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【講演】「日本銀行への招待」

「にちぎん☆NIGHT」における講演

日本銀行総裁 白川 方明
2008年12月22日

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目次

図表(PDF)572KB

1.はじめに

 日本銀行の白川です。総裁という立場になり、色々とお話をする機会は多くなりましたが、普段は企業経営者、金融市場関係者、新聞記者の方々など、どちらかと言えば専門家の方々へのお話が中心です。本日は、年齢層も含めてかなり幅広い方々にお話させていただきます。

 皆さんは、学校の社会科の授業などで、日本銀行について習ったことはあると思いますが、常日頃は日本銀行をあまり身近に感じることは少ないのではないかと思います。本日はできるだけ皆さんに日本銀行のことを分かりやすくご説明したいと思い、「日本銀行への招待」というタイトルでお話をさせていただきます。

 具体的には、日本銀行の仕事、日本銀行の組織、日本銀行の抱えている課題という3つのことをお話します。

 まず、本日お集まりいただいている、この日本銀行本店の建物からお話をします。

 ところで、話を始める前に、日本銀行は、よく「にほんぎんこう」なのか「にっぽんぎんこう」なのかと訊ねられます。お札にローマ字で「にっぽんぎんこう」と書いてありますように、正式には「にっぽんぎんこう」です。私も国会などの場では、「にっぽんぎんこう」と力強く呼ぶようにしています。

 このことを申し上げたうえで、建物の話に移りますが、日本銀行が明治15年(1882年)に設立された際には、永代橋の袂にありました旧北海道開拓使東京出張所を店舗として、営業をスタートしました(図表1)。その後、明治29年(1896年)、今から112年前に、ここ日本橋の地に引っ越して参りました。江戸時代、この場所には「金座」と呼ばれる徳川幕府の金貨の製造所があり、そうした縁もあって、日本銀行はこの場所を本店に選びました。

 本店の建物の中で、最も有名なのは、本館と呼ばれる建物です(図表2)。この建物は、東京駅の煉瓦造り駅舎などの設計を手がけた辰野金吾博士の設計によるもので、明治29年に出来上がりました。国の重要文化財にも指定されています。

 日本銀行の建物は、本支店いずれもそうですが、重厚な雰囲気があって、やや近寄り難いという印象をお受けになると思います。私は仕事柄海外の中央銀行を訪ねることが多いのですが、中央銀行という仕事の性格を反映してか、どの国の中央銀行も驚くほど建物や人の雰囲気が似ています。

2.日本銀行の仕事

 日本銀行の最も根源的な仕事は、「お金」を発行して、その「お金」を国民の皆さんが安心して、かつ便利に使えるような環境を整えることです。このことは、経済が発展し、社会が安定するための最も基礎的な条件の1つです。この目的を果たすために、日本銀行は様々な仕事を行っています。短時間で全部を説明することはできませんが、主なものとしては、次の4つが挙げられます(図表3)。一つ目は、銀行券を発行し、全国津々浦々できちんと流通できるようにすること、二つ目は、効率的で安全な決済システムを運営すること、三つ目は、金融システムの安定を確保すること、四つ目は、物価の安定を維持することです。

(1)日本銀行券の発行・流通

 最初に、日本銀行券(お札)を発行する仕事からご説明します(図表4)。

 お札は、日本銀行ではなく、国立印刷局で製造されます。その後、日本銀行に持ち込まれますが、この段階では、お札は単なる「モノ」として扱われ、日本銀行の貸借対照表のどこにも出てきません。民間金融機関が日本銀行に預けている預金を引き出して、お札を手にした段階で初めて、日本銀行の負債(貸借対照表の右側)となります。皆さんの場合、貸借対照表を書くと、お札は資産の部(貸借対照表の左側)に計上されますが、お札が貸借対照表の右側に出てくる組織は、我が国では日本銀行だけです。そして、皆さんが銀行から預金を引き出して、お札を手にするという形で、お札が世の中に出て行きます。

 日本銀行は、本支店のネットワークを通じて、お札を供給しています。お札という現物を全国各地に配っていますので、日本銀行は、ある意味ではお札の「物流」を担っている巨大な組織でもある訳です。企業が在庫の管理を行うように、日本銀行も、千円券、二千円券、五千円券、一万円券をどの店にどの程度置くかということを、いつも考えています。いくら置いているかということは企業秘密ですから言えませんが、こうした在庫管理を周到に行っています。現金(お札と貨幣の合計)の流通残高をみますと、2007年末時点では、家計・企業が75兆円、民間金融機関が10兆円、合わせて85兆円となっていますが、それとは別に、日本銀行の本支店がモノとしてお札の在庫を抱えています。

 日本銀行から出て行ったお札は、様々な取引に使われた後、日本銀行に戻ってきます。因みに、お札の流通状況を、日本銀行の本支店における民間金融機関との支払・受入超過額でみますと、本店、大阪、福岡、札幌などの大都市で大きく受入超過となる一方、他の店はほとんど支払超過になっています(図表5)。その背景としては、例えば、福岡には、金融機関が現金センターを設置していることから、九州地区の日本銀行の支店から出たお札が、福岡に多く集まってくるという事情が挙げられます。また、京都は、現在は支払超過となっていますが、私が日本銀行に入行した頃は、受入超過の店でした。全国の観光客がお札を持って京都に行き、神社仏閣で拝観料などとしてお札を支払うと、そのお札が、日本銀行の京都支店に戻ってきていました。しかし、現在では、京都にある金融機関のATMでお札を引き出すケースも増えていると思われます。このため、かつてほどお札が京都に集まることはなくなった訳です。こうした状況をみると、お札の「物流」の変化を改めて感じます。

 お札が戻ってくると、日本銀行は、最新鋭の機械により偽札が混じっていないか、汚れ過ぎていないかどうかなどをチェックしています。これを鑑査と言います。もちろん偽札があったら排除しますし、汚れたお札は回収します。常にお札をきれいに保つことは、日本銀行の重要な仕事の1つです。皆さんが海外に行くと、日本のお札はきれいだと感じられると思いますが、それは汚いお札が全部回収されているからです。

 汚くなってもう使えなくなったお札は裁断され、お札としての一生を終えます。裁断屑の一部は、建材やトイレットペーパーなどの形で再生されています。

 お札の平均的な寿命は、一万円札では4〜5年程度、五千円札と千円札では、つり銭などでやり取りすることが多いこともあって、概ね1〜2年です。

 お札には、高度な偽造防止技術が使われています。また、日本銀行が鑑査を行って、常にきれいなお札を流通させることによって、どれが偽札かを分かりやすくしています。犯罪を防ぐ観点からは警察の協力も必要です。お札の製造コストは、1枚当たり約16円ですが、お札が世の中で便利かつ安全に使われる背後には、今申し上げたように日本銀行による鑑査や警察の協力など関係者による様々な努力が存在し、当然様々なコストがかかっています。こうしたコストをかけて初めて、安心してお札が使えるようになっていると言えます。因みに、流通するお札100万枚当たりの偽札枚数は、アメリカでは約100枚にも上りますが、日本では約1枚です。

(2)決済システムの運営

 第二の仕事は、決済システムの運営です。

 皆さんが商品を購入する際の代金の支払や送金といった取引の背後には、銀行間の決済が存在しています。個人Xが企業Yから商品を購入し、代金を振込む場合には、個人Xが代金をA銀行の口座に入金し、その資金がA銀行からB銀行に送金されて企業Yの口座に入金されます(図表6)。その際、A銀行とB銀行は、日本銀行に当座預金口座を設けており、これを利用して代金の振替を行います。こうした仕組みを「決済システム」と呼んでおり、その運営は日本銀行の重要な仕事の1つです。

 決済手段としては、銀行券、貨幣、普通預金・当座預金等の銀行預金などが利用されています。2008年3月末時点では、日本銀行に当座預金口座を持っている金融機関は、573先に上ります。一般の企業や個人は日本銀行に預金口座を持つことはできません。海外の中央銀行の中には、かつては個人や企業が預金口座を開設していた先もありましたが、近年ではそうした取扱いを行わないのが一般的であり、基本的には「銀行の銀行」の役割に特化しています。

 日本銀行当座預金は、民間金融機関同士の資金決済に利用されるほか、民間金融機関はここから現金を引き出すことができます。このような日本銀行当座預金の資金の振替を行うシステムが、「日銀ネット」というコンピュータ・ネットワークです。日本銀行当座預金を使った決済金額は、1営業日当たり約120兆円に達しており、1営業日当たりの名目GDP金額の約60倍の決済が行われていることになります(図表7)。因みに皆さんが送金を行う際に利用する「全銀システム」の決済規模は1営業日当たり約11兆円であり、日本銀行の決済システムを通じていかに巨額の資金が動いているかがお分かりいただけると思います。

(3)金融システムの安定確保

 第三の仕事は、金融システムの安定を確保することです。

 皆さんが民間金融機関に預金を置いているのは、いつでもこの預金を現金に換えられるという安心感があるからです。この安心感がなくなった状態が、いわゆる預金の取り付け騒ぎです。金融機関が潰れるのでは、との心配から預金を引き出そうと金融機関に殺到するという、いわゆる取り付け騒ぎが、1990年代後半の金融システム不安時に実際に起きました。取り付け騒ぎが発生したり、経営内容が悪化しますと、金融機関は相手の金融機関からお金が支払われないのではないかとお互いに疑心暗鬼になってきます。こうした中では、1つの金融機関が支払できないということが原因となって次々とドミノ倒し的に支払ができなくなるという —— これを「システミック・リスク」と呼びます —— ことが現実のものとなりかねません。そうしたことが起きないようにすることも、日本銀行の大事な仕事です。

 そのために日本銀行は、日頃から金融機関の業務運営や経営状態を十分に見ています。具体的には、日本銀行は定期的に金融機関に出向いて、金融機関の資産内容、リスク管理体制、市場取引の内容などを調べています。これを「考査」と呼んでいます。また、金融機関の経営状況を常日頃から見ていくという仕事を「モニタリング」と呼びます。考査とモニタリングの2つの活動を通じて金融機関の状況を、ひいては金融システムの状況を調べています。

 それでも、金融機関の資産内容が悪化して支払が難しくなるという事態が発生し得ます。その時には、日本銀行が「最後の貸し手」としてお金を供給します。通常は担保を相手から受け入れたうえでお金を供給しますが、連鎖的な金融の不安が広がりかねないと判断される場合には —— 中央銀行としては非常に難しい決断ですが —— 一定の条件のもとで担保がなくてもお金を貸すこともあります。1997年の山一証券に対する特融はその事例です。

(4)物価の安定維持のための金融政策運営

 第四の仕事は、物価の安定を維持するための金融政策の運営です。

 「お金」を安心して使えるためには、銀行預金から常に現金を引き出せるだけではなく、物価が安定していることも必要です。日本銀行は、「物価の安定」を達成するために、金利を上げたり下げたりする「金融政策」を行っています。

 過去約100年における消費者物価の上昇率の推移をみますと、物価が大幅に上昇する、いわゆるインフレという現象が何度か発生しています(図表8)。具体的には、第一次世界大戦時、第二次世界大戦後や1973〜74年の第一次石油ショック時などがこれに相当します。

 「物価の安定」が必要な理由を改めて整理しますと、以下のような点が挙げられます。第一に、経済活動は、物価が安定している下で効率的に行われやすいことです。第二に、仮に物価が不安定な場合、企業や家計は将来の計画を立てにくくなり、長期的な視野に立った貯蓄・投資行動が困難になることです。言い換えますと、物価の安定が保たれている方が経済がより発展していくということです。

 現在、金融政策の運営は、「オーバーナイト金利」(今日借りて明日返済する資金の金利)のコントロールを通じて行っています(図表9)。その原理を説明しますと、日本銀行は、お金を市場に供給できる唯一の存在なので、金利を上げようと思ったら、お金の量を少し絞ればよく、逆に金利を下げようと思ったら、お金を少し増やせばよい訳です。私はこのことを、しばしば椅子取りゲームに例えて説明しています。このゲームは、音楽が鳴っている間に椅子の周りを回り、音楽が止まったらすぐに椅子に座るというものですが、椅子の数はプレイヤーの数より1つ少なくなっています。金利を上げるということは、このゲームでいえば、椅子の数を1つ少なくすることに相当します。このようにして、日本銀行は、金利水準のコントロールを日々行っています。

 日本銀行がごく短期の金利をコントロールすると、やがて中長期の国債金利や銀行の貸出金利、株価や為替レートにも影響していくことを通じて、経済活動全体に金融政策の影響が及んでいきます。例えば、金利が上がると、家計では住宅ローンが利用しにくくなり、住宅投資が抑制されるほか、企業では設備投資が控えられ、景気全体も抑制されることになります。

 金融政策の運営に当たっては、その時々の経済・物価情勢をできるだけ正確に把握することが必要です。このため、日本銀行では、様々な調査活動を行っています。企業を訪問してお話を伺っているほか、短観などの統計作成、金融市場の動向のモニタリングなど多様なルートで収集した情報に基づき経済全体の状況を判断しています。

3.日本銀行の組織

(1)設立時期

 前述のように、日本銀行は、明治15年(1882年)に設立されました。明治10年(1877年)に西南戦争が勃発し、大変なインフレが発生したことから、その後の経済の立て直しを図っていく過程で中央銀行が必要と認識されたことが、設立の経緯です。設立時期を他の中央銀行と比べてみますと(図表10)、世界で一番古い中央銀行はスウェーデンで1668年に設立されました。因みにノーベル経済学賞が1968年にできましたが、これはスウェーデンの中央銀行が創立300周年の記念事業として行ったものです。アメリカの中央銀行であるFRBは1913年の設立です。設立時期という点では、日本銀行は先進国の中で、中間辺りに位置しています。

(2)人員・組織

 日本銀行は、現在、本店のほかに、国内に32の支店、14の事務所、海外に7つの事務所を持っています。日本銀行の建物は堅牢で、たくさんの人が働いているのではないかという印象を持たれるかもしれませんが、実際には本店、支店を合わせて5千名弱です。日本、アメリカ、欧州(ユーロエリア15か国)の中央銀行について職員数を比較しますと(図表11)、GDP対比では日本を100とした場合、アメリカは134、欧州は339です。また、人口対比では、日本を100とすると、アメリカが179、欧州が380です。この数字が示すように、日本銀行は、海外の中央銀行と比べると、効率的な中央銀行であると自負しています。

 日本銀行の最高意思決定機関は政策委員会です。総裁1名、副総裁2名、審議委員6名で構成されていますが、現在は、審議委員が1名欠員となっており、全員で8名です(図表12)。政策委員会では、金融政策だけではなく、経営計画、内部管理の問題も含めて全ての重要な案件を決定しています。普通の企業では取締役会に相当しますが、政策委員会は通常会合が週2回、金融政策に関する会合が月に1回ないし2回開催されています。それ以外にも様々な情報連絡のための場があり、開催頻度という点では、企業の取締役会とはかなり異なっています。

(3)法的性格

 日本銀行の法的性格については、政府の一部と誤解されることもありますが、政府とは異なる組織です。法律的には、政府が設立を認可した「認可法人」です。日本銀行の資本金は1億円で、このうち、政府の出資比率は55%、民間の出資比率は45%、そのうち個人が38%となっています。

 よく「日本銀行は株式会社か」と聞かれますが、商法上の株式会社とは異なります。出資証券というものがあり、株式と似た面もありますが、出資者の権利は、商法上の株式会社の株主とは異なっています。具体的には、日本銀行には株主総会はなく、出資者には議決権の行使は認められていません。配当金は年5%以内と定められており、日本銀行が仮に解散した場合の残余財産の分配も限定されています。ただ、株式と同様に、出資証券も取引されており、毎日価格が変動しています。

 政府との関係について敷衍しますと、日本銀行には、金融政策の運営について独立性が与えられています。政府が金融政策を決定するのではなく、日本銀行、具体的には政策委員会が決定することが保証されています。

 日本銀行に金融政策の独立性が与えられている理由は、過去の苦いインフレの歴史があるからです。物価が上昇するということは、企業にとっては目先は利益が増加する状態を意味します。消費者にとっては、物価上昇自体は困る訳ですが、同時に賃金が上昇し、景気も良い状況にあることから、物価上昇の最初の局面では、物価上昇への抵抗は必ずしも強くありません。このため、本来はインフレを抑制するべき必要がある局面になっても、「金利を上げる必要はない」との議論がどうしても起こりやすくなってしまいます。しかし、本格的にインフレが始まると、インフレがインフレを呼ぶこととなり、経済の発展にマイナスとなるほか、人々の間に不公平を生じさせることとなります。このため、インフレを抑制する目的を持った組織として、独立した中央銀行が必要となります。この点、例え話として、よく目覚まし時計の話が使われます。私もそうですが、多くの人は毎朝目覚まし時計をかけています。目覚まし時計が鳴った瞬間は「まだ寝ていたい」と気持ちになりますが、そもそも、なぜ目覚まし時計をかけるかというと、ついつい「もう少し寝ていたい」という自分の弱さを認識しているからです。目覚まし時計は、一定の条件が発生すれば必ず決められたように作動するという装置であり、それと同じように社会全体、経済全体として、インフレ的な兆しが出てきた時に、それに対して必ず行動をとる組織が必要であり、それが独立した中央銀行という組織です。

 ただし、日本銀行は独立性を持っていますが、日本銀行自身がこの独立性の上に胡座をかいて独善に陥ると、金融政策の運営に失敗し、結果として国民の皆さんにご迷惑をかけることになりかねません。このため、日本銀行は自分自身の判断でしっかり金融政策を決定、実行すると同時に、なぜこういう決定をしたのかということを国民の皆さんに対して分かり易く説明する責任があると考えています。その意味で、独立性と説明責任(アカウンタビリティー)は表裏の関係をなすものです。

(4)日本銀行の収益構造

 日本銀行は、銀行券という無利子の負債で資金調達ができる唯一の組織です。一方、資産サイドでは、国債を購入したり、金融機関に対して貸付を行ったりしているので、ここから必ず金利収入が入ります。そういう意味で、中央銀行は普通は必ず収益があがる組織です。現在は低金利ですから、昔に比べると日本銀行の収益額は減っていますが、近年の平均的な決算を数字で大まかに示しますと、収益が1兆3千億円、費用が6千億円、利益が7千億円となります。この7千億円の中から税金を払い、出資者に配当を行い、日本銀行自身の内部留保を行ったうえで、残りの6千億円を政府に納めます(図表13)。この6千億円は政府の支出の中で使われますので、最終的には国民の皆さんに還元されていると言えます。

4.日本銀行の課題

 次は、日本銀行がどういう課題に直面しているかについて、本日は時間の関係上2点だけお話します。

(1)中央銀行間の協力

 第一は、中央銀行間の国際協力が非常に重要になってきていることです。

 金融市場のグローバル化とよく言われますが、世界中の金融市場は繋がっています。明治の初めに日本銀行ができた頃は、国内の金融市場ですら繋がっていませんでした。現在では全国どこでも金利水準は同じですが、明治時代には、東京、大阪、九州の金利はそれぞれ異なっていました。こうした金利の違いを是正することも1つの目的として、日本銀行の支店が設立されました。近年では、金融市場のグローバル化は一段と進んできており、これに合わせて中央銀行間の協力も様々な面で必要になってきています。

 最近の例で言いますと、いわゆるサブプライム・ローン問題の発生を契機に、国際的な金融危機が発生しています。詳しい話は省略しますが、金融機関に損失が発生し経営体力が落ちてくると、金融機関はこれまでに比べて貸出をしにくくなります。その結果、経済全体の活動が落ちてきて、それが再び金融機関の収益に影響を及ぼすことになります。つまり、金融と実体経済とがお互いにぐるぐると悪い方向に回るという悪循環が起きている訳です。この問題を解決するためには様々な対応が必要ですが、とりあえず金融機関が支払うお金がないと、先ほど申し上げたシステミック・リスクが発生することとなってしまうので、まずは資金を供給することが必要となります。このため、日本銀行では、円資金を潤沢に供給しているほか、金融機関に対しドル資金を供給するという措置も、9月以降時限措置として実行しています。これは、日本銀行を含めた世界の主要国の中央銀行が協力し、それぞれの国でドルを供給するという仕組みです。具体的には、日本銀行は、ニューヨーク連邦準備銀行に円を渡し、代わりにドルを調達します。日本銀行は、このドルを日本や外国の銀行や証券会社に供給します。もちろん、ドルを供給する際にも担保が必要であり、為替レートの変動を見込んで担保には掛け目をかけていますが、その範囲内であれば、日本銀行は無制限でドルを供給しています(図表14)。

(2)技術革新への対応

 二つ目は、技術革新への対応です。

 現在、様々な技術革新が進んでいますが、1つの例としてお札の話をしたいと思います。先ほど偽造防止についてお話しましたが、高性能の印刷機(プリンター)やパソコンが普及する中で、偽札も世界的に大きく増えてきています。これに対抗するため、偽造防止のための工夫として様々な技術が駆使されています。日本には、世界で最も有力な印刷機(プリンター)やパソコンのメーカーが存在することもあり、日本銀行は、世界の偽造防止の動きの中で中心的な役割を担う中央銀行の1つです。偽造防止のための工夫としては、従来から、精緻なデザインや「すかし」、カラーコピーを防止できる特殊インクの使用など、各種の技術が用いられていますが、現在のお札には、世界最高レベルの技術が用いられています。まず、一万円札、五千円札の左下のキラキラ光る部分は、見る角度によって画像が変わる「ホログラム」です。また、従来よりもインクが高く盛り上がる特殊な印刷技術も使っています(図表15)。

 もっとも、偽造を可能とする技術進歩は日進月歩であり、それと対抗する我々にも、たゆまぬ取り組みが求められています。日本銀行としては、これからも海外の中央銀行とも協力しながら、偽造防止に努めていきたいと考えています。

5.おわりに

 以上、日本銀行が果たしている使命や役割についてお話してきましたが、私自身、日本銀行が仕事をしていくうえで、3つの点が大事だと考えています。

 一つ目は、日本銀行は、「銀行の銀行」と呼ばれるとおり、「銀行」そのものであり、「銀行」としての様々な業務を大切にしたいと考えています。決済、貸付、あるいは担保の受入など様々な業務に関して、「銀行」としての技術をどう磨いていくのか、ということが非常に大事であると考えています。

 二つ目は、世の中の動きを迅速に捉えて、中央銀行としてどう対応すればよいかを常に問い続けていく姿勢が大事だと思っています。その意味で、私自身、よく言っているのは、日本銀行は「学習し実践する組織」でなければならないということです。学習といっても机に向かって勉強するのではなく、「世の中の変化を常に敏感に察知し、銀行業務を通じて実践していく」という意味です。

 三つ目は、日本銀行は決して内向きになることなく、常に外の世界を意識して行動する組織でありたいと考えています。本日のこの機会も、普段は日本銀行に接することのあまり多くない皆さんと接点を持つ非常に大切な機会と思っています。

 ご清聴ありがとうございました。

以上