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「最近の金融経済情勢について」
静岡県金融経済懇談会における春英彦審議委員挨拶要旨
2007年2月8日
日本銀行
目次
1.はじめに
本日は、ご多忙の中、静岡県の行政および経済界を代表される皆様方のご出席を賜わり、懇談の機会をいただきましたことを大変、光栄に存じます。日頃は、武藤支店長はじめ静岡支店が、金融・経済の調査等々で大変お世話になっております。厚くお礼申し上げますとともに、今後ともよろしくご指導を賜りますようお願い申し上げます。
さて、本日は、まず私から、景気・物価の現状と見通し、そして今後の金融政策運営の考え方についてご報告し、その後、皆様方から当地の金融経済情勢や日本銀行の金融政策に対するご意見等をお聞かせいただければと存じます。
2.景気・物価の現状と見通し
(1)10月展望レポートの中間評価
日本銀行は、毎年4月と10月に「経済・物価情勢の展望」(通称「展望レポート」)によって先行き2年間の経済・物価の見通しを公表し、7月と1月にその中間評価を公表しています。昨年10月に公表した展望レポートでは、「わが国経済は先行き息の長い拡大を続けると予想される」とし、その基本的なメカニズムとして、(1)海外経済の拡大が続き、輸出の増加が続くこと、(2)高水準の企業収益が続き、設備投資は伸び率を低下させながらも増加が続くこと、(3)雇用者所得や配当の増加などを通じて好調な企業部門から家計部門への波及が進み、個人消費の増加が続くこと、(4)極めて緩和的な金融環境が引き続き民間需要を後押しすることの4点を想定しました。具体的には、政策委員の大勢見通しとして、実質GDPは2006年度から2007年度にかけて2%台前半の成長を続け、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品、以下コアCPI)は、2006年度は0%台前半、2007年度は0%台半ばに前年比プラス幅を次第に拡大すると予想しました。
その後、12月に公表された7~9月の実質GDPにより2006年度前半の実質GDP成長率が年率1%前後に減速していることが判明し、コアCPIの前年比も9月以降+0.1~+0.2%で推移しました。先月、1月の金融政策決定会合では、そうした動きが一時的要因によるものなのかといった分析を含め、様々な経済指標等を点検して、10月時点の見通しの中間評価を行いました。その結果、経済については、「これまでのところ、天候要因等一時的な下押し要因もあって個人消費を中心に幾分下振れている」ものの、「先行きについては、生産・所得・支出の好循環のメカニズムが維持されるもとで、『見通し』に概ね沿って推移する」と予想し、コアCPIは、「『見通し』に比べて、これまでのところ、原油価格反落の影響もあって幾分下振れているが、先行きは、『見通し』に概ね沿って推移する」と予想しました。
詳細は後ほど述べますが、10月時点で想定した景気拡大のメカニズムのうち、企業部門から家計部門への波及という点は、雇用者所得が緩やかに増加するなど徐々に進んでいるとみられますが、所定内給与や個人消費で伸び悩みの動きがみられるなど、やや遅れ気味となっている面もあります。厳しいグローバル競争の中で、企業が賃上げに慎重なスタンスを維持していることが要因の一つとみられますが、一方で、景気拡大や団塊世代の退職もあって雇用不足感は強まっており、賃金の上昇圧力は着実に高まっているのも事実です。先行きについては、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、個人消費も緩やかに増加基調を辿っていくものと考えています。
なお、日本銀行では、四半期ごとに、地域別の経済動向を取りまとめた「地域経済報告」(さくらレポート)を公表しています。1月のさくらレポートでも、地域別に濃淡はありますが、関東甲信越、東海、近畿が先行した形で全体として景気は着実に改善方向に向かっているとの判断が示されています。
以下、景気の現状について、海外経済、企業部門、家計部門と、順を追ってみていきたいと思います。
(2)海外経済
海外経済は、足許、着実に拡大を続けており、先行きも拡大を続ける可能性が高いと考えています。このうち、わが国最大の貿易相手国である米国の経済は、1月31日に公表された2006年の実質GDP成長率は、10~12月期の堅調な伸びもあって、3.4%と2005年の3.2%を上回りました。昨年半ばから、住宅投資の落ち込みを背景に減速を始め、先行き景気後退局面に入るのではないかとの懸念が持たれましたが、その後は雇用が着実に増加を続けるもとで、夏場以降の株高やガソリン価格の下落などもあって、年末のクリスマス商戦を含め、個人消費は堅調さを維持しています。企業部門も堅調に推移しており、好調な業績を背景に設備投資も増加を続けています。米国経済は、引き続き下振れリスクを警戒していくことは必要ですが、安定成長にソフトランディングする可能性が高いとみています。
米国以外の地域をみても、欧州が景気拡大を持続させているほか、東アジアの拡大やBRICsなど新興諸国の力強い成長も続いています。このように、世界経済は底堅い成長を続けており、IMFによる2007年の経済見通しも、4.9%と、2006年に続いて底堅い成長を続ける予想となっています。
この間、昨年前半まで高騰を続けていた原油価格は、WTIでみて、7月に1バレル77.03ドルという既往最高値を付けた後は下落に転じ、昨年末から今年初めにかけて一時50ドル近傍の水準まで下落した後、このところ50ドル台後半で推移しています。世界経済の拡大による原油需要の増加や産油国の生産余力不足、地政学リスクといった、かつて原油高騰をもたらした諸要因はなお根強く残っているため、先行き反騰するリスクには注意が必要ですが、原油価格の下落は、当面の世界経済の安定成長にとってプラスと考えてよいと思います。
(3)企業部門
続いて、国内の企業部門の動向ですが、全体として堅調に推移している状況です。日本銀行が四半期ごとに全国約1万社のご協力をいただいて企業経営者の景況感等を調査している「全国企業短期経済観測調査」(通称「短観」)をみると、製造業・非製造業とも全体として業況判断の改善傾向が続いています。直近12月の調査では、中小企業の業況判断も底堅い改善を示し、景気拡大の裾野が徐々に広がっているように見受けられます。
企業部門の動きを仔細にみていくと、まず、輸出・生産は増加傾向が続いています。先行きも、海外経済の拡大等を背景に、増加を続ける可能性が高いと想定しています。
また、企業収益も高水準となっており、設備投資も堅調に推移しています。短観における2006年度の経常利益計画(全産業全規模)は、前年より伸び率は低下しますが、5年連続の増益見通しとなっているほか、2006年度の設備投資計画(同)も、4年連続の増加見通しとなっています。先行き2007年度にかけては、収益、設備投資とも増加テンポは鈍化していくとみられますが、引き続き高水準を維持していく可能性が高いと想定しています。
この間、好調な業績を反映して、設備や雇用の不足感も強まっています。短観でみると、製造業の生産・営業用設備判断は、大企業・中堅企業で「不足」超に転じており、中小企業も昨年12月調査で「過剰」超が解消しました。非製造業を含む全産業でも、約15年ぶりに「不足」超に転じています。雇用人員判断も、大企業、中堅・中小企業とも「不足」超に転じ、不足幅の拡大が続いています。
このように好調な企業部門ですが、昨年半ばから、鉱工業全体の出荷在庫バランスが良好に推移する中、電子部品・デバイスの在庫が急速に増加しています。これには、パソコンやゲーム機等の各種新製品に向けた在庫積み上げなどが影響する一方で、国内メーカーの一部新商品向けの部品については、受注が予想比下振れ、在庫積み上がりが発生した模様です。11月には新製品の出荷が進む中で在庫は一旦減少しましたが、12月は再び増加しました。現時点では調整が広範化する可能性は低いと考えられますが、この分野では能力の増強ペースがかなり速いこともあり、注目しています。
(4)家計部門
次に、国内の家計部門の動向ですが、企業部門の堅調さとは対照的に、昨年夏以降の賃金、個人消費関連の経済指標は、回復感に乏しいものとなっています。雇用者所得の動きをみると、労働者数の増加や所定外・特別給与の伸びによって、全体としては前年比僅かにプラス基調で推移していますが、基本給を中心とする所定内給与については、前年比ゼロ%近傍の動きとなっています。また、個人消費も、7~9月のGDP統計で大きく落ち込み、全体の足を引っ張りました。
有効求人倍率が上昇し、失業率が低下するなど、労働需給がタイト化しているにも拘らず、所定内給与が伸び悩んでいる背景としては、賃金の高い高齢層の退職によって、雇用者一人あたりの平均賃金が低下していることが影響しているかもしれませんが、基本的には、厳しいグローバル競争を背景に、企業が、固定費増加に繋がる所定内給与の増加に慎重なスタンスで臨んでいることが大きいと考えられます。
一方、7~9月に大きく落ち込んだ個人消費関連の統計については、天候要因や、携帯電話・パソコン等の新製品投入前の買い控えなど、一時的要因が影響している面が大きく、消費の実態は、若干の伸び悩みはあるとしても、統計に表れているほど悪くないと考えています。統計の内容にもバラツキがみられ、例えば、7~9月の家計調査は大きく落ち込んでいますが、より大きいサンプルで調査した「家計消費状況調査」の支出総額はさほど落ち込んでいないほか、家計調査も、10月以降は7~9月に比べて持ち直しています。消費財の出荷状況をみても、一時的要因のあった携帯電話・パソコン等を除いたベースでみれば、堅調な動きが続いています。一方で、小売、飲食、サービス関連など個人消費の現場に携わる方々を対象とする景気ウォッチャー調査は、このところやや冴えない動きを示しています。
このように、足許は改善が遅れ気味の家計部門ですが、先行きは緩やかに改善していく可能性が高いと考えています。すなわち、所定内給与については、企業の慎重なスタンスは続くとみられますが、一方で、雇用不足感は次第に強まっており、賃金の上昇圧力は着実に高まっています。実際に、今年の春闘では、一部業種で数年ぶりの賃上げを決定するといった動きもみられています。先行きについては、雇用不足感が強まる方向にあり、企業収益も高水準を続けるとみられることなどから、雇用者所得は緩やかな増加を続ける可能性が高いと考えられます。また、個人消費も、雇用者所得や株式配当の増加などから家計の収入は改善していくとみられ、先行き緩やかに増加基調を辿っていくものと考えられます。
(5)物価動向
物価動向についてみると、足許のコアCPI前年比は、石油製品の上昇幅縮小もあって、11月+0.2%、12月+0.1%と緩やかな伸びとなっています。
先行きの物価変動に影響を与える基本的な要因とされている需給ギャップ(設備や労働といった資源の稼動状況を示す)とユニットレーバーコスト(生産一単位あたりに要する人件費)の動きをみると、推計方法によって幅があるようですが、日本銀行の推計によれば需要超過状態に入っていると考えられる需給ギャップは、設備や労働力の稼働率が高まる中で、緩やかにプラス幅を拡大していくとみられます。また、ユニットレーバーコストも、賃金が増加基調を辿っていく中、プラスに転じていくものと考えられます。こうしたことから、先行きのコアCPIは、石油製品などの動きによる振れを伴いつつも、基調としては緩やかに上昇していく可能性が高いと考えています。
この間、資産価格の代表的な指標である地価の動きをみると、六大都市の商業地などでの地価高騰が著しく、資産バブルの再来を懸念する向きもあるようですが、全国的にみればまだ地価は全体として下げ止まりつつあるところで、価格形成もかつてのバブルの時期とは異なり、総じて収益還元法に基づく合理的なものとなっているようです。今後も、緩和的な金融政策の刺激効果が地価に代表される資産価格にどのように現れていくか、引き続きみていきたいと思っています。
(6)金融面の動き
金融市場の動向をみると、日本銀行の政策金利である短期金融市場の無担保コールレート(オーバーナイト物)は、長い間ゼロ%近傍の水準を続けていましたが、昨年7月のゼロ金利解除以降、日本銀行が誘導目標とする0.25%前後の水準で推移しています。金利が僅かながらプラスになったことによって、短期金融市場は全体として取引が活発化し、より効率的に資金の融通や金利形成が行われるようになるなど、市場機能は着実に回復してきている状況です。企業の収益率が高水準となり、物価もプラス基調で推移している状況下、極めて低い金利を続けていることによる経済に対する刺激効果は強まっていると考えられます。この間、長期金利は、このところ振れを伴いつつも横ばい圏内の動きとなっているほか、金融機関の貸出金利も、足許幾分上昇していますが、全体として極めて低い水準に止まっています。
3. 今後の金融政策運営
(1)新たな金融政策運営の枠組み
日本銀行は、昨年3月、それまで金融システム不安が強い中で日本経済がデフレスパイラルに陥ることを回避するため、2001年3月以来ほぼ5年にわたって続けてきた所謂「量的緩和政策」を解除し、金融市場調節の対象を短期金融市場の金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)とし、また、7月にはゼロ金利解除により政策金利を0.25%に引き上げ、現在に至っています。
昨年3月の量的緩和政策の解除にあたって、日本銀行はその後の金融政策運営について、「新たな金融政策運営の枠組み」として、(1)中長期的な物価安定の理解、(2)2つの「柱」に基づく経済・物価情勢の点検、(3)当面の金融政策運営の考え方の整理を公表しました。
この中で、まず、「中長期的な物価安定の理解」は、昨年3月の時点において、日本銀行で金融政策の決定にあたる9名の政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率を示したもので、おおよそのレンジが0~2%程度、大勢の中心値が概ね1%前後で分散しており、この内容は現在まで変更しておりません。また、「2つの柱に基づく経済・物価情勢の点検」は、金融政策の運営にあたっては先行き1~2年の経済・物価情勢の見通しが物価安定のもとでの持続的な成長の経路を辿っているかという点検(第1の柱)に加えて、そうした見通しの期間を超えるような長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくても発生した場合に生じるコストも意識しながら、金融政策運営にあたって重視すべきリスクがないかどうかの点検(第2の柱)を行うとしたもので、そうした点検を踏まえて、年2回公表する展望レポートにおいて、「当面の金融政策運営の考え方」を公表することとしています。
私としては、こうした枠組みのもとで、日本銀行の持つ先行きの景気・物価の見通しやリスクについての見方、そして金融政策運営の考え方を、可能な限り市場参加者や国民の皆様に公表して透明性を確保しながら、状況の変化に応じて機動的に金融政策を運営していくことが重要と考えています。
(2)今後の金融政策運営
日本銀行の金融政策は、毎月開催される金融政策決定会合の場で、私を含めた9名の政策委員が、経済・物価情勢を丹念に点検しながら、次回会合までの金融市場調節方針等を議論した上で、多数決で決定しています。その結果、昨年7月のゼロ金利解除後は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.25%前後で推移するよう促す」という金融市場調節方針が維持されています。
先ほど述べたように、日本銀行は、10月の展望レポートにおいて当面の金融政策運営方針を示しており、現在も、その方針に則って金融政策を運営していくという考え方に変更はありません。すなわち、当面の金融政策運営方針は、先ほど述べた金融政策運営の枠組みに則って、2つの「柱」に基づく点検を行った結果、「極めて低い金利水準による緩和的な金融環境を当面維持しながら、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行う」というものです。
私としては、当面の金融政策として、物価の安定を維持しつつわが国経済を持続的な成長軌道に着実に乗せていくことが最重要の課題であり、そのために緩和的な金融環境をしっかりと維持することは不可欠と考えます。同時に、10月の展望レポートにおいて第2の柱による点検の結果としてとりあげた、政策の対応が遅れ、経済・物価の振幅を大きくしてしまうリスクにも目配りが必要であり、先行き特にインフレリスクが認められない中で急ぐ必要はないものの、現在なお異例の超低金利に止まっている金利水準を、緩和的効果を維持しつつ、経済・物価情勢の改善状況に応じて、徐々に調整していくことも必要と考えています。
先般、1月17、18日に開催された政策決定会合では、冒頭述べた中間評価を行った上で議論を行い、賛成6、反対3の多数決で、金融市場調節方針の現状維持を決定しました。経済・物価については、先ほど述べたように、生産・所得・支出の前向きのメカニズムは変わっておらず、先行き10月時点の見通しに概ね沿って推移する可能性が高いという点では各委員の意見が一致した一方で、金融政策についての判断は分かれたことになります。現状維持の案に賛成した6名の委員は、金利水準の調整については、先行きの経済・物価の見通しやリスクについてさらに追加的な情報を加えて判断することが適切との意見であり、金利水準の調整を進める案を提案した3名の委員は、その時点で金利水準の調整を行う条件は整っているとの意見であったと私は理解しています。
次回会合は2月20、21日の2日間にわたって開催されますが、私自身、現時点では、どのような判断をするか決めておりません。それまでに出てくる様々な経済指標や情報など、判断材料を丹念に分析し、また、会合の場で他の政策委員としっかり議論した上で、判断を固めたいと考えています。皆様からも、この後、日本銀行の金融政策に対する忌憚のないご意見を伺いたいと思っていますので、よろしくお願い申し上げます。
4.金融システム面での日本銀行の取り組み
ここで、金融システム面での日本銀行の取り組みについて触れたいと思います。わが国の金融システムは、不良債権問題を概ね克服し、全体として安定性を回復しています。この間、資金仲介機能は着実に回復し息の長い景気拡大を支える役割を果たしています。金融機関の融資姿勢は積極化し、銀行貸出は緩やかに増加傾向を辿っています。その中で、金融機関は、リスク管理や経営管理の高度化を図りつつ、多様化する顧客ニーズに的確に応えて、創造的な業務展開を図る努力を続けておられます。
日本銀行としても、2005年度から、金融システム面の対応を、危機管理重視から、金融システムの安定を確保しつつ、公正な競争を通じて金融の高度化を支援していく方向に切り替え、2005年7月には金融機構局内に「金融高度化センター」を設けて、各種セミナーの開催等の新たな取り組みを始めました。当地におきましても、昨年10月、金融高度化センターと静岡支店が共同で、地域銀行向けと信用金庫向けの2回に分けて、「金融高度化セミナー」を開催しました。
本年3月末に実施されるバーゼルIIも、日本銀行が掲げている金融の高度化と軌を一にするものです。すなわち、1990年代以降、国際的にみられた金融技術革新やリスク管理実務の高度化等を踏まえ、(1)リスク計測の精緻化、(2)金融機関自身による自己資本戦略の策定と監督当局によるレビュー、(3)情報開示の充実と市場規律の活用、という3つの柱によって、現在の自己資本比率規制を見直したものです。
今後とも、従来からの考査やモニタリングに加え、金融高度化センターの活動によって金融機関との間でリスク管理や経営管理の高度化に関する認識共有や意見交換を進めていく方針ですので、金融機関の皆様には、日常の静岡支店との情報交換などとともに、是非ご活用いただきたいと思います。
5.静岡県経済の現状と特徴的な動き
最後に、当地経済の現状と特徴的な動きについて述べたいと存じます。静岡県は、1人あたり県民所得全国3位の豊かな地域であり、製造品出荷額、工場立地件数で全国トップクラスの地位を占めるなど、有数の「モノづくり県」となっています。足許、当地の景気は着実に回復を続けていますが、ウェイトの高い製造業の輸出好調などから、短観の業況判断D.I.は全国を上回るペースで改善を続けています。
こうした当地の発展は、交通インフラを含めた「地の利」の良さや、多彩な産業と技術の集積、豊かな自然環境、豊富な農水産物など、有形・無形の資源に恵まれていることが背景にあると考えています。足許も、企業レベルで様々な研究開発が行われているほか、地域レベルでも、経済産業省の「がんばる商店街77選」に選ばれた静岡呉服町名店街など中心市街地活性化の取り組みや、伊豆地区における観光振興の取り組みなどが行われています。さらに、県レベルでも、「富国有徳、創知協働」を基本理念とする活動を進める中で、県東部、中部、西部それぞれの特色を生かした「静岡トライアングルリサーチクラスター形成事業」など、産官学が連携した新産業創出の取り組みも行われています。こうした動きが、当地産業をさらに高度化・発展させていくものと考えられます。
また、もう一つの特徴的な動きは、数多くの外資系工場の進出です。1月25日に閣議決定された「日本経済の進路と戦略」の中でも、オープンな経済システムの構築に向けて、対日直接投資残高の引き上げが目標として設定されていますが、当地への外資系工場の進出件数は、2005年までの17年間で20件と全国1位、全国シェアは9.0%と高水準にあります。外資系企業のオフィス進出をサポートする静岡県の先見的な活動が実を結びつつあるものと思われます。
また、2009年には、富士山静岡空港が開業する予定です。当地と世界を繋ぐ新たな物流の拠点として産業活性化の起爆剤となるほか、東アジアからの観光客など人の交流が活発化することも期待されます。新空港の開業をきっかけに、当地がグローバル化を生かしたさらなる飛躍を遂げることを期待しています。
6.結び
本日はこれまで、景気・物価の現状と見通し、今後の金融政策運営、そして当地経済の特徴的な動きについて、一部私個人の意見も交えてお話をさせていただきました。
これよりご出席の皆様から当地の経済情勢についてお話を聞かせていただき、併せて日本経済の将来展望、これを踏まえた日本銀行の金融政策へのご注文などを拝聴して参りたいと存じます。長らくのご清聴ありがとうございました。
以上