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【挨拶】最近の金融経済情勢について

札幌市における金融経済懇談会での挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 亀崎 英敏
2010年7月28日

目次

1. はじめに

日本銀行の亀崎でございます。本日はお忙しい中、高橋北海道知事、上田札幌市長、並びに北海道の経済界を代表される方々にお集まり頂きありがとうございます。また、皆様方には、日本銀行が北海道に拠点を設けてから100年を超える長きに亘り、大変お世話になっております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

私は、2007年4月まで41年間、総合商社に勤務し、主として地域戦略や海外拠点の運営管理を担当した後、今日まで3年余り、日本銀行の審議委員を務めております。日本銀行では、総裁・副総裁と審議委員からなる政策委員が、各地の経済界の方々と金融経済情勢についての意見交換の目的で懇談会を開催しています。本日は、まず私からマクロの金融経済情勢についてお話させて頂きたいと思います。金融経済情勢は、個別地域ごとにみた場合、それぞれ違った部分があることは当然です。特に輸出や第1次産業のウエイトなどが全国と大きく異なる当地の状況とは違う部分もあるかもしれません。そうした点は、後ほど皆様から当地の経済情勢のお話や、日本銀行の金融政策運営等についてのご意見を頂戴しながら勉強させて頂きたいと考えておりますので、宜しくお願いいたします。

2. 経済・物価情勢

(1)経済の現状

それではまず、日本の経済情勢についてお話します。日本経済は、一昨年秋のリーマン・ショック後、急な坂道を転げ落ちるように悪化しましたが、昨年春頃を底に持ち直しに転じ、現在では緩やかに回復しつつあると判断しています(図表1)。その一番の原動力となったのは海外経済の改善です。そのおかげで、日本の輸出や生産は増加を続けているほか、設備投資も持ち直しに転じつつあります。また、政府のエコ関連施策も、個人消費の持ち直しにしっかりと効果を発揮してきました。

海外経済は、各国の景気刺激策と在庫復元の動きに支えられて緩やかに回復してきました(図表2)。個々にみますと、中国経済は、4兆元に上る大型景気刺激策が固定資産投資の大幅な増加に繋がり、足許では幾分減速していますが、依然として高成長が続いています(図表3)。米国経済も、78百億ドルの大型景気刺激策を起点に、緩やかに回復しています(図表4)。欧州経済も、国ごとのばらつきはあるものの、全体としては、海外経済が回復へと向かう中、通貨安もあって輸出や生産を中心に持ち直しています(図表5)。ただ、ユーロエリアでは、景気刺激策が比較的小振りに止まった上、経済構造が柔軟性を欠くことや、ギリシャに端を発する信用不安問題もあって、他地域比弱い動きではあります。こうした中、日本の輸出は、全地域向けで増加傾向を続けています(図表6)。これが生産の増加をもたらし、設備投資の持ち直しや雇用者所得の下げ止まりに向けた動きにも繋がっています(図表7)。

政府のエコ関連施策は、家電のエコポイント制度と、自動車のエコカー減税・補助金が中心です。こうした施策は、各商品の価格対比での大幅な高機能化の進行に加え、テレビ放送の地上デジタル波への移行や、自動車の車齢長期化などといった背景もあって、潜在的な買い替え需要を呼び起こし、対象商品の販売増加に大きな効果を挙げています(図表7(3))。それだけでなく、こうした施策は消費者が販売店へと足を運ぶきっかけとなり、対象外の商品、例えば、薄型テレビと連動性のある録画機や、最新の掃除ロボットなどの購入にも繋がっているようです。こうした耐久消費財への支出増加は、生産の増加を通じて経済に好影響を与えています。

このように、日本経済は、主として海外経済とエコ関連施策の2つの要因に押し上げられています。しかし、これらの影響が及びにくい分野での回復の動きはまだ鈍いため、景気が回復しつつあるとの実感が湧かない方も多いのではないかと思います。また、昨年末から今年初にかけて年率5%前後という高めの成長が続きましたが、水準としては、リーマン・ショック前よりまだ低いところにあります。そうした意味で、国内民間需要の自律的な動きが主導する力強い回復が始まっているとまでは言えないと考えています。

(2)経済の先行き

次に、日本経済の先行きについてです。まず、これまで経済を押し上げてきた2つの要因の力は、今後、弱まっていくと思います。すなわち、海外経済は、在庫復元や景気刺激策の効果が減衰していく下、現在高い成長を遂げている国々も持続可能な巡航速度に移行していく可能性が高く、それに伴って日本の輸出も、増加基調は続くもののそのペースは次第に緩やかになっていくものとみられます。エコ関連施策は、エコカー補助金が9月末、エコポイント制度が12月末にそれぞれ終了するため、その後に耐久財消費の反動減が見込まれます。ただその一方で新しい動きも出てくるのではないかと思います。例えば、既に支給が開始された子ども手当ては、個人消費の押上げにそれなりの寄与があるものと思われます。また、これまでの稼働率の上昇や企業収益の改善を背景に、設備投資の回復や雇用者所得の持ち直しが見込まれます。これらも踏まえると、先行きの経済は、緩やかな回復傾向を辿っていくものと考えています(図表8)。

こうした見通しには、不確実性があります。まず、上方向の不確実性としては、新興国・資源国経済の強まりが考えられます。このところ、新興国・資源国では、金融緩和の修正を図る動きが広がってきており、中国では不動産市場の過熱抑制策なども採られていますが、金融緩和を続ける先進国などからの資金流入基調は持続しているように窺われ、こうした動きが新興国・資源国の資産市場の過熱感を高めるとすれば、景気は上振れる可能性があります。そうした場合、日本の景気も、輸出の増加を通じて上振れる可能性があります。ただ、新興国・資源国では、景気の上振れが過熱にまで繋がる場合、その後に強い引き締め策を必要とし、先行きの景気下振れ要因ともなり得るため、手放しで喜ぶべきものとは限らないことには留意しておく必要があります。

下方向の不確実性としては、国際金融市場の不安定化があります。ギリシャ等の信用不安問題は、当該国の緊縮財政による内需悪化のみならず、欧州経済全体について、自国への問題波及を避けるための財政引き締めや、これら諸国向けの債権を持つ金融機関の資金仲介機能の低下、市場全般の不安から来る支出意欲の低下などを通じて、下振れ要因となる可能性があります。日本については、これら欧州周辺国向けの債権は少ないほか、欧州への輸出比率も全体の1割程度に止まるため、景気への直接的な影響は小さいと考えられます。ただ、日本の主要な輸出先である中国や米国は、欧州への輸出比率がいずれも約2割あり、間接的に影響が生じる可能性もあります。また、ユーロ安円高による輸出競争力への影響や、金融市場の不安定化による企業の資金調達面への影響なども、景気下振れリスクとして認識しておく必要があると思います。

(3)物価情勢

次に物価情勢です。日本の物価動向に大きな影響を与える国際商品市況は、新興国の高成長を背景に、傾向としては上昇しています(図表9)。そのため、輸入物価指数は、昨年夏に前年を3割以上下回るレベルまで下落した後、足許では前年を1割程度上回るレベルまで上昇しています。また、国内における財の企業間取引価格の変動を示す国内企業物価指数も、前年を幾分上回る水準まで上昇しています(図表10)。

一方、家計の財・サービスの購入価格の変動を示す、生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)は、昨年3月以降前年比マイナスが続いており、デフレの状態にあります(図表10)。但し、昨年8月の▲2.4%をボトムに、基調的には緩やかなマイナス幅の縮小が続いています(図表11)。国際商品の市況変動の影響を受け難い、エネルギーと食料を除くベースでも、年初の▲1.2%をボトムに、緩やかにマイナス幅を縮小しています。これは、国際商品市況の上昇のほか、日本経済が昨年春頃を底として持ち直しに転じ、需給ギャップが縮小し始めた影響が1年程度のラグをもって物価に表れてきたものと考えられます(図表12)。

先行きについても、国際商品市況の上昇や需給ギャップの縮小を背景に、生鮮食品を除くCPIの前年比マイナス幅は縮小していき、来年度にはプラスの領域に入る可能性も展望できると考えられます(前掲図表8)。ただ、こうした物価の先行きにも、実体経済と同様に、上下双方向の不確実性があります。まず、上方向の不確実性としては、新興国経済の上振れによる国際商品市況の上振れ等が考えられます。一方、下方向の不確実性としては、景気回復が想定よりも遅れることなどにより、人々の先行きに対する悲観論が広がった場合に、今のところ安定している中長期的な物価についての見方が下振れ、実際の物価も下振れてしまう可能性が挙げられます(図表13)。今後とも、これらの点には十分注意していく必要があると考えています。

3. 金融政策運営

次に、これまで日本銀行が行ってきた施策について、順を追ってお話します(図表14、15)。

(1)急激な金融収縮への対応

日本銀行は、リーマン・ブラザーズの破綻以降に生じた急激な金融収縮へ対応するため、緊急の流動性供給策として、連日大量の即日資金供給オペを実施したほか、ドル資金供給オペの導入などを行いました。また、CP・社債市場における流動性が極端に枯渇するなど市場機能が著しく低下し、これが企業金融全体の逼迫に繋がっているとの認識の下で、CP・社債の買入れにも踏み切りました。企業金融支援のための施策としては、このほか、適格担保の格付け要件を緩和するとともに、民間企業債務担保の範囲内で、0.1%の固定金利で期間3か月の資金を無制限に供給する企業金融支援特別オペなどの措置を次々と導入しました。

また、緩和的な金融環境を確保するための施策として、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標水準を、2008年10月31日と12月19日の2回に亘り、0.5%から0.1%に引き下げました。そして、それを維持しながら潤沢な資金供給が行えるよう、金融機関が日本銀行に預ける預金の一部に金利を付ける補完当座預金制度も導入しました。

さらに、市場の緊張が、株価の下落や信用コストの高まり等を通じて資金仲介機能と金融機関経営の両面に大きな影響を及ぼしている状況を踏まえ、金融システムの安定確保を図るための施策も講じました。具体的には、金融機関による株式保有リスク削減努力を支援するための株式買入れや、金融機関が十分な自己資本基盤を維持することを支援するための劣後特約付貸付の供与といった措置です。

これらの施策のうち、時限的に導入した措置については、金融市場が落ち着きを取り戻すとともに、徐々に完了してきています。但し、ドル資金供給オペについては、今年の2月初に一旦完了した後、ギリシャ等の財政問題に端を発する国際金融市場の緊張の高まりに対応するため、5月に再開しています。

(2)デフレへの対応

もっとも、市場が安定を取り戻し、経済が緩やかに回復しつつあるとはいえ、引き続き根強いデフレという課題は残っています。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。そのために、昨年12月には、各政策委員が考える「中長期的な物価安定の理解」の表現について、ゼロ%以下のマイナスの物価上昇率は許容しないことや、委員の大勢は1%程度を中心と考えていることを明確にするかたちに改め、デフレと戦う姿勢を強く打ち出してきました(図表16)。その上で、デフレ克服に向け、現在も0.1%の極めて低い政策金利を維持しています。また、やや長めの金利のさらなる低下を促すことを通じ、金融緩和の一段の強化を図ることを目的として、0.1%の固定金利で3か月間の資金供給を行うオペも開始しました。その資金供給総額は、昨年12月の新設時には10兆円程度でしたが、今年の3月には20兆円程度へと拡充しています。

(3)「成長基盤強化を支援するための資金供給」策の導入

以上の施策の実施により、現在、金融市場や金融機関には、資金が十分に行き渡っています。しかし、その資金は、金融機関から先の実体経済には回りにくい状態が続いており、力強い経済成長には結びついていません。そこで、日本銀行は中央銀行として、力強い経済成長に結びつくような融資や投資といった、金融機関が行う取り組みを支援できないかどうか、真摯に検討しました。その結果、「成長基盤強化を支援するための資金供給」を新たに導入することが適当と判断しました(図表17、18)。

この施策は、日本経済の成長基盤の強化に結びつく融資や投資を行う金融機関に対し、政策金利と同じ金利——現在では0.1%の低金利です——で、原則1年間、借り換えを含めて最大4年間、貸付を行うものです。そして、各金融機関のできるだけ幅広い取り組みを後押しするものとしたいと考えています。初回の貸付は、この8月末を目処に開始し、以後四半期に1回のペースで行っていきます。なお、金融機関の早めの取り組みを促すため、貸付受付期限を再来年、2012年の3月までに区切る時限措置としています。

この施策に関する実際の作業は既に始まっています。まず6月25日には、公募により対象先66先を選定、公表しました。対象先の顔触れをみると、メガバンクだけでなく、地域の中小金融機関にも広がりをみせています。現在、選定された対象先から「成長基盤強化に向けた取り組み方針」の提示を受け、その取り組み方針の下で各対象先が本年4〜6月に実施した融資や投資の実績額のご提示を頂いたところであり、日本銀行で要件を満たしているか確認を進めています。その結果を踏まえ、今後、第1回目の資金供給額を決定する予定です。以下では、この施策を採用するに至った背景を、やや詳しく説明します。

4. 成長基盤強化の重要性

(1)デフレについて

先ほど述べたとおり、現在、日本はデフレの状態にあります。デフレを含めて物価の安定が損なわれると、経済・社会に様々な負の影響を及ぼします。例えば、資源配分の効率性を損なうことや、先行きの不確実性を高めて経済活動を抑制すること、名目値で表示された様々な契約、資産・負債などの実質価値の変動による予期せぬ所得分配が生じることなどが挙げられます。これに加え、デフレには特有の問題点があります。例えば、支出性向の高い債務者が、負債の実質価値の上昇により支出を抑制するため、景気悪化に繋がりやすいと指摘されています。また、名目金利がゼロ以下にならないという制約により、実質金利が経済の活動水準に見合う水準まで下がらなくなるという面もあります。

物価上昇率が低下傾向にあるのは世界の先進主要国・地域において共通の現象です。ただ、食料・エネルギーを除くベースでみてマイナスが続いているのは、日本だけです(図表19)。その主要な理由としては、需給ギャップのマイナス幅の大きさが挙げられます。日本の需給ギャップは、90年代後半以降ほぼ一貫してマイナスであり、しかも他の主要国対比で大幅となっています(図表20)。これは、バブル崩壊以降、国内需要が長期に亘って停滞する一方、それに見合わない過剰な供給力が、あまり調整されずにきたためです。

国内需要の停滞が続いたきっかけは、バブル崩壊後、各経済主体のバランスシート調整が長引いて前向きの支出が出にくかったこと、特に金融機関の不良債権処理の遅れが金融仲介機能を弱め、新たな成長分野への資金供給が十分に行われなかったことにあると思います。各経済主体のバランスシート調整圧力は、2000年代入り後にかなり解消されました。但し、その後も、それまでの長期に亘る国内需要の停滞が、この間に起こった日本社会の人口減少への転換とも相俟って(図表21)、各経済主体の先行きの成長期待を押し下げたため、前向きの支出は戻らないまま推移しました。一昨年のリーマン・ショックは、そうした状況に追い討ちをかけるように需要を大きく落ち込ませ、現在に至っております。一方、需要が停滞する中でも過剰な供給力があまり調整されなかったのは、様々な規制や保護政策などにより、需要の変化に合わなくなった様々な生産要素が残存したことにも、その一因があると考えられます。

今後も成長期待の低下が続き、需給ギャップがスムーズに縮小していかなければ、各経済主体が予想する先行きの物価上昇率が低下する可能性があります。そうなると、商品やサービスの需要者が支出を先送りしようとする意識を強めたり、供給者が需要喚起に向けて価格引き下げスタンスを一段と強めたりするかもしれません。そうした下では、同じ需給ギャップでも実現する物価上昇率は低下し、デフレからの脱却はさらに難しくなってしまいます。今のところ、中長期的な予想物価上昇率は安定していますが、今後とも低下しないようにしていくことが大切です。

(2)デフレからの脱却に向けて

日本経済がデフレから脱却するためには、需給ギャップを縮小させる必要があります。そのためには、需要を拡大しなければなりません。国内需要に希望が持てない訳ではなく、安全・安心が求められる食料関連分野や、環境関連分野、少子高齢化に関連する分野など、様々な分野に潜在需要が眠っています。実際、エコ関連の耐久消費財のように、政府の施策で新しい需要が呼び覚まされ、大きく伸びた例があります。また、外需にも一層目を向けていく必要があります。先にも述べたとおり、新興国や資源国の経済成長は目を見張るものがあり、今後とも日本が供給する財やサービスへの需要の伸び代は大きいと考えられます。

問題は、これをいかにして実現していくかですが、まずは政府が、先月公表した「新成長戦略」と「財政運営戦略」に期待したいところです。「新成長戦略」は、今述べたような需要拡大策と合わせ、供給面や資金循環面での制約を克服していくための施策を工程表とともに記述し、強い日本経済の確立を目指すものとなっています。また、「財政運営戦略」は、「新成長戦略」と整合的なかたちで持続可能な強い財政の確立を図り、経済成長と財政再建の両立を目指すこととしています。最も重要なことは、これらの戦略が、工程表に示された通り、スピード感を持って確実に実行に移されていくことです。

また、民間経済主体には、「新成長戦略」が掲げる施策の力も借りながら、新たな需要の掘り起こしを行うとともに、新しい生産技術の開発や、生産性のより高い分野への資本や労働の移動などにより、生産性の向上を図っていくことが求められます。生産性の向上というと、供給能力が上昇して、むしろ需給ギャップが拡大するのではないか、と思われる向きもあるかもしれません。しかし、生産性の高い企業や労働者の生産物への需要が高まることや、そうした先に対する将来需要の増加を見越して足許の需要が高まること、そして、そうした過程で資源配分の効率化が図られることを通じ、需要のパイが全体として拡大することのメリットが大きいことに注目すべきです。生産性の向上が国の成長にとっていかに重要かは、イギリスの産業革命をみればわかります。19世紀初頭、機械化による雇用削減に対し、労働者たちはラッダイト運動と呼ばれる機械の打ち壊しを行いましたが、機械化の結果としての生産性向上が国全体の潜在成長力を高め、その後の大英帝国の繁栄に繋がったことは歴史の事実です。そもそも、少子高齢化が進み、人口減少社会に入った日本の将来を見越せば、生産性の向上は不可欠です。それが実現できれば、人口変化がもたらす問題の回避が短期的には難しくても、潜在成長力の落ち込みを回避し、日本経済の活力を維持できるものと考えられます。

(3)日本銀行としての取り組み

日本銀行の「成長基盤強化を支援するための資金供給」は、民間経済主体が新たな需要の掘り起こしや生産性の向上を図っていく際に必要となる融資や投資について、金融機関が自主的に取り組んでいくことを支援するための施策です。これを通じて日本経済の潜在成長力が高まれば、需給ギャップの縮小、ひいてはデフレからの脱却にも寄与します。その意味で、この施策は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という日本銀行法第2条に書かれた、日本銀行の目的達成のための理念に合致するものです。日本銀行が、その必要性を言葉だけでなく、その実現を促す実際の行動でも示すことが、民間経済主体の取り組みの呼び水となり、皆がその目的の達成に向け、力を合わせて頑張っていくことに繋がれば、と考えています。

私は常々、日本銀行はプロアクティブに——すなわち主体的に、能動的に——適切な政策を実施していかなければならないと意識してきました。今後とも、日本経済がデフレから脱却し、物価安定の下での持続的成長経路に復帰するために成すべき最大限の努力をプロアクティブに行っていきたいと考えています。

5. 終わりに——北海道について

結びに当たって、当地について述べたいと思います。北海道の経済は、全国に比べて輸出依存度が低い分、リーマン・ショック後の落ち込みは限定的でした。しかし、足許では逆に、海外経済の回復の恩恵が限定的にしか享受できず、一方で公共事業依存度が高い分、公共投資削減の影響を受けて苦しい状況にあります。さらに、全国より速いペースで進んでいる少子高齢化、人口減少という構造的な下押し圧力も受けています。

しかし、北海道経済には、こうした逆境を跳ね返し、発展を遂げていく潜在成長力があると考えています。なぜなら、この地には、日本の他地域のみならず、他国にもない特長がたくさんあるからです。九州出身の私は、以前よりこの北の大地に憧れを抱いてきました。また、私がかつて赴任していた台湾では、もともと人気の高い日本の中でも、北海道には特別な魅力を感じるとの声を多く聞きました。北海道の特長を私なりの言葉で表現すると、「世界で唯一、アジアの先進国に位置し、広大で豊かな自然を擁するクリーンな大陸」というところでしょうか。興隆するアジア新興国に接し、様々なインフラが整備され所得水準も高い先進国でありながら、広大で手付かずの豊かな自然を擁し、しかも大変素晴らしいクリーンな環境を維持しているからです。このブランド力をもってして、発展できないことはないと思います。

具体策としては、まず、この北海道のブランド力を売りに、全道一丸となって観光客招致を一段と推進することが考えられます。加えて、日本の他地域や外国からの長期滞在者の積極的な受け入れに取り組んでも良いと思います。その際、当地の魅力である、豊かな自然とクリーンな環境を壊さないような配慮が必要です。当地にやってくる方々は、こうした魅力に惹かれている訳ですから、それを守ってもらうことはさして難しくないでしょう。また、当地は明治以降、日本の様々な地域からの移住者を集めて発展してきた経緯があるので、その伝統の中にある英知を活かすこともできるのではないでしょうか。

それから、産業として強みを持つ農林水産業の一段の活性化も重要です。まず北海道の農業は、大規模かつ意欲的に展開されており、日本における食料の安定供給に大きく貢献しています。面積だけで言えば、ウクライナやアルゼンチンの穀倉地帯にはかないませんが、きめ細やかな日本人の特長を活かして、世界で求められる安全で安心な農産物を、高い技術力で作り出しています。こうした農産物は、北海道ブランドを活かしてそのまま世界に売り出しても十分競争力があると思いますが、当地で加工して付加価値を高めれば、当地経済への波及効果を一段と高めることも可能となるでしょう。水産業も同様です。先般、根室の秋刀魚をベトナムへ輸出する取り組みが始まったという話を聞きました。北海道の水産物も、素材のままで大きな魅力がありますが、より付加価値をつけていくことで、さらなる発展が望めると思います。

このように当地には元来高い潜在成長力がありますが、それを一段と高め、実際の経済成長に繋げていくことが大事です。先ほどお話したような日本銀行の施策も、そうした取り組みの一助となれば幸いです。今後、当地が今の魅力を失うことなく、経済的にも発展していくことを願っております。ご清聴頂き、誠にありがとうございました。

以上