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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策

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秋田県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 森本 宜久
2014年6月19日

目次

1.はじめに

日本銀行の森本宜久です。本日は、秋田県の行政および金融・経済界を代表する皆様方にご多忙の中お集まり頂き、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃より秋田支店の業務運営に多大なご協力を頂いており、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

本日は、当地の各分野における最近の業況や、日本銀行の政策・業務運営に関して皆様方が日々感じておられることなどを直接お聞きしたいという思いで参りました。まず私から、経済・物価情勢を概観したあと、金融政策についてご説明させて頂き、最後に、秋田県経済についても触れさせて頂きたいと思います。その後、皆様方から、当地経済の実情に関するお話や忌憚のないご意見を承りたく存じます。

どうぞよろしくお願い致します。

2.最近の経済・物価情勢

(1)日本経済・物価情勢

日本経済の現状と見通し

まず、日本経済についてお話しさせて頂きます。日本経済は、本年度入り後、耐久財などの個人消費を中心に消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が現れていますが、設備投資を含めた国内需要は、基調としては堅調に推移しており、前向きの循環メカニズムは、労働需給の着実な改善を伴いながら、しっかりと働き続けています。そうしたもとで、景気は基調的には緩やかな回復を続けています。やや詳しくみると、海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は、昨年秋口まで持ち直し傾向をたどりましたが、新興国経済のもたつきに加えて、駆け込み需要への対応から国内向け出荷を優先する動きや米国の寒波などの一時的な下押し要因もあって横ばい圏内の動きが続いています。国内需要についてみると、個人消費や住宅投資は、このところ駆け込み需要の反動がみられていますが、基調的には、雇用・所得環境が改善するもとで底堅く推移しています。設備投資は、1〜3月期のGDPの設備投資が伸びを高めつつ4四半期連続の増加を示すなど、企業収益が改善する中で緩やかに増加しています。公共投資は、各種経済対策の効果などから増加を続け、足もとでは高水準横ばい圏内で推移しています。

先行きの日本経済を展望すると、駆け込み需要の反動の影響から、4〜6月期の成長率は一旦落ち込むとみられますが、雇用・所得環境の改善を受けて個人消費が基調的に底堅く推移するほか、輸出や設備投資は緩やかな増加基調をたどるとみられ、生産・所得・支出の好循環は持続すると考えられます。このため、日本経済は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、増税により腰折れすることなく、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けていくと予想しています。日本銀行が4月に発表した展望レポートにおける政策委員見通しの中央値では、2014年度の成長率は1.1%、15年度は1.5%、16年度は1.3%とみています。

物価情勢

次に物価情勢です。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、昨年6月にプラスに転じた後、12月にかけて1.3%にまでプラス幅を拡大し、このところは1%台前半で推移しています。4月は3.2%となり、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみても1.5%と、3月から前年比がやや拡大していることを踏まえると、堅調な個人消費を背景に、全体として、税率引き上げ分の転嫁が進んでいるように窺われます。先行きは、為替相場の影響を直接的に受けるエネルギー関連品目の押し上げ効果が夏場にかけて剥落するとみられますが、マクロ的な需給バランスの改善を背景に基調的な物価上昇圧力は強まっていくことから、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、暫くの間、1%台前半で推移するとみられます。その後は、経済の好循環が維持されるもと、マクロ的な需給バランスが改善傾向をたどることにより賃金・物価の上昇圧力が強まり、中長期的な予想物価上昇率の高まりとも相俟って、2014年度から16年度までの見通し期間の中盤頃に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いと見通しています。具体的な数値で申し上げると、日本銀行が4月に発表した展望レポートにおける政策委員見通しの中央値では、消費者物価の前年比(除く生鮮食品、消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、2014年度が1.3%、15年度は1.9%、16年度は2.1%とみています。

(2)海外経済情勢

ここで、海外経済について概観しておきたいと思います。海外経済は、先進国が堅調な景気回復を続け、その好影響が新興国にも徐々に波及していく中で、緩やかに成長率を高めていく姿を見込んでいます。IMFが4月に発表した世界の成長率の見通しは、2014年3.6%、15年3.9%と、長期平均を上回るペースへと緩やかに高まっていく見通しとなっています。

主要国・地域別にみると、米国経済については、1〜3月期の実質GDPは、記録的な寒波による影響などから、前期比マイナスとなりましたが、現在は、従来の緩やかな景気回復基調に復しています。先行きについても、緩和的な金融環境が継続することや、財政面の下押し圧力も弱まると見込まれることなどから、堅調な個人消費等の民間需要を中心に、回復ペースは徐々に高まっていくと予想されます。ユーロ圏経済についても、4四半期連続でプラス成長を続けており、緩やかに回復しています。先行きも、過剰債務などの構造問題を抱えるものの、家計や企業のマインド改善などに支えられ、緩やかな回復を続けると考えられます。リスクの面では、ディスインフレ基調の長期化や、ウクライナ・ロシア情勢の影響を注視していく必要があります。中国経済については、不動産関連を中心にやや伸びを低めているものの、安定的な成長が続いています。中国当局は、構造調整を推進しつつも、景気への配慮を続ける方針にあり、既に、幾つかの景気下支え策を打ち出しています。また、先進国を中心に外需の緩やかな改善も続くと見込まれますので、僅かに成長ペースを鈍化させながらも、安定した成長を続けると想定しています。一方、その他の新興国・資源国経済の一部では、経常収支やインフレ率などの面での課題を抱えるもとで弱めの動きが続いています。当面は、成長に勢いを欠く状態が続くものの、金融資本市場が総じて落ち着いて推移するとの前提のもと、先進国の景気回復の好影響から、徐々に成長率を高めていくと見込んでいます。

(3)経済・物価見通しを巡る主な論点

以下では、先ほど申し上げた経済・物価見通しが実現していくに当たって私自身が注目しているポイントを、内需、外需、物価の順にお話ししたいと思います。

家計支出動向と雇用・所得環境

まず、家計支出動向とこれを支える雇用・所得環境についてお話しします。家計支出に関連しては、消費税率引き上げの影響を見極めていくことが重要ですが、個人消費は、雇用・所得環境が改善するもとで、基調的な底堅さが維持されており、反動減の影響は夏場以降減衰していくと考えています。4月入り後の消費動向については、自動車など駆け込み需要が大きかった耐久財を中心に、反動減がはっきりと現れていますが、これまでのところ、企業からは、「反動減の大きさは概ね想定の範囲内であり、消費の基調的な底堅さは維持されている」との声が多く聞かれています。また、百貨店やスーパーなどの小売業界からは、反動減の程度は徐々に縮小してきているとの声も聞かれています。さらに外食や旅行などのサービスでは、底堅い動きが続いています。こうした見方は、景気ウォッチャー調査にも現れており、今後のデータを慎重に確認していく必要はありますが、2〜3か月先の先行き判断は、改善と悪化の境目となる50を上回る水準に回復しています。先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くもとで、団塊の世代を中心とする高齢者の積極的な消費行動もあって、緩やかながらも増加基調が維持されると考えています。住宅投資についても、基調的には、雇用・所得環境の改善や緩和的な金融環境に支えられて、底堅く推移するとみられます。

このように、個人消費や住宅投資が底堅さを維持していくうえでは、雇用・所得環境の持続的な改善が鍵になります。労働需給をみると、完全失業率は3.6%にまで低下、有効求人倍率は1.08倍に上昇しており、いずれもリーマン・ショック前の最も良好な水準並みとなっています。また、3月短観の雇用人員判断DIは、非製造業で1992年12月以来の大幅な不足超となり、製造業でも不足超に転じるなど、労働需給は引き締まり傾向が強まっています。企業側では、建設業や小売業などの人手不足感の強い業種を中心に労働条件の見直しを通じて人材確保を図る動きも広がっており、女性や高齢者の労働参加も高まっています。こうして新たに活用される労働力は、これまでのところ、パートなどの短時間労働が中心ではありますが、所得増加などを通じた需要面への影響のほか、中長期的な成長力の押し上げにもつながっていくと考えられます。

こうした労働需給の引き締まりは、賃金にも影響し始めており、労働者全体の時間当たり名目賃金は、振れを伴いつつ緩やかな上昇に転じています。今春のこれまでの賃金改定交渉では、連合集計で、中小企業を含めた全体で0%台半ばのベースアップ、全体では2.1%程度の賃上げが実現する方向となり、各種調査からは夏季賞与の増加も見込まれています。先行きについても、わが国経済が潜在成長率を上回る成長を続ける中で、企業が正社員を含め採用意欲を高めていることもあって、労働需給の引き締まり傾向は強まっていく可能性が高いとみられますので、失業率は、過剰労働力が解消した状態である構造的失業率並みの水準に向けてさらに低下していくと予想しています。そうしたもとで、賃金そして物価には、上昇圧力がかかっていく可能性が高いと考えています。

設備投資動向

次に、設備投資動向についてお話しします。持続的な経済成長を実現していくうえで、企業収益の改善や需要の増加が前向きな投資につながっていくことが重要です。企業の2013年度決算は大幅な増益となり、14年度についても、現時点の企業の計画はやや保守的となっていますが、堅調な国内需要に加えて、輸出の緩やかな増加や為替相場の動きにも支えられて、改善傾向を続けると予想しています。そうしたもとで、設備投資は、GDPベースの伸びがはっきりとしているほか、機械投資の先行指標である機械受注も増加傾向にあり、先行きも緩やかな増加基調をたどると考えています。

こうした設備投資を支える要因としては、第一に、投資採算の改善があります。実体経済の改善に伴い資本収益率が上昇していくと同時に、予想物価上昇率の高まりなどを反映して実質金利が低下していくため、金融緩和の投資刺激効果は強まっていくとみられます。第二には、潜在需要が大きいことが挙げられます。設備投資は、4四半期連続で増加したとは言え、リーマン・ショックや震災後の落ち込みからようやく回復過程に入った段階ですので、経済活動の水準が高まることで、維持更新投資などの潜在需要が顕在化しやすい状況にあると考えられます。第三に、政府の規制・制度改革や企業の事業再構築など、競争力・成長力強化に向けた前向きな取り組みなどもあって、企業の中長期的な成長期待が高まっていくことも、設備投資を下支えするとみられます。

なお、海外設備投資の動きをみると、過去1〜2年は、リーマン・ショック後の円高の際に決定された投資が本格化した局面であったため、海外設備投資比率が急速に拡大しましたが、このところの為替相場の動きを踏まえると、そのペース自体は、幾分和らいでくると考えられます。

輸出動向

次に、輸出動向についてお話しします。輸出は、わが国経済との結びつきが強いASEANなどの新興国経済のもたつきや、米国の寒波の影響など一時的な下押し要因もあって、横ばい圏内の動きとなっていますが、このところの輸出の弱さの背景には、わが国製造業の海外生産移管の拡大といった構造的な要因も相応に影響している可能性が高いと考えられます。もっとも、やや長い目でみると、これまでの為替円高の修正は、海外生産比率の上昇ペースを鈍化させることなどを通じて、輸出を下押しする程度を和らげる方向に働くと考えています。先行きは、先進国を中心に海外経済が全体として緩やかに回復するにつれて、緩やかながらも増加に転じていくと想定しています。なお、海外経済の動向次第では、輸出が上下双方向に変動する可能性がありますので、今後とも、新興国経済の先行きや、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の動向等を注視していく必要があります。

物価と予想物価上昇率の動向

次に物価動向と予想物価上昇率の動向です。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、為替相場の影響を直接的に受けるエネルギー関連の押し上げ幅が頭打ちとなる一方で、宿泊などのサービス業も含めたエネルギー以外の幅広い品目では、需給バランスの改善などを背景に改善の動きが広がったため、この4月には消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースで+1.5%にまで高まっています。食料や石油製品などのエネルギー関連価格を除いた消費者物価の前年比も昨年3月の−0.8%から+0.8%となり、上昇品目数の割合をみても全体の5割を超えるなど、改善は明確になっています。企業の価格設定行動についても、企業からの聞き取り調査等からは、付加価値を高めて新たな需要を掘り起こしながら販売価格を引き上げるなどの取り組みが奏功しているといった声も聞かれています。

そうしたもとで、需給バランスに対する物価の感応度や短期を含めた予想物価上昇率も高まりつつあるとみられます。3月短観から調査をはじめた企業の物価見通しでは、大企業と中小企業で差はありますが、全産業全規模でみて1年後が1%台半ば、3年後、5年後のいずれについてもややこれを上回る形となっており、先行きの物価上昇率が高まっていくとみているように窺えます。足もとでは非製造業を中心に労働需給が逼迫しつつありますので、今後は、企業や家計も含めて予想物価上昇率の上昇に弾みがつきやすい環境になってきています。ただ、実際の物価上昇率が中長期的な予想物価上昇率に影響を与えていくという側面もありますので、夏場にかけて、仮に既往の円安効果の剥落や反動減による需給緩和の影響で消費者物価上昇の勢いが鈍るような場合に、予想物価上昇率がどのような影響を受けるのか、夏場以降の景気が再び緩やかに回復していく過程も含めて、引き続き注視していく必要があります。

このように、先行きの日本経済は、企業収益が改善し、雇用・賃金や設備投資の増加などを伴いながら実体経済がバランスよく持続的に改善していくもとで、物価上昇率も次第に高まっていく姿を見込んでいます。このところ、わが国のマクロ的な需給ギャップは、国内需要が底堅く推移する一方で、少子高齢化が潜在的な労働供給を減少させる方向に作用していることなどを背景に、過去の長期平均並みであるゼロ近傍となるなど、供給面の問題が顕現化してきました。したがって、中長期的に日本経済の成長率を底上げし、持続的な経済成長を実現していくうえでは、供給力を強化していくことが重要な課題となっています。そのためには、女性や高齢者の活躍推進による労働力の確保や、企業の前向きな投資の促進、さらには規制・制度改革を含めて生産性向上にしっかり取り組み潜在成長力を高めるとともに、そうした供給力の向上に呼応する需要を創造し続けていくことが不可欠です。政府では、成長力底上げのための政策として「日本再興戦略」の実行を加速するとともに、その後の議論も踏まえて、新しい成長戦略の取り纏めを進めており、日本銀行でも成長基盤強化を支援するための資金供給などにも積極的に取り組んでいますので、今後、こうした課題への対応が着実に進み、企業や家計の中長期的な成長期待も高まっていくと考えています。

3.金融政策運営

(1)「量的・質的金融緩和」について

「量的・質的金融緩和」の枠組み

次に、金融政策についてお話しします。日本銀行は、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて、昨年1月に、消費者物価の前年比上昇率で2%の「物価安定の目標」を導入し、4月には、「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、「量的・質的金融緩和」を導入しました。これまでの着実な実施に伴い、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しています。今後も、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続することとしています。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行います。

「量的・質的金融緩和」の具体的な内容としては、第一に、量的な金融緩和を推進する観点から、日本銀行が直接供給する通貨の総量であるマネタリーベース(銀行券と貨幣、日銀当座預金の合計)を年間約60〜70兆円に相当するペースで増加させ、2年間で2倍に拡大させることとしています。第二に、これを実現するため、長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行っています。その際の長期国債買入れの平均残存期間は7年程度とし、長めの金利も含めたイールドカーブ全体に働きかけています。第三に、ETFおよびJ-REITの保有残高が、それぞれ年間約1兆円、年間約300億円に相当するペースで増加するよう買入れを行っています。

「量的・質的金融緩和」の主要な波及経路としては、名目長期金利から予想物価上昇率を差し引いた実質金利の引き下げと、金融機関や機関投資家に貸出や株式等のリスク性資産への投資を促すポートフォリオ・リバランス効果を念頭に置いています。前者の実質金利の引き下げに当たっては、まず日本銀行による巨額の国債買入れにより国債需給を引き締めて、名目長期金利に強力な低下圧力を加えています。そして、「物価安定の目標」の早期実現を明確に約束し、これを裏付ける大規模な資産の買入れを継続することで、経済活動が活発化するとの人々の期待を高め、予想物価上昇率の引き上げを図っています。この結果、予想物価上昇率の上昇に比べて、名目金利の上昇を小幅にとどめることができれば、実質金利を低下させることができます。すなわち、収益力・所得の改善に対し、金利負担は相対的に減少するということですので、実質金利の低下は、企業・家計の投資・消費活動の活性化につながっていきます。「物価安定の目標」の実現に当たっては、こうしたメカニズムが効果的に働くもとで、企業収益や雇用・賃金の増加などを伴いながら実体経済がバランスよく持続的に改善し、それに伴って物価も緩やかに上昇していく、という好循環が続いていくことが大切だと考えています。

最近の金融環境と金融政策運営

次に、金融環境についてお話しします。「量的・質的金融緩和」を着実に進めるもとで、わが国の金融環境は緩和した状態にあります。マネタリーベースは、市場調節方針に沿った年間約60〜70兆円の増加ペースに見合った動きとなっており、前年比4割台半ばの高い伸びを続けています。本年末にかけては、名目GDPの約60%もの規模に相当する270兆円にまでマネタリーベースを拡大していく予定です。

こうした中、企業の資金調達コストは低水準で推移しています。新規の貸出金利は、短期、長期ともに既往ボトム圏で推移しています。こうしたもとで、企業の支払金利は、収益力に比べて十分に低い水準となっています。企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰りは、大企業、中小企業ともに改善傾向が続いており、各種DIは2000年以降の平均を上回る水準となっています。企業の国内での資金需要面をみると、運転資金需要が増加しているほか、医療・福祉といった成長が見込まれる分野や、企業買収に関連する需要の増加がみられています。そうした中、銀行貸出残高の前年比は、2%台半ばのプラスで推移しており、マネーストック(M2)の前年比は、3%台前半の伸びとなっています。

この間、金融資本市場をみると、市場金利は、日本銀行が大規模な国債買入れ等を続けるもとで、長期、短期ともに極めて低い水準で推移しています。短期金利は、長めのタームも含めて0.1%を下回る水準ですし、長期金利は、米独の長期金利が一時上昇した局面でも落ち着いた動きとなっており、概ね0.6%程度で安定して推移しています。株価は、昨年末にかけて、米欧株価の上昇や円安の進行を受けて上昇しましたが、本年入り後は低下し、その後、振れを伴いつつ、横ばい圏内で推移しています。為替市場をみると、円の対ドル相場は、昨年末にかけて円安方向の動きとなった後、このところは、1ドル101円〜102円台の横ばい圏内で推移しています。

これまでにお話ししたような金融経済環境のもと、人々の予想物価上昇率は、実際の物価や賃金の上昇率が高まっていく中で、一段と上昇していくことを想定しており、実質金利の低下を通じた金融緩和効果はさらに強まっていくとみられます。ポートフォリオ・リバランスの動きに関連しては、金融機関の国債保有残高の大幅な減少に比べると、銀行貸出は小幅な伸びにとどまっていますが、このところは、設備投資の増加も明確になってきていますので、金融緩和効果が強まるもとで、次第に伸び率を高めていくのではないかと考えています。このように、現状においては、「量的・質的金融緩和」の実体経済への波及効果が次第に明確になっていく中で好循環が続いていますが、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動からの持ち直しの動きも含め、実体経済の動向と金融政策の効果を丹念に点検していくことが大事だと考えています。

また、わが国の財政は、国際的にみても厳しい状況にありますが、日本経済が持続的な成長を達成していくうえでは、持続的な財政構造を確立することが必須の前提です。この点、政府は、2015年度のプライマリーバランスの赤字の対GDP比を半減する道筋を示すとともに、2020年度までの黒字化を目指していますので、こうした方針のもとで、今後も財政健全化に向けた取り組みが着実に進んでいくことを強く期待しています。

(2)「貸出支援基金」について

次に「貸出支援基金」についてお話しします。日本銀行では、強力な金融緩和に加えて、緩和的な金融環境を企業や家計に最大限に活かして頂けるよう後押しするために、「貸出支援基金」を設けて、低利かつ長めの資金供給を行っています。具体的には、「貸出増加を支援するための資金供給」(貸出増加支援)と「成長基盤強化を支援するための資金供給」(成長基盤強化支援)の二つの制度による取り組みを進めており、この2月に両制度の拡充を行ったところです。

まず「貸出増加支援」は、金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促すことを狙いとし、総枠無制限で、金融機関の貸出増加額の2倍の額まで、4年・固定金利0.1%で資金を供給する仕組みです。貸出増加支援の残高は6月末見込みで約13兆円ですが、この2月の制度拡充時の試算では、金融機関の貸出増加率と同制度の利用率が横ばいで推移すれば、最終的な貸付残高は30兆円程度となると見込んでいます。

次に「成長基盤強化支援」は、成長分野への資金の流れを後押しすることを目的としています。この措置では、医療・介護、環境・エネルギー、農林水産、観光といった成長力強化に資する分野への融資・投資を行う金融機関に対し、円貨については、4年・固定金利0.1%で資金を供給しています。当制度では、1,000万円以上の融資・投資を対象とする総枠7兆円の本則に加え、資本性の資金である出資やABL(Asset Based Lending)という売掛金や在庫等を担保とした融資などを対象とする特別枠や、小口の投融資を対象とした特別枠をそれぞれ5千億円設定しています。さらに、日本銀行が保有する米ドル資金を活用した120億米ドル(1.2兆円相当)の特別枠も設けています。

このところは、経済の好循環が持続するもとで、企業における前向きな投資の機運が高まってきていますので、緩和的な金融環境を活用して、果敢に新しいビジネスチャンスへチャレンジする動きがさらに広がっていくことを期待しています。日本銀行としても、企業の挑戦をしっかりとサポートして参りたいと考えています。

4.おわりに ― 秋田県経済について ―

以上、景気動向や金融政策運営についてお話ししました。最後に、秋田県経済についてお話ししたいと思います。

秋田県経済をみますと、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられていますが、基調としては緩やかな回復を続けています。企業の景況感をみると、短観の業況判断DIは、全国と同様に1991年11月並みの水準にまで回復しています。また、雇用・所得環境は、有効求人倍率が97年以来となる0.88倍にまで回復するとともに、所定内給与も改善傾向にあり、個人消費を下支えしています。

当地の産業構造をみると、様々な分野で強みをもった歴史のある産業が根付いておられるように窺われます。農林水産分野では、秋田米や天然杉、ハタハタなどの多様な品目でブランド力を確立するとともに、流通面も含めた付加価値を高める取り組みを続けてこられ、食品加工でも、日本酒や稲庭うどんなどが全国で存在感を発揮しています。また、製造業では、電子部品産業が広いすそ野で当地経済を支えています。さらに豊富な鉱物資源を背景に発展した非鉄金属工業や石油・エネルギー産業では、優れた技術を活用して、いわゆる「都市鉱山」からのレアメタル抽出や、シェールオイルの商業生産、風力を中心とした再生可能エネルギーの導入など新しい挑戦をしています。人口動態の面では、全国と同様に少子高齢化への対応が課題ですが、当県では、高齢者雇用による労働力確保への取り組みや、民間企業におけるシニア向けサービスの拡充など、高齢化社会への前向きな適応も積極的に進めておられます。

秋田県では、今年度から「第2期ふるさと秋田元気創造プラン」を始動させ、官民一体となって、これらの強みの伸長や課題解決に向けた取り組みを強力に進めておられると伺っています。今後、そうした取り組みが奏功し、秋田県経済の一層の発展につながることを祈念いたします。

ご清聴ありがとうございました。