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【挨拶】全国信用金庫大会における挨拶要旨

日本銀行総裁 白川 方明
2008年6月19日

 本日は、全国信用金庫大会にお招き頂き、誠に有り難うございます。信用金庫業界の皆様方におかれましては、平素より、日本銀行の政策や業務の運営に多大なるご協力を頂いております。本席をお借りして、厚くお礼を申し上げます。

 最初に、最近の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

 わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高の影響などから、減速しています。資源の多くを輸入に頼っているわが国にとりましては、エネルギー・原材料価格の上昇は、所得が海外に流出することを意味します。これに加え、生産が横ばい圏内で推移していることもあって、企業の収益はこのところ減少しています。このような所得形成の弱まりが国内民間需要の下振れをもたらすリスクについて、注意深くみていく必要があると考えています。

 もっとも、当面は減速が続くものの、その後については緩やかな成長経路を辿る可能性が相対的に高いと考えています。輸出は足もと幾分鈍化しているものの、新興国や資源国など幅広い地域に向けて増加しており、先行きも増加を続けるとみられます。また、企業は設備・在庫・雇用の面で過剰を抱えておらず、金融システムも安定しているため、日本経済はかつてに比べ、景気の下振れショックに対して頑健になっていると考えられます。さらに、金融環境は緩和的であり、引き続き、民間需要を後押しすると考えられます。

 こうした中、国際金融資本市場においては、米国サブプライム住宅ローン問題に端を発した動揺が続いており、不安定な状態にあります。また、米国経済は停滞しており、金融市場・資産価格・実体経済の負の相乗作用が、いつどのように収束に向かうのか不確実性が大きい状況です。一方、国際商品市況の高騰から、世界的にインフレ方向のリスクは一段と高まっています。このように、国際金融資本市場や世界経済の動き、原材料価格の上昇の影響などについても引き続き注視していきたいと考えています。

 物価面では、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に、足もとの前年比は+4.7%と27年振りの高い上昇率となっています。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比も、価格転嫁の動きが徐々に広がる中で、+1%程度と15年振りの高い上昇率となっており、先行きもプラスを続けていくと予想されます。特に生活必需品の上昇が目立つだけに、消費者のインフレ予想・企業の価格設定行動を含め、先行きの物価動向については、より注意深くみていく必要があると考えています。

 次に、金融政策運営について、申し述べさせて頂きます。

 今申し上げましたような不確実性が極めて高い状況のもとで、日本銀行としては、経済・物価情勢や内外の金融市場の状況などを丹念に点検し、経済・物価の見通しとその蓋然性、リスク要因を見極めた上で、それらに応じて機動的に政策運営を行っていく方針です。

 この間、日本銀行は、適切な流動性供給を行い、国際金融市場の動揺が続く中にあっても、米欧と異なり、日本の短期金融市場は落ち着いた動きを続けています。今後とも、市場動向を注意深くモニターし、適切な金融調節を行うことで、市場の安定に努めていく方針です。

 次に、金融システム面について申し述べます。

 わが国の金融システムは、ここ数年、着実に安定化の方向に向かってきましたが、金融機関の2007年度決算をみると、全体として減益決算となり、自己資本比率の上昇トレンドも一服しました。信用金庫業界を含め、地域金融機関におかれては、収益力の強化が極めて重要な課題であることが改めて認識されたように思います。原材料価格の高騰やそれに伴う足もとの景気減速は、まずは信用金庫業界の主たるお取引先である中小企業のレベルで、さまざまな金融ニーズを発生させているものと見込まれます。経済環境の変化を受けて多様化していく地域の顧客ニーズに対して的確に対応し、収益力を高めていかれることを、強く期待しています。

 また、昨年来の米国サブプライム住宅ローン問題においても明らかになりましたように、金融市場が複雑化する状況のもとで、金融機関にとってリスク管理の重要性は、一段と高まってきています。日本銀行では、考査やオフサイトモニタリングのほか、金融高度化センターによるセミナーなどを通じて、金融機関のリスク管理体制の充実化に向けたご努力をサポートさせていただいております。

 この間、日本銀行では、決済システムの安全性・効率性の向上を図る観点から、本年10月に次世代RTGSプロジェクトの実施を予定しています。私どもとしては、金融機関と緊密に連絡をとりあいながら、円滑な実施に向けて万全の態勢で臨みたいと考えていますので、今後ともご協力をよろしくお願いします。

 信用金庫業界は、地域に根ざした金融機関として、中小企業金融の分野で、極めて重要な役割を果たされてきています。今後とも、信用金庫業界が、中小企業の活動や地域活性化への貢献を通じて、ますます発展していかれることを祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせていただきます。

 ご清聴ありがとうございました。

以上