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最近の金融経済情勢等について

2005年2月24日 山梨県金融経済懇談会における福間年勝審議委員基調説明要旨

2005年 2月24日
日本銀行

 図表は、こちら(ko0502b.pdf 381KB)から入手できます。

[目次]

1.はじめに

○ 日本銀行の福間でございます。本日はお忙しい中、北崎副知事、宮島甲府市長、並びに山梨県の金融経済界を代表する方々にお集まり頂き、誠にありがとうございます。また、日頃から日本銀行甲府支店が経済調査等々で大変お世話になっております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

2.内外の金融経済情勢

(2-1)海外経済の動向

(2-1-1)景気の動向

○ それでは早速お配りした図表に沿ってお話します。まずは海外の経済情勢です。最近の特徴を要約すれば、「景気は一時に比べれば減速しているものの拡大基調は続いており、各国の消費者物価も総じて安定的に推移している」ということです。

 図表1をご覧下さい。その中では、NIEs、ASEAN、BRICsが先進工業国を凌ぐ高成長を続けている姿が目を引きます。次の図表2が示すように、それらの国々のGDPはIMF統計によれば今や世界の3割強を占めるに至っており、日米欧の景気や物価、企業行動等に大きな影響を及ぼしています。BRICsの急速な経済発展は、図表3が示すように、原油等の資源価格やそれらを運ぶ海上輸送運賃が高騰する主因となっています。資源価格の高騰は、長年「南北問題」に苦しんできた資源産出国、特にOPEC諸国を潤しています。OPEC諸国は石油収入の急増で財政収支が改善し、それを背景に自国内での石油開発並びに石油・石油化学関連施設の増設やインフラ整備を進めています。こうした動きが先進工業国から産油国への資本財輸出の増加等を通じて世界経済を押し上げています。BRICsの人口は今や先進国の2倍以上となっていますが、その台頭は市場経済にとってまさに「地球がもう一つ出来た」と言っても過言でない程のインパクトを世界経済に与えています。

(2-1-2)物価の動向

○ こうした世界的な景気拡大とそれを背景とした資源価格等の高騰にも拘わらず、各国の消費者物価は図表4の上のグラフにあるとおり、近年総じて安定的に推移しています。具体的には、下の表にあるとおり、欧米のインフレ率は80年代前半には平均して8~10%の水準でしたが、2000年以降は2%前後に落ち着いています。また、表にはありませんが、90年代初頭に6千パーセントの驚異的なハイパーインフレに見舞われたブラジルでも、今やそのインフレ率は「僅か」7%となっています。まさに隔世の感があります。

○ 現状の如く、景気が拡大しても消費者物価は安定しているという状態は世界的な規模で、長期間に亘ってみられています。その背景にもBRICsやNIEs等の新興工業国の存在があります。すなわち、家電製品や情報通信機器、衣料品等の消費財については、中国をはじめとする新興工業国が最大の供給者として新たに世界市場に登場し、豊富な労働力と海外からの直接投資を背景に、良質で安価な製品を大量に輸出するようになったため、それらの製品価格には下押し圧力が働くようになっています。WTOによる貿易自由化や、各国の規制緩和もこうした動きを後押しする形となりました。新興工業国、なかんずくBRICsの台頭は川上の物価についてはインフレ要因であると共に、川下の物価についてはデフレ要因にもなっている訳です。このほか、インターネットの普及により消費者が手軽に製品価格を比較して値頃感のある製品を購入する動きが日常化しています。このことも、企業がコスト上昇を製品価格に転嫁しにくい状況を生んでいます。

○ このように製品価格に構造的な下押し圧力が働く中では、企業としてはITを活用した生産性の向上や賃金の抑制により絶えず一生産単位当たりに要する労働コスト、いわゆるユニット・レーバー・コストの抑制・削減を図る必要があります。実際、図表5に示されるように、各国とも近年ユニット・レーバー・コストの抑制・削減を行っており、このことが川上の資源価格等の上昇にも拘わらず、消費者物価が安定的に推移することを可能にしています。現在、多くの国の金融政策は緩和気味に運営され、そのことが世界経済を下支えする一つの要因になっていますが、そうした政策運営が可能となるのは、只今述べたように物価が長期に亘って世界的に安定し、インフレ期待が沈静化しているからであり、また、緩和的な金融政策の下での物価の安定が、インフレ期待のさらなる沈静化をもたらしているからです。ただ、このインフレ期待については、足元原油価格が再び不安定になっていることや、日米のユニット・レーバー・コストの低下に一服感も窺われること等から、その動向や変化の兆しには注意を払う必要があると考えています。

(2-2)日本経済の動向

(2-2-1)景気の現状

○ 次に日本経済についてお話します。まず景気の現状ですが、全体的な評価としては踊り場局面にあるとみています。地域間、業種間、企業間の景気や業績格差の問題も残されています。現在、鉄鋼等素材や自動車、造船、その他機械類等のいわゆる重厚長大産業では、世界的に供給能力が不足しているうえ、日本製の品質が高いこともあって内外需とも堅調を維持しており、フル稼働の状態が続いています。ただ、図表6が示すように、半導体メモリーや液晶パネル等の電子部品については、在庫調整のための生産減少が続いているほか、一部自動車メーカーでは鋼材不足や工場火災の影響から生産が伸び悩んでいるため、全体としては横這い圏内の動きとなっています。図表7の私どもの昨年10月時点の見通しと比べると、景気はやや下振れて推移しています。

(2-2-2)ミクロの構造改革の進展

a. 3つの過剰の解消

○ 次に景気の先行きですが、わが国の場合、先行きを予想するうえで念頭に置いておく必要があるのは、企業のヒト、モノ、カネのいわゆる「3つの過剰」がほぼ解消し、企業の収益力が強化されていること、つまりミクロの構造改革が大幅に進展していることです。

 3つの過剰の解消については、図表8-1をご覧下さい。ご覧のように人員、設備いずれの過剰感も企業規模を問わず概ね解消しています。次の図表8-2には企業の売上高に占める債務残高の割合を載せていますが、こちらも業種・企業規模を問わずその割合は大きく低下しており、過剰債務問題も相当程度解消していることを示しています。

 このうち設備については、来年度からの減損会計の強制適用を控えて、収益性が低く、帳簿価額と時価との乖離が大きい、土地を含む固定資産の売却ないし廃棄が進められています。これが過剰設備の解消、ひいてはバランシートの改善に寄与し、新規の設備投資や土地の再利用・不動産金融が増える基盤を整えました。また、人員については、図表9をご覧下さい。上のグラフは業種別にみた雇用者数の推移ですが、特徴的なのは、製造業の雇用者が減少する一方で、サービス業は増加している点です。これは規制改革等によりサービス業において新規の雇用機会が創出される下で、製造業からサービス業への人員再配置が行われつつあることを示唆しています。最近では大卒・高卒の新規採用にも回復の兆しがみられ、完全失業率も98年12月以来の低水準となるなど、雇用環境は大幅に改善しています。

b. 収益力の向上

○ こうした負の遺産の整理とともに、企業は収益力の向上にも取り組んでいます。収益は価格PとコストCの差として求められますが、企業は新製品・新技術の研究・開発(R&D)や技術のブラックボックス化による製品の差別化を通じてPの維持・向上に努めると共に、ITを活用した生産性の向上、非正規雇用やアウトソーシングの拡大による賃金の削減、さらには経営のグローバル化による海外の良質で安価な生産要素の活用、等を通じてCの削減にも取り組んでいます。

 今一度図表5をご覧下さい。そこには日本のユニット・レーバー・コストが93年頃よりほぼ一貫して下がり続けている姿が示されています。これは、日本の企業が、中国、韓国、台湾といった強力な競争相手に囲まれ、世界で最も熾烈な価格競争地帯にあることに加え、近年のコーポレートガバナンスの浸透・強化もあって、ITを活用した生産性の向上等による合理化や、創造的な技術開発を繰り返しながら、慢心することなく持続的な収益拡大を目指していることを表わしています。

c. ミクロの構造改革の成果

○ 3つの過剰の解消と収益力の向上に加え、後ほど述べますが、内外子会社からの配当収入が増えていることもあって、図表10が示すように、日本の企業の損益分岐点は大企業・製造業を中心に大幅に低下しています。このミクロの構造改革により企業収益の好調がもたらされ、それがひいては今回の景気回復の原動力となっています。そしてミクロの構造改革を下支えしているのが規制改革とゼロ金利です。

 ミクロの構造改革が如何に大きな成果を収めたかは図表11をご覧下さい。そこにはROAとROEの推移をお示ししていますが、ROAは既にバブル最盛期の水準に達しており、ROEも90年代初めの水準を回復しています。このように企業の収益性はバブル経済当時とほぼ同じレベルに回復しましたが、企業の財務体質は当時と全く異なる「筋肉質」になっています。まさにニュー・ジャパンが誕生していると言えます。竹中大臣の言葉を借りれば「もはやバブル後ではない」新しいステージに入った訳です。この間、企業倒産も大幅に減少しています。次の図表12の下の表で「放漫経営」による倒産が一貫して減少していますが、これは企業が自律的な成長を目指してミクロの構造改革とコーポレートガバナンスの強化に取り組んできたことを表わしていると思います。

(2-2-3)景気の先行き見通し

○ 景気の先行きについては、ミクロの構造改革が進展し、企業と、後ほど述べますが銀行も「攻めの経営」に転じつつあることを踏まえると、今後も景気の前向きな循環メカニズムはそう容易に失われることはないと思います。先程「企業の損益分岐点は大幅に低下している」と申し上げましたが、元々90年代の水準がやや高過ぎたと言えなくもないことから1、中国、韓国、台湾等との競争の下で、日本企業の差別化・合理化努力は今後も継続していくと見込まれます。

  • 1 日本の雇用・所得情勢については、日本銀行調査統計局「雇用・所得情勢にみる日本経済の現状」(日本銀行調査季報<2005年1月>)をご参照ください。

○ 電子部品の在庫調整については、ITバブル崩壊の学習効果から各メーカーが早め早めに減産し在庫調整を進めていることや、デジタル家電や自動車——自動車は今や数多くの電子部品を使って製造されています——これら最終製品の需要が世界的に増加を続けていること等を勘案すると、調整は既に最終局面にあり、早ければ今年の春には一巡する可能性もあるとみています。実際、今年1~3月期の「電子・通信機械」の機械受注見通しは前年比+7%と前期のマイナスからプラスに転じているほか、一部メーカーからは「在庫調整が一巡した」との声も聞かれるようになっています。昨年10~12月期決算の発表後、極めてスピーディーにデジタル家電メーカーの商品毎の新たな棲み分けが行われました。こうした業界再編——「選択と集中」が行われたことは、先行きの需給環境のさらなる改善要因になるものと期待されます。

○ 需要項目別にみますと、設備投資については、フル生産が続く重厚長大産業で、系列・下請け会社を含め生産能力の不足感が強まっていることや、銀行の貸出姿勢の積極化がこれら分野の中小企業の設備投資を促す要因となっていることから、設備投資は広がりをみせながら引続き堅調に推移していくと予想しています。ただ、図表13が示すように、企業の設備投資スタンスはキャッシュフローの増加に比べれば抑制的です。これは企業が需要動向を見極めながら慎重に投資を行っている姿を表わしており、それだけに設備投資は息の長い拡大を続ける可能性があります。

 一方、個人消費については、昨年10~12月期は台風、地震、暖冬の影響から一時的に落ち込みました。しかし、先程述べた雇用環境の改善に加え、所得も企業業績が回復する中で、昨年11~12月の雇用者所得にもみられるように、従業員への還元が成果主義の下である程度進んでいくと予想されること等を勘案すると、今後は基調的に底固く推移すると考えています。なお、消費の先行きを巡っては、定率減税の段階的廃止等一連の税制改正や年金・医療等社会保障制度改革が及ぼす影響には留意する必要がありますが、一方で、財政再建については、その必要性に対する国民の意識が高まっているだけに、それが消費者の先行き不透明感を減少させる面もあることは見逃せないと思っています。

 この間、輸出については、海外経済の拡大、なかんずく東アジアとの相互依存関係の強まりを背景に、素材、一般機械、船舶、自動車から電子部品に至る広い業種に亘って堅調に推移していくことが予想されます。東アジアとの関係については図表14をご覧下さい。そこに示されているように、東アジアとの貿易取引は輸出で全体の約5割、輸入で約4割を占めています。そうした貿易関係だけでなく、日本の企業による東アジアへの直接投資の増加に伴い配当収入も増えるなど、東アジアとの相互依存関係の強まりは日本経済活性化の原動力の一つとなっています。

(2-2-4)企業業績と企業経営

a. 企業業績の動向

○ この間、企業収益の動向をみると、図表15が示すように、今年度の経常利益は業種・企業規模を問わず3期連続の増益が維持される見通しです。特に製造業では、裾野が広い重厚長大産業の好調を背景に前年比+20%の大幅増益となる見通しです。

b. 経営のグローバル化

○ このような収益拡大の背景には経営のグローバル化があります。図表16をご覧下さい。これは日本の自動車産業の生産動向ですが、ご覧のように2002年以降海外生産が大幅に増加しており、昨年は生産全体の約半分を海外生産が占めたとみられます。トヨタでは、輸出分を含めると前年度の営業利益の実に7割が北米で稼ぎ出されたものです。トヨタに限らずキヤノン、ホンダ、ヤマハ発動機など、このような収益構造になっている企業は枚挙に暇がありません。

 日本企業の海外展開について見逃してはならないのは、多くの企業が、労働力や生産設備を現地に頼りつつ、経営方式はあくまでも「現場の重視」や「労使一体型経営」、「セル方式」、「ジャスト・イン・タイム」、「カイゼン」等を旨とする日本式を採用していることです。各国の企業が海外進出を進める中で、日本の企業が業績を拡大しているのは、日本式経営が現地の従業員に支持され、しっかりと根付いているためで、「経営力格差」が「業績格差」に繋がっていると言えます。そういう観点からみると、かつて貿易摩擦にまで発展した輸出主導型の経営に比べると、経営のノウハウを「輸出」して、現地の資源と市場に立脚しながら利益を上げていくという現在のスタイルは、グローバルな成長を収益化するニュー・ジャパンの一端を表わしています。

c. キャッシュフローの本部集中~全体最適と部分最適

○ なお、海外の連結子会社の業績拡大に伴い、今後、海外子会社のキャッシュフローを親会社に集中させる動きが一段と広がっていくと予想されます。その理由は、連結ベースでみて欧米諸国や他のアジア諸国に比べて低水準にある配当性向・配当利回りを引上げ、株主価値の向上を求める投資家の声に応えるためです。2004年7月に改正された日米租税条約により、米国の子会社から日本の親会社への配当課税が軽減され、今後も同様の措置が他国との間に広がる見通しですが、こうした動きもキャッシュフローの本部集中を後押しする要因になると思われます。

 この本部に集中化したキャッシュフローは、配当に回されるほか、企業の財務体質改善のため引続き銀行借入れの返済に充てられています。また、企業収益のさらなる拡大を目指して設備投資や海外での新規事業の立上げ、合併・買収にも充てられます。企業経営の観点からみると、内外連結子会社のキャッシュフローや幹部の人事権、グループ戦略の立案機能を親会社に集中させる一方、日々のオペレーションは各子会社に任せるという、全体最適と部分最適のバランスが大事なポイントとなっています。言い換えれば、連結経営の根幹である「求心力」と「遠心力」のバランスが求められる時代が到来しています。

d. 選択と集中

○ 以上のように、企業業績は全体としてみれば好調を持続していますが、そうした中で「景気の現状」のところで触れたように、企業間の業績格差が明確化しています。この業績格差には、IT生産性や研究開発力、ブランド力、合理化努力、グローバル展開力の違いが反映されていると思いますが、もう少し広い観点からみると、自社の事業ポートフォリオについて、いかに機動的に見直しを行っているか——その点の違いも業績格差に少なからず影響を及ぼしているように思います。例えば、オイルショック以降、産業のトレンドは「重厚長大から軽薄短小へ」と言われましたが、BRICsの台頭により今や重厚長大産業は成長産業となっています。また、白物家電は、国内市場では飽和状態とみられていましたが、現在、地球温暖化対応の冷蔵庫や乾燥機能一体型の洗濯機など、時代や消費者のニーズを巧みに取り入れた製品は販売好調が続いています。こうした市場や時代のニーズを予測しながら、合併・買収(M&A)や事業分割(divestiture)、戦略的提携を行い、さらに一旦ダイベストした事業でも、再び成長産業となったもの——重厚長大産業の関連事業がその典型ですが——これについては改めてインソーシングするなど、機動的に事業の再編成、再々編成を進め、それに伴い経営資源の再配分も行って、会社全体としてのキャッシュフローの拡大を図る——このような「選択と集中」を絶えず行っていくことが、この低成長の時代にあって企業収益を持続的に拡大させていくための重要なポイントとなっています。

(2-2-5)当面のリスク要因

○ 来年度の企業収益については今のところ慎重にみる経営者が少なくありません。これは円高、原油高、原材料高の3高のリスクを警戒しているからです。実際、素材や機械、造船等の一部産業では、これら3高の影響により減益に転じる見通しの企業もみられ始めています。企業収益の好調が景気回復の原動力となっていることを踏まえると、マクロ経済の先行きにとっても、3高の影響は引続き注意を要すると考えています。

(2-2-6)物価の動向

a. 国内企業物価

○ 物価の動向については、川上の内外商品市況や海上運賃は、足元、上昇頭打ちとなっています。不足が続く鋼材の価格についても、自動車・造船・家電製品向けの高級鋼板や、プラント・発電機向けの特殊鋼は世界的な供給不足から強含みに推移していますが、建設用鋼材は中国の生産能力増大を背景に軟調であるなど、目下のところは二極分化しています。こうした状況を反映して、国内企業物価は昨年12月以降上昇率が鈍化しています。先行きについては、原油価格が不安定な動きをみせていることから予断は許されませんが、国内企業物価は引続き弱含みに推移していく可能性が高いとみています。昨年10月時点の私どもの見通しとの関係では、概ね見通しに沿った形になると予想しています。

b. 消費者物価

○ 一方、コア消費者物価は小幅のマイナスが続いていますが、企業間競争と規制改革の成果として新たに固定電話通信料や電気代の引下げ等の物価押下げ要因が加わったため、来年度中も「コア消費者物価が安定的にゼロ%以上」と判断される状況に至るかどうかは微妙であると思っています。

 ただ、一時的な物価押下げ要因を除くベースで消費者物価の推移をみると、図表17が示すように、徐々にそのマイナス幅が縮小しています。これは景気回復を背景とした需給ギャップの縮小による物価の押上げ効果が、企業のユニット・レーバー・コスト引下げによる物価の押下げ効果を僅かながらも上回り、その結果、物価の下落率が徐々に縮小しているためと思われます。先日発表された昨年10~12月期の1次QEによれば、需給ギャップと相関性の高い内需デフレータは、一時的要因もありますが7年ぶりにプラスに転じています。私としては、こうした動きを量的緩和政策の枠組みを堅持しながら、辛抱強く見守っていく必要があると考えています。

(2-2-7)金融面の動向

○ ここで金融面の動向をみますと、全体的に極めて緩和的な状態が続いています。図表18をご覧下さい。このグラフは企業からみた銀行の貸出姿勢の変化を表わしていますが、ご覧のように銀行は取引先の企業規模に拘わらず貸出姿勢を積極化しており、私の印象としては、80年代後半にみられた貸出競争に近い状態にあると思います。これは、不良債権処理の大幅な進捗に伴う財務体質の改善と、後ほど述べますが、最近の格付けの向上を背景に、銀行がリスク・テイク能力を高めていることを示しています。もっとも、借り手サイドの企業、特に高格付けの大企業は、97~98年の金融危機の教訓を踏まえ、間接金融から直接金融へのシフトを進めています。加えて、収益好調を背景に企業のキャッシュフローも潤沢となっていることから、現在も銀行借入れの返済を続けています。この結果、図表19が示すように、銀行貸出は、大企業向け貸出が相対的に少ない地銀は前年比プラスとなっていますが、それを除いては思うように伸びない状態が続いています。ただ、中小企業や不動産業、海外向け貸出は改善しつつあり、このうち中小企業向け貸出の増加は中小企業が間接金融中心であるだけに、先程述べたようにその設備投資を促す要因になっています。

3.日本銀行の金融政策運営

 次に、日本銀行の金融政策政策運営——量的緩和政策について述べたいと思います。

(3-1)量的緩和政策のこれまでの経緯

(3-1-1)量的緩和政策の枠組み

○ 量的緩和政策については、まず図表20-1をご覧下さい。これは量的緩和政策を導入した際の対外公表文を基に作成したものです。いわば量的緩和政策の「枠組み」を纏めたものです。その「目的」や「内容」欄にあるように、量的緩和政策は、第一に、日本銀行当座預金残高という量をターゲットにして金融市場へ潤沢な資金供給を行うこと、第二に、コア消費者物価が安定的にプラスとなるまでじっくりと潤沢な資金供給を行い、その時間軸効果を通じて、より長めの短期金利の低下を促すこと、第三に、補完貸付制度を無制限に利用できるようにすることで無担コール・オーバーナイト物レートの上限を現在0.1%となっている公定歩合に画すること、それらによりゼロ金利政策の有する金融緩和効果をさらに浸透させ、デフレからの脱却を図るという政策です。

(3-1-2)日本銀行当座預金残高目標値の引上げ

○ 次の図表20-2をご覧下さい。そこに示されているように、2001年3月の量的緩和政策導入後、日本銀行は累次に亘り政策のターゲットとしている日本銀行当座預金残高を引き上げてきました。その理由は、2001年9月から2003年5月の「変更理由」のところに枠で囲ってあるとおり、直接的には「金融市場の安定確保」であり、その背景には、皆様ご承知のとおり、金融システム不安の高まりと流動性リスクの増大がありました。この点についてやや詳しくご説明します。

○ わが国は、ご案内のように90年代入り後のバブル崩壊により、企業においては先程述べたヒト、モノ、カネの3つの過剰問題が発生し、銀行では巨額の不良債権が発生して97年の金融危機、金融デフレに繋がりました。その後の長期に亘る景気低迷もあって企業と銀行のバランスシート問題は深刻化し、業績も低迷しました。ご覧の図表20-2の右側「金融システムを巡る環境」の「悪化要因」にあるとおり、2001年から2003年前半にかけては、長期金利が史上最低水準(10年物国債:0.43%)を更新し、日経平均株価もバブル崩壊後の最安値(7,607円)を記録するなど、景気の先行き不透明感が強く、いわばデフレスパイラルに近い状態でした。そうした情勢を反映して図表21が示すように、2001年以降、企業と銀行の格下げが大幅に増加しました。

○ この結果、図表22の上のグラフが示すように、企業間信用は2003年第一四半期にはピーク時の約7割の水準にまで落ち込んだほか、下のグラフが示すように、企業の信用力格差を表わすクレジット・スプレッドも2002年前半にかけて大きく拡大する形となりました。また、銀行の格下げ増加に加えて、2001年9月の米国同時多発テロの発生、2002年4月の金融機関の全債務全額保護措置の終了および大手行の大規模なシステムダウンの発生、さらには同年10月の「金融再生プログラム」の公表——これら一連の出来事を背景に不良債権問題に対する不透明感が高まり、金融システム不安が強まりました。このため図表23-1の上のグラフが示すように、銀行が日々の資金過不足を調整するコール取引がターム物を中心に大幅に減少しました。その一方で、下のグラフが示すように、2002年4月のペイオフ部分解禁以降、銀行預金の減少もみられたため、銀行は流動性資金の調達に強い危機感を持つようになりました。因みに、図表23-2が示すように、当時、銀行券の発行残高が大幅に増加していますが、これは「銀行預金よりも貸し金庫」と言われた当時の金融システムや個別銀行の先行きに対する人々の不安感の強さを象徴しています。

○ このような危機的な状況を受けて、日本銀行は、金融市場の安定確保のためのいわばクライシス・マネジメントとして市場に一段と潤沢な資金供給を行い、銀行の流動性不安とそれに伴う日本銀行当座預金に対する予備的需要の増加に応えることとしました。只今ご説明したような当時の極めて厳しい金融経済情勢を踏まえると、97~98年の金融危機のときのように銀行の流動性不安が「貸し渋り」や「貸し剥がし」を引き起こし、それによって経済にさらなるデフレ・インパクトが及ぶ事態は何としてでも回避する必要がある——そうした強い危機感があったからです。日本銀行は、この当座預金残高の引上げに加えて、コール市場でターム物取引が成立し難くなった状況にも対応して、オペを通じて1~2週間という短期間の条件で市場から資金を吸収し、3~6ヶ月あるいはそれ以上の長めの期間で市場に資金を供給しました。結果的に日本銀行は金融市場の「ブローカー役」となり、銀行のALMにも配慮した格好となりました。

○ さらに、今から振り返れば危機的状況が最も深刻であった2002年10月には——同月は、先程述べたように金融庁が「金融再生プログラム」を公表した月でもありますが——図表20-3の最後の欄にあるように、手形オペ期間の上限を6ヶ月から1年に引き上げて資金供給力の強化を図ったほか、長期国債の買入れ枠増額や金融機関が保有する株式の買入れを決定するなど、まさに万策を尽くして流動性リスクや金融システム不安に対処しました。因みに、最後の株式買入れは、金融機関が抱える株式の価格変動リスクを軽減することで、金融機関の経営安定化、ひいては金融システムの安定化に資することを目的としたものでした。この異例とも言える株式買入れを決断するほど、当時は金融システム、ひいては流動性リスクに対する不安感が強かった訳です。

 「クライシス・マネジメント」という点では、米国のFRBも、87年のブラックマンデー、90年代初頭のマネーセンターバンク危機、98年のLTCM危機、そして2001年の同時多発テロのいずれの金融危機においても、市場あるいは個別金融機関に対して大量の資金供給を行い、流動性不安とそれに伴う信用収縮が市場や経済に与えるインパクトを最小化するように努めました。こうした対応は金融システムが動揺したときの万国共通の鉄則であり、その意味で日本銀行がかつてない巨額の資金を市場に供給してきたことは、クライシス・マネジメントとしては適切であったと考えています。

(3-2)現行の政策スタンス

○ 昨年の1月以降現在に至るまで、日本銀行は、「30~35兆円程度」を目標値として金融調節を行っています。これは当初の目標値の6~7倍の水準に相当し、その結果、図表24が示すように、日本銀行のバランスシートは大きく膨らみ、世の中に出回るお金の元となるマネタリーベースも、経済規模に比べて未曾有の高水準となっています。

○ ただ、最近の金融環境をみると、日本銀行が当預残高目標値を引き上げてきた当時と比べると、全般的に改善が進みつつあります。すなわち、企業のバランスシート調整と銀行の不良債権処理に向けた並々ならぬ努力に加えて、図表20-2の右端「改善要因」の欄にあるように、2003年5月にりそな銀行に対する公的資本注入方針が決定されたことや、翌2004年8月の金融機能強化法施行によりセーフティーネットが整備されたこと、さらには大手行の今年度中間決算で「不良債権比率半減」の目標達成が射程内に入ったことを背景として、先程ご覧頂いた図表21が示すように、企業と銀行の格上げが増加し、金融システム不安は後退しつつあります。銀行の格付けについては、図表25が示すように、昨年11月以降、複数の格付け機関が相次いで大手行の格付けを引き上げており、ムーディーズ社を例にとれば、総体的にみて92年当時のレベルに近づきつつあります。この結果、先程ご覧頂いた企業間信用は、足元下げ止まりが明確化しているほか、クレジット・スプレッドも一転して大きく縮小しています。コール取引も2003年以降増加傾向を示しており、ターム物取引の割合も下げ止まりつつあり、最近では上昇の兆しがみられます。また、ジャパンプレミアムも足元においてはほぼゼロとなっているほか、外銀の日本の銀行に対するクレジット・ラインが拡大しているなど、外貨調達のアベイラビリティも高まっています。このように市場参加者が自律的に資金の取引を行える環境が整いつつあります。

○ こうした金融環境の改善が進む下で、このところ資金供給オペの「札割れ」が頻発するなど、図表26が示すように、オペのパフォーマンスが低下しています。これは、銀行の流動性リスクや金融システム不安が後退し、コール市場での取引が成立し易くなる中で、日本銀行当座預金に対する銀行の予備的需要が減少しつつあること、また銀行が、ROEと並んでROAを向上させ、自らの格付けのさらなる向上を図るため、総資産の圧縮に動き始めたこと、これらの影響が大きいと考えられます。私としては、こうした市場の地合いも十分に踏まえながら金融政策運営に当たっていく必要があると考えています。

○ 現在までのところ日本銀行は、札割れが頻発するという状況の中で、さらに長めの資金を供給するなど金融調節上の工夫を凝らしながら現行の目標値に基づく資金供給に努めています。こうした政策運営に対して、「実体経済や金融環境の変化と整合性を欠くものであり、市場への資金供給が自己目的化している」といった批判を頂くようになりました。ただ、日本銀行が、過去、金融市場の安定化に配慮して目標値の引上げを行った経緯を踏まえると、私としては、少なくとも金融システムの安定化が確認されるまでは現行の「30~35兆円程度」という目標値に基づいて資金供給を行っていくことが適当であると思います。そしてその金融システムの安定化の試金石となるのは、これまでこのような場で繰り返し申し上げてきたとおり、4月のペイオフ全面解禁ではないかと考えています。

(3-3)量的緩和政策のメリットとデメリット

○ 量的緩和政策の下での潤沢な資金供給とゼロ金利については、企業のリストラや銀行の不良債権処理を下支えすることで経済主体の活性化に寄与し、ひいてはマクロの需給ギャップの縮小を通じてコア消費者物価の下落率縮小に寄与してきたと考えられます。

 図表27は企業の借入金利を90年当時の水準で固定した場合と実際の利払い負担を比べて、この間の金利引下げによりどれだけ利払い負担が軽減されたかを試算したものです。これによると2002年までの累計で約250兆円の負担軽減効果があったと推計されます。この額はやや過大評価であるように思われますが、長期に亘る金利の引下げ、なかんずくゼロ金利が、心理的な面も含めてバランスシート調整に非常に大きな影響を与えたことを示唆しています。図表28の一番上のグラフは、量的緩和政策の目標値が昨年1月以降据え置かれていることを反映してマネタリーベースの上昇率が大きく鈍化している姿を表わしていますが、その下のマネーサプライは緩やかな回復を続けており、銀行の信用創造能力を示す信用乗数も下げ止まっています。これはゼロ金利が維持される下でミクロの構造改革が一段と進展し、企業や銀行の行動が前向きになりつつあることを示す今一つの証左ではないかと思います。

○ 一方で量的緩和政策については、「市場機能を弱める」とか、「将来のインフレ期待をコントロール不可能なほどに高める」とか、「企業間の健全な競争を阻害し、経済の構造改革を遅らせる」などのデメリットを指摘する声が聞かれます。しかし、市場機能については、既にみたように銀行の日本銀行当座預金に対する需要が減少し、コール市場での取引が成立し易くなっている姿は、市場機能が復活し始めたことを示す動きと考えられます。インフレ期待についても、モノの値段については国際的な企業間競争から安易な値上げは困難となっています。土地の値段についても、バブル崩壊の教訓あるいは時価会計から企業さらには個人も収益還元法に基づく評価を行うようになっています。さらに、「構造改革を遅らせる」という点については、企業の改革を律するのは今や「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility)に対する意識の向上、コーポレートガバナンスの強化を促す一連の商法改正、国際基準への収斂が進む会計制度、さらにはディスクロージャーを通じた市場規律であることは皆様ご承知のとおりです。ただ、FRBのコーン理事は、1月上旬に行った講演2の中で、市場や個別金融機関に対する大量の資金供給を通じたクライシス・マネジメントは、行き過ぎるとインフレ・リスクを過度に高めたり、モラルハザードを生むリスクがあることを指摘しています。これは裏を返せば、危機が去れば、それに合わせて「クライシス・マネジメント」も通常の「リスク・マネジメント」に切り替える必要があることを含意しているように思います。私も、そうした点を常に念頭に置いておく必要があると考えています。

  • 2 詳しくはKohn, D.(2005)"Crisis Management: The Known, the Unknown, and the Unknowable"をご参照ください。

○ 以上の点を総合的に勘案したうえで、日本銀行は引続き量的緩和政策の枠組みを堅持しながらゼロ金利のもつ金融緩和効果の浸透を図ることで企業・銀行のリストラをサポートし、経済のさらなる活性化、ひいてはデフレ脱却に繋げていきたいと考えています。そうした取組みが、未だ残されている地域間、業種間、企業間の格差問題の解消に資することを期待しています。

4.日本経済の今後の課題~むすびにかえて

○ 最後に、むすびにかえて今後の日本経済の課題について、申し上げたいと思います。

(4-1)財政再建と"NICE"の維持

○ まず第1は財政再建です。財政再建については、ご承知のとおり経済財政諮問会議で精力的に検討が進められていますが、日本経済が真に持続的な成長軌道に乗るためには、民間企業の構造改革に続いて、700兆円を超える巨額の公的債務を抱える財政を立て直す必要があり、この財政再建こそが中長期的に国民の先行き不透明感を払拭し、個人消費を伸び悩み状態から脱却させるための課題の1つとなっています。特にわが国の場合、今後も少子・高齢化に伴う社会保障費のさらなる増加が不可避となる中では、国・地方いずれにおいても、高度成長期のような「あれもこれも」という政策は成り立ち得ず、政策の優先順位を明確にしながら「あれかこれか」の選択を繰り返していかざるを得ません。当地におかれても色々とご苦労の絶えないこととお察ししますが、規制改革や税制改革を通じて持続的な経済成長を図り、歳入増加に繋げていくと共に、行政サービスの電子化や「市場化テスト」等により公的部門の生産性向上も図りながら、徹底した歳出改革を実施していくことが求められます。この間、財政再建コストを最小化するためには金利が出来るだけ低水準で安定的に推移する必要がありますが、その前提として物価の安定が不可欠の条件となります。

○ 持続的な歳入増加をもたらす経済の持続的な成長と、金利の低位安定の前提となる物価の安定が両立した望ましい経済状態を英国の中央銀行の総裁は"Non-Inflationary, Consistently Expansionary"、略して「ナイス」と呼びました。この財政再建に必要な「ナイス」は日本銀行の「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という理念と相通ずるものであり、ニュー・ジャパンのマクロ政策の一つの柱にすべきものだと考えています。その意味で政府も中央銀行も目指すべき方向性に何ら相違はないと思います。このナイスを実現していくために必要な措置であれば、日本銀行としても金融緩和維持に全力を傾けて取り組んでいく必要があると考えています。但し、「ナイス」に反するような施策、すなわち、財政規律を阻害し、市場のインフレ期待を高めるような施策は厳に慎まなければなりません。そうしたナロー・パスを歩んでいけるだけの金融政策面での知恵と勇気が日本銀行には求められていると認識しています。

(4-2)人材の育成

○ 日本経済にとって、財政再建と並んで重要な課題は人材の育成です。既にみたように、企業は賃金削減の一つの手段として非正規社員の比率を増やしてきましたが、それにやや行き過ぎの面があったことから、生産現場等で技能の伝承や改善を困難化し、品質・安全管理に関する事故を招き易い状況を生みました。このため、最近企業では若年層の正規雇用を増やそうとする動きが広がっていますが、図表29が示すように、専門技術者や技能工等については人手が足りない状況です。人材派遣会社でも人が不足しています。このため最近では大手自動車メーカー等でOBを再雇用する動きもみられ始めています。

○ 問題は、技術者等が足りないと言っても絶対数が足りない訳ではなく、応募してくる若者の知識や労働意欲等が採用基準に満たないという質的なミスマッチが生じていることです。これは定職につかないフリーターや、就職もせず、教育も訓練も受けない「ニート」(Not in Employment, Education or Training)と呼ばれる若年層が増加していることが背景にあると考えられます。こうした状況に対しては、官民挙げて教育と職業訓練の建て直しを図る必要がありますが、同時に、既存の伝統的な産業の枠組みに囚われない形で、若い世代の能力を広い分野で一段と活かしていくことも大事なポイントかと思います。先日、アニメ映画『ハウルの動く城』の宮崎監督が8月のベネチア映画祭で多くの優れた作品を生み出した映画人に贈られる「栄誉金獅子賞」を受賞することが決定したと報じられました。また、埼玉県春日部市は漫画『クレヨンしんちゃん』の舞台として国際的に有名で、海外のファンの間では東京、京都と並ぶ日本の「代表都市」として知られているそうです。こうした事例が物語るように、日本のアニメや漫画、ゲームソフト等のいわゆるポップカルチャー産業は今や世界的な人気を博しており、アニメ産業は先行き10兆円以上の市場規模になることが期待されています。こうした産業を支えているのは宮崎監督に続く日本の若い世代の感性であり、こだわりであります。

(4-3)むすびにかえて

○ 本年3月末に産業再生機構による債権買取りの期限が到来し、4月にはペイオフ全面解禁が予定されています。幸い官民挙げての努力により産業と金融の一体的な再生はある程度成功を収めつつあります。そうした状況を反映して、金融庁はかつての「金融再生プログラム」に代えて「金融改革プログラム」を発表し、今後の金融行政の軸足を「金融システムの安定」から「金融システムの活力」に移すなど、金融システムは着実に安定化しつつあります。この金融改革プログラムは金融環境の変化を捉えたタイムリーなものと評価でき、今後、改革プログラムに沿って、金融インフラ——決済システム、税制、金融IT、ルール・慣行等——の整備ないし再設計が急がれます。この間、モノの値段も資産価格も、かつて懸念されたデフレスパイラルは遠のきつつあります。「守りの経営」から「攻めの経営」へという言葉が象徴するように、世の中の流れはこれまでの後ろ向きの循環から、「もはやバブル後ではない」との意識の下、前向きの循環に変わりつつあります。

 ただ、前へ進むにしても、国際的な企業間競争が激化する中では、IT産業がその典型ですが、常に先頭集団を走っていなければ十分な利益を上げることはできません。3番手、4番手となっていたのではマーケットを大きくするだけと言えます。企業には、市場や時代環境の変化を素早く読み取る力と、変化に対応して迅速に自己変革を行い、機動的に「選択と集中」を進めていく姿勢が求められており、それらを実現できる企業だけが利益を獲得する"Winner takes all"となっています。そうした点から言えば、かつての"Time is money"は今や"Speed is money"になっています。そして、今後はITの進歩により、変革を加速しなければ生き残りが難しい"Acceleration is money"の時代になっていくと思われます。一方で、鉄鋼、化学等の大手企業だけではなく、中堅機械メーカー等その他の重厚長大産業に属する中堅中小企業のように、10年以上に亘る絶え間ない合理化努力と創造的な技術革新を続けてきた結果——欧米企業の撤退も手伝って——今や業界内で世界No.1、No.2として残存者利益を存分に享受している産業、企業が多数あることも忘れてはならないと思います。

○ 当地山梨県は、伝統産業や美しい自然環境を大事にしながら、一方で、早い時期から工業団地を造成してハイテク産業の誘致・発展も図るなど、その産業風土は豊かで奥深いものがあると思われます。そうした地の利を生かしながら、ますますの発展を遂げられることを心よりお祈り申し上げております。長い時間に亘りご清聴ありがとうございました。

以上