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【講演】金融リテラシー~人生を豊かにする「お金」の知恵~東京証券取引所主催セミナーにおける基調講演

日本銀行副総裁 雨宮 正佳
2020年2月14日

1.はじめに

日本銀行の雨宮でございます。本日は、このように多数の方々がお集りの場でお話しさせていただく機会を頂戴し、光栄に存じます。

本日、私からは、「金融リテラシー」についてお話ししたいと思います。金融リテラシーとは、金融やお金に関する知識や判断力のことを指します。この話題を取り上げた理由は、「人生100年時代」とも言われる超高齢化社会の到来と深く関係しています。すなわち、長い人生を自分らしく、そして何より豊かに暮らしていくためには、お金と賢く付き合うための知識や判断力が、これまで以上に重要になってくるからです。

金融リテラシーは、10数年前に起こった世界金融危機の教訓のひとつとして、国際的にも注目が集まるようになりました。金融安定を確保するためには、金融規制や監督の強化等に加え、投資家である国民一人一人の金融リテラシーを向上させることも重要という趣旨です。実際、2012年のG20ロスカボス・サミットでは、その首脳宣言において、各国が戦略的かつ計画的に国民各層への金融教育に取り組むことの重要性が強調されました。昨年、日本が議長を務めたG20財務大臣・中央銀行総裁会議においても、金融リテラシーの強化が優先的に対処すべき政策課題と位置づけられました1

この間、日本では、高齢化やキャッシュレス化、およびそれらに関連する金銭・資産管理に関する話題が、各種メディア等で盛んに取り上げられるようになっています。その中で警鐘を鳴らすべき事例として、高齢化に関しては、お金に関する判断を誤ると、本来は祝福すべき長生きが金銭面での負担を増加させる要因になりかねないとの指摘があります。また、キャッシュレス化の進展により、生活の利便性が向上する一方で、お金の使い過ぎや個人情報の漏洩等に一段と注意を払わねばならなくなっています。さらに、2022年4月の「成年年齢の引き下げ」により、18歳というその世代の多くがまだ高校生の時期から、自立した契約当事者としての判断と責任が問われるようになります。

このように、金融リテラシーの重要性が高まっており、今後ますます高まっていくとみられますが、そもそも日本国民の金融リテラシーは現状どの程度なのでしょうか。この点について、私ども日本銀行の情報サービス局に事務局を置く金融広報中央委員会が行った調査に基づき、日本における金融リテラシーの現状と課題について、国際比較も交えつつ、皆さまにお伝えするのが本日の目的です。

  1. 「高齢化と金融包摂のためのG20福岡ポリシー・プライオリティ」、2019年6月。

2.金融広報中央委員会について

まず、金融広報中央委員会についてご紹介したいと思います。只今申し上げた通り、同委員会は、日本銀行情報サービス局内に事務局を置き、「金融経済情報の提供」と「金融経済学習の支援」を両輪として、金融知識の普及を推進しています。47都道府県全てに設置している各地金融広報委員会と広範なネットワークを形成し、日本銀行本支店・事務所をはじめ、政府、地方公共団体、民間団体等とも連携しながら、中立・公正な立場から、日本の金融リテラシーの向上に取り組んでいます。

なお、後ほどの対談でご一緒させていただく澁澤健氏は、この金融広報中央委員会にご縁のある方です。どういうご縁かと申しますと、澁澤健氏の大伯父様──おじい様のお兄様──にあたるのが、日本銀行第16代総裁の渋沢敬三氏です。敬三氏は、日本銀行総裁、大蔵大臣を歴任した後、1952年から、金融広報中央委員会の前身である貯蓄増強中央委員会の初代会長を務められました。また、敬三氏の祖父にあたるのが、渋沢栄一氏です。皆さまご存じの通り、栄一氏は、明治・大正期に第一国立銀行を始め数々の銀行や企業の創立に携わるなど、近代日本の礎を築いた方です。来年放送予定のNHK大河ドラマの主人公に決まり注目を集めていますが、日本銀行とも浅からぬご縁があり、2024年に発行予定の新しい日本銀行券1万円札の肖像画にも採用されました。

3.「金融リテラシー調査」の結果

(1)調査の概要

さて、本題に入りたいと思います。金融広報中央委員会では、昨年、「金融リテラシー調査」を実施しました。同調査は、日本国民の金融リテラシーの現状を把握することを目的として、第1回調査を2016年に実施し、昨年が第2回目となります。日本全国18~79歳の個人2万5千人を対象とした、インターネットによるアンケート調査です。

アンケートの設問は、大きく分けて2種類で構成されています(図表1)。ひとつは、金融知識や判断力に関する正誤問題です。例えば、「金利が上がったら、通常、債券価格はどうなるでしょうか」といった、正解のある設問となっています。因みに、この設問の正解は「下がる」です。もうひとつは、行動特性や考え方に関する設問です。例えば、「お金を貯めたり使ったりすることについて、長期の計画を立て、それを達成するように努力する」という記述に対して、自分自身があてはまるかどうかを答えるものです。個人の現在の状況や考え方等を問うもので、こちらは正解のない設問と言えます。

続いて、昨年実施した第2回「金融リテラシー調査」の結果について、興味深い点やインプリケーションをいくつかご紹介します。

(2)調査の結果

正誤問題の正答率

まず、正誤問題の結果をみると、全25問の正答率は、全国平均で56.6%となりました(図表2)。3年前の前回調査と比較すると、1%ポイント上昇しました。これを家計管理や金融知識といった分野別にブレイクダウンしても、どの分野においても正答率が上がっています。また、地域別にみても、ほとんどの地域で上昇しており、この3年間で、日本の金融リテラシーは、緩やかながらも全体として底上げされていると評価できると思います。なお、年齢階層別にみると、年齢が高いほど正答率が高くなる傾向があります。人生経験を積む中で、実際の金融取引や金融経済情報に触れる機会が多くなるにつれ、金融リテラシーも高くなることがデータからも確認されました。

では、日本の金融リテラシーを諸外国と比較すると、どのような水準にあるのでしょうか。経済協力開発機構(OECD)が実施した同種の調査を対象に、問いが共通している11問の正答率を比較すると、日本は、対象30か国・地域中22位という低い順位にあります(図表3)。この点、アンケートの実施方法や設問のニュアンスの違い等に結果が左右される面があり、ある程度は幅をもってみる必要がありますが、いずれにしても、日本の金融リテラシーは、とりわけ国際的にみると、なお向上の余地が大きいと言えます。さらに、低順位の理由を探るため、結果を詳しくみると、「インフレ」、「複利」、「分散投資」という3つの設問に対する日本の正答率の低さが目立ちます。これらについて、具体的に見てみましょう。

まず、インフレについては、「高インフレの時には、生活に使うものやサービスの値段全般が急速に上昇する」という記述に関する正誤問題です。正解は「正しい」ですが、日本の正答率は62%で、例えば香港(中国)の97%やカナダの92%などと比べると、かなり見劣りしています。もっとも、日本の正答率を年齢階層別にみると、年齢が上がるほど急速に上昇し、60歳以上の層では8割近くが正解しています。こうした世代は、過去の石油ショック時等の高インフレの経験が記憶にあり、それが高い正答率の背景にあるものと推察されます。

次に、複利ですが、「100万円を年率2%の利子がつく預金口座に預け入れ、税金を考慮せず、入出金がなかった場合、5年後の残高はいくらになっているでしょうか」という問いです。この問いに対する答えの選択肢は、「110万円より多い」、「ちょうど110万円」、「110万円より少ない」、「上記の条件だけでは答えられない」、「わからない」の5つです。正解は、複利の効果があるため「110万円より多い」ですが、日本の正答率は44%と半数以下でした。因みに、海外では、米国は75%、ノルウェーは65%の正答率です。余談ですが、かの有名な物理学者アインシュタイン博士は、「複利は人類最大の発明である」と評したと言われています2。発言の真意は不明ですが、一説には、資本主義経済の急成長を目のあたりにした博士が、その原動力となった金融の力の象徴として、複利を引き合いに出したと言われています。

最後に、分散投資に関する設問は、「1社の株を買うことは、通常、株式投資信託を買うよりも安全な投資である」という記述が正しいかどうかを答えるものです。正解の「間違っている」を選択した割合は、日本は47%、また同程度の割合の人が「わからない」を選択しています。海外では、例えば韓国で84%、ヨルダンでは80%の正答率と、これも日本の低さが目立ちます。

これらの3問については、いずれも年齢階層が上がるほど正答率が高くなる傾向があり、人生経験が金融リテラシーの重要な要素であると言えます。とくに日本では、長期に亘り、デフレあるいは低インフレ、超低金利、預貯金中心の金融資産保有が続いてきました。このため、若年層を中心に、インフレや複利、あるいは分散投資に関して正答率が低いのも、ある意味当然の結果かもしれません。それゆえに、経験を補完するものとして、学校や大学等における金融教育の果たす役割が大きくなります。金融教育については、後ほど改めて触れたいと思います。

  1. 2The New York Times, “EINSTEIN REVISITED,” 1983年5月27日。

正答率が高い人の特徴

さて、金融リテラシーが高いと、どんなメリットがあるのでしょう。その一例として、あるデータを紹介したいと思います(図表4)。それは、特殊詐欺や多重債務といった金融トラブルの経験の有無と正答率の関係です。都道府県別の正答率と金融トラブル経験者の割合をみると、負の相関関係がみられます。すなわち、金融リテラシーが高いほど、金融トラブルの被害に遭いにくいということです。日本では、大変残念なことですが、金融被害が高水準で推移しています。警察庁の発表によると、2018年には「オレオレ詐欺」等の特殊詐欺の認知件数は約1万6千件、被害額は約360億円にも上っています3。これは、日本全国で平均30分に1件、1日に1億円の被害が発生している計算になります。本日の私の持ち時間が30分なので、こうしてお話ししている間にも、全国どこかで被害者が出ているかもしれません。なお、これらの数字は、あくまで警察当局が認知した件数や金額であり、実際には警察に届けられていないケースもあると思われます。このため、現実の被害件数や金額は、さらに大きいと言えるでしょう。特殊詐欺以外にも、様々な手口の悪質商法によってトラブルに巻き込まれる人が後を絶ちません。こうした被害に遭う人を少しでも減らすためにも、金融リテラシーの向上は有効な防衛手段であると考えます。

このほか、正答率が高い人には、次のような特徴があります。例えば、(1)日頃から金融経済情報を頻繁にチェックしている、(2)しっかりと家計管理を行っている、(3)長期的な資金計画を立てている、(4)緊急時に備えて資金を確保している、(5)金融商品を購入する際には、他の商品と比較したりしつつ、商品性を理解して購入する、といった点です。金融リテラシーが高い人は、お金に関して十分な知識と理解力を備えており、その結果、様々な経済的ショックやトラブルに対する耐性が強いことがわかります。

  1. 3 警察庁「平成30年における特殊詐欺認知・検挙状況等について(確定値版)」。

(3)その他のトピック

さらに、「金融リテラシー調査」を用いて、日本国民の金融行動特性や考え方の特徴について、2点ご紹介します。

投資姿勢

まず、投資姿勢についてです(図表5)。「10万円を投資すると、半々の確率で2万円の値上がり益か1万円の値下がり損が発生する場合、あなたは投資しますか」という設問に対する回答を見てみましょう。期待収益はプラス5千円、つまり期待収益率が5%の投資案件です。結果をみると、4分の3以上の人が「投資しない」と回答しています。すなわち、値下がり損の可能性を嫌う人が多いという結果です。損失回避の選好が必ずしも悪いわけではありませんが、金融知識の欠如がこの背景にあるとすれば話は違います。この点、新聞、雑誌、テレビ、インターネット等を通じて、金融・経済情報を月に1回程度もみていないとする回答が、前回調査に続き全体の4割近くを占めているのは気になるところです。また、「過去に1か月の生活費を超える金額のお金を運用したことがありますか」という問いには、約4分の3の人が「資産運用は行わなかった」と回答しています。このように、日本国民の投資姿勢は、依然として保守的であると言えます。

こうした保守的な投資姿勢は、金融広報中央委員会が毎年行っている別の調査である「家計の金融行動に関する世論調査」からも見てとれます(図表6)。この調査では、二人以上世帯と単身世帯を対象とした2種類の調査を実施しています。両世帯に対して、「元本割れを起こす可能性はあるが、収益性の高いと見込まれる金融商品について、今後、1~2年の間にどのくらい保有しようと考えていますか」と尋ねたところ、二人以上世帯では約8割が、単身世帯では約6割が、それぞれ「そうした商品を保有しようとは全く思わない」と回答しています。もっとも、ここ数年は、「保有しようと思っている」と回答する割合が、両世帯ともごく僅かながら増加しています4

  1. 4日本の家計金融資産残高は約1,900兆円に上りますが、その保有形態は、過半が現預金であり、株式や投資信託等のリスク資産の割合は、諸外国と比較して非常に少ないことが知られています(日本銀行「資金循環統計」、2018年度)。

老後の生活資金

次に、老後の生活資金についてです。同じく「金融リテラシー調査」で、「今後必要になる」と意識している費用を選択してもらったところ、約6割の人が「定年退職後の生活費」を挙げ、最も多い回答となりました。老後の生活のことを強く意識しているわけですが、一方で「定年退職後の生活費」の資金計画を策定していると回答した人は、一般的に退職直前である50歳代でも約3割で、3年前の前回調査から割合がむしろ低下しています(図表7)。また、自らの公的年金について、受け取れる金額を「知っている」と答えた人も、50歳代でも4割弱に止まっています。因みに、毎年送られてくる「ねんきん定期便」の葉書には、50歳以上の方であれば、受取見込み額が記載されています。もしご存じでなければ、これを機会にぜひ一度ご覧いただければと思います。

日本は、世界の中でも速いペースで、少子高齢化が進行しています。平均寿命は、2018年時点で男性が81歳、女性が87歳となっており、65歳以上の人口の割合は3割弱に達しています5。仕事から引退してからの生活の糧は、日本の場合は公的年金が中心となりますが、自らのライフプランを見据えたうえで、必要に応じて金融資産を上手に蓄えておくこと、そして蓄えた資産を少しでも長持ちさせる工夫をしていくことは重要です。そのためには、お金に関する正しい知識を身に付け、できるだけ若いうちからしっかりと老後に向けた資金計画を立てておくことが必要となります。さらに、老後の資金計画を立てている人や自らの公的年金の受取額を知っている人が、50歳代でも半数にも満たないという調査結果をみると、日本国民の金融リテラシーは、「人生100年時代」を迎える中で、まだまだ向上の余地が大きいと言えます。

  1. 5厚生労働省「平成30年簡易生命表」、総務省「人口推計(2018年<平成30年>10月1日現在)」。

4.結びに代えて

以上をまとめると、日本の金融リテラシーは、徐々に向上しつつあるものの、国際的にみると、必ずしも高い水準とは言えません。金融リテラシーが高まると、長期的な資金計画を立てるなど望ましい金融行動をとるようになり、金融トラブルに巻き込まれるリスクも低下する傾向にあります。デジタル化の進展やスマホの普及等により、金融が一層身近で便利なものとなる中で、こうした機会を上手に活用する知識を身に付けたいものです。

日本の金融リテラシーを一段と向上させるためには、何が必要なのでしょうか。私は、教育が鍵を握ると考えます。金融に関する必要な知識や判断力は、時代によって変わるものです。このため、それを適切に身に付けるためには、生涯、学校や大学をはじめ、様々な場で学び、それを実社会での経験を通じて深めていく、その積み重ねが重要になります。この点、「金融リテラシー調査」の結果を属性別にみると、「学校や勤務先で金融教育を受けた経験がある」と回答した人は、正誤問題の正答率も、また望ましい金融行動をとる割合も、いずれも「金融教育を受けた経験のない」人より高くなっています(図表8)。もっとも、金融教育を受ける機会があったと認識している人は、まだそう多くはありません(図表9)。近年の関係者の努力もあり、18~29歳の若年層では、その上の世代よりも認識している割合が多く、3年前の調査結果よりも僅かながら上昇しています。ただ、それでもまだ2割弱に過ぎないのが実情です。

かつて、日本では、子どもに対してお金を話題にすることをタブー視する風潮があったように思います。近年、そうした雰囲気は随分薄らいできているようですが、金融教育は、人が生涯を通じてお付き合いしていくお金を通じて、社会を見る目を養い、生きる力を育む教育にほかなりません。来年度以降、小学校から順次全面実施される新しい学習指導要領においても、従来よりも金融教育に属する内容が大幅に拡充されています。大学においても、学生が社会に出る前に金融教育を受けさせたいと考える教職員の方が増えてきています。ご家庭でも、「保護者の方から『お金の管理』について教わったことのある」人の割合は、若い世代ほど高くなっています。

冒頭述べたように、金融教育を通じて金融リテラシーを高めていくという機運は、世界的に盛り上がりを見せています。こうした時代の潮流の中で、金融広報中央委員会では、様々な金融教育活動を展開しています。中心となるのは、各地の金融広報委員会などと連携して行う、幼稚園から大学に至るまでの金融リテラシーに関する出前授業や、一般の社会人や教員向けのセミナー開催といった草の根の活動です。同委員会のほか、金融庁、全国銀行協会、日本証券業協会等の関係団体が実施した出前授業やセミナー等の受講者数を集計すると、2018年度の1年間で約60万人に上りました。また、同委員会では、各年齢層に向け、それぞれのニーズに見合った内容のパンフレットや冊子を作成しています(図表10)。『くらし塾きんゆう塾』という広報誌も、四半期毎に発行しています。いずれも無料で提供していますので、本日お集りの皆さまも、是非ご利用いただければ幸いです。

なお、金融広報中央委員会の活動や作成資料は、「知るぽると」ホームページにも掲載されています。因みに、「知るぽると」は、同委員会の愛称です。このところ、同ホームページのアクセス件数が大きく伸びています。金融リテラシーや金融教育への関心が広がりつつあることを示しているものと、喜ばしく感じているところです。

最後になりますが、日本銀行といたしましても、金融広報中央委員会の活動を支援することを通じて、今後とも日本国民の金融リテラシーの向上に貢献していきたいと考えています。

ご清聴ありがとうございました。