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【挨拶】劣後ローンの供与に関する金融機関首脳との会合における挨拶要旨

日本銀行総裁 白川 方明
2009年3月24日

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英訳は、英語版ホームページをご覧下さい。

 日本銀行は、さる3月17日に開催した政策委員会において、金融機関向け劣後ローンの供与について、具体的な検討を開始することとしました。本日は、その対象行である国際統一基準行の皆様をお招きし、本措置の背景と日本銀行の考え方について説明させていただきます。

 わが国の企業金融は、リーマン・ブラザーズ破綻後の国際金融資本市場の緊張の高まりを背景に、昨年秋以降急速に逼迫しました。金融機関は、これまで貸出の増加により金融仲介機能を相応に維持してきましたが、金融機関経営を巡る環境も、株価の下落や国内景気の悪化などを背景に厳しさを増しています。金融市場における年度末越えの資金調達には概ね目処がつきつつありますが、企業金融がなお厳しい状態にあることには変わりありません。CP市場が機能を回復してきたとはいえ、資本市場での調達は主に高格付け企業に限られています。また、先行きの資金需要の見通しを窺うと、年末、年度末を控え、手元資金確保のために増加していた資金需要や昨年夏までの原材料価格上昇に伴う運転資金需要などは減少が見込まれる一方、事業を継続するための資金需要や事業再編のために必要となる資金需要などは今後むしろ本格化する可能性があります。

 今後、仮に国内外の金融資本市場の緊張がさらに強まり、個々の金融機関が先行きの自己資本制約を強く意識する場合には、マクロ的に円滑な金融仲介機能に支障が生じる可能性があります。すなわち、個々の金融機関が、信用リスクに対し慎重なスタンスを強めるような場合、仮にそれが個々にとっては合理的と判断される場合であっても、皆が一斉に同じスタンスをとると、資産増加の抑制などを通じて金融と実体経済の負の相乗作用が強まる可能性——いわば「合成の誤謬」が生じる可能性——があります。このことは、結果的に、個別金融機関の経営体力を低下させることにもなりかねません。

 この点で気になるのは株価下落リスクの影響です。わが国金融機関の株式保有残高は2000年代初頭までに比べればかなり削減されてきたとはいえ、依然大きな株式保有リスクを抱えていることに変わりありません。足元の株価は幾分戻していますが、欧米の金融システムが不安定な状態を続けているだけに、個々の金融機関が先行きの株価下落リスクを意識することが引き金となって、前述の「合成の誤謬」が生じる事態は避けなければならないところです。

 以上の状況認識のもと、日本銀行は、国際統一基準行を対象に劣後ローンを供与することについて、具体的な検討を開始することとしました。この措置は、厳しい経済金融情勢の下でもわが国金融機関が十分な自己資本基盤を維持し得る手段を整えることによって、円滑な金融仲介機能を確保するとともに、これを通じて金融システムの安定を図ることを目的とするものです。

 日本銀行による今回の措置により、金融機関の資本調達は、(1)金融機関自身による市場での資本調達、(2)金融機能強化法に基づく資本調達、(3)日本銀行からの劣後ローンの借入れという、三つの手段が揃うことになります。日本銀行による劣後ローンの供与は、金融機関自身の市場調達努力などと相俟って意義があると認識していますが、日本銀行がこうした手段を整えておくことが、わが国金融システムの頑健性を補強し、ストレス下においても金融仲介機能が適切に働くための安全弁として機能することになるものと考えています。

 中央銀行にとって、今回のような直接的な資本性資金の供与は極めて異例の措置です。しかし、今後の金融システムのストレスシナリオを考えた場合、日本銀行としては、こうした異例の措置を実施してでも、中央銀行の立場から、円滑な金融仲介機能の維持とそれを通じた金融システムの安定確保に全力を尽くす必要があると判断した次第です。

 金融機関の皆様方におかれては、こうした私どもの考え方をぜひご理解いただき、資本基盤の強化に一層努めることにより、金融仲介機能の維持にしっかりと取り組んでいただくようお願いします。もちろん、金融機関にとって適切なリスク管理はきわめて重要であり、これを強調してもし過ぎることはありません。しかし、現在の情勢下にあっては、前述のとおり、「合成の誤謬」に起因するリスクの顕在化は回避する必要があります。そのためには、金融機関経営者の方々が、健全な業務運営を遂行されるなかで、わが国経済全体への最終的な帰結にも思いを巡らしつつ、資本基盤の強化を実現していくことが重要となります。

 また、皆様方の業務運営方針や融資姿勢が企業にもしっかりと伝わるよう、企業との円滑なコミュニケーションにも十分な配慮をお願いしたいと思います。

 日本経済が物価安定の下での持続的成長経路へ復していくためには、金融システムの安定確保が大前提となります。日本銀行としては、今後とも中央銀行の立場から、金融システムの安定確保に向けて最大限の努力を続けていく考えですので、引き続きご協力のほどをよろしくお願いいたします。

以上