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最近の金融経済情勢と金融政策運営

奈良県金融経済懇談会における野田忠男審議委員挨拶要旨

2007年7月26日
日本銀行

目次

  1. 1.はじめに
  2. 2.経済・物価情勢の現状と先行きの見通し
    1. (1)経済・物価情勢の現状と先行きの見通し
    2. (2)先行きを展望するうえで留意すべきポイント
  3. 3.今後の金融政策運営
    1. (1)2月の金融政策変更後の金融市場
    2. (2)金融政策運営の枠組みと「中長期的な物価安定の理解」
    3. (3)今後の金融政策運営
  4. 4.長期的な視点から~少子高齢化の時代に臨んで~
  5. 5.終わりに代えて~奈良県経済の現在と未来~

1.はじめに

 本日は、奈良県の行政および金融経済界を代表される皆様の前でお話を申し上げる機会を得まして大変光栄でございます。日本銀行では、奈良県内の経済・物価・金融情勢に関する情報収集やその他の業務につきましては、大阪支店1が担当させて頂いておりますが、日頃よりこうした業務を円滑に実施できておりますのも、地元の皆様の温かいご支援とご協力があればこそと存じます。本日ご臨席頂きましたことと併せ、厚く御礼申し上げます。

 この席では、まず日本銀行が本年4月末に公表いたしました「経済・物価情勢の展望(2007年4月)」(いわゆる「展望レポート」)を基に、今月の金融政策決定会合での中間評価も交えながら、最近の我が国の経済・物価情勢についてお話しすることから始めたいと思います。日本銀行は、毎年4月と10月の年2回、金融政策決定会合の決定を経て、「展望レポート」において、日本銀行の経済・物価情勢に対する見通しを公表しています。また、毎年7月と1月の年2回は、「展望レポート」で発表した先行きの経済と物価の見通しについての中間評価も行っています。この「展望レポート」は、政策委員9名の意見を最大公約数的に纏めたものですが、ここでは、日本経済の現状と見通しおよび今後の金融政策運営につきまして、一政策委員としての私の見方も織り交ぜながら、お話しさせて頂ければと存じます。

 なお、本会の趣旨は皆様からお話を頂戴することにあります。日本銀行の審議委員に就任して以来、早や1年が経過いたしましたが、マクロ経済に関する様々な統計や指標に接する機会が多くなる一方で、どうしても活きた経済の動きや情報、実際に経営に携わっていらっしゃる方々の考え方を直接得る機会が少なくなっています。この機会に毎日のご商売の実感や地方経済の現状に関する皆様のご意見を拝聴させて頂ければ、私自身、今後の金融政策運営に携っていくうえで大いに参考になり、楽しみにしているところでございます。従いまして、私からのご報告は簡単に止め、その後は、皆様のご意見や日本銀行に対するご要望などを是非お聞かせ頂きたいと存じます。

  1. 1日本銀行大阪支店の業務区域は、大阪府、奈良県、和歌山県の1府2県に跨っています。

2.経済・物価情勢の現状と先行きの見通し

(1)経済・物価情勢の現状と先行きの見通し

(現状:緩やかに拡大する経済)

 最初に、我が国の経済・物価情勢の現状についてお話ししたいと思います。

 日本経済は、現状、「緩やかに拡大している」とみています。世界経済が拡大を続ける中で、我が国の輸出は増加を続けています。また、国内民間需要も、好調な企業部門に比べると、家計部門の改善テンポがやや緩慢ではありますが、引き続き底堅く推移しており、全体としてみれば、4月の「展望レポート」でお示しした「経済・物価情勢の見通し」における標準シナリオ2に概ね沿った動きであるとみています。

 先月発表されました本年1~3月期の実質GDP成長率は前期比年率で3%を超え、5%超となった昨年10~12月期に続き高い成長を記録しました3。項目別にみますと、純輸出は引き続き増加基調を辿っていますほか、昨年7~9月期に天候要因や新製品発表前の買い控えなどから一時的に減速した個人消費は、10~12月期に持ち直した後、1~3月期も増加を続け、雇用環境や所得環境の改善が続く中で底堅さを保っています。また、設備投資は前期比減速しましたが、6月短観4をみましても、好調な企業収益と潤沢なキャッシュフローを背景に設備投資は順調に拡大を続けているとみられます5。一方、生産は、IT関連財や自動車などの一部に軽い生産調整の動きがみられるものの、内外需要の増加を背景に総じて増加基調が続いているとみています。

 一方、物価面では、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に上昇を続けていますほか、企業向けサービス価格指数も少しずつ上昇してきています。一方、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品。以下同じ)の前年比は、石油製品の伸び率鈍化と耐久消費財の下落継続を主因に、このところゼロ%近傍で推移しています。この動き自体は、4月の「展望レポート」での標準シナリオの範囲内ではありますが、家賃や移動電話通信料など、一般サービス価格の動きは僅かに弱めであると言えます。

  1. 2本年4月の展望レポートにおける政策委員の大勢見通しをやや詳しくみますと、2007年度の実質GDP成長率のレンジは+2.0~+2.1%、中央値は+2.1%、同消費者物価(全国、除く生鮮食品)前年比上昇率はそれぞれ0.0~+0.2%と+0.1%になっています。2008年度の実質GDP成長率はそれぞれ+2.0~+2.3%と+2.1%、同消費者物価(全国、除く生鮮食品)前年比上昇率は+0.4~+0.6%と+0.5%となっています。
  2. 3具体的には、本年1~3月期の実質GDP成長率は前期比+0.8%(年率+3.3%)となり、高成長となった前期(同+1.3%<同+5.4%>)は下回りましたが、引き続き高い伸びを維持しました。需要項目別の寄与度を前期比でみますと、設備投資は横這いとなりましたが、個人消費は+0.4%と前期(同+0.6%)に続きプラスとなりましたほか、純輸出も同+0.5%と全体のプラスに大きく寄与しました。
  3. 4「短観」の正式名称は「全国企業短期経済観測調査」といい、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的として、業況等の現状・先行きに関する判断(判断項目)や、事業計画に関する実績・予測(計数項目)など、企業活動全般に関する調査項目について、日本銀行が全国の調査先企業に協力して頂き、四半期毎に実施する統計調査(ビジネス・サーベイ)です。
  4. 56月短観では、全産業・全規模ベースの経常利益の前年比伸び率は、2006年度が2桁の伸びとなった後、2007年度も、現時点では前年度並みの高水準が見込まれており、売上高経常利益率も4.16%と既往ピークの前年度(4.26%)並みの水準を維持しています。また、2007年度の企業の設備投資額も、2桁近い伸びとなった2006年度を更に上回る計画となっています。

(先行き:息の長い成長と上昇基調を辿る物価情勢)

 では、我が国経済の先行きは、どうでしょうか。日本銀行では、生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持されるもとで、景気は息の長い成長を続けていく可能性が高いとみています。「展望レポート」作成時の4月末時点で政策委員9名の見通しを取り纏めた結果をみましても、実質GDP成長率は、2007年度から2008年度にかけて2%程度と潜在成長率6を幾分上回る水準で推移する形となっています2

 こうした先行きの見通しに関する基本的な考え方は、これまでと大きな変化はありません。すなわち、私ども日本銀行では、(1)海外経済の拡大を背景に輸出の増加が続くこと、(2)企業部門の好調が続き、設備投資は伸び率を次第に鈍化させつつも、増加を続けること、(3)雇用者所得や株式配当の増加など様々なルートを通じて、好調な企業部門から家計部門への波及が緩やかながら着実に進んでいくこと、(4)極めて緩和的な金融環境が引き続き民間需要を後押しすること、の4点を、先行きの景気判断の前提やメカニズムと考えています。

 また、物価につきましても、緩やかながらも上昇基調を続けていくとみています。先程お話ししました経済の見通しのもとで、設備や労働といった資源の稼働状況は一段と高まっていくと考えています。また、現在は低下しているユニット・レーバー・コスト(生産1単位当たりの人件費)も、賃金の上昇が明確になる中で、下げ止まりから若干の上昇に転じていく可能性が高いとみています。併せて、各種サーベイ結果にも表れていますように、家計の物価上昇率の見通しは、再び上方修正されてきていることも見逃せません7

 消費者物価指数に即してみますと、目先はゼロ%近傍で推移する可能性が高いものの、やや長い目でみれば、緩やかな上昇基調が維持されるとみています。「展望レポート」における政策委員の見通しをみましても、その伸び率は、2006年度のゼロ%近傍から、2007年度に極く小幅のプラス、2008年度になり漸く0%台半ばに達するという極めてゆっくりとした上昇ペースとなっています2

  1. 6日本銀行では、我が国経済の潜在成長率の水準を1%台半ばから後半とみています。もっとも、潜在成長率の推計値は、経済構造の変化や技術革新のスピードなどによって時間とともに変化するほか、データの追加などによって事後的に変わる可能性があるため、幅をもってみる必要があると考えています。
  2. 7例えば、日本銀行が一般の方々を対象に行う「生活意識に関するアンケート調査」の6月調査結果では、1年後の物価について「上がる」との回答が全体の約7割を占めていますほか、その具体的な上昇率は平均で+4.5%と、前回3月調査の+3.0%に比べ若干上昇しています。また、内閣府の「消費動向調査」の6月調査結果では、1年後の物価について「上がる」との回答は全体の66.6%を占め、1年前の調査に比べ、+2.6%ポイント上昇しています。

(2)先行きを展望するうえで留意すべきポイント

 このように我が国経済は、足許では着実な回復基調を辿っていますが、2008年度にかけての景気を展望しますと、依然として上振れ・下振れの不透明要因が幾つか残っているのも事実です。以下では、こうした先行きを展望するうえで留意すべきポイントについて簡単に述べたいと思います。なお、私自身、こうした要因が顕現化する可能性が特段高いとみている訳ではないことをはじめに申し添えておきます。

(海外経済:米国経済は本当に底堅いのか?)

 先程申しましたように、世界経済をみますと、これまでのところ、総じて堅調に推移しています。米国では、住宅市場を中心に景気の調整局面が続いていますが、軟着陸シナリオの範囲内の動きに止まるとの見方が依然として有力です。好調な欧州や東アジア諸国だけではなく、中東、南米、ロシアなどの資源国も含めて、言わば地域的な拡がりを持ちながら、米国の減速をカバーしつつ、拡大基調が続くとみられます8。しかしながら、こうした国々のうち、日本の最大の輸出国であり、世界経済に最も大きな影響を及ぼす米国経済の今後の行方がやはり気になります。

 その米国経済ですが、最大の注目点はGDPの7割を占める個人消費の行方です。現状は、ガソリン価格の上昇を受けて減速してきていますが、雇用の底堅さや株価の上昇に支えられて、堅調を維持しています。但し、先行きにつきましては、依然としてトンネルの出口がみえない住宅市場の低迷による資産効果の剥落や長期金利の一段の上昇などにより、更に減速感を強めてくる可能性もあります。住宅市場につきましては、このところ発表されました指標をみましても依然として冴えない状況が続いており、「サブプライム住宅ローン」の問題——高金利型の住宅融資の不良債権問題——も依然として燻っています。これらが景気全体や金融システムに及ぼす影響は限定的であるとの見方が強いものの、住宅市場の回復には思った以上に時間がかかる可能性が指摘されており、引き続きしっかりとしたウォッチが必要であると思っています。また、設備投資につきましても、足許漸く改善の兆しがみえ始めていますが、一頃の力強さはなく、依然として気懸かりな状況にあると言えましょう。

 また、米国では、設備や労働といった資源の稼働状況が引き続き高水準で推移する中、インフレ予想が高まってくる可能性も残っています。最近のインフレ指標をみますと、コアCPIやPCE(個人消費支出)デフレータなどは徐々に前年比の伸び率を鈍化させていますが、足許の失業率は依然として低水準で推移しており、ユニット・レーバー・コストも高止まったままであるなど、賃金インフレ圧力がしっかりと収まっていると言える状況にはなく、FRBもインフレ警戒姿勢を緩めていないようです。米国経済が軟着陸シナリオに沿って調整プロセスを経ていく中で、仮にもこのインフレ圧力の抑制に対してFRBが後手に回ったと市場に判断された場合には、米国長期金利の一段の上昇はもとより、金融資本市場の反応などを通じて世界経済全体にも悪影響を及ぼす、といったリスク・シナリオは引き続き想定しておく必要はあると考えます。

  1. 8例えば、本年4月に国際通貨基金が公表しました「世界経済見通し」では、世界経済の実質成長率は、昨年9月時点の見通しと変わらず、2007年、2008年とも+4.9%と高目の成長持続が見込まれています。

(個人消費:回復は本物か?)

 次に、我が国経済における個人消費に関して述べたいと思います。日本銀行では、今後の景気拡大の過程におきまして、企業部門の好調さが家計部門に緩やかながらも着実に波及していくとみています。こうした中で、個人消費は、昨年夏場の落ち込みから、その後は着実に回復してきています。市場などでは、こうした動きを捉えて、雇用者所得の増大を背景に個人消費が急拡大し、設備投資や純輸出といった需要項目に代わる景気拡大のドライバーになる可能性を期待する向きもみられます。しかしながら、私としましては、個人消費は、現状の極めて緩やかな増加ペースが今後も続くと見込まれるものの、目を見張るような急拡大も期待できないのではないかと考えています。

 最近の雇用情勢をみますと、雇用者数は、企業部門の拡大に伴い、前年比でみて1%台半ば前後のペースで着実に増加しています。生産年齢人口が減少する中で、労働参加率を高めたとしても、こうした基調が続く限り、やや長い目でみれば、労働需給が徐々にタイト化することは避けられないと思います。短観などの企業アンケートでも企業の人手不足感は強まる方向にあり、失業率は低下傾向にあるほか、有効求人倍率も1倍超で推移しています。

 しかし、賃金の伸び悩みが続いています。統計上の一人当たりの名目賃金をみますと、昨年12月以来、前年比でマイナスを続けています。日本銀行では、長期に亘る景気拡大を背景にして労働需給が着実に引き締まっていく中にあって、いずれは所定内給与をはじめ賃金の上昇が明確になるとみていますが、これまでのところ、雇用者全体の所得の増勢の殆どは雇用者数の増加によるものに止まっています。

 この主たる要因としましては、まず企業の人件費抑制姿勢の強さがあります。企業は、我が国経済のグローバル化が進むもとで、国際的にトップレベルにある賃金水準をこれ以上引き上げることには、競争力確保の観点から極めて慎重です。ここ数年の労働分配率をみましても、足許では漸く下げ止まりつつあるとは言えるものの、グローバルな競争下にある製造業を中心に、明確な上昇に転じる兆しは窺われません。また、団塊世代の退職に伴って相対的に給与水準が低い若年層の雇用増加という年齢構造の変化や、再雇用やパートなどの労働時間の短い雇用形態の増加、更には地方自治体による公務員給与の削減なども影響を及ぼしていると考えられます。

 今後とも労働需給のタイトな状況が続いた場合には、少子高齢化が進んでいることも考え併せますと、どこかのタイミングで、労働力の供給源が底を尽き、賃金の明確な上昇に撥ね返る可能性が高いと考えます。しかしながら、現状をみますと、強まる労働需要に対しましては、雇用形態の多様化を伴いながら、自営業からの流入、高齢者の再雇用ないし復帰、女性の労働参加率の上昇、失業者の減少などの経路を通じて、労働力が着実に供給されており、供給面のボトルネックが一気に生じる可能性は当面は必ずしも高くないように思えます。繰り返しになりますが、今回の景気拡大を支える製造業がグローバルな競争を意識する中で、企業としては、固定費増に繋がる賃金の引き上げには慎重なスタンスが続くと考えられます。そうであれば、個人消費の行方は、増加を続ける雇用者数と伸び悩んでいる名目賃金の積である雇用者所得や配当受取りを中心とする財産所得の増加に見合った程度の緩やかな拡大に止まると控え目にみておくことが適切と考えます。

(物価情勢:消費者物価は上昇するのか?)

 物価情勢は、極く緩やかではありますが、基調的には上昇が続くと考えています。6月短観で、企業の設備や雇用人員に関する判断はバブル期以降でみて最も不足した状況が続いており、設備や労働といった資源の稼動状況は着実に高まっています。また、こうした資源の稼動状況が物価に与える影響を判断するための物差しの一つであるマクロ的な需給ギャップ(GDPギャップとも言われます)を推計してみましても、ある程度幅をもってみる必要はありますが、足許では、若干とはいえ「需要超過」状態(景気拡大が続く中で物価が上がり易い状況)になっており、今後も、潜在成長力を若干上回る景気拡大が続くことにより、「需要超過」幅は徐々に拡大していくとみています。そうであれば、基本的には、インフレ予想とも相俟って、賃金や物価に上振れ圧力が加わり続けると考えられます。

 しかしながら、足許の消費者物価の前年比上昇率はゼロ%近傍を辿っており、実体経済や需給ギャップの動きとの間に齟齬があるのも事実です。すなわち、実体経済が順調に拡大を続けても、なかなか消費者物価が上昇しないという意味で、先行きの行方を展望するうえでの不確実性が高まっていると言えます。

 需給ギャップに対する消費者物価の感応度に係る不確実性の理由は幾つか考えられます。例えば、我が国経済のグローバル化が進むもとで、最終消費財を中心に、中国などのアジア諸国から流入する低価格商品との競合が高まっていること、つまり、国内での需給バランスが必ずしも価格動向に直結しない傾向が強まっていることがあると思っています。また、先程申し上げましたように、競争力確保の観点から、企業経営者が国内の労働コスト引き上げに慎重になっており、これがユニット・レーバー・コストの上昇を抑制しています。また、規制緩和などによって、企業間の競争が強まり、価格が低下する分野があることも要因の一つであるとみています。

 こうした中、物価情勢の判断に当たって物価指数をみる場合、私としては、物価の基調的な動き、言い換えれば、根源的なインフレ圧力とそのトレンドを重視したいと考えています。例えば、消費者物価では、総合指数(ヘッドライン)やそれから生鮮食品を除いたコア指数だけではなく、それから更にガソリンや灯油などの石油製品などのように変動幅(振れ)の大きい項目や制度的な要因で一時的に変動している項目を除いた指数とか、価格変動の大きな項目を上下に一定の比率で除いた指数(刈り込み平均指数)9 、更には、上昇項目数と下落項目数の差など、様々な数値を総合的に捉え、基調を判断するようにしています。物価指数の動向を「フォワード・ルッキング」な判断に結び付けていくには、指数の基調的な動きが重要であると考えるからです。

 一方、やや長い目でみますと、現在の低いインフレ率がグローバル経済と密接に結び付いている状況下、中国、インドなどの新興国での高い経済成長が続き、グローバルな需給ギャップのタイト化が長期に亘り続いた場合には、世界経済全体でみたインフレ圧力が予想外に高まることも想定されます。その場合には、我が国経済もその埒外にはなく、インフレ圧力が顕現化してくる惧れがあることには若干なりとも留意しておく必要があると考えます。

 その意味でも、原油をはじめとする商品市況の動向にも引き続き注意が必要です。これらの市況の先行きを展望することは難しい訳ですが、物価情勢に及ぼす影響の大きさを考えれば、今後とも注視しておくべき点の一つであることは言うまでもありません。

  1. 9具体的には、消費者物価指数を構成する個別品目について、それぞれの価格変化率を計算して値の小さな順に並べ替え、値の大きい品目と小さい品目を支出額ウェイトベースでそれぞれ一定の比率(例えば、10%)除いたうえで、残った品目を基に平均値を作成する指数です。

(金融環境:楽観的な想定に偏り過ぎていないか?)

 最後に、金融を巡る環境についてお話ししたいと思います。企業や金融機関などでは、財務面での改善が進む中で、実質金利が極めて低い水準にあることから、金融・経済活動を積極化し易い環境にあります。企業経営者としては、これまでの慎重な経営スタンスを緩め、好調な収益に背中を押される形で、今後の投資行動を一段と積極化する可能性があります。私としては、企業経営者が、つい数年前までの過剰設備という苦い経験を忘れて、投資採算を厳しく見定めるという慎重な経営スタンスを簡単に放棄し、一気に楽観主義に走ることはないと思っています。さはさりながら、企業経営者が成長戦略を強化するに当たって、期待成長率や資金調達コスト、為替相場や株価、地価などの資産価格の見通しなど、先行きの採算に関して過度に楽観的な想定に基づき金融・経済活動を積極化した場合には、金融資本市場において行き過ぎたポジションが構築されたり、非効率な経済活動に資金やその他の資源が使われ、長い目でみた資源配分に歪みが生じる惧れがあります。その場合、経済全体の成長率が一時的に大きく上振れる反面、その後の反動的な調整を余儀なくされ、我が国経済にとって望ましい息の長い成長を阻害する可能性があると考えます。

 特に、今回の局面では、金融・資本・為替市場が総じて心地よい方向に一方的かつ安定的に推移していること、景気拡大が過去に例がない程長期に亘っていること、更には、金融緩和的な環境が極めて長い期間続いていることなど、企業経営者は想定以上に好ましい環境を長期に亘って享受してきました。私としましては、こうしたことが、企業経営者の先行きの想定を必要以上に楽観的なものとし、また、イノベーションによる生産性向上の経営努力を些かでも弛緩させることにならないか、今後の金融市場や実体経済において大きなショックが生じた場合の抵抗力を低下させていないか、といった点が心配です。6月短観をみても、今のところ、こうした楽観的な想定が企業経営者の間で拡がる兆候は抽出できませんが、こうした点は今後とも注意深くみていく必要があると考えています。

3.今後の金融政策運営

(1)2月の金融政策変更後の金融市場

 次に、2月の金融政策変更後の金融市場の動向に簡単に触れた後、今後の金融政策運営について述べたいと思います。

 日本銀行は、昨年3月に量的緩和政策を解除した後、7月のゼロ金利解除に続き、本年2月に、無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標を「0.25%前後」から「0.5%前後」に引き上げました。日本銀行では、それまでの量的緩和・ゼロ金利の期間が長かっただけに、こうした一連の政策変更が金融環境に大きな変化を生じさせる可能性がなしとしないことを踏まえ、その後の金融市場の動向には十分な注意を払って参りましたが、総じて申し上げれば、大きな混乱もなく、円滑に受け入れられたと評価しています。

 短期金融市場では、前3月期末直前こそ、コール市場やレポ市場でレートが強含む場面もみられましたが、これも一時的な動きに止まり、取引規模も着実に拡大するなど、市場機能は着実に回復をみています。

 また、債券・株式・為替市場の動きをみましても、市場は総じて冷静に金融政策の変更を受け入れたように思えます。これは、市場参加者の多くが政策変更を事前に予想し、それを相場に織り込んでいたためではないかと考えられます。2月には世界同時株安が、6月には世界同時債券安が発生致しましたが、その後は、株式、債券市場とも反発し、落ち着きを取り戻しています。この間、為替相場をみましても、実質実効レートは、1985年のプラザ合意前の円安水準に達しています。こうした市場の動きを全体としてみますと、私としては、市場参加者がこうした調整に慣れ、先行きも相場が大きく崩れることはないといった過度に楽観的な見方を持ってしまい、市場全体のポジションが一方向に偏り過ぎることがないかどうかという点は常に気になるところです。

(2)金融政策運営の枠組みと「中長期的な物価安定の理解」

 日本銀行では、金融政策運営の透明性を高めるとの観点から、金融政策決定会合において金融政策を決定する際の基本的な考え方を、昨年3月に「新たな金融政策運営の枠組み」として公表しました。

 この枠組みを簡単に申しますと、日本銀行は、中長期的にみて物価が安定していると日本銀行の政策委員が理解する物価上昇率——「中長期的な物価安定の理解」と呼んでいますが——を念頭に置きつつ、この後ご説明します2つの「柱」による経済・物価情勢の点検を踏まえたうえで、当面の金融政策の運営方針を決定するというものです。

 私どもが考えます「物価の安定」とは、「家計や企業等の様々な経済主体が物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」であり、これは、持続的な経済成長を実現するための不可欠の前提条件であります。日本銀行では、この「中長期的な物価安定の理解」につきまして、毎年点検をすることとしており、今年4月に初めて実施しました。点検の結果は、従来の内容と変わらず、「『中長期的な物価安定の理解』は、消費者物価指数の前年比で0~2%程度の範囲内にあり、委員毎の中心値は、大勢として、概ね1%の前後で分散している」というものでした10

 次に、2つの「柱」による経済・物価情勢についてお話しします。まず、第1の「柱」では、先行き1年から2年の経済・物価情勢を展望して、最も蓋然性が高いと判断される見通しが物価安定のもとで持続的な成長経路を辿るというものであるかについて、また、第2の「柱」では、より長期的な視点を踏まえつつ、例えば、発生の確率は必ずしも大きくないものの、発生した場合には経済・物価に大きな影響を与える可能性があるなど、金融政策運営に当たって重視すべき様々なリスクについて、それぞれ金融政策運営を決定する都度点検することとしています。

  1. 10今年4月の「中長期的な物価安定の理解」の点検の詳細につきましては、2007年4月27日に日本銀行が発表しました「経済・物価情勢の展望(2007年4月)」の(BOX)「『中長期的な物価安定の理解』の点検」をご参照ください。

(3)今後の金融政策運営

  1.  この枠組みに沿って、現在の経済・物価情勢を点検しますと、まず第1の「柱」について申せば、先行きの日本経済は、4月の「展望レポート」で示した見通しに概ね沿って、「中長期的な物価安定の理解」に沿った物価安定のもと、持続的な成長を続けることができるとみています。もちろん、こうした見通しの前提としましては、上振れ・下振れ両方向での様々なリスク要因が存在していますが、現時点では、こうしたリスク要因が、この見通しを変更しなければならないほど顕現化する可能性が高まっているとはみておりません。また、この見通しは、市場や企業などの経済主体が先行きの金融政策の変更を織り込んだうえで意志決定していることを前提としたものです。経済・物価情勢が今後とも見通しどおりに推移していくためには、政策金利の調整を行っていくことが必要です。そうしないと、いずれ、より大きな調整が求められることとなり、経済活動の振幅を招き、我が国経済の息の長い成長を妨げる可能性を高めてしまうことになります。

  2.  次に、第2の「柱」につきましては、「先行きを展望するうえで注意すべきポイント」でもお話ししましたが、第1に、経済・物価情勢の改善が展望できる状況下、金融政策面からの刺激効果は一段と強まり、楽観的な期待の下で企業や金融機関などの行き過ぎた活動を通じて、中長期的にみて、経済・物価の振幅拡大や非効率な資源配分が生じるリスク、第2に、海外経済の下振れなど、景気後退に繋がるような要因が顕現化し、経済情勢の改善や物価の上昇が足踏みするリスク、というアップサイド、ダウンサイド両面のリスク要因があるとみています。

 前回の「展望レポート」では、こうした2つの「柱」を点検したうえで、先行きの金融政策の運営方針について、「『中長期的な物価安定の理解』に照らして、日本経済が物価安定のもとでの持続的な成長軌道を辿る蓋然性が高いことを確認し、リスク要因を点検しながら、経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行う」としています。

 この先の金融政策につきましても、この枠組みのもとで、私としては、先程縷々お話しした「幾つかのポイント」に特に留意しつつ、経済・物価情勢全般を丹念に点検しながら、金融政策決定会合の都度適切に判断していきたいと考えています。

 その際に重要なのは、先行きの経済・物価の動きについての確証を持つということです。これは、金融政策運営が、足許の経済・物価動向に関する判断だけではなく、金融政策が実体経済に影響を及ぼす時間的なラグなどを踏まえたうえで、より先行きの情勢を可能な限り展望する「フォワード・ルッキング」という立場に立って、柔軟かつ機動的に行われる必要があるからです。先行きの見通しについて一点の曇りもないような明確な状況がくるとは考えられませんから、私どもは政策判断を行うに当たって、その時点時点で可能な限りの情報を集めて丹念な分析を行うことにより、先行きについてどの程度確信がもてるかということを、金融政策決定会合の都度、吟味しています。幾つかの不確実性に対して、なお時間をかけて検証していく必要性があるのであれば政策を維持し、ある程度確信が高まったと判断されるのであれば政策変更を提案するという訳です。こうしたプロセスを9名の政策委員がそれぞれ行い、毎回の金融政策決定会合において、意見を表明し合い、議論をすることで政策を決定しています。私自身も、金融政策決定会合開催直前のギリギリのタイミングまで、それまでに得た経済指標・データや様々な情報を点検し、自らの考え方や見通しを整理し直しています。従って、先行きの金融政策運営について、現時点では全く予断を持っていませんし、持つことができないと言えます。

4.長期的な視点から~少子高齢化の時代に臨んで~

 これまで日本経済の現状や先行きの見通し、これを受けた金融政策運営に関しまして申し上げて参りましたが、ここで若干話題を変え、やや長期的な視点から、日本経済が抱える構造的な問題のうち、「少子高齢化」について触れてみたいと思います。

 日本経済は、「失われた時代」と言われるバブル経済崩壊後の長期に亘る低迷期を脱し、漸く安定的な経済の成長パスに復帰して参りました。しかしながら、やや長期的な観点からみますと、「少子高齢化」が進む下での「労働人口の減少」という過去に経験したことがない新たな問題が待ち構えています。こうした中にあっても、日本経済が長期に亘って安定的かつ持続的な経済成長を達成していくためには、グローバルな競争環境の下で、労働投入当たりの生産の効率化、すなわち労働者一人当たりの生産量や付加価値で表される「労働生産性」を継続的に向上させるという新たな課題に挑戦することが求められてきていると考えます11

 実際に、(財)社会経済生産性本部生産性総合研究センターの最近の調査結果12を基に、日本の労働生産性を他の先進国と比較しますと、2004年の日本の労働生産性はOECD加盟30か国中第19位であり、主要先進7か国では最下位となっています。もっとも、これを製造業に限ってみますと、OECD加盟国で第3位、先進国では米国に次ぎ第2位と高い生産性を誇っていますことから、非製造業の労働生産性が相対的に低い水準にあることが分かります。例えば、非製造業で最も生産性の高い米国に対して、日本は約6割の水準にしかなく、卸小売、運輸、飲食・宿泊に至っては5割前後に止まっています。

 そこで、日本の製造業と非製造業の労働生産性の推移をみますと、製造業の労働生産性はここ数年大きく向上しているのに対して、非製造業では、金融・不動産業や情報・通信業では製造業並みの伸びがみられたものの、サービス業や卸小売・飲食業、建設業ではほぼ横這いの動きに止まっています13

 我が国経済は、他の先進国と同様にサービス業のウェイトが上昇してきており、例えば、名目GDPに占める第3次産業(広い意味でのサービス業)の付加価値の比率は7割を上回っています。また、前述のとおり、製造業は、生産性向上などに伴って就業者数が減少する一方で、非製造業、とりわけサービス業の就業者数が増加してきていることも事実です。マクロの視点から労働資源の適正配分をみますと、相対的に労働生産性が高い製造業のシェアが低下し、労働生産性が低い非製造業のシェアが上昇するという傾向が続く限り、この非製造業の生産性を向上しなければ、人口減少が続く中にあって、持続的な成長を維持することが困難になるのは明らかであると言えます。

 従いまして、日本全体の労働生産性を向上させるためには、非製造業、とりわけサービス業や卸小売・飲食業などの生産性の向上が望まれます。生産性の引き上げに繋がる要因としては様々なものが指摘されています14 が、その一つとして、IT資本の蓄積とそのネットワーク化があります。その成功例である米国をみますと、IT投資の蓄積が進み、ITを通じた企業間の情報ネットワークが構築される中で、企業経営者がIT技術を理解し積極的に経営に活かすとともに、組織運営に関しても柔軟な見直しが行われた結果、生産性向上に繋がる様々な新手法、例えば、在庫管理手法である「サプライ・チェーン・マネージメント」、業務の外部委託である「アウトソーシング」、更には人件費の低い海外への業務委託を示す「オフショアリング」などが生まれてきました。また、IT以外でも、時代の変化を的確に捉えた技術変化(イノベーション)、低生産性産業(企業)から高生産性産業(企業)への生産資源のシフトの前提となる一段の規制緩和——市場メカニズムの活用——なども重要な要因の一つであると考えます。

 政府でも生産性向上に向けた施策が議論されています15 が、その実現のためには、言うまでもなく個別企業における取り組みが不可欠であり、実際にその矢面に立つのは企業経営者の皆様です。これまでの長期に亘る景気低迷からの回復はすぐれて企業経営者の努力の賜物であることは言うまでもありませんが、生産性向上に向けた真の原動力も「民」の強い意志と行動であり、その意味で、今後とも、企業経営者の不断の努力が求められることとなります。日本銀行としましては、こうした日本の生産性向上に直接的に関与することはできませんが、金融政策の適切な運営を通じて、息の長い経済成長を図ることによって、こうした企業経営者の取り組みをバックアップして参りたいと考えています。

  1. 11労働生産性と経済成長の関係をみますと、「経済成長率=労働生産性上昇率+就業者増加率」となり、就業者の増加に依存することなく経済規模を拡大させるためには、労働生産性の向上が不可欠であることが分かります。また、労働分配率が一定であれば、「労働生産性上昇率=賃金上昇率」という関係も成り立ち、生産性の向上は賃金の向上にも結び付くことも分かります。
  2. 12詳しくは、(財)社会経済生産性本部生産性総合研究センター、「労働生産性の国際比較 2006年版」(2006年12月)をご覧下さい。
  3. 13このように、業種によって差が生じた背景としましては、製造業では、(1)輸出企業を中心に、グローバル経済の下で厳しい競争を勝ち抜くため、不断の努力に努めてきたこと、(2)IT投資の効果が生産・在庫管理の面でコスト削減に貢献したこと、などがあると考えられます。
  4. 14詳しくは、宮川努、「生産性の経済学−我々の理解はどこまで進んだか−」、『日本銀行ワーキングペーパーシリーズ』、No.06-J-06(2006年3月)をご参照ください。
  5. 15例えば、2007年1月公表の「日本経済の進路と戦略」では、目指すべき経済社会の姿として「成長力の強化」を上げ、「人口が減少する中で、日本経済が安定的な成長を続けていくためには、経済全体としての生産性を大幅に上昇させなければならない」としています。また、2007年6月公表の「基本方針2007」でも、「人口減少下で何よりも重要なことは、一人当たりの生産性の向上である」と述べられており、実際にも、労働生産性の改善を図る目的から、政府では、各種の政策面での議論が行われています。

5.終わりに代えて~奈良県経済の現在と未来~

 以上、日本経済の現状と先行きの見通し、および当面の日本銀行の金融政策運営などについてお話しして参りましたが、最後に、奈良県経済についてお話ししようと思います。

 当地の景気は、近隣の大阪など大都市部に比べれば回復のテンポは遅れ気味のようですが、足許では緩やかに持ち直しているとみています。

 すなわち、奈良県では、地場産業として、林業や木材・木製品、靴下等の繊維産業などが有名ですが、これらの地場産業では、海外からの安値輸入品との競合や原燃料費の上昇などから、総じて業況は厳しいようです。また、公共事業への依存度が高い中小の建設業や、大規模小売店との競合が続く中小小売業の業況も芳しくないと伺っています。

 しかし、足許では、緩やかながら、持ち直しの動きもみられているようです。まず、企業部門では、輸出や設備投資の増加を背景とする堅調な需要に支えられ、電機、自動車、工作機械等に関連した製造業を中心に、業績の改善がみられています。また、こうした企業の一部では、需要の増加に対応したり、生産性の向上を図るため、設備の更新や増設を行う動きもあるようです。

 また、家計部門でも、雇用・所得環境が緩やかに改善する中で、個人消費にはこのところ底堅さが窺われます。住宅投資につきましても、昨年3月に開通した「けいはんな線」沿線の開発が活発に行われており、地域によるばらつきはありますが、全体としては増加基調にあります。

 私どもとしては、当地の経済は、企業規模や業種、地域などによるばらつきを伴いながら、全体としては緩やかに持ち直しているとみています。

 今回お邪魔するに当たって、奈良県経済について改めて勉強してみましたが、当地では、林業、繊維産業等の地場産業に加え、電機、一般機械などの製造業も立地しており、そうした中には、グローバルな市場で競争力のある企業や生産拠点も少なからずあることがわかりました。

 一方、奈良県では、歴史や文化に育まれた伝統産業が数多く存在することも一つの特徴になっています。生駒の高山茶筅や奈良墨は、全国トップシェアと伺っていますし、三輪そうめんなども全国的に有名なブランドであります。また、奈良県は、国内で唯一「世界遺産」を3つ16有するなど、豊かな観光資源を持つ歴史観光地域としても有名です。そうした観光資源を一層活かしていくため、近年、大阪、京都などからの交通アクセスの改善に向けた道路整備が進められていますほか、2010年には、官民一体となって取り組まれる「平城京遷都1300年記念事業」も控えていると伺っています17

 こうした歴史と伝統、そして新たな技術の基盤の上に、企業経営者の皆様方が大いに企業家精神を発揮され、今後、奈良県経済に新しい活力が生み出されていくことを心から期待しております。

  1. 16奈良県には、1993年12月に日本で初めて「世界遺産」に登録された「法隆寺地域の仏教建造物」のほか、「古都奈良の文化財」(1998年12月登録)、「紀伊山地の霊場と参詣道」(和歌山県、三重県の3県に跨るもの、2004年7月登録)があります。
  2. 17更に、奈良県では、新たな観光資源として「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」の世界遺産登録にも取り組んでいます。

 本日は、ご清聴頂き、誠に有難うございました。

以上