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日本経済の現状と展望

きさらぎ会における福井総裁講演要旨

2004年11月11日
日本銀行

[目次]

はじめに

 日本銀行の福井でございます。本日は、このように多くの皆様の前でお話する機会を賜り、厚く御礼申し上げます。また、札幌、仙台、広島、福岡からもご参加頂き、誠に有難うございます。

 日本銀行では、4月と10月の政策委員会・金融政策決定会合で、わが国経済・物価の先行き見通しを記した「経済・物価情勢の展望」というレポート——私どもではこれを「展望レポート」と呼んでいます——を決定し、公表しています。本日は、先日公表した「展望レポート」の内容をご紹介しながら、日本経済の現状と展望についての日本銀行の見方をお示しするとともに、私どもの金融政策運営についても述べてみたいと思います。

1.最近の経済情勢

 わが国の景気は、現在、回復を続けていますが、振り返ってみますと、90年代以降、何度か景気回復を迎えながら、持続的な成長軌道に復することなく、景気後退局面に再び入るということを繰り返してきました。その際の景気の「谷」が極めて深かったことも大きな特徴です。これは、企業の過剰設備・過剰雇用・過剰債務、そしてそれと表裏をなす金融システムの脆弱性が、景気後退を増幅してきたためと考えられます。

 こうしたことに関連し、「失われた10年」というフレーズが使われることがありますが、私は、この十年余という長い年月が決して無意味に経過してきた訳ではないと考えております。この間に、企業は、過剰設備・過剰債務といった構造的な要因の調整を進めながら、同業種・異業種間の合従連衡など経営面での取り組みや新規の設備投資などを積極的に行い、付加価値の高い新製品・新サービスを生み出す力を高めてきました。こうした取り組みの成果は、現在の企業の収益力にはっきりと現れています。9月短観によると、2004年度の売上高経常利益率は、90年代の景気回復局面のピークを上回り、バブル期のピークにほぼ匹敵する水準となることが見込まれています。このような企業の幅広い努力を背景として、今回の景気回復は、これまでの回復よりも基盤がしっかりとしたものとなっているように思います。

 日本経済を取り巻く環境という点でも、米国や中国を中心として世界経済の拡大が続いています。米国は、90年代以降、ITを中心とした技術革新が続くもとで、生産性の高い伸びを実現してきました。2000年代に入って、一時ITバブルの崩壊による調整局面を経験しましたが、2002年以降は回復過程に入り、高い成長を続けています。足許では、原油価格の高騰やIT関連需要の減速もあって、成長のスピードが幾分落ちていますが、先行きは持続可能なペースで着実な拡大を続けると考えられます。また、中国については、92年の「南巡講話」から2001年のWTO加盟に至る開放政策の中で、高成長を続け、グローバル経済の中での位置付けも年々高まってきています。今後も、投資過熱のリスクはありますが、基本的には高い成長を持続するとみられます。IMFの見通しでも、今年の実質成長率は+5.0%、来年は+4.3%と、世界経済の拡大が続くとしています。

 海外経済が拡大を続けるもとで、国内では、輸出・生産の増勢が続き、先ほど述べた企業の取り組み等を背景として企業収益や設備投資も引き続き増加するとみられます。そして、企業収益や雇用面の改善が雇用者所得の増加につながり、個人消費も増加していくと考えられます。このように、前向きの循環が働くかたちで、わが国の景気は回復を続けると予想されます。展望レポートでは、政策委員9人の大勢見通しとして、2004年度の実質GDP成長率は+3.4〜+3.7%(中央値+3.6%)、2005年度は+2.2〜+2.6%(同+2.5%)という数字を示しています。形の上で減速はしますが、これには、2004年度の成長率が2003年度後半の高成長によって計算上高くなっているという、いわゆる成長率の「ゲタ」が働いている面もあります。実勢としてみれば、わが国経済が次第に持続性のある成長軌道に移行していく過程にあると判断して良いと考えられます。

 こうしたもとで、物価面をみますと、国内企業物価は、原油価格をはじめとする内外商品市況の上昇もあって、当面上昇を続けると考えられます。一方、消費者物価は、企業部門の生産性の向上や人件費の抑制などから、経済活動が高まっている割には当面上昇しにくい状況が続くとみられます。政策委員の大勢見通しも、2004年度の消費者物価(除く生鮮)の前年比は−0.2〜−0.1%(中央値−0.2%)、2005年度は−0.1〜+0.2%(同+0.1%)となっております。この点は後ほど詳しくご説明したいと思います。

 見通しには、その常として、上振れまたは下振れの可能性があります。展望レポートでは、見通しの上振れ・下振れの要因として、(1)原油価格やIT関連需要の動きを含めた海外経済の動向、(2)国内民間需要の動向、(3)国内金融・為替市場の動向、(4)不良債権処理や金融システムの問題を挙げています。その詳細については展望レポートをご覧頂きたいと思いますが、ここでは内外経済の先行きとの関連で重要な2つの点、すなわち、原油価格とIT関連需要の動向に触れたいと思います。

 原油価格は、新聞等でよく取り上げられているWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)でみて、現在、1バレル50ドル前後と、既往最高値圏にあります。ただ、WTIのように、ガソリン成分を多く含む軽質油の価格が大幅に上昇する一方で、ガソリン成分がやや少ない中重質油は相対的に低い水準にとどまっており、油種間の格差がかつてなく大きく拡大しています。重質分を分解してガソリン等を精製する能力が大きいわが国では、輸入に占める軽質油のウエイトが低く、中重質油のウエイトが高いこともあって、実際に輸入している原油価格の上昇は比較的小幅にとどまっています。また、実質GDP1単位当たりの原油消費量が米国の7割程度であるなど、他国に比べてエネルギー効率が高いという面もあります。これらの点を踏まえると、原油価格上昇のわが国の経済・物価への直接的な影響は、当面それほど大きなものにならないと見込まれるところです。 むしろ懸念されるのは、海外経済等を通じた間接的な影響です。原油価格の高騰が続くと、実質購買力の低下などを通じて、エネルギー多消費国の経済は大きな影響を受けることになります。原油価格の上昇により世界経済の拡大ペースが減速するにつれて、原油価格は反落するという見方もありますが、そうした内生的なメカニズムが働くタイミングなどには、不確実性が伴います。しかも現実には、需要に比べた供給面の余力が乏しいもとで、地政学的リスクなどの供給サイドの事情から、原油価格がさらに上昇するリスクもない訳ではありません。現時点で世界経済の拡大そのものが妨げられる可能性は低いとみられますが、原油価格の動向とその世界経済への影響には引き続き留意する必要があると考えられます。

 原油価格の動向と並んで重要であるのが、IT関連需要の動向です。現在、世界的なIT関連需要の減速を受けて、わが国のIT産業でも、意図せざる在庫の積み上がりが生じており、既に夏場以降、生産・在庫面の調整が行われています。この点、企業が総じて慎重で早めに在庫調整に取り組み始めていることや、IT関連需要の裾野がデジタル家電市場の成長などにより拡大していることからみて、調整は軽度にとどまる可能性が高いとみています。ただ、IT関連財出荷の動きは、従来からその振れが大きく、先行きの予測が難しい上、世界各地に分業体制のネットワークが構築されている結果、ますます動向把握が難しくなっている面もあり、思わぬかたちで大きな調整に至るリスクも否定できません。内外の年末商戦の売れ行きなど、引き続き注意してみていく必要があると考えられます。

2.今回の景気回復局面における3つの特徴的な動き

 次に、今回の景気回復局面における特徴的な動きについてお話したいと思います。第一に、生産・企業収益の増加が続くもとでも雇用者所得の回復は緩やかであることです。第二に、雇用者所得の回復が緩やかであるにもかかわらず個人消費がやや強めの動きを続けていることです。第三に、景気回復が続いている中で消費者物価の前年比は基調としてなお小幅のマイナスを続けていることです。これらは、展望レポートが想定する日本経済の先行きの姿と深く関連しておりますので、それぞれについて私どもの見方をやや詳しくお示ししたいと思います。

(1)雇用者所得の緩やかな改善

 今回の景気回復過程を振り返ってみると、雇用者所得の前年比は、一昨年をボトムとして減少幅を縮小してきています。しかし、本年に入っても、なお明確なプラスには転じていません。

 雇用者所得の動きを雇用者数と一人当たり賃金の動きに分解すると、雇用者数は、ここ数年、低迷が続いていましたが、昨年央以降は、月々の振れを伴いつつも、前年比でプラスの動きとなっています。その中身をみてみると、正社員の数は前年比マイナスが続く一方、パート、派遣、請負労働者といったいわゆる「非正規雇用」——この用語は、ここ数年に急速に普及し、他に置き換える適当な言葉がないのでこのまま使用します——の数は、大幅な増加を続けており、総務省の統計によると、雇用者数全体の約3割を占めるに至っています。

 これに対し、一人当たり賃金は、減少幅を縮小させつつも、なお小幅の前年比マイナスが残っています。この点には、今述べた非正規雇用の増加が大きく影響しています。勤続年数の長い社員や管理者なども多く含まれる正社員と、定型業務のウエイトが大きい非正規雇用では、平均賃金に大きな差が存在します。このため、平均賃金の低い非正規雇用のシェアが増大すると、雇用者一人当たりでみた平均賃金を押し下げることになります。実際、正社員、非正規雇用それぞれの賃金をみますと、昨年以降、ようやく下げ止まりないし上昇に転じており、もっぱら非正規雇用の比率が上昇していることが、一人当たり平均でみた賃金がなお減少を続けている原因となっています。

 このように、企業がパートや派遣労働者など非正規雇用を積極的に活用している背景には、労働派遣を巡る法制の整備など、労働市場の規制緩和が進んでいることがあります。また、企業が収益率重視の考え方を一段と徹底するようになっていることも影響しているかもしれません。例えば、雇用者所得を名目GDPで割った労働分配率は、90年代を通じて高止まりを続けてきた訳ですが、ここ数年大幅な低下を続けており、足許では80年代の平均的な水準を下回ろうとしています。こうした動きについては、労働市場の規制緩和などを活用して資本と労働間の分配を見直していこうという、企業の経営姿勢の変化が大きく影響している可能性があるように思います。

 各地でいろいろな方のお話を伺っておりますと、まだまだ「景気回復の実感が乏しい」という声が少なくないのですが、その一つの要因として、今ほどお話した雇用者所得の回復の遅れも、実はあるように思います。個人の立場からみると、賃金が上がらないと回復の実感を得られないというのは自然なことです。もっとも、企業収益が極めて高い水準にあることを考えると、いずれは、企業部門からの好影響が家計部門に次第に波及し、雇用者所得が増加に転じていくと考えられます。非正規雇用の活用についても、企業内でのノウハウの継承の難しさなどを踏まえると、一定の限界はあるとする企業の声が聞かれています。実際、足許ではパート比率の上昇に幾分鈍化する兆しがみられております。こうした点を含めて、今後の雇用者所得の動向については丹念に点検していきたいと思っています。

(2)個人消費の底堅い動き

 このように雇用者所得の改善が緩やかなものにとどまっているにもかかわらず、個人消費はやや強めの動きを続けてきました。これが第二の特徴的な動きです。家計所得に先行して個人消費が回復するということは、米国ではしばしば観察される現実ですが、家計が借入れを行ってまで消費することがそれほど多くないわが国では、過去にあまり例がありません。

 この所得伸び悩みの中での消費の回復という現象には、もともと消費性向が高い高齢層が人口構成の面で増加しているという構造的な変化と、それに加えて、高齢層の消費性向そのものが上昇していることが影響しています。高齢層の消費性向が上昇している背景としては、様々な要因が考えられるところです。例えば、2000年に導入された介護保険の影響が大きいという見方もあるようです。私どもとしては、企業による消費者ニーズの取り込み努力とそれを受けた魅力的な新商品・新サービスの提供といった点が無視できないように思います。これは、高齢層を重要な市場と位置付けた企業サイドのマーケティング努力が、金融資産にゆとりのある世帯を中心に、消費意欲の引き出しに成功しているということです。例えば、薄型テレビや単価の高いパック旅行への支出に最も積極的であるのは高齢層といわれています。

 加えて、最近では高齢者以外の消費性向も持ち直し傾向にあります。支出の内訳をみると、国内外への旅行や、生涯教育・自己投資ニーズに対応した教育関連、健康・スポーツ関連のサービスなど、幅広い項目で伸びており、今述べた企業による消費者ニーズの取り込みが高齢者以外の消費喚起にも功を奏しているという面がありますが、景気回復が続くもとで、将来の所得についての悲観的な見方が後退してきていることも相応に影響しているとみられます。この点、今後、実際に雇用者所得が増加に転じてくれば、個人消費は、所得の裏付けを伴うかたちで、よりしっかりとした動きを示してくるのではないかと考えられるところです。

(3)景気と物価の乖離

 先ほど申し述べたとおり、このところ、経済活動が高まっている割には消費者物価が反応しにくい状況が続いています。3つ目の特徴的な動きは、この景気と物価の乖離という点です。その基本的な背景としては、生産性の向上と人件費の抑制によって、企業が低い労働コストでより多くの製品を効率的に作ることができるようになっていることが挙げられます。

 企業の生産性向上の背景としては、第一に、景気回復を通じて、遊休していた設備や雇用が十分に利用されるという、従来の景気回復でもみられてきたメカニズムが働いていると考えられます。第二に、企業の取り組みや様々な分野での規制緩和等によって、設備や雇用などの資源が従来に比べてより効率的に活用されるようになっていることも大きいと思います。第三に、ITをはじめとする技術革新によって、やや長い目でみた経済の効率性が趨勢的に高まっている可能性もあります。他方、賃金については、パートや派遣労働者の活用などを通じた企業の人件費抑制姿勢が根強く続いています。

 こうした生産性の向上と人件費の抑制により、一つの製品を作り出すための人件費——専門的な用語ではユニット・レーバー・コストと呼ばれています——は、ここ数年、過去にみられなかったほど大幅に低下しています。こうしたことが、様々なコストの上昇を吸収し、景気回復が続いている割に消費者物価が上昇しないという状況をもたらしていると考えられます。この点を言い換えると、現在の消費者物価の下落は、かつてのように大きな需給ギャップを背景としたものから、次第に生産性の向上、あるいは企業が競争力をより強くするために人件費の抑制を続けていることを背景としたものへと変化してきています。

 もとより、こうした景気と物価の乖離という状況が未来永劫続くことは考えられません。確かに、生産性の向上により潜在的な供給能力が高まれば、一時的には労働市場は緩和し、賃金は上がりにくい状況となります。もっとも、生産性の向上が継続的に起こっていくのでなければ、いずれは解放された雇用が再び活用され、賃金も上昇すると考えられます。この先景気回復が続いていった場合に生産性の向上が鈍ってくるのか、それとも規制緩和やITの効果で生産性の向上が継続していくのか、先ほど述べた賃金・所得の動きと合わせて、注目していきたいと思います。

 このほか、物価の反応が乏しくなっている要因として、競争環境が激化しているもとで、企業の価格設定スタンスが慎重になっていることも挙げられます。現在、内外商品市況の高騰から企業物価指数の素原材料や中間財の価格は明確に上昇しています。これまでのところ、こうしたコスト増の転嫁を見送り、取り敢えず製品価格を据え置いている企業が少なくないとみられます。この点、消費者の価格をみる目が厳しく、値上げは難しいとの企業の声も聞かれているところです。ただ、価格の上昇が川上段階から川中段階へと徐々に拡がってきていますので、こうした企業の価格設定スタンスがいつまで続くのか、目を凝らしてみていく必要があると考えています。

 ところで、景気と物価の乖離という現象は、日本に限ったことではありません。米国や英国をはじめ、先進国の中央銀行が共通して直面している現象です。もちろん、その程度は、国・地域によって異なりますが、基本的背景には、生産性向上や労働市場の構造変化──具体的には、規制緩和、労使双方の意識の変化など──が存在しています。また、経済のグローバル化の進展を背景に、世界的に企業の価格支配力が低下している可能性もあります。この点、ベルリンの壁の崩壊に象徴される東欧諸国のグローバル経済への参加、アジアの奇跡、BRICs(Brazil, Russia, India and China)と呼ばれる地域大国の台頭など、戦後の政治・経済・社会の枠組みが大きく変革していることの一つの帰結という見方もできるかもしれません。いずれにせよ、物価変動の評価に当たっては、その背景にあるものをしっかりと見極めていくことが不可欠となります。日本銀行としても、内外の物価情勢に引き続き十分に目を配っていきたいと思います。

3.日本銀行の金融政策運営

 最後に、金融政策運営についてお話したいと思います。

 日銀当座預金残高という「量」を主たる操作目標とする金融緩和の枠組みを採用してから、3年半が経過しました。日本銀行は、現在の枠組みを採用するに当たって、「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで継続する」という、中央銀行としては異例の約束をし、そのもとで、極めて潤沢な資金供給を続けてきています。消費者物価がなかなか上昇しにくい状況が続いている中で、この「約束」があることで、先行きの金利予想、ひいては市場金利は安定し、企業は引き続き低利での資金調達が可能となっています。一方で、景気の回復に伴って投資の収益率が高まるため、経済活動における投資採算は次第に改善していくことになります。したがって、「約束」がもたらす金利を通じた金融緩和の効果は、景気が回復し企業収益が改善する状況において、より強い効果を発揮していくと考えられます。今後、民間の前向きな取り組みがさらに拡がって、景気回復が一層しっかりとしたものとなっていけば、いずれは持続的な成長とデフレの克服が達成されると考えています。

 先程も申し述べたとおり、来年度の消費者物価の前年比について政策委員見通しの中央値はごく小幅のプラスとなっています。しかし、その前提となる経済の見通しには、上振れ、下振れの可能性があります。物価の先行きについて言えば、原油価格のほか、生産性や人件費の動向にも左右されるため、見通しは上下に振れる可能性がある点に留意しておく必要があります。こうしたもとで、2005年度内に現在の金融政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではありません。今後の金融政策運営、すなわち、どの時点で現在の金融緩和の枠組みを変更し、どのようなペースで短期金利を経済の実態に見合った金利水準に引き上げていくのかという点については、言うまでもなく、これからの経済物価情勢次第ということになります。ただ、経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって、生産性の向上を基本的な背景として物価が反応しにくいという状況が続いていくのであれば、金融政策運営の面で余裕をもって対応を進められる可能性が高いと考えられます。

 もとより、金融政策運営については、情勢変化に応じて適切かつ機動的に対応しなくてはならないことは言うまでもありません。金融政策は金融市場を出発点として効果を発揮するものであり、金融政策の内容が適切であることに加えて、市場に対してわかりやすい情報発信を行っていくことも極めて重要だと思っています。市場においては、時折、先行きの金融政策運営を巡って様々な思惑が生じることがありますが、異例の金融緩和の状態からの脱却が近づいてくるにしたがって、市場参加者の予想がより不安定になってくる可能性は否定できません。日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化をできるだけ回避するよう、金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明していく方針です。具体的な説明の内容や方法については、さらに工夫を重ね、市場参加者が金融政策の先行きを予測する上で参考になる基本的な判断材料を適切に提供していきたいと思います。どのような材料を提供するかは、今後の金融経済情勢を踏まえて判断していくこととなります。

 以上のような先行きの金融政策運営や情報発信に関する考え方については、「抽象的で分かりにくい」という意見もあるかもしれません。これは、金融政策がその時々の金融経済情勢によって採るべき対応が異なり得る以上、致し方がない面があります。それでも今回、こうしたかたちで私どもの考え方をお示しすることにしたのは、将来の問題とは言え、量的緩和という異例の政策の枠組みの変更に関連して無用の憶測を生じないように、可能な限り日本銀行と市場の間の認識を揃えておきたいと判断したからです。そうした観点から、今後も適切な情報発信に努めていきたいと考えています。

4.おわりに

 以上、最近の経済情勢と金融政策運営についてお話してきました。私は、日本経済が本来持っている経済の潜在力を引き出していけば、現在の動きをきっと新たな経済発展へとつなげていけるものと確信しております。

 札幌、仙台、広島、福岡からもご参加頂いておりますので、しばしば話題になる地域間での景況感の格差に関連して、最後に一点付け加えたいと思います。現在の景気回復をリードしている大企業・製造業の業況をみますと、世界経済の拡大を追い風とし、また、過剰債務などの問題にも目処をつけつつあることを背景に、全般に業況の改善が進んでいます。一方で、非製造業や中小企業にはそこまでの回復感が伴っていません。こうした中で、大企業が多く立地する東京などの大都市圏に比べて、地方の景況感の回復が遅れるといったことが生じています。特に公共投資への依存度が高い地域では回復の遅れが相対的に目立つようになっています。ただ、そうした格差は残しつつも、景気の回復が続くもとで回復の裾野が拡がっており、各地の景況感も次第に改善してきているというのが現状ではないかと思います。それぞれの地域特性を活かしながら、新しい経済のあり方を模索している動きも各地でみられています。こうした変化を踏まえると、さらに日本経済の潜在力を十分に活かしていけば、地方の景気も順調に回復を続けていくように思われます。日本銀行では、全国の支店を通じて地域経済の実情を把握しながら、適切な金融政策運営に努め、持続的な経済成長の実現に向けて引き続き全力を尽くしてまいりたいと考えています。

 ご静聴有難うございました。

以上