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【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書衆議院財務金融委員会における概要説明

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日本銀行総裁 黒田 東彦
2016年11月2日

目次

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

わが国の経済金融情勢

日本銀行は、昨日の金融政策決定会合において、2018年度までの経済・物価の見通しを「展望レポート」として取りまとめました。これを踏まえ、まず、わが国の経済金融情勢についてご説明申し上げます。

わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けています。先行きについては、海外経済の回復に加えて、きわめて緩和的な金融環境と政府の大型経済対策の効果を背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、2018年度までの見通し期間を通じて、潜在成長率を上回る成長を続けるとみています。

物価面をみると、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、小幅のマイナスとなっています。先行きは、当面小幅のマイナスないし0%程度で推移するとみられますが、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、見通し期間の後半には「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。2%程度に達する時期は、見通し期間の終盤、すなわち、2018年度頃になる可能性が高いと予想しています。このように、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているとみております。もっとも、前回7月の「展望レポート」と比べると幾分弱まっており、今後、注意深く点検していく必要があると考えています。

金融政策運営

日本銀行は、9月の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果について総括的な検証を行い、その結果を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、金融緩和強化のための新しい枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。新しい枠組みは、2つの要素から成り立っています。

第一に、「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」です。2013年4月に導入した「量的・質的金融緩和」は、主として実質金利の低下の効果により、経済・物価の好転をもたらし、日本経済は、物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなりました。「イールドカーブ・コントロール」は、この実質金利の低下の効果を、長短金利の操作によって追求するものです。日本銀行は、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために最も適切なイールドカーブ形成を促していきます。具体的には、毎回の金融政策決定会合で決定・公表する金融市場調節方針において、日本銀行当座預金に適用する短期政策金利および10年物国債金利の操作目標の2つの金利水準を示します。国債買入れは、買入れ額のめどを示しつつ、長期金利の操作方針を実現するように運営します。

第二に、「オーバーシュート型コミットメント」です。2%の「物価安定の目標」を実現するためには、人々のデフレマインドを抜本的に転換し、予想物価上昇率を引き上げる必要があります。この点、わが国における予想物価上昇率の期待形成は、依然としてかなりの程度「適合的」であり、足もとの物価上昇率に強く引きずられる傾向があります。こうしたことを踏まえ、日本銀行は、「生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」というきわめて強力なコミットメントを導入しました。「物価安定の目標」の実現に向けた日本銀行の強い姿勢を示すことで、2%の実現に対する人々の信認を高め、予想物価上昇率をより強力に高めていくこととしました。

昨日の金融政策決定会合では、短期政策金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とする金融市場調節方針の維持を決定しました。日本銀行は、今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

ありがとうございました。