

[目次]

  1. はじめに
  2. 1.日本経済の現状と当面の注目点
  3. 2.金融政策運営についての考え方
  4. 3.企業活動の活発化に向けて
  5. 4.金融システムの現状と課題
  6. 5.不良債権問題処理と企業再生
  7. 6.金融機関の収益力と資本基盤の強化
  8. おわりに

はじめに

 日本銀行の福井でございます。中部経済界を代表する皆様方とお話をする機会を頂き、大変嬉しく存じております。また、平素より、私どもの支店が大変お世話になっており、本席をお借りして厚く御礼申し上げます。本日は、当面の金融経済情勢や金融政策運営、金融システムの問題などについて、私どもの考え方をお話したいと考えております

1.日本経済の現状と当面の注目点

日本経済の現状

 はじめに、日本経済の現状について、ご説明したいと思います。

 日本経済は、ここしばらく、横這い圏内の動きが続いています。日本銀行では、毎月「金融経済月報」という文書で、私どもの金融・経済に関する認識を明らかにしていますが、今年の2月以降「横這い」という表現を使っています。ただ最近は、機械受注(4-6月実績+3.4%、7-9月見通し+2.2%)やGDP速報(4-6月年率+2.3%)など事前の予想よりも良い経済指標が出るようになっておりますし、株価の上昇も続いており、先行きに向けて少しずつ明るい雰囲気が出て来たように感じられます。

 一方、経済のグローバル化進展の下で、日本経済も益々世界経済との関連を深めながら動くようになっています。そこで、まず世界経済について、本年前半の動きを振り返ってみますと、大きな流れとして、90年代を彩ったITブームが2000年秋以降調整局面に入り、それが尾を引いていました。その上、イラクを巡る情勢の緊迫化・戦争状態への突入があり、さらに、東アジアにおいて新型肺炎(SARS)が流行するなど、不透明感を増幅させる事象が相次いで発生しました。国内でも、金融システム問題をめぐる懸念を拭い去れない中で、銀行株をはじめとして株価の下落が一段と目立つようになりました。

 幸い、その後は、イラク戦争が比較的早期に終結し、SARSの影響も、心配されたよりは軽微なものに止まるなど、不確実性は薄れてきています。また、調整がどこまで進展したか確認は困難ながら、最近に至り、世界的にIT関連の需要が復調の兆しを示しています。

 こうした中で、経済の先行きに関する悲観的な見方が後退し、年後半以降、世界経済の成長率上昇が、より確実に想定できるようになってきているようです。

 例えば、米国では、FRBの今年の実質成長率見通し(FOMC委員による大勢見通し)は、2.5%~2.75%となっています。今年前半の実績は2%程度でしたが、この見通しに即していえば、後半の成長率は3%台に高まると見ているように窺えます。また、来年は、3.75%~4.75%とさらに加速する見通しを明らかにしています。アジアでも、中国は、現在SARSの影響をほぼ払拭し、従来の安定した成長軌道に復している可能性が高いと思います。また、NIES諸国は、ITへの依存度を相当高めてきておりますので、米国中心に世界的なIT需要が回復してくれば、これらの国々における生産も増加していくものとみられます。欧州については回復に向けた動きはまだ明確ではありませんが、世界経済全体の回復にとって足枷となる可能性は小さいように思われます。

 こうした世界経済の動きを前提とすれば、現在「横這い」圏内の動きを続けているわが国の輸出や生産も徐々に増加に転じることが期待されます。外需だけでなく、内需の面でも、企業収益の大幅な改善を背景に、企業の本年度設備投資計画は、現時点としては2000年度以来の高い水準となっています。また、家計の雇用・所得環境は引き続き厳しい状況にありますが、後で述べますように、この面でも若干明るい方向への変化がみられます。これを要するに、日本経済は、輸出・生産を起点として、この先緩やかながらも次第に好循環を示すようになる、と判断されます。

当面の注目点

 以上のようなわが国経済回復への道筋は、この春以来、私どもの標準的なシナリオとして想定していたものですが、このところ実現する蓋然性が高まってきたということです。

 ただ、シナリオが実現するとして、果たしてそれがどの程度の強さや広がりをもつものになると期待できるか、逆に案に相違して、シナリオが崩れていくリスクがなおどの程度残っているか、こうした点については、情勢の推移を引き続き注意深く点検していく必要があります。そういう観点から、私どもが注目しているポイントを三つほど挙げておきたいと思います。

 第一は、やはり、海外経済の動向です。とりわけ米国経済や、それとの関連で世界的なIT需要の動向が注目されるところです。

 米国経済は、個人消費に支えられて緩やかな回復基調にあります。しかしながら、設備投資や生産は全体として力強さに欠け、雇用環境も厳しい状況が続いています。ITバブル崩壊以降の調整圧力が残っていることなどから、企業の積極的な行動がなかなか生まれない雰囲気にあるようです。ただ、ここへきて、パソコン、半導体などを中心にIT関連の需要が世界的に持ち直しつつあることは、一つの心強い材料と云えましょう。経済の回復を加速する観点から、連邦政府による大幅減税とFRBによる金融緩和の効果に強い期待が寄せられているのが現状です。IT需要の持ち直しや積極的な財政金融政策が、今後米国において企業活動の活発化や雇用情勢の改善にどの程度つながっていくか、また、それが世界経済全体にどのような望ましい効果を波及させていくか、注目していきたいと思います。

 第二は、株価や長期金利を含めたわが国の金融資本市場の動向です。株価は、5月頃から上昇に転じ、経済の先行きに関する見方がやや明るくなる中で、先月18日以降1万円の大台を回復しています。これにつれて長期金利も上昇しました。今年の前半は、様々な不透明要因が重なる中で、市場の期待がやや悲観的な方向に振れていたのが、ここへきて修正されたということかと思います。

 株価や長期金利は、基本的には、経済や物価の先行きに関する見方を反映するものです。市場の示唆するところは、今後とも正確に読み取っていかなければなりません。ただ、市場は様々な要因に反応し、不規則な動きをすることも少なくありません。わが国の場合、今後長期金利が経済の実態を超えてオーバーシュートするようなことがないか、早くも人々の関心が集まり始めています。米国でも、長期金利(10年物)が、6月に一旦3%近辺まで下落した後、現在4%台半ばまで上昇していますが、その要因としては、景況感に加えて、財政バランスの悪化や、多少テクニカルな要因としてモーゲージ証券投資家のヘッジ行動といった点が意識されているようです。わが国においても、経済実態以外の要因で長期金利が大きく変動することがないか、そうした点を含めて、金融資本市場の動向を丹念にフォローしていきたいと考えています。

 第三は、国内の過剰債務・過剰雇用の問題が残存している中で、輸出・生産を起点とする経済の回復がどこまで広がりを見せるか、という点です。

 まず過剰債務ですが、一口に過剰債務といっても、その様相は企業や業種によって大きく異なります。例えば、純債務の売上高に対する比率は、製造業においては過去10年の間に相当低下してきました。しかし非製造業においては調整が遅れ、今なお高止まっています。もとより、「製造業」「非製造業」という括り方は単純化しすぎで、本来は個々の企業毎に判断すべき問題ではありますが、過剰債務の問題は、多分に非製造業の問題といって良いと思います。また、非製造業は、従来、製造業に比べれば、国際的な競争に晒されてこなかったところが少なくないわけで、様々な形で非効率性が温存されています。

 「輸出・生産を起点とする」景気回復の場合は、まず、製造業が牽引役になるわけですが、これが、非製造業の事業刷新を伴いながらの業況好転にまでうまくつながっていくかどうか、非常に重要なポイントといえましょう。当地は製造業のウエイトが高く、財務基盤も強い企業が多いという特色があります。こうした中で、景気の動向も、全国に比べると底固さが目立ちます。当地には、わが国経済全体の回復を促していく上に大きな役割を果たしていただけるものと期待しています。

 次に、過剰雇用の問題ですが、こちらは、企業部門の回復が所得の改善を通じて個人消費の増加につながっていくかどうかの判断に関わるため、もう一つの重要なポイントとなっています。皆様にご協力いただいている私どもの短観の雇用判断DIを見ますと、製造業、非製造業とも、バブル崩壊以降ほぼ一貫して過剰感の強い状況となっています。また、最近の雇用関連統計をみましても、とくに常用雇用者数の減少が続いていることが気になるところであり、雇用面の調整圧力は根強く、雇用・所得環境は引き続き厳しい状況にあるといわざるをえないと思います。

 ただ最近、パートを含めたベースで見ると雇用者数が下げ止まりつつあることや、夏のボーナスを含めて賃金の下落に歯止めがかかってきていることなど、幾らか好ましい方向への変化もみられ始めています。

2.金融政策運営についての考え方

 こうした経済情勢のもとで、日本銀行は、量的緩和政策を堅持し、潤沢な資金を機動的に市場に供給することで、金融市場の安定を確保し、景気回復を確かなものとすべく努力しております。私が総裁に就任した後も、4月、5月と二度に亘って、量的なターゲットを引き上げました。イラク問題、SARS、株価、為替相場、りそな銀行問題など様々な不透明要因が、もともと強固とはいえない景気回復の基盤を崩してしまうことがないように、早め早めに対処するよう心がけてきました。

 また、日本銀行では、現在の金融緩和を「消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上となるまで維持する」という強い約束を行っています。金融市場の参加者にとって見れば、消費者物価指数の前年比変化率がマイナスで推移する限り、その間は金融の超緩和が続くと予測できますので、金利安定効果がそれだけ強まることとなります。

 さらに、金融緩和の効果を経済のすみずみまで浸透させるために、私どもは、波及メカニズムの強化にも取り組んでおり、その一環として先月より資産担保証券の買取りを開始しました。実施にあたっては、売掛債権に限らず、リース債権や貸出債権を原資産とする証券も幅広く買取りの対象とするなど、中堅・中小企業金融の円滑化に最大限の配慮を致しました。民間企業の信用リスクを直接負担することは中央銀行として異例ではありますが、現在の経済情勢、金融システムや金融資本市場の状況を踏まえれば、必要な施策と判断した次第です。

 このように、日本銀行では、経済の持続可能な成長軌道への復帰と、デフレの克服に向けて、前例に囚われることなく、必要な政策を行っており、今後とも適切に対応していく所存です。

 ところで先程は、経済がグローバルな連関を強めていることに触れましたが、デフレつまり物価の問題を考えるに際しても、グローバルな視点を欠かせない状況となっています。

 海外の物価動向をみますと、各国中央銀行が適切な金融政策を実行したことや、エマージング諸国の市場経済化などに伴って、世界的にインフレ率が低下しています。「グローバル・ディスインフレーション」といわれる現象です。今後、世界経済が回復していくとしても、成長率が高まる一方、物価上昇率は相対的に低い水準に止まる、という形になる可能性が高いと思われます。民間機関の予測をみても、米国・欧州・アジアとも、成長率は今年よりも来年の方が高い見通しとなっていますが、来年の物価上昇率は、いずれの地域でも2%を下回る見込みとなっています。こうした状況のもとで、各国の中央銀行は、従前に較べれば、物価下落のリスクをより多く念頭に置いて政策運営を行っています。例えば、FRBは、8月のFOMCの公表文で、かなりの期間(for a considerable period)金融緩和が続く可能性があると述べています。

 日本は、ディスインフレーションをこえてデフレの状況が続いているわけですので、日本銀行としては、他の中央銀行にも増して、強い意思をもって金融緩和政策を推進していかなければならないと考えております。

3.企業活動の活発化に向けて

 経済や物価のグローバルな連関性にからみ、もう一つの事実を申し上げますと、今回は、各国において金融面で従来にも増して緩和的な状況が整えられているにもかかわらず、なかなか企業マインドが積極化せず、企業の投資も思ったほど活発化してこないことが、共通の悩みとなっています。

 その背後には、過去の調整圧力の残存だけでなく、グローバル化の進展とともに企業の競争条件が一段と厳しくなり、また新しい物価環境の下で価格支配力を維持することが困難となってきている事情があるのではないか、と推察されます。言い換えれば、企業収益の源泉が付加価値創出の原点に益々収斂し、それだけに投資機会のとらえかたが難しくなっているということではないでしょうか。

 日本の場合は、高度成長時代に築いた企業経営や経済の仕組みがあまりに強固に定着しているだけに、新しい企業経営や経済の仕組みの構築がそれだけ困難を伴う(チャレンジングな)課題となっていると考えられます。

 私は、かねてより、日本経済が新しい経済の仕組みを築いていくために、企業が目指すべき方向性として、

 第一に、国内においては需要を待つのでなく、消費者の需要を喚起するような魅力ある商品・サービスを創り出すこと、言い換えれば、付加価値創出の最前線で強い競争力を築くこと、

 第二に、海外においては、中国をはじめ拡大するアジア諸国の市場に深く浸透し、拡販効果をあげるとともに、これら諸国とわが国との間の経済的な相互依存関係を一層緊密にしていくこと、などが必要であると考えてきました。それに加え、

 第三に、持続可能エネルギー源の開発や地球環境の保全など、21世紀の人類共通の課題に果敢に挑戦していくことが重要だと考えています。これは日本経済の将来の鍵と目されるイノベーションの領域を広げるのみならず、実績を上げていけば世界経済の持続性ある発展や、その中での日本経済の位置付け(ブランド価値)を高めることにつながっていくものと思います。

 当地の企業は、まさにこうしたところに焦点を当てて、実践してこられたと認識しています。当地には、高度の技術力の蓄積がなされており、それを新たな事業展開につなげる進取の気質に富んだ企業家精神も息づいています。また、アジアを単にコストの低い生産拠点とみるだけでなく、市場としての開拓も積極的に行ってこられました。こうした努力の積み重ねによって、新しい国際的な相互依存関係が築かれていくものと思っています。

 さらに、地球環境の保全に関しても、当地企業の皆様は、先駆的な感覚をもって取り組んでこられました。再来年に、中部国際空港の開港と合わせて、「自然の叡智」をメインテーマとした「愛知万博」が開催されることも、これを象徴しているように思います。

4.金融システムの現状と課題

 次に、金融システムの動向に目を転じますと、わが国金融システムは、全体としては依然厳しい状況にあるものの、次第に健全化の方向に歩を進めつつあることも事実です。

 とくに昨秋来、金融機関をはじめとした関係者の間において、不良債権問題の処理を加速していくためには、不良債権の経済価値のより適切な把握と、それに基づく引当の強化、償却の促進が重要であることなどが一段と強く認識されるようになり、その方向で努力が強められました。全国銀行の平成14年度決算は、前年度に続き大幅な当期赤字となりましたが、これは、わが国金融システムの直面する厳しい状況を端的に反映していると同時に、大手行を中心に不良債権残高が大幅な減少をみたことに示されている通り、銀行が不良債権問題の処理促進に積極的に取り組んだ結果をも表わしています。

 いよいよこれからは、2005年4月のペイオフ完全実施に明確に照準をあてて、金融システム健全化努力が総仕上げの段階に移行していかなければなりません。

 私は、ペイオフ解禁を、単に「預金保険上の保護範囲の変更」と認識することは問題を小さく捉えすぎており、金融機関が自律的な経営改革を図っていくうえでの、大きな一里塚と認識すべきであると考えています。なぜならば、ペイオフの凍結は、あくまで「混乱回避のための特別扱い」であり、ペイオフ全面解禁以降は、金融機関は、自らの経営判断に基づいて、一段とダイナミックな経営展開を図っていくことが求められるからです。

 そのためには第一に、これまでどちらかといえば金融当局主導型であった問題処理の動きが、金融機関の主体的な動きが先行する形に変わっていかなければなりません。第二に、努力の中身として、不良債権処理の一層の加速に加え、金融機関の収益力の強化に大きな比重が置かれなければなりません。

5.不良債権問題処理と企業再生

 不良債権問題への対応については、厳格な評価、引当の強化、償却促進のほか、最近は、企業の経営資源を徒らに散逸させることなく、むしろ、産業構造改革にも役立てていくという観点から、企業再生の重要性が認識されるようになっています。

 まず、本年5月に業務を開始した産業再生機構は、今般、4社の支援決定を行いました。今後、機構は、非メイン銀行から貸出債権を買取り、再建計画を決定、実行していくことになります。個別金融機関においても、例えば、大手行では企業再生専門子会社の設立が相次いでいます。また、地域銀行を含めた幅広い金融機関で、再生専担部署の設置や、弁護士・公認会計士といった外部の専門家との提携を図る動きも広範化しています。

 企業再生の実を上げていくためには、企業および金融機関双方の経営者が、スピード感を持って果断に対応していくことが重要な鍵となります。企業の中には、財務面で過去の負の遺産が大きいため、有用な技術やノウハウを持ちながら、なかなか業況が上向かない先もあります。こうした企業にとっては、金融機関の協力を得ながら、大胆に不採算事業を切り離し、中核となる事業に経営資源を集中していくことが問題の解決につながることが少なくありません。そのためにも企業と金融機関は、企業経営の現状と先行きについて、それぞれに経営レベルでの共通認識を作りあげていくべく、十分な対話を進めて欲しいと思っています。

 また、企業再生を円滑に進めていくうえで、不良債権を含む貸出債権流動化市場の整備・拡充も重要な課題だと考えています。こうした市場の拡充は、単に不良債権のオフバランス化を進めるのみならず、さまざまなリスク選好やノウハウをもった多彩な投資家を、再生ビジネスへ呼び込む機会を増やすことにつながると考えられます。また、取引が活発化し、貸出債権の円滑な価格形成が行われるようになれば、債権の価格が、再生事業の進展状況に対する市場の評価を示すこととなり、市場からのチェック機能が働くことも期待されます。

6.金融機関の収益力と資本基盤の強化

 金融システム健全化の最終目的は、申すまでもなく、大手の金融機関については国際的な競争力を十分身につけること、地域の金融機関については地域経済発展のため新しい金融サービスを提供する能力を備えることにあるわけですが、いずれも収益力の強化が伴わなければ実現不可能な命題です。

 最近は政府においてもこうした問題意識を強く抱いている様子ですが、収益力を高めていくために、従来の取引慣行をどう改めていくか、新規にどのような業務を開発するか、全体としてビジネスモデルを如何に再編成していくか、これらは全て個々の金融機関の経営判断にかかる事柄であり、これからは、金融当局の出方を待つまでも無く、率先して力強い経営意思を示してほしいものと願っております。日本銀行としては、考査や日常のモニタリングの機会を通じ、適切な助言を行い、金融機関の自主的な努力を支援していきたいと考えております。

 こうした過程で、各金融機関が、自ら指向するビジネスモデルに照らして資本基盤が万全であるかどうか、改めて確認し、資本の不足を感じる場合には必要な手立てを講じなければなりません。資本増強は、金融機関がまずは自ら市場の評価を得て取り組むべき問題であることは当然です。ただ、ペイオフ完全解禁までの限られた時間的距離の中で、自力では必ずしも十分な資本調達ができない場合にはどうしたらよいでしょうか。現状の資本規模に見合って業務の縮小やリスクテイクの抑制を図るか、それとも、何らかの公的サポートにより資本増強を図るかという問題となります。私としては、現在わが国が置かれている状況に鑑みれば、やはり後者の選択肢──すなわち、危機の未然回避という現行制度とは別の、新しい公的資金制度を手当てすることにより、金融システムの健全化、活性化への道をより平坦にすること──が望ましいのではないかと考えている次第です。

おわりに

 以上、ご説明して参りましたように、日本経済は、厳しい状況が続いておりますが、望ましい方向への胎動がそこここに感じられます。これを、先行き真に力強い日本経済の出現につなげていくためには、一つでも多くの民間企業、金融機関が先進的な技術や知識に磨きをかけて競争力を発揮していくことが必要です。日本銀行としても、そうした変化の芽を大切に育てていくように、金融緩和を堅持しながら、全力でサポートしていきたいと考えております。

 ご清聴誠に有難うございました。

以上