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【挨拶】平成22年全国証券大会における挨拶

日本銀行総裁 白川 方明
2010年9月16日

目次

はじめに

本日は、「平成22 年全国証券大会」にお招きいただき、誠にありがとうございます。証券業界の皆様におかれましては、日頃から、証券市場の発展や投資家の保護にご尽力され、これを通じて日本経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表したいと思います。また、皆様方には、日本銀行の政策や業務運営について、多大なるご協力を賜っております。この席をお借りして、厚く御礼申し上げます。

私からは、最近の経済・物価情勢や金融政策運営、ならびに金融システムの現状などについて、日本銀行の考えをお話しすることによって、ご挨拶に代えさせていただきます。

最近の経済・物価情勢

最初に世界経済の動向からご説明します。

世界経済は回復を続けていますが、このところ米国を中心にやや減速しつつあります。在庫調整が一巡し、在庫投資の増勢が鈍化していることや、各国が金融危機対応で講じた財政面での需要刺激策の効果が弱まってきていることが、減速の主な背景です。地域別にみますと、米国経済は緩やかな回復を続けていますが、バランスシート調整の問題を抱える中でこのところ減速しています。欧州経済は、国ごとのばらつきを伴いながら、全体としては緩やかに回復しています。新興国経済は、金融緩和策の修正の動きなどから幾分減速しつつありますが、高めの成長を続けています。

このように、世界経済は、足許ではやや減速しつつありますが、回復基調自体は維持されており、先行きも、減速しつつも回復を続けるとみています。この点で最大の鍵を握る新興国では、旺盛な国内需要に加え、先進国の金融緩和継続を背景に資金流入が続くもとで、生産・所得・支出の好循環メカニズムが働くことが期待されます。他方、米欧先進国では、バランスシート調整が重石にはなりますが、新興国の成長持続を背景とした輸出の増加に加え、緩和的な金融環境が需要を下支えすることで、緩やかな回復を続けるとみられます。

次に、わが国経済ですが、景気の現状については、緩やかに回復しつつあると判断しています。具体的に申し上げますと、輸出や生産は、昨年春以降の年率2割を超える伸びと比べれば増勢が鈍化しているものの、増加を続けています。企業収益は改善を続けており、設備投資は、水準は低いとはいえ、持ち直しに転じつつあります。雇用・所得環境についても、引き続き厳しい状況にはあるものの、その程度は幾分和らいでいます。このため、個人消費は、持ち直し基調を続けており、特に最近では、猛暑の影響や耐久消費財の駆け込み需要がみられています。

先行きについて、当面は、輸出の増勢鈍化や個人消費の一時的な押し上げ要因の剥落等により、景気の改善ペースが一旦弱まる可能性があります。もっとも、海外経済が回復を続け、国内の雇用・所得環境も徐々に改善していくことを踏まえますと、わが国経済の回復基調自体が途切れることはないと判断しています。

この間、物価面では、消費者物価の前年比は、生鮮食品や高校授業料無償化の影響を除いた基調的な動きをみますと、経済全体の需給が緩和状態にあるもとで下落していますが、その下落幅は縮小を続けています。先行きについても、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移するとの想定のもと、マクロ的な需給バランスが徐々に改善することなどから、消費者物価の前年比は、下落幅が縮小していくと考えられます。

ただし、こうした先行きの見通しに様々な不確実要因があることは、日本銀行としても十分認識しています。特に、現在は、米国経済を中心に、世界経済の先行きを巡る不確実性がこれまで以上に高まっています。欧州周辺国の財政・金融問題を巡る懸念も引き続き意識されています。こうした不確実性の高まりを背景に、グローバル投資家はリスク回避姿勢を強めており、為替相場や株価が不安定な動きを続けています。こうしたもとで、わが国の先行きの経済・物価情勢を見通すに当たっては、下振れリスクをより意識する必要があると判断しています。

この間、為替市場への介入が実施されましたが、日本銀行としては、本措置が為替相場の安定的な形成に寄与することを強く期待しています。また、日本銀行としては、この後申し述べるとおり強力な金融緩和を推進しており、今後とも金融市場に潤沢な資金供給を行っていく方針です。

日本銀行の金融政策運営

そこで、金融政策運営に話題を転じますと、日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することがきわめて重要な課題であるとの認識の下、強力な金融緩和を推進しています。政策金利は0.1%と、実質的にゼロ%といえる水準としています。さらに、0.1%の低金利で長めの資金を供給する固定金利方式の共通担保資金供給オペレーションを新たに導入し、市場金利の低下を促すことを通じて、金融緩和効果の強化・浸透を図っています。先月末には、固定金利方式の共通担保資金供給オペレーションについて、新たに期間6か月物を導入するとともに、資金供給額を30 兆円まで拡大し、金融緩和を一段と強化しました。

また、こうした金融緩和の効果が発揮されるためには、金融市場の安定確保が不可欠です。そのため、日本銀行は、金融市場に潤沢な資金供給を行ってきており、今後ともこの方針を続けていく考えです。このほか、今年5月に短期のドル資金市場で緊張が高まった局面では、ドル資金供給オペレーションを再開するなど、機動的な対応に努めています。

日本銀行による強力な金融緩和の推進と金融市場の安定確保は、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路へ復帰するうえで、大きな役割を果たすものと考えています。ただ、日本経済は、これまで申し上げてきたような景気の循環的な課題に加えて、人口の減少や生産性の低迷による成長率の趨勢的な低下という中長期的な課題にも直面しています。成長率の趨勢的な低下は、人々の将来の所得増加期待を低下させ、需要の低迷をもたらすことで、デフレの問題の根源的な原因ともなっています。それだけに、成長力の強化はわが国にとって重要な課題です。

経済の成長力は、民間企業や金融機関の革新的な取り組みによって強化されるものですが、そのための環境整備の面では、政策当局の果たす役割も重要です。政府においては、成長戦略の実現に向けた取り組みが進められていますが、この間、日本銀行も、中央銀行の機能を用いて貢献する余地がないか、検討を行ってきました。その結果、先般、成長基盤強化に資する融資や投資を行った金融機関に対し、国債等の担保を裏付けに、長期かつ低利の資金を供給する措置を新たに導入しました。日本銀行としては、こうした取り組みが「呼び水」となって、民間経済主体の取り組みが一段と活発化することを期待しています。

成長基盤を強化するという点では、金融市場や証券業界が果たす役割が重要であることは言うまでもありません。証券業界の皆様には、例えば、成長基盤強化に関連する融資や投資の証券化など、市場を活用した取り組みを進めることも期待しています。日本銀行としても、そうした市場の整備等を通じ、皆様の取り組みを支援してまいりたいと考えています。

日本銀行は、先ほど申し述べた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3つを柱とする政策運営を通じて、今後も中央銀行としての貢献を粘り強く続けてまいりたいと考えています。金融政策運営にあたっては、不確実性が高い状況であるだけに、先行きの経済・物価動向を注意深く点検したうえで、必要と判断される場合には、適時・適切に政策対応を行っていく方針です。

金融システムの動向

次に、金融システムの動向についてお話します。

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持しています。先週末には、わが国初となるペイオフによる金融機関の破たん処理が実施されることになりましたが、その後の動きをみますと、預金者の行動や金融市場の反応は、きわめて落ち着いたものとなっています。また、皆様により関係の深い資本市場をみましても、CP・社債市場では、信用スプレッドが縮小しているほか、発行の裾野が低格付社債にまで広がるなど、金融危機発生後に大きく低下した市場機能が着実に回復してきています。

金融システムの強化に向けた国際的な議論

こうした中、今回の金融危機の経験を踏まえ、金融システムの強化に向けて、国際的に議論が進んでいます。その内容は、自己資本の質や水準の向上、流動性規制の強化、市場インフラの整備や会計基準の見直しなど多岐にわたっています。こうした中、先般、バーゼルで開催された中央銀行総裁・銀行監督当局長官による会合では、国際的に活動する金融機関に対する新たな所要自己資本比率の水準とその実施スケジュールについて広範な合意に達しました。日本銀行では、金融規制改革について、新たな規制が国際的な金融システムの安定にとって有効に働くと同時に、それが世界経済の回復を阻害しないようにするという観点が重要であると主張してきました。今回の合意は、銀行の中長期的な自己資本の強化を図るとともに、実体経済への影響にも配慮されており、私どもの主張にも沿った形での結果となったと思っています。規制の詳細については、今後バーゼル委員会等で検討が進められていく予定ですが、日本銀行としては、引き続き、今申し上げた観点を踏まえつつ、積極的に議論に貢献していきたいと考えています。

市場インフラ整備の重要性

先ほど、市場インフラの整備について、国際的な議論が行われていることを申し上げましたが、この点はわが国にとっても大変重要な課題です。わが国では、リーマン・ブラザーズの破たん後、国債の受け渡しが当初予定された決済日に行われない状態、すなわち国債のフェイルが頻発するなど、国債の円滑な取引がやや損なわれる局面もみられ、市場関係者の間では、改めて市場インフラの重要性が認識されるようになりました。

こうした認識のもと、証券業界におかれては、国債取引にかかるフェイル慣行の定着に努めるとともに、この11 月からは、フェイル頻発の抑制を図るためのフェイル・チャージの導入などを予定されています。また、国債の未決済残高の圧縮を通じた決済リスク削減を目指して、現在アウトライト取引では約定から3日後となっている国債の決済期間の短期化についても、検討を進めておられます。さらに、やや長い目でみた企業の資金調達の多様化、投資家の運用機会の拡充という観点から、社債市場の活性化に向けた検討も行っておられます。いずれの取り組みも、わが国資本市場の機能向上にとって、大変重要な課題であり、検討の過程では、私どもとしても積極的に支援しているところです。日本銀行としては、今後とも、皆様方とともに、市場インフラの整備に向けて取り組みを進めてまいりたいと考えています。

おわりに

最後になりましたが、皆様方のますますのご発展を祈念し、私のご挨拶を終えさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

以上