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【講演】原油価格と物価安定

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日本記者クラブにおける講演

日本銀行総裁 黒田 東彦
2015年2月27日

目次

1.はじめに

日本銀行の黒田でございます。本日は、伝統ある日本記者クラブにお招き頂き、ありがとうございます。

現在、日本銀行は、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に2%の「物価安定の目標」を実現するため、「量的・質的金融緩和」を推進しています。そのもとで、わが国経済は基調的に緩やかな回復を続けており、物価は企業収益や雇用者所得の増加を伴いながら上昇しています。もっとも、昨年夏以降の原油価格の大幅下落に伴い、このところ消費者物価の前年比プラス幅は縮小しています。こうした中、「2%の達成にはある程度時間をかけるべきではないか」、「そもそも2%を目指すことは困難ではないか」、といった意見も聞かれています。

そこで、本日は、まず、日本経済の現状と先行きについてお話したのち、「物価安定の目標」の考え方と原油価格下落への対応を中心に、最近の金融政策運営を説明します。

2.日本経済の現状と先行き

はじめに、日本経済の現状と先行きについてです。日本経済は緩やかな回復基調を続けています。先行きについても、輸出が緩やかに増加し、国内需要が堅調さを維持すると見込まれるもとで、潜在成長率を上回る成長が続くと考えています。原油価格の下落や昨年末に取りまとめられた政府の経済対策も、こうした動きを後押しすると見込まれます。先月公表した「展望レポート」中間評価における実質GDP成長率の見通しで申し上げると、2014年度は−0.5%となるものの、2015年度は+2.1%、2016年度は+1.6%と予想しています(図表1)。

以下ではポイントとなる2つの点、すなわち、第1に輸出と生産など企業部門の動き、第2に賃金と個人消費など家計部門の動きについて、詳しくお話します。

企業部門の動き:輸出と生産

まず、輸出についてみると、過度な円高水準からの修正にもかかわらず長らく横這い圏内の動きが続いてきましたが、このところようやく持ち直しています(図表2)。地域別にみると、米国向け輸出が、現地の設備投資の回復を反映した資本財・部品の伸びもあって大きめの増加となっているほか、アジア向けも、情報関連財や資本財・部品を中心に伸びています。

世界経済は、先行きも、原油価格の下落もあって、先進国を中心に緩やかな回復が続くと考えています。先月IMFが公表した見通しをみると、2014年に3.3%の伸びとなった後、2015年は+3.5%、2016年は+3.7%と、3か月前の見通し対比では下方修正されているものの、全体として緩やかに成長率を高めていく姿となっています(図表3)。

地域別にやや詳しくみますと、当面の牽引役を担うとみられるのは米国です。雇用の拡大ペースが高まり、ガソリン価格が大幅に下落するもとで、個人消費が堅調に増加しています。こうした家計部門の堅調さは企業部門にも波及しており、先行きも民間需要を中心にしっかりとした景気回復を続けると見込まれます。一方、欧州経済は、回復のモメンタムが弱い状態がなお続いています。もっとも、原油価格下落の影響もあって個人消費が緩やかながら着実な回復を続けているほか、ユーロ安の効果などから輸出に持ち直しの動きがみられており、一段の減速には歯止めが掛かっています。先行きについても、国債買入れの開始などECBの相次ぐ金融緩和措置が景気の下支えに寄与していくとみられるため、緩やかながらも回復を続けると考えられます。中国経済は、成長ペースがやや鈍化していますが、外需の緩やかな改善や当局による景気下支え策の効果が見込まれるため、総じて安定した成長を続けるとみています。中国以外の新興国・資源国については、全体として勢いを欠く状態が続いていますが、先進国の景気回復の好影響が及んでいくにつれて、次第に成長率を高めていくと考えています。

以上のように、世界経済は、先進国を中心に緩やかな回復を続けるとみており、そのもとで、わが国の輸出は緩やかに増加していくと考えています。もちろん、ギリシャ問題を含めた欧州における債務問題の帰趨、構造問題や政情不安を抱える新興国・資源国の動向、地政学的リスクなど、様々な不確実性には十分注意する必要があると思っています。

このように輸出が持ち直し、また後ほどご説明しますように個人消費も全体として底堅く推移する中で、在庫調整が進捗し、生産は持ち直しています。企業収益は改善を続けており、主要企業の売上高経常利益率は、グローバル金融危機前の水準を上回っています(図表4)。こうしたもとで、企業は前向きな事業計画を維持しており、昨年度に続いて設備投資をしっかりと増加させていく姿となっています。今年度は国内投資のウエイトが高まっており、このところ、円高局面で海外生産を進めてきた企業が国内生産を重視する姿勢を示すニュースも目につくようになってきました。先行きについては、緩やかな景気回復基調や輸出の増加、原油価格の下落などを背景に、企業収益の改善が続き、設備投資も緩やかな増加基調を続けると考えています。

家計部門の動き:賃金と個人消費

次に家計部門をみると、企業の前向きなスタンスが、労働需給の引き締まりとそれに伴う雇用・所得環境の改善にも繋がっています。雇用に対する企業の見方をみると、夏場にかけて景気回復にもたつきがみられた中でも、人手不足感が一段と強まっています(図表5)。こうしたもとで、名目賃金は、昨年春以降、振れを伴いつつも緩やかに上昇しています。昨年、長らく実施されていなかったベースアップが多くの企業で復活したことから、所定内給与が前年比プラスとなっています。この冬のボーナスもしっかりと増加しました。このように、名目賃金が上昇し、雇用者数も増加していることから、両者の掛け算である雇用者所得は緩やかに増加しています。こうした雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は全体として底堅く推移しています。消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が長引いていた家電などの耐久消費財でも、秋口以降は改善傾向にあります。先行きについても、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、個人消費は引き続き底堅く推移すると判断しています。

以上申し上げたように、企業・家計の両部門において、所得から支出への前向きの循環メカニズムがしっかりと働き続けるとみられることから、先行きわが国経済は潜在成長率を上回る成長を続けると考えています。

3.「物価安定の目標」と「量的・質的金融緩和」

続いて、金融政策運営についてお話します。まず「物価安定の目標」の考え方について、諸外国の物価安定目標の例にも触れながら、少し掘り下げて説明します。

(1)物価安定目標の考え方

日本銀行を含む多くの中央銀行は、「2%」程度の物価上昇率を目標に、金融政策運営を行っています(図表6)。具体的には、日本、英国、カナダ、ニュージーランドなどでは「2%」をターゲット(Target)として掲げているほか、米国でも「2%」を長期的なゴール(Longer-run goal)としています。また、ユーロ圏では、物価安定の数値的な定義(Quantitative definition)を示すというかたちで目標を示しており、その値を「2%未満かつ2%近傍」としています。このように、表現の仕方は様々ですが、「2%」程度の物価上昇率を目標にして金融政策運営を行うことは、グローバル・スタンダードだといえます。

そのもとで、各国の消費者物価の動きをみると、2%程度で安定しているといわれる米国や英国でさえ、その時々ではかなり広いレンジで推移しています(図表7)。「ある程度期間を均してみれば2%を中心とした動きとなっている」というのが実態です。すなわち、実際の物価上昇率は景気のような循環的な要因や商品市況の変動などによって上下に振れますが、各中央銀行は、中期的に——「景気循環の波を通じて(over the cycle)」と呼ばれることが多いのですが——平均して目標とする水準を達成するように金融政策を運営しているということです。例えば、米国FRBが2012年1月に2%の物価安定目標を導入した際の記者会見において、当時のバーナンキ議長は「ターゲットは中期的な概念であり柔軟なもの」と説明しているほか、オーストラリア準備銀行では「景気循環の波を通じて(over the cycle)平均して(on average)達成することが適切」と明示しています。厳格な物価安定目標を行っているといわれた1990年代半ば頃のニュージーランドにおいても、政府との政策合意文書では、国際商品価格の変動や天災などは、目標を逸脱しても中央銀行総裁が責任を問われない、いわゆる「免責事由」として挙げられていました。

このように、各国では「景気循環の波を通じて」、「平均して」2%の物価上昇率を実現するという考え方が採られています。その際、各中央銀行が政策運営にあたって重視しているのが中長期的な予想物価上昇率の動向です。なぜなら、中長期的な予想物価上昇率が2%程度でアンカーされていれば、言い換えれば、「物価がだいたい2%くらい上がる」ことを前提に企業や家計が行動していれば、景気の循環や一時的な要因により実際の物価上昇率が目標とする水準から離れたとしても、中期的、平均的には目標を達成できる可能性が高いと考えられるからです。

こうした政策運営にあたっての考え方は、昨年夏以降の原油価格の大幅下落を受けた、FRBとECBの対応にもよく表れていると思います。一般に原油価格の下落は、短期的には物価の押し下げ要因として働きますが、前年比でみた影響はいずれ剥落します。そして、やや長い目でみれば、原油を消費する国にとって実質購買力の増加といったプラス効果をもたらすものであり、いずれ物価を押し上げる方向に作用します。したがって、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率が中央銀行の目指す目標にアンカーされており、「一時的に物価が下がってもいずれ2%に戻る」と人々が思っているならば、物価の基調に変化が生じるわけではないので、金融政策面からの対応は必要ないという判断になります。実際、FRBは、原油価格下落の影響から総合ベースの物価上昇率がはっきりと低下する中でも、政策金利を引き上げるという方針を維持しています。その背景として、先月のFOMC後の声明文では、「サーベイ調査による長期的なインフレ予想は安定している」との見方を示したうえで、先行きの物価について、「短期的には一段と下落することが予想されるが、労働市場がさらに改善し、エネルギー価格の下落など一時的な要因が剥落するもとで、中期的には2%に向かって緩やかに上昇していく」との見通しを述べています。一方、欧州についてみると、先般ECBは、国債の買入れを開始することなどを内容とする追加緩和措置を決定しました。その背景として、ドラギ総裁は、原油価格下落を主因とする物価の弱い動きが、賃金交渉や価格設定行動への影響(second-round effect)を通じて、中期的な物価動向を下押しする可能性があると指摘しています。実際、欧州では、景気回復のモメンタムが弱い中で、原油価格下落の影響から物価上昇率が約5年ぶりにマイナス圏まで低下し、中長期的な予想物価上昇率の低下を示唆する指標もみられ始めています。そのため、「物価がだいたい2%くらい上がる」という人々の感覚が崩れてしまう事態、すなわち、2%のアンカーが外れてしまうリスクが懸念される状況にあり、ECBの緩和はこのリスクに対応したものといえます。

(2)2%の早期実現を目指す理由

以上が、物価安定目標の標準的な考え方です。日本銀行の「物価安定の目標」も、基本的には同様の考え方に基づいています。

しかしながら、日本の場合は、出発点となる状況が米国や欧州とは大きく異なります。すなわち、米欧では、従来から2%程度にアンカーされてきた予想物価上昇率をどのように維持するかということが課題となっているのに対し、日本では、長年にわたるデフレのもとで予想物価上昇率は2%よりもかなり低い水準にあり、これを政策的に引き上げるという課題に挑戦しているところです。

そこで、日本の置かれた状況を確認すると、1990年代後半以降、わが国の消費者物価の前年比は、マイナスないし小幅のプラスでの推移、すなわち、「景気循環の波を通じて」、「平均して」みると、ゼロ%近傍での動きとなっていました。このように長きにわたってデフレが続くもとで、中長期的な予想物価上昇率も低下し、人々に「物価は上がらない」という感覚が定着してしまいました。そうした世界では、現金や預金を保有することが相対的に有利な投資戦略となるため、設備や研究開発に投資して新たな挑戦を行う意欲が削がれます。この結果、日本経済の活力は奪われ、これがデフレからの脱却を一段と難しくするという悪循環が発生しました。こうした状況から抜け出るためには、企業や家計の「物価は上がらない」という感覚を、早期かつ抜本的に転換する政策が必要となります。そのための処方箋として導入したのが、「量的・質的金融緩和」です。この政策は、中長期的な予想物価上昇率を2%程度まで引き上げ、そこでアンカーし直し、米国や欧州のように物価が平均的にみて2%程度上昇する経済状況を作り出すことを目指しています。

「量的・質的金融緩和」は、第1に明確なコミットメントとそれを裏打ちする大規模な金融緩和によって予想物価上昇率を引き上げるとともに、第2に巨額の国債買入れによって名目金利に低下圧力を加えることにより、実質金利を低下させ、設備投資など民間需要を刺激するというメカニズムを想定しています。すなわち、波及メカニズムの出発点として、まず予想物価上昇率に点火しようとしたのです。「人々のデフレマインドを転換して、予想物価上昇率を引き上げることができるかどうか」、それはデフレ脱却という目的そのものであると同時に、「量的・質的金融緩和」の成否を握るカギになっています。

このような日本経済の置かれた特殊な状況とその処方箋においては、各国の物価安定目標よりも、「期限」という要素が重要になってきます。日本銀行が「いつかは2%にするので、それを信じて行動を変えて欲しい」と言ったとして、長らくデフレのもとにあった企業や家計が行動を変えたでしょうか。疑問です。日本銀行が、「2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に」という期限を示し、「そのために必要なことは何でもやる」と明確にコミットしたことで、企業や家計の物価観が変化し始め、「量的・質的金融緩和」のメカニズムが動き出したのです。

日本銀行が2%の「早期の」実現にこだわるのは、こうした理由によるものです。米国のように2%にアンカーされた後には、もう少し鷹揚に構えてゆっくりと目指せばよいのかもしれません。しかし、2%に持っていくまでは、人々の期待を変えるだけの「速度と勢い」が必要なのです。デフレ均衡はひとつの安定的な状態ですので、そこに向けて引力が働きます。だからこそ、景気の循環的な振幅や金融・財政面の刺激策にもかかわらず、15年も続いてしまったのです。そこから脱出するためには、ロケットが強力な地球の引力圏から離れる時のように、大きな推進力が必要となります。すでに安定軌道を回っている人工衛星とは違うのです。そして、他国の衛星より低い、例えば高度1%の軌道まで辿り着けば十分ということではありません。低い軌道では、また引力に引き戻される惧れがあるからです。2%の高度は、各国が採用しているグローバル・スタンダードですが、そこには、上昇率が高めに出るという消費者物価指数の「上方バイアス」とデフレに陥らないための「のりしろ」、この2つのグローバルな経験知が込められていると思います。

話をまとめますと、日本銀行の「物価安定の目標」は、枠組みとしては他国の物価安定目標と変わるところはありません。ただ、「デフレ均衡からの脱出」という局面においては、通常よりも強力な手段を使う必要があります。2%の早期実現のコミットメントと異次元の規模の緩和措置によって、予想物価上昇率の引き上げ(あるいはデフレマインドの転換)を、十分な「速度と勢い」で実現していくというのが、「量的・質的金融緩和」の核心なのです。

(3)物価の基調をどう見極めるか

以上の理由により、日本銀行は、2%の物価上昇率をできるだけ早期に実現することを目指していますが、では「どの指標で目指すのか」という質問を頂くことがあります。この点、日本銀行は、多くの中央銀行と同様に、「物価安定の目標」を総合ベースの消費者物価指数で定義しています。ただし、これは一時的にでも2%を達成すればよいということではなく、目指しているのは2%を「安定的に持続する」ことです。したがって、総合ベースの物価指数から、原油などの商品市況や生鮮食品の価格といった短期的に振れやすい要因を識別して、その基調を見極める作業が必要になります。その際、物価指標にはそれぞれ特徴があり、どんな経済情勢のもとでも物価の基調を適切に反映するような単一の指標は存在しません。日本銀行でも、従来から、「除く生鮮食品」や「除く食料・エネルギー」、刈込平均値、上昇・下落品目比率など、様々な角度から消費者物価指数を分析してきました。そのうえで、展望レポートや中間評価における物価見通しでは、これまで物価の基調を比較的よく反映してきた「除く生鮮食品」の消費者物価を用いています。ただ、それでも最近のように原油価格が大幅に変動する場合には、先行きの原油価格の想定をどう置くかで物価見通しが大きく影響を受けてしまうという問題がありました。そこで、1月の中間評価においては、政策委員が見通しを作成する際の原油価格の前提を揃えるとともに、その場合のエネルギー価格の寄与度の試算を公表し、物価の基調をより分かりやすく伝えるよう工夫を施しました。

物価の基調を捉えるためには、こうした各種の物価指標の点検に加えて、需給ギャップと中長期的な予想物価上昇率、その背後にある経済の動きを含めて、総合的に評価する必要があります。また、このうち予想物価上昇率については、市場の指標や企業・家計・エコノミストに対するアンケート調査をみるだけでなく、賃金交渉や企業の価格改定など、企業や家計の行動から物価観の変化を推測することも重要です。この先の経済の動きを作っていくのは、企業や家計が何を考え、どう行動するか、ということだからです。

(4)物価見通しと金融政策運営

そこで最後に、以上のような物価に関する考え方を踏まえて、物価の動向とそのもとでの金融政策運営についてご説明します。

生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、昨年4月には消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースで+1.5%まで改善しましたが、夏場以降の原油価格の大幅な下落を背景に伸び率が鈍化し、直近1月は+0.2%となりました(図表8)。こうした中、日本銀行は、昨年10月、「量的・質的金融緩和」の拡大(いわゆる追加緩和)を決定しました。これは、原油価格の下落そのものに対応したものではありません。原油価格の下落が、現実の物価上昇率の伸び悩みを通じて予想物価上昇率に影響し、デフレマインドの転換が遅延するリスクを危惧したものです。先ほど述べたとおり、予想物価上昇率の上昇は「量的・質的金融緩和」のメカニズムの起点であり、その成否を握るカギです。日本銀行が、2%の早期実現に本気ではないと思われてしまったら、せっかく順調に働いてきた「量的・質的金融緩和」は機能しなくなってしまいます。実際、緩和後に各種の市場が大きく反応したところをみると、それ以前に本気度を疑われていた部分があったのかもしれません。しかし、いずれにせよ緩和後にはその疑いは晴れたということでしょう。

昨年10月以降も原油価格はさらに下がっていますが、デフレマインドの転換は着実に進んでいるとみています。予想物価上昇率に関する指標のうち、ブレーク・イーブン・インフレ率などの市場指標は米欧と同様に下落していますが、エコノミストなどに対するアンケート調査では中長期的な予想物価上昇率は維持されています。企業行動の面でも、昨年に続き今春も、労使双方で賃上げに向けた動きが進展しており、2年連続の賃上げが実現しそうです。10月の緩和措置によって、デフレマインドの転換が遅れるリスクは、ひとまず予防できたと考えています。

また、物価の基調を規定するもうひとつの要因である需給ギャップは、失業率が3%台半ばまで低下するなど、労働面を中心に改善を続けており、先行きも、潜在成長率を上回る成長が続くと見込まれるもとで、改善傾向を辿ると考えられます。この面では原油価格の下落はプラスに働きます。したがって、基調的な物価上昇率は今後もしっかりと高まっていき、前年比でみた原油価格下落の影響が剥落するにつれて、消費者物価の2%達成が見込めるようになります。その時期は、原油価格の動向によって多少前後する可能性はありますが、原油価格が現状程度の水準から先行き緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2015年度を中心とする期間に2%に達すると考えています(前掲図表1)。もちろん、こうした物価の基調的な動きに変化が生じ、「物価安定の目標」の早期実現のために必要になれば、躊躇なく調整を行う方針に変わりありません。原油価格そのものに反応することはありませんが、それが予想物価上昇率にどのような影響を与えるのか、換言すれば、それでもデフレマインドの転換が進んでいくのかどうか、に注目して、政策運営を行っていく考えです。

ご清聴ありがとうございました。