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【挨拶】最近の金融経済情勢と金融政策運営

岡山県金融経済懇談会における挨拶

日本銀行副総裁 岩田 規久男
2015年12月2日

目次

1.はじめに

日本銀行の岩田でございます。本日はお忙しい中、岡山県の行政および金融経済界を代表する皆さまとの懇談の機会を賜りまして、誠にありがとうございます。また、皆さまには、日頃から岡山支店の業務運営に様々なご協力を頂いております。この場をお借りして、改めて厚くお礼申し上げます。

本日は、皆さまから、当地経済の実情に関するお話や、私どもの政策・業務運営についての忌憚のないご意見を承りたく存じます。

議論の皮切りとして、まず私から内外の経済情勢について簡単にご説明した後、金融政策運営を巡る話題についてお話ししたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

2.日本経済の現状と先行き

わが国の経済の情勢をみますと、中国をはじめとする新興国経済の減速の影響が、わが国の輸出や生産面に現れています。しかしながら、企業収益が過去最高水準に達しているもとで、企業・家計の両部門において、所得から支出へという前向きの循環メカニズムが作用しており、わが国の経済は緩やかな回復を続けています。以下、もう少し掘り下げてお話ししたいと思います。

(1)輸出と海外経済の動向

まず、わが国の輸出をみますと、このところ横ばい圏内の動きとなっています(図表1)。地域別の内訳では、米国や欧州などの先進国向けは、緩やかな増加基調を維持していますが、新興国向けは東アジアを中心に弱めの動きとなっています。この背景には、中国経済において、製造業部門の過剰設備や在庫調整が下押し圧力となり、減速した状態が続いていること、その影響が、他の新興国・資源国経済にも貿易面を通じて波及していることがあるとみています。こうした中で、生産も、横ばい圏内の動きとなっています。

先行きの海外経済を展望しますと、当面は新興国の減速の影響などが残りますが、先進国を中心に緩やかな成長が続き、その好影響は新興国にも波及していくものとみています。中国経済も、各種の景気刺激策が採られていますので、概ね安定した成長経路を辿ると考えられます。10月にIMFが公表した見通しをみても、世界経済の成長率は、2015年は+3.1%とやや減速していますが、2016年は+3.6%と、全体として緩やかに成長率を高めていく姿となっています(図表2)。

そうしたもとで、わが国の輸出や生産は、当面は横ばい圏内の動きを続けるとみられますが、その後は、緩やかに増加していくものと考えています。ただ、新興国・資源国の成長期待の低下や過剰設備の存在を踏まえますと、当面下振れリスクが大きい状態が続くと思われますので、この点は十分に注視していきたいと考えています。

(2)国内民間需要の動向

以上に述べた輸出や生産のもたつきにもかかわらず、企業収益は過去最高水準に達しています(図表3)。その背景として、ひとつには、原油をはじめとする資源価格の下落や、過度な円高の修正にも支えられた海外からの配当・利息の増加が指摘できます。

これに加えて、今回の景気回復局面で特筆すべきことは、内需の底堅さを背景に、非製造業の回復が目立っていることです。過去の景気回復局面では、輸出の増加を起点に生産が増加し、製造業の企業収益と設備投資が増加するという経路を辿ることが多かったのですが、今回は、こうしたパターンとは異なる動きです。9月短観の業況判断DIで確認しても、製造業には幾分慎重さがみられる一方で、非製造業は2000年代半ばの景気回復期を上回る水準まで改善しています。

企業収益の改善は、企業・家計の両部門を通じて、国内民間需要に波及する好循環を生み出しています。まず、企業部門は、前向きの設備投資スタンスを維持しています。この点は、9月短観において、2015年度の全規模全産業の設備投資計画が前年比+6.4%と高めの伸びとなったことからも確認できます。

家計部門をみると、雇用・所得環境が着実に改善しています。労働市場では、需給の引き締まりが続き、有効求人倍率は1992年以来の高水準となっているほか、失業率も10月には3.1%と1995年以来の水準まで低下しています。

こうしたもとで、賃金には上昇圧力が生じています。毎月勤労統計の所定内給与は、2年連続でベースアップが行われたこともあり、年初来3四半期連続で前年比プラスとなっています(図表4)。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、7〜9月期にはっきりとした前期比プラスとなるなど、底堅く推移しています。

以上のように、わが国の経済は、企業・家計の両部門における前向きの循環メカニズムが維持されています。7〜9月期の実質GDP成長率は、小幅ながら2四半期連続のマイナスとなりましたが、その主因は在庫調整の進捗であり、最終需要は全体として増加しています。先行きも、来年度にかけて、足もと「0%台前半ないし半ば程度」とみられる潜在成長率を上回る成長を続けると予想されます。10月末に公表した「展望レポート」の政策委員見通しの中央値で申し上げると、実質GDP成長率は、2015年度は+1.2%、2016年度は+1.4%と予想しています。

3.金融政策運営とわが国の物価情勢

このように、わが国の経済が潜在成長率を上回る成長を続けるとみられる中で、物価の先行きはどのように展望されるでしょうか。続いて、現在の日本銀行の金融政策運営に触れたうえで、わが国の物価情勢についてお話ししたいと思います。

(1)金融政策のレジーム転換

日本銀行は現在、長年にわたるデフレの中で人々の意識に定着してしまった「デフレマインド」を「緩やかなインフレマインド」へと転換すること、言い換えると、「物価の緩やかな上昇が継続することを前提に人々が行動するような状況」を作り出すことを企図し、「量的・質的金融緩和」政策を進めています。

この政策は、二つの柱から構成されます。第一の柱は、日本銀行が、消費者物価の前年比上昇率2%を「物価安定の目標」として設定し、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現することを明確に約束したことです。

第二の柱は、国債を中心とした大規模な資産買入れによりマネタリーベースを大量に供給する「量の拡大」と、リスクのより大きな資産である長期国債を中心に買い入れる「質の変化」という、「物価安定の目標」を達成するための手段を、明確に示し、実行することです(図表5)。

日本銀行はこの政策によって、幅広い年限の名目金利を引き下げるとともに、人々の予想インフレ率を2%に向けて引き上げることにより、予想実質金利を引き下げることを目指しています(図表6)。こうした予想実質金利の低下により、株式などのリスク性資産の価格は上昇し、資産効果を通じて民間消費を増加させる方向に作用します。また、過度な円高も修正されたことで、緩やかながらも輸出の増加をもたらすとともに、採算性の改善などを通じて輸出関連企業の収益好転に繋がっているほか、海外からの観光客も目に見えて増加しています。 加えて、これまで貯蓄に励んでいた家計や企業も、予想実質金利の低下や所得・財務状況の改善を受けて、住宅投資や設備投資を拡大させることが期待されています。

このように、「量的・質的金融緩和」は、政策の基本的考え方(レジーム)の抜本的な転換による予想実質金利の低下を起点に、複数のチャネルを通じて総需要を拡大させ、実際のインフレ率を2%に向けて引き上げていくものです。

(2)物価の基調的な動き

日本銀行は現在、インフレ率が2%程度に達する時期が「2016年度後半頃」になると予想しています。従来の見通しからは後ずれしていますが、これは原油価格の下落の影響などによるものであり、物価の基調自体は、想定した政策効果の波及メカニズムが機能するかたちで着実に改善していると考えています。ここでは、物価の基調的な動きを、(1)消費者物価の動き、(2)経済全体の総需要と供給能力の差である需給ギャップ、(3)中長期の予想インフレ率という3つの観点から考えたいと思います。

(1)消費者物価の動き

まず、消費者物価の動きをみてみましょう。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、足もとでは0%程度で推移しています。しかし、昨年夏以降のように原油価格が短期間で50%程度まで下落する場合には、エネルギーも除いた消費者物価(以下、エネルギーを除く消費者物価)が、物価の基調を判断するうえで、より重要な指標になると考えています。

これを確認するために、生鮮食品を除く消費者物価(以下、エネルギーを含む消費者物価)の前年比を、エネルギーによる寄与とエネルギーを除く消費者物価の寄与に分解してみてみましょう(図表7)。

まず、「量的・質的金融緩和」が始まるまでの期間では、エネルギーを含む消費者物価の前年比は、エネルギーのプラス寄与と、エネルギーを除く消費者物価のマイナス寄与が合わさることで、概ね若干のマイナス圏で推移していました。つまり、エネルギーを除く消費者物価でみると、エネルギーを含む消費者物価でみるよりもデフレ的だったということです。

一方、「量的・質的金融緩和」を開始して以降は、エネルギーを除く消費者物価のマイナス寄与が縮小し始めて、2013年の秋口にはプラス寄与に転化し、消費税率の引き上げが実施された2014年4月頃までそのプラス幅は拡大を続けました。この間、エネルギーのプラス寄与もあり、エネルギーを含む消費者物価の前年比も上昇を続け、2014年4月には消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースで+1.5%に達しています。すなわち、「量的・質的金融緩和」開始から消費税率の引き上げが実施された昨年4月頃までは、消費者物価の前年比は、2%に向けて順調に上昇し続けていたということです。

その後、2015年初までは、消費税率引き上げの影響もあって、エネルギーを除く消費者物価のプラス寄与は縮小しました。さらに、2014年の夏頃から、原油価格の大幅下落が消費者物価前年比のプラス幅を縮小させる要因として働くようになりました。こうした状況を踏まえ、デフレマインドの転換が遅延するリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するために、日本銀行は、2014年10月末に、「量的・質的金融緩和」の拡大を決定しました。

その後の推移をみると、エネルギーを除く消費者物価のプラス寄与の縮小は2015年初で止まって拡大基調に戻り、足もとでは+1%程度と、「量的・質的金融緩和」開始以後、最大の寄与度となっています。また、この間、エネルギーを含む消費者物価の前年比は低下していますが、その主因は、エネルギーのマイナス寄与の拡大であることも分かります。

以上のように、消費税率引き上げでいったんデフレに戻りかかった物価の基調は、「量的・質的金融緩和」の拡大の効果が発揮されて、2015年に入ってからは、2%に向けた上昇軌道に戻っていると考えています。

(2)需給ギャップ

次に、わが国経済の総需要と供給能力の差として定義される需給ギャップを考えてみましょう。需給ギャップは、設備投資や個人消費といった需要の拡大を背景に、着実に改善していくものとみています。

まず、設備投資については、短観などのアンケート調査をみると、今年度は高水準の計画となっていることは、先ほどご説明したとおりです。新興国経済の減速など先行きの不透明感が強いこともあってか、まだ計画並みに実行されてはいませんが、いずれしっかりと実行されるとみています。

また、個人消費を考えるうえでは、雇用・所得環境が重要ですが、この点、先ほどご説明しましたとおり、労働需給はタイト化が続いており、賃金も業種や企業規模の拡がりを伴って上昇してきています。今後も、過去最高水準の企業収益とタイトな雇用環境を受けて、賃金は徐々に上昇していき、これに支えられて、個人消費は、底堅く推移すると考えられます。

したがって、設備投資や個人消費の増加によって、需給ギャップが改善し、これが物価を緩やかに押し上げていく好循環は、今後、より明確になってくると考えています。

この点、最近の企業収益と設備投資、賃金の関係をみると、企業収益が過去最高水準となっていることとの対比で、設備投資の増加と賃金の上昇はやや鈍い印象があるのも事実です(図表8)。しかし、先行き需給ギャップの緩やかな改善が続き、需要超過に転じていく中で、こうした状況も変わりつつあると考えています。

(3)中長期の予想インフレ率

最後に、予想インフレ率をみてみましょう。各種アンケート調査における企業や家計の予想インフレ率をやや長い目でみると、「量的・質的金融緩和」導入前後から上昇しています(図表9)。足もとでは、幾つか弱含んでいる指標もありますが、企業の価格設定行動は、特に今年度入り後明確に変化しており、価格改定の動きには拡がりと持続性がみられています。先行きについても、実際のインフレ率が2%に向けて上昇していくもとで、そのこと自体も予想インフレ率の押し上げ要因となるため、中長期の予想インフレ率は2%に向けて上昇していくと考えられます。

以上説明しましたとおり、消費者物価の動き、需給ギャップ、予想インフレ率という3つの観点全てにおいて、物価の基調が、2%の「物価安定の目標」達成に向けて着実に改善していることが確認できます。こうしたもとで、エネルギーを含む消費者物価の上昇率は、原油先物価格なども踏まえますと、「2016年度後半頃」に2%程度に達すると考えています。

もちろん、実際の経済には様々な不確実性があります。現在最も重要と考えているのは、中国をはじめとする新興国や資源国の経済が一段と減速し、わが国経済に悪影響を与え、物価の基調に下振れをもたらすリスクです。今後の金融政策運営に当たって、そうしたリスクの顕在化によって、物価の基調が悪化するようであれば、躊躇なく対応します。

4.おわりに

最後に岡山県の経済についてお話しさせて頂きます。

当県は、中四国を結ぶ交通の結節点であるだけでなく、自然災害が少ないという恵まれた立地条件にあり、古くからこうした立地を活かした産業が県内経済を支えてきました。

すなわち、水島臨海工業地帯を中心に鉄鋼や自動車、化学などの工場が集積し、製造業が県内総生産の約3割を占めています。

非製造業の分野では、高速道路網を活かして、中四国全域を視野に入れた大型物流センターの着工が続き、ここ10年で倉庫面積は20%弱増加しました。県北の真庭市では、地元企業が共同出資した間伐材などを燃料としたバイオマス発電所がこの4月に稼働するなど、成長分野への取り組みも進んでいます。

また、岡山県は、後楽園、倉敷美観地区、閑谷学校など、観光資源が豊富です。これらの観光資源が、国内外から多くの観光客を惹き付けていると伺っています。先月は、岡山市で第1回の岡山マラソンが開催され、全国から多くの参加者が集まったと伺いました。来年5月には倉敷市でサミット教育大臣会合が開催されると伺っています。こうした機会を通じ、岡山県の魅力が内外に向けて更に発信されていくことが期待されます。

岡山県の皆さんにおかれましては、その天賦の立地、恵まれた観光資源を最大限に活かし、新たな挑戦に取り組まれていることと思います。岡山支店には、そうした動きに少しでも貢献できるよう地域経済の分析や情報発信に努めさせたいと考えています。最後になりましたが、岡山県のますますの発展を心より祈念し、挨拶の言葉とさせて頂きます。

ご清聴ありがとうございました。