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大阪経済4団体共催懇談会における総裁挨拶要旨

2004年 9月 2日
日本銀行

目次

はじめに

 日本銀行の福井でございます。本日は、関西経済界を代表する皆様方とお話をする機会を頂き、大変嬉しく存じております。また、平素より、私どもの支店が大変お世話になっており、本席をお借りして厚くお礼申し上げます。

 本日、皆様方と意見交換を行わせていただく皮切りとして、まず私から、内外経済情勢と金融政策運営に関する考え方について、簡単にお話したいと思います。

 わが国経済は、海外諸国と同様、2001年以降やや深い調整局面を経験しましたが、昨年の夏頃からは世界経済が拡大を続けるもとで、明確な回復過程に入りました。実質GDP成長率でみますと、ユーロエリアはもちろん、昨年10~12月と本年1~3月は米国も上回る高成長となりました。この後ご説明するように、こうした高成長の大きな牽引力は、海外経済の回復であり輸出の増加であったことは事実ですが、そうした外部環境の好転だけで実現され得るものではなく、わが国固有の回復の基盤が整備されてきたことも大きな背景にあったと思われます。日本経済の回復のスピードが速かったことも興味深いのですが、こうした景気の回復が小幅とは言え物価の下落基調が続くもとで実現していることも興味深い点です。本日は、このような点も意識しながら、お話をしたいと思います。

世界経済と日本経済

 まず世界経済の動向から話を始めます。ご承知のとおり、世界経済はグローバル化が進展しており、わが国を含め各国の経済が相互に密接な連関をもって動くようになっています。こうした点は、IT関連財を中心に、米国等で情報化投資が進む中、利益率の高い高性能部品等の生産は日本に、加工・組立の生産工程は東アジアに集積するといった世界的な分業・集積体制が構築されていることにもみられています。

 足許の世界経済の現状をみますと、米国や東アジアを中心に拡大が続いています。米国は、ガソリン価格の上昇や6月の悪天候(多雨等)の要因もあって個人消費の伸びが低下し、第2四半期のGDP成長率は、前期比年率+2.8%に減速しました。一部に雇用拡大ペースの鈍化を示す指標もみられています。もっとも、設備投資は着実に増加しているほか、企業収益も大幅増加となるなど、米国経済は、引続き、景気拡大のモメンタムを保っているとみられます。FRBも、6月、8月と0.25%の利上げを実施しました。東アジアの景気も順調に拡大しています。中国では引続き高い成長が維持されており、固定資産投資の過熱が懸念材料となっていますが、政策当局による調整措置の効果が生産や投資、そして金融面にも徐々に出始めているように窺われます。

 こうした世界経済のもと、冒頭申し上げたように、日本経済は、回復を続けています。本年4~6月のGDP成長率の速報値は、昨年10~12月、今年1~3月の高成長の反動もあって年率+1.7%に減速しましたが、均してみれば将来の持続的な成長軌道への復帰に繋がる回復過程を辿りつつあると評価しています。

 景気回復のメカニズムの面でも、輸出の伸長とともに、生産と企業収益の拡大が設備投資の増加に繋がる前向きの循環が働いており、最近では、雇用者数の改善傾向もはっきりしてきています。先行きは、所得面にも好影響が波及し、このところやや強めの動きが続いている個人消費が緩やかに回復することにより、前向きの循環メカニズムが明確化していくとみています。

 当地につきましても、英国エコノミスト誌が"Kansai comeback"の見出しのもと、世界の10指に入る経済圏である関西経済が輸出を起点に復活しつつあり、雇用の回復と共に消費にも好影響が及んできている旨の記事を掲載するなど、海外からも注目されるほど景気の回復が明らかになってきています。今後、国内景気の回復メカニズムがよりはっきりしていく中で、当地景気の回復もさらに拡がりをもっていくことを期待したいと思います。

企業部門での取組みと新しい動き

 このような景気回復の背景に世界経済の予想以上の成長があることは事実ですが、わが国の場合、企業の過剰投資・過剰債務・過剰雇用や金融システム面の脆弱性といった、過去10数年に亘り経済の回復を遅らせてきた要因の調整の進展も大きいと思います。

 企業部門では、バブル崩壊や金融システム不安を経験し、財務内容の健全性に対する意識が非常に強まりました。このため、企業は過剰投資・過剰雇用の調整を急ぎ、財務面では有利子負債を圧縮し自己資本を充実する努力を続けています。

 当初は製造業大企業中心の動きでしたが、最近では非製造業や中小企業でも経営体質改善の努力が進んでいます。2004年度の売上高経常利益率や資産収益率は、製造業・非製造業ともバブル崩壊後で最も高い水準となっています。

 こうした過去の負の遺産の処理と同時に、IT技術を応用した戦略分野の開拓など、前向きのビジネス展開も進められています。その一つが、デジタル家電や環境対応製品分野等の成長です。地理的に近いアジア諸国との関係も、国際的な分業・集積体制を十分意識した上で、わが国が比較優位を有する分野に資源投入を集中し、これによって国内の生産性を高め競争力を確保する姿が明確になってきています。このような取組みは、まさに当地の皆様方も血の出るような思いで近年積み重ねられてきたわけであり、その成果が最近の景気回復の背景にあるものと認識しています。

金融システム面での取組みと新しい動き

 今述べた企業経営上の課題、つまり財務の健全性回復と収益率の高いビジネスへの取組みは、金融部門にとっても大きな課題です。

 まず、財務の健全性という面では、不良債権問題の克服が最大のテーマでしたが、ここへ来て不良債権処理は着実な進展をみています。特にこれまで大手銀行に比べ対応が遅れ気味であった地域銀行でも、不良債権比率が大きく低下してきており、不良債権処理から生じる損失、すなわち信用コストも全般に低下傾向がはっきりしてきています。

 金融機関の財務の健全性は、とりもなおさず、借り手の経営の健全性の問題でもあります。その意味で、現在、金融機関は、大口先も含めた借り手企業の再生など、不良債権問題の克服に向けて残された課題への取組みを進めています。来年4月のペイオフ全面解禁を控え、産業・金融一体となって、こうした取組みをさらに加速させていくことは、日本の経済全体の再生への道筋をより確かなものにしていく上で極めて重要です。

 次に、収益率の高いビジネスへの取組みという意味では、多様化する家計・企業のニーズに的確且つ効率的に応えていくことが、金融機関にとって重要な課題です。最近の、業態・系列を超えた提携・再編等により、経営基盤の強化やより効率的な分業・協業体制を構築しようとする動き、さらには、グローバルな競争も意識したダイナミックな再編を企図する大手銀行の動きは、そうした取組みの一つと考えられます。また、長らく金融機関経営を圧迫してきた信用コスト面での制約が緩和してきていることも背景に、中堅・中小企業向け貸出等の増強、シンジケート・ローンの組成や投信・保険窓販の拡充等、金融機関の経営姿勢も次第に積極化してきています。

 以上のように、金融システムは全体として、健全性と前向きな経営のダイナミズムを回復しつつあるように思います。

 ただ、そうした好ましい動きを持続していくためには、多様で複雑なリスクをうまく組み合わせて管理する、いわゆる「統合的リスク管理」の高度化を図りつつ、資本を効率的に活用する体制を整備していくことが求められます。6月末に公表された銀行監督に関する新しい合意、すなわち新BIS規制案でも、こうしたリスク管理高度化の取組みを促すよう、リスク感応的な枠組みを導入しており、リスク管理の高度化は世界共通の課題といえます。日本銀行としても、考査やモニタリングにおける金融機関との議論等を通じて、こうした金融機関の機能向上の面で貢献していきたいと考えています。

物価面の特徴

 以上申し述べた企業や金融機関による調整の努力を一つの背景として、景気は回復を続けています。そうした中で、物価面では、原油高の影響もあって、国内企業物価は素材や中間財等を中心に上昇しています。ただ、消費者の手に渡る製品やサービスの価格である消費者物価は引続き小幅の下落基調にあります。

 これは、基本的には、生産性の向上や人件費の抑制を通じた、企業部門でのコスト引下げが背景にあります。従って、この先物価情勢を判断していく上でのポイントは、生産性や賃金の状況に変化が生じるかどうかという点です。現在の生産性の向上の背後には、3つの要因があるのではないかと考えています。第一の要因は、過剰設備・過剰雇用等の調整に向けた企業の取組みや労働市場を含む様々な分野での規制緩和等によって、資源がより効率的に活用されるようになっていることですし、第二の要因はITを中心に技術革新が進展していることです。第三の要因は、景気回復期に一般にみられることですが、人や設備の稼働率が上昇し、生産性が高まるという要因です。このうち、最初の2つは、日本経済の潜在的な生産能力を高めるような構造的な変化をもたらし得るものであるのに対し、3つ目は循環的な要素であるという違いはありますが、いずれの要素も何がしか影響を与えていることは間違いないと思います。ともあれ、こうした景気と物価の動きの乖離は、程度の差こそあれ各国が経験してきた問題です。これをどのように理解するかは、エコノミストや中央銀行にとっての大きな課題ですが、この先景気回復が続いていった場合に生産性の上昇が鈍ってくるのか、それとも規制緩和やITの効果で生産性の上昇が続くのか、また、生産性の向上に見合う賃金の上昇が見られるのか、注目していきたいと思います。

 もう少し目先の問題としては、原油価格上昇の影響が挙げられます。原油価格は、世界需要の拡大や地政学的リスクに対する懸念等を背景に高値圏で推移しています。わが国物価への影響は、7月の国内企業物価が前年比+1.6%とバブル期後半以来の上昇となったほか、消費者物価指数にも、ガソリン等石油製品の価格上昇の影響がみられています。原油高は、米国等の世界経済の順調な拡大にとってマイナス要因となり得るほか、国内でも、企業収益や家計の支出行動に悪影響をもたらす可能性があります。原油価格の上昇については、経済および物価両面への影響を注意深くみていく必要があると考えています。

金融政策運営

 先ほど景気回復と物価の動きの乖離について申し上げましたが、その点は、日本銀行の金融政策運営を考える上でも重要なポイントとなります。

 日本銀行は、「消費者物価指数前年比が安定的にゼロ%以上となるまで量的緩和政策を続ける」という、中央銀行としては異例の約束をしています。現在はこの約束に従って、景気が回復する中にあっても、消費者物価が下落基調を続けていることから、金融緩和をしっかりと継続しています。こうした政策は、景気回復の中で、より強く民間の活動を支える効果を発揮しています。量的緩和継続の「約束」を通じて先行きの金利予想の安定が維持され、企業は引続き低い金利で資金を借りることが可能となっています。他方、景気回復によって収益率は高まっているので、金利を通じて企業の前向きの投資行動を起こす力も、その分強まっていることを意味します。

 消費者物価の先行きについては、原油価格の影響はあるものの、秋口以降は昨年の反動で米価格の下落が予想されることもあって、引続き小幅の下落基調で推移するとみています。またこれまでのところ、景気と物価の乖離、その背後にある生産性や賃金の状況に大きな変化はみられていないと判断しています。日本銀行としては、「約束」に沿ってしっかりと量的緩和政策を継続していくべき段階にあると考えています。

 勿論将来の課題としては、日本銀行当座預金を操作目標とする政策から短期金利を操作目標とする通常の金融政策へ、いずれ復帰していかなければなりません。当然のことながら、そうしたプロセスは2つの面から成り立ちます。金融機関は、所要準備として、法律等により約6兆円の当座預金を日本銀行に保有する義務がありますが、現在は、日本銀行の潤沢な資金供給を通じて、これを大幅に上回る30~35兆円の当座預金を保有しています。こうした潤沢な資金供給は、金融機関の流動性調達に対する不安感を払拭することを通じて、金融市場の安定、ひいてはデフレ・スパイラルの防止に大きく貢献したと判断しています。将来、短期金利を操作目標とする政策レジームに戻っていく局面では、この日銀当座預金残高の圧縮が必要となります。他方、現在の金融緩和効果の大きな源泉である時間軸効果については、実質的にほぼゼロ%となっている短期金利をどのようなテンポで引き上げるかということが最も重要な点です。こうした対応を具体的にどのような手順や方法で実現していくのか、その際に、日本銀行の金融政策についての考え方をどのように明らかにしていくのが適当か、これらの点は私どもにとっても重要な課題です。どのような対応を取れば円滑な移行が実現できるのか、経済金融情勢等をしっかり踏まえながら、十分に検討していきたいと思っています。

おわりに

 日本経済は、持続的な成長とデフレ克服に向かって着実に歩を進めています。日本銀行としては、引続き手を緩めることなく、金融政策面から、民間の方々の前向きの努力を積極的にサポートしていきたいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

以上