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【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策

群馬県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 木内 登英
2015年3月5日

目次

1.はじめに

本日は、群馬県の各界における皆様と懇談をさせて頂く機会を賜り、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃から日本銀行前橋支店の様々な業務運営に対するご支援を頂いております。この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

本日は、まず私から、海外経済の動向を踏まえた日本の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策につきまして、日本銀行ならびに私の考えをお話させて頂きます。その後、皆様方から、当地の実情に関するお話や、日本銀行の政策運営に対するご意見などをお聞かせ頂ければと存じます。

2.経済・物価情勢

(1)内外経済の現状と先行き

わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けています。先月発表された2014年10-12月の実質GDP(一次速報値)は前期比年率+2.2%と、3四半期振りにプラス転化しました(図表1)。鉱工業生産は2014年10-12月に3四半期振りに前期比プラスに転じ、足もとでは消費税率引き上げ前のピークの水準を回復しています。先行きの鉱工業生産も、以下に述べる内外需要を反映して緩やかに増加していくと考えられ、景気は緩やかな回復基調を続けていくとみられます。

まず、内需をみると、個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、全体としては底堅く推移しています。駆け込み需要の反動が顕著であった耐久消費財でも、乗用車の新車登録台数は昨年7-9月に概ね下げ止まり、その後は軽乗用車の振れが大きいものの持ち直しの動きがみられているほか、家電販売額(実質)は前期比で7-9月から2四半期連続で増加するなど、緩やかな持ち直し傾向にあります。

個人消費を支える雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。ここのところ完全失業率は3%台半ばまで低下しているほか、有効求人倍率も1倍を超える状況が続いています。所定内給与の前年比をみても、昨春のベースアップの影響などからプラス基調で推移しており、全体として持ち直しています。先行きについても、雇用者所得は、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けると考えられます。こうした雇用・所得環境に支えられて、先行きの個人消費も引き続き底堅く推移すると見込まれます。

設備投資は、緩やかな増加基調にあります。機械投資の一致指数である資本財総供給(除く輸送機械)は、7-9月に一旦横ばいとなりましたが、10-12月は再び増加しており、振れを均してみれば緩やかな増加基調にあります。先行指数である機械受注(除く船舶・電力)も7-9月以降は増加しているほか、各種の設備投資計画も総じて良好です。これらの点を踏まえると、先行きの設備投資は、企業収益が改善傾向を辿る中で、緩やかな増加基調を続けると見込まれます。

次に、輸出を取り巻く環境をみると、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています(図表2、3)。主要地域別にみると、米国では、家計部門の堅調さが企業部門に波及するもとで、金融緩和や原油価格下落の効果も加わり、内需主導での回復が続いています。欧州では、一段の減速に歯止めがかかりつつも、回復のモメンタムが弱い状態がなお続いています。中国では、基調として安定成長が続いていますが、製造業部門の設備過剰問題や不動産市場の調整が下押し圧力となり、このところ成長モメンタムが鈍化しています。中国以外の新興国・資源国経済については、全体として勢いを欠く状態が続いています。

こうしたもとで、輸出は持ち直しています。実質輸出は7-9月に前期比プラスに転じ、2四半期連続で増加しています。先行きについては、リスク要因としてギリシャ情勢を含む欧州債務問題の帰趨などがあるものの、海外経済が米国を中心に先進国主導で緩やかな回復を続ける中で、為替円安による競争力改善や一部生産の国内回帰の影響も相俟って、輸出は緩やかに増加していくとみられます。

最後に、物価情勢に目を転じると、消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、昨秋以降の原油価格の大幅下落などを背景として、伸び率が縮小しており、直近1月は+0.2%となりました(図表4)。先行きについても、エネルギー価格の下落を反映して、当面プラス幅を縮小することが見込まれます。

(2)2016年度までの見通し

足もとの経済・物価情勢は以上のとおりですが、日本銀行は昨年10月に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の中間評価を1月に行い、2016年度までの経済・物価見通しを改定しました(図表5)。

政策委員見通しの中央値でみると、成長率については、2014年度は-0.5%と10月時点対比で下振れる一方、2015年度は+2.1%、2016年度は+1.6%と、原油価格の大幅下落と政府の経済対策の効果もあって上振れ、潜在成長率を大きく上回ることが見込まれています。消費者物価については、基調的な動きに変化はないものの、原油価格の大幅下落の影響から2015年度にかけて下振れ、2016年度は概ね不変と見込んでいます。これは、原油価格(ドバイ)が1バレル55ドルを出発点として先行き緩やかに上昇していくとの前提のもとで、原油価格下落の影響が剥落するにつれて、消費者物価は次第に伸び率を高めていくと見込んでいるためです。

3.経済・物価見通しを巡る主な留意点

私自身は、景気は今後も緩やかに回復を続けるとみているものの、前述の展望レポートの中心的な見通しに比べると、経済・物価見通しについてより慎重な見方をしています。以下では、こうした私自身の見方に基づき、先行きの見通しに関する留意点を述べたいと思います。

(1)日本経済の成長力

供給面から日本経済の実力に見合った成長ペースを示す潜在成長率は、日本銀行の推計では、このところ0%台前半ないし半ば程度と低い水準にとどまっています(図表6)。また、設備投資は増加基調に転じているものの、企業の資本ストックの蓄積ペースはなお緩やかであることなども踏まえると、この先、潜在成長率が短期間で顕著に上昇する姿は見込み難いと考えられます。他方で、同じく日本銀行の推計でみると、需給ギャップはここのところ概ねゼロ近辺の中立水準で推移しており、OECD推計に基づく国際比較でみても良好な水準にあるほか、労働需給はかなり逼迫した状態が続いています(図表7、8)。これらの推計結果は幅を持ってみる必要がありますが、仮にこうした環境の下で潜在成長率を大きく上回る成長ペースが続けば、人手不足など供給制約が強まっていくと予想されます。私自身は、潜在成長率から大きく乖離していない緩やかな成長ペースが続くことで、安定した経済・物価環境が維持される公算が大きいとみています。

(2)原油価格下落と世界経済

産油国から非産油国への所得移転を促す原油価格の下落は、両者の需要の価格弾性値の違いなどから、全体としては世界経済にプラスになりやすいと考えられます。しかし、そうした中でも金融市場がリスクオフモードに振れることが少なくない背景には、原油価格下落が産油国の通貨下落や経済・財政リスクの高まりを意識させることに加えて、原油価格の下落がもたらすプラス効果の程度について市場がなお測りかねていることもあるように思います。

このうち、プラス効果の程度を測るうえでは、原油価格の下落が米国の景気にどの程度恩恵をもたらすかが注目されます。この点、米国でのエネルギー消費効率の高まり等の構造変化によって、原油安は期待ほどには個人消費を押し上げない可能性があるほか、石油関連産業の設備投資の減少や、産油国を含む海外景気の下振れによる輸出の減少につながる可能性も考えられます。また、原油価格の下落によるプラス効果が見込まれる中でも、多くの先進国および新興市場国での中期的な成長期待の低下に起因する投資の弱さなどを理由に、IMFでは直近の世界経済見通しを下方修正した点も注目されます(前掲図表3)。これらも勘案して、私自身は、日本の輸出を左右する要因となる海外景気については下振れリスクをより意識しています。

(3)消費動向

消費マインド指標は、足もとでやや持ち直しの兆しが見られるものの、昨年夏場以降、弱めの動きを示しています。その背景には、物価上昇率と賃金上昇率との乖離による実質賃金の低下への懸念もあるのではないかと思います(図表9、10)。この点、足もとで物価上昇率の鈍化傾向が見られる中、昨年に続いて今春もベースアップを含めた賃上げが実現すれば、両者の乖離が縮小あるいは解消し、消費マインドひいては個人消費に好影響が及ぶと考えています。但し、仮に主要企業で相応のベースアップが実施されたとしても、経済全体でみた所定内給与の上昇率との間には乖離が生じ得ます(図表11)。その理由としては、中小企業の賃上げ動向も全体の方向性を左右することや、非正規労働者の多くはベースアップの対象にならないこと、相対的に賃金水準が低い非正規労働者の構成比率の高まりが賃金の平均水準を押し下げている面があることなどが考えられます。こうした点を踏まえると、労働需給の改善傾向が続く中でも、先行きの実質所得の改善ペースは緩やかなものにとどまり、個人消費もそれに見合った緩やかなペースでの増加を続ける可能性が高いと考えています。

(4)物価見通し

物価見通しについて、私自身は、昨年10月の「展望レポート」で、「消費者物価の前年比は、2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い」との記述を修正する議案を出しており、その後も中心的な見通しより慎重な見方を維持しています。

物価見通しと需給ギャップの関係をフィリップス曲線で整理すると(図表12)、消費者物価の前年比が2%程度に達するためには、需給ギャップの改善に物価が比較的明確に反応していく(傾きのスティープ化)とともに、フィリップス曲線自体も中長期的な予想物価上昇率の高まりを反映して上方シフトしていくことが必要です。

しかし、「量的・質的金融緩和」の導入以降、需給ギャップは大幅に縮小して過去1年近くにわたり概ね中立水準を維持し、その間円安の動きもみられましたが、物価の上昇ペースは、原油価格下落の影響を受け難い、食料およびエネルギーを除くベースの消費者物価でみてもなお緩やかにとどまっています。こうした現状を前提とすれば、先行き原油価格下落の影響が剥落していき、需給ギャップが更に改善していくとしても、物価の上昇ペースは引き続き緩やかなものにとどまるとみられます。

4.金融政策運営

日本銀行は、昨年10月末の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」を拡大しました。具体的には、これまで年間約60〜70兆円のペースで拡大してきたマネタリーベースを年間約80兆円拡大することとしたほか、日本銀行の長期国債保有残高の増加ペースを年間約50兆円から年間約80兆円とし、ETFやJ-REITの買入れも3倍にしました(図表13)。

「量的・質的金融緩和」の拡大については、政策委員会メンバーの間で慎重な意見もありましたが、採決の結果、その実施が決定されました。私自身は、「量的・質的金融緩和」が既に相応の効果を挙げて、日本経済の潜在成長力に照らして経済・物価は概ね安定した状態を取り戻している中、拡大の効果はそれに伴うコストや副作用に見合わないとの考えから、この決定に反対し、その後の会合でも拡大以前の方針が適当であると考えて反対票を投じています。その背景にある考え方は、私が「量的・質的金融緩和」の導入時点から続けている提案、すなわち、(1)2%の「物価安定の目標」の達成時期を2年程度ではなく中長期の目標とすること、(2)「量的・質的金融緩和」を2年程度の集中対応措置と位置付け、その後必要に応じて柔軟に見直すこと、とも密接に関わっています。以下では、そうした点も含めて、金融政策運営を巡る幾つかの論点について、私自身の考えを申し上げたいと思います。

(1)「物価安定の目標」について

日本銀行が掲げる2%の「物価安定の目標」は、物価上昇率を安定的に2%程度で持続させることを目指すものです。その実現のためには、企業や家計が経済活動の前提とする中長期の予想物価上昇率が2%程度の水準で安定することが必要ですが、なお相応の距離があるといえます(図表14)。

私自身は、日本の中長期の予想物価上昇率は、潜在成長率などの供給側の要因で決まる部分が大きいと考えています。従って、2%の「物価安定の目標」の実現には、金融緩和で作り出した良好な経済・金融環境を活かしながら、幅広い経済主体が成長力強化に向けて息の長い取り組みを行っていく必要があり、その取り組みが順調に進んでも、目標の実現には相応の期間を要すると考えています。私が2%の「物価安定の目標」について、2年程度ではなく中長期の目標と位置付けることを提案しているのもそのためです。

金融政策では、緩和的な金融環境の維持を通じて、こうした取り組みを粘り強く側面から支援していくことが重要ですが、既に述べたように、潜在成長率が依然低水準にとどまる一方、経済の需要面に働きかける金融政策の効果もあって、需給ギャップはここのところゼロ近傍となっています。こうした中、短期間で経済の実力以上に物価を押し上げようと過度に緩和を強化すれば、経済ひいては物価の安定をむしろ損ねてしまうリスクがあります。私としては、「物価安定の目標」の達成期間を柔軟化して、緩やかでも息の長い景気回復を実現し、その間に生産性上昇率や潜在成長率を高める取り組みが着実に進められるように金融面からサポートすることが、国民経済の健全な発展のためにも、また政策運営に対する信認という観点からも、望ましいのではないかと考えています。

なお、成長力強化に向けた取り組みの進展に伴って潜在成長力が上がり、それに見合った安定的な物価水準も上昇すると考えられますが、短期的には、そうした取り組みの一環である規制緩和で特定分野の価格が下がるなど、物価に下方圧力が加わる可能性もあります。こうした点からも、「物価安定の目標」は柔軟に運営される必要があると考えています。

(2)「量的・質的金融緩和」の拡大

2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際、私自身は、一定期間に限れば効果が副作用を上回るぎりぎりの規模と判断し、その具体的な緩和策に賛成しました。しかし、私自身は、導入当初から、この規模の緩和策が長期化あるいは強化されれば、むしろ副作用がプラス効果を上回り、長い目でみた経済・物価の安定を損ねるリスクが高まると考えており、先般の拡大についても効果はコストや副作用に見合わないと判断しました。

拡大の効果の面をみると、追加措置によって金利が更に低下しても、名目金利は既に歴史的な低水準にあり、世界的に予想物価上昇率が高まり難い環境のもと、政策効果をもたらす実質金利の低下余地は小さいと考えられます。また、期待に働きかける経路を通じた効果は、「量的・質的金融緩和」の導入時には相応の効果を持ち得たとしても、追加措置による効果は導入時と比べてかなり限定的なものになるとみられます。

他方で、拡大のコスト・副作用の面では、市場機能の一段の低下や、一層の金利の低下が金融機関の収益や仲介機能に与える影響などに注意する必要があります。例えば、国債市場の流動性が極端に低下してしまえば、ショックへの耐性が低下し、ボラティリティが高まるなど市場が不安定化しやすくなります。また、長期国債の買入れを年間約80兆円の増加ペースに引き上げたことで、フローでみた市中発行額の大半を買入れることになり、実質的な財政ファイナンスとみなされる潜在的リスクがより高くなる懸念もあります。日本銀行の買入れによって国債市場の安定が保たれるとの期待が過度に強まり、金利による財政規律維持のメカニズムが損なわれるリスクについても、これまで以上に留意する必要があると考えています。昨年末に日本国債の格下げが行われた際、国債市場に目立った動きはみられませんでしたが、仮にそれが財政環境を映し出す市場機能の低下を示唆しているのであれば注意する必要があります。国債市場は金融・資産市場での多様な価格形成の基礎をなしていることも踏まえると、国債市場において日本銀行が過大な存在となり、金利が極めて低い水準で推移するもとで、各種の金融不均衡が蓄積するリスクにも十分目配りする必要があります。

なお、金利が一層低下すれば、資金運用難の状況を強めるとともに、安定的な利子所得の取得を優先する機関投資家の国債売却意欲を削ぐ可能性があります。日本銀行による国債買入れの継続は技術的には当分可能であるとみていますが、先行きにおける買入れの持続可能性についても留意しておくことが必要であると考えています。

(3)財政健全化と金融システムの安定維持

「量的・質的金融緩和」を円滑に遂行していくうえでは、財政健全化に向けた取り組みが不可欠です。日本銀行による巨額の国債買入れは、あくまでも「物価安定の目標」の実現のために行っているものです。しかし、仮に財政運営への信認が低下して、市場がこの措置を財政ファイナンスと広く受け止めた場合、リスクプレミアムの拡大から金利が上昇することで、「量的・質的金融緩和」の効果が減殺されるリスクがあります。この点について、他国と比較して財政状況が厳しい日本では、潜在的リスクとしてとりわけ注意を払う必要があります。また、財政健全化は、将来的に、金融政策の正常化を円滑に実現していくためにも非常に重要です。

「量的・質的金融緩和」の最終的な成否は、安定した経済・物価環境を維持しながら、金融政策の正常化を円滑に進められるかにかかっていますが、その実現のためには、前述の財政への信認確保だけでなく、金融システムの安定維持も非常に重要です。将来的に、日本銀行が物価安定の観点から正常化を模索すべき時期が到来した際に、「物価の安定」と並ぶ使命である「信用秩序の維持」の観点から、金利の安定確保を通じた金融システム安定化に政策の重点をシフトせざるを得なくなるような事態に陥らないため、金融機関の収益基盤が長期間損なわれたり、金利上昇リスクへの耐性が著しく低下したりすることがないように政策運営を十分慎重に進めていくことが求められます。

このように、経済・物価情勢と金融システムの双方にバランス良く目配りをしていくためには、日本銀行の金融政策運営の枠組みである「2つの柱」を従来以上に意識して、政策運営を柔軟に進めていく必要があると考えています。具体的には、第1の柱では、先行き2年程度の経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しが、各時点での日本経済の実力に照らして妥当であるかを、その都度点検します。この点、金融政策を通じて2年程度先に目指すべき物価上昇率は、今後、構造改革の進展につれて潜在成長力が上昇するとともに、次第に切り上がっていくことが期待されます。その水準はいずれ2%程度に達する可能性もありますが、現時点での適正水準はより低めであることを意識して、政策運営を進めていくことが重要と考えます。第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、物価安定のもとでの持続的な成長を実現するとの観点から、政策運営に当たって重視すべき様々なリスクを点検します。その際には、短期的な経済・物価情勢のみに目を奪われることなく、金融面の不均衡形成に十分な注意を払い、長い目でみた経済・物価の安定確保を図る視点が重要になります。

(4)幅広い政策手段の活用

「量的・質的金融緩和」で実施されている資産買入れ策などの非伝統的な政策は、ゼロ金利制約下で経済・物価に上向きのモメンタムを生じさせ、その方向性に影響を与える、例外的でやや時限性の高い手段と位置付けられると私自身は考えています。現行の資産買入れ策は、日本銀行の保有資産残高を継続的に増加させるため、買入れを続ける限り、残高の積み上がりとともに緩和が累積的に強化される性質のものです。また、他の政策手段と比較して、「量的・質的金融緩和」は正常化に相当長い期間を要する可能性が高いため、その中長期的な政策効果の発現を十分に考慮に入れて、フォワード・ルッキングに政策運営を進めていくことが重要です。これに対して、伝統的な金利政策は、経済・物価に強いモメンタムを与えるというよりも、経済・物価を望ましい水準へ誘導していく局面でのファイン・チューニング的な常用手段として位置付けられると考えられます。

現状をみると、「量的・質的金融緩和」が既に相応の成果を挙げていることに加えて、経済環境の改善を背景に長らく下落傾向にあった物価が上昇に転じ、その後も基調的な動きに変化はないとみられる中で、実質ゼロ金利を維持することによる政策効果が「量的・質的金融緩和」の効果に上乗せされる状況になっていると考えられます。

更に、日本銀行では、緩和的な金融環境を企業や家計が最大限に活用できるように後押しするため、「貸出支援基金」を設けて低利かつ長めの資金供給を行っています。1月の金融政策決定会合では、近く期限の到来する同基金について、(1)期限の1年延長、(2)日本銀行の非取引先金融機関が各々の系統中央機関を通じて制度を利用し得る枠組みの導入、(3)同基金のうち「成長基盤強化支援」(本則)の対象金融機関毎の上限ならびに総枠の引き上げ(各々1兆円から2兆円、7兆円から10兆円)を決めました。

前述のとおり、「量的・質的金融緩和」の最終的な成否は、安定した経済・物価環境を維持しながら、金融政策の正常化を円滑に実現することにかかっています。そのためには、「2つの柱」による点検を踏まえて、こうした様々な政策ツールを幅広く並行的に活用しながら、中長期的に望ましい経済・物価環境の実現に向けて金融面からの後押しを粘り強く続けていくことが重要であると私自身は考えています。この点、先に述べた「量的・質的金融緩和」の性質などを踏まえれば、政策運営の重心を資産買入れからその他のツールに徐々に移し始めていくことを、いずれ検討する必要があると私自身は考えています。

5.終わりに〜群馬県経済について〜

結びにあたり、群馬県の経済についてお話したいと思います。

当地経済は、商業・農業・工業のバランスのとれた産業基盤を有していますが、製造業の集積度の高さが大きな特徴の一つになっているように思います。当地は、首都圏へのアクセスが良いなどの立地条件の良さも活かして、全国トップクラスの工場立地件数を維持しています。また、国内初の官営器械製糸工場である富岡製糸場の存在などにも象徴されるように、古くから高い技術力と旺盛なものづくり精神が蓄積されてきました。こうした技術力や精神は、自動車工業を中心とする今日の当地の産業にもしっかりと引き継がれていると理解しています。

群馬県では、こうした高い技術力を有効に活用し、更なる経済の発展に繋げるべく、中小製造業が優れた技術力を活かして第二の事業へ参入することを後押しする「次世代産業振興戦略」を展開されています。また、県内の金融機関では、成長産業と期待される医療・介護分野と製造業をマッチングする取り組みや、高い技術力や豊富なビジネス経験を有した人材を中小製造業に肌理細かく紹介するといった取り組みが盛んに行われていると聞いております。

これらに加えて、当地では、草津・伊香保・水上・四万などの温泉地や、湿原で有名な尾瀬など、豊富な観光資源を有しています。また、最近では、昨年の「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録や、群馬県の公式マスコットである「ぐんまちゃん」の「ゆるキャラグランプリ」優勝のほか、北陸新幹線の金沢延伸開業が目前に迫っているなど、群馬県にとって明るい話題が続いています。このような追い風を活かすべく、官民が一体となって取り組まれていると伺っていますが、そうしたご努力が実を結び、群馬県経済が一層の発展を遂げられることを願っております。

ご清聴ありがとうございました。