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札幌市金融経済懇談会における武藤副総裁挨拶要旨

2008年1月10日
日本銀行

目次

はじめに

 日本銀行の武藤でございます。この度は、北海道の経済界を代表する皆様方とお話する機会を頂き、大変嬉しく存じます。また、平素より、私どもの支店が大変お世話になっており、この席をお借りして厚くお礼申し上げます。

 本日は、わが国の経済・物価情勢や日本銀行の金融政策運営についての考え方などについて、お話したいと思います。

経済・物価の現状と先行き

 最初に、経済・物価情勢の現状と先行きについてお話します。

 わが国経済は、足もと住宅投資の落ち込みなどから減速しており、先行きも、当面減速が続くものの、その後は緩やかな拡大を続けるとみています。

 やや詳しくご説明しますと、まず、企業部門の状況については、昨年12月の短観調査で、企業の業況感はやや慎重化しました。(1)原油や穀物など原材料価格が高騰を続ける中で、中小企業などはなかなか販売価格に転嫁できていないことや、(2)昨年6月に施行された改正建築基準法の影響で住宅建設が急減したこと、さらには(3)サブプライムローン問題に端を発した世界経済の不透明感の高まりなどが影響していると考えられます。もっとも、全体としてみれば、企業は今年度も増収・増益の見通しを維持しており、設備投資も堅調な計画となっています。

 また、生産も昨年前半の横ばい圏内の動きを脱して、増加に転じています。一頃膨らんでいたIT関連財の在庫の調整もほぼ終わり、この分野を含めて、生産・出荷・在庫はバランスした状態にあります。輸出は、米国など世界経済の不透明感が高まっている中にあっても、産油国やエマージング諸国など幅広い地域に向けて増加を続けており、短観による大企業の輸出売上高予想は上方修正になっています。

 以上を踏まえますと、この先、業況感の慎重化が企業の支出活動にどのような影響を与えるかについては十分点検していく必要はありますが、企業活動は堅調な状況を続けていると評価できると考えています。

 次に、家計部門についてみますと、一人当たり賃金は、やや弱めの動きとなっています。企業の賃金抑制姿勢は、グローバルな競争や資本市場からの規律の高まりなどを背景に、根強いものがあります。とりわけ最近は、原材料価格の高騰に伴う企業収益の伸び悩みも、中小企業を中心に賃金を抑制する要因となっています。加えて、一昨年から本格化した団塊世代の大量退職や、パート比率の上昇など、働く人々の年齢や職種構成の変化なども影響していると考えられます。一方で、景気拡大が緩やかとはいえ長く続いてきたことから、企業の人手不足感は、短観などをみても強く、雇用者数は増加を続けています。先行き、労働需給がタイト化の方向に進めば、賃金の上昇圧力も徐々に高まっていくものと考えられます。このように考えると、雇用者数と賃金を合わせてみた雇用者所得は緩やかな増加を続けると判断されます。

 こうしたもとで、個人消費は底堅い動きを続けています。百貨店やスーパー売上高は天候要因に左右されて、総じて横ばい圏内ですが、デジタル家電販売が好調であるほか、乗用車販売も持ち直しています。ただし、足もと各種の調査による消費者マインドが下振れています。賃金が伸び悩む一方で、ガソリン・灯油・食料品などの生活必需品の価格が上昇していることなどが影響しているものと思われます。こうしたマインドの悪化の影響を含めて、個人消費の動向については、引き続きよくみていく必要があると考えています。

 この間、住宅投資は、改正建築基準法の施行後、建築確認の手続きに遅れが生じていることから急減していますが、先行きは、手続き面の遅れが解消に向かうにしたがって、次第に回復すると考えられます。ただし、首都圏を中心に物件価格の上昇などからマンション販売に弱さがみられており、回復のペースや水準については、不確実な面があると思います。

 物価面では、国内企業物価指数は、国際商品市況高などを背景に上昇しています。消費者物価(除く生鮮食品)は、前年比でみて僅かなマイナスで推移してきましたが、昨年10月に+0.1%とプラスに転じ、11月は+0.4%に拡大しました。目先、石油製品や食料品の価格が上昇する中で、さらにプラス幅が拡大するとみられます。

 さきほどご説明しましたとおり、わが国の景気は現在減速しているとみられます。そうしたもとで、需給ギャップのプラス方向への動きは当面足踏みすると思われます。ただ、やや長い目でみれば、景気の拡大基調が続く中で、需給ギャップもプラス方向に向かうとみられ、それを背景に物価のプラス基調が続くと考えています。

 以上のように、わが国経済は、もともと緩やかなペースで拡大していたところに、原材料価格の高騰、住宅投資の急減、世界経済の不透明感の高まりといったマイナスの要素が加わり、減速しているとみられます。このため、現在、生産・所得・支出の好循環メカニズムは一時的に弱まっていますが、これでメカニズムが途切れるとは考えていません。今回の景気拡大局面は、世界経済が拡大していることと、国内では企業や金融機関の様々な過剰の調整が進んだことを背景としています。現在、世界経済との接点である輸出や生産は、増加を続けており、好循環メカニズムの起点はしっかりとしています。企業の構造調整の進み度合いには業種や企業規模による違いはありますが、企業部門全体としてみれば、設備や人員、在庫などの面で調整圧力を抱えているわけではありません。そうしたもとで設備投資や個人消費は増加基調を維持しています。さらに、住宅投資の急減は、主として手続き的な要因によるものであり、次第に回復すると考えられます。したがって、わが国経済は、先行きも緩やかな拡大基調を維持するというのが、現時点の私どもの判断です。

世界経済の動向

 もっとも、今申し述べた要素に変化が生じるリスクには注意が必要です。とりわけメカニズムの起点にある世界経済の成長の持続という点は、重要なリスク要因であると考えています。

 昨年夏場以降、米国のサブプライムローン問題をきっかけに国際金融市場の動揺が続いており、米国を中心に世界経済の不確実性が高まっています。

 まず、米国経済は、現在、景気の減速感が幾分強まりつつあります。住宅投資は大幅な減少を続けており、住宅販売の減少と在庫の積み上がり傾向が一段と鮮明になっています。また、サーベイ調査などによりますと、銀行は、住宅向けだけでなく、商業用不動産や一般企業・消費者向けの与信基準もタイト化させています。先日公表された雇用統計でも、雇用の増加ペースは減速し、失業率は上昇しました。

 こうした中で、個人消費や設備投資は、今のところ、減速しつつも、緩やかな増加基調を維持しています。景気全体としては、目先は低成長が見込まれますが、その後は、住宅市場の調整が進むに連れて、潜在成長率近傍の成長パスに次第に戻っていくとみられます。しかし、この先の住宅市場の調整の帰趨や金融資本市場の動向によっては、資産効果や信用収縮、マインドの悪化などを通じて、個人消費、設備投資が下振れ、米国景気が一段と減速する可能性も考えておく必要があると思います。

 欧州経済については、設備投資や個人消費が増加傾向を持続しており、堅調な拡大が続いています。しかし、国際金融資本市場の変動が金融環境に及ぼす影響次第では、下振れるリスクがあります。一方で、エマージング諸国や資源産出国は高成長を続けており、世界経済の牽引役としての役割が増しています。

 このように、世界経済は地域的な広がりを持ちながら高成長を続けるというのが標準的な見方ですが、米国経済や国際金融資本市場の調整が深まる中で、ダウンサイドリスクが増していると考えられます。

 同時に、インフレ方向のリスクにも注意が必要です。米国では、労働や設備といった資源の稼働状況が高水準であるもとで、インフレ圧力が衰えていません。また、中国では、力強い拡大が続いており、当局は様々な引き締め策を講じていますが、固定資産投資を中心に過熱感が強い状況となっています。世界経済全体の高成長に加えて、地政学的要因や投機資金の流入などもあって、原油価格が年明けに一時的に1バレル100ドル台まで上昇するなど、国際商品市況は高値圏で推移しています。このように経済のダウンサイドリスク、物価のアップサイドリスクの双方に対処していかなければならないという意味で、各国の金融政策は難しい局面にあります。

国際金融市場の動向

 次に、国際金融市場の動向をみますと、証券化商品の格下げや金融機関の損失懸念の持続などを背景に、不安定な状態が続いています。まず、証券化商品市場では、ABCPの発行残高が減少を続けているほか、CDOなどの取引も依然として停滞しており、引き続き機能が低下した状態にあります。社債市場では、相応の発行が行われていますが、スプレッドが拡大するなど、調整が続いています。株式市場も、引き続き不安定で、年明けをはさんで、各国の株価は大きく下落しています。

 このような市場の変動は、良好な世界経済や金融環境が続いてきたもとで、市場参加者のリスク評価に緩みが生じ、その後、市場の自律的機能による巻き戻しが起こっている、ということだと思います。したがって、市場の調整にはそれなりの時間を必要とするものですし、その過程で関係者に損失が発生することは避けられないものです。サブプライム住宅ローン関連商品の損失規模については、IMFやOECDなどが試算を公表していますが、最終的な損失がどの程度になるか、正確に見通すことは、住宅市場の調整が進行している現時点では困難です。昨年夏場以降、米欧の金融機関は、相当の規模の損失を計上し、これを補う意味で、資本政策も相次いで公表しています。こうした対応を通じて、この先、金融機関や金融システムに対する信認が回復していくか注目していきたいと思います。

 こうした中で、米欧の短期金融市場では、昨年末、金融機関の年越え資金の確保が意識され、資金調達圧力が高まりました。これに対応するため、12月12日、主要国の中央銀行は協調して国際金融市場の安定に向けた取り組みを発表しました。すなわち、米国のFRBは、やや長めのターム物について入札型の貸出を新たに導入し、幅広い担保を使って、多くの金融機関に対して資金供給を行う体制を整えました。また、欧州中央銀行とスイス国民銀行は、FRBとのスワップ協定を締結し、これをもとに欧州でドル資金の供給オペを行いました。イングランド銀行やカナダ銀行では、ターム物資金供給オペを積極的に行い、年末越え資金を潤沢に供給しました。

 日本銀行とスウェーデン中央銀行は、これらの措置を歓迎し、市場に対する流動性の供給を適切に行っていく、とのステートメントを公表しました。日本銀行の場合、調節の枠組みに特段の変更は加えませんでした。これは、すでに幅広い担保をもとに、多様な期間のオペを実施してきているほか、金融機関の資金繰り動向を日々丁寧にモニタリングすることなどにより、市場における資金需要の強さを把握しておりますので、現在の枠組みの中で、十分に対応できると考えたためです。

 こうした協調行動は、金融資本市場の動揺が続いていることを踏まえ、短期金融市場における流動性需要の高まりに適切に対処することで、秩序立った市場の自律的な調整を促していく必要がある、という各国中央銀行の共通認識に基づいて行ったものです。その後、各国中央銀行は、これらの方策を順次実施しており、昨年末にかけて、米欧では、ターム物金利が低下しています。こうした取り組みが、国際金融市場の安定確保に貢献するものと期待しています。

金融政策運営

 次に、以上述べてきました経済・物価の見通し、リスク要因を踏まえて、日本銀行が金融政策をどのように運営していくかについて、お話したいと思います。

 これまで折に触れて説明しておりますように、日本銀行は、先行きの金融政策について予断を持つことなく、経済・物価情勢に応じて対応してきています。その際、金融政策が経済や物価に影響を与えるにはある程度の時間が必要であること──金融政策のラグといわれるものですが──を踏まえて、先行きの経済・物価の姿をできるだけ正確に予測しながら、判断しています。これが、フォワード・ルッキングな政策運営と呼ばれるものです。

 本日ご説明した経済・物価情勢に即して申しますと、日本経済は、当面減速するとみられる一方で、消費者物価は石油製品や食料品の値上がりなどから当面上昇幅が拡大していくと見込まれます。金融政策運営においては、こうした動きが先行きの経済や物価にどのように影響するかを予測する必要があります。たとえば、(1)減速が一時的なもので景気は拡大軌道に復すると考えてよいか、あるいは、減速が予想以上に長引くことはないか、(2)物価上昇が経済に悪影響を与えて、先行きの経済や物価を下振れさせることはないか、(3)逆に、物価上昇が、家計の物価についての見方や企業の価格設定行動に影響を与えて、先行きの物価を上振れさせることになるかどうか、といったことを、丹念に分析しながら、先行きの経済・物価の見通しに織り込んで判断していくことになります。もとより、見通しには不確実な面がありますので、見通しそのものだけでなくて、その蓋然性や上下両方向に乖離するリスクも重要な判断材料です。このように、見通しやその蓋然性、上下両方向のリスクを十分に点検しながら、物価安定のもとで持続的な成長を達成できるように、適切な金融政策運営を行っていく所存です。

 仮にこのような点検を行った結果、日本経済が物価安定のもとで持続的な拡大を続けると判断されるのであれば、現在極めて緩和的な状況にある金利水準を徐々に調整していく方向にあると考えています。低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合には、企業や金融機関などの行き過ぎた活動を通じて、中長期的にみて、経済・物価の振幅が大きくなったり、非効率な資源配分につながるリスクがあります。ただし、具体的な政策変更については、経済・物価情勢を、虚心に、フォワード・ルッキングに評価した上で、慎重に判断して参りたいと考えております。

おわりに

 以上、わが国経済の現状と先行き、および日本銀行の金融政策運営の考え方についてお話して参りましたが、最後に北海道経済についてお話したいと思います。

 北海道の最大の特徴は豊かで広大な自然環境です。こうした特徴の裏返しとして、北海道は、道路整備や治水工事など公共事業への依存度が高く、国や自治体の財政難による公共事業の削減などを背景に、経済成長のテンポは全国対比でも捗々しくない状況が続いています。

 しかしながら、北海道では、その豊かな自然を活かした前向きな取り組みが徐々に進みつつあります。北海道は、第一次産業のウエイトが高いわけですが、例えば、農業の分野では、食の安全を意識した有機栽培農法の促進や北海道ブランドの認証制度の導入が進められています。また、従来から、バイオテクノロジー関連の大学や研究機関が数多くありますが、北海道の豊富な農林水産資源と最新のバイオテクノロジーを組み合わせ、新しい製品を作り出すという動きもみられています。

 さらに、今年は、7月に、環境問題を主要テーマの1つとする洞爺湖サミットが開かれます。北海道では、環境問題への対応を先取りする形で、様々な取り組みが行われています。例えば、エネルギー供給の分野では、風力発電や太陽光発電、酪農が盛んな道央圏等ではバイオマス発電、積雪量の多い地域では雪氷エネルギーの活用(冬季に貯蔵した雪氷の夏期間における冷房への使用)など、地域の特性を活かしつつ、環境にも配慮した様々な取り組みが進められています。

 サミットは、北海道の産業や豊かな自然環境といった魅力を国内だけでなく世界にアピールする絶好の機会であり、それによって、地域経済の活性化が着実に進展することを期待しております。

 本日は、ご清聴頂き、有難うございました。

以上