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「わが国経済の展望について」

愛媛県金融経済懇談会における武藤副総裁挨拶要旨

2006年 2月 2日
日本銀行

[目次]

はじめに

 日本銀行の武藤です。愛媛県経済界を代表する皆様方とお話しする機会を頂き、大変嬉しく存じます。また、平素より、私どもの支店が大変お世話になっておりますことを、本席をお借りして厚くお礼申し上げます。

 本日は、最近の経済・物価動向と先行きの展望に関する私どもの見方と、日本銀行の金融政策運営について、お話しさせていただきたいと思います。

最近の経済情勢と先行き見通し

 景気の現状ですが、日本経済は、一昨年後半から昨年夏頃にかけて一時的に成長が鈍化し、いわゆる「踊り場」にありましたが、その後これを脱却し再び回復のモメンタムを取り戻しています。内閣府の景気基準日付によると、今回の景気拡大は、2002年1月に始まり、ほぼ丸4年となっています。景気の拡大期間としては、既に戦後3番目の長さになります。

 先行きについても、引き続き景気の回復が期待できると考えています。日本銀行では、昨年10月に公表した「経済・物価情勢の展望」—— 私どもでは、「展望レポート」と呼んでいますが——ここにおいて、日本経済は、本年も、緩やかながら、その分息の長い景気回復が展望できるとの見通しを示しました。さらに、先月の金融政策決定会合では、こうした「見通し」の「中間評価」を行い、わが国の景気は、内外需がともに着実な増加を続ける中で、「見通し」に比べて幾分上振れて推移すると予想される、との判断を示しています。

 この判断の中には、「内外需がともに着実な増加を続ける」という表現が入っています。これは、現在の日本経済は、外需と内需、そして企業部門と家計部門がともに着実な回復を続けており、こうした姿が先行きも続く中で、持続性のある景気回復が期待できることを表わしています。以下では、この点をやや詳しくお話ししたいと思います。

持続性のある景気回復の背景

<外需の動向>

 わが国の景気変動において、過去、外需の振れが大きな影響を与えてきたことは、皆様よくご案内のことと思います。特に近年は、経済のグローバル化が進む中で、各国の景気変動が連動する度合いが以前よりも高まっています。

 そこで、まず海外経済の動向をみますと、米国や東アジアを中心に、着実な拡大が続いています。後ほどやや詳しく触れますように、高水準が続いている原油価格の動向とその海外経済への影響は、やや注意して見守っていく必要があると考えていますが、これまでの原油高を吸収しながら拡大を続けているのが海外経済の現状です。米国では、家計支出と設備投資を中心に、拡大を続けており、雇用環境も着実に改善しています。昨年10−12月の実質成長率は、前期比年率+1.1%と伸びが鈍化しましたが、幾つか一時的な要因が重なった影響が大きく、景気拡大の基調は変化していないとみています。今後も、景気拡大が維持されると予想されます。中国も、一時期指摘されていた投資過熱抑制策による固定資産投資の増勢鈍化や在庫調整の動きも解消しつつあるようであり、堅調な内外の需要に支えられて力強い拡大を続けています。これまでやや停滞気味であった欧州も、ユーロ安を受けた輸出の回復と生産の持ち直しがみられるなど、回復のモメンタムが強まってきています。こうした点を踏まえますと、先行きも海外経済は拡大を続けるとみていてよいと思います。

<内需の動向——構造調整の進展と企業・家計部門の回復>

 現在の景気回復は、バブル崩壊後では3回目の回復となりますが、過去2回は、持続的な成長軌道に復帰することなく景気後退局面に入るということを繰り返しました。景気が自律的な拡大を続けていくためには、企業の生産の拡大が所得に波及し、これが需要の増加となって再び企業部門に波及するという前向きの循環メカニズムが働くことが必要です。過去2回の回復局面では、こうしたメカニズムが十分には働かなかったように思います。その背景は、これを一つに特定できるわけではありませんが、やはり企業の過剰設備・過剰雇用・過剰債務の調整と、それと表裏をなす金融システムの脆弱性が、経済の下押し圧力として働いていたことが大きいと思います。逆に、現在は、こうした経済における構造的な調整圧力が概ね払拭されたことによって、企業部門・家計部門がともに回復し、前向きの循環メカニズムが働く環境が整ってきているといえます。

 この点をやや具体的にみますと、多くの日本企業は、これまで、収益力の回復と財務体質の改善を目指し、血のにじむような厳しいリストラに取り組んできました。コストの徹底した削減から、不採算事業の縮小や戦略分野の強化、不良資産の抜本的処理、さらには、個社レベルでの対応の限界を意識した業界の再編・統合も進みました。そうした取り組みの成果は、様々な統計の上でも明確に現れています。

 例えば、日本銀行が企業に対し毎四半期行っているアンケート調査——いわゆる短観——の生産・営業用設備の過不足についての判断は、「過剰」が払拭されています。雇用人員の過不足についての判断は92年11月調査以来の「不足」超に転じており、先行きは「不足」超幅が一段と拡大する見通しとなっています。また、有利子負債の対売上高比率は、93年度をピークに低下し、現在は80年代央の水準にあります。大手企業約100社の中期計画をみますと、これ以上有利子負債の削減は行わないまたは削減ペースを鈍化させるとする企業の割合は、約8割となっています。

 また、金融システム面での改善も顕著です。長年にわたって日本経済の重石となってきた「不良債権問題」は、概ね克服された状態にあります。金融機関の不良債権残高は、2001年度末のピークから大きく低下しています。銀行の上期決算や信用金庫の17年度仮決算をみても、信用コストの減少等を背景に、多くの先で大幅な増益となっています。銀行貸出の残高は、長らくマイナスで推移してきましたが、貸出債権の流動化や償却を調整したベースでみますと、8月以降前年比プラスに転じた後、その増加幅を拡大してきています。金融システム面の改善に伴って、企業や家計の経済活動を巡る金融環境が緩和的に推移してきているのが現在の状況です。

 以上のような構造調整の進展によって、経済・金融両面から、わが国の基礎体力はしっかりとしたものとなっており、これが企業部門と家計部門の回復を支えています。

 企業部門をみますと、構造的な調整圧力が概ね払拭されたもとで、高水準の収益を続けていることが確認できます。企業収益は、2002年度以降3年連続で増益となった後、本年度も増益が続いており、大企業を中心に売上高利益率はバブル期を明確に上回る水準となっています。今年度上期の中間決算をみても、幅広い業種で高水準の収益が維持されています。ここ3〜4年の良好な企業収益の背景には、過剰設備と過剰雇用という固定費の削減を進めた結果、損益分岐点が大幅に低下していることがあります。また、同時に、企業は、経済のグローバル化に即応し、国際的な分業体制を新たに構築すると共に、国内においては「選択と集中」に積極的に取り組み、付加価値の高い製品やサービスを生み出す力を高めていることも指摘できると思います。

 このような高水準の企業収益のもとで、設備投資は広範な業種にわたって増加を続けています。短観の今年度の設備投資計画は、製造業大企業で大きく増加しているほか、中堅・中小企業でも着実に上方修正されており、企業部門全体でみても3年連続の増加となる見通しです。

 こうした企業部門の好調は、これまでの景気回復を支える大きな力となってきました。これに加えて、最近では、企業部門の好調さが家計にも波及してきているのが特徴です。

 雇用面では、一昨年後半以来、雇用者所得の増加が続いています。企業は、当初、パートタイム労働者を増やしてきましたが、雇用不足感が強まる中、最近では、フルタイム労働者を増加させています。また、雇用環境が改善する中で、これまでは職探し自体をしていなかった人々が、新たに労働市場に参入してきており、労働参加率の下げ止まりも明確になってきています。賃金も、冬季賞与が、大企業を対象とするアンケート調査をみる限り、夏季賞与の伸びを幾分上回ったようですし、これまでやや伸び悩んでいた所定内給与も着実に増加しています。人材確保のためには、所定内給与の引き上げも止むを得ないとのスタンスをとる企業が増え始めているようです。

 こうした雇用・所得環境の改善に加えて、配当収入の増加や株価上昇に伴う資産効果も作用し始めているように窺われます。そのもとで、消費者コンフィデンスは総じて良好であり、個人消費は引き続き堅調に推移するとみられます。また、低金利が続いていることもあり、住宅投資も分譲や貸家を中心に強含みの動きを続けています。

 このように、国内民間需要は、好調な企業部門から、家計部門への所得の波及がより明確となり、それが個人消費の増加を通じ企業部門へ再び波及するという前向きの循環がはっきりしてきています。海外経済が拡大を続けるとともに、国内では前向きの循環メカニズムが働くもとで、日本経済は、息の長い景気回復が期待できると考えています。

 以上、日本経済の現状と先行き見通しについて述べてきましたが、ここで愛媛県経済の情勢について確認しておきたいと思います。

 愛媛県経済は、昨年終盤に「踊り場」を脱却し、緩やかな回復過程に復帰しています。輸出は、建設機械関連やIT関連で回復傾向を続けています。内需面でも、製造業は、短観の業況判断が「良い」超幅を拡大し、雇用人員判断も「不足」超に転じるといった好調を続ける中、短観でみた2005年度の設備投資計画は前年度を6割方上回る水準となっています。非製造業でも、小売・卸売や運輸などに明るい兆しが窺われるなど、回復の裾野に広がりがみられます。また、雇用情勢が改善傾向をたどる中、個人消費も持ち直してきています。こうしたもとで、金融機関の貸出金は、前年を上回って推移しています。

 こうした良好な経済情勢にあることで、愛媛県経済の一段の活性化に向けた取り組みもより進めやすくなっていると言えましょう。この点については、また後ほど触れたいと思います。

先行きのリスク要因

 再び、全国の経済情勢に話しを戻したいと思います。先に述べましたように、日本経済の前向きの循環がはっきりとしつつある状況にあることを踏まえますと、先行きも国内的な要因から景気後退に入る可能性は小さいとみています。景気の先行きを展望する上では、高水準が続いている原油価格の動向やそのもとでの米国など海外経済の動向といった点について、引き続き注意してみていく必要があると考えています。

 原油価格は、昨年後半は一時軟化していましたが、このところ再び反騰しており、既往ピークとなった昨年8月末頃の水準(新聞等でよく取り上げられるWTIで1バレル約70ドル)にまで上昇しています。原油価格高止まりの主な背景は、エマージング諸国など世界経済の拡大に伴う需要の増加にあります。従って、原油価格の上昇と世界経済の拡大は、基本的に両立するものと考えています。ただ、昨年8月末頃の米国でのハリケーン襲来時には、石油精製能力を中心に供給面の弱さが原因となって価格が上昇しました。供給制約の高まりが強く意識されるような場合には、世界経済の拡大に伴う需要増加と整合的ではないレベルまで原油価格が高騰するリスクも否定できません。今後、こうしたリスクが顕現化する場合には、非産油国の実質購買力の低下、世界的なインフレ懸念の台頭などを通じ、世界経済に影響を与える可能性があると考えています。

 こうした原油価格の高止まりにも関わらず、世界経済の拡大が維持されているのは、先ほど述べたとおりです。産油国への輸出増加によって、産油国から非産油国に所得が還流するメカニズムが働いていることなどもありますが、インフレ心理が高まっておらず、その結果、急激な金融引き締めが回避されていることも重要な要因です。

 例えば、米国では、FRBが2004年6月以降、政策を決定する毎回の会合において金利を引き上げてきた結果、短期金利は1%から4.5%の水準にまで上昇しています。そうした政策効果もあって、食料品とエネルギー価格を除く、いわゆるコア・ベースの消費者物価上昇率は抑制されています。適切な金融政策運営のもとで、長期的なインフレ期待が安定し、その結果として、長期金利が比較的低位で推移していることが米国経済の持続的な成長を支えていると思います。今後、仮に物価の安定が損なわれ、金融環境に変調が生じるようなことがあれば、米国経済の成長鈍化だけではなく、国際的な資金フローの変調を通じ、世界経済に悪影響を及ぼす可能性があることには、十分注意しておく必要があると考えています。

物価の動向

 景気回復が続くもとで、物価を巡る環境も好転しています。潜在成長率を幾分上回る成長が続く中、需給ギャップは引き続き緩やかに改善していくと予想されます。また、生産1単位あたりの人件費であるユニット・レーバー・コストは、生産性上昇による押し下げが続くものの、賃金が上昇に転じており、低下幅が縮小していくとみられます。さらに、各種アンケート調査などでみた企業や家計の物価見通しも、徐々に上方修正されています。

 個別の物価指標をみますと、国内企業物価は、原油価格や非鉄金属など国際商品市況の高騰や、これまでの円安の影響等から上昇しており、先行きも上昇を続けるとみられます。また、消費者物価(除く生鮮食品)は、これまで前年比小幅のマイナスで推移してきましたが、10月がゼロ%となった後、11月、12月には+0.1%と若干のプラスとなりました。

 消費者物価の先行きについては、春以降、石油製品の物価押し上げ効果が剥落するとともに、電力料金の引き下げなど物価を押し下げる要因がある一方、電話料金引き下げの影響が剥落していくといった前年比を押し上げる方向の要因もあります。このように特殊要因には上下両方向に働く要因がありますが、物価の基調、つまり物価を巡る環境は、先ほどお話ししましたように好転しています。需給環境の緩やかな改善が続く中で、消費者物価の前年比上昇率はプラス基調になっていくと予想しています。

 また、地価は、全体としてなお下落傾向が続いていますが、東京をはじめとする大都市圏の一部で上昇に転じてきています。こうした地価の動きは、経済の先行きに関する人々の見方が好転しつつあることを示唆するものとして注目しています。

日本銀行の金融政策運営

 それでは、次に、金融政策運営についてお話ししたいと思います。日本銀行は、現在、日本銀行当座預金残高という「量」を主たる操作目標とする金融緩和の枠組み、いわゆる「量的緩和政策」を続けています。この政策を導入した2001年春には、日本経済は景気悪化と物価の下落に見舞われるとともに、金融システム不安が強まっていました。また、金融政策面でも、既に短期金利がほぼゼロ%に達し、これ以上下げられないという状況にありました。こうしたもとで、日本銀行は、わが国はもとより、海外にも例をみない異例な政策を導入しました。

 この量的緩和政策は、次の2つを柱としています。

 第1の柱は、日本銀行が金融市場に極めて潤沢な資金を供給するというものです。具体的には、金融機関が日本銀行に預けることが求められている資金 ——現在は6兆円程度です——を大幅に上回る資金を供給しています。これにより、金融市場では、流動性に関する安心感が隈なく広がり、金融システムに対する不安感が強かった時期においても、金融市場の安定や緩和的な金融環境が維持され、1997年から98年のようなクレジットクランチに陥ることはありませんでした。また、そのことは、物価下落が企業収益の下落などを通じて経済活動の収縮を招くデフレスパイラルを回避することに大きな効果を発揮しました。

 第2の柱は、日本銀行が、こうした政策を消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続するという、中央銀行としては異例の「約束」をしていることです。この「約束」は、市場参加者が、その消費者物価の見通しと相俟って、先行きのゼロ金利の継続を予想することを通じて、やや長めの金利を低位で安定的に推移させ、企業収益を下支えするとともに、投資採算の改善を実現してきました。景気の回復が続く中でも低利での資金調達が可能となる環境がしっかりと整えられてきました。もちろん、その一方では、例えば、預金者の方々には、預金の利子がつかないという形でご負担をかけることになりました。日本銀行では、この点も十分認識していましたが、2001年当時の経済・物価情勢のもとでは、まずもってデフレスパイラルを回避し、景気の回復と物価の安定を実現していくことが最優先の課題であると判断しました。経済が持続的に成長してはじめて、預金者もそれに応じた利息を安定的に受け取ることができるようになると考えたということです。

 以上のような量的緩和政策の効果は、その後の経済・物価情勢や金融システムの状況に応じて変化してきています。現在では、金融システム不安は大きく後退しており、昨年4月にはペイオフの全面解禁も無事実施されました。また、既にお話ししましたように、消費者物価の前年比は、足許若干のプラスに転じており、やや長めの金利形成における「約束」の果たす役割はかなり縮小しています。この結果、現状、量的緩和政策の経済・物価に対する刺激効果は、短期金利がゼロであることに伴う効果が中心になってきています。

 このことは、金融緩和の効果が弱まってきているということではありません。むしろ、景気・物価情勢が好転する中で、低金利が維持されていることにより、金融緩和の効果は強まってきています。この点、やや長い目で金融情勢の変化を振り返ってみましょう。

 既に述べたように構造調整の進捗によって、企業の収益力は大きく上がってきています。総資産に対する経常利益率は、2001年の半ば以降上昇していますが、その水準はバブル期を上回っています。一方で、企業の資金調達コストは2001年以降、低水準かつ横ばいで推移しています。銀行の貸出約定平均金利(長期)は、2001年頃が2%程度だったのに対し、現在は1.5%を切る水準まで下がり、足許はさらに低下しています。企業サイドからみれば、借入れなどをして投資を行う環境が好転していることになります。また、マクロ的にみれば、物価情勢が改善してきていますから、名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利は一段と低下しており、金融緩和の効果が一段と強まっていると言えます。

 加えて、貸出の量の面でも、金融機関の経営状況の改善に伴い、貸出態度が積極化しています。企業からみた金融機関の貸出態度について、短観の貸出態度判断をみますと、2002年から2003年にかけて「厳しい」との判断が「緩い」との判断を上回っていました。これが、2004年に入り「緩い」超に転じた後は着実に「緩い」超の度合いが高まっています。銀行の貸出残高も、先ほど申し上げましたように、昨年8月に前年比プラスに転じた後、プラス幅が拡大してきており、12月は1%を超えて増加しています。貸出の量が増える中で、貸出金利が低下していることは、金融機関の貸出態度の積極化を映じたものと考えられます。また、CP・社債の発行環境は良好な状況にあり、その発行残高も前年を上回る水準で推移しています。

 このように、金利・量の両面から資金調達環境が好転している中で、資金を借り入れて設備投資を行うなどの前向きの取り組みを進める企業も着実に増えてきているようです。緩和的な金融環境が整えられ、かつそれがさらに強まることにより、民間需要を後押ししてきていると言えるでしょう。

 こうした金融環境は、この先もしっかりと維持されていくと考えています。以下、先行きの政策運営についてお話しします。まず、先ほど述べたような経済・物価についての見通しが実現するとすれば、2006年度にかけて、「消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比が安定的にゼロ%以上」という「約束」の条件が満たされ、量的緩和政策の枠組みを変更する可能性は高まっていくと考えられます。

 枠組みの変更に当たっては、金融調節の主たる操作目標を日本銀行当座預金残高から短期金利に変更するとともに、日本銀行当座預金残高を所要準備の水準に向けて削減していくこととなります。各金融機関は、量的緩和政策のもとで、長期間にわたって多額の当座預金残高を前提として資金繰りを行ってきています。短期金融市場の機能はいずれ回復するとしても、枠組み変更後しばらくの間は、金融市場における円滑な資金の運用・調達という点から注意が必要になると考えられます。それだけに、当座預金残高の削減にあたっては、金融市場の状況を十分に点検しながら行う必要があると考えています。

 ここまでは、所要準備を上回る当座預金が存在することになりますので、ごく短い金利は、多少の振れはあるにせよ、基本的にゼロ%となります。量的緩和の効果は、現在、短期金利がゼロ%であることが中心となってきていますので、枠組みを変更すること自体、政策効果の面では大きな変化がないと考えています。むしろ、物価が上昇していく中で、実質金利はさらに低下することになります。つまり、こうしたプロセスの間、短期金利がゼロ%であることを考えると、景気・物価に対する刺激効果は一段と強まっていくことになると考えられます。

 その後、極めて低い金利水準を経て、次第に経済・物価情勢に見合った金利水準に調整していくという順序を辿ることになりますが、この過程における金利水準や時間的経路は、まさに経済・物価の展開や金融情勢に大きく依存します。この点、経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって、物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、引き続き極めて緩和的な金融環境を維持していけると思っています。

 以上、先行きの政策運営についてお話ししました。このように政策運営の考え方をご説明していくことは、金融政策の透明性という観点から大事なことだと考えています。金融政策は、金融市場や金融機関行動を通じて効果を発揮するものであるだけに、その透明性を高めることは、説明責任を果たすと同時に、政策の有効性を高める観点から、極めて重要な課題です。その上で、具体的に、どのような枠組みが金融政策の透明性の向上に資するかは、海外の中央銀行の状況をみましても、その取り巻く環境によって異なっており、実際に、様々なバリエーションがあるようです。例えば、インフレーション・ターゲティングや物価参照値などの数値的なものを導入している国がある一方で、中央銀行の金融経済情勢判断や金融政策運営に関する基本的な考え方について、文章の形で説明している国もあります。

 日本銀行では、これまでも金融政策の透明性向上について、展望レポートなどを通じて、積極的に取り組んできました。この先についても、特に、量的緩和政策の枠組みの変更は、その導入と同様、先例のないものであるだけに、金融市場において経済・物価情勢に応じた価格形成が円滑に行われるよう配慮することが重要だと考えています。金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明し、期待の安定化に努めるとともに、今後の情勢変化に応じて適切かつ機動的に対応していく方針です。

 日本銀行は、物価の長期的な安定を通じて、日本経済が均衡のとれた持続的な成長を実現していくことを目指し、金融政策を運営しています。現在、景気は回復を続けており、物価を巡る環境も変化してきています。日本銀行としては、今後とも経済・物価情勢の変化に応じて金融政策を適切に運営し、長い目でみてわが国経済が良好な成長を遂げることができるように、金融面からサポートしていく所存です。

愛媛県経済の活性化に向けて

 以上、日本経済の現状と先行き、および当面の日本銀行の金融政策運営についてお話ししてまいりました。最後に、愛媛県経済の将来について私なりに考えているところを述べたいと思います。

 愛媛県経済は、先ほど申し上げましたように、現在、緩やかな回復過程に復帰しています。もとより県内においても、公共事業への依存度が高い地域・業種や、他産地との競合が激化している地域・業種などを中心に、地域間・業種間での回復の格差は残っているようですが、当地経済界では、新たな地場産業の創出や第一次産業の活性化に向けた取り組みを積極的に進められていると伺っています。

 愛媛県には、みかんや伊予柑などの柑橘類、真珠やタイ・ハマチなどの水産物をはじめ、農林水産分野で全国1、2位を争う市場占有率を占める特産品が数多くあります。これらは愛媛の豊かな自然の恵みに加え、当地の皆様が品種改良や新品種の導入など様々な工夫を重ねてこられてきた賜物でもあると思います。工業分野でも、造船や製紙業をはじめ、わが国でも有数の企業が立地しているほか、観光面でも、日本最古の道後温泉をはじめ多くの資源を擁しておられます。第一次産業から第三次産業まで、幅広い産業構造を持ち、高い技術やノウハウが蓄積されていることは、当県の強みであると思います。加えて、文化面でも、正岡子規や高浜虚子をはじめ多くの文化人を輩出され、現在でも俳句愛好者数が日本一であるなど、文化・教育水準の高さも、もう一つの強みではないかと思います。こうした強みを活用することにより、当地経済界が一段と活性化していくことを期待しています。

 また、愛媛県では、「共に創ろう

 誇れる愛媛」を基本理念に、様々な長期計画に取り組まれています。特に、少子高齢化への対応という観点から、女性や高齢者が力を発揮できる社会システム作りを重点課題の1つに掲げられていると伺っています。本日述べてきましたように、日本経済は、息の長い景気回復を続けるとみられるわけですが、やや長い目でみますと、少子高齢化が進み、総人口が減少していく社会の到来にどのように対応していくかが大きな課題となります。そうした意味で、愛媛県の取り組みは、まさに時代を先取りしたものと言えると思います。こうした取り組みが実を結べば、日本経済全体にとっても良い参考になると思います。

 本日は、ご清聴頂き、有難うございました。

以上