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全国証券大会における福井総裁挨拶要旨

2006年9月21日
日本銀行

 本日は、全国証券大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。証券業界の皆様には、日頃から、私ども日本銀行の政策や業務運営について多大なる協力を賜りまして、厚くお礼申し上げます。

 私からは、最近の金融経済情勢や金融政策運営、ならびに証券市場の課題などに関しまして、私どもの考えを申し述べ、ご挨拶に代えたいと存じます。

 わが国の景気は、緩やかに拡大を続けています。世界経済が拡大する中で、輸出は増加を続け、高水準の企業収益を背景に、設備投資も引き続き増加しています。雇用面では、新卒採用を含め、雇用者数が堅調に伸びています。労働需給が引き締まり傾向を続ける中で、緩やかながらも雇用者所得が増加しており、個人消費も増加基調にあります。また、内外需要の増加が続く中で、生産も増加を続けています。このように、生産・所得・支出の好循環が働くもとで、日本経済は今後も息の長い成長が続くと考えられます。

 もとより、原油価格高の影響や、そのもとでの海外経済の動向などには、引き続き注意を払っていく必要があると考えています。

 物価面については、国際商品市況高などを背景に、国内企業物価は上昇を続けています。消費者物価については、先月、物価指数の基準改定が行われ、事前予想に比べ下方改定の幅が大きかったことが注目を集めました。しかし、今回の改定は、物価を巡る基本的な判断に変更を迫るものではありません。消費者物価は、改定後の指数で見ても、プラス基調で推移しており、マクロ的な需給バランスが需要超過方向で推移していくとみられることなどを踏まえると、先行きも、プラス基調を続けていくと考えられます。

 金融政策運営につきましては、日本銀行は、7月の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導水準を、概ねゼロ%から、0.25%前後に引き上げました。その後の経済・物価の動きは、日本銀行の見通しに概ね沿って推移しているとみています。今後の政策運営に当たっては、経済・物価情勢を丹念に点検しながら進めていく所存ですが、引き続き見通しに沿って展開していくと見込まれるのであれば、政策金利の水準の調整は、経済・物価情勢の変化に応じて、ゆっくりと進めていくことになると考えています。

 わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長を実現していくためには、金融資本市場において効率的な資金の配分が行われることが極めて重要です。そうした意味で、証券市場が高い機能と信頼性を兼ね備えることは、わが国経済の発展を金融面からサポートするものと考えています。

 近年、証券市場を取り巻く環境は、大きく変化しています。まず、金融技術の高度化が進む中で、より多様で複雑なキャッシュフローを扱う金融商品や取引が次々に現れてきています。また、インターネットでの証券取引や投資信託の販売が拡大するなど、証券市場は個人にとっても、より身近なものになってきています。さらに、企業が経営戦略や資本政策の見直しを行う上で、証券市場に期待される役割は一段と高まってきています。こうした状況変化のもとで、証券界の皆様には、個人や企業の多様なニーズに対応した創造的な業務展開を進めることが強く求められていると言えましょう。もとより、こうした業務展開を進めていく上では、リスク管理の面でも、様々なリスクを統合的に管理する枠組みの活用など、業務の変化を踏まえた適切な対応が必要であることは言うまでもありません。

 証券市場がその機能を十分に発揮し、信頼性を高めていくためには、市場の急速な構造変化に柔軟に対応していけるよう、市場インフラを整備していくことが不可欠です。こうした観点からは、システム処理の能力や機能の整備は、重要な課題と言えましょう。また、災害やシステム障害発生時など万一の場合において、市場の安定的な運行が確保されることも必要です。この点、証券界の皆様におかれては、業務継続体制のあり方について様々な検討を進めておられます。私ども日本銀行としても、金融市場全体の業務継続体制の整備に向けて、引き続き努力してまいりたいと考えています。

 市場インフラという点では、証券決済制度の整備も重要な課題です。特に、証券のペーパーレス化および振替決済制度への移行に関しては、国債や短期社債に続き、本年初には一般債についても実現されました。今後は、投資信託や株券にも拡充することが予定されており、証券のペーパーレス化は、総仕上げの段階に入りつつあります。私どもとしても、日本銀行当座預金を通じた大口資金決済について「次世代RTGS構想」を進めるとともに、資金・証券決済のDVP(同時受渡)の対象範囲の拡充に努めることなどを通じて、より安全で効率的な資金・証券決済システムの構築に向け、皆様方とともに引き続き取り組んでまいりたいと思います。

 最後になりましたが、皆様方の一層のご発展を祈念して、私のご挨拶と致します。ご清聴ありがとうございました。

以上