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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策

徳島県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 宮尾 龍蔵
2010年9月22日

目次

1.はじめに

日本銀行の宮尾龍蔵です。日本銀行では、総裁、副総裁、政策委員会審議委員が、全国各地を頻繁に訪問し、日本銀行の施策の趣旨をご説明申し上げるとともに、私どもへの率直なご意見や、地域経済を巡る情報を頂戴し、政策判断の際に参考にさせて頂いております。本日は、ここ徳島県にお邪魔した訳でありますが、お忙しい中、飯泉徳島県知事並びに徳島県の経済界を代表される方々にお集まり頂きまして、誠に有難うございます。また、私どもの徳島事務所が開設されて本年で65年となりますが、その長きに亘り、業務運営にご理解とご協力を賜っておりまして、この場を借りて御礼申し上げます。

本日は、まず私から、わが国の経済・物価情勢の現状と先行きの見通し、それらの背景となるマクロ経済学の視点からの分析内容等についてお話し申し上げ、最後に徳島県経済について、私なりの見解を少し述べさせて頂いた後、皆様方から当地の実情に即したお話や、忌憚のないご意見を頂戴できればと思っております。

2.経済・物価情勢

(1)概況

それでは、わが国経済の現状からお話を始めたいと思います。わが国経済については、為替相場や株価の不安定な動きが続くもとで、企業収益やマインド面に与える影響が懸念される状況にあります。そうした中、リーマン・ショック後の急激な落ち込みからの回復を牽引してきた輸出が東アジア・新興国向けを中心に減速している一方で、猛暑や耐久消費財の駆け込み需要の効果もあって消費は比較的しっかりしており、わが国の経済は緩やかに回復しつつあると判断しています(図表1)。

(2)海外経済

これまでの牽引役であった輸出の動向を左右する海外経済の状況について、やや詳しくご説明します。新興国経済をみますと、中国経済が、4兆元に上る大型景気対策の効果から設備投資や不動産投資といった固定資産投資や、個人消費といった内需が力強く景気を押し上げてきました。しかしながら、こうした高成長を持続してくる過程において、不動産に対する投機的な動きが加速し、中間所得者層にとっては住宅購入が難しい環境が発生しました。こうした状況を踏まえ、当局は、窓口規制を含めた不動産取引の抑制策を順次進め、その結果、不動産投資は一服感が出て、建設関連業種を中心に生産活動や設備投資が減速してきておりますが、水準としてはなお高い成長を維持しています(図表2)。また、周辺のアジア諸国は中国向け輸出を中心に高成長を続けてきたこともあり、足もとの景気拡大スピードは鈍化の兆しをみせてきています。もっとも、各国とも引続き内需の拡大には力強いものがあり、高めの成長率を維持しています(図表3)。

一方、欧州経済については、新興国向けを中心に輸出の拡大が続いており、それが生産活動の活発化に繋がってきました。もっとも、国毎にみると、ドイツは2010年4〜6月期の実質GDPが前期比年率で9%となるなどユーロエリアを牽引する形となっている一方、財政健全化が大きな課題となっているギリシャはマイナス成長となっているほか、住宅バブルが破裂したスペインも低成長を脱しきれていないなどバラツキがあり、総じてみると、設備投資をはじめとして内需の回復は弱く、景気全体の回復は緩やかなものに止まっています(図表4)。今後についても、中国を始めとする新興国経済が減速しつつあることから、回復の起点となっている輸出を中心に成長率が鈍化する可能性があります。

米国経済の足元までの動きをみると、家計部門に過剰な債務や雇用回復の遅れといった重石がのしかかる中で、ドル安を背景に輸出が拡大し、それに在庫復元の動きも加わって生産活動が回復してきました。また、リストラにより企業業績が急回復したことや、財政による景気刺激策の効果もあって、消費や設備投資も緩やかながら回復基調を辿ってきましたが、足もとはそうした景気刺激策の効果の減衰などから減速してきています(図表5)。

次に海外経済の先行きについて簡単に纏めますと、中国を中心とした新興国経済の景気減速が暫く続くとみられるほか、米国経済についても、そうした新興国経済の動きを背景とした輸出の減速や、財政による景気刺激効果の減衰から、足もとの減速傾向が続くものとみています。その後、2011年以降は、新興国経済の成長率が足もとの減速から再び高まるものとみられ、それに支えられる形で米欧経済も緩やかな回復が続くものとみています(図表6)。

しかしながら、ここへ来て、下振れリスクに、より注意をしなければならない状況になってきていると考えています。その主な要因は、米国経済がやや長期の低成長に陥るリスクが高まっているということです。より具体的に申し上げますと、7月に公表されたGDP統計において、個人消費は伸びが大幅に下方修正され、実額のレベルで見るとリーマン・ショック前の水準にまだ届いていないことが判明しました。また、貯蓄率は大幅に上方修正され、一時的な振れを除けば過去20年で最高水準に達しています(図表7)。こうした中で、住宅投資については緩やかな回復を示してきましたが、4月末で減税措置が終了して以降は再び大幅に落ち込んでおり、月次の住宅販売戸数は史上最低水準で推移しています(図表8)。この間、雇用環境をみますと、民間部門の雇用者数の増加ペースは、2010年4〜6月期に入ってから月に7万人前後と減速しているほか、所得の伸びもごく緩やかなペースに止まっているのが現状です。新規失業保険申請者数も毎週50万人前後と高水準で推移しています(図表9)。こうした一連の経済指標をみますと、米国の家計部門においては、住宅バブルの中で住宅を購入した人々が債務の返済に追われ、また失業者はなかなか職に就けず、その結果として消費に対して非常に慎重になっている姿が窺われます。また、こうした状況を眺め、企業部門も先行きの景気拡大に確信が持てないため、収益が改善しているにも拘らず雇用や更なる設備投資に踏み切れないでいる様子がみてとれます。そして、これが更に家計部門の消費行動の回復を遅らせるリスクが高まっているとみています。

さらに、これまで米国経済の強みとされてきた部分にも変化が出てきている可能性があります。あまり注目されない指標かもしれませんが、私は米国の労働生産性の推移に着目しています。これは、四半期ごとの実質GDPを雇用者数・時間で割ったもので、技術進歩や資本ストックの伸びを反映してその国の潜在的な成長力を示すものです(図表10)。この労働生産性は、リーマン・ショック後、企業が急激に人員削減などのリストラを進める中で、2009年には、2000年台前半頃の“Productivity Growth Explosion”(生産性の爆発的向上)といわれた頃の水準まで急回復しました。しかしながら、2005年頃から2008年にかけての好況時において生産性の伸びは低迷しており、さらに本年4〜6月期にはマイナスに転じています。これまで米国経済の強みは技術革新を生み出す力と、それを背景とした生産性の高さにあると認識されてきましたが、実際には、2009年の一時期を除くと、ここ数年にわたり、やや長い目でみた成長力が伸び悩んでいる可能性があるということです。こうした中で、8月の半ばには米国債の10年物金利が2%台半ばまで低下しましたが、これも一時的な景気減速を織り込んだというよりも、やや長い目でみた低成長とそれに伴う低インフレを織り込んだ動きという側面もあるのかもしれません(図表11)。

(3)わが国経済

こうした海外経済の現状やリスクを踏まえ、次にわが国経済の現状についてお話したいと思います。市場では、米国経済の先行きや欧州各国の財政・経済情勢を巡る懸念などを背景として、リスク回避的に円を買う動きが進んでいるほか、それを材料の一つとして、良好な企業収益見通しにもかかわらず株価が軟調な地合いにあります(図表12)。こうした市場環境が継続すれば企業収益やマインド面に与える影響が小さくないわけで、その影響が懸念されるわけでありますが、現時点では、自律的回復のメカニズムは途切れていないものと判断されるところです。やや詳しくご説明しますと、輸出については、先ほども申し上げましたが、これまでの高い伸びを支えてきた東アジア・新興国向けの伸びが鈍化しておりますが、引続き拡大基調が維持されています(図表13)。こうした中で、生産活動は、鉱工業生産指数の季節調整の歪みを勘案すると、緩やかに鈍化してきていますが、基調としては増加を続けています(図表14)。一方、内需関連項目をみると、設備投資については、好調な企業業績を背景に、持ち直しに転じつつあるとみています。法人企業統計をみると、2010年1〜3月期までは減少を続けてきましたが、4〜6月期には増加に転じました(図表15)。また、個人消費は、猛暑を背景に飲食関連やエアコンなど幅広く支出の増加がみられたほか、自動車販売がエコカー補助金終了前の駆け込み需要から8月は大きく増加するなど、全体として持ち直し基調が続いています(図表16)。この間、住宅投資は、新設住宅着工件数が2ヶ月連続で増加したほか、首都圏新築マンションの成約率が7割を維持するなど下げ止まってきています(図表17)。そうした中で、雇用・所得環境については、引続き有効求人倍率は低水準、失業率は高めの水準ではありますが、足もとでは改善の兆しが窺われています。また、雇用者所得も夏季賞与の増加を背景に前年比プラスとなっているなど、緩やかな改善を続けています(図表18)。

物価についてですが、消費者物価の基調を判断するには、振れの大きい生鮮食品や、政策対応により一時的な押し下げ要因となっている高校授業料を除いたベースでみることが適切であると思います。その動きをみると、足もとでは、マイナス0.6%程度で推移しています。こうした指標の動きから判断しますと、消費者物価の基調は、一時の落ち込みからの回復過程にあり、前年比マイナス幅のゆるやかな縮小傾向が続いております。今後については、これまでの需給ギャップの改善を背景として、この基調が維持されていくものと考えています(図表19)。

最後に、わが国の景気の先行きについてですが、先ほど申し上げた海外経済の一時的な減速と、国内の需要刺激策の効果の減衰などから一時的に改善の動きが弱まるものの、その後は、中国をはじめとする新興国経済の高成長を背景とした輸出の拡大、及び企業収益の改善を起点とした設備投資や個人消費の回復などを通じて自律的な回復過程を進んでいくものと思われます。

こうしたシナリオの修正を余儀なくされるような下振れリスクとしては、先ほども申し上げた通り、米国経済が、やや長い目でみた低成長に陥るリスクが高まっている点が挙げられます。このリスクが顕在化した場合には、グローバル化が進展しているもとで世界経済全体の見通しが下振れし、それが輸出の減少などの形でわが国経済にも波及してくることになります。こうした動きの中ではリスク回避志向が高まり易くなり、その結果として、企業の設備投資や新規事業に対する意欲、家計の消費意欲が抑制されるという、いわゆるマインドの悪化が起こり、経済の停滞が続くという状況に陥る可能性があります。

こうした下振れリスクの一方で、新興国経済が持つ成長力の力強さには目を見張るものがあります。足もとは中国経済の減速を主因に、周辺国にも景気減速感が一部で出てきていますが、その結果として、急激な経済の過熱がかえって成長の持続性を失わせることになるリスクが遠のいているとみることもできます。むしろ一定期間のスピード調整を経て、高めの成長がより長期間、安定して継続する可能性があります。このことはアジアとの結びつきを強める日本経済の先行き見通しにとって上振れ要因となり、米国経済の低成長リスクが顕現化した場合でも、その影響を軽減してくれる可能性があります。

(4)為替相場のわが国経済への影響

次に、為替相場が実体経済に及ぼす影響について、若干整理してみようと思います。まず、為替相場について理論的に整理してみますと、物価が安定ないし下落するということは、その通貨の価値の安定ないし上昇を意味しますから、本来その通貨は他の通貨に対して高くなるはずです。これが購買力平価の考え方です。ドル/円相場の購買力平価(日本と米国の物価の比率)をみると、1973年の変動相場制導入以降、日本の物価が米国の物価に比べて相対的に低い状態にあることを反映して、ほぼ一貫して緩やかな円高基調になっています。一方、実際のドル/円相場は、物価だけでなく様々な要因によって決定されていくわけではありますが、総じてみれば、やはり円高傾向となっています(図表20)。

円高の影響については、改めて言うまでもありませんが、輸出企業を中心に収益の圧迫要因となり、現在も厳しい経営を余儀なくされている企業も少なくないものと思われます。また、こうした状況は、株価にも影響を与えていることから、わが国経済の下振れリスクの一つとして、実体経済への影響を注視しているところです。一方、輸入企業にとってみれば、円高の進行は収益の押し上げ要因となります。また、海外企業の買収を通じて事業拡大などを考えている企業にとっては追い風となります。そうした意味では、バランスよくみることも重要ではないでしょうか。

ここで、「バランス」の観点から一つの事例をご紹介します。貿易に使用される決済通貨について通関統計を基に調べると、10年前の2000年下期と足もとの2010年上期とでは、輸出決済に使用されるドルのウェイトは52.4%から48.6%に小幅低下している一方、輸入決済については70%強で殆ど変化がありません(図表21)。しかしながら、ドル建て決済の貿易額をみると、ネット輸入超額が大幅に拡大しています。これは、輸出額の大きい米国との取引が減少する一方、成長著しいアジアとの取引は輸出入ともに増加、中東地域等との間では輸入取引が大幅に増加しているためです。このようにドル建て輸入超額が拡大していることにより、以前と比べると円高によるマイナスの影響を受け難い決済・貿易構造になってきている可能性があります。

3.金融政策について

(1)最近の金融政策運営

このように、足もとの日本経済は、輸出は伸びが鈍化しているものの、なお増加基調を辿っているほか、個人消費、設備投資といった内需も持ち直しつつあるなど、緩やかに回復しつつあります。しかしながら、米国経済を中心とする不確実性が高まっているなかで、為替相場や株価が不安定な動きを続けています。そうした中で、日本銀行では8月30日に臨時の金融政策決定会合を開催し、6ヶ月物の固定金利方式の共通担保資金供給オペレーションを新たに導入し、追加的に10兆円の資金供給を行うこととしました。本措置は、政府の取り組みとも相俟って、日本経済の回復をより確かなものとするうえで、効果を発揮すると考えています。

もっとも、米国経済を中心に先行きを巡る不確実性が高まっている中で、わが国経済の下振れリスクに対する警戒を解くことは出来ません。日本銀行としては、わが国経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。そうした認識のもと、これまでも強力な金融緩和の推進等を進めてきたわけでありますが、引続き先行きの経済・物価動向をより注意深く点検し、必要と判断される場合には適時適切に対応して行く所存です。

(2)成長基盤強化を支援するための資金供給

ここまで申し上げてきた強力な金融緩和措置は、期間でいえば比較的短期の経済の循環的な動きに働きかけるものですが、一方で、我が国経済にとっては、先ほども少し触れましたが、中長期的な成長力の維持向上も重要な課題となっています。そういった問題意識から、日本銀行が有する機能を使って貢献できないかを模索し、本年6月に、成長基盤強化に向けた民間金融機関の自主的な取り組みを金融面から支援するための新たな資金供給の枠組みとして、総額3兆円の「成長基盤強化を支援するための資金供給」を導入しました。これは日本銀行に差し入れられた担保を裏付けとして貸付を行うという点ではその他の資金供給手段と同じですが、金融機関の成長基盤強化への取組実績に基づいて、最長で4年という長期にわたる貸付を行うという点で異なります。

もちろん、この資金供給手段は、成長基盤強化に必要な資金を全て賄うというものではありません。あくまでも民間での取り組みが進むための呼び水としての位置付けです。第1回目の資金供給は8月末に実施され、4,600億円あまりの資金が供給されました。供給先は47先で、大手行から信金まで業態・地域に拡がりがみられました。また、資金供給の裏付けとなる金融機関の個別投融資の実績をみると、環境・エネルギーを筆頭に、社会インフラ整備、医療・介護からコンテンツ、防災など多岐に渡っています。また、個別投融資案件の貸出期間をみると、4年超の案件が8割を超え、平均融資期間が8.2年となるなど、その趣旨に沿った長期の融資が実行されているようです。こうした結果を眺めると、呼び水効果を狙った本制度は、ひとまず順調な滑り出しとなったといえるのではないでしょうか。

米国経済についても申し上げましたが、景気が持続的に成長する為には、成長期待や生産性向上が重要な役割を果たします。それは、将来にかけて所得の増加、需要の増加が見込めるという期待です。これがないと企業は安心して投資ができませんし、家計部門でも雇用や所得の安定が期待できないので消費を積極化できません。先ほど、日本銀行は、デフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することがきわめて重要な課題であると認識していると申し上げました。「成長基盤の強化」を経済学的に捉えれば、それは「イノベーションや構造転換による生産性の向上」を意味します。

生産性の向上と聞くと、モノやサービスの供給が増えて、ますます需要と供給の差、いわゆる「需給ギャップ」が拡大し、デフレ状態から脱却することが難しくなるのではないか、と思われるかもしれません。しかしながら、ここにいらっしゃる皆様もご経験があると思いますが、技術革新や技術転用などを通じて新しい高付加価値の製品やサービスが生み出され、そこに新たな需要が創出されるという面があります。例えば、当県でも生産が盛んなLEDという製品の開発は、光源として液晶テレビや家庭用蛍光灯形LEDランプ、漁船の照明など、新たな需要を急速に生み出しています。すなわち、ここでの生産性の向上とは、様々な工夫を通じて労働や資本をより効率的に活用し、より高い付加価値のモノを生み出すということなのです。生産性が経済に及ぼす影響については、私も日本銀行の政策委員会審議委員に就任する以前の研究者時代から強い関心を持っていました。そうした中で、日本のデータを使って実証研究を行ったところ、生産性上昇が供給力の上昇だけでなく、それを上回る需要の拡大につながり、需給ギャップも改善する効果を持つという結果も示されています。

以上のことを纏めますと、これからのわが国経済にとっては、中長期的な視野に立ち、企業が「アニマル・スピリット」を発揮してリスクに果敢にチャレンジし、生産性の向上、付加価値の増加に繋がるような競争力の強化に取り組んでいけるような環境を整備していくことが重要なのです。繰り返しになりますが、日本銀行が導入した「成長基盤強化を支援するための資金供給」はそのための民間金融機関の取り組みを促す呼び水となるものです。また、8月の新型オペレーション拡充を含め、金融政策運営において強力な緩和を推進していることも、民間での取り組みを行い易くするという点で貢献していると思います。

4.徳島県経済の現状と将来

(1)足もとの経済情勢

結びにあたって、事前に勉強したことなどを通じて、当県について感じたことを幾つか述べたいと思います。

まず、経済情勢からみてみますと、徳島県内の景気は、業種間・企業規模間のバラツキを伴いつつも、総じてみれば持ち直しています。やや詳しくみますと、個人消費は、全体としては弱い動きが続いています。公共投資は引続き減少しています。一方で、設備投資は製造業を中心に増加しており、一部では戦略的な大型投資の動きも出てきています。住宅投資も下げ止まっています。この間、生産が電気機械や一般機械を中心に増加基調にあります。そうした中で、雇用・所得環境は引き続き厳しい状況にはありますが、有効求人倍率が上昇してきているほか、所定外給与が増加するなど、その程度は幾分和らいでいます。

(2)徳島県経済の将来

今回訪問するにあたり、当県にはブランド力の高いモノやサービス、資源があることに、改めて気付かされました。例えば農産物では、スダチをはじめ、シイタケや春夏ニンジンの生産量も全国トップとなっています。一方、製造業では、注目の先端技術であるLEDや、薬品、食品の生産も盛んです。また、サービス産業の面では、昭和18年に四国で初めて設立された県立医学専門学校を前身とする徳島大学医学部を擁しているということもあってか、人口10万人あたりの医師数や病床数が全国のトップ・テンに入っているなど、医療の面も充実した土地柄です。このほか、日本屈指のお祭りで空港の名前にもなっている阿波踊りや鳴門のうず潮、四国全体ではありますが八十八ヶ所霊場めぐりなどの観光資源も擁しています。こうした技術力・ブランド力の高い資源を活用していけば、経済の中長期的な成長基盤がさらに強化されていくと思われます。

そして、その取り組みはすでに始まっています。LEDについては、その高い技術力を背景に、「21世紀の光源であるLEDを利用する光(照明)産業の集積」を基本目標とした「LEDバレイ構想」を掲げ、「同推進協議会」による行動計画も策定されて、つい先日、目標の100社集積の目処が立ったと聞いています。また、医療面でも、糖尿病治療を核として、製薬・食品メーカーも巻き込みつつ、「医療観光(メディカルツーリズム)」の実現を目指す取り組みがスタートしています。また、グローバル戦略推進事業として、観光面では、成長著しい中国の上海をターゲットに万博を通じてのPR活動を積極的に行っているほか、県内中小企業の販路拡大支援も行われているところです。

海外における需要の掘り起こしや一層の拡大を念頭に置いたものであることも頼もしい限りです。当県で生産が盛んなLEDについては、そもそもグローバルに圧倒的なシェアを持っています。また、メディカルツーリズム構想や上海グローバル戦略推進事業は、円高等を背景に企業が生き残りを賭けて海外に打って出ていく結果として国内が空洞化してしまうという、ここ10数年でわが国の製造業を中心にみられてきたグローバル化とは異なり、国内の産業はそのままに海外の需要を取り込もうとするものです。非常にチャレンジングであるとは思いますが、成功すれば得られる果実は大きいものと思われます。そうした中で、地元金融機関は、こうした前向きな取り組みを積極的に支援しており、日本銀行が導入した「成長基盤強化を支援するための資金供給」にも2行が参加され、特別ファンドの形で融資商品を立ち上げておられます。

当県の中長期的な経済の動きをみるうえで、ここ10年余りの人口の動きに着目しますと、総人口が減少する中で高齢化が進行し、15〜64歳の生産人口は1割程度減少しております。今後も、少子化傾向が続く限りこの流れを変えることは難しいと思われますが、こうした課題は当県に限ったものではなく、日本全体の課題でもあります。したがって当県の取り組みは、日本経済の活力と競争力を高めていくうえでのモデル・ケースということもできます。これまで申し上げてきたような全県を挙げての取り組みが続く中で、日本銀行の施策も一助となって、新たな需要や雇用の創出につながっていくような、前向きな動きが強まってくることを期待しています。

では、私からはこのくらいにさせて頂き、皆様との意見交換に移らせて頂きたいと存じます。ご清聴頂きまして、誠にありがとうございました。