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【挨拶】中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会における開会挨拶

日本銀行理事 内田 眞一
2021年3月26日

本日は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する連絡協議会にご参加頂き、誠にありがとうございます。

日本銀行では、昨年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する取り組み方針」を公表したあと、この方針に沿って、実証実験の内容の検討や、実験に参加する外部ベンダーの選定など、開始準備を進めてまいりました。

この結果、本年4月から、CBDCの基本的な機能や具備すべき特性が技術的に実現可能かどうかを検証するための概念実証(Proof of Concept)をスタートします。その後、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも視野に入れて検討いたします。

日本銀行として「現時点でCBDCを発行する計画はない」という考え方に変わりはありません。決済システムの将来像は、使える技術(テクノロジー)に依存します。その時々の技術水準を所与として、便利で安全な決済システムを作っていけばよいのであって、そこにCBDCが必要となるかどうかは何とも言えません。ただ、現時点で分かっている技術的な要因や内外の情勢などを踏まえると、将来、「CBDCを一つの要素とする決済システム」が世界のスタンダードとなる可能性は相応にあります。そうした中で、今から実験を進めることは必要なステップであると考えています。

CBDCのプロジェクトが各国で盛り上がってきたのは、ここ1、2年のことです。わが国においても、当初は、「現金が安全に使えて、国民のほとんどが預金口座を持っている日本でCBDCは必要だろうか」とか、「具体的なユースケースが思いつかないし、あるとしてもここまで大がかりなことをしなくても解決策はあるのではないか」といった受け止め方が一般的であったように思います。このことは今も事実ですが、同時に、各国でCBDCが真剣に検討されている文脈を理解しておくことも必要です。

一昨年来、グローバル・ステーブルコインを巡って、G7やG20をはじめとして国際的な議論が行われてきましたが、これはより広範な問いかけのきっかけにすぎません。すなわち、我々は「デジタル社会における決済システムのあるべき姿」を考える必要に迫られています。この問いかけは本質的であり、例えば、バンクとノンバンクの役割をどう考えるのか、中央銀行などの公的セクターはどのような公共財を提供すべきなのか、データの活用とプライバシーの問題をどう調整するのか、等々の問題を提起するものです。いずれも、CBDCがあろうとなかろうと避けては通れない大きな問題です。

これらに対する答えは、決済や金融のロジックだけで導き出せるものではないかもしれませんし、国によって違うかもしれません。例えば、データの利用やそれを通じた顧客との接点作りは、デジタル社会のビジネスを動かしている主要なドライバーです。そうしたデータの利用範囲をプライバシーとの関係でどう画していくかは、各国がデジタル社会と向き合っていく際の基本的なルールといえます。現にこのことは、各国がCBDCを導入するかどうかを判断するうえで重要な背景の一つとなっていますし、今後、CBDCの具体的なデザインに大きく影響してくるものと考えられます。

テクノロジーの進歩によって、将来の決済システムが、より便利になっていくことは間違いないと思います。ただ、安全になるかどうかははっきりしません。現代においても、現金を持ち運ぶ危険が減少した一方、ネット上ではお金が盗まれたり、個人情報が漏洩したりすることが心配されています。このように、便利さと安全性は時にトレードオフの関係にあり、中央銀行や預金保険制度はこれを補完する役割を担ってきました。デジタル社会における便利さと安全性の最も良いバランスは何か、その際の中央銀行、バンク、ノンバンクの果たすべき役割は何なのか、いずれも重たい課題です。

これらの答えを今出すということではありませんが、その答えの結果として、将来、CBDCというパーツが必要となる可能性があるということです。ここに、実証実験を開始すること、そしてそれと並行して関係者の皆様方と対話を行うことの意義があるのだと思います。

もう少し具体的に申し上げますと、仮にCBDCを発行する場合、その設計は、決済システムの将来像と擦り合わせながら行っていかなければならないと考えています。将来の決済システムは、全体として、より便利で安全になる必要がありますが、それは、必ずしもCBDC自体があらゆる便利な機能を持つことを意味しません。実際、現在も、現金が物理的に適度に不便であること(嵩張ることや盗難の危険)が、預金やその他の決済サービスとの適切な棲み分けを可能にし、全体として便利さと安全性のバランスが図られています。CBDCのある世界においても、こうした役割分担は必須です。公共財として提供されるCBDCをいわば材料にして、便利な決済サービスという料理を完成させるのは、民間の皆様であるべきだと思っています。

私は、中央銀行がイノベーションを生み出せないとは思っていません。これまでも金融政策やプルーデンス、決済などの分野で新しいアイデアを実現してきました。しかし、中央銀行が個人や企業との接点に立って、その多様なニーズに応えていくことは全く不可能です。そして、この分野では、競争が行われるべきです。より便利で、時々の、あるいは個々の人々のニーズに合ったサービスを提供することに成功した主体が利益を得るべきだと思います。そうした2層構造がうまく機能するように「材料」、「種」となるCBDCを設計していくためには、決済の主要な担い手である皆様との密接な対話が必要です。皆様におかれては、ぜひ、デジタル社会における決済システム像を一緒に考え、また、その中におけるビジネスのイメージを膨らませながら、このプロジェクトにお付き合い頂きたいと思っております。

ご清聴ありがとうございました。