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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営

宮城県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 西村 清彦
2010年4月21日

 

目次

1. はじめに

日本銀行の西村でございます。本日は、宮城県経済を代表する皆様と意見交換の機会を頂き、ありがとうございます。皆様には、日頃より、仙台支店によるヒアリングや各種のアンケート調査にご協力頂いております。皆様からお伺いした情報は、わが国の金融経済情勢を把握し、金融政策を運営していくに当たって、大変有益な判断材料として、大いに活用させて頂いています。この場をお借りして、厚くお礼申し上げます。

本日は、皆様と意見交換をさせて頂くのに先立ち、私から、わが国の金融経済情勢に対する見方と金融政策運営の考え方をご説明したいと思います。また、日本経済の成長に向けた課題についても、若干述べさせて頂ければと考えています。

2. わが国の金融経済情勢

(1)海外経済

経済のグローバル化が進んでいる現在、わが国経済の動向は、海外の経済情勢から大きな影響を受けます。一昨年秋のリーマン破綻後に日本経済が大幅に落ち込んだのも、米国や欧州を震源とする金融危機を発端に、世界経済が急降下したことが原因でした。そこで、まず、海外の金融経済情勢についてお話したいと思います。

リーマン破綻後の国際金融資本市場や世界経済の急激な悪化に対し、各国の政府や中央銀行は大胆な政策対応を講じました。その効果もあって、現在、国際金融資本市場は、安定を取り戻しています。例えば、金融機関同士が短期資金の取引を行う短期金融市場では、一時、市場の取引量が激減し、「流動性が枯渇した」とまで言われました。それが現在では、低コストの資金が大量に滞留し、極めて低い金利が続いています。

昨年初までの大幅な落ち込みから脱し、改善を続けている点では実体経済も同様です。世界経済は、新興国経済の力強い成長に牽引される形で、緩やかな回復を続けています。

金融危機後、新興国経済がいち早く回復に転じ、力強い成長を続けているのには理由があります。

第一に、設備投資や個人消費など、潜在的に内需が強いことです。新興国では、経済規模が拡大するにつれて家計の購買力が上昇し、今後も上昇が見込まれています。そのため、先進国向けの製造拠点として注目されていた新興国が、製品市場としての魅力を高めています。先進国の企業は、この成長市場を取り込もうと、現地向け製品の製造拠点や販売拠点を増やしています。また、現地企業も、先進国から技術や販売ノウハウを導入しながら、生産量を拡大しています。こうした企業活動の活発化が家計の購買力上昇を通じて消費を刺激し、それが更に企業活動を活発化するといった形で、好循環が持続すると期待されています。将来への期待も、現在の需要を押し上げているのです。

第二に、各国で金融危機対応として講じられた財政・金融政策がこの潜在的需要を大きく掘り起こしたことです。例えば中国では、自動車やテレビの購入補助策がとられたほか、インフラ整備などに巨額の財政支出が行われました。先進国の金融緩和で低コストの資金が市場に供給され、高成長が見込まれる新興国に流入しています。これが資金調達環境の改善や株価の押し上げをもたらし、企業活動の活発化や、所得増加を通じた消費促進に寄与しています。

対照的に、欧米先進国の景気は、回復しているとはいえ力強さに欠けます。米国では、雇用者数が増加に転じ、消費も健闘していますが、住宅販売や住宅価格は低迷し、失業率も10%近い水準が続いています。高成長を続ける東アジア地域との経済的結びつきが弱い欧州では、改善が更に遅れています。また、金融機関が多額の不良債権を抱えて貸出姿勢が慎重なことや、家計が債務負担の重さから慎重な消費態度をとっていることは、欧米に共通した問題です。これは「バランスシート問題」、つまり傷んだ資産状況をいかに立て直すか、という問題です。日本でも、バブル崩壊後長期に亘ってこの問題が経済の足を引っ張ったことは、皆様もご記憶のことと思います。

先行きは、国際金融資本市場の安定が続く中で、海外経済も改善が続いていくとみています。新興国が拡大を続けるほか、欧米経済も、バランスシート問題の解消に時間がかかるとはいえ、徐々に回復の度合いが高まるとみられます。ただし、こうした見通しには、様々な不確実性があります。

まず、国際金融資本市場は、長めの期間の資金取引で、市場取引の厚みや流動性の回復が遅れています。また、欧州周辺国の財政赤字を巡る問題を契機に、各国で財政の健全性や持続可能性への関心が高まっています。

次に、海外経済の先行きにも、不確定要因が数多くあります。先ほど述べた欧米先進国のバランスシート問題の解消が想定以上に時間を要しますと、それだけ経済の足を引っ張ります。また、新興国経済の過熱懸念という新たな悩みも生まれつつあります。中国では、住宅価格が都市部を中心に急上昇しています。このような上昇は、従来からの沿海部に加え、最近では内陸部でもみられます。加えて、賃金や物価の上昇率も徐々に高まりつつあります。また、その他の多くの新興国でも、インフレ懸念が生じています。これらの新興国では利上げや貸出抑制策などを発動していますが、いずれも難しい対応を迫られています。抑制策が強すぎますと、経済のメインエンジンに急ブレーキがかかってしまいます。他方、抑制策が不十分な場合には、目先は景気の上振れ要因となりますが、先行き、行き過ぎを大きく是正する必要が生じ、結局経済を不安定化させてしまう恐れがあります。

特に中国経済の先行きには注意が必要です。情報通信技術の発展を最大限に利用して、世界的な分業体制の構築が進む中で、中国は「爆発的」ともいうべきペースで成長し、一部では「世界の工場」と言える存在となりました。これまで先進各国は、成長の過程で、人的・技術的・資金的な面での制約を乗り越えながら、いくつもの段階を経て発展してきました。ところが、中国は、技術や金融のグローバル化の恩恵により、これらの制約を一度に乗り越え、かつ同時にいくつかの発展段階が混在するような発展を遂げつつあります。しかしこのような成長が続いていけば、いずれ労働力や資源などの面にボトルネックが生じ、急速にインフレ圧力が強まり、あるいは成長の天井に達してしまう可能性も否定できません。その場合には、わが国の経済にも大きな影響が及びます。また、他の新興国にも、程度の差はあれ、情報通信技術の発展やグローバル化の影響から足の速い変化が生じる可能性があります。

先進国、新興国を含め海外経済の展開や各国当局のマクロ経済政策の運営については、今後も丹念にみていく必要があると考えています。

(2)国内実体経済

以上の海外情勢を踏まえ、国内経済についてお話します。

現在、わが国の景気は、海外経済の改善や各種対策の効果などから、持ち直しを続けています。輸出は昨年春先以降、成長著しい新興国や資源国向けを中心に、増加が続いています。これに伴って、国内企業の稼働水準も徐々に持ち直しています。まだ自律的な回復というには不十分ですが、消費は、自動車や家電など政策に後押しされたエコ関連需要を中心に持ち直しています。また、設備投資も下げ止まりが明確になってきました。

先行きも景気は持ち直しを続ける見込みです。良好な海外経済を背景に輸出や生産が上振れ気味で推移し、先行きも、平坦ではありませんが堅調な動きが見込まれます。さらに、高い効果を発揮してきた家電の販売促進策が延長されるなど、政策面での下支えも当面続きます。加えて、住宅着工件数が増加に転じている点も明るい材料です。住宅が新築されると、家電、家具などへの波及効果も生じます。市場などでは、一頃、いわゆる「二番底」の懸念もありましたが、景気が再び大きく落ち込む恐れはかなり後退したと判断しています。

では、その先の回復持続力はどうでしょうか。ポイントは、金融危機に際し講じられた景気刺激策の効果が次第に弱まっていく時点で、民間需要の自律的な回復力が高まり、うまくバトンタッチできるかです。民間需要が十分に回復していなければ、懸念されていた景気の落ち込みが、後ずれしたタイミングで起きてしまいます。しかし輸出・生産の改善が持続すれば、設備の稼働状況は改善し、売上げ増加から収益も回復します。そうなれば設備投資が回復する条件が整いますし、次第に産業の裾野を構成する中小企業、あるいは給与や配当などを通じて家計へと、回復の広がりが見えてきます。このように、持ち直しが持続すれば、いわば助走区間が長い分だけ、景気回復の基盤がより固まっていく形になります。

ただ、中小企業や家計へと回復が広がるタイミングは、やや幅をもってみておく必要があります。輸出や生産を担う企業は、厳しい国際競争圧力に晒されています。競争力維持の観点から海外投資を優先したり、従業員への還元を抑制する可能性もあります。部品調達先が海外にも拡がり、国内関連企業に波及する度合いが低下しているようにも見えます。これらの結果、中小企業や家計への波及が遅れる可能性も意識しておく必要があると考えています。

景気の先行きを巡っては、このほかにも上下両方向に様々な不確実性があります。このうち、海外情勢に関する点は、先ほど申し上げた通りです。加えて、国内に起因する不確実性として、企業の成長期待の動向が極めて重要です。

金融危機の発生以降、企業は将来に対して慎重なスタンスを急速に強めました。その後、徐々に改善しましたが、企業経営者の方々からは、先行きに自信が持てないという声が根強く聞かれます。先行きに対する悲観的な見方が強まりますと、企業活動の萎縮にも繋がります。この点、内閣府が実施した大企業を対象とするアンケート調査では、中長期的な成長期待は維持されています。ただし、企業数でも従業員数でも、圧倒的多数を占めるのは中小企業です。今月初に公表された短観では、中小企業の業況感は、改善しているとはいえ、大企業、あるいは景気全体の持ち直しに比べ、遅れが目立ちます。経済を取り巻く不透明感をできるだけ早期に払拭し、先行きの成長に向けた展望を拓けるようにすることが大切です。日本経済の成長に向けた課題に関しては、後ほど私の考え方を申し上げたいと思います。

(3)物価情勢

ここからは、物価についてお話します。

消費者物価の前年比をみますと、下落が続いていますが、その幅は昨年8月以降縮小傾向を辿り、最近は−1%程度となっています。

企業の皆様からは、消費者が強い節約志向から価格に敏感なうえ、企業間の競争も厳しいため、販売価格を引き上げるのは容易でない、というお話も伺います。先日公表した短観でも、業況感の改善や仕入価格の上昇の割に、販売価格の上昇は進んでいないとの結果でした。

しかし、デフレ克服へ向け、幾条かの光が見え始めているとも言えます。1つは、企業の価格設定態度や消費者の購買行動に生じている微妙な変化です。日本銀行は、今年初めに、企業の皆様にご協力頂き、企業の価格設定態度を調査しました。結果は、1月の「さくらレポート」で公表していますが、企業の一部には、際限ない価格競争に陥ることを避け、価格以外の要素で差別化を図る動きが出始めています。様々な調査やヒアリングで得た感触では、消費者の側でも、質の良いものを、それなりの価格を払っても購入するという動きが少しずつ出ているようです。

2つめに、昨年春先に輸出や生産が底を打ち、その後景気が全体として持ち直しを続けている影響が、今後次第に出てくることが挙げられます。過去の経験則では、景気変動が物価上昇率に影響を与えるまでには1年程度の時間的なずれがあります。その意味では、昨年央から今年春までは、その1年前の急速な景気の落ち込みが、時間差をもって物価に強い下方圧力をもたらした時期といえます。そして昨年春以降の景気持ち直しの影響が物価に及んでくるのは、むしろこれからと見ることができます。

3つめは、今まで述べた企業の価格設定態度の変化や、景気持ち直しのずれを伴った影響を反映して、物価の基調的な動きに変化がみられることです。生鮮食品を除いた物価、あるいは食料とエネルギーを除いた物価という言葉を耳にされたことがあるでしょうか。これらは、物価の基調をみるために、天候や市況など、一時的な要因による振れを除いたものですが、いずれも前年比下落幅は縮小に向かっています。より機械的に、価格変動が激しい品目を一定割合取り除くという方法もあります。こうして作成された物価を、「刈込み平均」と呼びます。刈込み平均でみた消費者物価は、昨年秋にかけて下落幅が拡大しましたが、最近は3か月連続で下落幅が縮小しています。以上を踏まえますと、先行きも景気の持ち直しが続いてマクロ的な需給バランスが改善していくため、物価下落幅の縮小傾向が続いていくとみています。

もちろん、物価の先行きにも不確実性があります。そのため、デフレ脱却に向けた足取りはしっかりと確認していく必要があります。以下では、物価の先行きを考える際に注目しておくべき点を、2点指摘したいと思います。

1点目は、海外経済に起因するリスクです。これはデフレ方向、インフレ方向の双方向にリスクがあります。新興国では現在旺盛な設備投資が続いています。これが世界的に過剰な供給をもたらす場合には、デフレ圧力が強まります。他方、主要国では現在金融緩和が維持されていますが、これが必要以上に長期化するという見方が定着すると、新興国などに新しい形の信用「バブル」をもたらし、それが国内にも思わぬ影響を及ぼすリスクがあります。また、新興国経済では資源やエネルギーの消費量が爆発的に増加しており、今後供給側の状況次第では、国際商品市況を急に押し上げる可能性があります。さらに新興国で賃金上昇などにより物価が上昇しますと、日本が輸入している製品等の価格にも波及する可能性があります。その場合、国内品で代わりが効かないエネルギーなどと違って、割高感が低下する国内品に需要が向かうという経路でも、物価に影響を及ぼし得ます。

2点目は人々の物価観です。人々が今後もデフレが続くという予想を強めますと、物価には押し下げ圧力がかかります。この点、人々の中長期的な予想物価上昇率は、サーベイデータで見る限り、1%程度で維持されています。しかし主観的な要素であるだけに、今後変化が生じる可能性は否定できません。従来から、人々の物価観は、過去の物価変動に影響されやすいと言われています。この点で注意したいのは、今年度からの高校授業料の実質無償化が、消費者物価の変動率を0.5%前後押し下げるとみられる点です。こうした制度変更に伴う特殊要因の影響は1年間で剥落するもので、基調となる動きとは切り離して考えるべき性格のものです。しかし、表面上は当面の物価下落幅を拡大させるだけに、人々の物価観に影響を与える可能性には注意しておく必要があると思います。

(4)国内金融環境

続いて、国内の金融環境についてお話します。

短期金融市場では、日本銀行による金融緩和の効果が徐々に浸透することで、やや長めの金利も含めて、金利は、極めて低い水準に低下しています。金融緩和の効果は、貸出金利など、企業の資金調達コストにも及んでいます。また、CP市場が、リーマン破綻前を上回る良好な発行環境となっているほか、社債市場でも良好な発行環境が続き、最近では低格付社債市場にも改善の動きが広がって来ました。

短観によれば、企業の資金繰りも、全般に改善しています。しかし、中小企業では、業績改善の遅れもあって、資金繰りがなお厳しいとする先も少なくありません。ただ、そのような先も含めて、方向としてみれば、全体的に緩和方向の動きが続いています。この点は、短観より小規模の企業を対象とした各種調査でも確認されます。

以上を踏まえますと、国内の金融環境は、厳しさが残っているとはいえ、緩和方向の動きが強まっていると評価できると思います。

3. 金融政策運営

以上の経済物価情勢を踏まえ、日本銀行の金融政策運営についてお話したいと思います。

日本銀行は、昨年12月末にCP・社債の買入れを完了し、3月末には企業金融支援特別オペを完了しました。企業金融支援特別オペは、担保差入された企業債務(証書貸付債権や社債等)の金額の範囲内で、無制限に資金を供給するオペのことです。これらは、金融危機に際し、時限的に導入した極めて異例な措置でした。導入の背景には、金融市場の一部に過度な不安心理が蔓延し、取引量が激減したり、適正な価格付けがなされない、といった形で、市場の機能が大幅に低下したことがありました。その後、金融市場がその機能を回復するにつれて、これらの措置が、かえって市場規模の縮小や価格形成の歪みなどの弊害をもたらす面もみられるようになりました。そこで、これらの時限措置を完了したうえで、市場の状況変化に応じ、最も相応しい資金供給手段を講じて、粘り強く金融緩和を続けていくことにしたのです。

したがって、これらの完了措置を、金融緩和姿勢の後退と捉えるのは正しくありません。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題だと考えており、そのために、粘り強い金融緩和を続けていく姿勢には変わりありません。

金融危機のように大きなショックが生じた際にとるべき対応は、ある意味で明確です。そこで必要とされるのは、適時に(Timely)、対象を絞り(Targeted)、期間を限った(Temporary)、応急措置です。CP・社債市場の急激な機能低下に対処した時限措置は好例です。対照的に、デフレに象徴される経済の沈滞は根深い問題であり、その対応は金融危機への対応とは性格が異なります。生活習慣病に即効性が高い薬がないように、直ちに目覚しい効果がみえるわけではありませんが、粘り強く金融緩和を続けていくことが大切だと考えています。

日本銀行は、政策金利を実質的にゼロ水準まで引き下げています。また、昨年の12月には、金融緩和の強化を図るため、より長めの金利の低下を促す措置を導入しました。これは、幅広い担保を見合いに期間3か月の資金を10兆円、0.1%という低金利で供給する措置です。この措置の効果もあって、市場金利だけでなく、企業の資金調達コストにも一段の低下がみられました。

この措置については、先月20兆円まで大幅に増額しました。これは、4月以降、企業金融支援特別オペを通じた日本銀行からの資金供給額が減少することに対応しつつ、長めの金利の低下を促す措置を拡充することとしたものです。景気が上振れ気味であるなかで追加緩和に踏み切ったことに、意外感を持たれる向きもありました。しかし、日本経済が、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するにはなお時間を要する状況が続いているため、追加的な緩和措置を通じ、経済・物価の改善の動きを確かなものにすることが必要であると判断しました。

この点は、次のことを考えて頂くとご理解頂きやすいのではないかと思います。企業活動が萎縮しているときには、低金利の効果が十分に発揮されない恐れがあります。企業に意欲がない限り、低金利が投資や雇用の増加に繋がるとは限らないからです。このことを、古くからある慣用句を用いれば、「馬を水辺に連れて行くことは出来ても、無理やり水を飲ませることはできない」と表現することがあります。しかし逆に、消耗していた馬が少し元気になったタイミングを捉えて水辺に連れて行けばどうでしょう。喜んで水を飲み、また元気に走り出すようになる可能性が高まる、と言えるのではないでしょうか。今回の追加緩和措置は、このような形で、経済・物価の改善を確かなものとすることに資すると考えています。

金利が既に相当低いことから、金融緩和による低下余地は自ずと限られてきます。しかし、これは、金融緩和が限界に達しているということは意味しません。企業にとっては、資金調達金利の水準は、収益率との関係でこそ意味を持つからです。仮に低コストで資金を調達できても、有望な投資案件に乏しければ、企業活動を活発化する力は限定されます。逆に、低金利が継続するなかで、景気が回復し、収益性の高い案件が増えてくれば、低コストで調達できる資金の使い勝手が大きく向上します。今後、景気は持ち直しを続け、企業の収益率も更なる改善が見込まれます。その中で、日本銀行は、極めて緩和的な金融環境を維持することを明確にしています。つまり、金融緩和の効果は、今後、一段と強まっていくことになります。

4. わが国の成長に向けた課題

残された時間で、日本経済の成長に向けた課題についてお話したいと思います。日本経済の付加価値創造能力をどのように高めるか、という課題です。

環境は大きく変化しています。情報通信技術はますます生産・販売拠点の世界的な配置の調整を容易にしています。また、欧米の消費の回復が鈍い一方、新興国経済の存在感が増しています。更に、わが国で最も速く進行している高齢化の波は、中国を含めアジアの国々にもひたひたと押し寄せつつあります。

日本企業はこれまで「ものづくり」の品質の高さや「サービス」のきめ細かさなどへのこだわりを発揮して来ました。その成果である、部品の設計段階から徹底的にすり合わせを行い、量産に入っても絶え間ない改善を続ける「すり合わせ型」の製品群は、欧米市場を中心に、広く受け入れられてきました。乗用車がその典型です。

他方この対極に、「組み合わせ型」の製品群があります。製品をいくつかのモジュールに分け、モジュール間でインターフェースを標準化し、これらの組み合わせで最終製品が出来上がるという、全体設計の製品群です。代表的には、CPU、マザーボード、液晶パネルなどのモジュールからなるパソコンが挙げられます。

近年の情報通信技術の進歩によって、世界から高品質のモジュールを調達し、組み合わせるだけでも、それなりに消費者の嗜好を満たす製品が作れるようになりました。組み合わせ型製品群の幅が広がってきたのです。組み合わせるだけなら、労賃や土地代等が低い新興国の方が有利です。その分、日本企業の強みを活かせるすり合わせ型製品群の優位性が低下したのです。基幹モジュールの製造や製造装置の製造ではまだ高い技術競争力を維持していますが、日本から新興国への技術移転が一段と進んでおり、両者の差は縮まっています。よく、「日本には他国にない“ものづくりDNA”があるから大丈夫だ」ということが言われますが、生産拠点の海外移転やそれに伴う製品開発部門の海外移転を通じて、新興国にこのDNAが移転しつつあるというのが実情です。

だからといって、日本企業が組み合わせ型製品群に転換するのは、必ずしも得策とはいえません。新興国企業とコスト面での競争を強いられることに加え、日本が蓄積してきた強みを放棄することにも繋がるからです。

今必要なのは、技術面の優位性に安住せず、消費者ニーズに素早くかつきめ細かく対応したすりあわせ型製品を開発することで、市場そのものを生み出していくことです。そのような高付加価値の市場は規模が大きいとは限りません。しかしニッチ市場でも幅広く押さえれば、全体では大きな収益機会に繋がります。

この点で高齢化は一つのきっかけになります。若年層よりも高年層の方が、所得や資産形成などにバラツキが大きい分、消費者ニーズも多様です。これにきめ細かな対応ができれば、潜在的な需要の掘り起こし、つまりニッチ市場の開拓に繋がります。近い将来、中国を始め、多くの海外諸国でも高齢化が進むことを考えますと、先行して高齢化社会における製品開発、サービス提供のノウハウを蓄積することができれば、将来的には海外で先行者利益を享受するチャンスも広がります。

ただニッチ分野に、他社に先駆けて挑戦するにはリスクを伴います。この点、日本の開業率が欧米の半分程度の水準に止まることを引き合いに、元来日本人のDNAは安定志向が強く、ベンチャー精神に乏しいと言う論者もいます。しかし、過去には、決して諸外国に引けをとらない開業率の時期もありました。安定志向のDNAというのも単なる思い込みに過ぎないのです。企業の皆様には大いに企業家精神を発揮して頂くとともに、公的セクターも、新規事業への挑戦を行いやすい環境の整備に努めることが大切です。

5. おわりに

当地でも、景気の持ち直しが続いていますが、設備投資や個人消費など、民間需要には厳しさが残っています。

その中で、宮城県は現在、「富県宮城の実現、県内総生産10兆円への挑戦」を目標に掲げ、幅広い観点から産業活性化に取り組まれています。既に、数々の企業誘致も実現されていると伺っております。さらに、ここ仙台は東北最大の商都として幅広い集客力を誇り、最近では大型施設も相次いで開業しています。

もちろん、海外との競争の激化や、公共事業の減少など、当地経済を取り巻く環境は、決してやさしくありません。ただ、国内有数の穀倉地帯や豊富な水産資源、多くの研究機関、さらには豊かな伝統工業など、幾多の魅力に溢れた土地でもあり、潜在的な成長力を十分に備えていると思います。

本日は、この後、仙台駅前の中心商店街など市内を案内して頂く予定です。統計やニュースでは捉えきれない地域経済の実情を、肌を通して学ばせて頂く貴重な機会と考えています。また、「杜の都」といわれるだけあり街路樹の並木は美しく、初夏にかけて若葉が一斉に芽吹くと目に浸みるばかりのまばゆさだろうと想像されます。その若葉のように、将来の成長へ向けた皆様の取り組みを間近にみせて頂くのを大変楽しみにしております。

ご清聴、ありがとうございました。

以上