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【挨拶】わが国経済・物価情勢と金融政策:物価の基調と予想物価上昇率

島根県金融経済懇談会における挨拶要旨

日本銀行政策委員会審議委員 白井 さゆり
2015年11月25日

目次

1.はじめに

皆様、おはようございます。本日はご多忙のところを、島根県の行政ならびに経済界を代表する皆様にお集まり頂き、光栄に存じます。また、日頃から日本銀行松江支店の業務運営にご協力頂いておりますことに、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。本日は、先月公表した「経済・物価情勢の展望」(通称、展望レポート)に示された2017年度までの経済・物価の中心的な見通しとそのリスク評価、並びにそれについての私の見解を中心に、お話いたします。最後に、島根県経済について触れますので、当地経済の実情等についてご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。

2.わが国経済の中期見通しとリスク評価

それではまずわが国経済についてお話を進めてまいります。

(1)経済の見通し

初めに、実質経済成長率についての中心的な見通しですが、2015年度は7月中間評価時点より大きく下振れしましたが、2016年度と2017年度は、概ね不変です。しかし、内需が増加し、輸出も海外経済が回復するもとで緩やかに増加を続け、生産・所得・支出の好循環は持続していくと予想しています。緩和的な金融環境が維持されるもとで、企業・家計の成長期待や潜在成長率も緩やかに高まると想定しています。2017年度は、消費税率引き上げの影響や設備投資の拡大局面の一巡もあり、大きく低下しますがプラス成長は維持すると予想しています(図表1)。

私自身の経済見通しは、政策委員見通しの中央値を幾分下回り、2015年度については1%程度、2016年度は1%台半ばを少し下回る程度、2017年度は消費税率引き上げの影響等から成長率は大きく低下しますが、0%を少し上回る程度で推移する、とみています。以下、少し詳しくご説明します。

2015年度については、4〜6月期のマイナス成長の実績に加え、その後も緩慢な景気回復が続いていること、当面はそうした状況が続くとの見通しを新たに織り込んでいます。この背景として、第一に、実質輸出の見通しをこれまでよりも慎重化しました。これは外需の一時的な弱さもありますが、構造的に輸出が伸びにくくなっている可能性をより反映させています。この点は、わが国の鉱工業生産と輸出が伸び悩む一方で、日系企業の海外子会社の現地生産と輸出が2009年以降大きく伸びていることからも裏付けられます1。とくに、輸送用機械や電気機械を中心に生産拠点の海外移転がこの間進んだことで、国内生産・輸出を牽引する業種がはん用・生産用・業務用機械や情報通信機械等に限定されるようになっている中で、それらの輸出がアジア経済減速もあって低迷しています。足もとではスマートフォン新商品発売等もあって輸出に改善がみられますが、新興国の景気減速から当面横ばい圏内の動きが続くとみています。

第二に、2015年度の実質消費支出の見通しを引き下げました。本年7〜9月期の実質消費支出と実質小売業販売額は前期比プラスに転じています。しかし、(1)実質賃金が7月にプラスに転じた後にごく緩やかに上昇していること、(2)家計の先行きに関するマインド指標、なかでも今後半年間の「収入の増え方」、「耐久消費財の買い時判断」等が低迷していることを反映させています。とはいえ、労働需給がタイト化する中で、名目賃金の上昇傾向は今後も緩やかに続き、消費は緩やかな回復基調を維持するとみています。

第三に、2015年度の設備投資について、4〜6月期に前期比マイナスとなった実績を踏まえて修正しています。また、短観でみられる積極的な2015年度設備投資計画に比べ、機械受注や資本財出荷が低迷していること、人手不足と建築資材の高騰で採算が合わずに設備投資を見合わせる動きも一部にあることから、計画が後ずれする可能性を織り込んでいます。他方、明るい材料としては、住宅投資の回復が続いていることです。横浜のマンション傾斜問題等でマンション投資が一時的に落ち込んだとしても、低金利環境の下で消費税率引き上げ前の駆け込み需要が徐々に顕在化するので堅調な拡大を維持する、との従来の見方を変えていません。

2016年度の経済見通しは、良好な雇用環境の下で、消費税率引き上げ前の駆け込み需要による消費支出や住宅投資が強まっていくため、比較的高めの経済成長率を想定しています。しかし、実質輸出を中心に、7月時点から小幅に下方修正しています。政策委員見通しの中央値対比で私の見方が慎重なのは、人手不足による経済機会の喪失により経済成長ペースがより緩やかなものに留まることを見込んでいるためと考えられます。わが国では、業況判断が良い企業ほど人手不足が意識されビジネス拡大の制約となり易い一方、業況判断が悪い企業ほど既存の従業員で事業をやりくりする傾向があるとされています。このため、新陳代謝のペースがごく緩やかとなり、成長制約となり易いと考えられます。

  1.   1  経済産業省作成、グローバル出荷指数を参照。

(2)経済見通しのリスク評価

経済の中心的な見通しに対するリスク要因として、展望レポートでは、海外経済の動向、2017年度に予定される消費税率引き上げの影響、企業・家計の中長期的な成長期待、財政の中長期的な持続可能性を挙げつつ、全体としては下振れリスクが大きい、と評価しています。

私自身の経済見通しのリスク評価ですが、2015年度と2016年度については、リスクは上下にバランスしている一方で、2017年度は下方に傾いていると判断しています。リスクとして、特に以下のような海外要因を意識しています。

  • 中国経済については、労働力人口比率が低下する下で現在は賃金上昇が持続していることもあり個人消費やネット販売が堅調ですが、1〜10月期の小売売上高総額の前年比伸び率は年間目標13%を少し下回っています。第三次産業の付加価値は既に全体の五割を上回って拡大していますが、銀行融資が慎重化する中で資金繰り面で不安を抱える民間企業も増えています。今後、中国のサービス産業等が国内経済および世界経済を牽引していけるのか下振れリスクとして注視しています。
  • その他のアジア経済についてはグローバル・バリュー・チェーンによる貿易拡大ペースが減速する中、内需を中心とする経済成長の強化が期待されますが、米国の金融政策正常化を受けた証券投資関連の資金流出や外為・資本市場のボラテリティ拡大によって抑制されるリスクを意識しています。
  • 米国経済では、企業・家計のデレバレッジが進展しており、設備投資や住宅投資を拡大し労働生産性と賃金の伸び率を高めながら予想以上に高い景気回復を実現する可能性があるとみています。
  • 欧州ユーロ圏においては、欧州中央銀行(ECB)による金融緩和政策もあって、ユーロ圏域内の銀行間市場の分断化に改善がみられ資金フローが改善しつつあり、企業・家計向け貸出も増えています。また、ドイツでは1人あたり賃金伸び率が3%程度の高い水準を維持しており、周縁国の賃金抑制とともに賃金調整による域内競争力格差が縮小していることもあって、景気回復が予想以上のペースで強まる可能性を上振れリスクとして意識しています。

また、2017年度については、これらに加え、消費税率引き上げに伴う駆け込みの反動減や実質所得減少の影響と、2020年オリンピックに向けた公的・民間の固定資産投資が深刻な人手不足が続く中でどの程度「量」的な拡大を見込めるのか、現時点ではかなり不確実性が高いことから、下振れリスクが高いと判断しています。

3.わが国の物価の中期見通しとリスク評価

次に、わが国の物価見通しとそのリスク評価に話を移します。

(1)物価の見通し

物価の中心的見通しについては7月時点より下振れており、消費者物価(除く生鮮食品、以下コアCPI)の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、当面0%程度で推移するとみられます。その後は、物価の基調が着実に高まり、原油価格の影響が剥落するに伴って、2%に向けて上昇率を高めていくと予想しています。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されますが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想され、その後次第にこれを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる、としています(前掲図表1)。

私自身の物価見通しですが、最初に全体像をお話ししますと、物価の上昇メカニズムは中心的な見通しと同じですが、政策委員見通し中央値対比で慎重な見方を維持しています。また、2017年度までの期間を通じて幾分下方修正しています。コアCPI伸び率が2%程度に近づく時期は、これまでの「2016年度末」から、「2016年度末から2017年度初め頃」へと1四半期ほど後ずれさせています。以下、少し詳しくご説明します。

2015年度の物価見通しについては、0%程度とみています。7月時点から幾分下方修正した理由は原油価格の下落にありますが、4〜6月期の需給ギャップの悪化を踏まえて、その改善の遅れも織り込んでいます。2016年度の物価見通しについては、1%強とこれまでよりもやや慎重にみています。これは(1)エネルギー価格下落の影響が残ること、(2)需給ギャップがプラスに転じる時期が1四半期ほど遅れること、(3)「予想物価上昇率」が上昇し始める時期も物価上昇が遅れることで後ずれする点を織り込んだためです。その後、物価上昇率の上昇ペースは高まり、「駆け込み需要が最も強まる2017年1〜3月期」から「消費税率引き上げに合わせた価格改定が起きやすい4〜6月期」にかけて、1.7〜1.8%程度に達する可能性が高く、すなわち「2%程度に近づく」とみています。2017年度全体としては、駆け込み需要の反動と実質所得の下落の影響等によって物価上昇率は幾分低下するとみており、1%台半ばを少し上回る程度と、7月時点から少し下方修正しています。2%を安定的に持続する時期については、消費税率引き上げの影響や2020年オリンピックに向けた投資規模について不確実性が高いほか、予想物価上昇率の上昇には時間が掛かるとみられることから、もう少し長いスパンで判断していく必要があるように思います。

(2)物価見通しのリスク評価

物価の中心的な見通しに対するリスク要因については、企業・家計の中長期的な予想物価上昇率の動向、マクロ的な需給バランス、物価上昇率の需給ギャップに対する感応度、輸入物価の動向を挙げつつ、全体として下振れリスクが大きいと判断しています。

私自身の見通しのリスク評価については、2015年度は上下にバランス、2016年度と2017年度は下方に傾いていると判断しています。とくに、原油価格および為替相場の動向には大きな不確実性があり、上下双方向に振れるリスクがあります。その一方で、物価上昇率を安定的に引き上げる上で重要となる予想物価上昇率が着実に上昇していくには予想以上に時間が掛かるリスクもあるため、全体としては下方に傾いていると判断しています。

(3)2%程度の達成時期の表現について

今回の展望レポートでは、2%程度の達成時期の表現を、4月時点の「2016年度前半頃」から「2016年度後半頃」へと2四半期ほど後ずれさせています。この点、私は4月時点の表現に対して反対し、「2016年度を中心とする期間」とする代替案を提出しました。しかし、今回は、「2016年度後半頃」とする表現を支持しましたので、その経緯をご説明いたします。

今回、政策委員見通し中央値が大きく下方修正され、2016年度前半の2%程度の実現可能性は低いことから、表現の修正は自然なことです。ただし、その表現については、物価見通しの下振れリスクが大きいことから、幅を持たせて、例えば「2016年度後半から2017年度前半にかけて」といった表現が適しているようにも思います。しかしながら、「2016年度後半頃」との表現は、結果として、4月時点の私の代替案が意図した後半の時期に該当しています。また、何よりも、私の現時点の見通しにかなり近いものとなっており、「2%程度」を柔軟に解釈すればほぼ整合的な表現となっています。以上の2点が、今回賛成した理由です。

4.金融政策運営について

経済・物価見通しは7月時点から下振れましたが、金融政策運営は、従来の金融市場調節方針を継続することで、金融緩和的状態を維持していくことが重要と考えています。以下では、この背景となる考え方について、追加緩和を実施した昨年10月との対比も交えて、ご説明いたします。なお、重要なのは、2%物価安定目標は、単に物価さえ上がればよいというものではなく、持続的な賃金の上昇と家計支出の拡大を伴うことです。この点、企業と家計による、生産・所得・支出の前向きな循環メカニズムが維持されているかが重要ですが、それを判断するうえでのポイントを5点ご説明します。

第一に、企業の業況判断と収益状況が昨年対比で良好です。例えば、日銀短観の本年9月調査によれば、足もとの全産業の業況判断D.I.は6月の7%ポイントから8%ポイントへと幾分改善していますが、昨年の同時期は6月の7%ポイントから4%ポイントへと悪化していました。とくに、大企業・非製造業が良好で、業況判断D.I.が本年6月の23%ポイントから9月には25%ポイントへ一段と改善しており、しかもその水準は昨年同時期(6月の19%ポイントから9月は13%ポイントへと低下)を大きく上回っています。経常利益見通しも堅調です。本年9月調査では2015年度の全産業の経常利益見通しが3.3%(製造業は4.0%、非製造業は2.7%)を計上しています。昨年同時期の2014年度見通しが全産業で-4.0%(製造業は-2.6%、非製造業は-5.1%)であったのと比べて収益見通しは様変わりしています。

ここで、本年9月時点の2015年度の全産業の経常利益と売上高の見通しについて前年比伸び率をプロットしてみますと、第一象限(経常利益伸び率も売上高伸び率もプラスの領域)にある業種が比較的多いことが分かります(図表2)。経常利益伸び率が売上高伸び率を大きく上回るのは、原油などのコモディティ価格下落による交易条件の改善と円安による海外からの配当等の評価益や(円ベースの)輸出価格の上昇による収益改善が大きいことによるものと考えられます。注目されるのは、食料品、宿泊・飲食サービス、対個人サービスで、経常利益と売上高の伸び率が前年同期の2014年度見通しを上回っています。食料品はメーカーとして製造業に含まれますが、売上高見通し内訳をみると、輸出額が5%、内需額が3%と、国内消費も相応に堅調であることが窺えます。以上のデータは、2014年4月の消費税率引き上げによる負の影響から内需が回復しつつあることを示していると思います。

第二に、足もとではエネルギーを除く幅広い消費項目で物価が上昇しており、デフレに逆戻りするリスクは低いと判断されます。日本銀行では様々な指標から物価の基調を判断していますが、代表的な指標としては、主に「コアCPI」と「刈込平均値」があります。どちらも趨勢的な物価動向を把握するために一時的な変動要因を取り除いており、将来の物価見通しの予測力が高い指標として活用されています。違いは、コアCPIでは変動が大きい特定品目を常にCPIのウェイトから取り除くのに対して、刈込平均値は最も上昇率の高い品目と最も上昇率の低い品目各々のウェイトを特定割合(例えば上下10%ずつ)だけ控除することで毎月取り除く品目が異なり得ることです。

日本銀行の場合、生鮮食品を除いたCPIを「コアCPI」として展望レポートの見通しに用いています。エネルギー価格を含めているのは、CPIの変動に及ぼす影響が長期的にみれば統計的に大きくなかったことにあります。しかし、昨年半ば以降のエネルギー価格の大幅下落によって物価変動が大きくなっている局面では、このコアCPIのみならず、複数の指標を用いて総合的に物価の基調を判断することがより重要になっています。その内の1つとして、「コアCPIからエネルギーを除いた指標」の月次での公表も開始しました。コアCPIは足もと0%近傍で推移していますが、コアCPIからエネルギーの寄与度を除くと1.2%まで上昇しています(図表3)。また、最近ではコモディティ価格や為替相場の変動が大きいことから、機械的に変動の大きい品目を取り除く刈込平均値の有用性が高まっています。「10%刈込平均値」によれば、現在は0.6%と緩やかに上昇しており、昨年の今頃は逆に低下傾向にあった状況と対照的です。

第三に、企業の販売価格設定行動にも前向きの変化が生じています。日銀短観をもとに本年9月調査の足もとの販売価格判断D.I.と2015年度の内需額見通しの伸び率をプロットしてみますと、第一象限(販売価格判断D.I.が上昇超で内需額の前年比伸び率がプラスの領域)に位置する業種がいくつかみられます(図表4)。注目されるのは、食料品と宿泊・飲食サービスです。これらの業種の販売価格判断D.I.は「量的・質的金融緩和」の開始以前の比較的大き目の下落超となっていた状況から一転し、現在は販売価格を引き上げやすい状況に転換していることが分かります。

現在みられる幅広い消費品目での物価上昇は、3つの要因、すなわち、(1)為替円安による輸入物価の上昇、(2)需要拡大、(3)賃金上昇の転嫁、によって生じているとみられます。これらの要因を区別するのは困難ですが、為替円安による輸入物価上昇の影響は大きいと思われ、そうした効果は一段の円安がなければやがて減衰していきます。その一方で、食料品と宿泊・飲食サービスにみられるように、付加価値の高い商品・サービスも供給され需要もついてきている品目もみられます。名目賃金は今後も上昇し、需給ギャップもプラスの領域で改善していく見込みであることから、物価上昇がより持続性を増していく可能性があるとみています。

第四に、予想物価上昇率については一部指標で下落がみられますが、現時点では今後の動向を見守るのがよいと考えています。予想物価上昇率とは、実際は、家計・企業・エコノミストの予想物価上昇率や市場ベースの指標を総称しています。最近では、企業・エコノミストの予想物価上昇率や市場ベースの指標が低下している点を注視しています。とはいえ、予想物価上昇率の低下は、夏場以降、世界的にみられた動きであることから、その理由が、コモディティ価格見通しの下方修正や世界経済の一時的な減速を反映しているのか、それとも国内需給関係の見通しの悪化を反映しているのかを見極める必要があると思います。現時点では、国内の消費は底堅く、企業の設備投資計画は複数の企業調査をみても積極性を維持していることから今後の拡大が見込まれ、国内需給環境は悪くはありません。今後2016年初め頃から、需給ギャップのタイト化により物価上昇の伸び率が高まっていけば、それに伴い、予想物価上昇率も持続的な上昇に転じていくことが見込まれています。

これに関連して、第五に、家計の予想物価上昇率は、常に企業よりも高く、家計は実際には緩やかなデフレやごくわずかなインフレ局面でも常に物価が上昇していると認識し、また上昇していくと予想する傾向があるようです(図表5)。これは、インフレ予想の「上方バイアス」と呼ばれる現象です。この点について私は海外講演で何度か説明しておりますが、わが国のバイアスは欧米よりも大きいようです2。日本では長く賃金が伸び悩んできたことから、将来の賃金低下を予想し、予算のタイト化を意識した強い生活防衛意識の結果として、インフレ予想の上方バイアスが大きくなっている可能性があります。このような状況下では、賃金がしっかり上昇し、また上昇が継続するとの見通しが形成されることが重要で、足もとでは緩やかに改善しつつあるとみています。また、現在のエネルギー価格の下落によるコアCPI伸び率の低迷は一時的なものであるほか、生産コストの低下により企業収益が改善すれば賃金上昇余地を高めることから、現時点では金融政策による対応を要するものではないとみています。

以上より、現時点では、現在の金融緩和的な環境の下で、先行きの物価が上昇傾向を示すのか注視する段階にあるとみています。仮に想定したどおりの物価上昇パスが全くみられない場合には、その原因にもよりますが、金融政策による調整を検討するのがよいと考えています。

  1.   2  直近の講演については、「多様化するグローバル経済における金融政策〜日米及びアジア・太平洋地域の現状〜」、米国サンフランシスコ連邦準備銀行主催パネルディスカッションにおける発言要旨の邦訳(サンフランシスコ、2015年11月)および、「日本銀行と欧州中央銀行(ECB)の非伝統的金融政策」、ブリューゲル年次総会パネルディスカッションにおける発言要旨の邦訳(ブリュッセル、2015年9月)を参照。

5.おわりに

最後に、島根県経済についてお話しさせて頂きます。当地は、出雲大社や世界遺産に登録された石見銀山遺跡、今年国宝に復帰した松江城といった豊富な歴史文化的な観光資源に加え、豊かな農林水産資源に恵まれています。その一方で、全国に先駆けて人口減少に突入し、老齢人口比率は全国3位の32%程度に達するなど、少子高齢化対策・地方創生が大きな課題となっています。

こうした状況下、島根県経済の長期的な活性化に繋がるポイントとして、私は以下の点に注目しています。

まず第1に、本年3月には中国横断自動車道・尾道松江線が全線開通し、また、2017年春には豪華列車の運行開始が予定されているなど、当地のネックとなっていたアクセス面の改善や情報発信力の強化が図られていることです。これは、広域連携による官民での取り組み等と相俟って、豊富な観光資源を活かした誘客力の大幅向上に繋がるものと期待しています。第2点目は、当地では全国に先進的な子育て支援の取り組みにより、現在では子育てしながら働く女性の割合は全国第1位、出生率は全国第3位、となっており、少子化対策の成果がみられ始めています。そして第3点目は、地方にありながら、先端的、先進的な産業振興に注力し、高い技術力を有するIT産業をはじめとする製造業の拡大と集積を進めていることです。この結果、県外企業の進出も相次いでおり、雇用創出面での効果も期待されます。

こうした前向きな動きを支える金融機関や企業の健全なリスクテイク活動を、量的・質的金融緩和による金融緩和的な環境の維持が一段と後押しし、島根県経済のさらなる発展に繋がることを期待しつつ、私からの挨拶とさせて頂きます。

皆さま、ご清聴頂き、誠にありがとうございました。