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【講演】非伝統的な金融政策環境の下でのコミュニケーションとフォーワードガイダンス:日本銀行の事例

2014年米国金融政策フォーラムでの講演の邦訳

日本銀行政策委員会審議委員 白井 さゆり
2014年2月28日

目次

1.はじめに

本日は、「2014年米国金融政策フォーラム」にご招待いただき光栄に存じます。また、「非伝統的な金融政策環境下での中央銀行のコミュニケーションとフォーワードガイダンス」について、日本銀行の立場からお話しする機会をいただき、嬉しく思います。

ご存じのように、日本銀行は2013年4月に「量的・質的金融緩和」(QQE)政策を採用しました。ここで、この背景について簡単に振り返りますと、まず2013年1月に日本銀行は物価安定目標として消費者物価(CPI)ベースで2%を採用し、その目標をできるだけ早期に実現することを目指して金融緩和を推進すると約束しました。明確な目標の導入は物価安定に関する政策運営の透明性を高めましたが、その一方で、当時の金融緩和の枠組みの下では2%の達成可能性を疑問視する見方が一部の市場・国民の間で広がりました。そうした見方は、(1)金融緩和措置が小出しで大胆さに欠けるとの認識1、(2)市場・国民との対話が必ずしも効果的でなかった結果としてのデフレ脱却の本気度への疑問、(3)過去に実施した金融緩和の出口タイミングが早かったとの日本銀行の政策判断に対する不信感等を反映していたように思います2

こうした環境の下で、日本銀行は、2%目標の実現性を高めるためにQQEを導入しました。本日は、このQQEについてコミュニケーションを重視した枠組みの特徴、及び狭義のコミュニケーション政策としての「フォーワードガイダンス」についてご紹介します。最後に、金融政策上のコミュニケーションという見地からの課題について私の見解を申し上げます。

  1.   1  包括緩和の導入以降、1回あたり5〜10兆円規模で「資産買入等の基金」の増額を9回実施。国債の買入れの平均残存期間は主に3年までに集中。
  2.   2  主に、2000年8月のゼロ金利政策や2006年3月の量的金融緩和政策の解除タイミングについて言及がなされています。

2.QQEの特徴とフォーワードガイダンス

それでは、QQEの全体像について、それ以前の包括的金融緩和(CME)との違いにも触れながらお話しし、QQEのフォーワードガイダンスについてご紹介します(図表1)。

金利ターゲットからマネタリーベース・ターゲットへ

QQEの最大の特徴は、金融政策の操作目標として金融緩和の「量」を示す指標であるマネタリーベースを採用したことにあります。当座預金残高と銀行券発行残高等から構成されるマネタリーベースの拡大はインフレを連想しやすい通貨の大量供給を意味しますので、国民にも直感的に分かりやすいと考えました。マネタリーベースは、市場参加者が金融取引に際して、各国中央銀行の金融緩和の度合いを判断する材料として、一般的にも用いられています。また、日本銀行がマネタリーベース・ターゲットを採用する際には、幾つかの学術研究がその理論的根拠として勘案されました3。そして、何よりも金融調節の操作目標が金利から通貨量へ切り替われれば、新しい枠組みに転換したというメッセージを強く発信することになり、「コミュニケーション政策」としても有効と判断されました。なお、マネタリーベース・ターゲット達成のための主な手段として国債買入れを位置づけ、買入れ対象年限を残存期間1年以下から最長40年債を含む全年限を対象としました。

  1.   3  日本銀行の金融政策について分析した研究も含め、P. Krugman "It's Baaack: Japan's Slump and the Return of the Liquidity Trap," Brookings Papers on Economic Activity, 1998 (2); 137-205; A. Meltzer, "The Transmission Process," paper presented to the Deutsche Bundesbank Conference on the Monetary Transmission Process: Recent Developments and Lessons for Europe, 1999; B.. Bernanke "Japanese Monetary Policy: A Case of Self-Induced Paralysis?" in Adam Posen and Ryoichi Mikitani, eds., Japan's Financial Crisis and Its Parallels to U.S. Experience, Special Report 13, Institute for International Economics, Washington, D.C., 149-166; and B. McCallum, "Alternative Monetary Policy Rules: A Comparison with Historical Settings for the United States, the United Kingdom, and Japan," Economic Quarterly, Federal Reserve Bank of Richmond, 49-79, 2000等を参照。

予想インフレ率への働きかけ

QQEでは、デフレ脱却を目指してマイナスの長期実質金利を実現するために、他の中央銀行よりも長期の予想インフレ率への働きかけを重視しています。予想インフレ率の上昇によって実質金利がマイナスとなれば、投資や消費が活性化され、インフレ率が更に上昇すると見込まれればそうした活動がより一層促進されます。また、そうした予想により、現在の販売価格や賃金等に影響を及ぼし、需要もある程度喚起される効果があります。そこで、日本銀行としては、我が国に浸透しているデフレマインドを払拭し、インフレ予想を高めるために、日本銀行として実施可能なあらゆる手段を採用することにし、その観点からも「量」を重視するアプローチが適切と判断しました。QQEは、予想インフレ率の引き上げや金融緩和措置の示し方をこれまで以上に重視しているという点で、従来の金融融緩和政策とは異なっています。

QQEで採用しているフォーワードガイダンス

フォーワードガイダンスは、QQEでも重要な柱となっています。これに関して、日本銀行は2013年4月にQQEの導入に伴い、金融緩和の時間軸に関する二つの表現を含む対外公表文を発表しています。第一の表現は、「2%の物価安定の目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」という内容です。第二の表現は、「量的・質的緩和は、2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」という内容です(図表2)。

この第一の表現については、市場・国民に対して、日本銀行が、2%目標を2年程度(インフレ・ターゲッティングを採用する多くの中央銀行が通常想定している期間に相当)で達成するという決意を示すためのものです。この目的のために金融政策の操作目標をマネタリーベースに変更し、それを2年間(暦年2013−14年)で2倍に拡大するように年間約60〜70兆円に相当するペースで増加させています。そしてそのターゲットを達成するために、長期国債の保有残高も2年間で2倍に拡大するように年間約50兆円(残高)ペースで買入れています(図表3)。

市場・国民の中には、この表現が「期間を限定したコミットメント」と捉えた方も多いようです。この背景として、2013年4月に日本銀行がQQEを打ち出した際に、分かり易く伝えるコミュニケーション上の工夫として多用した「2」というキーワード―2%の物価安定の目標、2年程度の期間を念頭において、マネタリーベースおよび国債の保有額を2年間で2倍に拡大、国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長―による強い印象があるようです。すなわち、こうした工夫は新しい枠組みに関する明確なメッセージの打ち出しに成功した一方で、その分、後述する第二の表現への印象を薄め、期限付きの強いコミットメントとの認識を一部に与えたのではないかと思います。個人的には、この第一の表現は、2年程度という「期間ベース」と2%という「閾値ベース」の二つの特徴を兼ね備えたフォーワードガイダンスと解釈されうると考えています。ただし、その場合は、2年程度という期間については、幅を持って解釈されるものだと認識しています。

第二の表現は、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検して金融緩和の継続に関して必要な調整を行うとしていますので、「条件付きのコミットメント」と言えます。これは「閾値ベース」(2%を安定的に持続)のガイダンスで、QQEの継続に関連付けています。また、第一の表現よりも、長期の予想インフレ率を2%程度に安定化させ、長期金利の低位安定にもつながると考えられます。

また、第一の表現が2%の達成自体に、第二の表現が2%の安定的な維持に、それぞれ言及するものと解釈すれば、第一の表現は第二の表現の「必要条件」と捉えることができます。これら二つの表現の時間軸は重複しうるものの、第二の表現の方がより長い時間軸を示唆しています。つまり、資産買入れは2年間に限定されず、閾値ベース(2%を安定的に維持)のガイダンスが達成されるまでは出口に向かわないことを示しています。この観点から、QQEは、2013年4月の対外公表文では先行き2年間についてのマネタリーベースの増額規模を示している一方で、「オープンエンド型」とみなしても良いと思います。従って、二つの表現はお互いに矛盾するものではないと考えています。

以上の枠組みをもとに、日本銀行のベースラインシナリオ(基本的見解)では、見通し期間(2013〜15年度)の後半にかけてコアCPI(総合から生鮮食品を除く指数)の伸び率(消費税率引き上げの直接的な影響を除く)は物価安定目標である2%程度に達する可能性が高いと判断しています4

個人的には、2%の達成期間については、「国内の雇用・所得環境の改善ペース」の動向によっては、ある程度時間がかかる可能性を従来から意識しています。また、「2%の達成後にその水準を安定的に維持する状況」に達するまでには、「安定的である」との判断が必要になることを勘案しますと、さらに時間がかかる可能性もあると思います。この間、金融政策面でのサポートは必要だと思っています。重要な点は、日本銀行が2013年1月に2%目標を導入した際に、この2%という物価上昇率が「持続可能であること」を要件としたことです5。従って、今後の金融緩和の必要性とその内容に掛かる判断は、「安定的に2%が定着する社会の実現」を目指すという目的に照らしてなされていくべきと考えています。

  1.   4  日本の消費税率は、2014年4月に5%から8%へ、2015年10月には10%へと引き上げられる予定です。これらはCPIベースのインフレ率を、2014年には2%ポイント、2015年には0.7%ポイント引き上げると見込まれます。なお、日本銀行がインフレ率を評価する際には、税率引き上げの効果は、一時的なものであるため勘案していません。
  2.   5  2013年1月の政府との共同声明では、「日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取り組みの進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している」と明記しています。日本銀行はこの認識に立って2%の物価安定目標を導入しています。

米国連邦準備制度理事会(FRB)のフォーワードガイダンスとの違い

この日本銀行のフォーワードガイダンスは、FRBが採用するものとは内容が異なっています(図表4)。第一に、FRBは、フォーワードガイダンスを金融政策の操作目標である「政策金利」に適用し、将来にわたって同金利を低水準に維持することを市場・国民に伝えています。つまり、FRBは「短期政策金利の将来にわたる低水準の維持」に関して市場・国民の予想(期待)に働きかけることで、長期金利の押し下げ圧力をかけていると言えます。また、資産買入れについては別の金融緩和手段とみなし、金利政策とフォーワードガイダンスを補完する手段と位置づけているようです。

一方、日本銀行のフォーワードガイダンスはQQE全体に適用されています。金融政策の操作目標であるマネタリーベースの増加ペースが決まれば、おおよそ国債の買入れペースも決まるので、これらはある種の「不可分」の関係として扱われています(図表3)。その上で、フォーワードガイダンスによって、将来にわたってマネタリーベースの拡大と国債を中心とする資産の買入れを維持するとのメッセージを市場・国民に発信しています。つまり、日本銀行では「将来にわたるイールドカーブ全体への下押し圧力の維持」に関して市場・国民の予想に働きかけることで、長期金利の下押し圧力に影響を及ぼしていると言えます。

第二に、日本銀行は、マネタリーベース・ターゲットを達成するための資産買入れ手段として国債の他に国庫短期証券等も買入れており、3か月物(1年物まで可能)を中心に短期の固定金利オペも実施しています6。従って、これらのオペによって短期金利にも直接的に下押し圧力が働いています。これに対して、FRBは、資産買入れは残存期間が4年以上から30年物の長期国債やエージェンシー住宅ローン担保証券(MBS)が中心で、短期金利への働きかけは政策金利のフォーワードガイダンスで実施しています。

第三に、長期の予想インフレ率に関する「想定」が、日本銀行とFRBでは異なっています。FRBのフォーワードガイダンスでは、長期の予想インフレ率は既に2%程度にアンカーされているとの認識が前提となっています。しかし、予想インフレ率が不安定化する懸念は皆無ではないので、金融政策運営上の関心は長期の予想インフレ率をアンカーし続けることに十分注意を払いながら、金融緩和を継続して景気の改善を図ることにあります。それに対して、日本銀行ではまだ長期の予想インフレ率を2%にアンカーさせる状態に達していません。そのため、まずはあらゆる経済主体によるデフレ志向が克服されることを促し、その上で予想インフレ率を2%に向けて安定的に高めていく手順を踏む必要があるのです。このため、フォーワードガイダンスの閾値は「2%」「安定的に2%を維持」という物価関連指標に集中しているわけです。

第四に、FRBのフォーワードガイダンスには失業率の閾値が含まれています。FRBの場合には、法令上、物価安定と最大雇用の実現という2つが責務とされているからです。他方、日本銀行の主たる目的は物価安定の実現にあるほか、失業率自体は諸外国と比べて低水準となっています。既に2013年12月には3.7%まで低下しており、世界金融危機前に記録した近年最低水準である2007年7月時点の3.6%に近づいています。従って、閾値として雇用関連情報を示す必要性は低いと考えられます。正規社員と非正規社員の間での賃金・その他処遇の格差問題やより柔軟な労働規制を求める企業の要望が聞かれるのも事実ですが、これらは構造的な性質を持ち、金融政策の領域を超えています。

  1.   6  この他、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)、コマーシャルペーパー、社債等も買入れています。また、2008年10月から当座預金残高の超過準備に対して0.1%の金利を適用しています。同金利は銀行間市場における取引金利のフロアーとして概ね機能しています。

3.日本銀行のコミュニケーション政策面でのチャレンジ

我が国経済は景気回復を続けており、コアCPIは2013年6月にプラスに転じ、12月には1.3%に達しています。ここには、政府の景気対策や消費税の駆け込み需要も影響していますが、QQEの寄与も大きいと思います。以下では、QQEによって物価安定目標を実現していく上で、コミュニケーション政策という観点から日本銀行にとっての将来的な課題について個人的な見解を申し上げます。

低い水準での長期実質金利の維持と市場参加者とのコミュニケーション

QQE(或いは2012年末からの大幅な金融緩和への期待の高まり)による効果が、明確に表れている点として、実質長期金利がマイナスの領域で推移していることを指摘できます(図表5)。これは主に二つの要因があります。ひとつは、日本銀行による大規模な資産買入れが名目長期金利の下押し圧力を高めていることにあります。このため、我が国では、長期金利の上昇圧力は今のところ限定的です。図表6では、長期金利の変動要因を(主に海外要因を反映した)「共通の要因」と(主に国内要因を反映していると思われる)「その他の要因」とに分けて分析しています。これによると、最近では「その他の要因」による金利下押し圧力が、「共通の要因」による金利上昇圧力を大きく上回っていることを示しています。

もうひとつの要因は、長期の予想インフレ率が2012年末から上昇していることにあります。図表7は、家計およびエコノミストのサーベイをもとに得られた長期の予想インフレ率を、図表8は、市場データをもとにした長期の予想インフレ率を示しています。2012年末以降、全体として予想インフレ率は上昇傾向にあると言えます。ただし、これらのデータには消費税率引き上げの影響を含めている指標もあるので解釈には注意が必要で、増税の影響を除けば、2%からはまだかなり距離があるものも見てとれます。

今後の課題としては、金融市場間の連関性の高まりの影響が考えられます。例えば、海外のある国で長期国債の(名目)利回りが上昇すると、それにつられてその他の国の国債利回りも上昇することがあります。特に、その金利上昇の影響を受けた国が大規模な金融緩和をしている場合には、その緩和効果がそうした金融市場の連関性の効果によって損なわれる可能性があります。我が国の場合、資産買入れとフォーワードガイダンスの効果によって、名目長期金利の上昇ペースに引き続き下押し圧力がかかり続けると予想されます。その結果、それが予想インフレ率の上昇ペースよりも緩慢であれば、実質金利は低水準で推移する可能性が考えられます。今後は、金利の上昇をもたらす様々な影響が生じうる一方、QQEに基づく金融政策運営がもたらす金利の下押し圧力が働くなかで、名目・実質長期金利の変動がある程度抑制されるのか、それらの金利が比較的低い水準で推移していくのかといった動きが、将来の景気回復の継続を考える上で重要になってきます。

こうした動向には、日本銀行のQQEの枠組みへの市場参加者の理解が欠かせませんので、市場をモニターしながら、適宜、コミュニケーションの維持・工夫を講じていく必要があると思います。実際、2013年の4月から7月にかけて国債市場が一時的に不安定化した際には、市場参加者との意見交換会を複数回開催しており、そこでの議論を踏まえた柔軟なオペ対応の実施が市場の安定化に寄与しました。

インフレ見通しについてのエコノミストとの乖離とコミュニケーション

既に述べましたが、日本銀行のベースラインシナリオは、「見通し期間(2013〜15年度)の後半にかけて、2%程度に達する可能性が高い」としています。政策委員の見通しの中央値を見ますと、2013年度は0.7%、2014年度は1.3%、2015年度は1.9%と予測されており、シナリオとほぼ整合的になっています(図表9)7

つぎに、「ESPフォーキャスト調査」が約40人のエコノミスト(多くが金融機関に所属)を対象に実施している物価上昇率の見通しに注目し、予測の分布を見てみましょう。図表10は、エコノミストの見通し(消費税率の影響を含む)の分布が、調査時点が終盤に近付くにつれて、2013年度についてはより高いインフレ率に向けて実現確率を高めながら推移していることを示しています。より緩慢ですが、同じような動きが2014年度についても見てとれます。他方、エコノミスト間の見通しは2014年度と2015年度についてはばらつきが大きいことが示されています。さらに図表11では、エコノミストの予測の平均値と日本銀行の政策委員見通しの中央値を調査時点とともに比べていますが、2013年度についてはエコノミストの見方が日本銀行の見方に近付きながら収斂していることを示しています。2014年度も緩やかですが少しずつそうした収斂傾向が見られますが、2015年度についてはまだかなり見通しに開きがあります。

以上の結果は、2%を達する時期については一定の不確実性があることを示しています。この背景には、(1)国内の雇用所得環境の改善ペース、(2)長期の予想インフレ率の上昇ペース、(3)企業が将来の良好な収益見通しの下で販売価格を引き上げるペース等について、日本銀行政策委員とエコノミストの間で見通しの違いが大きいことによるものと考えられます。

エコノミスト・市場参加者の見方が今後どう推移していくかを見ていくことは、日本銀行にとっても重要です。なぜなら、金融市場の様々な指標、たとえば金利、為替、その他の資産価格の動向は家計や企業の行動に影響を及ぼしますし、その金融市場の指標はエコノミスト・市場参加者の様々な金融資産価格の評価、先行きの物価・経済の見通し等が反映されているからです。これらの指標は、金融政策の変化、マクロ経済指標、様々なニュース、外的ショック等によって大きく影響を受ける傾向があります。そこで、こうしたグループの方々に対しては、日本銀行の見方とのギャップを少しでも埋められるよう、(あ)予測手法に関する意見交換や、(い)分析を含めた金融緩和の波及経路や2%目標を達成するためのQQEの方向性についてのより体系的な説明、といったコミュニケーション上の工夫が重要になってきています。

  1.   7  なお、政策委員間の見通しにはばらつきがみられ、2015年度にかけて最大値と最小値の差は拡大しています。

2%目標の重要性について国民の認識を高めるコミュニケーション

日本銀行が2%の物価安定目標を導入した理由は、(1)再度デフレに陥らないためにある程度の「インフレのバッファー」を残しておく必要性、(2)景気後退局面において「ゼロ金利制約」を回避するために、平常時において柔軟な金融政策の発動余地を維持しておく必要性、(3)CPIの上方バイアス、(4)世界主要諸国・地域の物価安定目標との整合性の確保等を考慮しているからです。また、ある程度の高い名目成長率を実現することは、企業・家計の経済成長期待を高めるためにも不可欠です。しかし、国民の多くはインフレ率の上昇を「好ましくない」と捉える傾向があります。そうしたもとで4月の消費税率引き上げで一時的にインフレ率が2%を超える可能性もある中で、2%目標への理解をいかにして促進するかがコミュニケーション上の課題となりうると感じています。

2%の物価目標のレンジの設定を巡るコミュニケーション

2%の物価目標については、日本銀行がインフレの単一数値ではなく、一定のレンジを導入すべきと指摘する見解があります。しかし、現時点では、これまで通り単一の2%の維持が望ましいと考えています。「レンジ」の考え方を否定するものではありませんが、まずは実際の物価上昇率が安定的に1%を超え、長期の予想インフレ率が上昇を続け2%程度に近づくことが展望できる段階になって、一つの選択肢として検討しうると考えています。そうした状況がまだ見通せない段階で早期に導入すれば、実際のインフレ率がレンジの「下限」に張り付き、2%達成がいっそう難しくなる可能性があります。また、何よりも2%達成に向けた意志が緩んだとみなされ、日本銀行の金融政策への信認を損なう可能性があると思います。

「2%を安定的に維持」という表現の明確化に関するコミュニケーション

最後に、フォーワードガイダンスの第二の表現(2%を安定的に持続するために必要な時点までQQEを継続する)における「2%を安定的に持続する」という表現は、閾値を示す表現としては曖昧な印象を与えているかもしれません。しかし、現時点ではこの表現は適切だと判断しています。それは、長期インフレ期待の形成プロセスについては不確実性があるほか、それが2%程度にアンカーされたのかどうか、あるいはそれがいつ実現しうるのかの判断については様々な指標の性質や動向への十分な理解・分析が必要だからです。とはいえ、長期的な見地に立てば、物価や経済の改善がしっかり見られ、予想インフレ率の上昇プロセスがより明確になるにつれて、この表現についてより詳細な情報を加えて改善していく余地がありうると、個人的には考えています。

以上で、私のお話しを終えたいと思います。

ご静聴、誠にありがとうございました。