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秋田県金融経済懇談会における中原審議委員挨拶要旨

2004年 5月12日
日本銀行

目次

1.はじめに

 本日は、秋田県経済を代表する皆様の前で講演する機会を得まして大変光栄でございます。日本銀行秋田支店は、東北地方で二番目に古い支店として大正6年に開設されました。約90年の長い歴史は、地元の皆様の深い理解無くしてはあり得ません。本日ご臨席頂きましたことと併せ、厚く御礼申し上げます。

 当地には数度足を運んだことがありますが、冬の厳しさや融雪の豊かな水の故なのでしょうか、緑の映える都との印象を持っています。当地は米所として知られていますが、本来、熱帯が原産と言われる稲の栽培を北緯40度の秋田に定着させるには、先人の長い辛苦に満ちた努力があったものと思われます。この植物を慈しむ心が美しい緑を生み出しているのかもしれません。特に、この時期に千秋公園を散策すると、今更ながら新緑の美しさ、新しい芽の力強さに感嘆致します。

 本日は、日本経済でも、新緑、新しい芽がでてきているということを、先月末に日本銀行が発表しました「経済・物価情勢の展望(2004年4月)」に基付いてお話しすることから始めたいと思います。この「経済・物価情勢の展望(2004年4月)」は、本年度の経済と物価の見通しについて政策委員9人の意見を最大公約数的にまとめたものですが、ここでは私なりの一審議委員の見方としてお話を致したいと思います。

2.日本経済の現状と見通し

(1)経済の現状

 日本経済の現状を、「経済・物価情勢の展望(2004年4月)」では、「輸出を起点に生産・企業収益が拡大、これが設備投資の増加につながって景気は回復を続けている、その好影響は雇用所得面や資産価格の変化を通じて家計部門に徐々に波及し前向きの動きが強まっていくと考えられる」と表現しています。

 まず、一年ほど前からの流れを簡単に振り返ってみましょう。イラク情勢やSARSの影響から一時的に停滞していた世界経済は、米国経済および中国を中心とするアジア経済が昨年第3四半期以降急回復したことから、再び高い成長を取り戻しました。IMFの2003年(暦年)の世界経済全体の見通しをみても、昨年9月時点では前年比3.2%でしたが、実績は3.9%の成長となりました。政治的・地政学的リスクはなお大きいものの、IMFによる2004年の世界経済成長見通しは4.6%と実体経済の先行きについては、明るさが増して来ています。

 このような世界経済の動きが、我が国経済の外需主導による回復を明確にしました。輸出の増加が生産・出荷の増加を導いたのです。2003年度後半の実質輸出は前年を1割以上上回る伸びになりましたし、2003年度鉱工業生産は前年度比3%を超える伸びとなりそうです。4月初発表の日銀短観における製造業の業況感のレベルは、バブル崩壊後2回の景気回復局面におけるピークの水準に匹敵しています。繁忙度の高い素材の代表である鉄鋼メーカーの経営者の方からは、「玉が足りない。ユーザーからの注文量をある程度カットせざるを得ない状況。今まで最優先に供給してきた自動車メーカーにすら納入が遅延している」とお聞きしました。

 輸出・生産の動きやリストラ効果によって、製造業を中心とした企業収益は絶好調です。法人企業統計季報でみた経常利益は、全規模・全産業が昨年10-12月期で前年比+16.9%となっています。2003年度を通した経常利益も、大手証券会社による上場企業対象の調査では20%前後の増益見通しが出ていますし、4月短観では全産業ベースで2桁近い経常利益の増益を見込んでいます。キャッシュフローも潤沢です。企業の持つネットの債務、即ち、金融債務から金融資産を控除した値をキャッシュフローによって何年で返済できるかという計算をしてみました。この値は、93年頃にピークで7年程度となっていましたが、現在は3年強と、ほぼバブル期の水準にまで下がってきています。今回は二極化が進行する中での景気回復と言われており、中小企業の多いある経済団体のトップの方は、現在の状態を「真冬の朝6時」と表現されたそうですが、なお厳しさは残る中で、景気回復の裾野は次第に中小企業にまで広がり始めています。先程の法人企業統計季報でみると、もっとも回復が遅れていると思われる非製造業・中小企業でも、2003年10-12月期経常利益の前年比は+48.7%となっています。また、商工中金や中小企業金融公庫の調査によっても、中小企業の景況感は大きく改善してきています。

 好調な収益や潤沢なキャッシュフローを背景として、設備投資もIT関連を中心に回復しつつあります。資本財出荷は、足許で前年比2桁の伸びを示していますし、非居住用の建築着工も増加しています。ただし、後程も述べますが、先行きについては、法人企業動向調査等をみますと、非製造業を中心に慎重なスタンスがみられるのがやや懸念として残ります。

 個人消費も、本年初からやや強めの動きとなっています。雇用・所得環境が徐々に持ち直しの気配を示していることに加え、消費者マインドも改善しています。月次消費動向調査でみた消費者心理は、3月調査で2000年のピークにほぼ匹敵する水準になりました。リストラ不安の後退や、一頃と比べれば、水準を切り上げた株価も影響している可能性もありましょう。個人消費の構造的な変化を指摘される方もいます。大手広告代理店の経営者の方からは「足許の個人消費の特徴は、デジタル家電で代表される比較的高価格の財が支えており、その担い手が男性である点である。今までは女性中心のサービスの消費と言われてきた。成熟した消費者は『欲しいものがない』として消費を選択的消費にまわしてきたが、ここへ来て『欲しいものがある』としてデジタル機器などの耐久財消費を増やしてきているのだ」とお聞きしました。また、都内百貨店の経営者の方も「今回の消費の回復は本物だ。余程財布の紐が緩まないと出てこない紳士服や高級雑貨が売れ始め、売れ筋の価格帯も上方にシフトしている」と指摘されています。新三種の神器は、実際に手に入れるのが2〜3ケ月先となる商品もあり、国内電機メーカー各社ともフル操業を続けています。これはまた、関連する他産業にも好影響を及ぼしています。例えば、DVDを生産している石油化学メーカーによれば、「昨年4億枚であった全世界の消費量は、本年には10億枚になるものと見込まれ、石化メーカーの大きな収益源になりつつある」そうです。

(2)外需・内需の見通し

 以上のように、足許、景気は確実に回復してきています。では、先行きはどのようにみたらよいでしょうか。外需と内需に分けてみますと、前者は米国経済および中国を中心としたアジア経済がどうなるか、後者は設備投資の伸びがどこまで続くのか、そして個人消費が本格的な回復に乗るのかという点が問題になります。

 米国経済は、本年1〜3月期の実質経済成長率が、前期比年率で+4.2%となりました。減税や低金利によって個人消費や住宅投資が下支えされる一方、ドル安と海外需要の増加も加わって、生産が拡大、また雇用を抑えてきたことにより、労働生産性が上昇、企業収益も拡大しています。低い在庫率の中での好調な企業利益水準が設備投資を増加させ、遅れていた雇用の回復も始まったものと見られます。また、企業はコスト削減のために、IT関連や情報化投資に積極的であり、それらの更新投資サイクルは比較的短いことから今後もある程度の持続性が見込まれます。景気回復のリード役として個人消費に設備投資が加わり、全体としてバランスのとれた力強い回復が見られる一方で、国際的な素材価格や商品価格の上昇の最終財への波及が少しずつ進み始めております。先日のグリーンスパン議長の議会証言や5月4日のFOMC声明にも読み取れる通り、FEDの政策運営はこれまでデフレ警戒的なトーンから中立的なスタンスに変わっており、市場の関心はFFレートの引上げ時期に向かっています。これを受けて株式市場もやや不安定な動きを見せています。懸念材料としては、税金の還付が終了する第2四半期以降、伸びを低めるものと見込まれる個人消費の動向です。ガソリン価格は史上最高値をつけており、電気料金などエネルギー価格の上昇が家計負担を高め、消費に水を差す懸念も出て来ました。住宅投資についても、これ以上の低金利が期待できない中で、住宅価格の上昇も徐々に鈍化するものとみられます。そして、これが消費にマイナス方向に効き始めるかもしれません。もともと米国の家計については債務負担の大きさが問題でした。2003年の貯蓄率は2.1%と歴史的に低い水準となっています。このところ個人破産が増えており、米国消費のコアを支えている中流層の家計が痛んでいることは注目に値します。雇用情勢も、一頃に比べると回復が鮮明になりつつありますが、まだ手放しで楽観は出来ません。福利厚生費を含めれば一人当り人件費が増加しており、企業は積極的な新規雇用には慎重です。また「産業構造的に非貿易財にまでアウトソーシングが進んでいる」という話しも聞かれます。

 中国を中心とするアジア経済についても、輸出に加え、内需も拡大し、域内貿易が増加していることから、当面、堅調な推移を続けるものとみています。かつては、外資と公共投資が牽引してきた中国経済も、その裾野が拡がってきています。ポイントは、アジア諸国が中国経済への依存度を強めている中で、その中国が経済過熱の懸念から、引き締めのスタンスに政策を変更しつつあることです。東アジアの域内貿易比率は50.7%に達しており、EUには及ばないものの、既にNAFTAを上回っています1。中国の急速な経済成長は、ASEAN諸国からの原材料や部品の輸入を増加させています。一方、中国国内では、国内貸出や投資の急増、都市部の富裕層増大による住宅・医療・教育関連価格の上昇や、一部資産価格の高騰もみられています。こうした状況に鑑みて、何らかの政策が先んじて講じられる可能性もあるとみておいた方がよいのかもしれません。

 次に、日本の内需に目を転じます。設備投資について、どの程度息の長いものになるか、そして、非製造業や中小企業にどの程度裾野が拡がってくるかがポイントになります。プラスの材料として考えられるのは、企業収益がリストラに支えられ、その足腰が強くなっていること、そしてそれを可能にしている損益分岐点比率の低下です。また、企業の設備投資のコストが相対的に低下していることも支援材料でしょう。企業物価指数は、2003年度総平均で95.0でしたが、資本財指数は88.0です。もちろん、低金利と日銀の緩和継続に関するコミットが投資を行い易い状況を維持していることも、現在のように前向きの動きが出て来たなかでは重要なことです。設備投資や生産技術に係わる企業の経営戦略の変化もみられるようです。デジタル家電向け製品の投資については、「いずれ供給過剰になるのではないか」という懸念も聞かれますが、一方で、「現在計画されている本邦メーカーの設備投資は、製品や部品のコア技術に係わる部門について行われている。米国IT関連企業のように、付加価値の低いマスプロの工程は現地資本の企業に作らせるが、本邦メーカーが手がけるコア技術は将来も決して外には出さないという戦略を基本に据えている」と、戦略の変化を指摘する見方もあります。マイナス材料としては、外需の予想外の落ち込みが設備投資の腰を折るリスクのほか、現在みられる原材料費の高騰があげられます。昨年中、国際商品価格を表わす日経商品指数やCRB指数は1割以上上昇しました。一部の業種では、この高騰を全て最終財に転嫁できているわけではなく、交易条件の悪化をみています。また、このところ、損益分岐点比率の低下は、主に売上高の増加によってもたらされており、減価償却費や人件費等の固定費削減の寄与が小さくなっています。これらの動きは企業収益の増益基調に水を差し、設備投資へマイナスの影響を与える可能性があります。このほか、設備のヴィンテージが高いことから「投資は更新投資が中心であって持続的な投資につながるかどうか」を疑問視する見方もあります。また、固定費中に占める減価償却負担の割合の増加傾向や根強く残る設備過剰感も指摘できるでしょう。また、全産業・進捗ベースによって新規設備投資額/民間資本ストック比率を長期的にみると、一貫して低下傾向を辿ってきています。これは、潜在成長率の低下によって資本ストックの過剰感が残っているとも考えられます。事実、短観でみても設備過剰感は改善しつつもなお残存しており、また法人企業動向調査やその他調査でみても、企業の設備投資計画は非製造業を中心にかなり慎重な態度がみられます。

 個人消費については、本年初来強めの動きを示していますが、消費が本格的に回復するのかどうかの確認にはもう少し時間をかけて、雇用・所得環境の改善が続くのかどうか、株価や地価など資産価格の変化がどのような影響を与えるかというような点も含め、消費関連の指標をみていきたいと思います。このところいくつかの明るい材料もみられます。例えば、ここに来てようやく名目所得の増加が予想されることです。毎月勤労統計における賃金総額のうち、特別給与は約2割の比率を占めています。大方の企業は、給与水準を実績連動で決めていますので、今年の夏のボーナスに好調な企業収益が反映されることは間違いありません。また、最近、デジタル家電等の比較的高額な耐久消費財の販売が好調なことは先ほども申し上げましたが、これらの財の価格は下落幅が大きく、実質購買力が向上していると推測されます。先程の大手広告代理店の経営者の方は、「今までの経験からいうと男性・財中心の消費は、マインドによる振れが少ない」うえ、「2011年のアナログ放送全廃までに、1億台近いTVの買替需要が起きることになることを考えれば、個人消費は息の長い拡大が続くのではないか」とみておられました。

 家計部門のネットワース(純資産)が回復する傾向がみられることもプラスの材料です。今まで消費が全般的な盛り上がりに欠けたのは、雇用・所得環境に加えて家計部門の資産・負債構成(バランスシート)が傷んでいたこともあると思います。総務省が5年に一度実施する「全国消費実態調査」に若干の推計を加えて、傷みの実態を確認してみました。この結果、負債残高に対する金融資産、土地・建物等ストック資産の比率は、ここにきて下落テンポが緩やかになってきているのが見られます。平成元年と現在を比較すると、所得は徐々に上昇し、家計部門のキャッシュフローは増加しています。また、有価証券の価格が一頃と比較すれば上昇し、都市部では不動産の価格も下げ止まってきています。このため、バランスシートが少しずつ修復されてきており、消費許容能力が向上しつつあるとみられます。以上申し上げたプラス材料の反面、気になるいくつかの要因もあります。雇用関連の指標は改善しているとはいえ、高めの失業率や短観でみた「雇用の過剰感」が引続き残っています。この背景には、優秀で若い人材は欲しいが、スキルの持った人員が集まらない、現有の人員には過剰感があるという雇用のミスマッチがあるように思います。また、今年度から来年度にかけての社会保障費関係の家計負担の増加や、年金や消費税の議論が消費者の不安心理を高め、消費を手控えさせるリスクも懸念されるところです。

 総じていえば、我が国経済については、短期的にはプラスの材料が優越するとみられるものの、根強い調整圧力もなお残っているとでも申せましょうか。2004年度は2003年度の後半における比較的高い伸びからくる、いわゆる成長のゲタが高いこともあり、上述したような足許のプラスの材料によって3%を超える比較的高い成長を維持できるのではないかとみていますが、問題は、2005年入り後、これまで申し上げたマイナス材料がどの程度影響してくるか、場合によっては2004年度末にかけて景気がピークアウトし、成長に若干の減速感が出てくる可能性は否定できないと思っています。

  1. 高安建一「対アジア経済外交政策の再構築を急げ」『Japan Research Review』(日本総合研究所) 2003.12

(3)物価の見通し

 こうした景気の現状や見通しの中、2004年度については、4月の「経済・物価情勢の展望」の中でお示したように、国内企業物価は水面上に浮上する一方で、消費者物価はその幅を縮小しつつも、なお小幅のマイナスになると予想しています。国内企業物価については、世界的な景気回復、中でも、中国での活発な投資や素材産業を中心とした生産の急拡大から原油、鉄鋼原料、化学品など原材料・素材の価格や船舶運賃が高騰しており、その影響が、国内での需給の改善にも助けられ、徐々に中間財に波及してきています。国内企業物価は、素材・中間財を中心として足元でプラスに転じており今後も緩やかな上昇基調が続く可能性が高いものと見られます。

 ただ、この国内企業物価全体の上昇は、必ずしも国内企業物価における最終財の上昇を意味するものではありませんし、さらにこれらの動きが消費者物価を単純に引き上げるかというと疑問です。

 消費者物価については、2002年度に前年度比で▲0.8%であったものが3%程度の実質GDPの成長によって2003年度には同▲0.2%と0.6%程度マイナス幅を縮小しました。ただ、医療費やたばこ税の引上げといった特殊要因もありますので、これを除けば、0.3〜0.4%縮小したとみるのが適当と思います。「経済・物価情勢の展望」でお示したように、2004年度についても、実質GDPの伸びを3%前後とみるのならば、それ相応のマイナス幅の縮小が見込まれます。しかし、国内企業物価のように水面上にまで浮上するかというと、いくつかの障害があります。一つは需給ギャップが依然として残っていることです。短観の「製商品・サービス需給判断」をみると、製造業・大企業こそ90年代の景気回復のピークを超えましたが、消費者に近い非製造業では需給は未だ緩んだ状況にあると判断されています。二番目は、素材・中間財業種より最終財業種が、そして企業より消費者が価格支配力を依然として持っていることです。例えば、鋼材価格について、鉄鋼メーカーでは「コスト上昇分全てを転嫁できているわけではない。いわゆる紐付きといわれる大口ユーザー向けの価格は、上昇する原料費をどの程度転嫁できるか、これからが正念場である」と厳しくみています。また「原材料を効果的に使用する工夫や付加価値を高めながらモデルチェンジを行ない、これにあわせて小幅な実質的な値上げをすることが精一杯ではないか」との意見も多く聞かれるところです。そして、転嫁できない場合の経済全体からの負のフィードバック効果もあり得ます。即ち、転嫁しきれない分は、力の弱い企業がかぶることになりますが、これはその企業にとってサプライショックに等しいものです。これらの企業は、当然ながら、コスト削減のため新規投資を差し控え、賃金カットを図るでしょうから、経済全体の前向きの循環にブレーキをかけ、物価の下押し圧力として働くことになります。先月発表された日銀による生活意識アンケート調査において、1年後の物価について質問したところ、上昇するとの回答は30.2%、前回より3.5%ポイント増加しており、平均の上昇率予想は1.2%でした。もちろん、今回の結果だけでは判断出来ませんが、デフレ期待が後退しつつあるとみることもできましょう。しかし、2005年度にデフレの克服ができるかどうかという点は、今後の国内企業物価からの波及の程度、最終需要の強さの程度、そして、それによって需給ギャップがどの程度縮まるかという点に依っています。足許の年率3%程度の成長が2005年度を通じて続くとすれば、いずれ消費者物価はプラスの領域に入ると思いますが、現在多くの景気上振れ、下振れの要因が存在しており、見極めにはもう少し時間を要すると思います。

(4)金融資本市場面からみた留意点

 金融市場の面からみた留意点は何でしょうか。株式市場については、昨年度初から、日本の景気回復を先取りするかたちで徐々に水準を切り上げてきました。金融システム不安の後退がもっとも大きな要因ですが、日本株をアンダーウェイトにしてきた外人投資家の投資が相場上昇の原動力となっています。そして、足許では、売買高に示されているように、代行返上や持ち合い解消売りの圧力が減少する一方で、個人の買い姿勢も強まって来ていました。昨年の安定からすでに約60%近い上昇を示した後だけに、このところやや不安定な動きとなっています。一昨日、米国の金利上昇懸念をきっかけにかなりの調整がありましたが、今のところファンダメンタルズに大きな変化はないとみています。長期金利については、昨年夏急上昇したあと、ボラティリティはしだいに低下し、引続き金融機関の需要が強いことから、イールドカーブが全般的に低下しました。その後、実体経済の回復も折り込みつつ、10年国債の利回りは1.5%前後の動きをみせていますが、今後、米国長期金利の動きの影響には注視しています。景気回復基調が明確になるに従って、金利に上昇圧力がかかるのは自然でありますが、量的緩和政策継続に係わる日銀の強いコミットメントや、基本的に金融機関の貸出が低調であることを考えれば、ファンダメンタルズを超えるオーバーシュートが長期に亘って続くのも想定し難いところです。為替については、昨年後半から、米国の双子の赤字の問題や外人投資家の本邦株式への資金流入の動きを受けて、1ドル100円近辺にまで円高が進みましたが、米国経済の成長加速や米国金利上昇の思惑のもと、このところ、ドル高にふれてきました。今後は、内外経済の回復テンポの違い、FEDやECBの金融政策スタンス、企業の輸出カバーの動向などが相場を動かしていくものと思います。

 こうした状況下、金融資本市場の動きにおいて注意すべき点は、内外市場の連関性が強まる中で、実体経済と整合的でない市場の動きが強まることではないでしょうか。しかし、米国の財政金融政策の変化や政治情勢、中東問題やテロなどのイベントリスクの発生が投資家の投資姿勢を急速に変え、国際的な資金の流れが大きく変化し、相互依存性の高まった各国の金融資本市場のボラティリティを高めるリスクがあることは、過去のケースが物語るとおりです。内外市場の連関性、いわゆる市場の動きのカップリングの傾向は高まっているという認識の下で、金融資本市場の動きをみていく必要があるとともに、各国政策当局による連携が求められるところです。

 なお、最後に、大手行を中心に不良債権処理は進んでおり、金融システム不安は全体として大きく後退しています。しかしながら、来年のペイオフ完全解禁を控え、金融システム不安が再燃し実体経済や地域経済に影響を与えるリスクはなお完全に排除はできないと考えています。今後も引続き注意してみていく所存です。

3.量的緩和政策と今後の政策運営

(1)量的緩和政策の評価

 日本銀行が、量的緩和政策という中央銀行でも前例の無い政策に踏み切ってから既に3年が経過しました。当初、5兆円であった当座預金の目標額は30〜35兆円となり、極めて潤沢な流動性の供給が続けられてきました。また量的緩和をCPI前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで続けるというコミットメントにより、短期金利だけではなく、比較的長めの金利も安定的に低く推移してきました。足許の景気回復動向をみると、これらの施策を通じて、量的緩和政策は市場に現在及び将来の流動性と金利の低位安定についての安心感をもたらし、実体経済を底支え、デフレのさらなる深化を食い止めてきたと言えると思います。

 当初、量的緩和の狙った効果として、このほかにインフレ期待を醸成し、銀行を通じたポートフォリオリバランス効果によってマネーサプライを増加させ、実体経済へ働きかけを強めることも期待されていました。量的緩和による当座預金の積み上がりに加え、この間の銀行の健全性に関する疑念の高まりから銀行券の保有需要が大幅に増加し、ベースマネーは大幅な増加を続けてきました。しかし預金通貨を含むいわゆるマネーサプライの目立った増加は確認されていません。この背景の一つとして、景気低迷とバランスシート調整が続く中、企業の資金需要が無かったこと、および不良債権処理が緊急の課題であり資本的な制約から銀行のリスクテーク能力に限界があったことが指摘できます。量的緩和はマネーサプライを増加させる条件の一つではあったのですが、構造問題が残る中で、それだけでは十分ではなかったということです。

 量的緩和の場合、ゼロ金利の下で量の目標の大きさと緩和効果を計量的に検証することは極めて難しく、また金利のゼロ制約を超える緩和政策として期待に働きかけるという効果が不確実な部分があることも否定できません。しかし、前向きな経済活動へのモーメンタムが出て来る、銀行のリスクテーク能力が回復する、家計の将来不安も払拭され消費拡大の希求が強まる、そのような場合にこそ、量的緩和の実体経済面へのプラス効果がより強く顕現化してくる可能性があると考えています。このところ、個人、企業、金融機関などのマインドにも前向きの変化が現れてきました。

 先程ご紹介した4月の「生活意識に関するアンケート調査」の中の「金利水準についての見方」の設問において、「企業の活動が活発になり、景気がよくなることを期待している」との回答が大幅に増え、「現在の金利水準でも景気がよくなることは期待できない」との回答は減少しています。つまり、今の金融緩和が経済にプラスの影響を与えつつあるのを生活者が認識しているといえます。また、4月に発表された内閣府の「平成15年度企業行動に関するアンケート調査」においても、企業の予想成長率は昨年度の調査と比較して上振れています。さらに、金融機関も変化してきています。銀行は不良債権処理に目途がつきはじめ、これまでの資産と経費を圧縮するという守りの姿勢から前向きの営業姿勢に変わってきています。最近の調査でも、残高こそ増えないものの、銀行の貸出行動が積極的になってきているのが伺えます。また、金利上昇の予想の下で預金吸収意欲も高まってきているようです。

(2)今後の金融政策の運営

 実体経済は着実に回復して来ていますが、デフレ克服の時期がいまだ明確には展望できない現状、現在の量的緩和政策を忍耐強く維持することが何よりも重要と思います。「消費者物価(除く生鮮食品)前年比上昇率がゼロ%以上で安定的に推移するまで当座預金を操作目標とする金融政策を続ける」ということです。何としてもデフレから脱却し内需による自律的な成長軌道に確実に復帰するためには、この政策の軸を振らさないことが必須と認識しています。

 仮に、このコミットメントが達成されたとしても、すぐにコール市場におけるオーバーナイト金利を操作目標とする政策に移行できるわけではありません。私は、いくつか留意しなければならない点があるのではないかと思います。まず、第一に、コミットメントの内容については昨年10月にあらためて明確なものにしましたが、その条件の達成を確認する検証作業です。二点目は、30兆円を超える当座預金残高を所要準備額にまでどのようにして戻すのかという点です。三点目は、場合によっては生じかねない中長期金利の急騰や不安定化のリスクに対しどのように対応すべきかという点です。

 量的緩和政策からの政策転換を展望する段階では、このような点に関連して、様々な観点からの検証や確認、事前の枠組みの整備が必要であろうと思います。上で述べた、第一の点については、国内企業物価や資産価格の動向、何が消費者物価の上昇へ寄与しているのかという点について、より立ち入った検証が必要でしょう。二番目の点については、対市場オペの技術的問題に加え、来年4月のペイオフ解禁が混乱なく行われ、金融システムの安定が達成されているとの判断も必要でしょう。金融機関がこれまでのように順調に不良債権処理を進め、信用コストの縮小に努めれば、金融市場取引におけるリスクプレミアムは低下します。結果として、金融市場が「欲しいときに適正な金利を払えば資金を調達できる」という本来の機能を取り戻せることになります。三番目の点、長短金利の不安定化の防止については、銀行経営や実体経済にネガティブな影響を与えないためにも極めて重要なポイントです。また、量的緩和政策の終了にあたっては、長国買入についても考え方を整理しなければなりません。これらが長期金利に与える影響についても慎重に判断するとともに、政府の国債管理政策面との関係も考慮されるべきかもしれません。量的緩和の政策レジムの変更時における市場の不安定化を抑え、市場の期待を安定化させていくためには、中央銀行が望ましいと考える物価上昇率を事前に示していくことが一つの解決策になるものと思います。原材料価格や一部資産価格の上昇を通じてインフレ期待が高まり、量的緩和政策が解除されるという思惑によって一時的に金利が上昇しても、金融政策の分かり易い目標、中央銀行が望ましいとみているインフレ上昇率を示すことによって、期待を安定させ、過度の短期的な振れを抑えることができると思われるからです。具体的な数字については、諸外国の例や消費者物価そのものが持つバイアスを考えると、最終的には1〜2%というのが適切な水準であると思いますが、目標性が強まるあまり金融政策の機動性や自由度を失うことは望ましくありません。量的緩和からの出口における不安定な動きを抑えるためには、望ましいインフレ率を具体的に示すとともに、実質的なゼロ金利の状態を経ることが現実的かもしれません。このように市場の期待を安定化することを目指しながら、漸進的なアプローチが選択されるべきだと思います。

 ここで、当然ながら、回復基調が維持されていたとしても、実体経済が予想しているデフレ脱却のシナリオと大きく異なる展開をみせた場合にどうするかという疑問が呈されるかもしれません。2005年度のデフレ脱却の可能性はまだ不透明です。もし、景気が失速したり、デフレ脱却が困難である場合にどうするのか?当然ながら、金融政策としての残された選択肢は現行の量的緩和政策の枠組みの中で考えていくということであろうと思いますが、その場合には、三年にわたる官民の構造改革と徹底的な金融緩和が何故デフレを克服できないのか、改めて詳細な検証が求められるべきでしょう。構造問題や資産バブル崩壊の下でのデフレ圧力への対処策としては、伝統的な金融政策は必要な条件の一つにしか過ぎないことが銘記されるべきであると思います。

 90年代半ばから始まったデフレは、単なる需要不足や供給過剰のみによってもたらされたものではありません。新しいITを駆使した在庫・流通管理技術の進展、廉価良質な輸入品の増大、供給側の価格支配力の低下等、中長期的な日本経済の構造変化も密接に絡んだものでした。企業は、このような構造変化に対応しつつ経営効率化を進め、新しいビジネスモデルの構築に全力で取り組んで来たと言えるでしょう。そのような企業が自信を取り戻し、前向きの事業基盤の強化に取組み始めた今こそ、デフレからの脱却に政策の全てを傾けるべき時ではないかと思います。

 こうした中、私は、消費持ち直しの芽を内需の一つの柱として育て、2005年度中にデフレを脱却して内需による自律的成長プロセスに入ることを確実にするためには、金融政策とともに総合的な政策対応が必要ではないかと考えています。例えば、来年度にかけて、年金制度や税制の変更に伴う国民負担の増大につながる案が目白押しです。デフレ脱却が正念場に来ている今、このような家計負担の増大が現実のものになった場合、消費の腰を折る懸念はないのでしょうか。中長期的な観点から、持続可能な年金制度や財政のプライマリーバランス回復のための道筋、プロセスを明らかにし、国民の将来不安を取り除いて、長期的な政策の信認を確立することが必要と思います。百貨店やスーパーの経営者の方が異口同音に指摘されるのは、「年金や消費税に係る議論が混乱する中で将来不安が再び惹起され、消費が冷え込むのが最も怖い」というものです。将来国民にいくら負担させることになるのか、負担させないためにはどの程度公共サービスが低下するのか、こうした点をきちんと早期に示すことが何よりも大切です。これまで財政や年金に係る議論が混乱する中、「何が不安だか分からないので、とにかく貯蓄する」という家計の行動を生んできました。もちろん、日本の税金や社会保障負担の国民所得に対する比率は、諸外国と比較して相対的に低いものとなっており、今後この負担の増加は避けられないでしょう。将来の負担とそれに見合う公共サービスについての中長期的ビジョンを国民に対し明確に示していくことが必要と思います。

4.日本経済における変化の芽

 日本経済は、90年代後半から大きな構造変化に見舞われました。この構造変化がデフレを深刻化したともいえますが、一方でその構造変化から前向きの経済活動を生み出す芽もでてきています。

 企業のリストラが進み経営体質が強靭なものとなり外的ショックに強くなったこと、金融機関の不良資産処理が大きく進捗し金融システムが安定化し、新しい金融構造や金融のビジネスモデルが構築されつつあること等は構造変化への対応が進んだ結果として生まれた新しい芽と言えましょう。このような新しい芽は、国民や社会の意識なども含めいろいろな分野に見られると思いますが、私はここで最近見られる新しい二つの芽、やや脈絡はありませんが、これらについてお話したいと思います。一つはアジア経済圏の拡がりとFTA、二つ目は最近の地域社会・経済の活性化・再生の動きです。

(1)アジア経済圏の広がりとFTA

 昨年まで、空洞化議論の中で中国脅威論がよく聞かれました。中国は、安い労働力と豊富な資源、先進国の技術を用い、世界の工場として、デフレを輸出し、日本の地位を脅かすという認識です。これに応じて、「日本が世界の工場であったのは偶々の僥倖であった」、「少子高齢化の進む日本ではもはや経済成長は望めない」という悲観的な論調も目立ったところです。

 しかし、今回の景気回復局面において、そのような主張はかなりトーンダウンしてきました。中国を脅威というよりも有望な市場と捉える一方、アジア地域を一体的な市場として考え、域内分業体制を整えていく中で、中国を生産・販売・物流拠点として積極的に利用しようとする企業が増えてきています。そして、政府においても、こうした動きを後押しするため、アジア諸国との間でFTAが検討されています。一昨年のシンガポールを嚆矢としてメキシコとの間で締結、今後、他アジア諸国やASEANとの協定が検討されるものと思われます。

 ここまでお話すると、「FTA等のメリットは大企業・製造業のみに及ぶのではないか」という声も聞こえてきそうです。もちろん、アジア経済圏の拡がりはメリットばかりではありません。多くの方がご指摘されているように、日本が国際的に比較優位を持っていない部門や、仮にFTAによって低廉な労働力の輸入が認められると、非貿易財部門の雇用などにも痛みが出る可能性はあります。

 しかし、我が国の強みがどこにあり、消費ブームが起きている東アジアの中で何が売れているかを考えると少し様相が違ってきます。アジアにおいて日本のどのような商品が受け入れられているかを考えると、高品質・高性能の電子・電機製品や自動車、清潔感の高い性能の水洗トイレ、美白を売り物にした化粧品のみばかりではなく、アニメ、ゲームソフト、芸能・音楽といった文化もあります。これらの「売り」は、安全性であり、美しさ・美味しさであります。こうした分野は、一定の物質的な豊かさが達成された後に市場化され得る価値であるとも言えます2。そして、この価値は大企業だけではなく、中堅・中小企業や地方企業も作り出しています。NIES諸国の子供の心を捉えているゲームソフトは、小規模のベンチャー企業で作り出されたものが殆どです。香港では、1パック2,000円もする九州産の苺が売れているそうです。多くのアジアの方は東京ディズニーランドを訪れますが、最近では台湾の人たちが大挙して北海道や北陸観光に訪れています。

 地域貿易協定は世界的な流れでもあります。WTOの報告によれば、1970年に6協定であった世界のFTAは2003年には184協定にまで増加しています。1990年から2002年にかけて、世界貿易に占める我が国のシェア(輸出入合計)は7.3%から5.7%に低下しました。また、メキシコがNAFTAやEUとのFTAを締結したことにより、同国の輸出入は北米や欧州にシフト、メキシコ輸入に占める日本のウェイトは半分程度にまで減少しました。地域協定が世界の流れとなる中で、これをプラスに利用する以外の選択肢はありません。個別の地域協定の内容に応じて、中小や地方の企業が小回りと機動性を生かして輸出入やサービスの担い手になる機会は今後増えるのではないでしょうか。

  1. 2住田孝之「日本経済の構造調整と東アジア経済」(財団法人:日本国際問題研究所)第7章

(2)地域社会・経済の再生・活性化の動き

 景気回復の裾野が拡がりつつあるとはいえ、地域社会・経済の再生・活性化なしには内需による自律的な前向きの循環メカニズムが働きはじめることは期待できませんし、日本経済の活性化もありません。この点については、規制緩和や地方への権限委譲、各地方での再生協議会の活動や企業再生ファンド組成の活発化など地域再生・活性化のための道具立ては揃ってきました。また、各地での村興し・町興しの動きも活発化してきているのは心強い限りです。本日お集まり頂いた方々の前で多弁を要しませんが、失われた十年において地域社会・経済の衰退が進みました。工場は海外へ移転、人口の減少によって購買力を失った駅前商店街は「シャッター街」と化すところも出てきています。都市部の中でも集積の進む商業地域が出ている一方、郊外の市や町の商店街は苦しんでいます。また現在の日本の地方の一部では、地域の人々が日々生活するための機能が必ずしも地域内で完結していません。日々の生活に必要な消費財を遠くの都市のスーパーまで買いに行く、市町村合併が進み学校や病院が統合され、地域によってはさらに空洞化・過疎化が促されてしまっています3。特に、郊外の大規模ショッピングセンターに顧客を奪われ苦境にある商店街では活性化に頭を痛めておられるところが多いようです。一つの例ですが、東京都周辺部のある商店街では、活性化の一手段として、地産地消およびサービス業への進出のため株式会社を設立しています。当該社では、廃業した商店主達を中心として地域の住民が働いており、商店街の八百屋、肉屋、魚屋から仕入れた食材を利用した弁当販売や学校給食、大手スーパーの清掃、そして学童保育等の事業を行っているということです。

 また先般、ある地域商店街の理事長と面会した際、「我々は大手資本と違い植物である。儲からないからといって撤退もできず、この地に根を張って暮らしていくほかはない」、「商店街が儲かるというだけではなく地域が活性化し栄えることをしないといけない」というお話を伺いました。この商店街では、地域の活性化の一手段として、地元に住むいわゆる団塊の世代の力を借りているそうです。団塊の世代は、従来、少子高齢化の文脈でマクロ経済の面では悲観的な材料として使われることが多かったように思います。1,000万人を超える団塊の世代は、10年後には65歳以上になり、現役世代から社会保障を受ける側へと移っていくからです。しかし、先程の理事長は、「社会の負担になるというのは間違いではないか」と指摘されていました。「団塊の世代は地域社会に貢献したいという高い志も持っている」、「例えば、商店街の清掃や自転車の撤去ボランティアを募集すると、当商店街の顧客が団塊の世代を中心として50〜60人も集まる。週に一度、2時間作業してもらうだけで、商店街が本当にピカピカになる」のだそうです。

 こうした地域の活性化はその地域全体にプラスの外部経済効果をもたらす可能性があると思います。先程の理事長は「商店街の活性化は短期的な商店の儲けのためではなく、地域活性化するために行うものだ。その地域の人々が、一人でも多く、一時間でも多く商店街を歩くようになれば、地域の安全・安心も向上し、人々の交流の中で文化・教育も育まれてくる。その流れは、いずれ地域の商店や企業も潤すようになるだろう」とお話になられていました。経済学的に言えば、地域を活性化することに伴う外部経済効果が、いずれはその地域で経済活動を行う商店や企業の強固な経営体力を作ることになるとも言えます。

 以上述べたのは、商店街という極めて限られた地域の活性化の例ですが、地方分権の重要性が叫ばれる中、県や市町村単位の活性化の動きも盛んとなって来ています。先程申し上げたように、地産、地消、地域住民参加による活性化運動、地元の特色を生かした産業開発、観光開発、地元での産官学連携などの動きは、今後の日本経済全体の足腰を強くし、活性化するための基礎になると考えています。

  1. 3神野直彦『地域再生の経済学』中央公論新社

5.おわりに

 昨日、当地に参りましてからいくつかの企業を見学させていただき、経営の現場でのお話をお聞きする機会を頂きました。いつも地方に参りまして思うことですが、地方企業として成功されているところは、例外なくその土地にしっかりと根をおろし、地域の特性を生かしながら日本経済の変化の芽を捉えて機敏な経営戦略を展開されておられます。当地でもその点を正に実感いたしましたが、この地方の力、中小企業の力こそ日本の底力であり強みであると思っています。

 私ども日本銀行は、新しい日本経済の変化の芽が頭を擡げ始めた中、根や茎がしっかりとするまで、新しい芽が必要とする光や水が十分に行き渡るように、それらを遮るものを取り除いていくつもりです。ご静聴頂きまして感謝致します。

以上