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【講演】量的・質的金融緩和と財政健全化の重要性

ジャパン・ソサエティNYにおける講演の邦訳

日本銀行政策委員会審議委員 佐藤 健裕
2014年3月19日

目次

1.はじめに

ジャパン・ソサエティにより講演の機会を与えて頂き、たいへん光栄に思う。また、ただいま温かいご紹介を頂いたEthan Harris氏に感謝する。

私は昨年4月に「量的・質的金融緩和」を決定し、執行する者の一人としてこれを成功に導きたいと強く願っている。デフレから脱却する過程では、政府による財政健全化の取り組みが重要な役割を果たす。本講演では、この点を主たるテーマとして取り上げる。

本日は、まず、日本経済の現状について説明する。特に、「物価安定の目標」の意義や、柔軟な金融政策運営の重要性について述べる。また、「物価安定の目標」が金融市場に及ぼす影響についても述べる。次に、財政健全化の重要性について、国際収支動向や貯蓄投資バランスの変化を含むさまざまな角度から検証する。以下では、楽観論と悲観論を対比させながら、議論を進めることとする。もとより、悲観論は、財政再建の重要性を強調するために、敢えてお示しするものであって、私がとくに悲観論に立っている訳ではないことを予め強調しておきたい。最後に、「量的・質的金融緩和」と財政健全化の関係について述べて講演を締めくくる。

2.日本経済の動向

はじめに最近の経済・物価情勢について簡単に触れたい。

昨年4月の「量的・質的金融緩和」の導入から間もなく1年が経つ(図表1)。その間の国内経済・物価動向は、展望レポートとその中間評価で示した政策委員の中心的なシナリオに沿い概ね順調に推移し、2%の「物価安定の目標」への道筋を辿っている(図表2)。目先の実体経済面での注目点は、4月からの消費税率引き上げの影響だが、前回税率引き上げ時の1997年とは内外ともに経済環境が異なり、日本経済の増税への頑健性は高まっていると判断している。

物価面では、消費者物価のいわゆるコア(除く生鮮食品)の前年比上昇率は、消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースでみて、暫くの間、1%台前半で推移した後、潜在成長率を超える成長の下で、2014年度後半から2015年度にかけて2%の「物価安定の目標」を実現すると政策委員会ではみている。こうした見通しを踏まえ、政策委員会は、現在の資産買入れ方針の下で、「量的・質的金融緩和」をしっかりと推進していくことが適当と考えている。

3.「物価安定の目標」と「量的・質的金融緩和」

柔軟な枠組みとしての「物価安定の目標」

次に、2013年に導入した「物価安定の目標」の意味について述べたい(図表3)。

「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」を2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現することを目指すものである。

「物価安定の目標」の枠組みは、他の主要国の中央銀行が採用するインフレーション・ターゲティング同様、柔軟な枠組みである。すなわち、金融政策の効果は、経済活動に波及し、それがさらに物価に波及するまでに、長期かつ可変のタイムラグが存在する。金融政策は、物価安定の下での持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状と見通しに加え、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら、柔軟に運営していく必要がある。こうした考え方は、各国で広く共有されている。とくに、世界的な金融危機以降、主要国の中央銀行では、金融システムの安定へ配慮することの重要性を対外的に明確にするなど、金融政策運営の柔軟性という視点が強く意識されるようになってきている。その点、「物価安定の目標」は、たとえば2%の物価上昇率をピンポイントで実現するといった硬直的かつ表面的な枠組みではなく、柔軟性のある、経済実勢に即した実践的なものである。すなわち、「物価安定の目標」が目指すのは、単に物価だけが上昇するのではなく、全般的な経済情勢の改善とともに賃金が上昇し、それとバランスよく物価が上昇する世界である。私見だが、そうした世界では、2%の目標といえども上下にアローワンスがあると考えるのが自然であろう。また、「物価安定の目標」は、政策委員会が見通しとして示す消費者物価コアに限らず、賃金の動向等を含む幅広い見地からその達成度合いを評価していくべきであろう。

「量的・質的金融緩和」と長期金利

以上のような「物価安定の目標」の意味を確認した上で、それが実現する場合の市場への影響について考えたい。

「量的・質的金融緩和」は、巨額の国債買入れにより名目長期金利を抑制しつつ、マネタリーベースの積み上げを通じて人々の予想物価上昇率に働きかけ、これを引き上げることで実質長期金利の押し下げを図るという、ほとんど前例のない取り組みである。巨額のマネタリーベースの供給が人々の予想物価上昇率に実際に影響を及ぼし得るかどうかについて知見は分かれる。しかし、15年超にわたるデフレの下で、人々の中長期の予想物価上昇率が1%程度と他の主要先進国・地域との比較で低水準にとどまり、かつゼロ金利制約があるなか、予想物価上昇率への働きかけは、残された数少ない政策手段の一つと認識している。

ここで、改めて「量的・質的金融緩和」が名目長期金利に働きかけるメカニズムを確認したい。名目長期金利は、将来にわたる名目短期金利の予想値の平均にプレミアムを加えた値になるというのが一般的な理解である(図表4)。日本銀行は、「物価安定の目標」を安定的に達成するまで、粘り強く金融緩和を続けていくことをフォワード・ガイダンスとして述べており、これは「将来にわたる名目短期金利の予想値の平均」を押し下げる方向に作用する。一方、満期の長い国債を大量に購入することによって「プレミアム」の押し下げにも貢献している。このようにフォワード・ガイダンスと資産購入により名目長期金利を低位安定させるというメカニズムを期待することは、米国連邦準備制度理事会、イングランド銀行といった非伝統的金融政策を導入している他の中央銀行と異ならない。

ただし、こうした非伝統的金融政策では、政策効果が実際に発現すれば経済・物価情勢の改善を先取りする形で名目金利に上昇圧力がかかるのが自然である。先ほどの整理でいえば、市場は出口が近付いてきたと判断すれば、名目短期金利の予測値を引き上げるからである。名目金利への上昇圧力がかかる下で実質金利を抑え続けることができるかという点で、この政策はナローパスであり、チャレンジングであるが、何としてもやり遂げなければならない。

後で述べるように、中央銀行が名目長期金利水準をコントロールすることには限界があるので、政府による財政健全化の取り組みは極めて重要である。とりわけデフレ脱却の前後では、決定的に重要となってくる。

4.財政健全化の重要性

デフレ脱却と財政を取り巻く環境変化

では、デフレ脱却との関係で、何故政府の財政健全化の取り組みが重要なのであろうか。楽観論に立てば、デフレ脱却実現により中長期的な成長期待が高まるならば、名目長期金利が上昇しても財政構造は依然として頑健である。なぜなら、名目成長率が高まれば税収の自然増を期待できるからである。税収弾性値は、一般に、名目成長率上昇の初期段階で高く、とりわけ法人税収が寄与する可能性が高い。これに対し、政府の利払い費の増加ペースは、国債管理政策面で政府が負債の長期化を進めていること(たとえば、直近2014年度発行国債の平均償還年限は8年5ヵ月)により、当分の間は限られる。政府はデフレ下での民間資金需要が低迷している状況を活用して金利上昇に頑健な財務体質を構築しつつあり、「量的・質的金融緩和」による政策効果と相まって、平均調達コストは足許1%近傍で安定的に推移している。調達の長期化を着実に進めたことで、政府は調達面では時間を買うことに成功している(図表5)。

ただ、こうした楽観シナリオにはリスクがある。高齢化の進展により社会保障給付等の増大を通じて財政には歳出拡大圧力がかかり続ける。高齢化は、労働供給の制約要因になるほか、需要構造にも変化をもたらすため、需要構造の変化に対応した供給面の対応がなされない場合、成長の制約要因となる。高齢化等により成長期待が十分に高まらない場合、財政構造は依然脆弱であり、人口動態を考えると、デフレ脱却が実現しても財政問題は残り続けると保守的にみておくべきであろう。

最近の国際収支動向

ところで、最近の日本の対外バランスをみると、昨年の経常黒字は3.3兆円と比較可能な1985年以降最小であった(図表6)。これは電気機器の貿易黒字がほぼ消滅しつつあることに加え、原発の稼働停止等に伴いエネルギー輸入が大幅に拡大したこと等に因る。四半期では、昨年10-12月期の経常収支は初めて赤字化し、足許1-3月期も赤字の可能性がある。ただし、四半期ベースの経常赤字は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の影響もあって、堅調な内需の下で輸入も堅調なことが影響しており、税率引き上げ後も赤字が恒常的に続くとはみていない。足許の経常赤字は、こうしたやや特殊な状況の下で起こっていることと認識している。

一方、「国際収支の発展段階説」1によれば、人口動態等により、黒字国の経常収支は長期的には赤字に転じるとされ、最近のエネルギー類の名目輸入額の増加は、そうしたプロセスを速めているようにも見える。貿易黒字・赤字や経常黒字・赤字という状態自体は、人々の合理的な経済行動の集積の結果であり、経済厚生に直接影響するものではないので、黒字が善で赤字が悪といった見方は妥当でない。しかし、経常赤字が定着、すなわち国内の貯蓄投資バランスが不足超に転じる場合、以下に述べるように、潤沢な国内民間部門の貯蓄余剰が低利の財政ファイナンスを可能にしてきた状況が長い目で見て変化する可能性がある点には留意すべきであろう。

  1.   1  一国の国際収支構造の長期的なパターン変化を説明する仮説として、クローサーの「国際収支発展段階説」がある。この仮説は、一国経済における国内投資と国内貯蓄のバランス(ISバランス)が、経済の発展(一人あたり国民所得の向上など)に応じて、債務国から債権国へ、最終的には、債権取り崩し国へと発展していく、と説明するもの。

デフレ脱却と貯蓄投資バランスの変化の可能性

デフレ脱却と貯蓄投資バランスは、どのような関係にあるのだろうか。デフレ下の国内民間貯蓄投資バランスは、家計部門の貯蓄余剰が趨勢的に縮小するなかでも企業部門の貯蓄余剰が拡大することで民間部門全体として貯蓄余剰が維持される構図であった(図表7)。これは、デフレ予想の下で、企業が負債の返済によるバランスシート圧縮を経営上の優先課題としてきたことが主因である。いわば、デフレが民間貯蓄投資差額の余剰創出に貢献し、これが政府の国内における低利でのファイナンス維持を可能にする「デフレ均衡」を成立させていた。こうした「デフレ均衡」は、「量的・質的金融緩和」が成功し、日本経済がデフレ脱却に成功した暁には変化する可能性がある。

デフレ脱却の前後での民間貯蓄投資バランスの変化を先読みすることは難しいが、一般論としては、消費・投資需要の喚起により輸入性向が高まるため、所得の海外への漏出が生じる結果、国内民間部門の貯蓄投資余剰は、不足超に転じるかどうかはともかく、縮小に向かうと保守的にみておくべきであろう。

これを企業・家計部門別にみると、まず企業部門の貯蓄余剰は明確に縮小に向かうであろう。デフレ脱却なら企業は財務戦略を180度転換して外部負債を増やしつつ投資を増やすことが合理的となるからである。また、家計部門では、政府や企業部門からの移転等の要素があり一概に言えないが、標準的な経済理論によれば、高齢化によって家計貯蓄率は下押しされる(図表8)。

「量的・質的金融緩和」が成功し、デフレ均衡を脱出する際には、こうした国内民間貯蓄投資余剰縮小の可能性に留意する必要がある。国内民間貯蓄投資余剰が縮小するなかで、仮に財政赤字が不変であれば、経常収支は赤字に転化し政府債務の調達が国内だけでは完結しなくなる。海外投資家は日本の財政状況に鑑みて国内投資家より高めの「プレミアム」を要求し、政府の調達コストは相応の影響を受ける可能性があろう。

そうならないためには、あるいはそうしたショックを和らげるためには、国内民間貯蓄投資余剰が縮小しても問題が表面化しないよう健全な財政運営とすること、あるいは、そうした場合に財政の持続可能性について市場に疑念を持たれないよう、少なくとも財政健全化へのコミットメントを市場に示し、実行し続ける必要があろう。先に述べたように、デフレ脱却なら名目成長率の上昇による税収増という追い風も期待できるので先行きは悲観論一色ではない。

ドーマーの定理

ところで、財政が持続可能であるとは、一般に、「将来の政府債務残高のGDP比率が発散しない」ことであり、理論的にはその条件は「現在の政府債務残高のGDP比率が現在及び将来のプライマリー・バランスのGDP比率の割引現在価値合計に等しい」ことと整理できる。もっとも、ここから財政が持続可能でなくなる政府債務残高のGDP比率の水準といった閾値は先験的に見出すことができず、財政が持続可能であるかどうかは、結局のところ将来のプライマリー・バランス、あるいはそれに対する幅広い経済主体の期待次第という面がある。

一方、財政の持続可能性判定の簡便条件としてしばしば引用される「ドーマーの定理」では、プライマリー・バランスの均衡という前提の下で、経済成長率が金利を上回ると財政は持続可能となる。もっとも、現実には金利が成長率を上回るのが自然な姿であり「ドーマーの定理」は成立しない、との前提で財政の持続可能性を分析するのが今日では一般的になっているようだ。

私見だが、それでも「ドーマーの定理」は財政の持続可能性の判定に一定の示唆があるように思われる。その際、成長率と比較すべき金利は長期金利ではなく政府の平均調達コストであろう。それであれば成長率を上回ることも下回ることもあり得る。実際、政府の調達コストは90年代初頭以降の長期金利低下トレンドの下でほぼ一貫して低下を続け1%近傍となっており、足許では名目成長率を下回る(前掲図表1)。こうしたなか、政府はこれまで金利ボーナスを享受してきた。

悲観的にみれば、先行きデフレを脱却すれば、調達コスト上昇により金利オーナスが発生しよう。しかし、前述のように政府の平均調達年限長期化により金利オーナスが発生するまでには相応の時間的猶予があり、その間に健全化努力を押し進めることができる。

デフレ脱却と日本銀行の対応

では、実際にデフレ脱却で長期金利に影響が及ぶ場合、日本銀行はどのような対応をとるであろうか。

「量的・質的金融緩和」が成功すれば、人々の中長期的な予想物価上昇率は2%近傍でアンカーされ、日本銀行は恐らく出口に向かっているであろうし、市場は実体経済や金融政策の変化の兆しを感じ取り、実際の政策変更よりかなり前の段階で名目長期金利に水準訂正が生じるのが自然な姿であろう。

純粋にマクロ経済的見地からは、名目金利水準の変化は人々の予想物価上昇率の変化の結果であり、仮に実質金利が不変であれば問題ないとも言える。また、楽観的にみれば、先に述べたように、デフレ脱却で税収増を通じた財政好転も見込める。

一方、悲観的にみれば、名目金利水準が不連続に変化することで財政の硬直化が一段と進んだり、金融システムに影響が及ぶ可能性もある。皮肉なことだが、政府債務の大きさ故に、デフレ脱却に成功することが望ましくない波及効果をもたらすかもしれない。

とりわけ金融システムに深刻な悪影響が及ぶような極端な場合には、中央銀行がいくら物価安定に強くコミットしていても、金融システムの安定と物価安定のいずれかの選択に追い込まれる可能性がある。このように、財政の持続可能性への懸念等から中央銀行が物価安定に専念できなくなると、「マネタリストのある不快な算術」2として知られる状況に陥るかもしれない。

こうした悲観シナリオを顕在化させてはならない。日本銀行としては、金利環境の変化の可能性を念頭に置き、ストレス時の金融システムの頑健性をチェックするとともに、金融機関に対してはリスク管理の強化や収益力向上の取り組みを普段から促してきているところである。

一方、政府との関係では、日本銀行の金融政策は、将来における出口のプロセスを含め、あくまでも2%の「物価安定の目標」を実現する観点から実施していくのであって、財政への配慮が金融政策を左右することはあってはならない。金利環境が変化すれば、政府と中央銀行の関係に改めて焦点が当たりやすく、中央銀行による国債価格コントロールへの期待も高まりやすい。しかし、自由な資本移動の下で中央銀行は万能ではない。たとえば、先ほどの名目長期金利の決定メカニズムに即して言えば、仮に、中央銀行が政府の調達コスト抑制のために国債市場への介入を増やしても、中央銀行による国債購入の増加が財政規律を弱めると市場に判断されれば、かえって「プレミアム」部分が上昇する可能性がある。また、中央銀行のバランスシート拡大が望ましいペース以上のインフレを惹起すると市場が判断すれば「将来の短期金利の予想値」が高まるかもしれない。重要なことは、中央銀行が何を意図するかではなく、市場がどう判断するかである。高齢化に伴う社会保障関連支出の増大が見込まれるなかで、今のところ他国対比で日本の国民負担がとりわけ重いとはいえないものの、財政規律について市場にいささかの疑念も持たれないよう、政府による財政再建のための普段からの取り組みが重要である(図表9)。

  1.   2  「マネタリストの不快な算術」の詳細については、Sargent and Wallace (1981) を参照。

financial repressionの妥当性

これに対し、中央銀行は財政に配慮して政策運営すべきとの論調も最近見受けられる。

こうした論者は、中央銀行が物価の安定だけを追求すればよいという考え方に立つと、出口の前後で長期金利上昇を招き、財政の持続可能性が問題となり得るので、そうした問題を回避するには中央銀行は大量の国債を買い続けなければならないと主張する。こうした考え方は、財政の持続性を確保するため中銀が国債を大量に買入れ、名目長期金利水準の抑制を目指すという点で国債価格支持(financial repression)と呼ばれる。

また、財政と物価の関係では、拡張的な財政政策が物価の安定に有効であるとする「物価水準の財政理論(Financial Theory of Price Level, 以下 FTPL)」3がしばしば注目されるが、FTPLは拡張的な財政政策とそれを可能にする中央銀行によるfinancial repressionが暗黙の前提となっている。これは、政府支出が拡大して名目政府債務が増大しても国債価格がある程度維持されるという想定があるためである。さもなくば国債を保有した民間主体は負の資産効果によって需要を削減し、政府支出の拡大をキャンセル・アウトしてしまいかねない。こうなると需給ギャップは改善せず、物価は上昇しないであろう。

しかし、先に述べたように中央銀行が国債価格をコントロール可能かどうかは、中央銀行の意図よりも市場の判断によるところが大きい。こうしたfinancial repressionに対する期待を生まないためにも財政健全化は重要である。

  1.   3  FTPLの詳細については、Sims (1999)、Christiano and Fitzgerald (2000a, b)、Leeper (1991)、Cochrane (2000)、Woodford (1996, 2001)を参照。

5.おわりに

政府の財政健全化へのコミットメント

以上、財政健全化の重要性について縷々申し述べたが、政府は2015年度にプライマリー・バランスの対GDP比での赤字幅を2010年度対比半減させ、2020年度にはこれを黒字化させることを国際的にコミットしている。これに沿い、政府はこの4月から消費税率を8%に引き上げ、さらに2015年10月に10%への引き上げを目指している。高齢化による社会保障関連支出の増大が見込まれるなかで10%への引き上げが財政健全化に十分かどうか議論はあろうが、消費税率の引き上げは重要なステップであることに異論はなかろう。市場も、これまでのところ、こうした政府の健全化努力を評価している。

財政健全化努力の上に成り立つ「量的・質的金融緩和」

足許の長期金利がデフレ脱却の兆しが見えつつあるなかで安定を保っているのは、日本銀行による国債買入れの効果もさることながら、市場その他の経済主体が政府の財政健全化へのコミットメントに信頼を寄せているという要素もあろう。日本銀行の「量的・質的金融緩和」が、万が一にも、financial repressionと市場から判断されないためにも、政府による財政健全化のコミットメントは不可欠である。一方、1990年代半ばの財政構造改革法のように財政再建を急ぎ過ぎて「財政の崖」(fiscal cliff)のようなことを生じさせても問題であろう。現実的な政策運営スタンスとしては、中長期の財政再建に強くコミットしながら、短期的には柔軟性をもって対応するバランスが重要である。その際も政府は中長期のコミットメントを都度確認しながら進めることが望ましかろう。

ご清聴に感謝申し上げる。

参考文献

  • Christiano, Lawrence J. and Terry J. Fitzgerald, "Price Stability: Is a Tough Central Bank Enough?," Economic Commentary, Federal Reserve Bank of Cleveland, 2000a.
  • Christiano, Lawrence J. and Terry J. Fitzgerald, "Understanding the Fiscal Theory of the Price Level," Economic Review, 36 (2), Federal Reserve Bank of Cleveland, 2000b.
  • Cochrane, John H., "Money as Stock: Price Level Determination with No Money Demand," NBER Working Paper, No. 7498, 2000.
  • Leeper, Eric M., "Equilibria under Active and Passive Monetary and Fiscal Policies," Journal of Monetary Economics, 27, 1991.
  • Sims, Christopher A., "The Precarious Fiscal Foundations of EMU," De Economist, 147 (4), 1999.
  • Sargent, Thomas J. and Neil Wallace, "Some Unpleasant Monetarist Arithmetic," Federal Reserve Bank of Minneapolis Quarterly Review, 5 (3), 1981.
  • Woodford, Michael, "Control of the Public Debt: A Requirement for Price Stability?," NBER Working Paper, No. 5684, 1996.
  • Woodford, Michael, "Fiscal Requirements for Price Stability," Journal of Money, Credit and Banking, 33, 2001.