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【挨拶】「最近の金融経済情勢と金融政策運営」

沖縄県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 野田忠男
2009年2月26日

目次

  1. 1.はじめに
  2. 2.海外経済の現状と先行き
    1. (1)回復への重石となる「不均衡」の存在
    2. (2)米欧の金融機関のバランスシート問題
    3. (3)先進国経済と新興国経済の間における負の相乗作用
    4. (4)各国の政策対応
  3. 3.日本経済・物価の現状と先行き
    1. (1)経済
    2. (2)物価
    3. (3)リスク要因~金融環境~
  4. 4.金融政策運営
    1. (1)政策金利の引き下げ
    2. (2)金融市場安定化のための施策
    3. (3)企業金融支援のための施策
    4. (4)企業金融円滑化と市場機能とのバランスの重要性
  5. 5.終わりに~沖縄経済について~

1.はじめに

 日本銀行の野田でございます。本日は、沖縄県の経済界を代表される皆様方にお集まり頂き懇談の機会を賜りまして、大変光栄でございます。日頃は、支店長の水口をはじめ、私共の那覇支店が大変お世話になっており、まずもって厚く御礼申し上げます。

 私は、30数年間の民間金融機関勤務を経て、2006年6月に日本銀行の政策委員会審議委員を拝命しました。それから2年半余りになります。日本銀行では、政策委員会のメンバーである総裁、副総裁、審議委員が、経済・物価の動向や金融政策運営に関する考え方をお話しするとともに、各地を代表される方々と金融経済情勢について意見交換させて頂く目的から、懇談会を開催しております。

 最初に私から経済情勢について(1)海外、(2)日本、(3)沖縄の順で、金融政策運営についても触れながら、お話しさせて頂きます。ご存知の通り、世界経済は日本経済を含め、第2次世界大戦後最悪とも言える不況の中にあります。(1)どうして、このような大不況になったのか、(2)先行き、景気はどうなるのか、(3)沖縄経済への影響はどうなのか、といった点について、一政策委員としての私の見方も織り交ぜながら、お話させて頂きます。

 その後になりますが、皆様から、毎日のお仕事、ご商売の実感や地元経済の現状に関するご意見、さらには日本銀行に対するご要望などを拝聴させて頂きたいと存じます。今後の金融政策運営に携っていくうえで大いに参考にさせていただきたいと、私自身楽しみにしているところでございます。

2.海外経済の現状と先行き

 それでは、まず今回の大不況の震源地である米国を中心に、海外経済からお話ししたいと思います。

(1)回復への重石となる「不均衡」の存在

 世界経済は、一昨年夏の国際金融資本市場の混乱を皮切りに、その後次第に減速傾向を強め、特に昨年9月のリーマン・ブラザーズの破綻以降、さらに減速を速め、足もと世界同時不況の様相を深めています。先行きについては、数四半期、減速が続き、その後、緩やかに回復していくとの見通しが多く聞かれますが、一頃よりは足もと、目先ともに減速幅は大きく、回復のタイミングも後ずれするとの見方が増えつつあります。IMF(1月公表)は、2002~2007年にかけて5%近い高成長を続けてきた世界経済は、2008年には3.4%、2009年には戦後最低の0.5%まで成長率は大きく鈍化し、中でも先進国は2009年にマイナス成長となるという見通しを示しました。

 こうした見方の背景としては、2002年以降の世界同時好況の間に蓄積された様々な不均衡——(1)米国の過剰消費とそれを支えてきた過剰債務、(2)ヘッジファンド、SIV1等も含む金融セクター全般におけるレバレッジ2の行き過ぎ、(3)多くの国における住宅や不動産の価格の過度の上昇など——が時間の経過とともに少しずつ実像化し、その想像を超えた大きさが明確になりつつあることが挙げられます。

 こうした不均衡は、グローバルな経常収支の不均衡の拡大によって支えられていたという側面があります(図表1(1))。すなわち、かつて経常収支の赤字の積み上がりから1997年のアジア通貨危機を経験した東アジア諸国をはじめとする新興国は、その後経常収支を黒字化させ、外貨準備を積み上げてきました。この新興国やわが国の貯蓄余剰が米国の経常収支の赤字をファイナンスし、その過剰消費を支えてきたのです。このような不均衡が巨大化し、持続不可能な水準に至り、今まさに調整が進んでいるところであるという大きな流れを認識する必要があります。これは、米国経済をはじめとする世界経済の先行きを展望するうえでも重要です。

 グローバルな不均衡は様々な尺度によって測ることができますが、まず、米国の家計部門における金融負債残高を可処分所得対比でみると、住宅ローン借入れの急増を背景に、2000年前後から急速に上昇していることがわかります3(図表1(2))。次に、世界の銀行の対外債権残高の世界GDP比をみると、2002年頃から、国際資金取引および市場流動性が実体経済の拡大テンポに比べ大きく膨張していったことが読み取れます(図表1(3))。また、米欧の住宅価格の推移をみると、(1)2007年頃までのグローバルな信用拡張期において大幅に上昇し、その上昇幅は1980年代後半の日本のバブル期の住宅地価の上昇幅よりも大きかったこと、(2)その後、下落したとはいえ、まだ下げ余地を大きく残している可能性が高い4ことがわかります(図表1(4))。

 今回の世界的な不況は、単なる景気循環ではなく、グローバルな構造調整として捉えておくことが適当と考えています。かつて日本の企業や金融機関は90年代にバランスシート調整を余儀なくされ、その克服に長期の時間を要しました。その経験を踏まえれば、様々な不均衡の調整の進み具合を確認することは、不況の長さや深さ、あるいは回復の時期を見極めるうえで重要と考えています5

  1. 1Structured Investment Vehicle:証券化などの特別の目的のために設立される事業体(特別目的会社)。
  2. 2社債や借入金への依存度を高めることにより、自己資本利益率を向上させること。
  3. 3この間、米国では、(1)緩和的な金融環境が続いたこと、(2)住宅価格の上昇が長期間続き、先行きの上昇期待が形成されたこと、(3)銀行が緩和的な貸出態度を続ける中で、通常では借りられない信用スコアの家計にまで住宅ローンが供与されるようになったことなどを背景に、家計はレバレッジを高めてきました。さらに、家計の貯蓄率は0%近くまで低下し、それらの裏で過剰な消費行動が進みました。
  4. 4因みに、米国の住宅価格の先物指数(取引量が限られているため、指標性の面で制約があります)をみると、住宅価格は2006年半ばのピークから直近まで3割弱下落していますが、この直近の価格から2010年11月までにさらに1割以上下落していくとの見通しを示唆しています。
  5. 5この「不均衡の蓄積と調整」の詳細については、日本銀行の「金融市場レポート」(2009年1月)の5~15頁をご参照下さい。

(2)米欧の金融機関のバランスシート問題

 また、「金融」という面から整理すれば、今回の金融不安の根底にある、米欧を中心とした金融機関のバランスシートに対する懸念——すなわち、バランスシートの左側の資産がどれだけ毀損されるのか、それに対して右側の資本が十全に備えられているかという疑心暗鬼——が各国政府による一連の公的資金の注入にもかかわらず一向に払拭されていないことがあります6。また、金融部門の調整は、金融機関の与信姿勢の厳格化などを通じて実体経済を下押しし、実体経済の悪化が、金融資産価格の下落や信用コストの増加を招き、金融機関の損失拡大と与信姿勢の更なる厳格化に立ち返っていくという「金融と実体経済の負の相乗作用」が強まっています。こうした中、世界の金融機関の損失額は拡大しており、IMF推計の累計の損失額は、昨年4月時点では9,400億ドルでしたが、10月時点に14,000億ドル、1月末には22,000億ドルにそれぞれ引き上げられました。

 1998年以降の邦銀に対する資本注入による金融システム安定化へのプロセス——私も当時その渦中に身を投じていましたが——を踏まえれば、米欧の金融機関におけるバランスシートの問題を根本的に解決するためには、(1)厳格な資産査定による損失額の把握や(2)不良債権の処理、という重要課題を克服し、そのうえで(3)明らかになった資本の不足を追加的調達により補填することがまずもって必要になります。その意味では、米政府が、不良資産買取りのための官民共同の投資ファンドの設立等の対策を盛り込んだ新たな金融安定化策7を今月10日に発表し、資産査定を厳格に行うことを含め、メニューを揃え、示したことは前進です。しかしながら、新たな官民投資ファンドというスキームの導入が不良債権の買取り価格をどう決めるのかという難問解決にどう繋がるのか不透明であり、具体策が示されるまでにはまだ時間がかかりそうです。また、買取金額の規模が、推計される不良債権規模に比して小さいといった厳しい評価や失望の声も聞かれています。

 実効面の課題で特に重要なものは、不良資産買取り価格の決定方法ですが、価格が高ければ買取りを行う政府等の負担が大きくなる一方、価格が低ければ金融機関からの不良資産の分離が進まず、関係者が合意できる価格——公正価格——をみつけることは本来的に確かに容易ではありません。90年代の日本も、不良債権の分離——破綻金融機関以外からの買取り——は、この公正価格設定の困難さから実質的には捗々しくなかったことを思い起こす必要があります。現在の米欧の金融機関の不良資産には、価格評価が困難とされる証券化商品が多く含まれているため、価格決定の実作業は90年代の日本よりも難易度が高いとも言えます。とはいえ、この点については、根拠法である「緊急経済安定化法」が成立した昨年10月当時からissueであっただけに、市場の失望は大きいものでした。これらの点を含む実効面の課題が今後どのように解決され、不良資産の処理がどのようなペースで進んでいくのか、引き続き注目してみていく必要があります。

  1. 6米国では、証券化商品をはじめとして金融機関の資産価値は実際より過大に評価されており、潜在的な損失を勘案すれば金融機関の資本は相当に毀損しているとの認識が広がっており、金融機関バランスシートは「レフトハンドサイドにはナッシング・ライト、ライトハンドサイドにはナッシング・レフト(On the left hand side nothing is right and on the right hand side nothing is left.)」などと言われています。
  2. 7金融安定化策の主な内容は、(1)銀行への包括的なストレス・テストおよび資本注入、(2)官民投資ファンドによる不良資産の買取り、(3)FRBの貸出ファシリティ(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)の拡充、(4)包括的な住宅対策、です。

(3)先進国経済と新興国経済の間における負の相乗作用

 さらに、先進国と新興国という切り口から整理すれば、ひと頃までは米欧の景気悪化が新興国の景気を下押しするというone wayの波及の構図でしたが、現在は、新興国の想定以上のスピードでの景気減速が明確になる中で、新興国向け輸出の減少を通じて、先進国にもマイナスの影響が及び、先進国経済と新興国経済の間でも負の相乗作用が働く姿となっています。

 日本最大の貿易相手国は2007年に中国が米国に取って代わりましたが、その中国をみると、実質GDP成長率8は昨年7~9月期の+9.0%から10~12月期は+6.8%まで大きく低下しました。1月の中国の輸出は前年比-17.5%と大きく落ち込み、3か月連続の前年割れとなりました9。また、1月の輸入は前年比-43.1%の大幅減少となりましたが、それを裏返しますと、日本を含む先進国から中国への輸出の大幅減少を意味しています。米国経済の減速が本格化する以前は、中国をはじめとする新興国の高成長が米国等の先進国の景気悪化をカバーするという、所謂「デカップリング」論10が喧伝されましたが、今やそれは幻想であったことがはっきりし、むしろリカップリングの様相が強まっています。

 また、世界銀行が、2009年の世界貿易は1982年以来の減少に転落するとの見通しを公表しました11。こうした中、輸入制限などの保護主義的措置が広がり始めており12、米国では、政府調達や公共事業において米国製品の優先利用を義務付ける「バイアメリカン条項」を、後でご説明する景気刺激策に盛り込みました。こうした保護主義的な動きが貿易の縮小トレンドに拍車をかけることにならないか、強く懸念しています13

  1. 8中国では、四半期ベースの実質GDPについて、「前年比」しか公表していない(米欧日のように「前期比」は公表していません)ため、本文には前年比の計数を記載しています。
  2. 9中国の輸出入ともに、昨年11月以降、前年比のマイナス幅が拡大しています。このうち、1月の前年比のマイナス幅が前月より大幅に拡大したことには、前年が2月であった旧正月(春節)の期間が本年は1月となり、1月の営業日数が前年よりも少なかったことも影響しています。
  3. 10デカップリング論に関するこれまでの私の見方については、昨年3月の群馬県金融経済懇談会における挨拶要旨「最近の金融経済情勢と金融政策運営」(本ホームページに掲載)において詳しく述べています。中国の米国向け輸出の変調をご紹介したうえで、中国をはじめとする東アジア諸国に中間財(部品)を輸出し、最終消費財に組み立てて米国に輸出するといった分業体制が進んでいる状況下、東アジア諸国から米国への最終財の輸出の減少は、日本からの中間財の輸出の減少に繋がるだけに、注意してみていく必要があると指摘しました。
  4. 11世界銀行では、世界経済(輸出量)の伸び率が、2007年の7.5%から2008年には6.2%に減速し、2009年には-2.1%と世界貿易が縮小に向かうとの見通しを昨年12月に公表しました。
  5. 12WTO(世界貿易機関)が本年1月に作成した「金融・経済危機と貿易関連の動きに関する事務局長から貿易政策検討機関への報告」によれば、ロシア(乗用車等の関税引き上げ)、インド(鉄鋼製品の関税引き上げおよび輸入制限)などで保護主義的措置が広がっています。
  6. 131930年代の世界恐慌の際には、米国の保護主義的措置(スムート・ホーリー関税法)が欧州等の報復措置を招き、世界の貿易額が1929年から1933年の間に7割近くも減少するとの事態を招きました。

(4)各国の政策対応

 世界の金融経済情勢が急速に悪化する中で、各国政府や中央銀行は、様々な対応策を実施しています。金融危機への対応としては、各国の中央銀行は、自国通貨の流動性だけでなく、協調してドル資金を供給しています。各国政府も、先程も触れた経営不振に陥った金融機関への公的資金の注入のほか、預金保険の拡充や金融機関の債務保証を実施しています。

 需要収縮への対応としては、多くの国で大幅な金融緩和や拡張的な財政政策が行われています。その中でも注目されてきた米国の再生・再投資法14が今月17日に成立しました。大型減税や公共事業を柱とする総額7,870億ドルの過去に例のない大規模な景気刺激策です。一方、中国では、4兆元の景気刺激策が実行に移されつつある中、昨年末以降、銀行貸出の加速15、在庫調整の進捗、工業生産の底入れ、PMI16の改善、株価の反発等、内需関連にやや明るい動きが見られています17

 世界経済回復の見通しとタイミングは、先程指摘した巨大化した不均衡の調整に対する、各国による各種政策の実行と強さ次第だと言っても過言ではありません。国際金融資本市場は、各国の政策対応に対して相応の期待を折り込みつつあるだけに、新たな不確実性を提供するリスク要因として注視していく必要があります。

  1. 14American Recovery and Reinvestment Act of 2009:(1)省エネや再生可能エネルギーへの投資、(2)高速道路の建設等のインフラ整備、(3)失業給付と職業訓練の拡充、(4)州政府の財政支援等の景気刺激策が盛り込まれています。
  2. 15中国の銀行貸出は、政府の貸出促進策を受け、前年比2割増のペースで増加しています。1月は、前年の月平均貸出増加額の4か月分(1.6兆元)も単月で急増しました。
  3. 16PMI(Purchasing Managers' Index)は、中国物流購買連合会が国家統計局からの委託により算出している購買担当者指数であり、50が景気判断の分かれ目と言われています。昨年11月にボトム(38.8)を付けた後、12月(41.2)、1月(45.3)と2か月連続で改善しました。
  4. 17中国経済が公共投資に支えられてリバウンドした場合、素材業種等において中国向け輸出が回復する可能性があるが、日本経済全体への恩恵については目先、慎重にみておいた方が良いと考えています。何故ならば、近年の日本の中国向け輸出をみると、その増加を支えていたのは、主に米欧を最終消費地とする資本財・部品、中間財であり、中国を最終消費地とする財の輸出は必ずしも多くなかったからです。

3.日本経済・物価の現状と先行き

 次に、わが国の経済・物価情勢の現状と先行きについて、お話ししたいと思います。

(1)経済

 わが国経済は、2003~2006年度にかけて2%台の成長を続けてきましたが、2007年度は1.9%に減速し、2008年度入り後、さらに減速し、足もと大幅に悪化しています。昨年10~12月期の実質GDPは——1次速報値ですが——3四半期連続の前期比マイナス、しかも年率-12.7%と大幅なマイナスとなりました(図表2)。第1次石油危機の影響を受けた1974年1~3月期(前期比年率-13.1%)以来、約35年振りの大きな落ち込みです。同じ期の米国の-3.8%、ユーロ圏の-5.8%を大きく下回りました18

 この悪化の主因は、先程ご説明したグローバルな構造調整を背景とした海外経済の減速です。わが国が目立って大きい景気後退を余儀なくされたのは、日本経済の2002年度以降の回復・拡大がグローバル需要の増加を背景とする輸出の伸びに大きく依存していたことにあります。2007年度までの間、輸出は約8割も増加し、その間の経済成長への累積寄与度は純輸出が個人消費や設備投資の増加を上回っています19。グローバル需要の増加に伴い、また円安環境という追い風を受けたことによって、輸出が大幅に増加し、それとともに、輸出型製造業を中心に設備投資も拡大し、それらが起点となった「好循環」が発生していましたが、グローバル需要の急減に伴い、こうした循環は突然大きく「逆回転」を始めたということであります20。加えて、先程来触れているグローバルな不均衡の調整過程にあって、為替が大きく円高に振れたことも、海外の最終需要の落ち込みを増幅するかたちで、わが国の輸出にマイナスに作用していると考えられます。

 昨秋以降は、後でも申し上げる企業金融の引き締まりも景気に悪影響を与えています。先行きについても、企業の収益や資金調達環境が悪化し、家計の雇用・所得環境も厳しさを増す下で、国内民間需要は更に弱まっていく可能性が高いうえ、海外経済の一段の減速を背景に、輸出は減少すると見込まれるため、当面、厳しさを増す可能性が高いとみています。

 日本銀行では、4月と10月に「経済・物価情勢の展望」を決定し、公表し、その間の1月と7月に中間評価を行う枠組みを採用しています。そして、それぞれの月、すなわち四半期ごとに、日本銀行の各政策委員(現在は8名)はわが国の景気や物価にかかる見通しを作成し、(1)政策委員の見通しのレンジ(図表4)および(2)リスク・バランス・チャートという見通しの確率分布(図表5)を公表しています。この1月時点における政策委員8名の実質GDPにかかる見通しの中央値は、2008年度は-1.8%、2009年度は-2.0%、2010年度は+1.5%でした。すなわち、中心的な見通しとしては、2008~2009年度と2年連続でマイナス成長となった後、2010年度に潜在成長率近傍に復するとの姿です。リスク・バランス・チャートをみると、2008~2009年度の実質GDPの確率分布は中央値の左方向が膨らんでおり、政策委員が全体としてダウンサイド・リスクをより強く意識していることがわかります。現にこの中間評価から1か月余りしか経っていませんが、利用可能となったデータからは足もとまでさらに下振れて推移していると私は判断しています。

  1. 18日本の生産の落ち込みが、世界的な景気調整の震源である米国と比べても、むしろ大幅なものとなっていることには、日米製造業の構造——(1)鉱工業を構成する産業のウエイト、(2)輸出の影響、(3)需要ショックの波及効果——の違いが大きく影響していると考えられています。この詳細については、「金融経済月報(2009年2月)」 [PDF 830KB]の15頁「(BOX)最近の鉱工業生産の大幅な減少について」をご参照下さい。
  2. 192002年度から2007年度までの6年間における日本の経済成長(実質GDPの増加額)について需要項目別の寄与度をみると、純輸出が4割、個人消費と設備投資がそれぞれ3割と、純輸出の増加が最も大きく寄与しており、輸出向けのウエイトの高い製造業における設備投資への波及効果等も勘案すれば、2007年度までの成長は、グローバル需要の増加を背景とする輸出の伸びに大きく依存していたと考えられます。
  3. 20本年1~3月期の生産は昨年10~12月期(前期比-11.9%)を上回る大幅な落ち込みとなる見通しであり、3月の水準が2月の生産予測指数と同じであると想定して、1~3月期の前期比を算出すると、-20.4%となります。その場合の1~3月期の生産指数の水準(74.3)は、ピークの2007年10~12月期(109.2)対比で-32.0%低く、1983年10~12月期(72.5)以来の低い水準です(図表3(1))。短期間の間に急激な減産が行われたことがわかります。また、輸出依存度の高い電子部品(輸出依存度は約7割)、輸送機械(同約5割)等の業種において、減産幅が大きくなっています(図表3(2)(3))。<

(2)物価

 一方、物価についてみると、12月の生鮮食品を除くベースの消費者物価——コアCPI——は前年比+0.2%とプラス幅が大幅に縮小しました。この縮小は、エネルギーや食料品の価格の下落や落ち着きでその大宗が説明できます。当面は、昨年度までの物価上昇要因——エネルギーや食料品の価格上昇——の剥落という構図は基本的には変わらず、コアCPIの前年比は、昨年の上昇の裏が出て年央にはマイナス1%を大きく下回る水準まで下落しますが、その後は下落幅を縮小させていくと私は考えています。

 今後の物価について重要なことは、(1)このところの急速な需給バランスの悪化が、物価形成のダイナミクスにどの程度の影響を与えるか21、(2)急速な物価下落が、物価上昇期には比較的しっかりとアンカーされていた中長期的なインフレ期待22に対してどう作用するかを丹念に見極めていくことです。目先数四半期の物価関連指標から目が離せないと考えています。

  1. 21このチェックポイントに関し気になる動きは、1月の東京都区部の食料及びエネルギーを除く総合指数が、前年比-0.3%(前月比-1.1%)と下落したことです。同地区のコアCPIの上昇品目数と下落品目数の差をみても、ピークの昨年9月(+116)から半減(1月:+60)しており、トレンドの変化を感じます。需給ギャップ等を背景に、価格引き上げの動きが一服し、一方で価格引き下げがエネルギーや食料品以外の財・サービスにも広がり始めている可能性があります。
  2. 22因みに、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」を用いて推計した家計のインフレ予想をみると、今後1年間の予想インフレ率は、昨夏に前年比+1%ほどに高まった後、石油製品価格や食料品価格といった購入頻度の高い財の価格が下落もしくは頭打ちとなる中、昨年12月の調査では+0.5%程度にまで、伸びを低めています。対照的に、今後5年間のインフレ予想は、ここ数年1%程度で安定的に推移しています。家計の短期的なインフレ予想が減速する一方で、中長期的なインフレ予想が安定的に推移しているのは、米国でも同様です。

(3)リスク要因~金融環境~

 以上、日本の経済・物価の先行きを展望しますと、2009年度後半以降持ち直し、物価の下落幅も縮小していくシナリオが一応想定されます。「一応」と申しましたのも、これまでお話ししたことからもお分かりのように、海外経済が減速局面を脱することが言わば前提となっています。言い換えれば、シナリオの最大のリスク要因は海外経済、就中、米国経済の立ち直りであります。その他、リスク要因を挙げれば際限がありませんが、ここではその一つとして、日本の金融市場の目詰まりの問題について述べてみたいと思います23

 わが国の金融市場は、昨年前半までは米欧の市場と比較すると相対的に安定して推移しましたが、昨年後半以降は国際金融市場の影響が鮮明になってきました。

 わが国の金融環境を整理すれば、CP市場では、後程ご説明する私共日本銀行の買切りなどを受け、発行レートが低下するなど、改善の動きが見られていますが、発行残高は引き続き前年を下回って推移しており、全体としては依然タイトな状況が続いています。また、社債市場では、投資家のリスク回避姿勢が根強い中で、起債環境は厳しく、特定企業の基礎的信用条件の悪化だけでは説明できないような状況が続いています。さらに、これら直接金融を補完する機能が期待される間接金融においては、最近の企業倒産の増加や株価下落を受け、金融機関全体として、資本制約を強く意識したリスクアセット運営姿勢が鮮明になってきており、局所局所で資金需要に応じない事例が増加しています。大企業でも、資金調達環境の悪化を、設備投資を下方修正する理由の一つに挙げる企業がみられており、わが国でも「金融から実体経済への負のフィードバック」が一段と強まっていくリスクを注意深く点検しなければならない局面に入ってきていると判断しています。

  1. 23このほか、企業の中長期的な成長期待の低下に伴う設備や雇用の調整圧力も、リスク要因の一つとして指摘できます。私はこの点を昨年来、注視しており、昨年9月の釧路市における金融経済懇談会での挨拶要旨「最近の金融経済情勢と金融政策運営」(本ホームページに掲載)において私の見方を述べています。

4.金融政策運営

 以上、日本経済の現状と先行きについて申し上げてきましたが、続いて、日本銀行の金融政策運営についてお話したいと思います。国際金融資本市場や米欧の金融システムの動揺が深刻さを増した昨年9月以降、日本銀行は、様々な措置を迅速に講じてきました。その内容は、(1)政策金利の引き下げ、(2)金融市場安定化のための施策、 そして(3)企業金融支援のための施策という3つに大別することができます(図表6)。以下では、先週の金融政策決定会合で決定した措置も含めて、どのような考え方で金融政策を運営しているかをご説明します。

(1)政策金利の引き下げ

 第1に、金利政策の面で講じた措置です。一昨年2月以来、日本銀行は政策金利である翌日物の無担保コールレートの誘導目標を0.5%としてきましたが、昨年10月と12月に政策金利を0.2%ずつ引き下げ、0.1%としました24

  1. 24先週に開催された金融政策決定会合では、政策金利を0.1%に据え置くことを政策委員8名の全員一致で決定しました(図表7)。なお、日本銀行の政策委員会では、総裁、副総裁、審議委員が各1票を投じ、議決事項を多数決によって決定しています。

(2)金融市場安定化のための施策

 第2は、金融市場の安定を確保するための施策です。金融危機において市場を安定させるためには、中央銀行による潤沢な流動性供給が極めて重要です。

 日本銀行は、まず円資金について、積極的な資金供給を一層円滑に行い得るように補完当座預金制度を導入したほか、昨年末にかけて年末越えの資金を、前年を2割程度上回る規模で潤沢に供給しました。更に、長期国債の買入額をこれまでの年14.4兆円ペースから、年16.8兆円ペースまで増額しました。これは、長めの資金供給を通じて、短期の資金供給オペを頻繁に実行せざるを得ないという事態を解消し、円滑に金融調節を実施するための措置です。

 また、リーマン・ブラザーズ破綻直後の昨年9月に各国中央銀行と協調して米ドル資金供給オペと呼ばれる仕組みを導入し、ドル資金についても潤沢な資金供給を行っています(図表8)。金融機関によるドル調達圧力の緩和、ひいては日本の企業のドル調達の不安を取り除くことを通じて、経済活動を下支えするものです。これを受け、ドル資金の調達金利は、期間の短い取引を中心に低下しました。

(3)企業金融支援のための施策

 第3は、企業金融の円滑化を図るための施策——先程お話した金融環境にかかるリスクを和らげる施策——です。具体的には、企業債務にかかる適格担保を拡大25したほか、金融機関が担保として差し入れた民間企業債務の範囲内で金額無制限かつ低利で資金供給を受けられるという「企業金融支援特別オペレーション」を導入しました。企業金融支援特別オペは、ターム物を0.1%という低利かつ固定で調達できる点は市場参加者にとって魅力的であり、当初、見込んでいた3兆円を上回る4.5兆円を既に資金供給しました。先週の金融政策決定会合では、金利政策の起点であり、誘導目標でもある無担保コールレート(オーバーナイト物)が既に0.1%という限りなくゼロに近い水準にある状況下、企業が実際に資金調達を行うやや長め——所謂「ターム物」——の金利の低下を促すとともに、企業の資金調達に関する安心感を確保する観点から、この企業金融支援特別オペの期限を9月まで延長するとともに、実施頻度を月2回から毎週に増やし、期間3か月のやや長め資金を低利かつ安定的に供給することを決定しました(図表9)。

 さらに、市場機能の低下が顕著なCP市場に対しては、CP買現先オペを積極化したうえで、1月末からCP買入れを開始し、本日までに計1.3兆円のCPを買入れました。CP市場では、レートが顕著に低下するなど、一定の効果が表れています。加えて、CP同様に市場に目詰まりがみられる社債についても、残存期間1年以内のものに限定したうえで、3月より買入れを開始することを先週の金融政策決定会合で決定しました(図表10)。CPや社債等、企業金融に係るクレジット商品の買入れは、(1)個別の信用リスクを負担することになり、損失発生を通じて納税者の負担を生じさせる可能性が高く、(2)日本銀行の財務の健全性、ひいては通貨や金融政策への信認を損なう惧れがあることから、異例の措置と位置付けられます。

 中央銀行として、こうした異例の措置に踏み切るに当たっての考え方を整理すると次のようになります。

 まず、全体の流動性の供給は中央銀行が行い、個別の資金配分、信用配分は民間金融機関、金融市場が行うという自由市場経済の前提の中で、今回の措置をどのように位置付けるのかという概念的な整理です。この点については、中央銀行が異例の措置を実施する上での2つの判断基準——(1)市場機能が著しく低下し、これが企業金融全体の逼迫につながっていると判断される状況にあること、(2)買入れの実施が物価の安定、金融システムの安定という日本銀行の使命に照らし必要と認められること——を明らかにしました。

 もう一つは、買入れを実行するうえでの注意深い制度設計です。3つの留意事項を定めていますが、1つめは、個別企業への恣意的な信用配分の回避という、中立性の視点です。これを踏まえ、取引先金融機関などを通じ、公正で透明な入札方式で買入れを行うこととしました。2つめは必要な期間、適切な規模での実施です。これは買入れが市場機能回復までのつなぎの措置であることを担保するもので、具体的には時限的な措置26とし、上限金額をCPは3兆円、社債は1兆円としました。3つめは、日本銀行の財務の健全性の確保です。買入れによる損失は、納税者の負担となる以上、特定企業の信用リスクを集中的に負担しないことが重要です。このため、a-1相当格以上のものを、個別企業ごとに上限を設けて買い入れることとしました(図表11)。

  1. 25金融調整の一層の円滑化を図る観点から、社債および企業向け証書貸付債券の格付要件をA格相当以上からBBB格相当以上に緩和したほか、新たに不動産投資法人債等を適格担保として認めました。
  2. 26本年1月にCP買入れスキームの概要を公表した際には、3月までの時限的な措置としましたが、最近の金融経済情勢を踏まえ、期限を9月まで延長することを先週の金融政策決定会合で決定しました。なお、社債の買入れについては、期限を9月までとしています。

(4)企業金融円滑化と市場機能とのバランスの重要性

 以上ご説明したとおり、リーマン・ブラザーズの破綻後、矢継ぎ早に政策対応を決定し、実行しました。私が重視している点は、緩和的な金融環境を維持し、日本経済を下支えするために、最適の政策を選択することです。これまでお話した通り、中央銀行が個別金融市場に介入せざるを得ない局面ですが、その介入が強過ぎると、現在はそれなりに正常に機能している市場が、中央銀行の買入れ自体によって、その機能を低下させるという本末転倒な結果をもたらしかねません。その意味で、買入れの金額が大きいほど、また金利が低いほど、効果があるとは私は考えておりません。例えば、CPや社債の買入れでは、下限利回りを設定した入札方式を採用していますが、この下限利回りは、市場機能が著しく低下している状況では市場金利に比べ有利な一方、平常時に比べれば不利となるよう設定しています。これにより、市場機能が回復してくれば、入札が自然に減少していく仕組みとなっています。企業金融にかかるクレジット商品の買入れに当たっては、あくまでも市場機能の回復を目指しつつ、企業金融の円滑化という効果を最大限に引き出すとのコンセプトを私は強く意識しています。

5.終わりに~沖縄経済について~

 最後に、この後皆様から当地金融経済の実情をお聞きするに当たり、私なりに理解している当地経済の特徴などを述べたいと存じます。

 沖縄経済27は、これまでのところ業況感の悪化が全国対比で緩やかというのが最大の特徴です。日本銀行では、3か月に1回の頻度で「短観」という調査を実施・公表しておりますが、12月の調査の中で業況判断DI——具体的には、業況判断の構成比で、「良い」から「悪い」を引いた計数で示されますが——をみると、沖縄は-8と全国の-24より「悪い」超は小幅に止まり、全国の日銀33か店の調査の中では2番目に小幅の「悪い」超——相対的に良好な水準——です。加えて、全国の業況判断DIが急速な悪化を続ける中で、沖縄の業況判断DIは、昨年6月以降、「悪い」超幅が5%ポイント縮小——景況感が若干改善——しています(図表12(1))。

 その背景としては、(1)輸出型の製造業が少なく、海外需要の急減や為替円高の影響を直接的には受けにくいこと、(2)観光客数が、足もと前年割れに転じたとはいえ、比較的高水準で推移していること(図表12(2)(3))、(3)那覇空港の貨物ハブ基地化28、都市再開発、大学院大学の建設など、官民の大型プロジェクトが依然として動いていること、等を指摘できると思います。

 ただ、この先も沖縄経済が世界や日本の不況から縁遠いままで推移できるかというと、影響は避けられない可能性が高いとみられます。世界の金融危機が日本経済にも大きな影響を与えたのと同様に、沖縄の経済も様々なルートで日本や世界の経済に繋がっています。例えば、(1)消費支出が絞り込まれる中で、沖縄への観光客が減る、(2)沖縄県外の不動産開発業者のリスクテイク能力の減退に伴い、沖縄県内へのホテル・リゾート開発やマンションの建築の投資が減り、それが建設業にマイナスの影響を及ぼす、(3)沖縄県内の主要業種である観光や建設の先行きが不透明になる中で、雇用が削減され、沖縄県内の消費が冷え込む、といったルートで日本等の景気悪化の影響が本格的に沖縄に波及し始めている可能性があります。事実、増加を続けてきた沖縄への入域観光客数が昨年11~12月に前年比マイナスに転じたことは本格的影響の兆しとして注視すべき点です。

 こうした状況でまず重要なことは、当然のことながら、これらのリスク要因に十分配意し、それを乗り越えていくことですが、それに加え、次の好況時に向けた「仕込み」——当地経済や自社の強みを生かした「弾込め」——が重要と考えます。日本全国の他の地域と比較すると、沖縄経済は幾つかの特長を有しており、差別化を図れるという意味において「強み」と考えています。第1に、「沖縄ならでは」という観光地の魅力を備えていることです。具体的には、(1)美しい海と島、(2)特有の歴史・文化、(3)高いホスピタリティといった点になろうかと思います。日本国民の多くがストレスを感じている今、「癒し」や「健康」に満ちた島は最大のセールス・ポイントとなります。第2に、東アジア沿岸地域の中心29に位置することです。琉球王国時代に中継貿易を通じて「万国津梁30」の繁栄を謳歌したことは有名ですが、今またアジア・ゲートウェイ構想31の主要な拠点として沖縄が注目されており、東アジア沿岸地域の中心という「地の利」を活かして、那覇空港の貨物ハブ基地化といったプロジェクトが成功することが期待されます。第3に、人口の自然増加率が全国一高く、他県からの移住者も多く、活力が保たれていることです(図表12(6))。日本では人口減少の時代を迎え、経済の生産性向上が盛んに言われていますが、人口が増えていること自体は経済成長を考える場合、言うまでもなく大変に有利な点です。

 これらの点を踏まえて、企業誘致や観光の振興に積極的に取り組まれていることは心強い限りです。IT産業の立地件数や雇用者数をみると、昨年末までに累計で約200社、15千人超の企業誘致に成功しており、コールセンターを中心に県内の雇用確保に一定の成果を挙げたと評価できると思います。一方で、当地経済の強みを活かした将来への「仕込み」の観点では、近隣アジア諸国をはじめとする外国からの観光客の誘致が重要と考えます。沖縄県への外国人客は、ビジットおきなわ計画等の取り組みを映じて、ここ2年間増加しましたが、長期的にみれば日本全体への外国人入国者数の増加ペースを大きく下回る伸びに止まっており、延べ宿泊者数全体に占める外国人の比率は、依然として全国平均を大幅に下回っています(図表12(7)(8))。東京よりも上海、香港、台湾、ソウルが近いとの沖縄の「地の利」も踏まえれば、中長期的にみて成長の余地はなお大きいものと思われます。

 ところで、1972年のことになりますが、沖縄の本土復帰に伴い、沖縄の通貨を米ドルから日本円に切り替える大作業が2年半の準備期間を経て実施されました。自衛艦まで使用して542億円もの大量の現金を沖縄に輸送し、190か所の交換所で100万人の県民の方々に通貨交換の作業を行いました。当時の記録を見て驚きましたのは、1億ドルの米ドルを回収し、米国のサンフランシスコ連銀に引き渡しましたが、同連銀が鑑査した結果、過不足は僅か4件、差し引き5ドルの不足に止まり、“Perfect and beautiful”と賞賛されたとのことです。大プロジェクトを民と官が協力して成功させた良い事例だと思います。私が先程申し述べた沖縄の強みを活かしながら、民と官が力を合わせる中で、沖縄経済がさらに発展——“Perfect and beautiful”の世界を再現——していくことを祈念しております。

 私からは以上です。長らくのご清聴、有難うございました。

  1. 27日本銀行那覇支店では、毎月、沖縄県の「県内金融経済概況」を、3か月ごとに同県の「短期経済観測調査結果」をそれぞれ公表しています(いずれも那覇支店のホームページに掲載しています)。
  2. 28東アジア沿岸地域の中心に位置するとの地理的特性を活かして、那覇空港をアジアと本州等を結ぶ航空貨物のハブ基地にしようとのプロジェクトが計画されています(図表12(4))。
  3. 29わが国の中では「沖縄は日本の南西端」と捉えられることが多いですが、那覇市から東アジアの主要都市までの距離を比較すると、東京(約1,500キロ)よりも、上海、香港、台北、ソウルの方が近く、沖縄はこれらの主要都市の中央に位置するとの「地の利」を有しています(図表12(5))。
  4. 30首里城正殿の鐘には、「琉球国は・・・舟揖を以て万国の津梁となし・・・」(「琉球国は、大海原に舟を出して、万国を結ぶ架け橋になる」)との銘文が刻まれています。
  5. 31アジア・ゲートウェイ構想とは、アジアなど海外の成長や活力を取り込むため、人・モノ・資金・文化・情報の流れにおいて、日本がアジアと世界の架け橋となることを目指すとの政府の構想ですが、沖縄ではこれに呼応するかたちで、那覇空港の貨物ハブ基地化などのプロジェクトが計画されています。

以上