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第三回沖縄金融専門家会議における福井総裁挨拶要旨

2006年 3月27日
日本銀行

日本銀行の福井でございます。第三回沖縄金融専門家会議の開催を心よりお慶び申し上げます。

沖縄発・新金融サービスの意義

2004年2月にスタートした第一回沖縄金融専門家会議からまる2年が経った訳ですが、この間沖縄に結集した強力な金融専門家の方々が、イノベーティブな金融サービスの実現に向けて取り組まれ、日本の金融資本市場に新しい風を吹き込んでいることは大変心強いことです。

まず、証券化のエキスパートの方々によって提唱された所謂「劣後共有型全国版地銀CLO」構想は、沖縄の地銀2行による先行実施という形で実現し、去る3月23日債券発行に至ったと聞いております。これまで日本銀行では、証券化市場育成の見地から市場関係者の協力を得つつ、様々な取り組みを実施してまいりましたが、今回沖縄が自らフロントランナーとして名乗りをあげ、地域金融機関主導の証券化スキームの実現が可能なことを世に示したことはこの観点からも大変意義深いと考えています。

次に、「ファミリービジネス」という新しい切り口から金融サービスを再定義しようという全国に先駆けた動きもみられました。昨年12月、私の同僚の一人である須田審議委員も参加した「沖縄金融特区ファミリービジネスフォーラム」では、日本企業全体の95%を占めるファミリー企業が、中長期的に繁栄するための条件、これをサポートする金融サービスのあり方について非常に活発な議論がなされたと伺っています。M&Aの活発化、自発的delistingの動き、新会社法施行等を背景に企業統治についての関心が一段と強まる中で、まさに時宜を得たテーマについてこの沖縄で体系的な議論をスタートさせる意欲的な試みだと理解しています。

また、リテール資金決済や商業のあり方にも大きな影響を与える可能性が高い電子マネーについても、主として観光客を対象とした「沖縄型電子マネー」の事業化に向けた検討が開始されたと聞いております。デジタルマネーやサイバーエコノミーの行方を現時点で見通すことは甚だ困難ですが、今回の沖縄での取り組みが、この分野の先端的プレイヤーから注目を集めていることはプロジェクトとしての質の高さを示すものだといえましょう。

このように「金融力」を通じて経済活性化を図ろうという沖縄プロジェクトは、着実な成果を挙げつつあります。

沖縄へのさらなる期待

さて、次に今回の会議のプログラムに目を転じますと、このプロジェクトのさらなる発展可能性を予感させる幾つかの特徴に気づきます。

第一に、今回の会議では公募で選ばれた9つの民間企業による金融機能を活用したビジネスの事業化提案がなされる予定です。過去2年間、この専門家会議で発表された様々なビジネスのアイデアについては、まず県庁主催のビジネス研究会の場で様々な専門的観点からの検討を行い、そのうえで初めて事業主体の組成・事業化へと進むという、言わば公的セクター主導の「制御されたプロセス」の下で進められてきたと聞いています。しかしながら、今回は専門家会議の場でいきなり民間事業者によって作成された事業プランが提案されます。これは、沖縄の金融プロジェクトが関係民間企業から広く認知されつつある証左でもあるわけですが、この中から幾つかのサクセスストーリーが生まれ、「沖縄金融ブランド」が確立されていけば、沖縄の金融力が自律的拡大過程に入る展望が開けるという意味で画期的なことだと思います。

もう一つの特徴は、これらの事業化提案が、いわゆる「金融村」の住人からだけでなく、IT、芸能・工芸、不動産、移住サポートなど異業種の専門家や、地域特性を活かそうという地元沖縄企業からなされている点です。金融サービスの供給者だけでなく、地元の経済ニーズをより把握しうる立場にある需要者側から様々なアイデアが提案されれば、新しい金融サービスを巡る議論は一層深みをもつと考えられます。

このように沖縄において金融知の集積を図り、それを地域活性化や日本経済・金融全体の発展にも繋げていこうという試みは、着実な成果をあげながら、裾野を広げつつあります。こうした取り組みが、今後、沖縄の持つ様々な優位性——例えば、観光、移住、健康、環境、文化、ホスピタリティ溢れる人材、そしていま世界で最もダイナミックな発展を示しているアジアとの歴史的親密さ、などがキーワードになると考えられます——との間で化学反応を起こせば、日本だけでなくグローバルにもインパクトを与えうる、一段と大きなうねりを作り出すことができるのではないかと期待しています。会議にご参加の皆様には、是非そういう観点から重層的かつ横断的に議論を深めていただければと思います。

日本経済は、バブル崩壊以降、十年以上の長きにわたった調整をようやく終え、新たな局面に向かいつつあります。今後、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長を実現していくためには、金融面において、多様なニーズに対応した様々な信用仲介のチャネルが用意され、効率的でダイナミックな資金配分が行われていくことが極めて重要です。日本銀行では、こうした観点から、金融の高度化支援に力を入れているところですが、沖縄におけるこのような先駆的な取り組みについても引き続きサポートしてまいりたいと考えております。

最後に会議の成功をお祈りして、私の挨拶の言葉とさせていただきます。

以上