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【講演】決済システム発展の潮流と中央銀行の役割

FISC創立30周年記念講演会における講演

日本銀行総裁 黒田 東彦
2014年12月2日

目次

1.はじめに

日本銀行の黒田でございます。本日は、金融情報システムセンター(FISC(フィスク)1)の創立30周年記念シンポジウムでお話を申し上げる機会を賜りまして、大変光栄に存じます。FISCは、1984年の設立以来、わが国金融情報システムの安全性の向上と金融サービスの高度化、効率化に多大な貢献を果たしてこられました。その長きにわたる活動に敬意を表しますとともに、この度30周年を迎えられましたことを心よりお祝い申し上げます。

FISCはこの30年間、「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」や「金融機関等のシステム監査指針」をはじめとする各種ガイドライン・基準の策定を行ってこられたほか、金融情報システムの動向を取り纏めた「金融情報システム白書」を毎年刊行するなど、息の長い取組みを続けてこられました。また近年は、インターネットバンキングや電子マネーなど新たな決済手段の登場に伴い、その安全性確保が課題となる中で、そうした課題も踏まえて各種ガイドライン・基準を改訂されるなど、情報システムの諸問題について数々の重要な取組みを推進されています。さらに、各種アンケート調査の実施や、研究会・セミナーの開催など、幅広い調査・研究・広報活動もされています。こうしたFISCの活動は、経済・金融取引を完結させる「決済」の場として提供される決済システムの発展をも支える重要なものであったといえますし、今後も、決済システムが発展していく中で、さらに高まっていくものと思われます。

本日は、FISC創立30周年という大きな節目に当たり、「決済システム発展の潮流と中央銀行の役割」と題して、過去から将来にわたる決済システムの発展の潮流についてお話を申し上げたうえで、決済における中央銀行の役割にも触れながら、日本銀行の現在および今後の取組みなどについて、お話を申し上げたいと思います。

  1.   1  The Center for Financial Industry Information Systems

2.決済システム発展の潮流

ここ数十年のわが国の決済システムの歩みを振り返りますと、わが国決済システムは、「安全性」と「効率性」(使いやすさ)の双方を大きく向上させてきました。これを年代別に、やや思い切って整理してみますと、1960年代央から90年代初にかけての効率性の向上に重点が置かれた時期と、それ以降今日に至る安全性の強化へ軸足が移った時期、といった潮流が見えてくると思います。

まず、1960年代央から90年代初にかけては、金融自由化・国際化や国債発行の増加等を背景に、従来の手作業による方法では大量の決済を行うことが困難となったため、金融機関において決済処理のオンライン化やペーパーレス化が進展し、わが国決済システムの効率性は飛躍的に向上しました。この時期は、主要な決済システムが設立された時期でもあり、例えば、1973年に全国銀行データ通信システム(全銀システム)が、1988年に日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)が、1991年に証券保管振替機構のシステムが、それぞれ稼動を開始しています。

続く90年代以降、決済システムは、それまでに構築された金融機関のコンピュータシステムや決済システムを活用することを通じ、安全性を強化していきます。まず、90年代から2000年代初にかけては、アジア通貨危機やわが国の金融不安などを背景に、決済におけるリスク削減に向けた取組みが進展しました。例えば、日銀ネットにおいて、1994年に資金と証券の同時受渡し(DVP2)が、2001年に即時グロス決済(RTGS3)が、それぞれ実現したほか、2002年には主要中央銀行が実務的にも支援したCLS4の設立を通じ、外国為替取引における受払通貨の同時受渡し(PVP5)などのリスク削減策が導入されました。また、2000年代央までには、現在の日本証券クリアリング機構を含む各種の清算機関(CCP6)も設立されています。

さらに2008年の国際金融危機以降は、決済システムの安全性強化が一段と進展しました。例えば、標準化されたデリバティブについては清算機関の利用が義務付けられるなど、決済に関する国際的な規制の導入が進んだほか、国際決済銀行の支払・決済システム委員会(CPSS7)および証券監督者国際機構(IOSCO8)により、決済システムに関する国際基準である「金融市場インフラのための原則」が、2012年に、2000年代前半に作られた従来の国際基準を強化する形で策定されました。

さて、今後は、決済システムはどのような方向に向かうのでしょうか。この点、昨今のわが国の決済システムを取り巻く環境をみますと、アジアへの企業進出やわが国金融機関のビジネス展開が進むなど、経済活動のグローバル化が一段と進展しているほか、情報技術の一段の進展を背景として、企業・家計の決済へのニーズが多様化しています。決済システムは、こうした幅広いユーザーのニーズに的確に対応するため、安全性を確保する一方で、効率性や利便性の向上を一層重視したサービスの高度化に向けて取組むことが求められていくものと考えられます。

海外では、同様の環境変化を受けて、決済サービスを高度化する動きがみられ始めています。例えば、主要な中央銀行では、早くは2000年代初から、自らが提供する決済システムの稼動時間を大幅に拡大してきています。また、英国では、2008年に銀行振込における24時間365日即時入金が可能となっているほか、欧州では、本年8月に、かねて「単一ユーロ決済圏」(SEPA(セパ):Single Euro Payments Area)の下で進められてきたユーロの資金移動の迅速化・低コスト化等に向けた取組みの一環として、決済のための電文について統一フォーマットが導入されました。

こうした中、わが国においても、既に関係者による取組みが進んでいます。例えば、後ほどお話しします全国銀行協会(「全銀協」)および全銀システムの運営主体である全国銀行資金決済ネットワーク(「全銀ネット」)におけるリテール決済高度化に向けた取組みです。今後とも、幅広い関係者が、海外の動きなども踏まえ、必要な対応を進めていく必要があると考えています。

  1.   2  Delivery Versus Payment
  2.   3  Real Time Gross Settlement
  3.   4  Continuous Linked Settlement
  4.   5  Payment Versus Payment
  5.   6  Central Counterparty
  6.   7  Committee on Payment and Settlement Systems。現在の決済・市場インフラ委員会(CPMI:Committee on Payments and Market Infrastructures)。
  7.   8  International Organization of Securities Commissions

3.決済における中央銀行の役割

今申し上げたような環境変化を踏まえた日本銀行の取組みについてお話しする前に、決済における中央銀行の役割について触れたいと思います。

銀行業にとって決済業務はその中核をなすものですが、「銀行の銀行」である中央銀行の決済業務は、決済システムにおいて非常に重要な役割を担っています。また、中央銀行は金融政策の運営や、金融システムの安定といった政策目的を、バンキングサービスを通じて実現しており、政策を円滑に遂行するうえでも、中央銀行にとって、その決済業務や決済システムは不可欠の基盤となるものです。

決済における中央銀行の役割として、まず挙げられるのは、銀行券や当座預金といったファイナル(final)な資金決済手段の提供です。また、金融機関の間の資金や国債の決済をオンラインで円滑に行うため、金融機関間の決済システムを自ら提供しています9。さらに、中央銀行以外の主体が提供する決済システムについては、それが一国の信用秩序の維持、経済の健全な発展の基盤であることを踏まえ、その安全性と効率性に目配りし、必要があればその改善に向けた働きかけを行うといった、「オーバーサイト」と呼ばれる活動のほか、取引から決済までのマーケットの慣行が適切に整備されるよう、市場関係者とともに考え、その整備を支援していく活動も行っています。

中央銀行は、今後とも、決済システム発展の潮流を見通しながら、自らが金融機関に対して提供する決済サービスの向上や、決済システムの改善に向けた関係者への働きかけや支援などの活動を通じて、金融経済の成長に貢献していくことが期待されていると思います。

  1.   9  このように、中央銀行は、決済システムにおいて自らが提供するこれら資金決済手段(これを「中央銀行マネー」という)を、金融機関等が必要な場面で十分に使われるように確実に提供することを通じて、経済に対して「究極の決済(ultimate settlement)」を提供する役割を果たしている。

4.日本銀行の現在および今後の取組み

次に、日本銀行の現在および今後の取組みの中から、新日銀ネットの構築と稼動時間拡大、クロスボーダー決済改善の検討、リテール決済高度化プラン策定の支援、および国債決済期間短縮化の推進支援の4点について、お話ししたいと思います。

(1)新日銀ネットの構築と稼動時間拡大

日本銀行は、現在、日銀ネットについて、新たなシステム、すなわち新日銀ネットの構築を進めています。

1988年に日銀ネットが稼動を開始して以降、この四半世紀、日銀ネットを巡る環境は、大きく変化してきました。例えば、金融のグローバル化や情報処理技術革新が一段と進展するもとで、世界の主要な決済システムは多様な取引・決済ニーズに柔軟に対応するためのシステム基盤の構築努力を続けています。また、金融機関においては、自らのコンピュータシステムと日銀ネットとを直接接続するコンピュータ接続が普及し、取引の一連のプロセスを一貫処理(STP10)する動きが拡大しています。さらに、CLSを通じたPVP対象通貨の拡大や、国境を跨いだ証券決済システム間の接続など、クロスボーダーでの決済システムの結びつきも一層強まっています。日銀ネットも、こうした決済インフラのネットワーク化や金融取引のグローバル化、さらには今後の金融サービスの内容や様々なニーズの変化にも対応できる仕組みとする必要があります。

2015年10月に全面的に稼動を開始する新日銀ネット11は、まず、第一に、汎用性が高く、今後の発展が期待される、最新の情報処理技術を採用しています。第二に、金融サービスの内容や様々なニーズの変化に柔軟に対応し得るシステムを目指しています。そして、第三に、金融取引のグローバル化や決済インフラのネットワーク化の一層の進展といった金融環境の変化に対応するため、アクセス利便性の向上を目指しており、システム上、長時間稼動を可能としています。

とりわけ、新日銀ネットの稼動時間については、わが国が主要国の中で最も早いタイムゾーン(時差帯)に位置していることをも踏まえ、その機能を金融機関に最大限有効に活用して頂くことを通じて、金融市場の活性化や金融サービスの高度化などに寄与していきたいと考えています。そこで日本銀行では、2016年2月より、当面の稼動終了時刻を、2015年10月の全面稼動時点での19時12から21時まで延長することとしました13。延長される時間帯は、金融機関14にそれぞれの経営判断により任意に利用して頂くことを予定しています。

新日銀ネットの稼動時間延長に関する主要金融機関や業界団体との協議会では、日銀ネットが21時まで延長された場合、アジアの夕刻あるいは欧州の午前中の時間帯に行われた取引の決済を、日本時間の夜間に日銀ネット上で行うことなどが議論されています。例えば、取引先企業のアジア拠点と国内拠点間の当日中の資金の集中や配分、海外の清算機関への日本国債の担保差し入れ、欧州市場における日本国債を担保としたクロスカレンシー・レポといった取引への活用が期待されます。

  1.  10  Straight Through Processing
  2.  11  新日銀ネット全面稼動開始の実施候補日は、2015年10月13日。
  3.  12  現在の日銀ネットの稼動時間は、当預系が19時まで、国債系が16時30分までとなっている。
  4.  13  新日銀ネットの稼動時間拡大(21時まで)の実施候補日は、2016年2月15日。
  5.  14  日本銀行本店と日銀ネットの取引のある金融機関。

(2)クロスボーダー決済改善の検討

さらなる将来に向かっては、アクセス利便性が向上した新日銀ネットを活用しながら、日銀ネットを海外の中央銀行等が運営する資金・証券決済システムと国境を跨いで接続するなどし、円資金や日本国債をいつでもどこでも受渡しできるインフラの整備を図っていく方針です。

この点、アジアにおいてはASEAN+3の枠組みの下、域内のクロスボーダーの証券取引を促進する観点から、証券の引渡しと資金の支払いをクロスボーダーで同時に行うことを可能とする仕組みの構築に向けた議論が進んでおり、日本銀行もこれに参画しています。本年5月には、中期的な将来において各国の資金・証券決済システムを相互に接続していく方向性について財務大臣・中央銀行総裁レベルで合意され、今後、実務レベルでさらなる検討を進めていくこととされています。また、欧州においても、市場参加者と中央銀行によって域内のクロスボーダー証券決済の改善に向けて同様の取組みが進められています。こうした点も踏まえると、将来的には、アジアとそれ以外の地域の市場参加者の間でも、決済インフラ同士をクロスボーダーで接続する可能性について、議論が進められていくであろうと考えられます。

こうしたクロスボーダーの資金・証券決済システムの接続が実現すれば、例えば、自国国債を担保とした外貨調達(クロスカレンシー・レポ)の決済を、安全資産である中央銀行の当座預金を用いながら、DVP方式により行うことが可能となります。そして、こうした円滑かつ安全なクロスボーダー決済の実現が、円資金や日本国債の使い勝手や担保効率の向上、ひいては民間金融機関の収益力の向上等にも繋がっていくものと期待されます。

円資金や日本国債をいつでもどこでも受渡しできるインフラを整備することは、わが国の長年の課題である「円の国際化」を決済の面からサポートするものでもあります。日本銀行としては、新日銀ネットの新たな機能を活用しながら、決済サービスの高度化を図り、わが国経済の中長期的な成長を決済の面からもしっかりと支えていきたいと考えております。

(3)リテール決済高度化プラン策定の支援

リテール決済の高度化については、現在、全銀協および全銀ネットにおいて、全銀システムの稼動時間の拡大と、金融EDIの活用に関する取組みを進めておられます。これらは、政府が本年6月に閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2014」にも掲げられています。日本銀行としては、こうした全銀協および全銀ネットにおける取組みに関し、全銀システムの銀行間決済の場を提供する立場から、積極的に支援していきたいと考えています。

全銀システムの稼動時間の拡大

まず、全銀システムの稼動時間の拡大についてです。わが国において他行顧客間の銀行振込を取扱う中核的なシステムは、全銀システムです。全銀システムは、その稼動を開始した1973年以来、平日日中における銀行振込の即時入金を実現してきたこともあり、長い間、一般顧客に提供される世界最先端のリテール決済システムとされてきました。もっとも、近年では、2008年の英国Faster Payments Serviceを嚆矢として、諸外国において銀行振込の即時入金を24時間365日可能とする取組みが進んでいます。例えば、本年3月にシンガポールがFAST(ファスト)15を導入したほか、オーストラリアでも2016年後半を目途に、これを可能とする予定となっています。また、米国でも、連邦準備銀行が、決済サービスの高度化に向けた取組みを積極化しており、2013年9月、銀行振込の24時間365日即時入金可能化を含めた決済サービスの利便性向上を図ることが望ましいとの将来像を提示しています。

近年、消費者の購買活動などにおけるインターネットの活用が進み、クレジットカードや電子マネーの利用が増加しているほか、モバイル端末などを用いた新たな支払い手段が次々に登場しています。わが国では、銀行口座の保有率が高く、銀行振込はそれ自らが支払い手段としても、また他の支払い手段のインフラとしても重要な役割を果たしています。こうした銀行振込の利便性を、情報技術革新の成果を活かして向上させることで、他の決済手段との競争を通じたイノベーションの促進が図られ、企業・家計の経済活動を下支えするリテール決済の高度化を実現できるのではないかと期待しております。

現在、全銀協および全銀ネットにおいて、決済インフラの高度化、ひいては国民生活の利便性向上を図るために、全銀システム稼動時間の拡大について検討が進められており、今月中に対応の方向性に関する最終報告が公表されることとなっています。また、最終報告公表後も、全銀ネットにおいて、より実務的な取組みが進められるものと思います。日本銀行としては、こうした取組みを積極的にサポートしていきたいと考えています。

  1.  15  Fast and Secure Transfers

金融EDIの活用

次に、金融EDIの活用についてです。企業間では、多くの場合、商品等の代金決済に銀行振込を用いていますが、決済を商品の受渡し時点ではなく、将来の期日にまとめて行うこと(掛売り)が多いため、振込まれた売掛金と請求書とをいちいち手作業で突合させる作業、すなわち売掛金の消込み作業を行っています。特に受発注の多い業界の企業などでは、これが相当の作業負担を伴うものとなっています。こうした問題を改善するものとして注目されているのが、「金融EDI」です。

EDIとは、Electronic Data Interchangeの略語で、商流情報、すなわち企業間の取引に関する受発注・請求データ等の商取引情報を、通信ネットワークを通じて交換することを指し示す言葉です。交換する商流情報は、必ずしも一様ではないことから、その記述に当たっては、現在の画一的な方式に比べて柔軟性と拡張性のあるデータ記述方式であるXML16を用いることが効果的であり、産業界ではXMLを用いたEDIの利用が進んでいます。

さらに、商流情報を支払指図等の資金決済に関する情報(決済情報)に添付する仕組みができれば、先ほどお話しした売掛金の消込み作業をコンピュータによる自動処理で行うことができるようになり、企業における決済関連作業の効率性を向上させる余地は大きいといえます。このように決済情報と商流情報を併せて授受する仕組みのことを金融EDIといいます。

この点、欧州では、単一通貨ユーロのメリットを最大限発揮させたいという明確な戦略の下、XML電文を統一フォーマットとして採用し、金融EDIの活用に向けた取組みを行っています。この取組みは、銀行界・産業界を含む関係機関が十年以上にわたり取組んでいるプロジェクトで、現在、銀行が統一フォーマット対応を終え、取引先企業が従来のフォーマットを使用していても、それを統一フォーマットに変換するような金融サービスを提供するなどしながら、その浸透を図っています。

わが国では、先月、全銀協を中心とする銀行界および金融EDIの活用に関心の高い流通業界において、金融EDIに関する実証システム実験を行っています。このように、全銀協を中心とする銀行界と産業界は今後も連携しつつ、銀行振込における商取引情報の活用の実現に向けた具体的な検討を進められるものと思います。日本銀行としては、こうした取組みについても、積極的に支援していきたいと考えています。

  1.  16  eXtensible Markup Language

(4)国債決済期間短縮化の推進支援

日本銀行では、これまで、日本国債の取引にかかる決済期間の短縮化に向けた市場参加者の取組みについても支援してきました。FISCが設立された1984年には、まだ国債取引に関する標準的な決済期間はなく、約定毎にまちまちという状況でした。その後、1986年から87年にかけて、約定後10営業日以内の特定日17を受渡日とするいわゆる5・10日(ごとうび)決済が実現しました。そして、1996年には約定の7営業日後に決済するT+7のローリング決済、翌97年には約定の3営業日後に決済するT+3のローリング決済が実現し、以後15年にわたりT+3決済が日本国債の標準的な決済期間とされてきました。

T+3決済は、国債決済について早くからT+1決済を実現していた英米を除くと、世界的にもながらく証券決済期間の国際標準だったといえると思います。しかし、2008年の金融危機を契機として、決済が完了するまでの未決済リスクを削減すべく、現在、世界中で決済期間の短縮化に向けた取組みが行われています。欧州では、本年10月から、株式を含む幅広い証券の決済期間が基本的にT+2に移行したほか、米国でも10月に株式等の決済期間のT+2化を検討するための業界横断的な検討体が設置されました18

日本国債の決済については、2012年4月に15年ぶりにT+2決済に移行していますが、現在、さらなる短縮化、すなわちT+1化に向けた取組みが進んでいます。先月、日本証券業協会の下に設けられたワーキンググループが「国債取引の決済期間の短縮(T+1)化に向けたグランドデザイン」という形で、T+1化に向けた課題と対応方針を公表したことは、時宜を得たものと考えています。

決済期間の短縮化は、短期的なメリットが見えにくい一方で、システム投資等の負担が大きいといった見方をされることもあります。しかし、中長期的にみれば、未決済残高の圧縮を通じて決済リスクのさらなる削減が図られるだけでなく、事務の効率化や新たな金融イノベーションの契機となるため、経済全体が得るリターンは大きいといえます。先日公表された「グランドデザイン」でも、「T+1化を契機として、事務の標準化やSTP化を通じて、オペレーショナル(事務)リスクの増大を抑制しつつ決済リスク削減を図る」との方針が示されています。また、新たな担保管理のためのインフラの整備などが提案されているほか、レポ取引の手法に関し、グローバル・スタンダードに則した新現先方式へ一元化する方向性が示されており、わが国国債市場の国際競争力の強化や関連サービスの拡充が展望されています。さらに、国債取引のT+1化に伴って、T+0のレポ取引が主流となることが想定されます。これには、即日の資金取引を行う大規模な市場を新たに創設するという意味もあり、注目しています。関係者のこれまでのご努力を高く評価するとともに、日本銀行としても、T+1化の円滑な実現に向けて、今後も関係者の取組みをサポートしていきたいと考えています。

  1.  17  各月の5日、10日、15日、20日、25日および月末日。
  2.  18  DTCC(The Depository Trust and Clearing Corporation)が、米国証券業金融市場協会(SIFMA:Securities Industry and Financial Markets Association)や投資会社協会(ICI:Investment Company Institute)等、業界の協力を得て設置した。

5.おわりに

決済システムを設計し、実現するためには、幅広い視点から、決済ニーズや決済リスクを把握・分析することが必要です。また、制度設計から、システムや事務体制の構築まで、一定の時間を要するため、中長期的な視点に立った取組みが不可欠です。

先ほど、欧州におけるXML電文を活用した金融EDIの活用に向けた取組みをご紹介しましたが、わが国では、主要な決済システムである日銀ネット、全銀システム、証券保管振替機構のシステムにおいて、XML対応を実現してきており、今後は、これらのシステムを、その参加金融機関が有効活用し、自らが提供する決済サービスの高付加価値化に繋げていくことが期待されます。FISCには、わが国の金融機関がこうした新しい潮流へのチャレンジを円滑に果たしていけるよう、アジアなど海外の関係者とも積極的に連携するなどしながら、「知の触媒」としての役割がますます期待されていくものと思います。

また、いわゆるサイバー攻撃をはじめとする情報セキュリティ分野の新しい課題への対処の面でも重要な役割を果たしていくことも期待されます。サイバー攻撃に対する決済システムの耐性強化に関する関心は、国内外で急速に高まっています。国際決済銀行の決済・市場インフラ委員会(CPMI19)は、先月に、「金融市場インフラのサイバー攻撃耐性」という報告書を公表しています。セキュリティ侵害事例の増加に応じて、影響の重大さへの注目も高まっており、対応の方向性や技術的選択肢についても、新たな知見がみられています。こうした分野に関しても、今後のFISCの調査・研究・広報活動への期待が高まっていくものと思います。

最後に、これまでFISCが、わが国決済システムの発展に貢献してこられた活動に改めて敬意を表するとともに、この30年間辿ってこられた道筋と同様に、今後もますますの発展と役割発揮をされることを期待し、私からの話を終えることといたします。

ご清聴ありがとうございました。

  1.  19  Committee on Payments and Market Infrastructures