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【挨拶】わが国の金融政策と経済・物価情勢

福島県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 中村 清次
2010年11月25日

目次

1. はじめに

私は日本銀行政策委員会審議委員の中村と申します。本日は、お忙しい中、福島県の行政ならびに経済界を代表される皆様方にお集まり頂き、懇談の機会を賜り、誠に光栄に存じます。

日頃は、支店長の豊田をはじめ日本銀行福島支店が大変お世話になっており、この場を借りまして厚く御礼申し上げます。政策委員会審議委員と云いましても、馴染が薄いかと存じますが、事業会社の取締役に相当すると、ご理解頂ければと思います。政策委員会は、金融政策の運営に関する事項を決定すると共に、日本銀行の運営方針を決定し、執行状況を監督する日本銀行の最高意思決定機関です。総裁、副総裁2名と、審議委員6名の9名で構成されています。

本日は、内外経済情勢、日本経済の課題、金融政策運営、最後に福島県経済に関しお話をさせて頂きます。私の話は、日本経済をマクロ的に鳥瞰した話が中心となりますので、皆様が日々の経済活動を通じて認識しておられる景況感とは異なる点もあるかと存じます。経済の実態につきましては、地域、業種、企業規模等により、大きく異なりますので、概括的には中々語れないことも事実です。私も3年半前までは、海運業の経営に携わっておりましたので、この点につき ましては、認識しているつもりです。日本銀行では44か所の国内の支店や事務所を通じての調査や個別ヒヤリングからの情報と共に、本日のように行政や企業のトップの方々から、地域の経済情勢や日本銀行に対するご意見などをお伺いし、多様な実体経済の把握に努め、政策決定に反映させることといたしておりますので、皆様のご理解を頂ければと存じます。

2. 「展望レポート」における経済・物価情勢の評価とリスク要因

(1)「展望レポート」の概要

日本銀行では、毎月の金融政策決定会合で経済・物価情勢を検討すると共に、毎年4月と10月の年2回、「経済・物価情勢の展望」——通称「展望レポート」と呼びます——にて、経済・物価情勢に関する先行き2年程度の見通しを公表しています。また、そこで示した見通しについて、上振れまたは下振れが生じていないかを、3か月後の金融政策決定会合において、点検しています。

わが国経済は、緩やかに回復しつつあるものの、改善の動きに一服感がみられます。本年10月末に発表した「展望レポート」では、2010年度後半は、海外経済の減速や耐久消費財への政策効果の反動要因に加え、為替円高の影響もあり、景気改善テンポが鈍化する可能性が高いとみています。一方、2011年度入り後は、円高の影響は残りますが、海外経済の成長が再び高まることなどから、輸出が増加を続けるほか、企業収益が改善していくもとで、設備や雇用の過剰感も徐々に解消していくため、わが国経済は緩やかな回復経路に復していくと考えています。2012年度は、新興国、資源国を中心に海外経済が高めの成長を続けるもとで、輸出・生産から所得・支出への波及メカニズムが強まり、潜在成長率を上回る成長が続くと見通しています。

なお、参考数値としての、各政策委員9名の実質GDP成長率見通しの中央値は、2010年度が+2.1%、2011年度が+1.8%、2012年度が+2.1%ですが、7月時点の見通しとの比較では、2010年度については▲0.5%、2011年度については▲0.1%の下方修正となっています。物価動向(消費者物価除く生鮮食品)については、景気が緩やかに持ち直す下での需給ギャップの改善や、新興国・資源国経済が高めの成長を続けることなどを背景とした国際市況の上昇もあって、緩やかに上昇していくことを想定しています。なおこの間、最近の為替円高は、輸入物価の上昇抑制を通じて、当面、国内の物価の下押し要因として作用すると考えられることには留意が必要です。こうした中、年度平均でみますと、2010年度は▲0.4%、2011年度は+0.1%、2012年度は+0.6%の伸び率になると考えられます。

このような経済・物価の見通しに対する、上振れまたは下振れ要因として、次のような点に注意が必要です。

(i) 新興国・資源国については、旺盛な内需や、先進国における金融緩和の長期化を背景としたリスクマネーの流入が続くことにより、これまで既に高めの成長がさらにペースを増す場合には、わが国経済にとっても上振れ要因となります。ただし、その場合には、その後の巻き戻しに伴って金融や実体経済の調整の必要性が大きくなる分、長い目でみればわが国経済にとっても下振れ要因となる可能性もあります。

(ii) 欧米先進国経済については、全体として、不確実性が高い状態が続いており、下押しリスクがより大きいとみています。米国経済については、雇用情勢の回復ペースが緩やかなものに止まることが想定されるほか、家計を中心にバランスシート調整という重石を抱えています。このため、自律的な好循環のメカニズムは、働きにくい状態が続くものと思われます。欧州経済についても、2011年入り後、財政再建策の実施に伴い、財政による景気下支え効果が後退する可 能性が懸念されるほか、欧州周辺国国債の信用リスク問題に関し、長期金利の上昇やセンチメントの悪化を通じた実体経済への影響が懸念されます。

(iii) 一方、国内に目を向けると、海外経済の不確実性が今後さらに高まり、為替円高や株価が不安定化した場合には、わが国企業の中長期的な成長期待や、家計のマインドを悪化させ、ひいては、実体経済を下振れさせる可能性が懸念されます。

(iv) 物価面の固有なリスク要因としては、特に、新興国・資源国経済の好調さやリスクマネーの過度の流入に伴い、国際市況が上昇することで、輸入物価の変化を通じて消費者物価指数が上振れることが考えられます。

やや詳しくみますと、以下の通りです。

(2)海外経済

まず、海外経済については、先進国経済が緩やかな回復を続けているほか、一頃に比べ幾分減速しつつあるとはいえ、依然高めの成長を続けている新興国・資源国経済が牽引するかたちで、全体としても緩やかな回復基調が続いています。IMFは、本年10月、2010年の世界の経済成長見通しを本年7月時点の見通しよりも0.2%上方修正し、+4.8%としました。2011年についても、+4.2%と、高めの成長を続けるとの見通しを示しています。

今や世界経済の成長に対する寄与率が7割に達し、メインエンジンとなっている中国をはじめとする新興国や資源国経済は、旺盛な内需に加え、海外からのリスクマネーの流入もあって、高めの成長を続けています。もっとも、各国当局による金融緩和策の修正の動きなどもあり、全体としては減速しつつあります。中国については、政府による不動産取引抑制策の導入などもあり、前年比+10%を超える成長をした本年前半と比べますと、鈍化していますが、7-9月 期の実質GDPは前年比+9.6%と、引き続き高めの伸びを維持しています。この間、10月の小売売上高も9か月続けて前年比+17%を上回る高い伸びとなり、自動車販売も好調を持続しています。一方では、10月の消費者物価指数が+4.4%と、4か月連続で前年比プラス幅が拡大しており、中国人民銀行も、利上げや預金準備率の引き上げなどを行っています。こうした政策面での対応もあり、先行きについては、当面減速する可能性がありますが、生産・所得・支出の好循環の中で、全体としては、引き続き高い成長を続けるものとみています。

米国経済は、緩やかに回復しており、先行きについても引き続き緩やかな回復基調を辿ると思われます。7-9月期の実質GDP成長率(季節調整済み前期比年率換算)は+2.5%と、緩やかなペースで回復していることが確認できました。輸出や、GDPの7割を占める個人消費が底固く推移したことが主たる要因です。個人消費については、10月の新車販売台数が14か月振りに年率で1200万台超を回復するなど、明るいニュースも散見されます。もっとも、住宅市場は、価格、販売、在庫調整が捗々しくなく、低迷しています。FRBのバーナンキ議長は、10月末に行った講演で、「現在、米国の住宅ローンの債務者のうち、20%以上は債務超過、33%の債務者は、資産を売却し借入金を返済すると、手元には資産の10%以下しか残らない」状態にあると述べています が、家計のバランスシート調整の深刻さが窺われます。ちなみに、雇用情勢も、失業率が9.6%と高止まりしているほか、物価水準も、個人消費支出デフレーター(PCEデフレーター)は、1%程度で推移しています。

FRBは、11月3日の政策決定会合において、2011年6月末までに、6千億米ドルの米国債を追加購入するという、金融緩和策を発表しました。わが国の経験では、バランスシート調整が残る中での金融緩和が、実体経済を浮揚させる力は限定的でした。今回のFRBの政策の効果がどのように発揮されるのかについては、今後の帰趨を見守る必要があります。

欧州では、低成長の周辺国に対して、堅調な独、仏という構図の中で、ばらつきを伴いながらも、緩やかに回復しています。先日発表された7-9月期の実質GDP成長率は、ユーロ圏全体で前年比+1.9%と緩やかな回復を続けていることが確認されました。先行きについては、ギリシャやアイルランド等域内周辺国国債の信用リスク問題が燻っていることや、ユーロ圏諸国の財政再建策に基づく緊縮財政が2011年以降実施されることなどから、全体として緩やかなペースの成長が続くと見ています。

(3)国内経済

わが国経済は、本年7-9月期の実質GDP(季節調整済み前期比年率)は+3.9%と、個人消費を中心に底固い動きとなりました。やや遡ってみますと、本年春頃までは、新興国・資源国の力強い成長を背景に輸出や生産が増加を続け、企業収益の改善もあり、個人消費の持ち直しが続いていました。その後、夏場にかけては、エコカー補助金の終了前の駆け込み需要や猛暑の影響などもあり、一時的に強めの動きを示しました。しかしながら、夏の終わり頃からは、こうした一時的な動きの剥落や、海外経済の減速等を背景とした輸出や生産の鈍化などから、わが国経済の改善の動きが弱まっています。また、国際金融市場では、米国経済を中心とした海外経済の先行きの不透明感が高まる中、避難通貨として円を選好する動きが強まり、1米ドル=80円近傍までの円高が進み、企業マインドの下振れを通じた実体経済への下押しリスクの懸念も強まりました。こうした中、日本銀行は、10月初め、機動的に「包括的な金融緩和政策」を決定しました。内容については、後ほど詳しくお話します。

この間、銀行による新規貸出約定平均金利は、既往の金融緩和措置を反映し、低下基調で推移しています。

賃金の動きをみると、所定外給与が前年比で増加しているほか、好調な企業業績を反映し特別給与も増加するなど、緩やかながら、改善の動きがみられます。この間、設備投資は、設備過剰感が残る中、これまで抑制されてきた更新投資案件の着手等もあり、持ち直しに転じつつあります。

先行きにつきましては、2010年度後半にかけて、個人消費が、耐久消費財に関する各種対策の効果や猛暑効果が剥落するため、一時的に弱い動きとなると思われます。輸出は、一時的に成長 ペースが鈍化している海外経済の動向や、これまでの為替円高の影響もあり、増加ペースが緩やかなものに止まるとみられるほか、生産も、暫くの間、弱い動きを続けるものと思われます。鍵となるのは、反動減で低調となっている自動車生産の回復時期ですが、2011年度の早い段階とみています。2011年度入り後以降、海外経済の成長率が新興国・資源国を中心に再び高まる中で、製造業では、輸出が増勢を取り戻すほか、生産も増加基調に復し、企業収益は回復を続けると考えられます。設備投資については、先々の輸出や生産の持ち直しに伴い、企業の設備過剰感が徐々に解消するとともに、持ち直し傾向が続くと見込まれます。非製造業についても、製造業の業績改善の影響が徐々に波及してきており、企業収益や設備投資は緩やかに持ち直していくと考えられます。個人消費も、これらに支えられる格好で、再び緩やかな持ち直し基調に復するとみています。

3. 日本経済の課題

内外経済の見通しについて述べてまいりましたが、日本経済の課題につき、若干お話したいと思います。わが国経済は少子高齢化、低い経済成長率やデフレが長期間に亘って継続していること、巨額の財政赤字と言った課題を抱えています。

わが国のGDP規模は、1968年には西独を抜いて世界第2位となりましたが、2010年中には中国に追い越される可能性があり、42年間維持してきた世界第2位の座を中国に明け渡すこととなりそうです。振り返ってみますと、1960年代には、年平均の成長率が10%を超える驚異的な高成長を遂げ、1970〜80年でも4%台の安定成長を維持し、日本的経営手法が高い評価を受けたこともありました。しかし、1990年代以降は、押しなべて年平均1%を少し超える程度の低成長が続いており、その間に国債発行残高が急増しました。1990年代以降の成長率の大幅低下には、バブルの崩壊や金融システムの機能不全という要因もありましたが、これらに加え、日本経済を取り巻く環境の構造的な変化があったと考えられます。

それらは、国内においては少子高齢化の進行であり、国際的には、1989年のベルリンの壁崩壊に端を発した冷戦構造の終結に伴う、市場経済への参加国の急増とグローバル競争の激化と思われます。また、市場経済規模の急拡大は、情報・通信技術の進歩や新興国への潤沢な資金流入とも相まって、新興国の工業化の急速なキャッチ・アップ、並びに、新興国市場の需要拡大に繋がりました。

この間、上述のようなグローバルな経済環境の変化の中で、わが国は、バブル崩壊後の調整に多くの資源を割かねばならなかったこともあり、前向きな投資を伴う、構造改革や新興国の需要の取り込みなど、環境の変化への対応に遅れを取った面があったとも考えられます。個別企業は、バブル崩壊以降、1995年の円高をも乗り越えて、多岐に亘る経営改革や構造転換に意欲的に取組み、グローバル戦略を展開し、一時期は克服できたと考えられる局面もありました。しかしながら、世界経済の環境変化は、そうしたわが国企業の改革を上回るペースで進んでおり、改革の効果が限定的となっている企業も少なくないようです。

こうした中、わが国の課題として、以下の3点を指摘したいと思います。

(1)少子高齢化

わが国の人口は、2005年に初めて人口減少を記録しました。一方、生産年齢人口(年齢15歳以上65歳未満の人口)は、少子高齢化の影響から、一足先に、1995年の8,700万人強をピークに減少に転じています。生産年齢人口は、2010年までの15年間では、北海道の人口を上回る588万人の減少となりました。その間に総人口は161万人増え、高齢化が一段と進行しています。先行きについても、国立社会保障・人口問題研究所の2006年の推計によれば、生産年齢人口は、21世紀の半ばまでは、総人口の減少ペースを上回るペースで減少することが予想されており、一定の仮定のもとで、2055年には、現在の半分程度の4,595万人になっているとの予測が示されています。こうしたことは、労働力率や労働生産性が高まらない場合、経済成長率を引き下げる方向に作用し、また、潜在成長率を押し下げる可能性は否定できません。

生産年齢人口の減少は、労働供給側から、経済成長率の抑制要因となるだけではなく、給与所得を得ている消費者の減少という需要側の顔も持っています。こうした生産年齢人口の減少は、国内需要を減退させる方向に作用する可能性があります。

なお、年齢別労働力率は、男性で、25歳から59歳までが90%を超えている一方、65歳以上では約3割に止まっています。また、女性では、20歳から55歳までが7割となっていますが、より細かくみますと、30歳台が65%前後と、この階層の落ち込みが目立ちます。生産年齢人口の減少に対しては、多岐にわたる施策により、男女共にシニア層、女性の場合には、まずは、子育て世代の30歳台の「へこみ」を浅くし、全体についても労働力率を高めていく工夫が重要です。

この間、高齢人口の増大は、高齢者を支える医療・介護の分野の潜在需要拡大となります。また、高齢化の進行は、高齢者層が新たな消費者グループとして現れていることを示しています。ただし、このグループは、ニーズの多様化から、必ずしも予見可能性の高い消費行動をとるグループではないことが特徴とも言われており、こうした消費者層をターゲットにした潜在的な需要の掘り起こしには、これまで以上に工夫と適切な対応が必要です。

(2)新興国市場の開拓

IMFによれば、現在の世界のGDPに占める新興国・資源国の割合は5割程度ですが、成長率に対する寄与率は7割程度にもなります。このように成長率の高さを考えると、従来の欧米市場への生産拠点としてではなく、需要市場としての新興国の市場規模の拡大は想像を超えるものがあります。少子高齢化の進展に伴ない、需要減退が懸念されるわが国経済の成長には、国内のサービス産業を含め、この市場を如何に取り込めるかが、最重要課題といえます。

経済産業省の「通商白書2010」によれば、アジアの潜在成長力については、向こう10年程度の間に拡大することが予想されている、中間所得層(世帯可処分所得が5千米ドル以上3万5千米ドル未満)に注目が集まっています。

アジア諸国における中間層は、2000年時点では、2億人程度でしたが、経済成長に伴う所得水準の向上を反映し、2010年には日・米・ユーロ圏の総人口を上回る規模の10億人弱にまで増加していると言われています。さらに、2020年には、現在の倍に達すると言われており、富裕層(世帯可処分所得3万5千米ドル以上)をあわせると、22億人を超える巨大な市場に成長することが予想されています。

例えば、中国について、耐久消費財の普及率をみると、カラーテレビ、冷蔵庫、洗濯機などについては、都市部を中心にかなり普及が進んでいるようですが、日本に比べれば依然低いですし、地方ではさらに低くなっています。また、パソコンなどに関しては、都市部であっても低い普及率に止まっています。この間、自家用車は、都市家庭100世帯に10.9台と、わが国での普及率の約8分の1と、一人あたりGDP格差と同水準です。従って、現在の中国は、モータ リゼーション前夜ともいえ、今後の市場のさらなる拡大が期待されます。

また、非製造業についても、日本のきめ細かなサービスは新興国でも高い評価を受けており、既に多くの企業が進出していますが、生活水準の向上と共に、市場拡大が想定されます。一方、箱根などでも、増えているのは主としてアジアからの観光客とも言われていますが、国内産業にとっても、さまざまな付加価値を付けた観光客の呼び込み等、海外市場の取り込む余地も多々あると思われます。

(3)マインドの問題

最近、「失われた20年」との言葉がしばしば聞かれますが、長期に亘って低成長が続いたため、先行きに対する自信が揺らいできており、企業価値向上に取り組む経営者のマインドや、国民の上昇志向が抑制的となっている可能性があります。日本青少年研究所が2007年に実施した、日本を始めとした4か国の高校生を対象とした「意欲に関する調査」でも、現在の日本人の内向きの姿勢が読み取れます。「偉くなりたいか」の設問には米国で66.1%,中国で85.8%,韓国で72.3%が肯定に対し、日本では44.1%に留まっています。また、「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしていきたい」との設問には、「とてもそう思う」との回答は、米国13.8%,中国17.8%,韓国21.6%に対し、日本は42.9%と際立っています。企業でも、昇進や海外勤務を断る社員が増えているとの話が聞かれますが、こうした調査結果と整合性があるようにもみえます。今後、ますますグローバル化が進展する市場経済の下では、向上心が強く、意欲溢れる外国人と向き合えるような、人材を育成していかなければ、経済発展は望めません。

わが国は、戦後の荒廃から立ち上がり、環境汚染問題、2度の石油ショックやプラザ合意以降の急激な円高、更には、バブルの崩壊や金融危機も乗り越え、時として困難を克服できたことが、次の飛躍にも繋がりました。わが国は、発展著しいアジアの巨大な新興国市場に隣接しており、環境対応等優れた技術力を有しています。また、少子高齢化問題は先進国のみならず、中国等を含めた世界の共通課題であり、わが国が試練を乗り越えることができれば、この問題の世 界の先駆者ともなれるのです。政府も、多岐の分野に及ぶ新成長戦略を打ち出しました。潜在成長率や生産性の引き上げを目指して、さまざまな経済主体が、それぞれの持ち場において、過去のしがらみや既得権にとらわれることなく、現実を直視して、困難を切り拓く勇気を持てば、日本再生に向けての道は厳しくとも、拓けると思います。

4. 金融政策運営

2008年秋のリーマン・ショック以降、本行は、政策金利である無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標を、0.5%前後から0.1%前後に引き下げたほか、年間の長期国債買入額の14.4兆円から21.6兆円への増額等潤沢な資金の供給を続けるなど、積極的な金融緩和策を実行してきました。先にも述べましたとおり、グローバルな競争環境の変化の中で、日本経済がデフレから脱却し、物価安定の下での持続的成長経路に復するために、次に述べますような新たな施策を導入すると共に、中央銀行として、今後とも、先行きの経済・物価動向を見極めながら、必要に応じて、適切に政策対応を行っていく方針です。

(1)成長基盤強化を支援するための資金供給について

日本経済が直面している重要な課題は、潜在成長率や生産性を引き上げていくことです。そのために必要な、新たな成長分野の開拓は、本来、民間企業が、自らの生き残りと成長のために自主的に取り組むべきものです。ただ、このような成長力の低迷がデフレの根源的な背景の一つともなっている点を踏まえると、日本銀行としても、日本経済の将来の成長基盤の強化を金融面から支援することが、中央銀行の機能の有効な活用方法と考えた次第です。本制度が「呼び 水」となって、民間による自主的な活動を側面から支援することが期待されます。

こうした考え方の下、本行は、本年6月、民間金融機関による成長基盤強化に向けた融資・投資の取り組みに対して、長期かつ低利の資金を供給する「成長基盤強化を支援するための資金供給」の導入を決定いたしました。これは、幅広く成長基盤強化に繋がる分野への融資・投資に対して、最長4年にわたって、政策金利並みの低金利で、金融機関に対して資金を貸し付ける制度です。第1回目の資金供給は、本年9月、総額4625億円が47の金融機関に対して実行されましたが、対象となった投融資の1件当りの金額は3.6億円、平均期間は8.2年となっています。融資・投資実績の対象は、環境・エネルギー、社会インフラ整備・高度化、医療・介護・健康関連、地域再生・都市再生事業など、幅広い分野となりました。近く、2回目の資金供給が実施されますが、約140先と、多くの金融機関より本制度の利用申し入れがあり、金融機関からは、当該制度の利用を念頭に、自ら積極的に潜在需要の掘り起こしを手掛けているとの話も聞かれております。成長分野開拓という所期の目的に沿った、まずまずの滑り出しと考えています。

(2)包括的な金融緩和政策について

10月初め、一層の金融緩和を進めるために、以下に述べます、「包括的な金融緩和政策」の導入を決定致しました。短期金利の低下余地は極めて限定的となっている状況を踏まえ、複数の政策手段の組み合わせによる、長めの市場金利の低下と、各種市場のリスク・プレミアム縮小を促すと言う、中央銀行の政策としては、異例の措置を内容としています。

第一は、実質ゼロ金利政策の明確化です。

政策金利である無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標を0.1%から「0〜0.1%程度」のレンジに変更し、実質ゼロ金利政策であることを明確にしました。一方、文字通りのゼロ%にしますと、民間金融機関が資金を放出するメリットが無くなり、短期金融市場への資金の流入が滞り、却って資金の巡りが悪くなるリスクがあります。このため、0.1%以下の範囲内での変動を許容することとしたものです。米国のFRBが、政策金利であるFF金利の誘導目標を0〜0.25%のレンジとしているのも同様の趣旨に基づくものといえます。

第二は、実質ゼロ金利政策の継続期間へのコミットです。

「中長期的な物価安定の理解」(現在の委員の大勢は1%程度を中心と考えています)に基づき、物価の安定が展望できると判断するまでは、実質ゼロ金利政策を継続するという形で、先行きの政策運営についてコミットしたものです。これは、企業活動や個人消費の活性化を促すと共に、人々の中長期的な予想物価上昇率を安定化させる効果も狙ったものです。一方では、金融が著しく緩和された状態が長く続くことは、資産バブルなどのマイナス面を惹起させるリスクを伴います。従って、資産価格の大幅な上昇や過剰な債務等の金融面での不均衡が蓄積されていないかを点検し、問題が生じていないことを、実質ゼロ金利を継続するための条件としています。

第三に、「資産買入等の基金」の創設です。

既に述べました通り、金融政策によって金融緩和効果をさらに発揮しようとすると、もはや金利の下げ余地のない短期金利ではなく、中長期のリスク・フリー金利の引き下げか、リスク・プレミアムの縮小が必要になります。このため、「資産買入等の基金」を通じて、国債のほか、コマーシャル・ぺ−パー(CP)、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)等のリスクアセットも含めた、金融資産5兆円の買入を行うと共に、0.1%の固定金利で長めの資金供給を行うオペレーションを30兆円行うこととしています。なお、当該基金による資産買入の趣旨は、市場の需給を調整し、一定の水準に価格を引き上げることではありません。本行による資金供給が「呼び水」となり、さらに幅広い投資家による購入が進むことにより、市場が厚 みを増し、結果としてリスク・プレミアムが縮小され、実体経済にもプラスの効果が及ぶと考えた次第です。

当該資産買入につきましては、準備が整った部分から順次実施しております。11月8日には、第1回目の買入として、1,500億円の長期国債買入、同9日には、第2回目の買入として、国庫短期証券1,500億円の買入も実施しました。

5. おわりに

最後に福島県経済についてお話したいと思います。

まず、足許の福島県の景気は、厳しさを残しつつも持ち直しておりますが、このところそのテンポは弱まってきております。また、最近では、内外需要構造の変化や円高などを背景に、製造拠点を海外へシフトする動きが強まっており、福島県経済にもその影響がみられ始めています。こうした景気認識は、当地だけではなく、多少の強弱の違いはありますが、全国でもほぼ同様の動きとなっています。こうしたことは、本日の講演でも触れました、人口動態も無縁ではあり ません。生産年齢人口は、1995年にピークアウトして以降、2008年までの間に、日本全国では490万人程度(減少率▲5.6%)減少した中、福島県では、11万人程度(▲8.3%)の減少となっています。

こうした中、当地の特長をみますと、東北の玄関口として、首都圏に隣接し高速交通網が発達していること、電気機械、自動車関連や医療・福祉機器関連産業が集積し、製造品出荷額が東北6県でトップの位置にあること、温泉や豊かな自然などの観光資源にも恵まれ、温泉地数が全国で5位を誇るなど、高いポテンシャルを備えた地域といえます。また、非製造業を中心に、当地で生まれて全国展開するまでに成長した企業も少なくなく、進取の気性に富んだ土地柄でもあります。こうした地域特性を踏まえ、福島県では「いきいきふくしま創造プラン」などを策定し、「成長産業の創出」、「地域資源を活かした産業の振興」、「多彩な交流の促進」といった日本経済再生のキーワードとなる分野について、積極的な産業育成や地域活性化策を推進されており、こうした動きが産学官の連携の下で、民間企業にも広がってきております。

具体的に申し上げると、「成長産業の創出」では、自動車関連企業やデータセンターなどの戦略的な誘致に加え、全国有数の医療機器製造拠点の集約地としての強みを活かすべく次世代医療産業集積プロジェクト「福島モデル」を策定し、医療・福祉関連機器産業の育成に向けて産学官連携の強化に取り組んでおられます。また、いわき地区や相双地区を中心とした原子力・火力発電の推進や環境・新エネルギー産業などの成長産業を育成・集積するための取り組みも進めら れているなど、将来を見据えた様々な施策が展開されていることを大変心強く感じております。「地域資源を活かした産業の振興」の面では、農商工連携の動きを発展させ、農林水産業と食品加工業や観光産業との連携など、これまでの枠組みを越えた主体が連携する新たな地域産業を創出する取り組み、すなわち「地域産業の6次化」を進めようとしておられます。また、長年の課題である県産品のブランド力向上についても、商品力の向上や内外販路の拡大などによって息の長 い取り組みを進めています。「地域にあるものを活かす」こうした取り組みによって、地域に新たな産業が生まれ、雇用の場と所得が確保されれば、地域経済の安定に繋がっていくものと期待されます。

「多様な交流の促進」では、国内外からの観光客の増加を図るため、福島県の豊かな自然、歴史に養われた伝統や食なども活かしながら、多様化する観光ニーズに対応した滞在型観光の推進にも注力されています。また、福島県に魅力を感じる方々を県外から招き入れる「定住・二地域居住」を積極的に推進されております。さらに、民間医療機関においては、海外医療機関との提携の下、メディカル・ツーリズム事業がスタートしています。これらの「外から活力を取り込 む」取り組みもまた地域経済の安定に向けた方策のひとつとして感銘を受けました。

このように、現下の厳しい経済情勢にありながらも、将来を確りと見据え、様々な分野で具体的な取り組みを積極的に展開されていることに敬意を表させていただくとともに、福島の強みを存分に発揮され、わが国経済にも種々の示唆を与えられるような成果を挙げられることを心より祈念致しております。日本銀行としてお役に立てることがあれば引き続きご活用頂きますよう、よろしくお願い致します。

ご清聴頂きまして、誠にありがとうございました。