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平成19年度入行式における総裁挨拶要旨

2007年4月2日
日本銀行

 日本銀行へのご入行、誠におめでとうございます。心から歓迎します。希望に満ち溢れた皆さんのお顔を拝見し、大変心強く感じます。今日から、仲間として一緒に頑張っていきましょう。

 日本銀行は、金融システムを健全な状態に保つと共に、金融機能の向上を強く後押ししています。その上で、物価安定の下での経済全体の円滑な発展を促すという重要な使命を負っています。また、業務を遂行する上では、規律ある組織運営によって、世の中の信頼に応えていかなくてはなりません。皆さんには、このような日本銀行の役割を、まずしっかりと認識して欲しいと思います。

日本経済について

 日本経済は、グローバル経済との連関を強めながら、緩やかながらも着実に前進を続けています。皆さんは、日本経済の良い方向への折り返し地点で入行をされたと言えます。

 振り返れば、1980年代央以降の経済のグローバル化や情報通信革命の進展などを起点とする世界経済の大きな潮流変化に適応するための調整過程は、日本経済にとって大変厳しく、長期にわたるものでした。しかしながら、日本の企業は、この間、いわゆる「3つの過剰」——債務、雇用、設備の過剰——の苦しい調整を進めるとともに、縮小均衡に陥ることなくイノベーションや市場開拓の力を伸ばし、また、アジアを中心に国際的な分業体制を新たに構築してきました。

 金融システム面の健全化の動きも顕著な進展をみました。金融機関は、不良債権問題を概ね克服し、時代の要請に沿った質の高い金融サービスを効率的に提供できるよう、様々な変革や再編を行いながら体制を着実に整えてきています。

 これからは、今の前向きな動きを、いよいよ加速させていかなければなりません。そのためには、付加価値創出の最前線を常に走り、global competitionに真に勝ち続ける体制を築くことが必要となります。

 しかしながら、日本経済の行く手には、大きなチャレンジが待ち受けています。総人口が既に減少を始めた下で高齢化が加速していきます。こうした経済の成長にとって逆風となる条件を克服しながら、中長期的に日本経済の成長力を高め、財政再建を確実に成し遂げていかなければなりません。

 このためには、新たな価値観を持った社会への転換が求められます。伝統文化を共有し、尊重する姿勢は重要なものですが、時に、社会全体の考え方を著しく同質的なものにしてしまうリスクを秘めています。人それぞれの特性や能力を互いに理解し、認め合うことがとても大切です。

 その上で、日本経済が直面する困難の解決策を見出すためには、受益と負担の公平性を冷静に判断しつつ、各種制度の再設計を合理的に進めることが重要です。

 日本銀行の仕事も、金融政策をはじめ、forward-lookingなものに大きく転換しています。また、アジア各国の中央銀行との金融協力を拡充するなど、グローバルな展開が多くなっています。組織運営面でも、業務内容を環境変化に即応して常に進化させるべく、「中期経営戦略」を策定しており、その実施が軌道に乗って来ています。

日銀マン、日銀レディーとして

 日本銀行の一員となる皆さんには、やはり前向きな発想を持って欲しいと思います。仕事や知識を学ぶ上での出発点は常にテキストブックです。しかし、急速な環境変化の中で、常に先を見ながら仕事をしようと思えば、テキストブックに最終的な答えが見つかるはずはありません。

 職場では、まず諸先輩のアドバイスを十分に理解し、仕事をきちんとマスターして下さい。ただその時、何事につけ自分自身の頭で良く考える、判断能力を磨く、ということを強く意識することが肝要です。物事が何故そうなるのか、本質に遡り、深く掘り下げて考える癖を身につけて欲しいと思います。

 また、日本経済と世界経済との連関が強まるもとで、グローバルな問題意識を他の中央銀行と共有しながら、国内の仕事を進めていくことも重要となっています。

 職業人として、コアとなる自分の得意分野、専門分野を持つことは必要です。しかし、その得意分野を意識し過ぎて、自らを狭い殻の中に閉じ込めては、広く世の中の価値創造に貢献していくことは出来ません。何気ないことですが、人の嫌がる仕事を積極的に引き受ける姿勢も大事です。仕事の選り好みは禁物です。

 日本銀行は、中央銀行としての日々の様々な業務を通じて日本経済の発展に貢献する組織です。皆さんが、今抱いている「日本経済のために貢献したい」という純粋な思いを胸に、「公の仕事」——パブリック・サービス——、に徹して下さい。

 パブリック・サービスにひた向きに取り組めば、きちんと評価を受け、結果として自己実現にも繋がることと思います。何も、自分の能力をひけらかす必要はありません。評価されるべきところは、自ずと評価されるものです。

 日本に中央銀行は一つしかありません。しかしながら、海外に目を向ければ多くの競争相手がいます。そうした中で、日本の通貨、引いては日本経済の持てる力を、グローバル経済との調和を取った姿で最大限に引き出すという、チャレンジングな仕事に取り組んでゆかねばなりません。

 キーワードは、「戦略、起動、実現」です。これをしっかり胸に刻んでください。深い洞察力を持ってプランを練り、遅滞なくアクションを起こし、そして実際にやり遂げることです。今後、皆さんが、この運動法則を自らのものとし、社会に貢献できる人材として成長していかれることを、心から期待しています。

 このことをお願いして、私の歓迎の言葉とさせて頂きます。

以上