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最近の金融経済情勢について

神戸市における金融経済懇談会での岩田副総裁挨拶要旨

2004年 2月18日
日本銀行

 図表は、こちら(ko0402a.pdf 29KB)から入手できます。

目次

I.はじめに

 本日は、兵庫県における各界の皆様方と懇談の機会を賜り、感謝申し上げます。また、日頃から日本銀行神戸支店に対し皆様方のご支援、ご協力を頂いておりますことにこの場を借りて御礼申し上げます。

 御地におかれましては1995年初の阪神・淡路大震災により、多くの方々の生命が失われ、10兆円規模の資産が破壊されました。しかしその後、市民の皆様をはじめ、県・市等の行政、産業界のご努力により復興が進み、人口、鉱工業生産、観光などは震災前の水準に復帰しています。その一方で、住宅投資、百貨店売上や神戸港の輸出入金額などは震災前の水準をまだ回復していません。御地は、復興過程を経てさらに新たな飛躍を目指す転換局面を迎えているように思います。

 この神戸の地は、古くから進取の気性に富んだ土地柄であります。従来から産業基盤を形成してきた鉄鋼・造船・重機など重厚長大型の製造業では、資本・事業提携や分社化など事業再編が進んでおり、神戸ロボットテクノロジー構想など新しい分野での取組みも始まっています。また、香港、上海、釜山などアジアのライバル港の台頭に対して神戸港を復活させる動きも活発化しており、神戸空港の工事も進捗しています。

 とりわけ、「神戸医療産業都市構想」による先端医療を軸としたライフサイエンス分野のクラスターづくりは、神戸市のみならず日本の経済再生に向けての画期的な第一歩であり、先端医療特区の認定でさらに弾みがつくことを期待しております。このほか、兵庫県下でも、先端光科学、観光、近郊農業、環境リサイクルなど15件の経済特区が認定されていることは、再生に向けた動きの大きな広がりを感じています。

II.景気回復と日本再生

 バブル崩壊後の景気回復は、今回が3回目です。私は、今回の回復局面は持続性のあるものであり、昨年10月末に公表された「経済・物価の将来展望とリスク評価」(展望レポート)に沿った形で回復が今後も続くものとみております。今回の回復局面において、日本は、長年の政策課題であった「経済再生」と「デフレ脱却」のチャンスを掴みつつあるものと見ています。その理由は、4つあります。

 第一に、本年は、世界同時景気回復の年になると予想されるからです。加えて、1980年代初頭からの世界的なディスインフレ傾向が終息し、先進国の名目所得の伸びが近年の3%程度から5−6%へと緩やかに高まる「リフレーションの時代」へ転換することが予測されるからです。

 第二に、日本の産業が、中国の台頭を単に脅威としてではなく、新たなフロンテイアへの挑戦として前向きに捉え、中国の発展と共存する適応力を備えつつあることです。

 第三に、日本の企業のビジネスモデルが価格破壊型から新たな付加価値創造型へと転換しつつあることです。

 第四に、不良債権問題についても、大手行については、2005年3月に不良債権比率を半減するという目標を達成する可能性が強まっています。注目しておりますことは、事業再生に向けての関係者の努力が実って債務者区分の引き上げ(ランクアップ)等がなされたことにより、大手行の不良債権額が15年度上期中だけでも1割半ば程度削減されていることです。改革の成果がここにも現れ始めているように思います。

III.中国・インドの役割

 今回の回復局面の特徴の一つは、中国などアジア諸国の役割が高まっていることです。

 日本の輸出増加の8割は香港を含む中国向けでした。中国の昨年の粗鋼生産は、日本の倍であり、世界生産の23%に達しています。カラーTV、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、VTRなどの生産は世界生産の3割近くであり、ステレオ、ポータブルCD、DVDなどは5割に達しています。中国の鋼材の需要も、世界市場の2割を越えており、セメントの需要は、世界の需要の37.5%に達しています。エネルギーやエチレン系誘導品の需要も世界の1割に達しています(図表1参照)。

 中国に進出した外資系企業は46万社にのぼり、中国の高度成長を支えています。逆に、中国企業も合併・買収を中心に海外進出を図っています。

 経済地理の観点から戦後アジアの発展を観察すると、日本の太平洋ベルト地帯の延長上で考えることが出来ます。札幌から始まり、天津、上海、香港、バンコック、シンガポール、ジャカルタに至る西太平洋に沿って高度の産業集積と生産性の上昇が生じています。札幌、上海、シンガポールの頭文字をとって「3つのS線上」に示される東アジアの都市・産業集積の延長上に、ITソフトウェア産業の勃興で注目されるインドのバンガロールもあると言ってもよいでしょう。私は、21世紀は、「アジア興隆の世紀」になると予想していますが、この興隆の経済基盤は、西太平洋岸からインド洋にかけて展開されつつある産業集積です注1

 中国とインドの世界の人口に占める割合は、4割です。また、名目GDPの規模は、両国を合わせると1.8兆ドルと日本の半分程度です。仮に両国の一人当たり所得が、世界の平均一人当り所得に接近することになれば、世界の名目GDPの4割を占めることになります。購買力平価で経済規模を比較すると、中国は、すでに日本の1.8倍であり、インドも7割に達しています。

 もちろん、今回の景気回復にもリスクがあります。テロなど地政学リスクのほかに急激なドル安・円高があります。さらに、アメリカ経済の息切れや中国経済の過熱を心配する声もあります。私は、アメリカ経済の強い生産性の伸び(2003年に4.2%増加)をみる限り、減税による景気刺激効果が弱まった後でも回復が持続する可能性が強いと考えております。同時に、アメリカの強いファンダメンタルズが、急激なドル安を抑制する要因になるとも見ております。

 一方、中国の景気が加熱しているかどうかについては、中国国内においても多くの議論が行われています。不動産バブルの発生、物価上昇などのリスクはありますが、同時に西部大開発、高速鉄道敷設、北京オリンピックなど大型プロジェクトが準備されていることも考慮すべきであると思います。

 なお、鳥インフルエンザについては、人への感染メカニズムを明らかにし、迅速な対応を行うことが求められています。経済活動に与える影響は、SARSの場合よりも限定的ではないかとの推測も一部にありますが、畜産業や観光業についてはマイナスの影響を免れないでしょう。

IV.デフレ脱却と量的緩和政策の役割

川上から川下への価格上昇

 今回の回復局面において、世界経済の同時回復、リフレーションへの転換、とりわけ中国の急成長を背景として、国際商品市況の原材料価格のみならず鉄鋼、化学など素材型産業で価格上昇が目立っています。原材料や川上の産業における価格上昇が、川下の最終財産業の価格にどのように波及してゆくのか注目されます。生産性の上昇で吸収されるのか、収益圧迫要因になり景気を失速させるのか、または価格上昇が転嫁されてゆくのかによって、デフレ脱却の道筋は異なったものになります。

 私は、以下に掲げる3つの理由から、原材料や川上の産業における価格上昇が中間財や最終財部門へと次第に波及してゆく可能性があると見ております。

  1. (1)今回の景気回復が単にリストラによる供給面の改善だけではなく、新製品の登場や更新投資などの需要拡大が推進力になっていること
  2. (2)素材型産業においても、企業が一定の価格支配力を回復しつつあること
  3. (3)消費の二極化が観察され、消費者の平均購買価格も回復傾向を示していること

量的緩和政策の役割

 この間、金融政策は、デフレ脱却の目標を正面に掲げ、2001年3月以来の量的緩和政策を実行してきました。短期金利のみならず少し長めの金利を低い水準に安定化させながら、潜在成長率と望ましい物価安定(個人的にはコア消費者物価1−2%と考えていますが)の実現を図るという政策を実施しています。

 1月の金融政策決定会合では、当座預金残高を30−35兆円へ引き上げました。ゼロ金利継続を事前にコミットすることを通じて、長めの金利の安定化を実現するという「時間軸効果」を量的側面から補強するという政策方針に沿った措置であります。

 私が、量的緩和政策について特に注目しておりますのは、将来にわたって安定的にマネタリー・ベースを増加させることによってデフレ脱却が可能になるメカニズムが存在するということです注2。政府は、中長期的に緩やかに本源的赤字をゼロにするという財政目標を採用しています。この財政目標を達成するまでの間、本源的な赤字と利払い費をファイナンスするために国債発行を続けることになります。また、財政目標を達成した場合にも、利払い費を国債発行でファイナンスする必要があります。マネタリー・ベースと、民間部門が直接、または金融機関などを通じ間接的に保有する国債残高の和を、民間保有資産残高と呼ぶことにします。この民間保有資産残高は名目でも増加してゆきますが、デフレが続く中では、実質残高はより大幅に増加を続けることになります。

 この民間保有実質資産残高の増加が今後も続くと人々が予想すると、過剰となる実質資産残高の増加を支出に振り向けるようになります。近年、家計部門の貯蓄率は、大幅に低下しています。高齢化の進展の影響もあるでしょうが、マネタリー・ベースと国債の実質残高が増加しているので、民間部門が支出を増加させ、貯蓄率を引き下げる一因になっていると考えられます(図表2参照)。最近、コア消費者物価指数の変化率が、一時的要因があるとはいえ、ゼロ近傍で推移していることは、デフレ脱却を目指した量的緩和政策が、着実にその成果を示し始めていることを示唆しているように思います。

V.新たな金融システムの構築

銀行を中心とする金融仲介システム

 日本の金融システムの特徴は、「銀行優位の間接金融」であると言われています。銀行は、資金保有に余裕のある人に預金という資金運用手段を提供し、借り手には金額、金利、期間など借り入れニーズに見合った資金を供給するという金融仲介の役割を演じています。小口の資金を集めて大口の貸出を行ったり、短期の資金を長期の資金へと資産転換を行い、資産運用に伴う各種のリスクを負担しています。その際、銀行は、資産変換に伴う資産負債の総合管理を行い、リスクの最小化と収益の最大化を行っています。銀行経営の核心は、金融仲介に関わるリスク・収益管理にあると言えます。

 日本のような銀行を中心とする間接金融システムは、銀行部門に経済のリスクが集中・偏在しやすいと言えます。その結果、資産価格崩壊が金融システムの安定性に与える影響は、他国よりもより深刻なものになりやすいと言えます。また、貸し手と借り手の間の関係が密接であり、情報・目標の共有や集中が生じやすい仕組みでもあります。共通の目標を実現するための様々な規制が存在する下で、社会的に望ましい資金配分を実現しやすいシステムであると言えます。他方、金融サービスや金融市場に関する規制の撤廃やグローバリゼーションについても、利害関係者の合意形成が必要となるために漸進主義が採用されやすいということになります。

 これに対してアメリカのように市場を中心とする直接金融システムでは、リスクは市場参加者の間で広く負担されており、情報も市場参加者の間で共有されることになります注3。この結果、資産価格の崩壊があった場合に、そのリスクは広く市場参加者の間で分担されることになります。個人の金融資産保有においても、日本の場合には預貯金を中心に運用がなされていますが、アメリカでは株式・投資信託など市場性金融商品による運用が中心になっています。さらに金融仲介過程においても、日本と異なり預金取扱機関以外のミューチュアル・ファンド、ファイナンス・カンパニー、モーゲージ関連機関などが大きな役割を果たしています。

オーバー・バンキングか?

 従来型の企業金融を中心にした日本の銀行業について、過剰供給状態にあると言われることがあります。例えば、銀行貸出と名目GDP比率は、バブル期に大きく上昇しましたが、現在はバブル発生直前の80%程度まで低下してきました。しかし、アメリカの40%程度と比べて依然としてその比率が高く、銀行業はオーバー・バンキングにあると論じられることがあります注4

 日本の場合、伝統的な企業向け貸出市場において過剰供給能力が存在し、収益が圧迫されているとしても、金融サービス業全般に過剰供給能力が存在しているわけではありません。アメリカ金融サービス業が生み出す付加価値が経済全体の付加価値に占める割合は、日本をやや上回っています(図表3参照)。しかし、アメリカでオーバー・バンキングの状態にあるとは見られていません。イギリスで活動する金融サービス業が生み出す付加価値の割合は、日本の倍になっており、特に投資銀行業務において強い競争力を維持しています。

 日本の大手行は、伝統的な産業金融中心(コーポレート・ファイナンス)のサービスを提供する主体から総合的な金融サービスを提供する主体に生まれ変わりつつあります。さらに貸出市場に関しても、地域銀行については、個別性が強く、地域の特性・競争構造や貸出先に応じた戦略(ファンド化、合併による過度な競争状態の緩和、個人金融への特化など)を展開することや規模の経済性を追求する余地が残されています。地域の銀行産業構造の成り立ちを考察することなく、日本の銀行業全体について、単純にオーバー・バンキングであると決め付けることは誤りであるといえます。

市場型間接金融システムの構築

 従来型の企業向け貸出(コーポレート・ファイナンス)は、企業の事業全体の収益からの返済を原則としています。短期の貸出であったとしても、事実上転がしによって長期貸出になっている場合が多く、とりわけ、主力行の貸出は、単に資金供給のみならず、経営や企業統治に関する情報を伴っており、融資先企業の株式保有に類似したリスク・マネー供給の役割も担っていました(高田創・柴崎健<2003年>参照)。また、一つの企業に対する融資先の数が多く、不動産を担保にするという慣行も不動産価格急落による企業や銀行部門のバランスシート調整を困難にしました。

 現在は、貸出市場にも大きな構造変化が生じています。例えば、協調融資(シンジケートローン)は、大企業から、中堅中小企業まで浸透しており、2003年に市場規模は13.6兆円に達しており、将来は100兆円規模まで拡大するとの予測もあります。協調融資は、借り手にとっては、大口資金を機動的に調達することが可能になり、金融機関にとっては、貸出のリスクを分散し、貸出ポートフォリオの機動的な運用ができるというメリットがあります。しかも、売買市場の発展によりリスクに見合った価格付けが行われることによって、貸出市場の金利が適正化する効果も期待できます。さらに、融資に見直し条件(財務制限条件)をつける協調融資も定着してきています。

 事業別に将来の収益とリスクを捉え、事業の権益と資産を担保とするプロジェクト・ファイナンスの手法も活用されつつあります。例えば、PFI事業においては、プロジェクト・ファイナンスの手法が採用されており、事業遂行に伴う様々なリスクを最小費用でリスクを負担できる者に分担してもらうリスク・マネジメントが行われています。

 さらに、不良債権処理と事業再生ビジネスの進展は改革の大きな成果です。企業による事業の「選択と集中」、銀行による「債務の選別」に加え、民事再生法をはじめ、企業再建法制や倒産法制の整備、さらに会社更生法の改正など法律面での整備もあり、企業再建や事業再生のための環境づくりが不良債権の削減に大きな役割を演じたといえます。銀行が、変化の激しい中小企業について情報生産能力を高め、リスクの分布をより的確に把握するようになれば、収益性を高めることが可能です。

 このほか、企業と大学が共同で新産業創出に取り組む「産業クラスター計画」へ参画する企業への融資制度の発足、地元企業の再生のための「地域再生ファンド」の構築、取引先企業への人材派遣による不良債権の新規発生抑制などさまざまな試みが実行に移されています。

証券化と金融サービス業の展開

 日本の資産証券化商品(資産担保コマーシャル・ペーパー<ABCP>と中小企業向け債権を対象とする債務担保証券<CDO>のアンファンデット部分を除く)の新規発行額は、1997年に1兆円に満たなかったのですが、2002年には4.9兆円へと急速に増加しています。証券化は、市場型間接金融システムを構築し、直接金融による金融仲介の径路を拡大する上での鍵であるといえます。大手行は、金融技術を駆使して中小企業向け債権を債務担保証券(CDO、銀行の貸付債権を裏付けとする場合はCLO)の形で証券化しています。地域金融機関は、この証券化された債権を資産運用として活用できます。さらに企業の貸し倒れリスクを取引の対象とする合成債務担保証券も販売されるようになっています。

 また、資産担保コマーシャル・ペーパー(ABCP)の発行残高も6兆円を越えました。銀行は、中堅・中小企業の企業債権をまとめて証券化し、企業の信用リスクを投資家に転嫁することが可能になっています。他方、中堅・中小企業は、資金調達手段の多様化と資金調達費用を抑制することが出来ます。

 アメリカでは、住宅債権を裏付けとする住宅ローンの証券化市場は、国債市場に匹敵する大きさになっています。日本においては、1997年以降住宅ローン担保証券が発行されるようになりましたが、その残高は住宅ローン残高の1%未満に止まっています。

 住宅ローン担保証券の発行は、住宅ローンに内在するオプション・リスクを資本市場の機能によって管理する試みであるといえます。住宅金融公庫や民間金融機関の提供する住宅ローンについて、借り手は期限前償還を行うことが出来ます。この期限前償還は、借り手がいつでも住宅ローンを買い戻す権利があることを意味しているので「コール・オプション付きのローン」であるといえます。そのオプション料金は、金利水準によって変動しますが、私の推計では、住宅金融公庫のローンの場合、0−1%程度あります。1990年代後半以降の金利低下局面では、より低い金利のローンへの借り換え(コール・オプションの発動)が行われ、住宅金融公庫の赤字が拡大しました。住宅ローンの証券化は、この住宅ローンに内在するオプション・リスクを資本市場の参加者に広く負担してもらうことを意味しています注5

 さらに不動産関連投資についても不動産信託(REIT、リート)のみでなく、私募型不動産投資ファンドは1兆円の市場規模に達していると言われています。これらの商品は、不動産市場に対し新たなリスク・マネーを供給するものであり、対象物件の適正な審査を通じて収益に見合った地価形成にも資するものです。しかし、健全な市場育成のためには、投資家を保護するための一般的なルールつくりが重要です。

 日本銀行もこれまで証券化市場フォーラムを数回にわたって開催し、何が証券化の障害になっているのか、市場を発展させるためにはどのような措置をとることが望ましいのか議論を深めてきました。日本銀行は、中堅・中小企業の保有する売掛債権などを担保とする資産担保コマーシャル・ペーパーや資産担保証券を昨年夏以来約3,500億円買入れてきており、民間の信用リスクを負担することによって証券化市場の発展に努めています。

新たな日本の金融システムの将来像

 1990年代後半以降、日本は、金融システムの大きな改革に乗り出していますが、まだ終着点は明瞭となっていません。現在も継続中の「日本版ビッグバン」と「公的金融の改革」は、制度疲労している戦後日本の金融システムを活性化する試みといえます。金融における日本の課題は、金融資本市場がもつさまざまな機能を最大限に活用出来る金融システムの再構築にあるといっても過言ではありません。金融資本市場には、情報を発見して集計し、試行錯誤を通じて選択する機能があります。他方、資金の貸し手を代表するモニターとしての金融仲介機関には、情報収集する上での費用を節約する機能や様々なリスクを分解し、市場関係者にリスクを分担させる機能があります。情報の収集と加工、リスク・マネジメントについて、市場と金融仲介機関には相互補完的な関係があります。この両者の「新たな結合」を発見し、日本型金融システムを再構築することに総力を注ぐべき時であると考えます。

以上


脚注

  1. 注1 経済地理の観点からの東アジアの経済発展、また90年代の日本の停滞期における地域経済における産業集積の動向については香川大学での講演(岩田一政、2004年)等を参照して下さい。
  2. 注2 ここで述べたデフレ脱却のための方法と代替的な3つの方策については、参考文献[2](岩田一政、2003年)を参照してください。なお、正常な状態の下では、M2+CDはマネタリー・ベースの伸びと一定の関係をもち、名目成長率に見合った伸びになると考えられますが、ゼロ金利制約の下でデフレ期待の進展が見られる場合やバランスシート調整過程では乖離が生じ得ます。
  3. 注3 ただし、90年代にアメリカの企業の資金調達は、社債が主流であり、株式消却や合併・買収を活発化させたため株式による資金調達はマイナスでした。
  4. 注4 オーバー・バンキングは、以下の2つの意味で用いられることがあります。
    1. (1)特定の市場内部で過剰供給能力が存在する場合
    2. (2)小規模の金融機関が多数存在する場合
    しかし、後者は、効率性の低さが問題であり、過剰供給の能力ではありません。合併・買収による銀行再編は、経営基盤が弱く地域内競争が激しい場合について有効であり、新たな公的資金の枠組みを有効に活用すべきであると考えられます。
  5. 注5 詳しくは、岩田一政・服部哲也(1998年)を参照して下さい。なお、住宅ローンは、債務者が破産した場合、住宅資産を売却する権利(プット・オプション)もついているので、リスク構成は見かけよりも複雑です。2004年度から発足が予定されている住宅金融公庫が公的保証をつける民間銀行発行の住宅ローン担保証券については、要件を満たせば、日本銀行の金融調節上の適格担保となる見通しです。

参考文献

  1. [1] 岩田一政 「日本再生と地域活性化」香川大学大学院地域マネジメント研究科開設講演 2004年1月30日
  2. [2] 岩田一政「最近の金融経済情勢について」金融情報システムセンター(FISC)における基調講演要旨 2003年12月9日
  3. [3] 岩田一政「金融システム改革と資本市場の将来」日米金融システム研究会「日米金融システムの比較—現状から将来像」、トラスト60.2000年10月
  4. [4] 岩田一政・服部哲也「期限前償還とコール・オプション・リスク」住宅土地経済、1999年春季号
  5. [5] 高田創・柴崎健「金融不況脱出」日本経済新聞社、2003年