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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営

宮崎県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 岩田 規久男
2014年2月6日

目次

1.はじめに

日本銀行の岩田でございます。本日はお忙しい中、宮崎県を代表する皆さまとの懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆さまには、日頃から日本銀行鹿児島支店および宮崎事務所の業務運営にご協力を頂いており、この場をお借りして、改めて厚くお礼申しあげます。

ずいぶん昔の話になりますが、高校生の頃、九州一周の旅の途上で、春先の宮崎を訪れました。今回、久しぶりにまたお邪魔することができたのは大変嬉しいことであり、青春時代に目にした日南海岸の眩しさや、菜の花畑の美しさを、懐かしく思い出しております。

さて、私は、長年にわたりアカデミズムの立場から、日本経済の抱える最大の課題がデフレからの早期脱却であり、そのために金融政策の果たすべき役割が決定的に重要であることを、一貫して主張し続けてきました。

昨年3月に副総裁の任をお引き受けしたのも、長い間日本経済を覆ってきたデフレからの脱却を何としても成し遂げたい、また、そのために自分にできることがあるのではないか、という思いを強く持っていたからです。

そうした思いを反映したのが、昨年4月4日に導入を決定した、「量的・質的金融緩和」と呼ばれる新しい政策です。

日本銀行は、この「量的・質的金融緩和」を、消費者物価の前年比上昇率2%という「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続することにしており、長期国債などの買入れによるマネタリーベースの増加を、これまで着実に進めてきました。

実体経済や金融市場の状況をみると、日本経済はデフレ脱却への道筋を着実に辿っていると考えられます。もっとも、私の考えでは、金融政策が本格的な効果を発揮するのはいよいよこれからであり、所期の効果が十分に発揮されるためには、政策のねらいや私たちのコミットメントについて、国民の皆さまに十分理解して頂いているということがとても重要です。

そこで、本日は、皆さまとの意見交換に先立ち、内外経済の現状と先行きについての日本銀行の見方をご説明したうえで、「量的・質的金融緩和」という政策の背景にある考え方について、改めてご説明したいと思います。

2.内外経済の現状と先行き

(1)わが国経済の現状と先行き

まずは、わが国経済の現状と先行きについてです。わが国経済は、企業部門、家計部門のいずれにおいても、生産から所得、支出へという前向きの循環メカニズムが働いていることから、緩やかな回復を続けています。また、物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、上昇品目の拡がりを伴いながらプラス幅を拡大しており、12月は+1.3%となっています。食料およびエネルギーを除いた指数の前年比も改善しており、12月は+0.7%となっています。

先行きも、内需が堅調さを維持する中で、外需も緩やかながら増加していくことから、生産・所得・支出の好循環は持続するとみています。そうしたもとで、わが国経済は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には、潜在成長率を上回る成長を続けていくと予想しています。日本銀行では、先月の金融政策決定会合において、2015年度までの経済・物価見通しの点検を行いました。政策委員の実質GDP成長率見通しの中央値を申し上げると、2013年度は2.7%、2014年度は1.4%、2015年度は1.5%となる見通しです。

物価については、こうした景気展開を受けてマクロ的な需給バランスが改善していくことに加えて、予想インフレ率の高まりを背景に、賃金の上昇を伴った緩やかな物価の上昇が続くと見込んでいます。物価上昇率の見通しを、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースで、やや仔細にみると、本年夏場にかけては、基調的な物価上昇圧力は強まっていく一方、石油製品を中心としたエネルギー関連のプラス寄与が縮小していくことから、1%台前半で推移するとみています。もっとも、その後は需給バランスが一層改善し、中長期の予想インフレ率が上昇していくもとで、次第に上昇率も高まり、2015年度までの見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いと考えています。政策委員見通しの中央値で申し上げると、2013年度は0.7%、2014年度は1.3%、2015年度は1.9%となる見通しです。

(2)先行きのポイント

以下では、今申し上げた経済・物価の見通しが実現していくにあたって注目しているポイントを、内需、外需の順にご説明したいと思います。

消費税率引き上げの影響

内需面では、最初に、消費税率引き上げの影響についてです。この4月から、消費税率は、現在の5%から8%へと引き上げられます。消費税率の引き上げは、税率引き上げ前後の駆け込み需要の発生とその反動と、税率上昇による可処分所得の減少、という2つの経路を通じて経済に影響を及ぼすと考えられます。

前者については、既に、住宅投資や自動車などの耐久財について駆け込み需要がみられていますが、個人消費を中心とするこうした駆け込み需要の影響から、2013年10〜12月、さらには2014年1〜3月の成長率はかなり高めとなる一方、2014年4〜6月の成長率はその反動から一旦落ち込むことが予想されます。もっとも、2014年7〜9月以降は、反動の影響が減衰していくうえ、公共投資が高水準を続け、輸出や設備投資が緩やかに増加していくと考えられるため、景気回復のモメンタムが失われることなく、次第に潜在成長率を上回る成長経路に復していくとみています。

とはいえ、消費税率の引き上げが、家計の可処分所得にマイナスの影響を及ぼす点をとらえて、先行きの景気に慎重な見方をされる方もいらっしゃることと思います。これについては、第1に、政府において各種の経済対策などが講じられること、第2に、税率引き上げは家計部門で以前から相応に織り込まれているとみられること、第3に、財政や社会保障制度に関する家計の将来不安を和らげる効果も期待されることから、マイナスの影響は緩和されると考えています。

このように、消費税率引き上げは、成長率の一時的な振れをもたらし、また、可処分所得にマイナスの影響を及ぼします。しかし、それらを前提として考えても、わが国経済で働いている前向きな循環メカニズムは途切れずに、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けていくと考えています。

雇用・所得動向

そこで、内需面のポイントの二番目として、雇用・所得動向についてお話したいと思います。今回の景気回復については、個人消費や公共投資といった内需が牽引しているという特徴があります。今後も、内需の堅調さが維持されるためには、引き続き、雇用・所得環境の改善が個人消費を支えていくことが重要です。特に、物価が上昇するもとでは、賃金もバランスよく上昇していくことが持続的な成長には欠かせません。

現在の雇用・所得動向をみると、労働需給は緩やかな改善を続けています。失業率は3%台後半、有効求人倍率は1倍台と、リーマン・ショック前の水準まで回復しており、昨年12月の短観における雇用人員判断をみても、非製造業を中心に雇用の不足感は一段と強まっています。こうしたもとで、一般労働者の一人当たりの名目賃金の前年比は、時間外給与や賞与の増加から、小幅のプラスとなっています。また、パートの時間当たり名目賃金も、緩やかな前年比上昇を続けています。

先行きについては、景気回復に伴う労働需給のタイト化が続くことに加えて、企業収益の改善や予想インフレ率の高まりもあって、名目賃金は、やや長い目でみれば、ベースアップを含めた所定内給与の上昇を伴いながら、次第に上昇傾向がはっきりしてくると予想しています。また、経済の好循環実現に向けた「政・労・使」の連携による取り組みも、賃金上昇の動きを後押ししていくと期待されます。このように、雇用・所得環境が今後も改善を続けると見込まれるもとで、個人消費については、消費税率の引き上げが可処分所得の押し下げに働く中でも、基調的には、底堅さが維持されると考えています。

設備投資

内需面のポイントの最後として、設備投資についても触れておきたいと思います。現在、企業収益は改善しており、そのもとで、設備投資は持ち直しています。出遅れていた製造業についても、このところ機械受注が明確に持ち直しているなど、改善傾向がはっきりしてきています。先行きについては、企業収益の改善が続くもとで、予想実質金利の低下などを通じた金融緩和の効果がいよいよこれから本格的に発揮されるようになることから、設備投資は増加基調を辿ると予想しています。製造業の設備投資についても、次にお話しするように、海外経済の持ち直しが進み、輸出が緩やかに増加していくと見込まれるもとで、今後は勢いが増していくと予想しています。

海外経済および輸出

ここで、外需面に話を移したいと思います。わが国の輸出は持ち直し傾向にありますが、なお勢いを欠いています。先行きのわが国の経済を考えるうえでは、今後、輸出の増加が明確化していくことが重要です。

そこで海外経済をみると、現状は、新興国の一部になお緩慢さを残していますが、米欧などの先進国を中心に回復しつつあります。先行きについては、先進国を中心に緩やかに回復していくとみています。先月公表されたIMFの世界経済見通しでも、世界経済の成長率は、2013年の3.0%から、2014年は3.7%、2015年は3.9%と、伸び率を高めていく姿となっています。

地域別にみると、米国経済は、財政協議の進展などから経済の下振れリスクが低下しています。今後、財政面からの下押し圧力が緩和していくもとで、成長率はさらに高まっていくと考えています。欧州経済については、欧州債務問題の帰趨などに注意が必要ですが、周縁国国債の利回りが低下するなど金融資本市場が落ち着いており、景気の底堅さが増しています。中国経済についても、当局が、景気に配慮しつつ、構造問題への取り組みを進めるという立場をとっており、現状程度の成長が維持されるとみています。一方で、ASEANなど新興国の一部では、経済が緩慢な状況が続いています。これらの諸国は、財政赤字や経常収支赤字などの構造的な問題を抱えるもとで、今後暫くは成長に勢いを欠くとみられます。もっとも、中長期的にみれば、米欧や中国の景気回復の影響が及んでいくにつれて、成長モメンタムは次第に強まると予想しています。

こうしたもとで、わが国の輸出が持ち直しつつも、やや勢いを欠いている理由について考えますと、製造業の海外生産シフトといった構造的な要因が作用している可能性もありますが、基本的には、わが国経済と結びつきが強いASEANなどの経済で緩慢な状況が続いていることの影響が大きいとみています。実際、地域別の輸出動向をみると、米国向けは自動車関連を中心に増加傾向にあり、欧州や中国向けも持ち直し傾向にある一方で、ASEAN向けについては弱めの動きが続いています。

もっとも、先行きは、米欧や中国向けの輸出が持ち直しを続けるほか、弱めの動きが続いているASEANなどの新興国向けの輸出についても、それらの国々の成長モメンタムが次第に強まるもとで、持ち直しに向かうと考えています。従って、輸出は全体としてみれば、今後、海外経済の回復につれて緩やかに増加していくとみています。

3.金融政策運営の考え方

(1)「量的・質的金融緩和」の内容と波及経路

ここからは、現在日本銀行が進めている「量的・質的金融緩和」という政策の背景にある考え方についてご説明します。

まず、「量的・質的金融緩和」の内容ですが、大きく二つの柱が存在します。

第一の柱は、2%の物価安定目標の早期達成についての「コミットメント」です。すなわち、「2%の物価安定目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現すること」について、日本銀行が「明確に約束している」ということです。

第二の柱は、第一の柱であるコミットメントを「具体的な行動で示す」ということです。具体的な行動は、「量的・質的」という言葉のとおり、日本銀行のバランスシートの「量」の拡大と「質」の変化の両面に表れています。

「量」の拡大とは、長期国債を中心とした各種資産の買入れにより、中央銀行から金融システムに供給されるマネー(マネタリーベース)を大幅に増加させることです。

「質」の変化とは、リスクのより大きな資産を購入することです。長期国債については、満期の長い銘柄を買入れの対象に含めました。また、資産価格のプレミアムに働きかけるため、ETFとJ-REITの買入れ規模も拡大しました。

こうした二つの柱からなる「量的・質的金融緩和」が実体経済に影響を及ぼしていく波及経路の最初の重要なポイントが、「予想実質金利を引き下げる」という効果です。

「量的・質的金融緩和」によって名目金利が押し下げられる効果と、予想インフレ率が押し上げられる効果が相まって、その差分である予想実質金利を押し下げる方向に作用するというわけです。

予想実質金利とは、皆さんが金融市場で実際に目にする名目金利から、皆さんの予想する将来のインフレ率を差し引いた数値にあたります。

名目金利が「見た目の数字」であるのに対し、予想実質金利は、物価の変化を考慮して、例えば、「国債を買った場合、実質的にどのくらい購買力が増えるのか」ということについての、人々の予想ということになります。

あるいは、一定の名目金利でお金を借りたときに、「物価の変化を考慮すると、実質的な借入れコストはいくらになるか」ということについての、借り手の予想ということでもあります。したがって、予想実質金利が低ければ低いほど、借入れの実質的なコストは低くなるわけです。

予想実質金利が低下すると、様々な面から実体経済における需要が刺激されます。

例えば、予想実質金利が低下すると、現預金や債券投資はこれまでよりも不利になるため、それらの金融資産から株式や土地・住宅等の実物資産、あるいはより金利の高い外貨への資金シフトが起こり、株高や外貨高による資産効果によって、家計の消費が刺激されます。

また、予想実質金利の低下に加え、消費の増加や円安など複数の要因に後押しされた企業は、設備投資に積極的になると考えられますし、円安による輸出の押し上げ効果も期待されます。

こうした消費・投資・輸出・公共投資の各チャネルにおける需要の増加によって、経済全体における需要不足が解消されていけば、おのずとデフレからの脱却が見通せるようになるはずです。

また、需要の拡大を受けた生産の増加が進めば、家計部門では、労働需給が改善し、雇用者所得の増加が消費をさらに押し上げ、企業部門では、企業収益の増加が設備投資を押し上げるという経済の好循環が続いていくと期待されます。

(2)「予想に働きかける」ということ

このように、現在、日本銀行が実施している「量的・質的金融緩和」は、将来のインフレについての皆さんの予想に働きかけることによって、その効果を発揮することを一つの眼目としています。

「人々の予想に働きかける金融政策」というと、どことなく曖昧で、頼りない印象を受ける方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、金融政策に限らず、どんな経済政策も人々の予想形成に影響しないものはありません。それは、人間は将来を予想しながら、現在の行動を決めるからです。したがって、人々の予想を考慮に入れながら政策を運営するということは、とても大切なことです。

また、経済現象に関係する予想については、「予想が結果として自己実現する」という面も重要です。

例えば、多くの人が「この会社の株式の価格は上がる」と予想してその株式を購入すれば、実際にその会社の株価が上昇するといったように、「予想の自己実現化」は現実の世界に大きな影響を及ぼすのです。

これまで長い間、多くの人が「今後もデフレ(物価の下落)が続く」と予想して、消費や投資行動を決めた結果、実際にデフレが助長されたという面は否定できません。つまり、物価についても、デフレ予想がデフレをもたらす、という自己実現的な現象が起きてきたのです。

したがって、デフレから脱却して、安定的な物価上昇を実現するためには、まず、皆さんの予想を「デフレ予想」から「インフレ予想」に変える必要があり、そのための強力な手段として、「量的・質的金融緩和」を進めているわけです。

人々の予想に働きかけることを前面に出した金融政策というのは、過去にあまり例のない試みであるのは確かです。したがって、日本銀行としては、金融政策の新たなフロンティアを切り拓くという気持ちを持って、この政策の遂行にあたっています。

(3)「量的・質的金融緩和」と貸出の増加

さて、ここまでのお話で、「量的・質的金融緩和」の眼目が、予想実質金利への働きかけを通じた総需要の拡大と、デフレからの脱却にあるということをご説明させて頂きました。

これに関連して、「日銀がいくらマネタリーベースを増やしても、金融機関による貸出残高は増加していない。これは政策効果が出ていないことを示しているのではないか」とのご指摘を頂くことがありますので、これについての私の考えを改めてご説明させて頂きます。

デフレが続くと、中小企業を含めた多くの企業が現預金の保有を増やし、資金余剰主体になります。実際、15年近いデフレが続く中で、企業は設備投資を抑制して、現預金を積み上げてきました。その結果、企業の現預金保有残高は約230兆円と、GDPの50%近くにまで達しています。このため、デフレからの脱却が始まってからしばらくの間は、運転資金や設備投資のための資金が手持ちの現預金でまかなわれるほか、好転した企業のキャッシュフローが借入金の返済にあてられるため、金融機関の貸出は必ずしも増加しません。貸出が本格的に増え始めるのは、内部留保では在庫投資や設備投資の資金をまかないきれなくなってからです。

また、デフレからの脱却過程では、株価が大きく上昇する一方、金利先高観が生まれるため、銀行から比較的短期の資金を借りるよりも、増資や起債などにより、資本市場から長期の資金を調達する方が有利であると判断する企業が増えてきます。このことも、デフレからの脱却が始まってからしばらくの間は貸出が増加しにくい理由です。

最近では、2000年代初めの景気回復期の状況が典型的な事例です。この時期は不良債権処理が続いていたことが貸出残高を押し下げていた面もあるので若干の留保は必要ですが、この時も、景気回復が始まってからしばらくの間、金融機関貸出はむしろ減少傾向を辿りました。

昨年末以降の状況をみると、民間銀行貸出の残高は前年比で増加しており、その増加率も伸びています。2000年代初めの景気回復期と比べると、今回の景気回復過程における貸出の伸びは想定よりも強いというのが、私の持っている印象です。

(4)「量的・質的金融緩和」の時間軸と追加緩和

次に、「量的・質的金融緩和」の継続期間と、最近話題になることの多い、将来的な追加緩和措置の可能性についてお話しします。

最近、様々な方と意見交換をする中で、「日本銀行は、2%の物価安定目標が達成されたら、すぐに金融緩和をやめてしまうのではないか」といった誤解が存在すると感じることがありました。「2年で2%」というキャッチフレーズの印象があまりに強かったということかも知れません。

この点については、昨年4月の導入当初から、「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『量的・質的金融緩和』を継続する」という方針を明確にお示ししており、その具体的なタイムスパンとして、「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に2%の『物価安定の目標』を実現する」という約束をしているわけです。

こうした表現が、一般の方々にはなかなか判りづらい面があったかもしれませんが、ここでのポイントは「安定的に持続するために必要な時点まで」という部分です。つまり、消費者物価の前年比上昇率が2%に達したとしても、その水準が先々も安定的に2%近辺にとどまるという見通しが立たない限り、急に金融緩和をやめてしまうということにはならないということを約束しているわけです。

また、何らかのリスク要因によって先々の見通しに変化が生じ、2%の「物価安定の目標」が実現困難となったと判断される場合には、当然のことながら、金融政策運営について必要な調整を行うことになります。このことは、「経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」という表現で、これまでも説明してきたところです。

もっとも、先ほどもご説明したとおり、日本銀行の見通しは、わが国経済は2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調に辿っており、消費者物価の前年比は、2015年度までの見通し期間の後半にかけて、2%程度に達する可能性が高い、というものです。

こうした見通しを踏まえると、金融政策運営については、現在の方針のもとで「量的・質的金融緩和」をしっかりと推進していくことが何より重要だと思っています。

(5)長期国債の買入れペース

金融政策に関するご説明の最後に、やや技術的なお話をさせて頂きたいと思います。

日本銀行は、「量的・質的金融緩和」の下で、長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行うこととしています。

この「約50兆円」は、日銀が保有する国債の増加分から減少分を差し引いた所謂「ネットベース」の数字であり、実際に市場で購入する長期国債の、所謂「グロスベース」の金額は、50兆円をかなり上回ることになります。なぜかというと、過去に買入れた国債の一部が満期償還を迎えるため、償還による保有額の減少を補うための追加的な買入れ(いわば償還金の再投資)が必要になるからです。従って、グロスベースの買入額というのは、過去に買入れた国債の償還額(再投資額)との兼ね合いで増減することになります。

ところが、市場の一部では、このグロスベースの買入れペースの増減が、金融緩和のスタンスの変化を示すものであるかのようにとらえる向きがあるようですので、この場をお借りしてご説明させて頂きます。

グロスベースの買入額が償還額との兼ね合いで増減することがあっても、ネットベースでの買入額が年間約50兆円に相当するペースとなっている限り、「買入れペースの鈍化」とか「量的緩和の縮小」ということではありません。

また、長期国債の買入れにあたっては、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、金融市場の動向などを踏まえて、弾力的かつ柔軟に運用することとしています。そのため、月々の買入額は、金融市場の動向などに応じて変わり得るものです。実際、昨年4月以降の買入額をみると、月によって6〜8兆円程度と幅があります。

こうした点について、改めて皆さまのご理解を頂きたいと思います。

4.おわりに

最後に、宮崎県の経済についてお話しさせていただきます。

当地経済は、2010年から2011年にかけて口蹄疫や鳥インフルエンザ、新燃岳の噴火などの災害が相次いで発生し、大きな打撃を受けましたが、その後、観光面で緩やかながらも改善の動きがみられるなど、徐々に持ち直しの動きに拡がりがみられております。この間、困難に立ち向かわれた地元の皆様方のご努力に対して深く敬意を表したいと思います。

もう少し中長期の視点から、当地経済について見てみると、宮崎県は、豊かな食材に恵まれており、畜産、野菜で全国トップクラスの生産量を誇っている品目が多く、マンゴーや宮崎牛などブランド力の高い品目も有しています。また、古事記や日本書紀に描かれた神話にゆかりのある景勝地や、南国情緒溢れる豊かな自然など魅力的な観光資源も多数存在しています。さらにプロスポーツのキャンプやプロゴルフの大会をホストするなど、スポーツランドとしての存在感を高めています。

消費者のニーズに寄り添うかたちで当地の恵まれた資源や環境を最大限に活用していけば、地域の一段の活性化につなげることができると思います。これは、2012年に5年に一度開催される「全国和牛能力共進会」で史上初の2連覇を達成した宮崎牛や、30年の研究開発を経て2013年末に出荷が始まった「宮崎産キャビア」に代表されるように、長年にわたって地道な努力の成果を花開かせてきた皆様であれば、十分に可能なことだと思います。

今後、東九州自動車道の工事が加速され、2014年度中には宮崎市から北九州市までつながる予定となっているほか、来月には宮崎・台北線の増便も予定されています。交通インフラの環境整備が加速する中、当地が飛躍するチャンスが拡大するでしょう。皆様の様々なご努力が実を結び、当地経済が成長・発展することを祈念して、私からの話を終わらせていただきます。

ご清聴ありがとうございました。