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最近の金融経済情勢について

茨城県経済界との意見交換会における福間年勝審議委員基調説明要旨

2006年11月24日
日本銀行

目次

1.はじめに 

 日本銀行の福間でございます。本日はお忙しい中、角田副知事、並びに茨城県の経済界を代表する方々にお集まり頂き、誠にありがとうございます。また、日頃から日本銀行水戸事務所が経済調査等々で大変お世話になっております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

 早速ですが、まず私が審議委員に就任して以降4年余りの金融経済情勢のレビューから始めさせて頂きたいと思います。お手許の別添資料(40KB)に、この間に行った講演の要約を添付しておりますので、ご覧下さい(注:本要旨では説明省略)。

 次に現在および先行きの金融経済情勢についてお話させて頂きますが、日本銀行では、お手許にお配りしました「経済・物価情勢の展望(2006年10月)」(展望レポート)で2007年度までの見通しを公表しており、その後複数のボードメンバーから情報発信もありましたので、私からは注目点に絞ってご説明します。

2.内外の金融経済情勢

(2-1)海外経済の動向

 まず、海外経済については、米国では、景気拡大のテンポが一頃に比べて鈍化していますが、軟着陸に向けた動きが続いています。すなわち、住宅市場は引続き減速していますが、個人消費は、雇用拡大や賃金上昇、ガソリン価格下落に支えられ、さらには株高の資産効果もあって底堅く推移しています。また、企業部門もグローバルに業績が好調な重厚長大産業や、ハイテク産業など幅広い業種で収益が総じて良好であり、こうしたもとで設備投資も堅調に推移しています。

 図表1-1をご覧頂きますと、その他の地域では、欧州で景気回復の動きがより確かなものとなっているほか、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)等の新興国も高い伸びを示すなど、概ね順調に拡大が続いています。図表1-2の国際通貨基金(IMF)の06年の世界経済成長率の見通し(5.1%)では、G7を含む先進29ヶ国の寄与度(1.6%)よりも、BRICsなどの新興国の寄与度(3.5%)が大きくなっています。このように、プレゼンスを高めている新興国の高い成長にも支えられて、世界経済は拡大を続けるとみられます。

 こうした中、グローバルな株式市場では、図表2のとおり米国のダウ指数が企業業績の好調やM&Aに絡んだ株買いから既往最高値を更新するなど主要国の株価が上昇しています。また、インド、インドネシアなどのアジア諸国や、メキシコの株価も、それぞれの国における高い経済成長や企業収益の好調等を背景に既往最高値を付けるなど、世界同時株高がみられています。図表2の約50ヶ国の株価指数から構成されるグローバル株価インデックスをみても、2000年に付けた既往最高値を更新しています。株高は、企業のほか、資産効果を通じて家計のマインド面にも好影響を与え得るため、今後の動向には注目したいと考えています。

(2-2)日本経済の動向

 日本経済は、図表3でご確認頂けますように、基調としては、内需と外需がともに増加するもとで、展望レポートの標準シナリオにほぼ沿って、緩やかに息の長い拡大を続けています。もっとも、内需では一部にやや芳しくない指標もみられており、景気情勢は引続き丁寧にみていく必要があると考えています。以下では、やや詳しくご説明します。

(2-2-1)企業部門

(1)企業のグローバル収益

 まず企業収益については、図表4にありますとおり、本年度は、製造業・非製造業とも5期連続の増益となる見込みです。もっとも、下期については減益見通しとの一部の集計もみられています。これは、基本的には、企業が期初予想を上回る上期決算を受けても通期決算を上方修正しないなど、保守的な姿勢を堅持している結果とみられますが、今後の企業業績の動向については、丁寧に点検していく必要があると思われます。

 足もとの業績堅調については、円安や原油価格下落にも支えられていますが、より長い目でみると、輸出とグローバル展開の好調が背景にあります。まず輸出については、海外景気の拡大と、円安のもとでの国際競争力の高まりを受けて好調です。図表5のグラフに示されているように、日本ではモノづくりが大切にされ、製造業が2割以上のウエイトを維持しています。特に国際競争力のある重厚長大産業が多いことから、欧米向けには老朽化したインフラの補修・改修のための資機材、建設機械や、設備投資のための産業機械等の輸出が伸びています。また、工業化に伴い高い成長を続けている新興国向けにも、活発なインフラ新設・拡充のための資機材、建設機械等の輸出が増えています。さらに、世界的な需要増大を受けてエネルギー・原材料価格が上昇するにつれ、省エネ・省資源技術に優れた日本車等への需要も世界的に高まっています。これを反映し、図表6にみられるとおり、日本の輸出相手国も多様化して米国向けの輸出ウエイト(金額ベース、2006/1-9月累計で23%)は低下しています。こうしたことから、日本の輸出が米国景気の拡大テンポの鈍化から受ける影響も、従来よりは緩和されているとみられます。

 次にグローバル展開については、図表7-1をご覧下さい。日本企業の海外売上高比率は近年上昇傾向を辿っています。図表7-2のとおり、個社ベースでは海外の売上高や利益が全体の6〜7割あるいはそれ以上に達する企業も増えています。多くの企業は労働力や生産設備は現地に頼りつつ、経営資源を現地に移転して日本式の経営を採用するというスタイルにより、グローバルな成長を収益化しています。その際、ITの活用により、距離や時差の制約を軽減することも含めて生産性を向上させていることが、一段とグローバル展開の効果を高めています。

 日本経済が今後とも持続的に成長していくためには、企業が輸出やグローバル展開を一段と拡大していけるようEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)、租税協定の締結等の環境整備が進められるとともに、国内では需要の中長期的な拡大が予想される医療・福祉・環境・教育等のサービス分野や農業分野等における規制改革によりイノベーション(技術革新)が支援されることが期待されます。

(2)設備投資

 設備投資は、図表8-1にお示ししておりますとおり、基調としては、堅調を続けています。設備投資の牽引役となっているのは、引続き製造業です。その背景としては、まず減損会計の導入や事業の「選択と集中」で設備廃棄が進んだことにより、図表8-2のとおり設備の過剰感が解消し、こうしたもとでヴィンテージの長い(老朽化の進んだ)設備が多くなっていることから、その代替設備への投資や、補修・改修、さらには能力増強のための投資が必要となっていることが挙げられます。また、企業が旺盛なグローバル需要への供給体制を整備していることや、IT関連資本財のウエイト増加などから投資サイクルが短期化していることも投資を支えています。

 こうした中、地方によっては工業団地の売れ行きが良いために手元の用地在庫が不足し、新たに拡張を行っているという話も聞かれるなど、設備投資に地域的な広がりがみられています。また、中小企業にも投資の裾野が拡がっているほか、非製造業も東京都心部で老朽化したビルの再開発が活発化する動きもみられるなど堅調です。

 中長期的にみても、人口減少社会において、成長を確保するためには設備投資により生産性を向上させることが重要です。このため、省力化・省エネ・環境対策等、潜在的な設備投資需要は根強いとみられます。但し、企業は、資本市場からの規律が強まるもとで、企業価値向上を慎重に見極めながら投資を行っていることなどから、過熱はしづらいとみています。実際、図表8-3のとおり、設備投資は、キャッシュフロー対比でみると引続き抑制的です。また、図表8-4をみますと、企業が増産投資に慎重であることを反映して、製造業の生産能力指数は引続き最近のボトムに近い水準に止まっています。

(2-2-2)家計部門への波及

 こうした企業部門の好調は、徐々に家計部門に波及していますが、今のところ期待したほどではありません。すなわち、雇用・所得環境をみると、図表9-1でご確認頂けますように、労働需給が引締まるもとで、雇用者数が着実に増え、残業代などの所定外賃金や賞与は増加していますが、企業がグローバル競争のもとでコストを抑制せざるを得ない環境が影響し、所定内賃金は前年比ゼロ%近傍で推移しています。こうした中、図表9-2の労働分配率も依然として最近のボトム圏で推移しています。

 また、株式関連では、図表9-2にありますように、株主への配当はこのところ目に見えて増えていますが、図表9-3でご確認頂けますとおり、昨年末にみられたマザーズなど新興市場株価の急騰による資産効果は、本年入り後の株価下落により剥落し、むしろ逆資産効果が働いている面もあります。

 こうしたもとで、個人消費関連指標は、夏場の天候要因もあって、図表10にありますように今一つ芳しくありません。もっとも、最近の労働需給の逼迫を受け、所定内賃金についても、まず非正規雇用で引上げる動きが広がりつつあるほか、正規雇用のベースアップに踏み切る動きも一部にはみられ始めています。また、このところの灯油・ガソリン価格の下落は、個人消費の下支え要因になるとみられます。

 今後の個人消費動向については、これらの要因を総合的に勘案しながら、丁寧にみていきたいと考えています。

(2-2-3)物価の動向

 次に物価について、まずグローバルな動向をみると、BRICsなどの新興国が世界市場に参入してきたことで国際的な企業間競争が強まっており、図表11-1、図表11-2のとおり、日本を含めて各国のユニット・レーバー・コスト、ひいては消費者物価が抑制されています。ただ、米国では労働需給の逼迫などからユニット・レーバー・コストが伸びを高めるなど、グローバル要因による物価抑制効果はこれまでよりは弱まっている可能性もあります。

 こうした中、日本の物価情勢は、景気が緩やかで息の長い拡大を続けるもとで、徐々に変化しています。まず、設備や労働といった資源の稼動率は高まり、不足感が強まっています。また、需給ギャップは、既に供給超過の状態を脱しており、今後も需要超過方向で推移していくとみられます。こうした状況を反映して、賃金は緩やかな上昇基調を続けており、ユニット・レーバー・コストによる物価への下押し圧力は、緩やかに緩和していると考えられます。

 個々の物価指標をみると、図表12のとおり国内企業物価は、非鉄金属などの国際商品市況の高止まりを受けて高めの伸びを示しています。ただし、足もとは、原油価格の下落を受けてやや伸びを低下させています。消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比は、図表11-2のとおり緩やかなプラス基調で推移しています。

(2-2-4)金融面の動向

 次に金融面では、図表13にお示ししているとおり、企業の資金繰り判断DIは、緩和的な水準にあります。その背景には、第一に、企業は運転資金、設備投資、M&A向け資金の需要を徐々に増加させているものの、収益好調を背景にキャッシュフローが引き続き高水準であることが挙げられます。第二に、図表14でお示ししているとおり、企業の財務内容の改善を背景として、企業間信用が回復しています。第三に、金融機関も、不良債権処理進捗や格付け向上等を受けて自己資本制約が緩和されていることを背景として、図表15のとおり貸出姿勢を積極化させています。

 金利についても、金融機関による貸出競争の激しさもあってクレジット・スプレッドの上昇は殆どみられず、企業の資金調達コストは低いままとなっています。また、7月の利上げ後も長期金利はむしろ低下していることから、利上げ前後にみられた一時的な駆け込み需要も収まっています。

3.日本銀行の金融政策運営

 最後に、日本銀行の金融政策運営について述べたいと思います。

(3-1)ゼロ金利政策の解除と市場機能の回復

 日本銀行は、7月に政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標水準を0.25%引上げてゼロ金利政策を解除しました。コール市場にとって金利の付く環境への復帰は5年振りでしたが、小幅とはいえ金利が付くことで市場参加者が余剰資金を徐々に積極的に運用するようになり、クレジット・ライン(与信限度額)の設定・引上げなどの関係者による市場整備も進む中で、取引が円滑になってきています。また、コール取引とユーロ円、為替スワップ取引など市場間の裁定も活発化してきています。このように、短期金融市場では、期待していた市場機能の回復がみられつつあります。

(3-2)物価安定のもとでの持続的成長の重要性

 今回の景気拡大期間は、今月で58ヶ月間となり、戦後最長であったいざなぎ景気を超えています。物価安定のもとでの持続的成長は、中央銀行にとっては勿論、企業にとっても持続的な収益拡大(将来の事業計画に対して不確実要因が減じられる)、政府にとってもインフレリスク・プレミアムの抑制による利払負担軽減や、持続的な歳入拡大に繋がる意義があり、三者が共有できる目標といえるのではないかと思います。

 今回の景気拡大局面においては、地域によって拡大のテンポにばらつきがあると指摘されることもあります。私どもが四半期毎に取り纏めております「地域経済報告」(さくらレポート)でも、そうした地域差はあるものの、足もとの景気はすべての地域において改善方向にあるとみています。今後、持続的成長を長く続けることにより、地方にも回復感が徐々に波及し、地域差も改善していくことが期待できると思われます。

 英国や米国では現在に至るまでの約15年間に亘って物価安定のもとでの持続的成長を実現し、その果実を享受しています。日本についても、現状に満足することなく、物価安定のもとでの景気拡大を長続きさせることが肝要です。ただし、今回の景気拡大は、図表16にもありますとおり、民需・公需ともに旺盛であったいざなぎ景気とは違って民需主導であり、企業はバブル期の教訓を踏まえリスク・マネジメントに一段と意を払いながら、現状に満足することなく、イノベーションとM&A戦略も組み込んで内外で積極的に事業を拡大しています。このように、今回の景気拡大局面では市場規律が働くほか、公需が見込めないこともあって、いざなぎ期のような高い成長は期待しにくい一方で、より自律性、持続性のある拡大が可能になると思われます。

 持続的成長を実現していくうえで留意しなければならないのは、現在の成長率は2%程度とはいえ、景気拡大がさらに長く続けば、物価に加えていずれ資産価格への影響も出てくる可能性があるという点です。近年において持続的成長を実現してきた英国やオーストラリア、さらには米国においても資産価格の急激な変動がみられましたが、これらの国では、過去の苦い教訓も踏まえ、今のところうまく対応しています。FRBのコーン副議長は、87年のブラックマンデー、98年のLTCM危機などにおける資産価格の急激な変動を踏まえた教訓の一つとして、「わずかな予防は、膨大な事後対応にも値する(an ounce of prevention is worth many pounds of cure)」ことを指摘しています。

 わが国では、70年代初のニクソン・ショック後や、80年代後半のプラザ合意後には、資産価格の変動のために多大な清算コスト(3つの過剰の解消、バランスシート調整を10年以上に亘って行わざるを得なかった)を要したという、苦い歴史があります。足もとの不動産市場をみると、一部にはやや投機的かと思われる取引も散発的にみられますが、今のところ全体としてみれば収益性に見合った価格で取引が行われているとみてよいかと思われます。また、一部の金融機関では、先行してノンリコース・プロパティ・ローンの利益確定売りに動いているなど、不動産市場は必ずしも強気一辺倒という訳でもありません。このように、資産価格については、今直ちに警戒される状況ではありませんが、今後ともよく見ていく必要があろうかと思います。

 最近では、企業並びに金融機関は、日本版SOX法対応など内部統制の強化、会計基準の国際化もあり、自己規律としてリスク管理を行っています。金融機関の場合はさらに、現行バーゼル規制よりも一段と精緻なリスク管理が求められるバーゼルIIへの対応も進めています。また、REIT(不動産投資信託)等にみられるように、ディスクロージャー(情報開示)を通じて、市場規律も働いています。企業並びに金融機関がこうした規律をうまく活用し、リスク管理を適切に行っていくことが期待されます。

(3-3)「新たな金融政策運営の枠組み」における点検

 日本銀行では、量的緩和政策を解除し金利コントロールを通じた政策に移行するに当って政策運営の透明性を確保する観点から、「新たな金融政策運営の枠組み」を導入しています。この枠組みでは、「中長期的な物価安定の理解」(消費者物価指数前年比で0〜2%程度)を念頭に置いて、2つの「柱」に基づく経済・物価情勢の点検を行い、その結果を踏まえて先行きの金融政策運営の考え方を明らかにすることとしています。

 先般の展望レポートでも、こうした点検を行っています。まず第1の柱は、2007年度までの経済・物価情勢についての点検ですが、先ほどからご説明している線に沿って、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していく可能性が高いと判断しています。

 第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくとも発生した場合に生じるコストも意識しながら重視すべき様々なリスクを点検しています。こうしたリスクとしては上振れ・下振れの双方が考えられます。例えば、資産インフレについては、今直ちに警戒される状況ではありませんが、一たび発生した場合には、中長期的にみて経済活動の振幅が大きくなるといったリスクは意識する必要があります。一方、今後の展開次第では、景気拡大や物価の上昇が足踏みするリスクも意識しておく必要があります。

(3-4)今後の金融政策運営

 先行きの金融政策運営方針については、このような2つの「柱」に基づいて、data dependantに(データ重視で)経済・物価の状況をみながら、市場との対話も図りつつ、予断を持つことなく慎重に判断していく所存です。

 長時間に亘りご清聴誠にありがとうございました。

以上