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【挨拶】最近の金融経済情勢について

栃木県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 石田 浩二
2013年3月11日

目次

1.はじめに

日本銀行の石田でございます。東日本大震災から、本日でちょうど2年になります。当地も被災地として様々な影響を受けたと伺っております。まずは、震災で犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

本日は、栃木県の行政および金融・経済界を代表される皆様に、ご多忙中のところお集まりいただき有難うございます。

また、皆様には、日頃から調査統計局のほか日本銀行各部署の業務運営にご協力いただいておりまして、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。

金融経済懇談会は、日本銀行の政策委員が各地を訪問し、経済金融情勢や金融政策について説明申し上げるとともに、各地の経済・金融の現状や日本銀行の政策に対するご意見などを拝聴させていただく機会として開催しております。

本日は、まず私の方から、内外経済情勢と日本銀行の金融政策についてお話しさせていただき、その後、皆様方からの当地の実情に即したお話や、ご意見などを拝聴させていただきたいと思います。

2.経済・物価情勢

(1)最近の金融経済情勢

概況

図表1をご覧ください。08年のリーマン・ショックで大きく落ち込んだ世界経済は、その後回復に向かいましたが、11年半ばから、ギリシャの財政問題を発端とする欧州債務危機が発生したことを受け、減速に転じました。

その後スペイン、イタリアのような大国でも債務問題が深刻化することとなり、昨年のユーロ圏の景気は大きく減退し、実質GDP成長率はマイナスとなりました。また、欧州向け輸出ウエイトの大きい中国経済が成長率を切り下げるとともに、新興国・資源国にも大きな影響が出ることとなりました。こうしたもとで、わが国についても、ご案内のように輸出の落ち込みが生産の減少へつながり、設備投資が控えられるなど、12年夏場以降、大幅な調整を余議なくされました。

ユーロ圏の問題については、昨年後半に入り、欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の問題の生じた国の国債を買い支える「国債買入スキーム(OMTs:Outright Monetary Transactions)」を導入したほか、「欧州安定メカニズム(ESM:European Stability Mechanism)」が稼働するなど、危機回避の体制整備が進むもとで、一頃に比べ落ち着きをみせています。こうしたなか、ユーロ圏外の各市場において景気の底打ちを織り込む動きが出てきています。IMFの世界経済の見通しも12年を底に13年、14年と回復を見込んでいます。

欧州経済

図表2をご覧ください。昨年の世界的な景気減速のきっかけと考えられるユーロ圏経済は、引き続き緩やかな後退局面にあります。個人消費は、11年以降、債務問題を背景として趨勢的に低下しています。自動車の販売が特に不振となっています。生産・輸出をみると、これまでのユーロ安もあり、競争力の強いドイツを中心に堅調に推移してきた域外輸出が、世界経済の減速により足もと伸び悩んでいます。これにより、域内消費の低迷から不振となっていた生産が、足もと一層低下しています。しかしながら、世界経済に持ち直しの動きもみられるもとで、先行指標となる企業マインドの落ち込みに歯止めがかかる兆しがあり、また最近の一部の指標には明るさもかいまみられます。もっとも、周縁諸国が今後も緊縮的な財政運営を続けざるを得ないことを踏まえますと、欧州経済は当面低迷が続く可能性が高いとみています。

この間、債務危機をもたらし、現在の経済の不振をもたらした根本的な原因を改めて考えてみますと、ユーロ諸国間の経済の不均衡の問題があると思われます。図表3をご覧ください。それぞれの国の経済に強弱様々な格差がある中で、各国通貨をユーロに統合しましたが、一方では、各国の財政等その他の主権は統合されていません。こうしたもとで、ユーロ統合以降、各国の金利は低いドイツの金利水準にさや寄せされていきましたので、それまで金利の高かったいわゆる周縁国では、国際資本市場から低利で資金調達が可能となり、経済のブーム・拡張が起きました。そして、周縁国の経常収支赤字を、ユーロ中核国を中心とする民間からの投資借入で賄うかたちになりました。さらに、これらの国ではその間労働コストの上昇を容認したため、更にドイツ等域内の生産性の高い国との競争力の格差が拡大しました。

リーマン・ショックの後、世界的に金融機関間の資金取引にかかる信用リスクなどが意識されやすい中で、債務問題が深刻化したことにより、こうした問題を抱える国々の金融機関の資金調達環境も悪化することとなりました。先ほど述べた各国間のインバランスを民間資金でファイナンスし続けることが難しくなったということです。ユーロ圏の問題は、11年から12年にかけ、国際金融資本市場の緊張を高めたほか、世界経済全体に対しても、大きな下押し圧力を加えることになりましたが、昨年後半以降は、先程申し上げたように、各種危機回避措置がとられたことにより、一頃に比べ落ち着きをみせています。

ただし、危機の根底にあった各国経済のインバランスは解消されていませんので、何らかのきっかけにより危機が再燃するおそれには、これからも十分な注意が必要だと思います。リスクは、引き続き下方に厚いと考えています。

米国経済

図表4をご覧ください。次に米国経済ですが、米国はリーマン・ショックの震源地であったのですが、一旦大きく落ち込んだ後、年平均2%程度の成長を続けてきています。昨年10〜12月期のGDP成長率をみると、在庫投資や政府支出がマイナスに寄与し伸びが鈍化していますが、個人消費、住宅投資などの国内民間最終需要は増加基調を維持しています。

企業マインドをみると、非製造業が堅調に推移している一方、製造業は、ユーロ圏および中国の減速や、米国における「財政の崖」問題から、一時、改善・悪化の分岐点である50近辺まで落ち込みましたが、このところ改善方向に持ち直してきています。今後については、財政問題などに起因した不確実性が徐々に払拭されていくとの想定のもと、次第に製造業のマインドが改善し、生産や設備投資にも勢いが出てくるとみています。

図表5をご覧ください。雇用環境をみると、失業率については、リーマン・ショック前は4〜6%程度で推移していたものが、リーマン・ショックで10%程度まで跳ね上がり、その後4年経っても8%を少し下回る程度までしか戻っていません。失われた雇用が9百万人程のところ、これまで労働力人口は増加しているにもかかわらず雇用は6百万人程しか回復していないという状況であります。しかしながら、着実に雇用者数は増加してきており、雇用環境は、基調として改善していると言えます。

家計部門の動きをみると、自動車販売がかなり戻ってきているほか、住宅についても、住宅価格の調整は底を打ち、緩やかながら上昇に転じてきています。新築住宅着工についても、水準はバブル前の2分の1程度にとどまっていますが、緩やかに増加しています。この水準の低さは、見方を変えれば、まだまだ伸び代が大きいとも言えます。

元々、リーマン・ショックは米国での住宅バブルの発生・崩壊が原因となっており、バブルの生成過程で生じた家計部門の過剰債務を解消していくのに長い時間がかかるとみられています。この家計のバランスシート問題が、財政面からの下押し圧力と相俟って、本来もう少し力強いはずの米国の成長を2%程度に抑えてきたとみられます。家計債務の可処分所得に対する比率をみますと、バブル期に大きく上昇した後、減少してきており、水準としてまだ高いとはいえ、これまでのトレンド線に収束しつつあります。足もとの住宅価格の上昇が続けば、バランスシート問題が軽減され、資産効果から家計の支出行動がより活発化することが期待されます。

米国経済については、「財政の崖」という大変大きな問題がありました。この問題は、ブッシュ減税およびリーマン・ショック後に行った減税措置の失効と、歳出の自動削減の発動が、揃って今年の初めに到来することになっていたというものです。その金額が極めて大きいため、その処理によっては景気の大きな下押し要因になることが懸念されました。減税の期限切れ問題については、先に妥協が行われ一部延長措置が取られることで落ち着きました。しかし、歳出自動削減については3月1日まで期限を伸ばす対応がとられましたが、その期限までに決着が図られなかったため、発動されることとなりました。今後、3月27日の暫定予算の期限切れ、5月の連邦政府債務上限問題等が残っており、引き続き財政の問題が大きな波乱要因となるリスクは残っています。

これらの問題は、最終的には何らかの妥協が成立するとみていますが、いずれにせよ、本年前半については増税、歳出削減という財政面からの圧迫要因もあり、成長が抑制されることは避けられないと考えています。しかしながら、その影響が軽減される年央以降、米国経済の成長スピードが次第に上がっていくとみています。また、そうなった場合は、米国長期金利が次第に上昇していく可能性があり、わが国の長期金利あるいは円ドル相場にも影響を与えることも考えられるため、注視していく必要があります。

中国経済、NIEs・ASEAN経済

図表6をご覧ください。中国経済については、リーマン・ショック以降の大規模な景気刺激策がインフレの加速や資産価格の高騰につながることが懸念され、当局による不動産取引抑制策や公共投資の抑制などの引き締め的な政策がとられました。そうしたところに、欧州向けの輸出の落ち込みが重なったため、全体として下押し圧力の強い状況となりました。しかしながら、昨年夏場以降は、当局の政策姿勢が一部見直されるとともに、金融政策も緩和気味に運営されてきています。こうしたもとで、中国経済は、世界経済の回復期待にも支えられ、足もとでは持ち直してきています。

個人消費は、良好な雇用・所得環境のもと、堅調に推移しています。固定資産投資も、製造業では素材の過剰生産能力や輸出の伸びの低下などから伸び率が鈍化していますが、公共投資や不動産投資が回復してきており、全体では増勢の鈍化に歯止めがかかってきています。企業マインドをみても、サービス業は堅調に推移し、製造業も足もとの状況好転により改善方向に変化してきています。

図表7をご覧ください。輸出についても12年7〜9月期を底に、回復方向に転じています。ウエイトの大きい欧州向け輸出の落ち込みを、その他の地域向けの伸びが補ってきており、昨年は欧州向けのウエイトを米国向けのウエイトが上回るかたちとなりました。先行きについては、若干の不安要因は残るものの、成長率が徐々に高まっていき、今年は8%台前半の成長が可能とみています。

NIEs・ASEAN経済は、設備投資がNIEsを中心に伸び悩んでいることもあり、持ち直しの動きが緩やかな状態が続いています。しかしながら、先行きについては、米国や中国にリードされるかたちで、世界経済が明るさを増していけば、輸出が次第に持ち直し、堅調な内需にも支えられ、回復テンポを速めていく可能性が高いとみられます。

わが国経済の現状

以上が海外の情勢です。次に日本経済について申し上げます。

図表8をご覧ください。リーマン・ショックで大きく落ち込んだ後、順調に回復してきたわが国経済は、11年3月の東日本大震災により大変大きな打撃を受けました。その後、タイの洪水によりブレーキがかかる局面もありましたが、大幅な落ち込みの反動、在庫の復元、復興需要の高まりもあって昨年前半には高めの成長を実現しました。

しかしながら、昨年後半に入ると、欧州債務問題の深刻化と、中国の成長鈍化による世界的な景気減速から、輸出と生産が大きく落ち込み、12年7〜9月期の実質GDP成長率は、マイナス0.9%(年率換算:マイナス3.7%)となりましたが、10〜12月期は+0.0%(年率換算:+0.2%)となり、先ほど申し上げたように海外経済に持ち直しの動きがみられる中で、足もとでは下げ止まっているとみられます。

もっとも、わが国の輸出は、海外経済の動きに対比すると、改善がやや遅いように思います。図表9をご覧ください。中国向け輸出が、日中関係の影響もあって落ち込んでいるところもありますが、自動車に並んでわが国輸出の主力である資本財・部品の輸出が不振であることの影響も大きいと思います。この点、今回の世界経済の減速局面において、グローバルに製造業のマインドが悪化し、設備投資を慎重化させていたことが、わが国の資本財・部品の輸出の不振に強く影響しているとみています。今後、海外経済の回復基調がはっきりとしたものとなり、生産が上向いてくれば、委縮した設備投資意欲が回復し、つれてわが国の輸出の水準も高まっていくと考えています。

図表10をご覧ください。外需については以上のとおりですが、内需についてみると、まず公共投資ですが、公共工事出来高金額でみて震災復興関連を中心に11年の終わり頃より増加を続けており、先行きについても、各種経済対策の効果から引き続き増加傾向を辿るとみられます。設備投資については、非製造業に底堅さがみられますが、輸出や生産の落ち込みの影響から製造業では減少が続いており、全体では弱めの動きとなっています。一方、個人消費は底堅さを維持しており、自動車の需要刺激策終了の反動減の影響も剥落しています。先行きについても基調的には底堅く推移するとみられます。しかしながら、昨年の夏冬のボーナスが前年を下回り、所定外給与も減少するなど、所得面は必ずしも堅調とは言えない点は留意を要します。この間、住宅投資は、被災住宅の再建もあって持ち直し傾向にあります。先行きの住宅投資についても、消費税増税に向けた駆け込み需要が見込まれること等もあり、引き続き持ち直し傾向を辿るとみています。

図表11をご覧ください。このところ株価の上昇と円安の進展が続いています。こうした背景として、欧州債務危機の一応の収束や米国の「財政の崖」の脅威の軽減による国際金融資本市場の緊張の緩和、米国や中国経済の先行きに対する期待、あるいは、わが国の貿易収支の赤字拡大と経常黒字の急速な減少など、様々な要因が指摘されるところですが、政府・日銀の政策運営に対する期待の高まりが影響しているところも大きいとみています。また、こうしたもとで、企業や家計のマインドも大きく改善しています。

今後、海外景気が回復するにつれ、わが国経済もしっかりとした回復軌道に復していくものとみていますが、その際に回復の勢いを力強いものにするためにも、このマインド面が改善した状態を維持していくことが特に重要であると考えています。

(2)わが国経済・物価の見通し

図表12をご覧ください。次に、わが国の経済・物価の見通しですが、日本銀行は、4月と10月に経済の先行き2年間の経済・物価の見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理した「展望レポート」を公表しています。そして、1月と7月に中間評価を行い、見通しの見直しを行っています。この1月の中間評価における政策委員の中心的見通しは、景気については、当面横ばい圏内になったあと、国内需要が各種経済対策の効果もあって底堅く推移し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくというシナリオになっています。物価については、消費者物価の前年比は、当面、前年のエネルギー関連や耐久消費財の動きの反動からマイナスとなったあと、再びゼロ%近傍で推移し、その後はマクロ的な需給バランスの改善を反映して緩やかに上昇に転じていくというものです。

具体的な見通しの中心値は、実質GDPが13年度+2.3%、14年度+0.8%、消費者物価が13年度+0.4%、14年度+2.9% —— 消費税引き上げの影響を除くと+0.9% —— です。図表13をご覧ください。この見通しを巡っては様々なリスクがあるわけですが、そうした上振れ・下振れ要因も勘案した見通しの確率分布も別途示しています。これによれば、政策委員のリスクは、全体として概ね上下にバランスしています。

これまでのところ、わが国の経済・物価は、この見通しに沿って推移してきているとみています。

3.金融政策

それでは、これまで申し上げたわが国経済の現状および今後の見通しのもと、現在、日本銀行が採っている金融政策についてお話しいたします。

図表14をご覧ください。日本銀行は、本年1月22日の金融政策決定会合で、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向けて、2%の「物価安定の目標」を導入するとともに、金融緩和を思い切って前進させることとしました。

物価安定目標の導入

まず、2%の「物価安定の目標」についてお話しいたします。

日本銀行は、昨年2月、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率について、消費者物価の前年比上昇率で「2%以下のプラスの領域」と判断し、当面の目途として「1%」を定め、これを目指して金融緩和を推進してきました。

今回、1%の目途にかえ、「物価安定の目標」として2%を設定しました。

先ほど申し上げたように、14年度の物価見通しの中心値は、消費税増税の影響を除くベースで+0.9%となっています。これは14年度の平均でありますので、この見通しのもとでは、14年度の終わり頃には月次ベースで1%に達することが見込まれます。このような状況のもと、今後デフレ脱却をより確実なものとすることを目指して、その先2%を目標として取り組んでいく方針としたものです。

図表15をご覧ください。わが国の消費者物価上昇率は、80年代以降、バブル崩壊直後を除いて、ほぼ一貫して2%を下回って推移してきました。日本経済は、急速な高齢化の進展やグローバル化などの構造変化への適応が遅れ、潜在成長率が低下してきており、企業や家計の中長期的な成長期待も低下しています。こうしたもとで、慢性的な需要不足がみられ、需給ギャップも中々縮まらないという状況にあります。そのもとで、企業は雇用を維持しつつ競争に打ち勝つため、コスト削減に注力し、これがまた、賃金への継続的な下押し圧力となっています。こうした全体の動きが物価への継続的な下押し圧力につながってきたものと思います。

デフレから脱却していくためには、このマイナスのサイクルを反転させていくことが必要であり、構造変化に適切に対応し、企業・家計の成長期待を高めていくことが必要です。2%の目標はこれまでの長年に亘る物価の状況からすると大変高いものではありますが、今後、世の中の成長期待が高まっていき、実際に物価上昇率が上がっていけば、人々の予想物価上昇率も上昇していくと考えられます。日本銀行が強力な金融緩和を推進するとともに、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取り組みが進展していけば、私は十分展望できると考えています。

「期限を定めない資産買入れ方式」の導入

今申し上げたように、「物価安定の目標」の実現のために日本銀行として強力な金融緩和を推進していく所存です。図表14にありますように、具体的には、1月の会合において、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置をそれぞれ必要と判断される時点まで継続することを決定するとともに、金融資産の買入れ等について「期限を定めない買入れ方式」を導入することとしました。

金融資産の買入れ等の措置というのは「資産買入等の基金」を通じて、国債や社債、CP、ETF、REITなど幅広い金融資産を市場から買入れるプログラムです。長めの金利の低下やリスクプレミアムの縮小を促すことを狙いとしています。

図表16をご覧ください。これまでは、「2013年末までに101兆円程度」と期限と規模を定め実行して参りましたが、本年末に現行方式の買入れを完了した後、来年初から、期限を定めず、当分の間、毎月13兆円規模の金融資産の買入れを行うこととしました。今回、期限を定めずこの様な方式を取ることとしたのは、新たに導入した「物価安定の目標」の実現を目指して資産買入れを継続的に行っていくという政策の構えをより明確に示すことが出来ると考えたからです。

貸出増加を支援するための資金供給

図表17をご覧ください。この様に、日本銀行は実質ゼロ金利を継続しながら、市場に多額の資金を供給してきていますが、この極めて緩和した状態にある金融環境を企業・家計がもっと活用していただければ、金融政策の効果が更に強力なものとなります。

この観点から、日本銀行は昨年末、金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促すことを目指し、金融機関が貸出を増やせば、ネット増加額について、低利かつ長期の資金を希望に応じ無制限に資金供給する制度を導入しました。また、本制度導入以前から、成長基盤強化を支援するための資金供給制度として、米ドルを含めた総枠5.5兆円を設置しており、既に4兆円近くが使われています。

政府と日本銀行の政策連携の強化

図表18をご覧ください。1月22日には、今申し上げた金融緩和の一層の強化と併せ、政府と日本銀行は「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という共同声明を発表しています。その中で日本銀行は、金融緩和を推進し、2%の「物価安定の目標」の早期実現を目指すとしており、政府は「機動的なマクロ経済政策運営」に努めるとともに、「競争力と成長力の強化に向けた取組」を強力に推進し、また「持続可能な財政構造を確立するための取組」を着実に推進するとしています。

先ほども申し上げたとおり、わが国にとって日本経済の柔軟性や適応力を回復し、その潜在力を引き上げていくという成長戦略は大変重要です。また、わが国の財政は、諸外国と比較して大変厳しい状況にあります。国債利回りが歴史的な低水準で安定しているのは、ひとえに財政運営に対する市場の信認が保たれているということです。仮にこれが揺らぐようなことがあれば、金利の大幅な上昇が起こり、金融政策の有効性が損なわれることに加え、個人や企業の借入負担が増加するほか、国債を保有する金融機関の経営に打撃を与え、経済に大きな悪影響をもたらします。さらに、国債の利払いを増大させ財政が悪化することにもつながります。このようなことは絶対に避けなければなりません。これは最近のユーロ圏での事例をみても明らかなことだと思います。日本銀行は大量の国債を買入れており、また今後も買入れていきます。持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進していくことは、日本銀行が今後大規模な金融緩和を推進していくうえで、大変重要なポイントです。

以上、縷々申し上げましたが、このように日本銀行は、政府と一体となってデフレからの早期脱却と、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向けて力を注いで参る所存です。

4.おわりに —— 栃木県経済について ——

最後に、栃木県の経済について、お話しさせていただきます。

図表19に纏めてございますが、当地は、工業品出荷額や農産物生産量などで全国トップクラスの品目を多く抱える全国有数の「ものづくり県」です。また、日光国立公園をはじめとする豊かな自然環境、世界遺産である日光の二社一寺(にしゃいちじ)(二荒山神社(ふたらさんじんじゃ)、東照宮(とうしょうぐう)、輪王寺(りんのうじ))などの歴史遺産、豊富な温泉、結城紬や益子焼などの優れた伝統工芸品など、魅力的な地域資源にも恵まれています。交通・流通の面でも、関東平野の北部中央部に位置し、首都圏中心部へのアクセスも容易な恵まれた立地であるうえに、2年前に太平洋に通じる北関東自動車道全線が開通し、東西の軸と南北の軸が交わる結節点として、ますます地理的優位性が高まっています。

さらに、2011年には5年プランである「新とちぎ元気プラン」が策定され、産官学が一体となり、当地の強みを活かした「ものづくり強化」や「観光振興」に向けた様々な取り組みをどんどん進めているところと伺っています。

当地経済は、足もと、海外経済の減速もあって鉱工業生産が全国よりもやや弱めに推移していますが、先ほど申し上げたように海外経済には持ち直しに向けた動きがみられています。また、観光客数は、震災後に大幅に落ち込みましたが、皆様の努力もあって戻りつつあると伺っています。

皆様の取り組みが着実に進展していけば、将来的に大きな成果となって実を結ぶポテンシャルが、当地には十分にあると思います。

今年は、栃木県誕生140年を祝うイベントも開催されます。歴史を礎にしつつ、皆様が元気な未来を築いていかれることを大いに期待しています。地方がそれぞれの強みを活かして元気になれば、日本が元気になります。日本銀行としても、中央銀行としてできる限りの応援をして参りたいと思っております。

ご清聴ありがとうございました。