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アジア経済の持続的な成長に向けて

第10回「日中経済シンポジウム」における武藤副総裁冒頭発言要旨

2004年 6月 1日
日本銀行

目次

1.はじめに

 日本銀行の武藤です。本日は、日本経済新聞、人民日報が主催する「日中経済シンポジウム」におきまして、人民銀行の蘇寧副行長と対談する機会を頂き、大変光栄に存じます。

2.アジア経済の現状

 本日は、中国、日本両国が、今後、金融・経済面で取り組んでいくべきことは何かについて、述べさせて頂きたいと思います。

 そして、その手掛かりと致しまして、まず、アジア地域全体の現状をどう捉えるかということについて、少しお話しさせて頂きます。

 アジア経済は、90年代、多くの試練に直面しました。すなわち、90年代前半に、中国、日本両国が、行き過ぎた経済の調整局面に入ったほか、後半には、アジア通貨危機発生により、アジア地域全体が低成長を強いられました。しかしながら、各国の公的当局、民間部門双方の多大な努力により、対外ポジションが頑強になったほか、金融・企業リストラなどの構造改革も徐々に進捗し、バブル崩壊や通貨危機の後遺症から、立ち直ってきているというのが現状です。

 こうしたアジア経済の立ち直りは、世界経済や地域経済といった文脈で、二つの変化を伴っています。

 一点目は、世界経済の牽引役としてのアジア経済です。90年代後半の世界経済は、米国を中心とするITブームに牽引されてきましたが —— 一方、アジア経済は、度々、世界景気の足枷となってきた訳ですが —— 、今次の世界景気の回復には、アジア経済の高成長への復帰が大きく貢献しています。

 二点目は、アジア域内貿易の急拡大です。特に、中国の旺盛な内需が、アジア経済を牽引している姿が顕著となっており、中国経済に対する注目が日増しに高まっております。こうした動きは、IT需要の変動に左右されない、アジア経済の自律性向上といった観点から望ましいものです。また、アジア域内貿易の拡大は、多様性に富んだアジア諸国が、元々、相互補完的であることを示しています。

 以上の点を踏まえますと、アジア諸国が、今後、取り組むべきことは、これまでの経済立て直しの局面から一歩踏み出して、アジア諸国の多様性や相互補完性を上手く利用しながら、経済の潜在力を如何に引き出し、持続的かつ自律的な成長を達成するかということだと思います。

 本日、こうした点について、日中の中央銀行間で、中央銀行ができることは何かということについて率直に話し合うことは、大変、貴重な機会であると思います。

3.アジア経済の潜在力を如何に引き出すか?

 それでは、次に、どのようにして、アジア経済の潜在力を引き出し、持続的かつ自律的な成長に繋げていくかという点について、やや具体的に述べさせて頂きます。

国内金融システムの強化 〜 効率的な資金配分

 一点目は、効率的な資源配分を図るために、市場メカニズムを強化することです。この点、2001年末の中国のWTO加盟は、市場メカニズムを梃子に、中国経済の体質を強化しようという、中国当局の強い意志の表われであると受け止めています。

 この分野における中央銀行の役目は、銀行システムを一段と強化するとともに、効率的な金融市場を構築し、効率的な資金配分を実現していくことでしょう。特に、アジア諸国は、従来から貯蓄率が高く、かつ、危機後は経常黒字を計上しているため、外資導入と同様に、国内貯蓄を如何に有効活用するかということが重要なテーマだと考えています。

 この点、日本の金融システムについてみると、「約10年に亘る長く苦しいプロセスを経て、これまでの取り組みの成果が、ようやく大手銀行を中心に徐々に現れはじめてきている」という状況ですが、金融仲介機能の強化という面においては、改善の余地が残されています。日本銀行としても、銀行システムの強化のほか、資産担保証券(ABS)などの資本市場の育成・整備にも取り組んでいるところであります。

 なお、日本における金融システムの立て直しは、必ずしも、上手く行われたとは言えませんが、中国を含むアジア諸国に対して、アドバイスをするための十分な経験を積んだことは確かでしょう。

 この間、中国でも、不良債権査定の厳格化や引当強化、銀行への外資導入、国有商業銀行への公的資本注入など、金融システムの立て直しに向けた施策が進められていると承知しております。他方、金融仲介機能については、中国では、日本と対照的に、信用創造が過大であることが問題となっている訳ですが、効率的な資源分配という意味では、同様の問題を抱えていると言えるでしょう。

 また、国有商業銀行への資本注入は、効率的な資源配分に資する、金利自由化を促す点で重要な動きであると認識しております。この点、日本の経験では、金利自由化を極めて漸進的に行なった結果、規制金利体系の下での預貸利鞘の保証が、銀行融資の膨張に繋がり、バブルを生んだ一因となったことを指摘しておきます。私どもとしては、2006年の外銀による人民元業務の完全自由化を控えて、中国が、どのように銀行改革や金融自由化を進めていくのか注目しているところです。

 アジア地域における金融システムの強化は、グローバルな観点からも重要です。国内貯蓄を、効率的な金融システムを通じて投資に繋げていくことは、世界の対外インバランス調整に大きく役立つでしょう。このように、アジア地域が、グローバルな文脈で一段と取り上げられるようになってきている事実は、世界経済におけるアジア諸国のプレゼンスの高まりを感じさせるものです。

アジア域内での協力 〜 アジア諸国の多様性・補完性の活用

 次に、アジア経済の潜在力を引き出すためには、アジア諸国の多様性ないし補完性に着目した、域内協力が有効であることを述べたいと思います。この点、私は、東アジアにおけるFTA(自由貿易協定)締結の動きが活発化していることに注目しています。

 また、貿易や直接投資の活発化に止まらず、域内での資本取引を活発化させていくことも、効率的な資金配分をもたらす上で、取り組むべき課題であります。アジア諸国は、文化・宗教のみならず、発展段階、産業構造など経済面でも実に多様な地域であり、分散投資の観点から、域内資本取引が活発化する素地が十分にあると思っています。現に、資本取引の一形態である、直接投資について、日本企業の動向をみると、アジア各国の比較優位やリスク分散を意識して、アジア諸国全域に投資を行なっています。

 この点、私どもは、既に、アジア域内の豊富な貯蓄の受け皿として、債券市場の育成に取り組んでいるところです。人民銀行や日本銀行などが参加する、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP<Executives' Meeting of East Asia-Pacific Central Banks>)では、金融システムの強化や金融市場整備に関する活発な情報交換を行なっているほか、各国の外貨準備を拠出したアジア・ボンド・ファンドを通じ、参加国の債券に分散投資を行っています。

 債券市場の育成は、通貨危機の一因となった、通貨と満期のミスマッチ(いわゆるダブル・ミスマッチ)や金融仲介の銀行部門への過度な集中を解消するほか、外資系企業の資金調達手段の多様化などを通じて、域内貿易や投資を促進するといった意味でも望ましいものです。

4.為替レートの市場化

 次に、中国の為替市場の整備について、若干、述べさせて頂きます。中国では、人民元レートを市場の需給に委ねていくことを、「人民元レートの市場化」と呼び、既に、中長期的な重要課題であると表明しておられます。また、人民元レートを市場化する前提として、資本勘定の自由化や金融システムの整備が不可欠であるという考えは、中国内外でも共有されており、現在の議論の焦点は、どのような手順で自由化を進めていくべきかという点(いわゆる、「自由化のシークエンシング」の議論)に収斂してきていると理解しています。

 ただ、銀行システム改革、金利の自由化、資本市場の整備、資本勘定の自由化などは相互に密接に絡み合っているため、極めて困難な仕事であることを、私は十分承知しております。また、望ましい自由化の手順は、各国の政治・経済的制約や、各時代の世界経済・金融情勢によって大きく左右されることも分かってきています。国際機関などによる、この分野での膨大なケース・スタディーの結果は、普遍的な「解」は無いということです。

 この点、日本銀行としても、わが国における資本勘定の自由化、ニクソン・ショック直後のフロート制への移行やプラザ合意直後の大幅な円高の経験などについて、機会がある毎に、人民銀行の方と意見交換させて頂いてきたところでございます。留意すべきことを一点申し上げるとすれば、日本では、資本勘定の自由化が漸進的に行われましたが、当時の状況と、現在中国が直面する状況とでは、グローバリゼーションの度合いが格段に違う—— すなわち、現在は貿易量や国際的な資本移動が飛躍的に増大している —— ということです。

5.おわりに 〜 人民銀行と日本銀行間の交流・協力

 最後に、人民銀行と日本銀行の交流・協力関係をご紹介し、おわりの言葉とさせて頂きます。

 両行の交流は長く、改革・開放政策への転換初期である1981年に、日本銀行から人民銀行を訪問し、その後、双方の幹部による訪問団が一年おきに相互に訪問しているほか、近年は、各層に亙る職員の相互交流が一段と活発になっています。また、金融協力面でも、一昨年、人民銀行と日本銀行は、スワップ協定を締結致しました。さらに、昨年12月、日本銀行は、北京事務所を開設し、人民銀行との交流を一段と密にしているところであります。

 最近の世界経済情勢に目を転じますと、日中および世界経済が順調に拡大する中で、米国、中国の引き締め観測などから、先進国で、株価や長期金利が大きく振れ、エマージング諸国の金融市場でも、トリプル安の動きがみられました。こうした金融市場の動きが、実体経済と整合的な動きであるのか、日中間でも連絡を密にとりながら、世界経済の安定に貢献していきたいと考えております。

 ご静聴、有り難うございました。

以上