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【挨拶】最近の金融経済情勢について

鹿児島県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 石田 浩二
2012年6月21日

目次

1. はじめに

日本銀行の石田でございます。本日は、鹿児島県の経済界を代表される皆様に懇談する機会を賜り、大変嬉しく存じます。また、日頃より、日本銀行鹿児島支店の業務運営にご協力いただき、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。

金融経済懇談会は、日本銀行の政策委員会のメンバーが国内各地を訪問し、金融政策に関わる事項についてご説明申し上げるとともに、各地の金融経済の現状や日本銀行の政策に関する貴重なご意見を拝聴する機会として開催しております。

本日は、皆様から、地元経済の現状に関するご意見や、日本銀行に対するご要望などを直接拝聴させていただき、今後の金融政策運営に大いに参考にさせていただきたいと思っております。忌憚のないご意見をお聞かせくださいますようお願い申し上げます。

それでは、まず私の方から、わが国の金融経済情勢および日本銀行の金融政策などについてお話しさせていただきます。その後、皆様からのご意見等を拝聴させていただきたいと思います。

2. わが国の経済・物価動向

(1)足もとの動き

国内経済

まずわが国の足もとの経済・物価動向について申し上げます。

わが国経済は(図表1)、08年のリーマンショックにより世界経済が急速に収縮するなかで、大きく落ち込みました。そこから、種々の対策・努力によって回復に向かう動きがみえつつありましたが、昨年3月の東日本大震災により再び大きく落ち込むことになりました。その後も、欧州債務問題やタイの洪水といったショックに見舞われまして、昨年は非常に厳しい一年であったと思います。

しかしながら、今年に入りましてから、復興関連需要などから国内需要が堅調に推移するもとで、足もとのわが国の景気は、緩やかながら持ち直しつつあります。公共投資は、復興関連予算の執行から増加していますし、設備投資も、企業収益が改善しつつあるもとで、緩やかな増加基調にあります。また、個人消費は、消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けています。輸出については、なお不確実性が大きいものの、持ち直しの動きもみられています。生産はこうした動きを反映し、緩やかに持ち直しつつあります。

この間、物価については(図表2)、消費者物価(総合除く生鮮)の前年比は、09年半ばに2%台のマイナスとなった後、徐々にマイナス幅を縮小し、ごく足もとでは概ねゼロ%となっています。

わが国経済の現状をかいつまんで申し上げれば以上のとおりであります。

海外経済

次に、海外経済について申し上げますと(図表3)、まず米国経済については、堅調な企業収益などを背景に設備投資が増加基調を維持しているほか、個人消費も緩やかに増加しております。雇用面について、記録的な暖冬によって生じた雇用増加分の剥落の影響ともみられる動きがみられますが、これまでのところは、全体としてみれば、緩やかな回復を続けているとみています。

一方、欧州経済については、輸出に持ち直しの動きがみられるものの、周縁国の厳しい金融環境などを背景とする内需の低迷が足かせとなって停滞しています。また、この間、各国間の景況の格差が拡がっています。例えば、失業率については、ドイツでは4月は5.4%と東西統合後の最低水準を記録したのに対して、スペインでは全体では2割を超え、25歳以下に限ってみれば5割超に達しています。

新興国・資源国については、全体として高めの成長を続けていますが、成長ペースは幾分鈍化しています。中国経済は、なお高めの成長を続けていますが、輸出に欧州経済停滞の影響がみられるほか、これまでの不動産取引抑制策や金融引き締めの影響もあって、耐久財消費や民間不動産投資を中心に成長ペースが幾分鈍化しています。一方、NIEs・ASEAN経済については、個人消費や設備投資が底堅く推移する下で、タイの洪水からの復旧もあって、持ち直しつつあります。

このように、世界経済は、全体としてはなお減速した状態から脱していませんが、米国や新興国の一部では緩やかながら改善の動きもみられている状況にあります。

(2)わが国の先行きの見通し

次に先行きの見通しについてお話し致します。日本銀行では、4月と10月に、先行き2年程度の経済・物価見通しについて、いわゆる展望レポート(正式には「経済・物価情勢の展望」と言います)を公表しています。本年4月の展望レポートでは、先行きの景気について、新興国・資源国に牽引されるかたちで海外経済の成長率が再び高まり、また、震災復興関連の需要が徐々に強まっていくにつれて、12年度前半には緩やかな回復経路に復していくと見通しています。

また、物価については、景気が緩やかな回復をたどるもとで、マクロ的な需給バランスの改善を反映して、消費者物価指数の前年比は、13年度までの見通し期間の後半にかけて0%台後半となり、その後、当面の「中長期的な物価安定の目途」である1%に遠からず達する可能性が高いと見通しております。

これらを政策委員各委員の見通し計数の中央値で示しますと(図表4)、実質GDPの見通しは、12年度が前年比+2.3%、13年度が同+1.7%、消費者物価指数(総合除く生鮮食品)の見通しは、12年度が前年比+0.3%、13年度が同+0.7%となっています。

わが国の景気について現時点でみますと、4月展望レポート時に比べて、海外経済の足取りが思っていたよりも弱い一方で、内需は想定よりやや強めとなっており、これまでのところ、全体としては当初見通しに近い処できているものと見ております。

(3)先行き見通しについての不確実性

以上申し上げた見通しは、相対的に蓋然性が高いと判断される中心的な見通しです。4月の展望レポートでは、この見通しに対するリスク要因として、まず第一に欧州債務問題を中心とした海外経済の動向を挙げ、それに続いて復興関連需要を巡る不確実性、生産拠点の海外シフトや電力需給を巡る問題に伴う企業や家計の中長期的な成長期待が変化する可能性、さらには、財政の持続可能性を巡る問題などを、留意を要する事項として挙げております。

現時点でみましても、最大の懸念材料は、欧州債務問題を中心とした海外経済の動向です。国際金融資本市場では、昨年後半にかけて欧州債務問題に対する緊張感が急速に高まりましたが、欧州連合(EU)および国際通貨基金(IMF)によるギリシャに対する第2次支援策の決定、EU各国による「財政協定」の締結、欧州金融安定基金(EFSF)或いは欧州安定メカニズム(ESM)による融資能力の増強などに加え、欧州中央銀行(ECB)による大量資金供給の実施により、年明け以降は幾分緊張が緩和していました。特に2月から3月にかけては、世界的にいわゆるリスクオンと言われる状況となり、株式が買われ、円が売られる展開となりました。

しかしながら、その後は、ギリシャの政治情勢やスペインの銀行問題とそれに伴う同国財政の悪化に対する懸念の高まりなどから、次第にリスクオフの局面へと転じ、グローバルな投資家のリスク回避姿勢が再び強まっております。債務問題を抱えた国の国債利回りが上昇するとともに、安全資産とみられる日米独の国債利回りが低下したほか(図表5)、株価が下落し、為替相場では再び円が買われました。

欧州の問題については、最終的にはドイツを始めとする欧州中核国の努力により事態の極端な悪化は回避されるものとみておりますが、一時的な緩和を挟むことはあっても、抜本的な解決には少々時間が掛かるものと考えております。これは元々ユーロ圏の問題の本質は、財政状態や経済力の格差が大きい国々が単一の通貨を利用しているにも拘わらず、財政政策は統合されていないため、各国の不均衡の調整が上手くいかないという構造にあるためであります。

わが国経済に関するメインシナリオのポイントは、内需が景気を下支えしているうちに外需が強まり、復興需要が減衰に転じるまでに、生産・所得・消費という成長サイクルが働き出していくということにあります。米国が緩やかながらも成長を続け、新興国・資源国の中心である中国について、各種抑制策の微調整が行われ景気減速にブレーキがかかり回復方向に向かうとみておりますので、欧州が悪いなりにも底割れしなければ、方向感としてはメインシナリオに沿った推移になる可能性が高いと思っております。

しかしながら、欧州経済、米国経済が不安定化すれば、新興国・資源国経済にも大きな下押し要因になり、日本に与える負の影響は大変大きくなりますので、今後も欧米諸国の動向には十分な注意が必要であると考えています。

3. 日本銀行の金融政策運営

次に、日本銀行が目下推進している強力な金融緩和策等の施策についてお話し致します。日本銀行は、わが国経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することがきわめて重要な課題であると認識しております。

(1)強力な金融緩和の推進

こうした認識のもとで、日本銀行では、現在、包括的な金融緩和政策を通じて、強力な金融緩和を推進しています(図表6)。

本年2月には、「中長期的な物価安定の目途」を導入し、物価安定の目途が見通せるようになるまで強力に金融緩和を推進していくことを公表しました。具体的には、当面の目途である消費者物価指数の前年比上昇率+1%を目指して、それが見通せるようになるまで、1つには、政策金利の誘導目標水準を「0〜0.1%程度」とする実質的なゼロ金利政策を継続する、2つには、国債やCP・社債、さらにはETFやJ-REITといった多様な金融資産の買入れ等を「資産買入等の基金」を通じて実施し、長めの市場金利の低下と各種のリスク・プレミアムの縮小を促進していく方針です。

なお、この基金は10年10月の創設以来、累次に亘って規模を拡大してきましたが、本年入り後も2月と4月に増額し、現在は、本年末までに65兆円程度、さらに来年6月までに70兆円程度まで資産買入れ等を進めていくことになっています。6月10日時点の基金の残高は51兆円ですので、年末までにあと14兆円程度——月平均にすると2兆円程——の資産の積み増しを進めていくこととなります。これは、別途実施している月1.8兆円規模の長期国債の買入れと併せると、月平均約4兆円という大変大きな規模となります。

こうした強力な金融緩和の推進により、国内の市場金利は極めて低水準で推移しています(図表7)。足もとの国債利回りは、3年物まで短期金融市場並みの0.1%となっていますし、10年物利回りも0.9%を下回っています。こうしたもとで(図表8)、実際の企業の資金調達コストとなる貸出金利、社債やCPのスプレッドも低位で推移しています。またこれらは、欧州債務問題に対する警戒感が著しく高まった局面にあっても、欧米市場とは異なり、低位で安定して推移しています。先ほども申し上げたとおり、企業・家計の資金調達がより低位で十分実行されるよう、日本銀行は、今後も、物価上昇率+1%を目指して強力に金融緩和を推進していく方針にあります。

(2)成長力強化に向けた日本銀行の取り組み

次に、こうした強力な金融緩和と併せて推進している「成長基盤強化を支援するための資金供給」についてお話し致します(図表9)。これは、わが国の成長力強化を支援することを目指し、民間金融機関による成長基盤強化に向けた融資や投資の取り組みに応じ、長期かつ低利の資金を金融機関に提供するため、一昨年6月に3兆円の枠で導入したものであります。昨年6月には、当初の貸付枠に加えて、従来型の担保・保証に依存しない融資や資本性を有する出資などの資金供給を活発化させる工夫が必要との考えに基づき、売掛金・在庫を担保とする融資などを対象とする5千億円の貸付枠を新たに設定しました。さらに、本年に入り、通常の貸付枠を3兆円から3.5兆円に増枠するとともに、小口の案件を対象とした5千億円の貸付枠や外貨建ての投融資に対する120億米ドル(1兆円相当)の貸付枠を導入することを決定しました。

直近6月初の資金供給の実績をみますと、貸付残高は、全体で約3.2兆円となっています。なお、米ドル特則については9月に第1期の貸付を行う予定です。また、民間金融機関が行った投融資の分野別の分布状況をみますと、環境・エネルギー事業が3割弱、医療・介護・健康関連事業が2割弱を占めるほか、幅広い分野で取り組みがみられています。

こうした制度が呼び水となって、成長部門への低利・長期の投融資や、不動産などの従来型の担保に依存しない融資が拡大し、新たなビジネスをスタートする企業や起業家が増えることなどを通じてわが国の成長力が高まっていくことを期待しているものであります。

4. わが国経済の成長力強化について

以上が最近の金融経済情勢とこれを受けた日本銀行の政策であります。ここで少し長い目で見たわが国経済について少々お話したいと思います。欧州が構造的な問題を抱えているように、わが国も少子高齢化の下での低成長という構造的な問題に直面しています。本日は、この問題についても少々お話しさせていただければと思います。

(1)過去20年を振り返って

わが国の経済成長率を長い目で振り返りますと(図表10)、高度成長期の1960年代は年平均の成長率が10%を超えておりました。70〜80年代になると、さすがに二桁の成長ではありませんが、年平均で4〜5%台という安定した成長を実現していました。その後、いわゆるバブルの崩壊を経て、90年代は1%台半ば程度、2000年代は1%を下回る低成長となっています。

90年代の停滞は、バブル崩壊とその後の金融システム不全によるところが大きく、不良債権問題を解決できれば、経済の活力は復活するとの見方が強かったように思います。ところが、現実には、不良債権問題に一応の決着をみた2000年代半ば以降になっても成長力が復活していません。90年代以降、低成長期が継続していることから、この期間は「失われた20年」と称されることがありますが、2000年代の低迷には90年代の低迷とは異なる要因が作用していると考えるのが適当ではないかと思います。

経済成長率を、労働生産性の伸びと労働力の伸びに分けてみますと、就業者1人当たりの実質GDP成長率でみた労働生産性の伸びは、90年代以降低下してきており、まだプラスの伸びを維持しているものの伸び悩んできております。一方、就業者数の増減率でみた労働力の伸びは2000年代に入ってマイナスに転じています。この2つが合わさってこの年代の成長低迷の要因となっているのであります。

それでは、将来の成長率はどうなるのでしょうか。人口動態についての長期的な予測に基づく将来の就業者の減少率は、現状の労働力率——労働参加率とも言いますが——に変化がないとすれば、2010年代は▲0.6%、30年代は▲1.2%と、ますます大きくなっていきます。生産性上昇率が過去20年間の平均程度である1%程度だとしますと、結局、10年代以降の経済成長は年平均で0%台の前半にとどまり、30年代にはマイナス成長が定着する、ということになってしまいます。

(2)人口減少への対応

そうした事態が確実に見通せる以上、我々は少しでも事態を改善するように全力で取り組む必要があると考えております。

わが国の就業者1人当たりの実質GDP成長率をみると諸外国対比でかなり良い処にあるのですが、高齢化の進展とともに人口に対する就業者の割合が落ちてくることから、現状を放置すれば、国民1人当たりの実質GDP成長率が落ちてくることになります。国民1人当たりの実質GDPは言わば豊かさの指標ですから、我々が営々と築いてきた現在の生活水準・豊かさを我々の子供たち、孫たちに引き継げなくなるおそれがあります。この様な事態はなんとしても避けなければなりません。そのためには、就業者1人当たりの労働生産性を上げていくことと、人口減少の下でも就業者の減少を食い止めることが必要です。

イ. 労働生産性の引上げ

労働生産性を引上げるという点については、新技術・新商品・新サービスなどの開発、ITの高度利用や生産性の低い分野・企業からより生産性の高い分野・企業への資源の再配分、産業の新陳代謝の促進等を実行・実現していくことが必要と言われております。しかしこれはこれで大変大きな話ですので、本日は省きまして、もう1つのポイント、就業者の減少を食い止めていくことについてお話しをさせていただきます。

ロ. 就業者の増加

人口が減少していく下で(これは当面の間厳然たる事実であって避けられないものであります)、就業者の減少を防ぐためには、兼ねてから言われていることですが、女性の労働参加を高めることと高齢者の就労機会の増大がポイントとなります。

(i)女性の場合

女性の25〜64歳(24歳以下は学生の可能性があり除いている)の非労働力人口(就業活動をしていない人)は2011年平均で1千万人にも達します。女性の労働力率を年齢別にみると(図11)、子育ての負担から30代に一旦水準が低下するいわゆるM字カーブとなっております。近年、問題解消のため保育所の増設が進んでおります。これを社会政策或いは福祉政策の一環と見る向きもありますが、私はこれは同時に経済政策・成長政策だと思います。

今まで子育てが家内労働として扱われていたものが、仕事として預かる人と預けて新しい仕事に就く人とに分かれることで、社会的分業が実現することになります。その分、雇用が増え、所得も増えるとともに、税金・社会保険料の新しい荷い手も増える訳で、成長戦略に大いに資するものだと思います。また、子育てについては単に保育所を増設するだけでなく、小学校や雇用者としての企業等においても女性の就労に配慮して様々な障害を積極的に除去していく必要があります。ダブルインカム・ダブルチルドレンという言葉がありますが、この様な世帯をこれからの社会のひとつの基礎単位として位置づけ、世の中の仕組み・システムを子育て中の女性が安心して就労できるように変えていくことができれば、子供を持つことに対する障害を軽減し、女性の労働力率を高めるとともに、少子化対策にもなっていくと思います。

(ii)高齢者について

高齢者については、65歳を超えると就業を望む人の割合が急速に低下します。2011年の平均の労働力率は(前掲図表11)、50〜59歳が78%であるのに対して、60〜64歳が60%、65〜69歳は38%、70〜74歳は23%まで落ち込みます。これは60歳から厚生年金が給付されてきたことに加え、65歳以上は高齢者として定義され、社会的にも、高齢者は働かないもの、或いは働かなくても良いものといった意識があるからなのかもしれません。

こうした一方で、現在の65歳以上は過去と比べても健康な人の割合が増えているといった研究が数多くあります。世界保健機関(WHO)によれば、心身ともに自立して生活できる期間を示す健康寿命は(図表12)、日本人が76歳(07年時点)と世界最長です。また、教育や社会的な訓練を通じて養われる判断力や理解力などは、60歳頃をピークに少しずつ衰えるとはいえ80歳代でも20歳代中頃と同じレベルであるという研究結果もあるようです。実際、農業や漁業の就労者の年齢別構成をみますと(図表13)、農業では6割が、漁業では3割強が65歳以上です。65歳以上でも十分に働けるということだと思います。ちなみに、経済協力開発機構(OECD)によれば、諸外国ではすでに年金支給年齢を67歳以上とする傾向が強まっているようです(図表14)。

直ちに出来ることではありませんが、高齢者に対する認識や定義を見直す必要があるのではないでしょうか。例えば、仮に69歳までを生産年齢人口と捉え直すと、足もとの生産年齢人口は8百万人弱増加します。また、現在の64歳までの生産年齢人口は82百万人で今後減少していきますが、69歳まで拡げて考えれば生産年齢人口がこの水準にもう一度減少していくまで約10年の余裕ができることとなります(図表15)。こうした考え方が定着するためには、社会の諸制度・システムを大きく変えていかなければなりません。少子高齢化社会へ急速に転換しているわが国にとって、高齢になっても働きたい人々が喜んで働ける、また働いてもらうような世の中の仕組み、システムを作り上げていくことがこれから避けられないことだと思います。

(3)雇用の増強

一方で、この様に女性の労働力率を高め、また高齢者の労働力の活用を図っていくために必要な雇用の受け皿は大変大きくなります。現在、少子高齢化、人口減少対策として労働力が減るのだから移民を受け入れるべきだとか様々な意見がありますが、足もとの現実は十分な雇用の受け皿があるとは言えません。このところ改善してきてはいますが、4月時点で、有効求人倍率は0.79倍、失業率は4.6%です。失業者(原計数)は315万人で、潜在失業者(現在求職活動はしていないものの就業はしたいと考えている人1)を加えると750万人程2となります。日本経済が成長していくためには、これらの人々に加え、さらに新たな女性、高齢者の雇用の受け皿を作っていかなければなりません。

現在、需給バランスは供給超過/需要不足となっていますが、これをバランスしていくためには供給サイドでの社会構造の変化に対応して、旧い商品・サービスから新しい商品・サービスへの切り替えを通じて需要を創造していくことが必要だと思います。また、少子高齢化の進展とともに大きく消費の構造が変わってきており、これに如何に対応していくかも企業間競争の大きなポイントとなっていると思います。そして、そのような企業の取り組みの過程で、新たな雇用の機会が創造されていくものだと思います。

トータルの人口が減少する下では、海外の需要の取り込みも不可欠です。わが国は近隣に急拡大しているアジア市場があります。ボリュームゾーンの商品は現地生産ということになるかもしれませんが、国内で生産する安全・安心・高品質の商品に限っても、アジアの人々のこれからの所得の上昇を考えれば大変大きな市場となると思います。また、将来的には、わが国が、高齢化先進国として高齢化社会の商品・サービスの開発の成果を、これから高齢化するアジアの市場へ供給することも大いに期待できることです。こういう展望の下で、我々が将来の成長への期待を持ち、投資を増加し、資金が回り出せば、雇用の受け皿を大きく増やし、わが国の成長をしっかりと支えていくことになると考えます。

  • 1 総務省「労働力調査」の非労働力人口の内数のうち就業希望者を指す。
  • 2 非労働力人口の内数は月別には公表されていないため、ここでは1〜3月平均(438万人)を用いた。

(4)地方の課題

見方は変わりますが、人口減少社会でより大きな影響を受けるのは地方社会だと思います。地方で雇用の確保が出来なければ活力のある層に人口流出が起こり、これがさらなる地方経済の縮小を招きます。これに対しては、高齢者・女性の人的資源に加え、地方にある資源の最大活用が必要です。需要が増大する介護分野或いは保育・子育ての分野で高齢者の活用を図ったり、第一次産業に改めて力を入れる必要があると思います。今後、新興国の経済成長に伴い世界的に食料需給が逼迫する可能性があります。また新興国の所得水準の上昇とともにわが国が競争力を有する高価でも安全・安心・高品質な食料への需要も増えていくものと思います。そこで休耕田・耕作放棄地の有効利用や世界第6位の長さを誇る海岸線を活かし、品種改良や養殖技術の高度化を通じて、農作物や水産物のアジアへの輸出を図っていくことが期待できます。農水産業はそれだけでは産出額のシェアは比較的小さいものの、食品加工・運輸・流通等の関連産業を含めれば地方に大きな貢献ができるものと思います。

また、地方の資源という点では、自然、文化資源があります。山岳、火山、温泉、渓谷、海岸、湖、或いは四季のある穏やかな気候、歴史遺跡、祭り等文化遺産、安全な街、親切な人々という多くの資源がコンパクトな国土にまとまって体験できる国は日本くらいしかないと思います。しかしながら残念なことに、これだけの観光資源を有しながら、外国人旅行者の受入れ数の世界順位で、わが国は30位前後と低位にとどまっています(図表16)。ただし、裏を返せば伸び代は十分あるとも言えます。これから大きく伸びることが確実なアジアの観光需要を呼び込めれば、雇用にも大変大きなインパクトがあります。

こうした取り組みを強化していくためには地方自治体の肌理細かい対策が必要です。また各種の資金を要することから地方金融機関の支援が大切だと思います。日本銀行としても先程ご紹介しましたように成長基盤強化を支援するための資金供給制度を設け金融機関の取り組みの支援を図っています。前掲図9に分野別の実績がありますが、観光、保育・育児事業等まだまだ少額に止まっておりその他の項目も含め、もっともっと伸ばす余地があります。本制度の一層の活用を期待している処です。

5. おわりに

さて最後になりますが、当地鹿児島県について申し上げますと、まず農水産業について畜産・養殖で全国トップクラスの生産地であります(図表17)。今後さらにブランドを確立してアジアの拡大する富裕層へ売り込んでいくことで大きな発展が見込まれると思います。

また当地は桜島や屋久島等の自然観光スポットのほか、指宿、霧島を中心とする温泉地等観光資源が大変豊富であり、日本有数の観光地として国内外から多くの観光客が訪れています。しかし私はもっともっと伸びる余地があると思います。特に外国人観光客の誘致の余地が大きいのではないかと思います。新幹線も開通し、立派な港湾施設・空港を有する鹿児島をアジアとの玄関として位置付け(図表18)、鹿児島を起点として日本ツアーのルートを確立できれば大変明るい未来が展望できるのではないでしょうか。錦江湾に大型のクルーズ船が数多く寄港する日々を想像しながら私の話を終わらせていだたきます。