【挨拶】
Global Operations Managers' Conferenceにおける挨拶
日本銀行理事 堀井 昭成
2008年10月16日
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目次
はじめに
本日、日本銀行が、東京外国為替市場委員会の支援の下でGlobal Operations Managers' Conferenceの東京会合を開催することを大変嬉しく思います。また、国際金融市場が数十年に一度と言われる強いストレスに見舞われている中で、内外の主要市場から多数の方々にご出席いただいたことに対し、深く敬意を表したいと思います。加えて、東京会合の開催に際しては、内外の金融市場の安定化のために日夜尽力しておられる海外中央銀行の関係者の方々から、代表者の選定や議事運営に対する助言といった面で多大なご支援をいただきました。この点についても、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
Global Operations Managers' Conferenceの概要
本日のご出席者の中には、ニューヨーク連邦準備銀行、英蘭銀行、欧州中央銀行が順次開催してきたGlobal Operations Managers' Conferenceの各会合に参加された方もおられると思います。本日の東京会合はアジア地域で初めての開催となりますので、最初にこの会議の概要に触れておきたいと思います。
本会議の目的を一言で要約すれば、「外国為替市場を中心とする取引のオペレーションにおける様々な変化や共通の課題に関する情報や意見を交換しあうこと」となるかと思います。そして、そのための設定として、「外国為替市場に関連する多様な実務家−民間金融機関や事業法人、機関投資家、取引プラットフォームや決済システムの運営者、そして各国中央銀行−の方々を多数ご招待する」こととしています。
同時に、本会議は各国の外国為替市場委員会による連携を強化し、発展させる場でもあります。すなわち、これまでに開催された各会合では、外国為替市場の参加者や取引通貨の面でのグローバル化が進行してきた中で、各国の外国為替市場委員会が情報や意見を交換する機会を提供することで、各国市場が共通して直面する様々な課題の克服をサポートする役割を果たしてきました。
東京会合の狙い
私は、今回の東京会合がこれらの重要な意義を継承することを期待するとともに、今回の会合に特有ないくつかの役割を発揮していただきたいと考えています。
第一に、近年の東京市場で目立つ動き−例えば、個人投資家が外貨建て資産の購入や外為証拠金取引を通じて、アジア通貨や商品産出国の通貨への取引ニーズを拡大しつつ、外国為替市場でのプレゼンスを高めている点−を取り上げることです。これによって、東京市場での外国為替取引に関する特徴や課題について、グローバルな情報発信を行いたいと思います。
第二に、情報技術革新の進展に伴う電子取引の拡大や、取引の約定、確認、決済といった様々なプロセスの変化といったオペレーションの最新動向をレビューすることです。これを通じて、東京市場の参加者の方々が今後の業務運営の上で役立てていただけるような視点や材料を提供したいと思います。
第三に、海外および東京の外国為替市場委員会の活動内容についての情報を提供することです。この結果、外国為替市場委員会の趣旨や意義への理解をより広く共有していただくとともに、東京外国為替市場委員会の活動におけるモメンタムの強化を目指したいと思います。
こうした趣旨に鑑み、東京会合に際しては、欧米主要国の市場関係者や中央銀行とともに、アジアや大洋州の諸国の市場関係者や中央銀行関係者をお招きしました。各国市場の第一線で活躍される関係者同士が各々異なる立場から意見を交えることは、東京市場のあるべき姿や、アジアを中心とする国際金融市場の中での東京市場の機能や役割を考える上で、有意義であると思います。同時に、東京会合での議論が、将来に向けて、アジア諸国の外国為替市場のより効率的な運営に繋がることを願って止みません。
東京会合の主要なトピック
私は、今回の東京会合のトピックとして、「東京外国為替市場が果たすべき機能や役割について、グローバルな外国為替市場の動向と照らし合わせながら考えること」を挙げたいと思います。
世界の外国為替市場はこの数年の間に大きな変化を経験してきました。すなわち、ヘッジファンド、個人投資家、公的投資家といった新たな参加者のプレゼンスが大きく増すと同時に、エマージング通貨の取引ニーズが高まってきた結果、外国為替市場の規模が飛躍的に拡大しています。2007年4月の取引を対象に国際決済銀行が実施した取引高サーベイによれば、2004年4月からの3年間での全世界の取引高の伸びは年率で19%に達しました。また、こうした取引高の増加が、主要国の市場に止まらずエマージング諸国の市場に広がったことも明らかになりました。さらに、各国の外国為替市場委員会が実施する取引高調査は、取引高の急増が多くの市場で続いていたことを示しています。
その背後では、外国為替市場で様々な変化が進行していたと考えられます。代表的なものだけをとってみても、低金利環境下の"Search for yield"やコモディティ価格の高騰に伴う購買力の移転などといった景気循環に関連する要因が挙げられます。同時に、エマージング諸国の成長に伴う貿易やクロスボーダー投資の拡大、IT技術の革新に伴う取引コストの低減や取引手法の高度化などといったより長期的な要因も重要であったとみられます。
わが国でも、個人投資家の対外証券投資や事業法人による海外事業活動の活発化に伴って、外国為替取引へのニーズもアジアをはじめとする多様な通貨へと拡大しているものとみられます。また、東京外国為替市場委員会が毎年実施する取引高調査は、インターバンク市場や個人取引の面で電子取引の拡大が続いていることを示しています。市場参加者の面では、個人投資家のプレゼンスが大きく上昇しました。その一方で、ヘッジファンドを始めとする海外投資家による東京市場での取引活動は限定的であったとの指摘があります。これに伴い、近年における東京市場での取引高の伸びも他の国際金融センターに比べて緩やかであったと言えます。
東京会合では、これらの内外市場での共通点や相違点を踏まえながら、東京の外国為替市場に何が求められているかについて議論していただきたいと思います。
そこで、Global Operations Managers' Conferenceの目的に関連する論点として、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 電子取引の成長による業務や取引への影響
- エマージング通貨取引の今後の見通しや東京市場の「活性化」への寄与
- 新たな市場参加者の参入に適応するためのグローバルに整合的な市場慣行のあり方
- 有事の際にも市場機能を維持するための業務継続体制(Business Continuity Plan)の整備
私は、東京会合の多様な参加者の方々に対して、各々の経験や識見に基づくグローバルな視点から活発に意見を交えることをお願いしたいと思います。
国際金融不安の暫定的インプリケーション
私は、東京会合においては、今回の国際金融不安のインプリケーションに触れることも劣らず重要であると思っています。
外国為替市場は、総じて見れば、国際金融不安の影響を乗りこえながら、エマージング通貨も含めて「懐の深い」取引を提供してきました。世界の市場では、多数の参加者が様々な経済行為のために市場に参加し、その結果、1日に3兆ドルを超える膨大な金額の取引が行われている訳です。
実際、昨年夏以降に国際金融不安が顕現化した後も、外国為替市場については、市場の抵抗力(resiliency)を評価する向きが大勢でした。つまり、初期にはエマージング市場への資金シフト、最近では米国へのリパトリといった形で、クロスボーダーの資金フローが方向を変えつつ増勢を強めたにも拘らず、外国為替取引は総じて大きな問題なく秩序だって執行されてきました。
もっとも、為替スワップ市場では、市場流動性の低下が目立っています。つまり、取引レートが不安定化するだけでなく、取引自体がしばしば困難となっている訳です。これは、カウンターパーティ・リスクへの意識への高まりに伴って、短期金融市場の機能が損なわれた結果、為替スワップ市場での「価格発見」が困難になったことによるものです。このため、ある通貨の資金を調達した上で、為替スワップ取引を通じて、別の通貨の資金調達に充てることが難しくなり、一部のグローバルな金融機関による資金調達に問題が生じました。こうした資金調達の問題は、米ドルにおいて最も顕著に生じています。世界中の中央銀行が時差を超えてドル資金を供給しているのはこのためです。
しかも、足許では、為替スワップ以外の外国為替取引に関しても、取引高が高水準で推移する中でもビッド・アスク・スプレッドが拡大するなど、市場流動性の低下の兆しを指摘する向きがみられるようになっています。その理由としては、外国為替取引を通じて取得する資産のファンディングに対する不安とともに、市場参加者相互間でのカウンタ−パーティ・リスクへの不安や、マーケット・メイカーだけでなく投資家も含めたリスク・アペタイトの減退などが挙げられています。
こうして、外国為替市場といえども、結局のところは「市場流動性の低下」という、国際金融不安に共通する問題から隔離されているわけではないとも言えます。しかも、市場参加者と取引対象の通貨がともにボーダーレスであるだけに、市場機能の低下が容易にグローバル市場に拡散したという点でも、今回の国際金融不安に共通の要素を備えているように思えます。
為替スワップを中心とする外国為替市場の流動性の低下は、市場機能の維持に関わる論点を少なからず含んでいます。
例えば、議論の前提として、近年成長した参加者や取引手法が、市場流動性にそもそも如何なるサポートまたはストレスを齎していたかを整理することは有用です。今回の市場機能の低下に関しては、外国為替市場の基本的枠組みであるブローキングやマーケット・メイキングが受けた影響について、市場機能の頑健性という視点から考えることが必要です。また、日本銀行を含む主要国の中央銀行は米ドル資金供給オペを実施していますが、為替スワップ市場への効果についても伺いたいと思います。
決済リスクへの対応も劣らず重要です。ストレスの下で一定の市場機能を維持しうる外国為替市場を展望する上では、主要通貨だけでなくエマージング通貨も含めて、外国為替取引に係る決済リスクの削減を進めることの重要さは一段と増しています。
もちろん、国際金融市場の不安定化は、地理的にも内容的にも多様な問題が絡み合いつつ進行途上であるだけに、現時点で事態を鳥瞰した上で、包括的な議論を行うことは決して容易ではありません。しかし、今回の東京会合は国際金融不安の最中に開催されるだけに、現時点で認識された論点からでも議論を始めておくことは、解決すべき課題を共有し、将来に向かって具体的対応を引き出す上で、最初の重要なステップになるものと思います。
おわりに
最後に、東京会合が、「オープンでフランクな意見交換を行う」というGlobal Operations Managers' Conferenceの良き伝統を継承し、参加者の方々にとって、今後の外国為替市場のより良い運営に資する成果を挙げることを強く期待しつつ、私の挨拶に代えさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
以上
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