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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営(包括緩和と成長基盤強化)

広島県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 西村 清彦
2010年10月20日

目次

1. はじめに

日本銀行の西村でございます。皆様には、日頃より、広島支店によるヒアリングやアンケート調査にご協力頂いており、これらは大いに活用させて頂いています。この場をお借りして、厚くお礼申し上げます。

本日は、皆様と意見交換をさせて頂くのに先立ち、国内外の経済動向をご説明した後、金融政策運営の考え方を、最近導入した「包括的な金融緩和政策」と「成長基盤強化を支援するための資金供給」を中心に、お話ししたいと思います。

2. 海外経済の動向

海外経済の成長ペースは、一頃に比べ、鈍化してきています。ここでは、海外経済のうち、わが国の経済・物価に特に大きな影響を与える米国と新興国の動向についてご説明します。

米国では、春先は政策効果の影響などで比較的堅調な回復が見込まれていましたが、8月に、GDPや雇用統計などの弱い経済指標の公表が続くと、先行き懸念が高まりました。9月入り後は、耐久財受注など、いくつか良い指標もみられ、緩やかな回復を続けているとの見方を私は維持しています。しかし春先の見方に比べて低成長が長引く蓋然性は高まったといえます。

米国では、家計部門が住宅ローンなどの債務を抱えているため消費を手控え、経済成長を下押ししています。このように、債務を返済し資産状況を健全にしていく過程は、「バランスシート調整」といわれ、「バブル」崩壊後に支出が持続的に下押しされる要因となります。この調整は日本の例をみても時間のかかるものであり、家計部門のバランスシート調整圧力が大きい米国経済の回復は、緩やかなものに止まると以前から考えてきました。ただ雇用者所得の伸びが高 まったり、住宅価格が上昇したりすれば、家計部門の債務返済に向けた余力が高まり、相対的には早めに調整されます。このため、米国の雇用と住宅に関する指標が特に注目される訳です。雇用関連の代表的な指標として失業率がありますが、これはリーマン・ショック後に10%程度まで急速に上昇した後、春先に若干改善しましたがその後再び上昇し、高止まったままです。また、住宅販売件数も住宅減税の効果で持ち直しましたが、4月末に減税の期限が切れたとたん大幅に 落ち込み、その後、低水準に止まっています。こうした中で、住宅価格は、大きく下落した後横ばい圏内の動きにとどまっています。このように雇用と住宅の情勢は思った以上に弱く、従って「バランスシート調整」には、これまでみていた以上に時間がかかる蓋然性が高まってきたと考えています。

新興国経済に目を転じますと、こちらも減速していますが、軽度の調整に止まっています。やや長い目でみれば、耐久消費財の普及や社会インフラの整備に向けて、潜在的な内需が旺盛であることから、高めの安定した成長を維持していく可能性は十分にあります。ただ、いくつかの新興国は、緩和的な政策を修正し経済の過熱を回避しようとしていますが、未だ過熱抑制策が十分でないとみられる国も多く資本の流入が続くもとで、成長ペースが加速していく過熱リスクが 残っています。他方、米国向けの輸出がかなりの規模であることから、場合によっては、米国経済の減速の影響を少なからず受ける可能性もあり、下振れ方向にも注意が必要です。

3. わが国の経済・物価情勢

わが国経済は、最近まで、回復に向けた動きを続けてきました。この夏も、猛暑効果を受けてエアコンや飲料の販売が好調であったほか、エコカー補助金の終了前の駆け込みも極めて大きく経済活動を底上げしました。もっとも、欧州周辺国財政問題や米国経済を中心に不確実性が高い状況が続く中、グローバル投資家のリスク回避姿勢が強まり、相対的に安全な通貨とみられている円への需要が増加することで、円高が進んできました。加えて海外経済の減速もあり、輸出 の伸びは足もとかなり緩やかになっています。このように、景気を牽引してきた輸出が弱めの動きとなっていることなどを踏まえると、わが国の景気は、緩やかに回復しつつあるものの、改善の動きが弱まっていると評価するのが適当だと考えています。

先行きについては、今月末の金融政策決定会合の後に公表される展望レポートの中で詳しく点検することになりますが、7月の中間評価で示した見通しと比べると、成長率は幾分下振れて推移していく可能性が高いと考えています。今年度中は、海外経済の減速に加え、エコカー補助金終了前の駆け込みの反動といった要因もあり、景気改善テンポが鈍化した状況がしばらく続くと予想されます。このところの円高が、企業マインドを悪化させている点も、景気を下押しする大きな要因です。先日公表されました9月短観でみても、業況判断DIは、3か月前と比べて大きく改善したものの、今後3か月で再び大きく悪化していくことになっており、企業の先行きに対する見方が円高などを受けて慎重になっている様子が窺われます。ただし、少し長い目でみえれば、潜在成長力の高い新興国経済が軽度の調整から脱することなどを受け、緩やかな回復経路に復していくとみています。

こうした見通しを巡るリスクはいくつもありますが、既にご説明しましたたように米国を中心とする海外経済の動きからは目が離せません。このほか、わが国固有の重要なリスクとして、今後の自動車販売の動きがあり、その不確実性は極めて大きいと考えています。8月から9月の初めにかけて、エコカー補助金の終了に向けた駆け込みは非常に大きなものでした。このことは、消費者が価格に敏感になっていることを示唆しているかもしれません。補助金が終了した後し ばらくの間、反動で販売が大きく落ち込むのは予想されていたことですが、その後どの程度のペースで持ち直していくかは、わが国における潜在的な需要の強さを示唆するため、極めて重要です。さらにいえば、自動車産業は、裾野が広く、多くの中小企業の経営にも影響を及ぼすため、こうした観点からも、しっかりみていきたいと考えています。

物価面をみますと、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比の下落幅は、縮小傾向を維持しています。もっとも、先行きについては、景気の下振れなど実体経済活動の動きが物価面に影響を与える可能性に、留意が必要です。また、為替円高が、実体経済の悪化を通じる経路だけでなく、輸入物価の変化も通じて、消費者物価を下押しするリスクもあります1。以上を踏まえますと、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復する時期は、従来の想定と比べ後ずれする可能性が高まっています。

  • 1 消費者物価指数については、やや技術的ではありますが、基準改定の影響にも留意する必要があります。2005年から2010年への基準年の変更 は、来年夏に行われる予定です。一般に、消費者物価指数の前年比は、基準年から先に進むほど実勢よりも強めに算出されやすく、こうした統計上の歪みは、基準改定の際に修正される傾向があります。つまり、来年の基準改定で、消費者物価指数の前年比が下方に改定される可能性が高いということです。その改定幅を現段階で見積もるのは難しいのですが、後から振り返ってみると、消費者物価指数の下落幅は、思っていたよりも大きかったというようなことが起こる可能性は考慮しておく必要があります。

4. 包括的な金融緩和政策

「物価安定のもとでの持続的成長経路に復する時期が後ずれする可能性が高まっている」という現在の状況では金融緩和を一段と強力に推進することが必要です。こうした判断のもと、日本銀行は、今月の4、5日に行われた政策委員会・金融政策決定会合において、以下の3つの措置からなる「包括的な金融緩和政策」、略して「包括緩和」を実施することとしました。

第1の措置は、金利誘導目標の変更です。日本銀行は、銀行間で翌日まで一晩だけ資金を貸し借りする市場での金利、これを翌日物金利といいますが、この金利を予め定めた目標に誘導することを、最も基本的な政策としています。先日の決定会合では、この翌日物金利の誘導目標を、それまでの「0.1%前後」から「0〜0.1%程度」に変更しました。日本銀行は、これまでも実質的にゼロといえる極めて低い金利水準を維持していると申し上げてきましたが、今回、金利誘導目標の変更を行ない、実質ゼロ金利政策であることを、より明確に示すこととしました。今後、後でお話しする資産買入などを通じて一層潤沢な資金供給を行えば、翌日物金利に強い下押し圧力がかかるため、0.1%前後に維持しようとすると、金融調節の柔軟性が失われることも想定されました。このことも、翌日物金利の下方への変動を許容した理由です。

第2の措置は、実質ゼロ金利を継続する条件を明確化したことです。日本銀行は、物価が安定していると判断する基準について、消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心と考えていることを示しています。日本銀行では、この基準を、「中長期的な物価安定の理解」と呼んでいます。先日の決定会合では、中長期的にみてこの物価上昇率が見通せる状況になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続することを確認しました。

ここで強調させて頂きたいことは、日本銀行は、足もとの物価上昇率ではなく、先行きに想定される物価上昇率の動きが、「中長期的な物価安定の理解」と整合的かを判断基準としているということです2。 長い目でみて物価安定を実現していくためには、金融政策の効果の浸透には時間がかかる事を考えれば、足もとの短期的な物価上昇率だけでなく、先行きの物価上昇率がどのように推移していくかを予測し、それと「中長期的な物価安定の理解」との整合性を考えていく必要があります。さらには、今回の世界的な信用バブルの生成・崩壊において、金融面での不均衡の蓄積といった重大なリスクが見過ごされた結果、長い目でみた経済・物価の安定が損なわれた経験から学ぶことも大事です。つまり、足もとの物価が安定していることに安心し、「バブル」のような金融面の不均衡の蓄積を見過ごすことがあれば、「バブル」崩壊後に再び持続的な物価下落に直面するといった可能性もあります。今回の時間軸の明確化においても、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを、実質ゼロ金利政策を継続する条件としています。

第3の措置として、資産買入等のための基金の創設を具体的に検討することにしました。基金はファンドともいいますが、今回の基金は、国債、CP、社債のほか、ETF(指数連動型上場投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)といった多様な金融資産を買入れることなどを目的としています。これについては少し丁寧に説明したいと思います。

企業を例にとると、資金調達をする場合、国債のような安全な資産の金利よりも高い金利を払うのが一般的です。これは、資金の出し手が、企業の貸し倒れリスクなどに見合う金利の上乗せ分を要求するためです。安全な資産の金利はリスクフリー金利、追加的に上乗せされる部分はリスク・プレミアムと呼ばれています。こうした金利の上乗せ分は、貸し倒れの確率に見合う分に加え、資金の出し手がどれだけリスクを避けたいか、そのリスク回避の程度にも依存します。 経済の先行きに強い不安があり、リスクを避けたいという程度が大きいほど、この追加上乗せ分が大きくなります。

今回の措置は、短期金利の低下余地が限界的となっている状況を踏まえ、金融緩和を一段と強力に推進するために、長めのリスクフリー金利の低下に加え、リスク資産のリスク・プレミアムの縮小を促していくものです3。 これまでも、3か月物や6か月物の資金を0.1%という低金利で貸し出す固定金利オペという手段を活用し、やや長めのリスクフリー金利の低下を促してきましたが、今回は、残存期間1〜2年程度の長期国債や社債を買入れることで、さらに長めの金利の引き下げを促すことにしました。また、リスク・プレミアムを縮小させるため、ETFやJ-REITの購入も検討することにしました。日本銀行にとって初めての試みですが、リスクをとって買入れることにより、株式や不動産のリスク・プレミアムを縮小させる方向に作用することが期待できます4

こうした資産の買入れは、中央銀行にとって異例の措置であり、特に、リスク・プレミアムの縮小を促すための金融資産の買入れは、異例性が強いものです。リスクフリー金利は、既にかなりの低水準となっており、その下げ余地は、長めの部分に残されているとはいえ、そう大きくはない状況です。それにもかかわらず、企業などの資金調達は活発化していません。このため、日本銀行は、リスク・プレミアムの縮小も促すことで、金融面から企業などの前向きな行動を一 層支援していくことが適当と判断した次第です。

資産の買入れは、国民負担の観点からも慎重に検討しなければなりません。仮に買入れた資産が値下がりすれば、それに伴う損失は日本銀行が負うことになります。日本銀行は通貨を発行することで得られる利益を国庫に納付しておりますので、日本銀行で損失が発生しますと、国庫が得られるはずであった納付金が得られなくなるという意味で、結局は国民の負担となります。日本銀行が財務の健全性を重視しこうしたリスクをとる政策に慎重なのは、国民の負担が発生し うるリスクをとるような政策は、慎重を期すのが当然だという思いがあるからです。それでも、先ほど申し上げたような先行きの経済・物価情勢に加え、短期金利の低下余地が限界的となっている状況を踏まえると、日本銀行が一定のリスクをとっていくことが適当であると判断した次第です。こうした考えのもと、本措置が異例かつ一時的なものであることを明確にするために、日本銀行のバランスシート上に新たに基金を創設し、他の目的のために保有している資産と分別して管理することにしました。なお、先ほど申し上げた0.1%という低金利で期間3か月ないし6か月の資金を金融機関に貸し出すという固定金利オペは、長めの市場金利の低下という同じ目的をもつため、資産買入とともに基金において管理することが適当と判断しました。基金の規模は、買入資産分の5兆円程度に、固定金利オペの30兆円程度を合わせ、35兆円程度とすることを軸に検討しています。

  • 2 これは、予測、英語でいえばフォーキャストですが、これが目標値に達するかどうかを判断基準とする「フォーキャスト・ターゲッティング」と呼ばれる考え方に近いといえます。
  • 3 経済の先行きに強い不安(いわゆるフランク・ナイト流の不確実性)があるとき、先行きにリスクが大きいとみられる資産(例えば株式や不動産)に対して、過度にリスク回避の傾向が強まり需要が減少し、そのリスク・プレミアムが高止まる傾向があります(他方先行きリスクが小さいと認められた資産に需要 が集中し当該資産のリスク・プレミアムが「潰れる」ことも同時に起こりえます)。こうした場合には、中央銀行が自らリスク資産を買い取ることでこうした過度のリスク回避傾向を和らげる呼び水の役割を果たすことに繋がる可能性が考えられます。以下をご参照ください。Nishimura, K. G., and H. Ozaki, “Irreversible Investment and Knightian Uncertainty,” Journal of Economic Theory, 136 (2007), 668-694.
  • 4 日本銀行がETFとJ-REITを買入れるには、政府の認可が必要であり、今後申請していく予定です。

5. 成長基盤強化を支援するための資金供給

ここまでお話しした「包括緩和」は、先行き需要の落ち込みが心配されるものの、ある程度の期間を経れば需要が戻ってくると期待できる場合に、強力な金融緩和によって、その戻りを後押ししたり、需要を下支えしたりする政策と位置付けることができます。

もっとも、わが国経済が直面している課題は、こうした一時的な需要の落ち込みだけではありません。一時的な需要の落ち込みが解消した後でも残る趨勢的な成長率の低下にどう対応するかという課題に直面しています。つまり、持続的に経済を底上げさせていくことが、重要な課題だといえます。リーマン・ショック後の動向を例にとると、在庫調整などに伴う急速かつ一時的な需要の落ち込みの分は、時間が経つにつれて持ち直してきました。もっとも、リーマン・ ショック以前の米国発「信用バブル」の中で高水準にあった自動車などへの世界的需要は、簡単に戻ってくるものではありません。信用バブルが崩壊した後の世界で、以前と同じ水準まで戻り、さらに発展していくためには、製品開発や販売網構築で一層工夫するなど、成長のための地力を蓄えていくしかありません。こうした問題意識のもと、日本銀行は、「成長基盤強化を支援するための資金供給」を導入しました。ここからは、本措置を導入した背景に関する私自身の考え方をご説明させて頂きます。

まずは、わが国経済を取り巻く環境の変化について確認したいと思います。わが国では、長期に亘って少子高齢化が進展しています。一方、海外では、アジアを中心に新興国が高い経済成長を続けています。こうしたことから、需要の中心は、これまでの若中年層から高齢層、先進国から新興国へと移ってきており、このような新たな需要を満たす製品・サービスの供給体制を構築していくことが求められるようになっています。こうした需要の変化の例として、ヒット商 品の歴史をみると、かつて3Cと呼ばれたカラーテレビ、クーラー、乗用車(カー)では、主な購買層は若い夫婦で、比較的均質な大衆層でした。これに対し最近では、高齢者が好むカロリーの低い食品や、足腰の弱い高齢者のために買い物した商品を代理で配送するサービスなどが需要を伸ばし、購買層が多様化しています。

情報通信技術の発展も、大きな環境変化を及ぼしています。例えば、農業などの従来型の産業においても、消費者にインターネットを介して直接情報を提供し、商品を発送できるようになりました。こうした情報通信技術を活用し、多品種少量型のニッチな多様化した需要に素早く対応する供給体制を構築することで、新たな需要を開拓しなければならなくなってきています。

このように環境が変化する中で、わが国の企業は、新しいタイプの需要の取り込みに向けた供給体制の変革に取り組んできていますが、さらなる変革の余地もまだまだ大きいように思います。このため、こうした新しい需要に限ってみれば、潜在的な需要に供給体制が追いついていません。一方、供給体制の移行が十分に進んでいないが故に、古いタイプの需要に対しては、大きな供給力が残っています。このため、古いタイプの需要に関する需給ギャップは、供給超過と なっており、企業は製品・サービスの価格を引き下げざるを得なくなっています。このように、新たな需要に対応した供給体制への移行が十分に進んでいないことが、日本が陥っているデフレと呼ばれる現象の大きな要因になっていると考えられます。

供給体制の移行を進めていくには、企業の果たす役割が大きいことは言うまでもありません。また、金融機関におかれても、新たなリスクを管理する能力を高め、供給体制の移行を進める企業への資金供給を増やしていってほしいと期待しています。政策当局も、企業や金融機関の革新的な経済活動を促す環境を整備するため、それぞれの立場で役割を果たすことが必要です。当局の政策が何らかの契機となることで、供給体制を変革しようとする企業への資金供給がいった ん増えれば、金融機関においてノウハウが蓄積され、リスク管理能力が高まって、さらに資金を供給できるようになるといった好循環も期待されます。関連した例を挙げますと、米国では、企業の育成において、ベンチャー・キャピタルが重要な役割を果たしていますが、その投資が拡大した契機は、企業年金基金によるベンチャー・キャピタル・ファンドなどへの投資制限を緩和する法改正であったと言われています。こうして流入した投資資金を運用する過程でノウハウが蓄積されたことが、ファンドの利回りを高め、さらに投資資金を呼び込むといった好循環に繋がっていったと考えられます。

日本銀行の「成長基盤強化の支援プログラム」は、供給体制を移行していくうえでの契機になりうると私は考えています。「成長基盤強化の支援プログラム」は、政策金利の操作を通じた伝統的な金融政策と異なるだけではなく、非伝統的政策と呼ばれるものの中でも、まったく新しい独自の政策です。このため、「中央銀行が手がけるべき政策ではない」とのご意見も、導入当初を中心に多く頂きました。もっとも、私は、この政策によって供給体制の移行が進み、企業が 新しい需要を獲得していくことができるようになれば、デフレ脱却にも貢献するため、日本銀行法に謳われた「物価安定を通じて国民経済の健全な発展に資する」という金融政策の使命にも合致すると考えています。また、金融機関が新たな分野に資金を供給するノウハウを蓄積し、営業基盤を拡大していくことは、国民経済の健全な発展に資するのみならず、金融機関の収益力が高まり、経営体力が強化されることで、日本銀行のもう一つの使命である「金融システムの安定」 にも貢献すると考えています。

「成長基盤強化の支援プログラム」の設計に当たっては、金融機関が自らの判断で行う多種多様な取り組みをできるだけ幅広く後押しすることを心がけました。こうしたことから、多くの金融機関が参加できるようにしたほか、分野と取り組み方針については、金融機関が自主的に考えていくことを妨げないように、極力柔軟な仕組みとなるよう配慮しました。また、革新的な分野を切り開くためには時間が必要との考えと、できるだけ早く利用してもらうためには期限も 必要との考えのバランスをとって、貸付期間を最大4年と設定しました。

9月6日に実施した第1回目の資金供給に参加した47先の顔ぶれをみると、大手行、地域銀行、信用金庫など、幅広い業態に亘っており、地域という点でも拡がりがみられます。個別投融資の対象分野をみると、「環境・エネルギー」や「医療・介護・健康関連」などを中心に、日本銀行が例示した18分野にあまねく広がっているほか、例示分野以外でも、地場産業への取り組みなどが相当程度みられました。さらに、投融資の平均期間が8.2年にも及んでおり、革新 的な分野を切り開こうとしている企業を長く支えていこうという金融機関の姿勢が窺えます。このように、各金融機関の取り組みは、この措置の設計の意図に沿った深さ、広がりをみせており、たいへん心強く感じています。

6. おわりに

本日は、国内外の経済情勢に加え、今月導入することを決定した「包括的な金融緩和政策」と6月に導入した「成長基盤強化の支援」を中心に、ご説明してきました。日本銀行は、今後とも、先行きの経済・物価動向を注意深く点検したうえで、中央銀行として、適切に政策対応を行っていく方針です。

わが国経済の重要課題である供給体制の変革のためには、政策当局もさることながら、企業や金融機関の役割が大きいことは、先ほど申し上げたとおりです。この課題を克服していくためには、新興国の台頭といった環境変化に伴って生じている新たな需要に対応していくほか、潜在的な需要を掘り起こす新たなビジネスを育成していく必要があります。

この点、広島県では、自動車、機械、鉄鋼といった製造業が、アジア向け輸出などに積極的に取り組まれ、その強みを発揮しています。また、非製造業も含め、当地で発祥して全国展開するまで成長した企業も少なくなく、新たなビジネスを育成する土壌が備わっていると思います。当地は、アジアに近い地理的条件、2つの世界遺産や豊かな自然といった観光資源、国際都市としての抜群の知名度、大学進学率全国4位という高い教育水準など、成長に必要な様々な要素が 整っており、大きな底力を持っています。

金融面に目を転じると、当地の金融機関は、アジア向けビジネスを強化する企業を支援する体制を整えるなど、前向きな取り組みを進めておられます。また、日本銀行が導入した「成長基盤強化を支援するための資金供給」にも、複数の金融機関が参加され、これを契機に長期の貸出を可能とする新たな融資手法の拡充に取り組んでおられます。

今後とも皆様が成長に向けてご尽力され、当地経済の底力が一層発揮されることを期待しております。ご清聴ありがとうございました。